番外編『15日昼の生徒会員Tの受難』
『旅の恥はかき捨て』とはジパングでよく言われた言葉であるが、ジパング出身の生徒会役員、天月は、今、その言葉の信憑性を疑っていた。
「クロエせんぱ〜い・・・」
「ぷーんっ!」
昨日の探索から帰って来てからも、クロエの機嫌は全くといってよくなってなかった。まぁ、事故とはいえあんな恥をかいたのだ。簡単には許してくれないであろう。
しかし・・・
「しくしくしくしくしく・・・」
それまで天月の精神が持つかが問題である。
「・・・ふっ」
部屋の中で山のような書類(スピードが遅くて前日分が処理できてないだけ)に囲まれたサリスが、虚しくむせび泣く天月を鼻で笑った。
ちなみに天月たちは生徒会室におり、サリスの作業を手伝っていた。
「サリスもさっさとやるの!」
「・・・クロエがやれば、すぐ終わるのに・・・」
「サリスの罰だからダメ!」
「(′・ω・)」
しかし少なからずサリスに対するクロエの態度も厳しくなっているあたり、結構怒っていることが伺え、これは本当に下手するとなかなか仲直りできないかもしれなかった。
「失礼するぞ・・・」
その時、部屋に少々やつれたリーフが入ってきた。クロエがびくんと反応し、リーフの顔を見るなりサッと顔を青くした。
「りっ、リーフ先生!どうされたんですか!?すごく顔色が悪いですよ!?」
「・・・ストレスによる不眠だ。しばらく私は四六時中不機嫌になるから注意しろ。どれくらいというと自分の罰をクロエに手伝わせていたという疑いを調べもせずに確定させてサリスの罰を二割増しにするくらいにだ」
リーフの細目の先がサリスに向き、サリスは『やってしまった・・・』と言わんばかりの慌てた顔をし、珍しく汗を垂らしていた。
「・・・クロエ、あと、天月。悪いが、お前らにこの新入生の『お守り』を任せたい」
「・・・おもり?」
天月が首を傾げると、リーフの後ろで黙っていた、ダークエンジェルがニヤニヤしながらリーフの肩に肘をついた。(もちろん、羽で飛びながら)
「オイオイ、リーフ先生よォ。自分の手に負えねェからって生徒に任せんのはイケないと思うんですがねェ?」
「・・・貴様の管理を私一人でやるのはあまりにもハードワークだ・・・こういうのは逆に無知な者に任せる方がいい・・・」
「要は敵前逃亡ってわけだ!ギャハハハハハハハ!」
「・・・また胃が痛くなってきた・・・」
まるで悪党みたいな笑い方をするダークエンジェル、カオス相手に、リーフはこめかみとお腹を押さえる。そしてカオスを無視して、クロエと天月に要件を告げた。
「しばらくコイツを見張るように。なにかやったらとりあえず制止しろ。問答無用で殴りかかったりするんじゃないぞ。いいか、絶対手を出したりするんじゃないぞ」
「は、はい!わかりまひた!」
「・・・御意」
クロエと天月が了承すると、リーフは部屋を出て行った。その後ろ姿にヒラヒラと手を振りながら、カオスはニヤニヤ笑っていた。
「ギャハハハ。なんかしっかりしてそうだったが、案外脆かったなァ。とりあえずイジリ要員、一人確保だなw」
「え、えぇ〜と、あの〜・・・」
「・・・ん〜?」
ゲラゲラ笑っているカオスに声をかけたクロエは、にっこり笑って手を差し出した。
「わ、私、3回生のクロエ・シャガーナっていいます。生徒会長、やらしてもらってます。新入生でしたよね?ようこそ、リクラスト学園へ!」
クロエは優しく、満面の笑みで、握手のためにカオスに手を差し出した。
(・・・可愛い♥)
(会長マジ天使ッ!!!)
いつも通り、サリスと天月はハートを射抜かれたわけだったが・・・
「・・・先輩、威厳ないっすねェw」
「・・・へ?」
『ビキィッ!』
カオスのヘラヘラ笑い混じりの発言に、クロエはキョトンとし、後ろ二人の額に青筋が音を立てて刻まれた。
「つーか先輩だったんすかって感じですねェw最初視界に入った時はなんでガキがここにいるのかわかんなかったっすよォwしかしまぁなんというかァ、先輩が生徒会長やってるっつーのは意外ですねェ。こんな下等劣種の魔物なのに。ギャハハハハハハハ!」
もう読者にはありありと予想できるだろうが、息を吐くかのごとく言われるカオスの悪口に、クロエはもう目をうるうるさせ、差し出した手がぷるぷる震えて今にもわんわん泣き出しそうだった。
「オマケに・・・」
「そこまでにしろ糞鴉」
「おォ?」
その時、クロエをずいっと押しのけ、刀を鞘から抜いた天月がクロエの前に立った。
「サリス殿・・・会長を頼みますよ・・・久しぶりに・・・怒髪天を、衝いてしまったでござる」
「・・・言ってる意味はわかんないけど・・・許す」
「え・・・あの・・・」
涙声でクロエが制止しようとするが、サリスがクロエを抱え込み離れてしまう。天月は刀を抜き、ゆらりとカオスの前に立つ。
「新入生を気遣い、優しく対応しようとした会長の親切を踏みにじったばかりか、貴様の悪鬼雑言で会長の心を深く傷つけたこと、許すまじ・・・さぁ、覚悟めされよ。小便は済まされたか?仏に許しを乞うもよし。部屋の隅で震えながら泣き叫ぶ準備は必要か?」
いつもと違う低いトーンで、明らかにキレている口調で恐ろしいことを言う天月に対し、カオスは、ヘラッと笑って一言言った。
「なに?お前、あの先輩好きなの?趣味悪っw」
ぶっつん。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はぁい!Roli & Nekraのネクラじゃない方、ファ先生ですよー!」
「『幼女と根暗』ってなんですか。ていうか根暗て私か。悪かったですね」
職員室。何故かテンションの高いファのボケに、生徒会室から帰って来たリーフはギロリと睨みをきかせたツッコミをする。
「・・・リーフ先生、ご機嫌ナナメですか?」
「元貴女の同僚のおかげでとても苛立っております」
ファは首を傾げたが、少ししてポンと手を打った。
「あぁ、カオスちゃんですか」
「あいつは人の精神を逆撫でするのが『新しい楽しみ』のようで・・・昨晩、私が面倒みたのですが、よくもまぁ口だけで私をここまで苛立たせられたものだ・・・」
「あの子昔から口は悪い+達者ですからねぇ・・・」
(パシャ)
「・・・なに写真撮ってるんです?」
「ポーカーフェイスで有名なリーフ先生の怒り顔なんか激レアですから。新聞部に高く売れるかも」
「貴女も私を怒らせるのがお得意なようで」
その時、職員室の、厳密にはリーフの固定通信機からけたたましいアラームが鳴った。
「・・・・・・・・・」
「そんな見たことない変顔する前に、とったらどうです?」
(パシャ)
リーフが「もう嫌な予感しかしないんだが」という言葉を顔で表したまま、通信機の受話器をとった。
「・・・もしもし、リーフだが」
『リーフ先生ですか〜?保健室のチェルシーです〜。なんかけが人が大勢運ばれてきて〜・・・事情を聞いたら、生徒会の天月くんがカタナを振り回してダークエンジェルの生徒を追いかけ回してて、それに巻き込まれたって〜・・・』
『ガチャン』
リーフはすぐさま受話器を戻し、目頭を押さえてしばらく悩んだ後、ファに向かって言った。
「・・・貴女の同僚の確保、手伝ってくれませんか?」
「めんどい♥」
「やれ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ところ変わって、何処かの廊下。
『ドダダダダダダダダダダダ!!!』
「待てこの堕天使風情がァァァ!!!三枚に卸した挙句、生塵(なまごみ)として捨ててやるッ!!!」
「ギャハハハハハハハ!なにマジになってんのォ?バカみてェwwwやっぱあんな会長の部下はバカばっかかァ?www」
「まぁだ会長を愚弄するかァァァ!!!」
飛行で素早く逃げるカオスの後を、怒りに満ち、なんかの波動に目覚めたような天月が刀を振り回して追いかけていた。
カオスは避けているのだが、怒り狂った天月はカオスが避けた人や魔物を突き飛ばしたり足蹴にしたり、下手すると峰打ちで無理やり押しのけたりしているので彼らが通ったあとはけが人で道ができているほどだった。
「あーぁ、派手にやっちゃってますねぇ・・・」
「あの馬鹿め・・・手は出すなと言ったのに・・・ッ!」
その後ろを、箒で低空高速飛行するファと、並走するリーフが追いかけてゆく。
「天月!止まれ!奴を追いかけるのはやめろ!奴はお前が必死になるのを楽しんでいるだけだ!」
「誰か知らんが喧しい!自分の憧れの方の悪口を言われて黙る輩など男ではないッ!!」
リーフの後ろから制止する声に、天月は振り返らずに怒号で返事をする。もはやカオスを見失わぬように前しか見ていなかった。
「うわぁ・・・先生に向かってなんてゆう口を・・・」
「少しは優遇してやったというのに・・・これは真なる罰則を与える必要があるな・・・」
その時、先頭のカオスが廊下を曲がり、「ぐぇっ」という声がした。
「止まったか貴様ァァァァァァッ!!!」
天月も追って廊下を曲がる。それに続いてリーフたちも曲がったが、廊下の先を見て三人ともビタリと足を止めていた。
『ミリミリミリミリミリ・・・』
「ぐぅえぇぇぇ・・・」
「全くもー・・・お痛はダ・メ・よー?もうベッドが一杯なんだから」
廊下の先ではカオスの頭をアイアンクローするチェルシーが、ニコニコ笑っていた。
「・・・チェルシー先生、感謝します」
「あらー、リーフ先生。もう、生徒会のメンバーが問題起こすなんてダメじゃないですかぁ。ぷんぷん!」
「申し訳ありません。天月にはこの後、クロエ抜きで一人で4日間、単独探索をやらせますので」
「ふぁっ!?」
「天月くん・・・ドンマイ☆あ、無駄乳は破裂しろ」
ファの暴言にチェルシーは笑顔だったが、カオスが泡を吹き始めていた・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その頃、生徒会室では、サリスがクロエをなだめていた。
「・・・クロエ、もう大丈夫?」
「うん、大丈夫・・・ありがとう」
やっと涙目はなくなったが、まだ少し落ち込んでいる雰囲気だった。欠点を言われて凹むクロエの機嫌を治すのに、自分がいくら褒めたって意味がないことは、サリスは分かっていた。
(・・・私が言ったって、おだてにしか聞こえないだろうから・・・アイツの株を上げるのはすんごい腹立つけど・・・)
サリスはため息を吐き、クロエの頭を撫でながら言った。
「・・・あの侍バカも、いいことやる」
「・・・へ?」
「天月・・・クロエが罵られたらすごい怒ってた」
「・・・あれは、私が会長で・・・一応、天月の上司だから・・・」
「・・・アイツ、私相手には喧嘩ふっかけてくる・・・上司だから尊敬するって柄じゃない・・・クロエだから、怒った・・・」
サリスはクロエに笑いかけながら言う。自分の言ったことに背中がゾワゾワしながらも、「クロエは天月に尊敬されてるんだよ」という、少しでも自信をつけさせるために言った。
しかし、クロエの落ち込みは、えらい方向の勘違いからも来ていた。
「・・・でも、天月くん・・・『私と付き合ってるのか』って、あのダークエンジェルに聞かれて、怒ってた・・・あれ、私なんか、天月くんの彼女じゃないって怒ってたんでしょ?」
ビキリとサリスの顔が固まる。
「・・・違う?」
「・・・・・・」
サリスはどう言うべきか悩んだ挙句・・・
「・・・でも、クロエが好きなのはリーフ先生でしょ?」
「そっ!?そそそ、そんなことないにょ!?」
(・・・許せ)
サリスは、うやむやにする方向を選んだ。
ちなみに、この後、気絶したカオスはチェルシーが預かり、リーフは生徒会室に戻り、天月はしばらく単独探索になったことを告げ、天月は血涙を流しながら、一人寂しく冒険に出かけた。
「クロエせんぱ〜い・・・」
「ぷーんっ!」
昨日の探索から帰って来てからも、クロエの機嫌は全くといってよくなってなかった。まぁ、事故とはいえあんな恥をかいたのだ。簡単には許してくれないであろう。
しかし・・・
「しくしくしくしくしく・・・」
それまで天月の精神が持つかが問題である。
「・・・ふっ」
部屋の中で山のような書類(スピードが遅くて前日分が処理できてないだけ)に囲まれたサリスが、虚しくむせび泣く天月を鼻で笑った。
ちなみに天月たちは生徒会室におり、サリスの作業を手伝っていた。
「サリスもさっさとやるの!」
「・・・クロエがやれば、すぐ終わるのに・・・」
「サリスの罰だからダメ!」
「(′・ω・)」
しかし少なからずサリスに対するクロエの態度も厳しくなっているあたり、結構怒っていることが伺え、これは本当に下手するとなかなか仲直りできないかもしれなかった。
「失礼するぞ・・・」
その時、部屋に少々やつれたリーフが入ってきた。クロエがびくんと反応し、リーフの顔を見るなりサッと顔を青くした。
「りっ、リーフ先生!どうされたんですか!?すごく顔色が悪いですよ!?」
「・・・ストレスによる不眠だ。しばらく私は四六時中不機嫌になるから注意しろ。どれくらいというと自分の罰をクロエに手伝わせていたという疑いを調べもせずに確定させてサリスの罰を二割増しにするくらいにだ」
リーフの細目の先がサリスに向き、サリスは『やってしまった・・・』と言わんばかりの慌てた顔をし、珍しく汗を垂らしていた。
「・・・クロエ、あと、天月。悪いが、お前らにこの新入生の『お守り』を任せたい」
「・・・おもり?」
天月が首を傾げると、リーフの後ろで黙っていた、ダークエンジェルがニヤニヤしながらリーフの肩に肘をついた。(もちろん、羽で飛びながら)
「オイオイ、リーフ先生よォ。自分の手に負えねェからって生徒に任せんのはイケないと思うんですがねェ?」
「・・・貴様の管理を私一人でやるのはあまりにもハードワークだ・・・こういうのは逆に無知な者に任せる方がいい・・・」
「要は敵前逃亡ってわけだ!ギャハハハハハハハ!」
「・・・また胃が痛くなってきた・・・」
まるで悪党みたいな笑い方をするダークエンジェル、カオス相手に、リーフはこめかみとお腹を押さえる。そしてカオスを無視して、クロエと天月に要件を告げた。
「しばらくコイツを見張るように。なにかやったらとりあえず制止しろ。問答無用で殴りかかったりするんじゃないぞ。いいか、絶対手を出したりするんじゃないぞ」
「は、はい!わかりまひた!」
「・・・御意」
クロエと天月が了承すると、リーフは部屋を出て行った。その後ろ姿にヒラヒラと手を振りながら、カオスはニヤニヤ笑っていた。
「ギャハハハ。なんかしっかりしてそうだったが、案外脆かったなァ。とりあえずイジリ要員、一人確保だなw」
「え、えぇ〜と、あの〜・・・」
「・・・ん〜?」
ゲラゲラ笑っているカオスに声をかけたクロエは、にっこり笑って手を差し出した。
「わ、私、3回生のクロエ・シャガーナっていいます。生徒会長、やらしてもらってます。新入生でしたよね?ようこそ、リクラスト学園へ!」
クロエは優しく、満面の笑みで、握手のためにカオスに手を差し出した。
(・・・可愛い♥)
(会長マジ天使ッ!!!)
いつも通り、サリスと天月はハートを射抜かれたわけだったが・・・
「・・・先輩、威厳ないっすねェw」
「・・・へ?」
『ビキィッ!』
カオスのヘラヘラ笑い混じりの発言に、クロエはキョトンとし、後ろ二人の額に青筋が音を立てて刻まれた。
「つーか先輩だったんすかって感じですねェw最初視界に入った時はなんでガキがここにいるのかわかんなかったっすよォwしかしまぁなんというかァ、先輩が生徒会長やってるっつーのは意外ですねェ。こんな下等劣種の魔物なのに。ギャハハハハハハハ!」
もう読者にはありありと予想できるだろうが、息を吐くかのごとく言われるカオスの悪口に、クロエはもう目をうるうるさせ、差し出した手がぷるぷる震えて今にもわんわん泣き出しそうだった。
「オマケに・・・」
「そこまでにしろ糞鴉」
「おォ?」
その時、クロエをずいっと押しのけ、刀を鞘から抜いた天月がクロエの前に立った。
「サリス殿・・・会長を頼みますよ・・・久しぶりに・・・怒髪天を、衝いてしまったでござる」
「・・・言ってる意味はわかんないけど・・・許す」
「え・・・あの・・・」
涙声でクロエが制止しようとするが、サリスがクロエを抱え込み離れてしまう。天月は刀を抜き、ゆらりとカオスの前に立つ。
「新入生を気遣い、優しく対応しようとした会長の親切を踏みにじったばかりか、貴様の悪鬼雑言で会長の心を深く傷つけたこと、許すまじ・・・さぁ、覚悟めされよ。小便は済まされたか?仏に許しを乞うもよし。部屋の隅で震えながら泣き叫ぶ準備は必要か?」
いつもと違う低いトーンで、明らかにキレている口調で恐ろしいことを言う天月に対し、カオスは、ヘラッと笑って一言言った。
「なに?お前、あの先輩好きなの?趣味悪っw」
ぶっつん。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はぁい!Roli & Nekraのネクラじゃない方、ファ先生ですよー!」
「『幼女と根暗』ってなんですか。ていうか根暗て私か。悪かったですね」
職員室。何故かテンションの高いファのボケに、生徒会室から帰って来たリーフはギロリと睨みをきかせたツッコミをする。
「・・・リーフ先生、ご機嫌ナナメですか?」
「元貴女の同僚のおかげでとても苛立っております」
ファは首を傾げたが、少ししてポンと手を打った。
「あぁ、カオスちゃんですか」
「あいつは人の精神を逆撫でするのが『新しい楽しみ』のようで・・・昨晩、私が面倒みたのですが、よくもまぁ口だけで私をここまで苛立たせられたものだ・・・」
「あの子昔から口は悪い+達者ですからねぇ・・・」
(パシャ)
「・・・なに写真撮ってるんです?」
「ポーカーフェイスで有名なリーフ先生の怒り顔なんか激レアですから。新聞部に高く売れるかも」
「貴女も私を怒らせるのがお得意なようで」
その時、職員室の、厳密にはリーフの固定通信機からけたたましいアラームが鳴った。
「・・・・・・・・・」
「そんな見たことない変顔する前に、とったらどうです?」
(パシャ)
リーフが「もう嫌な予感しかしないんだが」という言葉を顔で表したまま、通信機の受話器をとった。
「・・・もしもし、リーフだが」
『リーフ先生ですか〜?保健室のチェルシーです〜。なんかけが人が大勢運ばれてきて〜・・・事情を聞いたら、生徒会の天月くんがカタナを振り回してダークエンジェルの生徒を追いかけ回してて、それに巻き込まれたって〜・・・』
『ガチャン』
リーフはすぐさま受話器を戻し、目頭を押さえてしばらく悩んだ後、ファに向かって言った。
「・・・貴女の同僚の確保、手伝ってくれませんか?」
「めんどい♥」
「やれ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ところ変わって、何処かの廊下。
『ドダダダダダダダダダダダ!!!』
「待てこの堕天使風情がァァァ!!!三枚に卸した挙句、生塵(なまごみ)として捨ててやるッ!!!」
「ギャハハハハハハハ!なにマジになってんのォ?バカみてェwwwやっぱあんな会長の部下はバカばっかかァ?www」
「まぁだ会長を愚弄するかァァァ!!!」
飛行で素早く逃げるカオスの後を、怒りに満ち、なんかの波動に目覚めたような天月が刀を振り回して追いかけていた。
カオスは避けているのだが、怒り狂った天月はカオスが避けた人や魔物を突き飛ばしたり足蹴にしたり、下手すると峰打ちで無理やり押しのけたりしているので彼らが通ったあとはけが人で道ができているほどだった。
「あーぁ、派手にやっちゃってますねぇ・・・」
「あの馬鹿め・・・手は出すなと言ったのに・・・ッ!」
その後ろを、箒で低空高速飛行するファと、並走するリーフが追いかけてゆく。
「天月!止まれ!奴を追いかけるのはやめろ!奴はお前が必死になるのを楽しんでいるだけだ!」
「誰か知らんが喧しい!自分の憧れの方の悪口を言われて黙る輩など男ではないッ!!」
リーフの後ろから制止する声に、天月は振り返らずに怒号で返事をする。もはやカオスを見失わぬように前しか見ていなかった。
「うわぁ・・・先生に向かってなんてゆう口を・・・」
「少しは優遇してやったというのに・・・これは真なる罰則を与える必要があるな・・・」
その時、先頭のカオスが廊下を曲がり、「ぐぇっ」という声がした。
「止まったか貴様ァァァァァァッ!!!」
天月も追って廊下を曲がる。それに続いてリーフたちも曲がったが、廊下の先を見て三人ともビタリと足を止めていた。
『ミリミリミリミリミリ・・・』
「ぐぅえぇぇぇ・・・」
「全くもー・・・お痛はダ・メ・よー?もうベッドが一杯なんだから」
廊下の先ではカオスの頭をアイアンクローするチェルシーが、ニコニコ笑っていた。
「・・・チェルシー先生、感謝します」
「あらー、リーフ先生。もう、生徒会のメンバーが問題起こすなんてダメじゃないですかぁ。ぷんぷん!」
「申し訳ありません。天月にはこの後、クロエ抜きで一人で4日間、単独探索をやらせますので」
「ふぁっ!?」
「天月くん・・・ドンマイ☆あ、無駄乳は破裂しろ」
ファの暴言にチェルシーは笑顔だったが、カオスが泡を吹き始めていた・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その頃、生徒会室では、サリスがクロエをなだめていた。
「・・・クロエ、もう大丈夫?」
「うん、大丈夫・・・ありがとう」
やっと涙目はなくなったが、まだ少し落ち込んでいる雰囲気だった。欠点を言われて凹むクロエの機嫌を治すのに、自分がいくら褒めたって意味がないことは、サリスは分かっていた。
(・・・私が言ったって、おだてにしか聞こえないだろうから・・・アイツの株を上げるのはすんごい腹立つけど・・・)
サリスはため息を吐き、クロエの頭を撫でながら言った。
「・・・あの侍バカも、いいことやる」
「・・・へ?」
「天月・・・クロエが罵られたらすごい怒ってた」
「・・・あれは、私が会長で・・・一応、天月の上司だから・・・」
「・・・アイツ、私相手には喧嘩ふっかけてくる・・・上司だから尊敬するって柄じゃない・・・クロエだから、怒った・・・」
サリスはクロエに笑いかけながら言う。自分の言ったことに背中がゾワゾワしながらも、「クロエは天月に尊敬されてるんだよ」という、少しでも自信をつけさせるために言った。
しかし、クロエの落ち込みは、えらい方向の勘違いからも来ていた。
「・・・でも、天月くん・・・『私と付き合ってるのか』って、あのダークエンジェルに聞かれて、怒ってた・・・あれ、私なんか、天月くんの彼女じゃないって怒ってたんでしょ?」
ビキリとサリスの顔が固まる。
「・・・違う?」
「・・・・・・」
サリスはどう言うべきか悩んだ挙句・・・
「・・・でも、クロエが好きなのはリーフ先生でしょ?」
「そっ!?そそそ、そんなことないにょ!?」
(・・・許せ)
サリスは、うやむやにする方向を選んだ。
ちなみに、この後、気絶したカオスはチェルシーが預かり、リーフは生徒会室に戻り、天月はしばらく単独探索になったことを告げ、天月は血涙を流しながら、一人寂しく冒険に出かけた。
13/10/06 11:12更新 / ganota_Mk2
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