番外編『12日目の昼、生徒会の様子』
[生徒会室]
「・・・へぅ〜・・・」
昼前に運び込まれた大量の冒険講習チームシートの山に囲まれ、生徒会長であるドッペルゲンガー『クロエ・シャガーナ』が可愛いため息を吐いた。
「やっと終わったよぉ・・・疲れたぁ・・・」
それはそうである。ここには全校生徒のチームシートが集められ、受注したクエスト内容、向かった場所、期限などを集計しておき、さらになにか問題が発生した際にすぐに処理できるように整理しておかねばならなかった。
それを今、なんとクロエひとりでやっていたのだ。
「へぅ〜・・・疲れたよぉ〜・・・」
泣き言を言っているが、先ほどまでクロエの手は素早く動き、次々とチームシートの内容を書き記し、向かった場所と期限ごとにチームを集計した表を作っていた。そのスピードは凄まじく、泣き顔に似合わぬ敏腕デスクワーカーのそれに匹敵していた。
「・・・可愛い♥」
それを横で眺めながらほっこりし、クロエの整理したシートを『チームシート集計棚』と書かれた棚に、向かった場所のラベル通りに整理していたのが『サリス・ウッドリア』である。彼女は普段寝坊助なのだが、クロエがいるとクロエ愛護者になり、かつ働き者になるのだ。寡黙なマンティス?なにそれ食えるのか?
「サリスにも書類整理能力あればいいのになー・・・」
「ワタシ、字、読メナイヨ?」
「うん・・・知ってる・・・」
サリスの棒読みに、クロエはぐったりした。サリスは身体能力は全校生徒中でもズバ抜けているのだが、おつむがさっぱりなのだ。
「あ・・・そう言えば、『緋夜』くんまだ帰ってないね・・・大丈夫かな・・・」
「・・・あんな小僧、来なくていい」
「ダメだよサリス!緋夜くんは大切な一回生なんだから・・・」
不機嫌そうに頬を膨らますサリスをクロエが窘めた時、遠くから音が聞こえた。なにか、なにかが盛大に音を立てて走るような・・・
『・・・ドドドド・・・』
「あ、来たかな?」
「・・・チッ」
クロエが顔を上げ、サリスが舌打ちした時、あっという間に音が大きくなり、かと思えばブレーキ音が鳴った。
『ドドドドドドドドドッ、キキィーーーーーーッ!』
「会長ぉーっ!一回生、『緋夜 天月』!ただいま到着致しました!」
バンと扉を壊すのではないかという音と共に、大声で生徒会室に入ってきた男子生徒は、体のあちこちを擦りむき草木を服に付けながらも、ジパングのカタナを肩に担ぎ、満面の笑みであった。
「おかえり、緋夜くん・・・って、怪我したまんまだよ!?」
「こんな怪我、会長に『おかえり』を言ってもらった上に笑いかけてもらうだけで全回復ですよ!それより、遅れてしまいました!『粘質の湿地帯』の巡回冒険、終わりました!」
天月と名乗る青年は担いだ刀の鞘にくくりつけてあった袋からドサリと書類の山を取り出し、笑って敬礼した。
「あ、ホントにひとりで行ってくれたんだね」
「あんなの、生徒会入会試験の『竜祠の谷山』巡回より数段簡単でしたよ!まぁ、クイーンスライムの下僕スライムに囲まれた時は攫われるかと思いましたが、会長が待っていてくれることを思ったら突破できましたよ!」
「ホントに、ありがとう。これの巡回冒険に行った3回生、帰って来なかったから、今回の冒険じゃ使えなかったんだけど、次回から使えるね」
「会長からのありがとういただきましたワーーー(°∀°)ーーーッ!」
「あ、あは、あははは・・・」
天月の喜び具合に軽くクロエが引く。それに対し、サリスは思いっきり不機嫌顔をした。
「・・・2回生レベルの冒険講習ひとりで帰ってくるとか化け物かコイツ・・・」
「貴女に化け物と言われてもなんのダメージもありませんから」
サリスの呟きに天月がしれっと答えた時、サリスの頭から『ぶちん』という音が聞こえた。
「・・・坊主、調子乗りすぎ。会長に褒められたからっていい気になってると・・・ヤ(殺)るよ?」
「はい?なに?ヤ(犯)る?言っときますけど、貴女みたいなおバカ脳筋には反応しないんで。俺とヤりたければ会長みたいに激しく可愛くなるか、姉属性を・・・あ、無理だわー。会長超えるとか貴女には無理だわー。姉属性も無理だわー。貴女に萌える要素ないわー。残念だわー」
天月がお手上げポーズで挑発すると、サリスの目つきがギロリと変わり、カチャリと鎌を煌めかせた。
「・・・ブッコロス」
「やりますか?下克上上等っすよ」
対する天月もスラリとカタナを抜き、それはそれは冷たく、恐ろしく、泣く子も黙るどころか気絶しそうなほどの気迫を見せた。
ふたりが対峙し、もうしばらくしたら斬り合っていたであろうという空気に、クロエが割りいった。
「あ、あ、あぅ・・・ふ、ふたりとも!こ、こんなとこで喧嘩する人、私、大嫌いだよッ!」
『すんませんしたァッ!!!』
瞬間、サリスと天月が土下座し、その素早さにクロエがびっくりした。
「ごめん、会長・・・私、いい子にするから、嫌いにならないで?」
「お、俺も!つけあがりすぎました!二度と生徒会室でカタナ抜かないんで、許してください!」
サリスと天月の必死の懺悔に、クロエはびくびくしながらも聞いた。
「・・・も、もう、喧嘩しない?」
『イエス!』
「・・・絶対?」
『イエス、イエス!!』
「・・・ホント?」
『イエス、イエス、イエス!!!』
「・・・えへへ。なら、許したげる」
怖かったのか、涙目になりながらも、笑って許したクロエを見たふたりは。
『・・・ボタボタボタボタッ!!』
「ふ、ふたりとも!?鼻血出てるよ!?」
「・・・だいたい会長のせい・・・」
「・・・サリス先輩に同意です」
「なんでぇっ!?Σ(;△;)」
半泣きでおろおろしながらティッシュを探すクロエに、さらに鼻血出血量を増すサリスと天月。
そんなカオスな部屋の中に、リーフが入ってきた。
「クロエ、居るか・・・貴様ら、またか」
リーフは入って、すぐに鼻血を垂らすサリスと天月を見てため息を吐いた。
さて、クロエの方はリーフが入った瞬間にドキリとし、さらに名前を呼ばれて手にしていたティッシュをポトリと落としてあわあわした。
「り、り、リーフしぇんせい!?あ、あの、は、はい!クロエ、ここにいましゅ!」
「あぁ、クロエ。すまないが、生徒会からふたり、特別監視員を出してくれ。まずは・・・ふたつのチームシートを出してくれ。整理してあればいいんだが・・・」
「ちょ、ちょっと待ってくだしゃい!えと、あの、どこの場所れしょうか!?」
わたわたと慌てながらせわしなく走り回り噛みまくるクロエに、リーフは淡々と話を続けてゆく。
「そのチームらがいるのは『鬱天の密林』だ。チームリーダーは『ベルン・トリニティ』、並びに『ロック・サンドラ』。出せるか?」
「えと、あの、待ってくらしゃい!鬱天の密林のチームシートはここに・・・ひゃああぁっ!?」
「ッ!」
『バササーッ!』
棚に仕舞われたチームシートを取り出そうとしたクロエは、チームシートの束を持った途端にバランスを崩してしまった。間一髪、クロエ本体はリーフが抱きかかえて支えたが、チームシートは地面に散らばってしまった。
クロエはすぐに謝ろうとしたが、抱きかかえてくれたリーフの顔がすぐ前にあるのを意識した途端にボフンという音を立てて頭から煙を出し、顔を真っ赤にしてしまった。
「ぁぅ、ぁぅ、ぁぅ・・・」
「・・・足元は注意しろ。全く・・・散らばったのが、鬱天の密林のチームシートなのだな?探すのを手伝ってくれ」
「あ、ぁぅ〜・・・」
もはや人語ではなく『あうぁぅ語』でしか話せなくなったクロエは、リーフに言われて地面のチームシートを集めながら、目当てのチームシートを探し始めた。
「お前らも頼むぞ」
「アイ、サー(キリッ」
「・・・鼻血を拭いてからな」
サリスは、先ほどまでのクロエの動きを堪能していたのか、さらに鼻血の量が増していた。
「天月。お前もだ」
「・・・分かりました」
「・・・そう不機嫌になるな。不機嫌になるくらいなら、自分が『照れられる相手』になれ」
リーフのその言葉に、いや、その前、クロエがリーフに対して照れて正常でなくなった辺りから、天月は不機嫌になっていた。
(・・・なってやるさ、いつか会長の愛しの男に。無愛想で、しかも気づいていながら振り向いてやらない苛つくアンタの代わりにな!)
天月は腹の中で悪態をつきながら、チームシートを漁り始めた。すると、真っ先にベルンのチームシートを見つけてしまった。
(・・・お、なんだ。あっさりみつかっ・・・んんん!?)
瞬間に、天月は目を疑った。ベルンのチームメンバーについてである。
(な、なぜに!?なぜにミルキィ先輩がメンバーなんだ!!?)
そう、天月は自分と同じ一回生であるベルンのチームに、ミルキィの名を見つけたのだ。
(会長とは違いながらも、素晴らしい姉属性を持つミルキィ先輩が!あの神々しいとも言える双乳を持つミルキィ先輩が!俺が慣れぬ街で迷ってた時に、優しく手を差し伸べ、共に学校までの道を探してくれたミルキィ先輩が!なぜ!?この『ベルン・トリニティ』とやらのパーティに!?)
その時、天月はハッとした。
まさに昨日、クロエが注意喚起をした相手の名も、確かベルンではなかったか?そうか、こいつなのか!?と頭の中で理解した。
(・・・おんのれぇ・・・俺の女神ふたりに触手を伸ばしおってからに・・・コイツは、要マークしておかねばならぬ奴だなッ・・・)
「・・・なんだ、天月。さっそく見つけたのか、よくやった」
その時、リーフがひょいとベルンのチームシートを取り上げ、天月はハッと自我を取り戻した。どうやら、ロック・サンドラのチームシートも見つかっていたらしい。
「で、だ。クロエ、この2組に、それぞれ一人ずつ監視をつけてくれ。頼んだぞ」
「は、はいぃ・・・」
「私は他にやらねばならんことがある。失礼する」
なんとか回復したクロエにチームシートを渡すと、リーフはそそくさと部屋を出て行ってしまった。
そのあと、クロエが深呼吸して、ようやく平常運転に戻った。
「・・・え、えーと・・・あ、そうか、監視に向かえるのは、サリスと天月くんだけ?」
「・・・うん。他のみんなは、すでに色んなマップの監視に回ってるから。個人チームの監視には私たちしか回れないよ」
「えーと・・・じゃあ・・・」
その時、天月に電流走るッ!
(待てよッ!?
俺とサリス先輩しかいないなら、どうあがいても会長とイチャイチャ出来ないってことか!?
クソ、大誤算だ!なんでかわらかんがふたつも要監視チームがあることが恨めしい!
だがしかし!ならば俺が監視するのはベルンチームでなくてはならない!
なぜか!?
それはミルキィ先輩に、ベルンとやらの魔の手がかからぬようにするためだ!
フラグを立てる前からNTRれるなんてたまったもんじゃない!
ここはッ!会長に訝しがられるのを覚悟でッ!
ベルンチームの監視を申し出るしかないッ!!)
この間、わずか1秒未満ッ!未満ッ!未満ッ!!
だがしかし、現実は非常であった。
「ベルンチームはサリス、ロックチームは天月くんが監視をしてくれる?」
「・・・はい、喜んでぇーーーっ!」
会長の言葉に、天月は血涙を流すのを必死に我慢した。
「・・・へぅ〜・・・」
昼前に運び込まれた大量の冒険講習チームシートの山に囲まれ、生徒会長であるドッペルゲンガー『クロエ・シャガーナ』が可愛いため息を吐いた。
「やっと終わったよぉ・・・疲れたぁ・・・」
それはそうである。ここには全校生徒のチームシートが集められ、受注したクエスト内容、向かった場所、期限などを集計しておき、さらになにか問題が発生した際にすぐに処理できるように整理しておかねばならなかった。
それを今、なんとクロエひとりでやっていたのだ。
「へぅ〜・・・疲れたよぉ〜・・・」
泣き言を言っているが、先ほどまでクロエの手は素早く動き、次々とチームシートの内容を書き記し、向かった場所と期限ごとにチームを集計した表を作っていた。そのスピードは凄まじく、泣き顔に似合わぬ敏腕デスクワーカーのそれに匹敵していた。
「・・・可愛い♥」
それを横で眺めながらほっこりし、クロエの整理したシートを『チームシート集計棚』と書かれた棚に、向かった場所のラベル通りに整理していたのが『サリス・ウッドリア』である。彼女は普段寝坊助なのだが、クロエがいるとクロエ愛護者になり、かつ働き者になるのだ。寡黙なマンティス?なにそれ食えるのか?
「サリスにも書類整理能力あればいいのになー・・・」
「ワタシ、字、読メナイヨ?」
「うん・・・知ってる・・・」
サリスの棒読みに、クロエはぐったりした。サリスは身体能力は全校生徒中でもズバ抜けているのだが、おつむがさっぱりなのだ。
「あ・・・そう言えば、『緋夜』くんまだ帰ってないね・・・大丈夫かな・・・」
「・・・あんな小僧、来なくていい」
「ダメだよサリス!緋夜くんは大切な一回生なんだから・・・」
不機嫌そうに頬を膨らますサリスをクロエが窘めた時、遠くから音が聞こえた。なにか、なにかが盛大に音を立てて走るような・・・
『・・・ドドドド・・・』
「あ、来たかな?」
「・・・チッ」
クロエが顔を上げ、サリスが舌打ちした時、あっという間に音が大きくなり、かと思えばブレーキ音が鳴った。
『ドドドドドドドドドッ、キキィーーーーーーッ!』
「会長ぉーっ!一回生、『緋夜 天月』!ただいま到着致しました!」
バンと扉を壊すのではないかという音と共に、大声で生徒会室に入ってきた男子生徒は、体のあちこちを擦りむき草木を服に付けながらも、ジパングのカタナを肩に担ぎ、満面の笑みであった。
「おかえり、緋夜くん・・・って、怪我したまんまだよ!?」
「こんな怪我、会長に『おかえり』を言ってもらった上に笑いかけてもらうだけで全回復ですよ!それより、遅れてしまいました!『粘質の湿地帯』の巡回冒険、終わりました!」
天月と名乗る青年は担いだ刀の鞘にくくりつけてあった袋からドサリと書類の山を取り出し、笑って敬礼した。
「あ、ホントにひとりで行ってくれたんだね」
「あんなの、生徒会入会試験の『竜祠の谷山』巡回より数段簡単でしたよ!まぁ、クイーンスライムの下僕スライムに囲まれた時は攫われるかと思いましたが、会長が待っていてくれることを思ったら突破できましたよ!」
「ホントに、ありがとう。これの巡回冒険に行った3回生、帰って来なかったから、今回の冒険じゃ使えなかったんだけど、次回から使えるね」
「会長からのありがとういただきましたワーーー(°∀°)ーーーッ!」
「あ、あは、あははは・・・」
天月の喜び具合に軽くクロエが引く。それに対し、サリスは思いっきり不機嫌顔をした。
「・・・2回生レベルの冒険講習ひとりで帰ってくるとか化け物かコイツ・・・」
「貴女に化け物と言われてもなんのダメージもありませんから」
サリスの呟きに天月がしれっと答えた時、サリスの頭から『ぶちん』という音が聞こえた。
「・・・坊主、調子乗りすぎ。会長に褒められたからっていい気になってると・・・ヤ(殺)るよ?」
「はい?なに?ヤ(犯)る?言っときますけど、貴女みたいなおバカ脳筋には反応しないんで。俺とヤりたければ会長みたいに激しく可愛くなるか、姉属性を・・・あ、無理だわー。会長超えるとか貴女には無理だわー。姉属性も無理だわー。貴女に萌える要素ないわー。残念だわー」
天月がお手上げポーズで挑発すると、サリスの目つきがギロリと変わり、カチャリと鎌を煌めかせた。
「・・・ブッコロス」
「やりますか?下克上上等っすよ」
対する天月もスラリとカタナを抜き、それはそれは冷たく、恐ろしく、泣く子も黙るどころか気絶しそうなほどの気迫を見せた。
ふたりが対峙し、もうしばらくしたら斬り合っていたであろうという空気に、クロエが割りいった。
「あ、あ、あぅ・・・ふ、ふたりとも!こ、こんなとこで喧嘩する人、私、大嫌いだよッ!」
『すんませんしたァッ!!!』
瞬間、サリスと天月が土下座し、その素早さにクロエがびっくりした。
「ごめん、会長・・・私、いい子にするから、嫌いにならないで?」
「お、俺も!つけあがりすぎました!二度と生徒会室でカタナ抜かないんで、許してください!」
サリスと天月の必死の懺悔に、クロエはびくびくしながらも聞いた。
「・・・も、もう、喧嘩しない?」
『イエス!』
「・・・絶対?」
『イエス、イエス!!』
「・・・ホント?」
『イエス、イエス、イエス!!!』
「・・・えへへ。なら、許したげる」
怖かったのか、涙目になりながらも、笑って許したクロエを見たふたりは。
『・・・ボタボタボタボタッ!!』
「ふ、ふたりとも!?鼻血出てるよ!?」
「・・・だいたい会長のせい・・・」
「・・・サリス先輩に同意です」
「なんでぇっ!?Σ(;△;)」
半泣きでおろおろしながらティッシュを探すクロエに、さらに鼻血出血量を増すサリスと天月。
そんなカオスな部屋の中に、リーフが入ってきた。
「クロエ、居るか・・・貴様ら、またか」
リーフは入って、すぐに鼻血を垂らすサリスと天月を見てため息を吐いた。
さて、クロエの方はリーフが入った瞬間にドキリとし、さらに名前を呼ばれて手にしていたティッシュをポトリと落としてあわあわした。
「り、り、リーフしぇんせい!?あ、あの、は、はい!クロエ、ここにいましゅ!」
「あぁ、クロエ。すまないが、生徒会からふたり、特別監視員を出してくれ。まずは・・・ふたつのチームシートを出してくれ。整理してあればいいんだが・・・」
「ちょ、ちょっと待ってくだしゃい!えと、あの、どこの場所れしょうか!?」
わたわたと慌てながらせわしなく走り回り噛みまくるクロエに、リーフは淡々と話を続けてゆく。
「そのチームらがいるのは『鬱天の密林』だ。チームリーダーは『ベルン・トリニティ』、並びに『ロック・サンドラ』。出せるか?」
「えと、あの、待ってくらしゃい!鬱天の密林のチームシートはここに・・・ひゃああぁっ!?」
「ッ!」
『バササーッ!』
棚に仕舞われたチームシートを取り出そうとしたクロエは、チームシートの束を持った途端にバランスを崩してしまった。間一髪、クロエ本体はリーフが抱きかかえて支えたが、チームシートは地面に散らばってしまった。
クロエはすぐに謝ろうとしたが、抱きかかえてくれたリーフの顔がすぐ前にあるのを意識した途端にボフンという音を立てて頭から煙を出し、顔を真っ赤にしてしまった。
「ぁぅ、ぁぅ、ぁぅ・・・」
「・・・足元は注意しろ。全く・・・散らばったのが、鬱天の密林のチームシートなのだな?探すのを手伝ってくれ」
「あ、ぁぅ〜・・・」
もはや人語ではなく『あうぁぅ語』でしか話せなくなったクロエは、リーフに言われて地面のチームシートを集めながら、目当てのチームシートを探し始めた。
「お前らも頼むぞ」
「アイ、サー(キリッ」
「・・・鼻血を拭いてからな」
サリスは、先ほどまでのクロエの動きを堪能していたのか、さらに鼻血の量が増していた。
「天月。お前もだ」
「・・・分かりました」
「・・・そう不機嫌になるな。不機嫌になるくらいなら、自分が『照れられる相手』になれ」
リーフのその言葉に、いや、その前、クロエがリーフに対して照れて正常でなくなった辺りから、天月は不機嫌になっていた。
(・・・なってやるさ、いつか会長の愛しの男に。無愛想で、しかも気づいていながら振り向いてやらない苛つくアンタの代わりにな!)
天月は腹の中で悪態をつきながら、チームシートを漁り始めた。すると、真っ先にベルンのチームシートを見つけてしまった。
(・・・お、なんだ。あっさりみつかっ・・・んんん!?)
瞬間に、天月は目を疑った。ベルンのチームメンバーについてである。
(な、なぜに!?なぜにミルキィ先輩がメンバーなんだ!!?)
そう、天月は自分と同じ一回生であるベルンのチームに、ミルキィの名を見つけたのだ。
(会長とは違いながらも、素晴らしい姉属性を持つミルキィ先輩が!あの神々しいとも言える双乳を持つミルキィ先輩が!俺が慣れぬ街で迷ってた時に、優しく手を差し伸べ、共に学校までの道を探してくれたミルキィ先輩が!なぜ!?この『ベルン・トリニティ』とやらのパーティに!?)
その時、天月はハッとした。
まさに昨日、クロエが注意喚起をした相手の名も、確かベルンではなかったか?そうか、こいつなのか!?と頭の中で理解した。
(・・・おんのれぇ・・・俺の女神ふたりに触手を伸ばしおってからに・・・コイツは、要マークしておかねばならぬ奴だなッ・・・)
「・・・なんだ、天月。さっそく見つけたのか、よくやった」
その時、リーフがひょいとベルンのチームシートを取り上げ、天月はハッと自我を取り戻した。どうやら、ロック・サンドラのチームシートも見つかっていたらしい。
「で、だ。クロエ、この2組に、それぞれ一人ずつ監視をつけてくれ。頼んだぞ」
「は、はいぃ・・・」
「私は他にやらねばならんことがある。失礼する」
なんとか回復したクロエにチームシートを渡すと、リーフはそそくさと部屋を出て行ってしまった。
そのあと、クロエが深呼吸して、ようやく平常運転に戻った。
「・・・え、えーと・・・あ、そうか、監視に向かえるのは、サリスと天月くんだけ?」
「・・・うん。他のみんなは、すでに色んなマップの監視に回ってるから。個人チームの監視には私たちしか回れないよ」
「えーと・・・じゃあ・・・」
その時、天月に電流走るッ!
(待てよッ!?
俺とサリス先輩しかいないなら、どうあがいても会長とイチャイチャ出来ないってことか!?
クソ、大誤算だ!なんでかわらかんがふたつも要監視チームがあることが恨めしい!
だがしかし!ならば俺が監視するのはベルンチームでなくてはならない!
なぜか!?
それはミルキィ先輩に、ベルンとやらの魔の手がかからぬようにするためだ!
フラグを立てる前からNTRれるなんてたまったもんじゃない!
ここはッ!会長に訝しがられるのを覚悟でッ!
ベルンチームの監視を申し出るしかないッ!!)
この間、わずか1秒未満ッ!未満ッ!未満ッ!!
だがしかし、現実は非常であった。
「ベルンチームはサリス、ロックチームは天月くんが監視をしてくれる?」
「・・・はい、喜んでぇーーーっ!」
会長の言葉に、天月は血涙を流すのを必死に我慢した。
12/10/07 02:06更新 / ganota_Mk2
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