10日目『ベルン、こいつは化け物か!?』
[ガーゴイル寮 312号室]
「・・・んん?」
ベルンが目を覚ますと、自分が自室のベッドで寝ていることに気がついた。真っ先に考えたのは『どうしてここにいるのか』だった。
「・・・昨日、襲われたあと、どうしたんだっけか?」
体を起こし、首を捻るがまったく思い出せない。三人にボコられて自分が倒れてからの記憶がなかった。
「・・・ま、いいか。とりあえず着替えよう」
しかしあまり気にも止めず、ベルンはそそくさと服を着替え、いつも通りに部屋を出て食堂へ向かった。
すぐに、ベルンはこの疑問を忘れてしまった・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[巨大食堂、もふもふ亭]
食堂に着いたベルンは、ふと『思い出した』。
「・・・あ、茜先輩にお金払わないと」
ベルンはまっすぐ茜が店番をする蕎麦屋に向かった。
「茜先輩、おはようございます」
「ん?あ、おはようさん。今日はなに食べるん?」
茜がそう言うと、ベルンは自分の財布を取り出しながら言った。
「えと・・・タヌキソバと、あと、これ、昨日のお代です」
「お、あんがとさん。狸蕎麦ひとつー」
茜がベルンの注文を奥にいる母親に言った後、茜はベルンに尋ねた。
「そういやあんさん、昨日はどうしたん?えらい不機嫌やったけど」
「え?」
「ほら、うちがお代求めた時よ。あんた、うちをこ〜んなキッツい目で睨みながら、不機嫌そうに言うたやん」
茜が目尻を指で釣り上げながら、おそらくベルンの真似をしながらそう言うと、ベルンはちらと記憶がないことを思い出したが、『適当にごまかした』。
「あぁ、ちょっと、虫の居所が悪かったんですよ。ごめんなさい」
「ん〜、ま、えぇけどな〜。はい、狸蕎麦おまち!おぉきにな〜」
茜から手元のトレイに蕎麦を置いたベルンは、トレイを持って席に向かい、首をかしげた。
(・・・なんで記憶がないんだ?というか、なんでさっきサラリと誤魔化したんだろ?)
まるで、台詞が決まっていたお芝居のワンシーンようにするりと出た言い訳。それに疑問を抱いたベルンだったが、とある席に腰掛ける人物を見てギョッとした。
「・・・ろ、ろ、ロック!?」
席に座っていたロックはぽかんと口を開け、その口からは白いなにかが抜け出ようとしていた。
「おい!どうしたんだよ!?ロック!ロック!!」
ベルンが揺すると、ロックはハッとしたように身体をビクつかせ、口から出てたものを引っ込ませてベルンを見た。
「・・・あ、あぁ、ベルンか・・・」
「一体どうしたんだよ?お前、魂が抜けたみたいになってたぞ?」
「・・・あぁ、うん・・・ちょっと、色々あってな・・・」
ロックはがっくりと首を垂れ、ずぅ〜んと空気を重くした。わけもわからず慌てるベルンの後ろから、声がかかった。
「なんじゃ、まーだ沈んでおるのか、『主』」
「あ、バルフォス」
「黙れこのロリババァ!◯ね!誰が主だ訂正しろッ!!!」
バルフォスの一言にロックが態度を一変させ、唾を飛ばしてまくし立てた。ちなみにバルフォスは自分のトレイにロックの唾がかからないよサッとかわしていた。
「・・・主?」
「昨日、不可抗力での。主と我は一夜の契りを結b」
「おがぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「・・・まぁ、夜伽をしたわけじゃ」
「詳しく言うんじゃねぇぇぇよぉぉぉっ!!!」
ロックが頭をガンガンと机に打ちつける横で、ベルンはひくひくと口を引きつらせた。
「そ、そうか・・・ロック・・・」
「やめろベルン!見るな!『こいつ本当は真性の変態だったんだな』みたいな目をするなぁぁぁっ!!」
「いやっ!ほら、契約上の弊害じゃねぇか!気にするな!ほら、あれだって!飼い犬に手を噛まれるみたいな・・・」
「こんなマイナスレッテルしかつかねぇ飼い犬いらねぇよぉぉぉぉぉぉっ!!」
ロックのヘッドバンドが机を叩き割りそうなことになりはじめていた。
「・・・ま、坊主には関係ないからの。気にするでない」
「・・・バルフォスは気にしてないのか?」
「もう過ぎたことにギャーギャー騒ぐことはせぬ。ま、人間とやることに抵抗はあったが、元から我は両刀だったからの。一度やってしまえばもう諦めがつくわい」
(・・・なんかポツリと変な告白があった気が・・・)
「ぬがぁぁぁぁぁぁっ!!」
暴れるロックを側におき、ベルンは朝飯をすませた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[学校・廊下]
本日のベルンの授業は2・4コマ。ロックらと別れ、ベルンはふらふらとひとりで廊下を歩いていた。
(暇だな・・・どうすっかな・・・)
うろついていたベルンだったが、ふと廊下の先にいる女性を見て、足を止めた。
「げっ・・・」
「・・・」
夕陰だった。
ベルンが通るのを待ち受けていたかのように、無言で立っていた。
(ひ、引き返そうかな・・・)
「待て」
ベルンが足を後ろに一歩引いた瞬間、夕陰が消え、ベルンのすぐ前に移動していた。びくりと肩を震わせたベルンだが、顔を引きつらせながら腰のヴィンギナーに手をかけていた。
「・・・な、なんすか?」
「・・・違う」
「へ?」
「・・・貴様は『あの方』と違う・・・どういうことだ・・・」
瞬間、また夕陰が消えた。ベルンは慌てて周囲を見回したが、どこにもいなかった。
「・・・な、なんだったんだ?」
ふと、ベルンは夕陰に『なにか言わなければならないこと』があった気がしたが、すぐに忘れてしまった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・・・・」
夕陰は、廊下にはおらず、廊下の窓の外にいた。
(奴は目が優しかった。あの時のように・・・欲望に塗れた、獰猛な目ではなかった・・・)
夕陰は下腹部をさすりながら、そんなことを考えていた。
『・・・オレ様の部下のように従順にしていたら、また・・・』
『ヤツ』の言葉を思い出し、夕陰は拳をぎゅっと握った。
「・・・必ず正体を突き止めてやる・・・それまで、大人しくしていてやろう。私の本気、見せてやる・・・」
小さく呟いた夕陰の姿は、わずかな風音とともに、消えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
さて、2コマ。ベルンにとって、一週間で一番辛いかもしれない時間が始まった
「では、授業を始める。配布プリント一枚目を開きなさい」
ヌァビル先生の地理学科である。
先週のこともあり、ベルンはブラックコーヒーを飲んでから来ていた。
(眠らないように注意しないと・・・)
「先週のプリントを持参しているものはそれも参照しなさい。先週は精神学論から・・・を利用して・・・したので・・・」
ヌァビルのうだうだした説明が始まった。ベルンは聞くだけではなく、プリントに補足を書き込むなどして必死に講義を聞こうとしていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ヌァビルの地理学科・午前』
[必死こいて起きていた!]
[知識習熟度+1]
[器用習熟度+1]
[ダンジョンについて知識を深めた!]
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・このように、ダンジョンの風土により、出現する魔物が様々であることは当たり前の他、ダンジョンのボスの強さや環境により、魔物個体の強さも変わる。雑魚と戦って、ある程度のダンジョンレベルを見切れるように。以上。午後の講義は私と共にダンジョンの講習探索となる。各自、マッピング用道具や、念のための武器を忘れぬように」
ヌァビルの講義が終わった瞬間、ベルンは机に突っ伏した。
(お、終わった・・・な、長かった・・・)
重かった瞼に対して大した抵抗もせず、ベルンはゆっくり意識を手放してゆく。
(すぐ昼休みだし、午後は実践講習だから、寝ても大丈夫だろう・・・)
「・・・あー。ひとつ。生徒の呼び出しをする」
(うぅ・・・眠い・・・もう聞いてられん・・・)
「ベルン・トリニティ。ベルン・トリニティはいるか?」
(ねむ・・・あれ・・・今、俺の・・・)
「ベルン・トリニティ!返事をしろ!」
「はいっ!?」
いきなりの怒号に、ベルンは慌てて立ち上がって大声で返事をした。
「・・・授業終了まで起きていたのは知っているが、夜更かしでもしていたのか?まだ昼だぞ」
「いえ!特に、なにも・・・」
「・・・まぁいい。ベルン・トリニティ。今から私について来なさい。少々お話があります」
(・・・えぇ?)
ベルンは首を傾げたが、はいと返事をしてヌァビルの後ろについて行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[ヌァビル先生の研究室]
「入りなさい」
連れてこられた部屋にヌァビルが入り、中から声が聞こえてから、ベルンはゆっくり扉を開けた。
「お、おじゃまします・・・」
「『失礼します』、の方が聞こえがいいな」
「し、失礼します」
「よろしい。かけなさい」
ヌァビルの部屋は簡素というか、必要最低限のもの以外がなく、キチンと片付けられていた。部屋の中央には机に椅子がみっつ、作業用らしきデスクが部屋の隅にあり、隣には書籍棚、その横にポットやカップなどがある棚があった。
ヌァビルはコーヒーらしきものをポットからふたつのカップに注ぎ、スプーンを添えてベルンに渡した。
「砂糖はいるか?ミルクは?」
「い、いえ・・・結構です」
「そうか。失礼、まず私の仕事を終えさせてくれ」
ヌァビルは作業デスクの上にある紙に、なにかメモっていた。
(・・・アル・ビルクァ、居眠りにより2点減点。イネル・ナニー、居眠りにより2点減点。イージス・クァンタ、飲食により1点減点。イドリア・フール、減点なし・・・)
ヌァビルは小さく何か言っていたが、ベルンが聞き取れないほど小さい声だったので、ベルンはコーヒーを啜って待っていた。
「・・・よし、済んだ。すまないな、待たせて」
「いえ、大丈夫です・・・っ!?」
ヌァビルはベルンの前に座り、コーヒーにミルクを少し注ぎ、角砂糖を10個ばかし入れてスプーンで混ぜ始めた。
「なにか?」
「い、いえ・・・」
(どんだけ入れるんだよ・・・カップなみなみじゃねぇか・・・)
「さて、君を呼んだのは・・・ずずっ・・・濃すぎたかな・・・先週の実践講習についてなんだが」
ヌァビルはさらに角砂糖を入れながら続けた。
(まだ入れんの!?)
「君は先週、ダンジョン内でマミーに遭遇したな?」
「え、あ、はい・・・」
「そして特殊な撃退法で・・・厳密には、性行為に準ずる愛撫により、マミーを撃退したか?」
「・・・はい」
イヤな予感を感じたベルンは、ゆっくり頷いた。
「うむ。やはり君か。そのマミーだが、主人を私から君に代えたいと言っている」
「そんなバカなーーーーーーっ!?」
「ちなみに彼女曰く『自分の弱点(性感帯)ばかり責めてくれる目つきの恐ろしい鬼畜ご主人様ハァハァ』らしい」
「ドMかよーーーーーーっ!?」
「ちなみに私としては管理しなければならないマミーが減るので快諾した」
「勝手なことしないでーーーーーーっ!?」
「ぶっちゃけピラミッド支配当初からいる100近いマミー管理するのしんどい」
「アンタそれでもアヌビスかーーーーーーっ!?」
「以上、報告終わり」
「納得できねぇよ!?」
「やかましい。文句は言わさん。返品は効かん。クーリングオフ期間なし。安心しろ。君の同意なしに性行為には及ばぬように躾けてあるから」
「なにを安心しろと!?」
「以上。私は仕事がある。さぁ、部屋から出て行ってくれ。さもなくばマミーの呪い(一週間ver.)をかけた挙句、彼女の好きにさせるぞ」
「・・・り、理不尽な・・・」
ヌァビルの額に青筋ができ、杖を振り上げた辺りで、ベルンはダッシュで部屋から出て行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[ガーゴイル寮、213号室]
そして、ベルンは寮にマッピング用道具を取りに来て。
「ご主人様〜♥おかえりなs」
自室のドアを閉めた。
「ガレッタさぁぁぁぁぁぁん!!?」
「どうしたんだい?」
ベルンはまだ昼間なために固まっているガレッタにすがりついた。
「なんで俺の部屋にマミーがいるんですかねぇ!?」
「ヌァビル先生から聞いてるよ。彼女からはキミに仕えるって・・・」
「だからって本人抜きで話進めないでくれませんかねぇ!?てか、男子寮は魔物娘厳禁でしょ!?」
「あぁ、それなんだけどねぇ。男女同棲寮がちょうどいっぱいなんだよ。最近の若い子はねぇ・・・」
「いやそこじゃなくて!?寮移りたいとかじゃなくて、マミーいるのがおかしいでしょって・・・」
「あぁ、それは・・・
『ベルンくんはこれからたくさんエッチをせねばならん。が、同棲寮が使えない今、ベルンくんは寮に女の子を連れ込んでよし!ま、敵はできてしまうだろうが、頑張れ!わっははははははは!!!』
・・・って、うちの人が。」
「こぉちょお(校長)ぉぉぉぉぉぉっ!!!」
ベルンが膝から崩れ落ち床を叩いて叫んだ。その時、ベルンは視線を感じ、自分が閉めた扉を見た。
「・・・じ〜〜〜っ・・・」
マミーが扉を開けてベルンを見ていた。
「ほらほら。好かれてるんだから、可愛がってあげなよ。ま、昼間は寮の仕事をやってもらうから、彼女と戯れられるのは夜だけどね」
「・・・もしかして、楽しんでます?」
「もちろん♪」
ベルンは、大きくため息を吐いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ご主人様〜♥」
部屋に入るとすでにとろんとした目をしているマミーがハァハァと息を荒げていた。
「いや、やらないからな!?授業あるし!」
「わかってます〜ご主人様の許可が出るまで〜えっちは我慢します〜」
「・・・本当か?」
ベルンは少し安心しながらも、まだ疑り深く聞いた。
「代わりに〜ご主人様のシーツとか〜洗う前に嗅いで我慢します〜♥」
「やめろ」
ベルンはなんとかマミーに部屋で変なことをせぬように説得し、道具とヴィンギナーの手入れをした後、午後の講義へ向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[ヌァビル先生のピラミッドダンジョン2]
(ダンジョンLevel6)
「・・・よし、では午後の実践講習を始める。全員、私についてきなさい」
ヌァビルの一言に、地理学科の生徒たちはヌァビルの後ろをついて行く。ぞろぞろとピラミッドの暗く広い廊下を皆小さくしゃべりながら歩いていた。
「ここは私の作ったピラミッドだが、随所にトラップが設置してある。今回は様々なトラップを実際に触れながら学んでいこうと思う」
ベルンはヌァビルとそれほど離れてない距離でヌァビルの話を聞いていた。
(実際に触れながら、ねぇ・・・リーフ先生のより優しいよな・・・?)
その時。
『バリバリバリバリィッ!!!』
「ぎゃあああああああっ!!!」
ヌァビルのすぐ後をついていた生徒がちょっと壁に手をついた瞬間に激しいショート音と共に叫びを上げ、他の生徒はみんなぎょっとした。
「ん?おぉ、『スパークウォール』を作動させたか。よし、まずはこのトラップから説明しよう」
ヌァビルは飄々とした態度で解説を始めたが、生徒たちは目の前で気絶してピクピクしている犠牲者にドン引きし、話などほとんど聞けてなかった。
ちなみにヌァビルのトラップの解説内容はベルンたちが盗賊学科で習ったことに加え、これがどういうところにありやすいか、どう設置されやすいかなど、ダンジョンでの活用のされ方?を解説していた。(盗賊学科ではトラップの作用や解除法などを学んでいた)
「・・・以上。では、探索を続ける。なお、トラップにかかってしまった者、マッピングにおいて判明した罠を記載していない者は減点するので、喋ることはせず、しっかり注意し、自分でトラップを見つけてマッピングするように」
ヌァビルがまたダンジョンを進みだす。生徒たちは態度を一変させ、みんな喋らずに目を皿のようにしてトラップを探し始めた。
(・・・勘弁してくれよ・・・)
ベルンははぁ、と溜息を吐いてマッピングを開始した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ヌァビルの地理学科・午後』
[注意深く探索した!]
[ダンジョンについて知識を深めた!]
[据え置き型トラップについて知識を深めた!]
[生徒Aはスパークウォールにひっかかった!]
[生徒Bは落とし穴にひっかかった!]
[生徒Cは粘着床にひっかかった!]
[生徒Dは睡眠ガスにひっかかった!]
[生徒Eは…](犠牲者多数により以下略)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・全く嘆かわしい。生徒の1/3が罠にひっかかるとは。もっと勉強しておけ!私の学科だけでなく、盗賊学科に影響するものだぞ、これは」
(((無茶言うなよ・・・)))
大半の生徒たちがどんよりした目をする中、ヌァビルは怒ったまま授業を終わらせた。
「くっそ、あの犬教師、無茶苦茶言いやがって・・・」
「わけわかんねー罠張りやがって・・・」
「キツい上に色気ねぇ身体しやがって・・・」
(・・・リーフ先生のアレのおかげで安全に終わったな・・・)
ベルンは他の生徒が愚痴をいう中、その場を後にした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[学校内、廊下]
「どーすっかなー・・・」
久しぶりにひとり、手持ち無沙汰な時間ができ、ベルンは廊下を歩いていた。
(寮じゃあのマミーがいそうだし・・・どっか時間潰せねーかなー・・・)
その時、廊下の先にいた人を見たベルンは首を傾げた。
「あれ・・・ムート、さん?」
「あ、ミルキィの逆メッシーくん〜」
「違いますっ!!!」
ムートの発言に、周りの生徒がぎょっとしてベルンを見たのは言うまでもない。
「あれはミルキィ先輩が奢るからって言ったからです!!誤解を招く言い方しないでください!!」
「え〜、でもミルキィにあ〜んまでさせて〜」
「アンタ狙って言ってます!?」
周りの生徒たちはひそひそ話をしたり、嫉妬に染まった視線を向けていた。
(ちょ、ちょっと!だから周りが勘違いするような発言しないでくださいって!)
「え〜?なにがおかしいの〜?本当のことなのに〜」
「ムートさん?ちょっと場所代えましょう!ね!?」
「え〜?お話するなら、喫茶店〜?でも、私、お金ないよ〜?あ、ミルキィ呼んd」
「俺が!奢りますから!オ、レ、がッ!!!」
「やった〜♪」
ベルンはムートを押しやるように図書館の喫茶店へ向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[図書館・喫茶店]
ベルンは思っていた。
否、感じていた。
自分はムートにハメられたのだと。
「ごちそうさま〜♪」
(ケーキ3つに紅茶3杯も奢っちまった・・・)
ベルンは自分が全く手を付けてない3枚の皿を見て、頭を抱えていた。
「ベルンくんは親切だね〜♪」
「は、ははは・・・」
半ばニヤニヤした笑いを浮かべるムートに、ベルンは乾いた笑いしか出なかった。
「ここまでちょろいとは思わなかったけどね〜♪」
「正直に言いやがったこの人!?」
「キミなら言っても怒らなそうだから〜♪」
その応えに、ベルンは頭を抱えて机に突っ伏していた。
「もうネタにはしないから、許してね〜♪」
「超ご機嫌な顔で言われても色んな感情しか湧いて来ないのですが?」
「てへぺろ〜♪ (・ω<)^☆」
「殴りますよ?」
「あ、私の自己紹介まだだね〜」
「無視かい」
ベルンが怒りでひくつく口元を必死に抑えてる内に、ムートがマイペースに話しはじめた。
「私ね〜、名前は『ムート・カシミア』〜。職業はね、レンジャーだよ〜」
「・・・レンジャー?」
ベルンは頭の中で銃器を抱えて眠るムートを想像していた。あんまり似合わない、というか、当てられるのかと疑問を抱きながら。
「これ、通信機の連絡先〜♪」
「え、あ、はぁ・・・」
「それじゃ、またね〜♪」
「終わり!?つか帰るの!?」
なんともマイペース、悪く言えば自分勝手なことだろうか。ムートはさっさと鞄を持って、ご機嫌な様子で帰ってしまった。ガチでである。
「・・・なんちゅう人だ・・・あれも、ミルキィさんと同学年なのか・・・?」
「お客様・・・あの、お会計は・・・」
ハッとしたベルンが振り向くと、従業員の人が『フられて可哀想な人を見るような目』をしており、ベルンは溜息を吐いた。
(・・・まためんどくさい知り合いができた気がする・・・)
『ムートの連絡先を手に入れた!』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[ガーゴイル寮、312号室]
そして・・・
「おかえりなさいませ〜、ご主人様〜♥」
「なぜベットで横になってんだ」
帰ったらマミーがベルンのベットで寝ていた。
「それは〜・・・ポッ♥」
「いいよ、そこで寝てて。俺はロックのベットで寝るから」
「えぇ〜〜〜?」
「うるさい。今日はお預け。疲れた。寝る」
「うぅ〜〜〜・・・」
泣きそうな目をするマミーをよそに、ベルンは二段ベッドの上に登り、さっさと横になった。
「・・・放置プレイ♥はぁはぁ♥」
(・・・わずかでも悪いと思った俺がバカだった・・・)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[選択肢]
放課後、どこへ行こうかな?
1、寮へ
2、学校へ
3、図書館へ
4、学生購買園へ
5、食堂へ
6、街へ
7、ジパング喫茶店へ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
↑で、1番を選んだ方は下の選択肢を選んでください。
寮へ戻り、ケータイで・・・
A.ロックとだべる
B.ネフィアとだべる
C.クラリアを『呼びだす』
D.ラトラを『呼びだす』
E.ミルキィを『呼びだす』
F.成美を『呼びだす』
G.ムートを『呼びだす』
「・・・んん?」
ベルンが目を覚ますと、自分が自室のベッドで寝ていることに気がついた。真っ先に考えたのは『どうしてここにいるのか』だった。
「・・・昨日、襲われたあと、どうしたんだっけか?」
体を起こし、首を捻るがまったく思い出せない。三人にボコられて自分が倒れてからの記憶がなかった。
「・・・ま、いいか。とりあえず着替えよう」
しかしあまり気にも止めず、ベルンはそそくさと服を着替え、いつも通りに部屋を出て食堂へ向かった。
すぐに、ベルンはこの疑問を忘れてしまった・・・
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[巨大食堂、もふもふ亭]
食堂に着いたベルンは、ふと『思い出した』。
「・・・あ、茜先輩にお金払わないと」
ベルンはまっすぐ茜が店番をする蕎麦屋に向かった。
「茜先輩、おはようございます」
「ん?あ、おはようさん。今日はなに食べるん?」
茜がそう言うと、ベルンは自分の財布を取り出しながら言った。
「えと・・・タヌキソバと、あと、これ、昨日のお代です」
「お、あんがとさん。狸蕎麦ひとつー」
茜がベルンの注文を奥にいる母親に言った後、茜はベルンに尋ねた。
「そういやあんさん、昨日はどうしたん?えらい不機嫌やったけど」
「え?」
「ほら、うちがお代求めた時よ。あんた、うちをこ〜んなキッツい目で睨みながら、不機嫌そうに言うたやん」
茜が目尻を指で釣り上げながら、おそらくベルンの真似をしながらそう言うと、ベルンはちらと記憶がないことを思い出したが、『適当にごまかした』。
「あぁ、ちょっと、虫の居所が悪かったんですよ。ごめんなさい」
「ん〜、ま、えぇけどな〜。はい、狸蕎麦おまち!おぉきにな〜」
茜から手元のトレイに蕎麦を置いたベルンは、トレイを持って席に向かい、首をかしげた。
(・・・なんで記憶がないんだ?というか、なんでさっきサラリと誤魔化したんだろ?)
まるで、台詞が決まっていたお芝居のワンシーンようにするりと出た言い訳。それに疑問を抱いたベルンだったが、とある席に腰掛ける人物を見てギョッとした。
「・・・ろ、ろ、ロック!?」
席に座っていたロックはぽかんと口を開け、その口からは白いなにかが抜け出ようとしていた。
「おい!どうしたんだよ!?ロック!ロック!!」
ベルンが揺すると、ロックはハッとしたように身体をビクつかせ、口から出てたものを引っ込ませてベルンを見た。
「・・・あ、あぁ、ベルンか・・・」
「一体どうしたんだよ?お前、魂が抜けたみたいになってたぞ?」
「・・・あぁ、うん・・・ちょっと、色々あってな・・・」
ロックはがっくりと首を垂れ、ずぅ〜んと空気を重くした。わけもわからず慌てるベルンの後ろから、声がかかった。
「なんじゃ、まーだ沈んでおるのか、『主』」
「あ、バルフォス」
「黙れこのロリババァ!◯ね!誰が主だ訂正しろッ!!!」
バルフォスの一言にロックが態度を一変させ、唾を飛ばしてまくし立てた。ちなみにバルフォスは自分のトレイにロックの唾がかからないよサッとかわしていた。
「・・・主?」
「昨日、不可抗力での。主と我は一夜の契りを結b」
「おがぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「・・・まぁ、夜伽をしたわけじゃ」
「詳しく言うんじゃねぇぇぇよぉぉぉっ!!!」
ロックが頭をガンガンと机に打ちつける横で、ベルンはひくひくと口を引きつらせた。
「そ、そうか・・・ロック・・・」
「やめろベルン!見るな!『こいつ本当は真性の変態だったんだな』みたいな目をするなぁぁぁっ!!」
「いやっ!ほら、契約上の弊害じゃねぇか!気にするな!ほら、あれだって!飼い犬に手を噛まれるみたいな・・・」
「こんなマイナスレッテルしかつかねぇ飼い犬いらねぇよぉぉぉぉぉぉっ!!」
ロックのヘッドバンドが机を叩き割りそうなことになりはじめていた。
「・・・ま、坊主には関係ないからの。気にするでない」
「・・・バルフォスは気にしてないのか?」
「もう過ぎたことにギャーギャー騒ぐことはせぬ。ま、人間とやることに抵抗はあったが、元から我は両刀だったからの。一度やってしまえばもう諦めがつくわい」
(・・・なんかポツリと変な告白があった気が・・・)
「ぬがぁぁぁぁぁぁっ!!」
暴れるロックを側におき、ベルンは朝飯をすませた。
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[学校・廊下]
本日のベルンの授業は2・4コマ。ロックらと別れ、ベルンはふらふらとひとりで廊下を歩いていた。
(暇だな・・・どうすっかな・・・)
うろついていたベルンだったが、ふと廊下の先にいる女性を見て、足を止めた。
「げっ・・・」
「・・・」
夕陰だった。
ベルンが通るのを待ち受けていたかのように、無言で立っていた。
(ひ、引き返そうかな・・・)
「待て」
ベルンが足を後ろに一歩引いた瞬間、夕陰が消え、ベルンのすぐ前に移動していた。びくりと肩を震わせたベルンだが、顔を引きつらせながら腰のヴィンギナーに手をかけていた。
「・・・な、なんすか?」
「・・・違う」
「へ?」
「・・・貴様は『あの方』と違う・・・どういうことだ・・・」
瞬間、また夕陰が消えた。ベルンは慌てて周囲を見回したが、どこにもいなかった。
「・・・な、なんだったんだ?」
ふと、ベルンは夕陰に『なにか言わなければならないこと』があった気がしたが、すぐに忘れてしまった。
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「・・・・・・」
夕陰は、廊下にはおらず、廊下の窓の外にいた。
(奴は目が優しかった。あの時のように・・・欲望に塗れた、獰猛な目ではなかった・・・)
夕陰は下腹部をさすりながら、そんなことを考えていた。
『・・・オレ様の部下のように従順にしていたら、また・・・』
『ヤツ』の言葉を思い出し、夕陰は拳をぎゅっと握った。
「・・・必ず正体を突き止めてやる・・・それまで、大人しくしていてやろう。私の本気、見せてやる・・・」
小さく呟いた夕陰の姿は、わずかな風音とともに、消えた。
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さて、2コマ。ベルンにとって、一週間で一番辛いかもしれない時間が始まった
「では、授業を始める。配布プリント一枚目を開きなさい」
ヌァビル先生の地理学科である。
先週のこともあり、ベルンはブラックコーヒーを飲んでから来ていた。
(眠らないように注意しないと・・・)
「先週のプリントを持参しているものはそれも参照しなさい。先週は精神学論から・・・を利用して・・・したので・・・」
ヌァビルのうだうだした説明が始まった。ベルンは聞くだけではなく、プリントに補足を書き込むなどして必死に講義を聞こうとしていた。
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『ヌァビルの地理学科・午前』
[必死こいて起きていた!]
[知識習熟度+1]
[器用習熟度+1]
[ダンジョンについて知識を深めた!]
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・このように、ダンジョンの風土により、出現する魔物が様々であることは当たり前の他、ダンジョンのボスの強さや環境により、魔物個体の強さも変わる。雑魚と戦って、ある程度のダンジョンレベルを見切れるように。以上。午後の講義は私と共にダンジョンの講習探索となる。各自、マッピング用道具や、念のための武器を忘れぬように」
ヌァビルの講義が終わった瞬間、ベルンは机に突っ伏した。
(お、終わった・・・な、長かった・・・)
重かった瞼に対して大した抵抗もせず、ベルンはゆっくり意識を手放してゆく。
(すぐ昼休みだし、午後は実践講習だから、寝ても大丈夫だろう・・・)
「・・・あー。ひとつ。生徒の呼び出しをする」
(うぅ・・・眠い・・・もう聞いてられん・・・)
「ベルン・トリニティ。ベルン・トリニティはいるか?」
(ねむ・・・あれ・・・今、俺の・・・)
「ベルン・トリニティ!返事をしろ!」
「はいっ!?」
いきなりの怒号に、ベルンは慌てて立ち上がって大声で返事をした。
「・・・授業終了まで起きていたのは知っているが、夜更かしでもしていたのか?まだ昼だぞ」
「いえ!特に、なにも・・・」
「・・・まぁいい。ベルン・トリニティ。今から私について来なさい。少々お話があります」
(・・・えぇ?)
ベルンは首を傾げたが、はいと返事をしてヌァビルの後ろについて行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[ヌァビル先生の研究室]
「入りなさい」
連れてこられた部屋にヌァビルが入り、中から声が聞こえてから、ベルンはゆっくり扉を開けた。
「お、おじゃまします・・・」
「『失礼します』、の方が聞こえがいいな」
「し、失礼します」
「よろしい。かけなさい」
ヌァビルの部屋は簡素というか、必要最低限のもの以外がなく、キチンと片付けられていた。部屋の中央には机に椅子がみっつ、作業用らしきデスクが部屋の隅にあり、隣には書籍棚、その横にポットやカップなどがある棚があった。
ヌァビルはコーヒーらしきものをポットからふたつのカップに注ぎ、スプーンを添えてベルンに渡した。
「砂糖はいるか?ミルクは?」
「い、いえ・・・結構です」
「そうか。失礼、まず私の仕事を終えさせてくれ」
ヌァビルは作業デスクの上にある紙に、なにかメモっていた。
(・・・アル・ビルクァ、居眠りにより2点減点。イネル・ナニー、居眠りにより2点減点。イージス・クァンタ、飲食により1点減点。イドリア・フール、減点なし・・・)
ヌァビルは小さく何か言っていたが、ベルンが聞き取れないほど小さい声だったので、ベルンはコーヒーを啜って待っていた。
「・・・よし、済んだ。すまないな、待たせて」
「いえ、大丈夫です・・・っ!?」
ヌァビルはベルンの前に座り、コーヒーにミルクを少し注ぎ、角砂糖を10個ばかし入れてスプーンで混ぜ始めた。
「なにか?」
「い、いえ・・・」
(どんだけ入れるんだよ・・・カップなみなみじゃねぇか・・・)
「さて、君を呼んだのは・・・ずずっ・・・濃すぎたかな・・・先週の実践講習についてなんだが」
ヌァビルはさらに角砂糖を入れながら続けた。
(まだ入れんの!?)
「君は先週、ダンジョン内でマミーに遭遇したな?」
「え、あ、はい・・・」
「そして特殊な撃退法で・・・厳密には、性行為に準ずる愛撫により、マミーを撃退したか?」
「・・・はい」
イヤな予感を感じたベルンは、ゆっくり頷いた。
「うむ。やはり君か。そのマミーだが、主人を私から君に代えたいと言っている」
「そんなバカなーーーーーーっ!?」
「ちなみに彼女曰く『自分の弱点(性感帯)ばかり責めてくれる目つきの恐ろしい鬼畜ご主人様ハァハァ』らしい」
「ドMかよーーーーーーっ!?」
「ちなみに私としては管理しなければならないマミーが減るので快諾した」
「勝手なことしないでーーーーーーっ!?」
「ぶっちゃけピラミッド支配当初からいる100近いマミー管理するのしんどい」
「アンタそれでもアヌビスかーーーーーーっ!?」
「以上、報告終わり」
「納得できねぇよ!?」
「やかましい。文句は言わさん。返品は効かん。クーリングオフ期間なし。安心しろ。君の同意なしに性行為には及ばぬように躾けてあるから」
「なにを安心しろと!?」
「以上。私は仕事がある。さぁ、部屋から出て行ってくれ。さもなくばマミーの呪い(一週間ver.)をかけた挙句、彼女の好きにさせるぞ」
「・・・り、理不尽な・・・」
ヌァビルの額に青筋ができ、杖を振り上げた辺りで、ベルンはダッシュで部屋から出て行った。
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[ガーゴイル寮、213号室]
そして、ベルンは寮にマッピング用道具を取りに来て。
「ご主人様〜♥おかえりなs」
自室のドアを閉めた。
「ガレッタさぁぁぁぁぁぁん!!?」
「どうしたんだい?」
ベルンはまだ昼間なために固まっているガレッタにすがりついた。
「なんで俺の部屋にマミーがいるんですかねぇ!?」
「ヌァビル先生から聞いてるよ。彼女からはキミに仕えるって・・・」
「だからって本人抜きで話進めないでくれませんかねぇ!?てか、男子寮は魔物娘厳禁でしょ!?」
「あぁ、それなんだけどねぇ。男女同棲寮がちょうどいっぱいなんだよ。最近の若い子はねぇ・・・」
「いやそこじゃなくて!?寮移りたいとかじゃなくて、マミーいるのがおかしいでしょって・・・」
「あぁ、それは・・・
『ベルンくんはこれからたくさんエッチをせねばならん。が、同棲寮が使えない今、ベルンくんは寮に女の子を連れ込んでよし!ま、敵はできてしまうだろうが、頑張れ!わっははははははは!!!』
・・・って、うちの人が。」
「こぉちょお(校長)ぉぉぉぉぉぉっ!!!」
ベルンが膝から崩れ落ち床を叩いて叫んだ。その時、ベルンは視線を感じ、自分が閉めた扉を見た。
「・・・じ〜〜〜っ・・・」
マミーが扉を開けてベルンを見ていた。
「ほらほら。好かれてるんだから、可愛がってあげなよ。ま、昼間は寮の仕事をやってもらうから、彼女と戯れられるのは夜だけどね」
「・・・もしかして、楽しんでます?」
「もちろん♪」
ベルンは、大きくため息を吐いた。
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「ご主人様〜♥」
部屋に入るとすでにとろんとした目をしているマミーがハァハァと息を荒げていた。
「いや、やらないからな!?授業あるし!」
「わかってます〜ご主人様の許可が出るまで〜えっちは我慢します〜」
「・・・本当か?」
ベルンは少し安心しながらも、まだ疑り深く聞いた。
「代わりに〜ご主人様のシーツとか〜洗う前に嗅いで我慢します〜♥」
「やめろ」
ベルンはなんとかマミーに部屋で変なことをせぬように説得し、道具とヴィンギナーの手入れをした後、午後の講義へ向かった。
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[ヌァビル先生のピラミッドダンジョン2]
(ダンジョンLevel6)
「・・・よし、では午後の実践講習を始める。全員、私についてきなさい」
ヌァビルの一言に、地理学科の生徒たちはヌァビルの後ろをついて行く。ぞろぞろとピラミッドの暗く広い廊下を皆小さくしゃべりながら歩いていた。
「ここは私の作ったピラミッドだが、随所にトラップが設置してある。今回は様々なトラップを実際に触れながら学んでいこうと思う」
ベルンはヌァビルとそれほど離れてない距離でヌァビルの話を聞いていた。
(実際に触れながら、ねぇ・・・リーフ先生のより優しいよな・・・?)
その時。
『バリバリバリバリィッ!!!』
「ぎゃあああああああっ!!!」
ヌァビルのすぐ後をついていた生徒がちょっと壁に手をついた瞬間に激しいショート音と共に叫びを上げ、他の生徒はみんなぎょっとした。
「ん?おぉ、『スパークウォール』を作動させたか。よし、まずはこのトラップから説明しよう」
ヌァビルは飄々とした態度で解説を始めたが、生徒たちは目の前で気絶してピクピクしている犠牲者にドン引きし、話などほとんど聞けてなかった。
ちなみにヌァビルのトラップの解説内容はベルンたちが盗賊学科で習ったことに加え、これがどういうところにありやすいか、どう設置されやすいかなど、ダンジョンでの活用のされ方?を解説していた。(盗賊学科ではトラップの作用や解除法などを学んでいた)
「・・・以上。では、探索を続ける。なお、トラップにかかってしまった者、マッピングにおいて判明した罠を記載していない者は減点するので、喋ることはせず、しっかり注意し、自分でトラップを見つけてマッピングするように」
ヌァビルがまたダンジョンを進みだす。生徒たちは態度を一変させ、みんな喋らずに目を皿のようにしてトラップを探し始めた。
(・・・勘弁してくれよ・・・)
ベルンははぁ、と溜息を吐いてマッピングを開始した。
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『ヌァビルの地理学科・午後』
[注意深く探索した!]
[ダンジョンについて知識を深めた!]
[据え置き型トラップについて知識を深めた!]
[生徒Aはスパークウォールにひっかかった!]
[生徒Bは落とし穴にひっかかった!]
[生徒Cは粘着床にひっかかった!]
[生徒Dは睡眠ガスにひっかかった!]
[生徒Eは…](犠牲者多数により以下略)
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「・・・全く嘆かわしい。生徒の1/3が罠にひっかかるとは。もっと勉強しておけ!私の学科だけでなく、盗賊学科に影響するものだぞ、これは」
(((無茶言うなよ・・・)))
大半の生徒たちがどんよりした目をする中、ヌァビルは怒ったまま授業を終わらせた。
「くっそ、あの犬教師、無茶苦茶言いやがって・・・」
「わけわかんねー罠張りやがって・・・」
「キツい上に色気ねぇ身体しやがって・・・」
(・・・リーフ先生のアレのおかげで安全に終わったな・・・)
ベルンは他の生徒が愚痴をいう中、その場を後にした。
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[学校内、廊下]
「どーすっかなー・・・」
久しぶりにひとり、手持ち無沙汰な時間ができ、ベルンは廊下を歩いていた。
(寮じゃあのマミーがいそうだし・・・どっか時間潰せねーかなー・・・)
その時、廊下の先にいた人を見たベルンは首を傾げた。
「あれ・・・ムート、さん?」
「あ、ミルキィの逆メッシーくん〜」
「違いますっ!!!」
ムートの発言に、周りの生徒がぎょっとしてベルンを見たのは言うまでもない。
「あれはミルキィ先輩が奢るからって言ったからです!!誤解を招く言い方しないでください!!」
「え〜、でもミルキィにあ〜んまでさせて〜」
「アンタ狙って言ってます!?」
周りの生徒たちはひそひそ話をしたり、嫉妬に染まった視線を向けていた。
(ちょ、ちょっと!だから周りが勘違いするような発言しないでくださいって!)
「え〜?なにがおかしいの〜?本当のことなのに〜」
「ムートさん?ちょっと場所代えましょう!ね!?」
「え〜?お話するなら、喫茶店〜?でも、私、お金ないよ〜?あ、ミルキィ呼んd」
「俺が!奢りますから!オ、レ、がッ!!!」
「やった〜♪」
ベルンはムートを押しやるように図書館の喫茶店へ向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[図書館・喫茶店]
ベルンは思っていた。
否、感じていた。
自分はムートにハメられたのだと。
「ごちそうさま〜♪」
(ケーキ3つに紅茶3杯も奢っちまった・・・)
ベルンは自分が全く手を付けてない3枚の皿を見て、頭を抱えていた。
「ベルンくんは親切だね〜♪」
「は、ははは・・・」
半ばニヤニヤした笑いを浮かべるムートに、ベルンは乾いた笑いしか出なかった。
「ここまでちょろいとは思わなかったけどね〜♪」
「正直に言いやがったこの人!?」
「キミなら言っても怒らなそうだから〜♪」
その応えに、ベルンは頭を抱えて机に突っ伏していた。
「もうネタにはしないから、許してね〜♪」
「超ご機嫌な顔で言われても色んな感情しか湧いて来ないのですが?」
「てへぺろ〜♪ (・ω<)^☆」
「殴りますよ?」
「あ、私の自己紹介まだだね〜」
「無視かい」
ベルンが怒りでひくつく口元を必死に抑えてる内に、ムートがマイペースに話しはじめた。
「私ね〜、名前は『ムート・カシミア』〜。職業はね、レンジャーだよ〜」
「・・・レンジャー?」
ベルンは頭の中で銃器を抱えて眠るムートを想像していた。あんまり似合わない、というか、当てられるのかと疑問を抱きながら。
「これ、通信機の連絡先〜♪」
「え、あ、はぁ・・・」
「それじゃ、またね〜♪」
「終わり!?つか帰るの!?」
なんともマイペース、悪く言えば自分勝手なことだろうか。ムートはさっさと鞄を持って、ご機嫌な様子で帰ってしまった。ガチでである。
「・・・なんちゅう人だ・・・あれも、ミルキィさんと同学年なのか・・・?」
「お客様・・・あの、お会計は・・・」
ハッとしたベルンが振り向くと、従業員の人が『フられて可哀想な人を見るような目』をしており、ベルンは溜息を吐いた。
(・・・まためんどくさい知り合いができた気がする・・・)
『ムートの連絡先を手に入れた!』
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[ガーゴイル寮、312号室]
そして・・・
「おかえりなさいませ〜、ご主人様〜♥」
「なぜベットで横になってんだ」
帰ったらマミーがベルンのベットで寝ていた。
「それは〜・・・ポッ♥」
「いいよ、そこで寝てて。俺はロックのベットで寝るから」
「えぇ〜〜〜?」
「うるさい。今日はお預け。疲れた。寝る」
「うぅ〜〜〜・・・」
泣きそうな目をするマミーをよそに、ベルンは二段ベッドの上に登り、さっさと横になった。
「・・・放置プレイ♥はぁはぁ♥」
(・・・わずかでも悪いと思った俺がバカだった・・・)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[選択肢]
放課後、どこへ行こうかな?
1、寮へ
2、学校へ
3、図書館へ
4、学生購買園へ
5、食堂へ
6、街へ
7、ジパング喫茶店へ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
↑で、1番を選んだ方は下の選択肢を選んでください。
寮へ戻り、ケータイで・・・
A.ロックとだべる
B.ネフィアとだべる
C.クラリアを『呼びだす』
D.ラトラを『呼びだす』
E.ミルキィを『呼びだす』
F.成美を『呼びだす』
G.ムートを『呼びだす』
12/08/20 20:04更新 / ganota_Mk2
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