フォン一家の新しい一日、そして・・・?
フォンの目が見えるようになった次の日、フォンとエリィは街に出た。
街の人々は最初半信半疑であったが、みんなが祝福してくれた。
フォン当人はと言うと、みんなの祝福をありがたく思う中、久しぶりの街の光景と人々を見て嬉しさで半泣きになってしまったくらいだった。
もっと街の人々を驚かせたのはエリィだ。
アンデッド魔物を見たことない人々は、手術後やっと挨拶をしにきた彼女に度肝を抜かし、そのスケルトンがフォンの母、エリィだと知ったら余計に驚く。街の人々の十中八九がそんな感じだった。
変わってしまった街をフォンとエリィは練り歩き、見て、触って、人と話して一日を過ごした・・・
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街めぐりの数日後。
診療所休みのリディアが大量の本をフォンの前に置いた。
「はい、坊や。これで全部だよ」
「ありがとうございます。でも、言ってくれれば取りに行ったのに・・・」
「何言ってんだい。病み上がりの患者を医者が動かすわけにはいかんでしょうが」
「わざわざすいません、リディアさん」
笑うリディアにエリィが謝ったとき、キッチンから来たシェリーが顔を出した。
「あれ?ママ、来てたの?」
「・・・アンタ、実の母親が家に来てるの気づかないってなんだい?」
「あ、いや、フォンが出たし、洗い物してて気づかなかっいだいいだいいだい!!梅干しはやめてぇ!!」
「あらあら・・・」
リディアの梅干しがシェリーに決められ、エリィがクスクス笑う。
それを尻目に、フォンはリディアの持って来た本を開いていた。
「いててて・・・ん?フォン?なに見てるの?」
「ん〜?『シェリー』を見てる」
「・・・は?」
そして、シェリーがフォンの横から手元の本を見ると。
幼いシェリーが泣いてる横で、大きなシミを作ったシーツが干されていた。
「ぎゃーーーーーーーーーっ!?これ、私のアルバムじゃない!?」
「『シェリー5歳、おねしょのおしおき』って書いてある」
「ぎゃー!ぎゃー!ぎゃーっ!!!////」(顔真っ赤)
もはや女の子とは思えない叫び声をあげて、シェリーはフォンからアルバムをひったくった。
「あ、シェリー。見せてよぉ」
「ダメ!ダメ!ダメーッ!こんな恥ずかしいもの見せれないーっ!」
「むぅ・・・じゃ、こっち」
「ちょ!?ま!?ママ!?まさか家にあるアルバム、全部持って来たの!?」
「もちろんだよ。坊やが見たいって言うからねぇ・・・ま、小さい頃かいた恥なんて、今じゃ無効さ。諦めな。はっはっはっ!」
「あぅぅ・・・////」
「・・・『シェリー9歳、魔物小学校で、0点10回目によるおしおき』・・・」
「みぎゃーーーーーーーーーっ!?」
フォンが見て、シェリーが叫び声を上げる。それを見るリディアはけらけら笑うが、エリィはと言うと・・・
「・・・ん〜〜・・・」
ふと椅子から立ち上がり、カタカタと骨を鳴らしてどこかへ行った。
「・・・母さん?」
「へ、お義母さん?」
「あら?エリィさーん?」
(・・・あ、あったあったー♪)
遠くで声が聞こえた。またカタカタと音が聞こえ、少し身体や服にホコリを付けたエリィがニコニコして『数冊の本』を抱えて来た。
「母さん?どこ行ってたの?」
「うん、地下室♪」
「・・・え?」
すると、エリィはシェリーに本を差し出した。
「はい、シェリーちゃん。『フォンのアルバム』♪」
「・・・え!?」
「・・・えっ!?」
その瞬間、フォンの顔が引きつり、シェリーの顔が輝いた。
「フォンの!?アルバム!?」
「そ♪9歳くらいまでの♪見たいでしょ?」
「見たいですッ!」
シェリーが両手を出すと、エリィはアルバムを渡し、シェリーの横に立った。
シェリーがアルバムを開けた途端、いきなり黄色い歓声が上がった。
「きゃーーーっ♥フォン可愛いっ♥小さーーーいっ♥」
「これは・・・フォンが3歳のころね。いっつも私について回って、可愛かったわぁ♪」
「うぅ・・・結構見られるのって恥ずかしいなぁ////」
今度は逆にフォンが照れ始め、シェリーがウキウキする番だった。フォンもシェリーの小さい頃の写真を見てニコニコするが、時折挟まれるシェリーの声に赤面する。
「あれ?フォンが泣いてる・・・(泣き顔も可愛い♥)」
「あぁ、懐かしい!これはね、フォンがお祭りのお化け屋敷で泣いちゃってねぇ・・・」
「母さんそんな事細かな解説ずるくない!?」
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「・・・あ・・・」
シェリーがピタリと手を止めた。
最後に見ていたアルバムの最後のページ。そのページだけなんの写真も挟んでなかった。
「あぁ・・・このページねぇ・・・ちょうど11歳の誕生日の写真で、このアルバムを締めくくろうとしたのよねぇ・・・」
「・・・・・・」
エリィがため息をつくと、その場に重い空気が流れた。
「・・・あ、あら?ごめんなさいね?私の一言で、雰囲気台無しにして・・・」
「いや、いいんですよ!」
シェリーがフォローするが、どうも空気は重いままだ。
「・・・そうだ!フォン、次の誕生日、ここに写真を貼ってちょうだいな!」
「・・・へ!?」
エリィが笑って手を叩いて、フォンに言った。
「とても暗い理由でこのアルバムを閉じちゃったから、最後の1ページは、今の貴方の誕生日で締めくくれば、プラマイゼロよ!」
「・・・そう、そうだね。うん!その時、シェリーも一緒に撮ろうよ!」
「え!?わ、私っ!?」
フォンがシェリーの手を握った。
「二人で撮ったほうが、幸せが増すよ。僕は今、シェリーと一緒にいるのが一番幸せなんだから!」
「も、もぅ、フォンったら・・・////」
ふたりの若者がいちゃいちゃし始め、母親ふたりは少し距離を離した。
「・・・若いねぇ」(リディア)
「初孫の顔が早く見れそうね♪」(エリィ)
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『ピンポーン』
「あら?誰かしら?」
アルバムの見せ合いっこがまだ続いたころ、玄関でチャイムが鳴った。
「僕が出るよ」
「いいわよ。お母さんが出るわ」
そう言ってカタカタとエリィが玄関に向かった。
「はい、どちらさま?あら、貴方は・・・」
玄関でエリィがしゃべり始める。どうやら相手は男のようだ。
「・・・母さんに用事だったのかな?」
「・・・なんなんでしょうね?」
「アンタたち・・・ガキみたいに盗み見するんじゃないよ・・・」
フォンとシェリーは部屋からちょこっと顔を出して、中からエリィの様子を見ていた。リディアはその様子を見てため息を吐いていた。
「・・・あ、母さんが謝った?」
ふと、エリィが男にお辞儀をした。男は少しガッカリしたような様子だったが、手を振って『気にするな』という感じを見せていた。
「なんなんだろう?」
「さぁ?」
「だからアンタたち、やめなさいって・・・」
「・・・ごめんなさいね?それじゃ・・・」
どうやらエリィの話が終わったようで、男が帰って行った。フォンとシェリーが慌てて元いた席に座る。
「フォン、ただいま」
「おかえり、母さん。誰だったの?」
できる限り自然に、フォンが尋ねた。
「あら、見ていて分からなかったの?」
「え・・・分かってたの?」
「ぎくり」(シェリー)
「フォンとシェリーちゃんが見てたことくらいは分かったわ。残念、潜入任務には向いてないわね」
「あ、ははは・・・潜入任務って・・・」
フォンが笑うと、エリィが微笑んで話し始めた。
「・・・お茶にね、誘われたの。でも、断っちゃった」
エリィ以外の全員が一瞬驚きの表情をした。
「・・・え?母さんが誘われたの?」
「フォ〜ン〜?どういう意味かしら?」
「い、いや、その・・・ははは・・・」
優しい微笑みのなかにわずかな怒気を纏わせたエリィに詰め寄られたフォンが苦笑いをする。
「・・・エリィさん、もしかしなくても、デートに誘われたってこと、ですよね?」
シェリーが聞くと、エリィはため息を吐いた。
「そうなのよ。やぁねぇ、あんな若い子がこんなおばさん掴まえて・・・」
エリィが冗談混じりに言うと、フォンが言った。
「母さん、まさか、僕に気を使って、なんてことないよね?」
「・・・フォン?」
「僕、知ってるんだよ?ここ数日、母さんが結構な数の男の人に声をかけられてること・・・僕はもう大きいんだし、母さん、新しい人を見つけたっていいんだよ?」
その時、エリィは驚いたような顔をしていたが、ふっと表情を緩め、フォンの頭を撫でた。
「母さん・・・?」
「ありがとう、フォン・・・でもね、違うのよ。フォンのためじゃない。『あの人』のために断ってるの」
エリィの言う『あの人』の心当たりは、フォンにはひとりしかいなかった。
「・・・父さん?」
「そ。貴方のパパ、私の夫。あの人、男の人のくせにヤキモチ焼きでね?私が他の男の人とイチャイチャしてるといてもたっても居られない人なのよ。子供みたいでしょ?
・・・きっと、天国でも私を見ていると思うの。もしかしたら、早く来い、早く来〜いって言ってるかもしれないわね・・・でも、私はもうちょっとこの世に居たい。だから、せめてあの人に許してもらうために、私は男の方とは、遊びでも本気でも付き合わないことに決めてるの。それが、あの人に対する私の、妻としての姿勢だと信じてるから・・・」
エリィがにこりと笑う。
フォンは、その顔を見て一緒に微笑んだ。
「ぐずっ・・・いい話だねぇ、ずびーーーっ」(鼻をかんだ)
「母さん、泣きすぎ・・・泣けるけどさ・・・」
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「それじゃ、ママを送ってくるわ」
「いらないって言ってんのに・・・頑固な娘に育ったもんだ」
夕方。
帰るリディアを送ってくると言って、シェリーも出かけてしまい、フォン宅にはエリィとフォンしかいなかった。
「ふんふふーん♪」
久しぶりにキッチンに立ったエリィは、ご機嫌で夕飯を作っていた。いつもシェリーに炊事を奪われ、今日は久々に作れるとウキウキしていたのだ。
「なにもシェリーちゃんの味付けに文句があるわけじゃないけど、いつも作らせてたら悪いし、私も腕が鈍っちゃう。さぁて、何作ろうかしらぁ♪」
エプロンもつけて、しっかりガチモードで料理を作るエリィ。
その時、フォンがエリィの肩に手をおいた。
「あら?どうしたの?フォン」
「・・・母さん。話があるんだ。僕、ひとつ、『やりたいこと』があるんだ」
12/01/29 07:28更新 / ganota_Mk2
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