「こ、ここはどこだ」

夢の中で響く声に、黒羽は現へと押し戻された。しかし、自分がいるその場所は、現とはあまりにも信じがたい空間であった。
薄暗い石造りの神殿、桃色の燐光を発する柱、なぜかそれらの中央に鎮座しているベッド、よく見ると、いたるところにハート型の装飾が施されていた。
そして、何よりも驚いたのが、自分と同じように目覚めた魔物がすぐ側に二人もいたことである。

「私が聞きたいよ、ところで貴方は？」
「あ、ああ、黒羽という」
「黒羽ちゃんね？私はパルテだよ！」
「アタシはキャパシ･･･ってのんきに自己紹介してる場合か、全員わけわかんねえ場所に連れてこられたのに」

三人の魔物は立ち上がって辺りを見渡した。手分けして壁などをよく調べてみたが、出入り口らしきものは存在しなかった。

「おいおいふざけんなよ、でなきゃどうやってココに入ったんだ！？」
「恐らく転移系の魔法だろう。術者のみが移動可能なように扉は作ってないらしい」
「へー、黒羽ちゃん頭いいね」
「二人のうちどちらかそういった類を使えないか？」
「･･･魔法っぽいことは歌うことしかできないなー」
「悪いな、アタシも電気しか出せねえ」

仕組みが分かったところで解決策が見つかるわけでもなかった。黒羽以外の二人は転移術を使えない。その黒羽にしても、綿密な準備と大掛かりな道具を使用した上でのみ行えるだけで、緊急時にいきなりやろうと思って出来るわけではなかった。
万事休すか。黒羽がそう思ったときだった。どことも分からぬ場所から、何か自慢げな様子の声が聞こえてきた。

「ようこそ、君達にわざわざ集まってもらったのは他でもない。
とても大事な事を伝えねばならぬからだ。
話は一つだけ。君達は生涯の伴侶にめぐり合った、それは魔物にとって最大の幸せといえるだろう。
だが君達はそれ以上を知らない。真の幸福が、如何なるものであるかを」

「だからこんな所に拉致った訳か？アタシは今すぐにその伴侶のところに帰りたいんだがな」

キャパシが空を見上げ、正体の分からぬ声に向けて怒りをこめて言い放つ。彼女の意見に反対するものはいなかった。黒羽も、パルテも、一刻も早く我が家へ帰り、その夫に抱き締められたかった。顔も名前も明かさぬような輩と話を交わすなど耐え難い。
しかし、声はキャパシの怒りを無視し、さらに言葉を続ける。

「私は傲慢だった、鍛えた剣の腕で周りの者全てを黙らせていた。そうすれば、何も恐れずに済むだろうと。だが、それ行動の原因こそ恐れそのもの、当然私に安寧は訪れず、孤立した。ただ一人の友人を残して･･･。
その友人、後に私の妻となるスクリ。彼女は愛に満ち溢れていた。そして私を生まれ変わらせた。恐怖ゆえの虚勢から人道を踏み外しかけた私を、スクリは助け出してくれた。彼女は私に言った、"もう何も怖がらなくていい"と。
これほど、これほど慈しみに溢れる者が、他にいるだろうか！私の態度は、他者に対するそれと何も変わらなかったというのに、気にもしないどころか、過ちすら正してくれるなど！
今や私の一日は陽気なスクリの声に始まり、彼女の愛らしい寝顔に終わる。彼女の奏でる音楽は私の心と体を癒し、安息を与えてくれる。彼女の作る料理は一日を生きる活力をくれる。
私が見失っていたものを、スクリが取り戻してくれたのだ！」

声は次第に大きくなり神殿内に反響した。まるで聞く者の心に深く刻みつけようとするように。

知るがよい、アモルの意味を！
それは太古の昔より･･･はるかなる未来まで･･･
平和なる時も･･･混乱の世にも･･･
あらゆる場所、あらゆる時代に！
救いの手となるものッ！
それは人間と魔物が存在する限り、永遠に続く感情なのだ･･･
その感情の名を･･･愛、あるいは･･･アモルというッ！

三人の魔物はその迫力に若干気圧された。しかし、ここまで沈黙を保ってきた黒羽が口を開く。

「ああ、私の夫もそう言ってくれている。あれは嬉しいものだな」
「な、何･･･！？」
「あ、私も〜♪いいお嫁さん、大切にしてあげてね」
「･･･恥ずかしい奴だな、そんな大声で」

黒羽立ちが反論も驚愕もせずただ同意する。その反応はあまりに予想外のものだったらしい。

「俺は･･･愛を手に入れたのだ。俺の右に出る者のない果報者になったはずなのに。なぜだ、何故お前達はそんな風に笑っていられる！」
「何か、勘違いをしているな。愛など他人と比べようもない。まして人に誇るようなものでもない。自分を愛してくれる相手とただ語り合うだけでいい。貴方は自分は生まれ変わったと言っていた。しかし今の貴方も、傲慢そのものではないか」
「･･･！！！」

そのとき、三人の前に声の主が姿を現した。金色の髪に、気品を感じる洋服、それはスクリの夫マイアーその人であった。
マイアーはそのまま床に伏した。力なくただうなだれて。

「そうか･･･お、俺は･･･まだ怖がっていたのか」
「認められなくたっていいじゃん。自分が信じていれば本物だよ」
「ああそうだよ。幸せをかみ締めたいなら、そんなもん他人に頼んでやってもらうことじゃねえ。自分で感じられなきゃ、大嘘じゃねえか」

パルテとキャパシが伏したマイアーを見下ろしながらそう言った。マイアーは震えていた。俺はどうやって恐怖をぬぐえばいい、どうやれば自分の愛を信じられるのかと。
そのとき、神殿の中央にあるベッドから足音がした。その足音の主にあてはまる人物は他にいようもなかった。マイアーの最愛の妻、スクリである。

「スクリ･･･起きたのか」
「マイアー、何してるの？その人たち誰？」
「彼女達は―」

マイアーが答える前に、三人を見たスクリが飛び上がりマイアーを捕まえつつベッドに押し倒した。
マイアーは驚きつつスクリの顔を見る。その瞳には珍しく怒りが篭っていた。そして涙をためながら、スクリはマイアーを見つめ返す。

「う、浮気したな･･･」
「！？ち、違う―」
「マイアーのバカ、覚悟しなよ･･･。アタシの体が一番だってこと、思い知らせてやる。それまで寝かさないからね！」
「ス、スクリ･･･！」

マイアーの反論の一切をはねのけて、スクリはマイアーを丸裸にし、自分もその衣服を脱ぎ捨てる。そして浮気を疑われ慌てるマイアーを組み伏し、全身をマイアーの体に擦り付けた。マイアーの体をスクリの柔らかい羽毛が包み込み、豊満な乳房が押し付けられ、スクリの体温がマイアーにゆっくりと伝わっていく。
温かい。マイアーはスクリに抱き締められ、黒羽達の言葉の全てを理解した。他者など関係ない、愛は自分と相手だけのもの。

「マイアー、ほら、挿れちゃうからな。アタシの味、しっかり覚えてもらうからな！」

スクリはマイアーの肉棒に自分の肉壷を押し当て、そのまま飲み込んだ。締め付ける膣壁、蠕動しながら奥へと導く襞、幾度となく味わったはずなのに、その心地よさをマイアーは再び思い知り、そして心の中でスクリに謝り続けた。
すまないスクリ。俺はまだ立ち直り切れていなかったようだ。もう少しだけ、君に甘えなければならないらしい。

「ま、魔物達よ。我らが果てれば、君達は帰れるだろう。だが覚えておくといい。誰しもが―んむっ！？」
「は、果てれば？まさか終わりまで見せ付けるつもりか！？」
「こいつ･･･なんにも分かってねえ！」

無駄口を利くなとばかりにスクリがマイアーの唇を奪う。もはや黒羽の言葉などどちらも聞いてなどいない。そこから先は、二人の口から漏れる嬌声と淫猥な水音が木霊するばかり。
三人の魔物達は情事を見ながら自らの体を火照らせ、愛する夫の下へ帰るときをひたすらに待っていた。

■作者メッセージ
最近、押入れからLIVEALIVEを引っ張りだしました。それと邦子がくっつくとあら不思議
にしても、少しカオスになりすぎた感が

あと知るがよいのくだりをやりたかったのが3割ほどあります。
でも書きにくい。もうパロやらない。


ついでにデビルメイクライも引っ張り出しました。ネロ強すぎ