木隠にとって今日はひどく疲れた一日であった、なにしろ彼の同僚三人分の仕事を一手に引き受ける羽目になったのだ。いかな強靭な人間といえどこんな激務に疲れぬ者はいない。そしてその期限は今日、出来うる限りの効率化を図り、休みも殆ど取っていないにも関わらずギリギリまでかかってしまった。かといって、木隠は立場が弱いために仕事を押し付けられたのではない、まして自分から引き受けたのでもない。必然的にそうなってしまったのだ。
原因はこの近辺で起こっている連続失踪事件だった。原因は全く不明、分かっていることは、とにかく事故では有り得ない頻度で人がいなくなることだけ。被害者にも共通性がない、男も女も大人も子供もその日がくれば等しく消えてなくなるのだ。そのしわよせが木隠の職場を襲った。凄まじい頻度で一人また一人と同僚や上司達が消えていき、生存者達の仕事の密度が高まっていく。だから必死の仕事を片付けた木隠の表情が曇ったままであるのも当然といえた。今日の死線をくぐりぬけたとしても、すぐに次の地獄が訪れるのは分かりきっている。しかも、失踪者が戻ったきたなどと話は一切聞いていない。彼らの苦痛は増していくのみなのだ。
「ああ、ちくしょう、消えた連中め、どこでなにをしてやがるんだ。いくら被害者とはいえ、一発ぶんなぐってやりたい気分だ」
疲労と怒りに満ちた恨みごとは夜の闇の中に空しく吸い込まれていった。木隠はそこに向かってさらなる憎悪を吐き出そうとしたが、残り少ない体力を無駄に消耗するだけだという結論に達し、行うには至らなかった。しばらくして、木隠は電柱に背中をもたせつつ道端に座り込んだ。体が重い、もはや家に辿り着くことすら不可能なのでは、などと思い始めてしまった。頭を振ってその考えを振り払い、立ち上がろうとする。しかし叶わない、まるで切り離されたかのように足が動かない。
「立つことも出来ないとは。まさか俺はこのまま死ぬのか、過労死とは噂に聞いていたが･･･」
まさか自分がそうなるとは、とお決まりの思考が浮かぶのと同時に強い眠気が湧き上がってきた。そのまま身を任せようとする刹那、木隠れの目に奇妙な張り紙が映りこんだ。
"疲れ果てた方、歓迎します。男性の方は特別優待！？　不思議の国"
木隠が辺りを見渡すと、コンクリート塀のど真ん中に穴が開き、その向こうには都会に似つかわしくない鬱蒼とした林道が広がっていた。冥土の土産だ、行ってみるか。木隠がそう考えている間に、死にかけの両足に力が入り木隠を立ち上がらせ、そのまま林道の中に歩みを進めてしまった。
薄暗い林道はすぐにその終わりを迎えた。道を抜けた先で木隠は目にしたものは、およそこの世のものとは思えぬ光景だった。見渡す限りの草原、その草原に点在する奇妙な形の家屋、桃色の液体を満たす湖、はるか遠くにみえる極彩色の王城。木隠はすぐに理解した。失踪事件の真相こそこの場所にあり、彼らはここに迷い込み、そして遂に今自分がその被害者となったのだと。僅かな期待をこめて振り返る。しかし、大方の予想通りあの林道は消え失せ、木の一本たりと見つけることはできなかった。その事実を認識した途端、限界を超えた足が遂に折れる。木隠はその場に崩れ落ち、まもなく意識を睡魔に刈り取られた。うつぶせに眠るその傍らに何者かが近づきつつあることなど知る由もなく。

目を覚ました木隠は言いようも無い心地よさを感じた、体全体が何か柔らかいものに包まれている。そのうちの一つは信じがたいことに草原の草だった。まるで本物の布団のように木隠の身体を受け止めている。ただの草では有り得ないことだったが、木隠はそれ以上にもう一つの正体が気になった。親切な人が身体を冷やさぬよう掛けてくれた毛布だろうか。いや、草原で寝転がる人物にわざわざ毛布を掛けてくれる人物などいるはずがない。
「ではこの覆いかぶさっているものはなんだ」
肩越しに触れてみると、この今その柔らかさを確かめた草以上に上質な羽毛布団が身体を包み込んでいた。木隠れはたまらず手を埋めてそれを堪能する。
「ん、起きた？」
ふかふかとまさぐっていると、不意に声がした。しかしそれがあまりにも近い、側で見ているとかいう感じではなく本当に耳元で聞こえたのだ。
「ああ、おはよう」
本来なら飛び起きるところだが木隠はなぜかそうはせず、呆けた声で返事を返すのみだった。二種類の柔らかいものに包まれ、さらに声がのんきというか子守唄のような響きを持っていたからかもしれない。
「うふふ、じゃあ･･･」
覆いかぶさる柔らかいものが動き出し木隠の体勢を仰向けに変えたことで、ようやくその正体がつかめた。湖と同じ桃色の髪、蕩けた表情、そして豊満な二つの胸をもつ少女。更に目を引くのは木隠を包んでいたであろう両腕の羽と、彼の身体をしっかりと掴んで離さない両足の鉤爪だった。色が若干違いはするが、ハーピーの類だろう。少女は羽で木隠の顔を押さえ舌なめずりをするとその唇を奪う。間髪いれずに少女の舌が木隠の口に攻め込み蹂躙する。侵入を受けた木隠の舌が応戦し、両者は二人の口の間で小さな水音をたててからみあった。お互いに攻め手となり、受け手となり、二人はその感触を楽しむ。少女の顔は蕩けたままであったが、更に赤くなったように見えた。目には鋭い光を宿しているようだ。果たしてどれくらいそうしていたのだろうか、その動きに変化をもたらしたのは少女の方だった。もぞもぞと何かを確認するように身体を木隠に擦り付ける。そしてお目当てのモノを発見すると唇を離して木隠の顔を間近で見ながらニヤリと微笑んだ。目に宿る光がさらに強くなるのを木隠は感じた。
「えへへ、おっきくなったね」
そういわれて木隠は初めて自分のソレが大きく変貌を遂げているのが分かった。見ると、少女の足の間でズボンがはち切れんばかりに膨らんでいる。少女は興奮した様子で鉤爪で器用にズボンと下着を取り払った。無論、もう片方の足で木隠のからだをしっかりと掴みながらである。ズボンを押し上げていた肉の棒は勢いよく外へ飛び出した。こんな年端もいかない少女の前に自分の性器を晒すなどあってはならない、木隠も頭ではそう理解していた。しかし自分の意思ではない、彼女が勝手にやったことだ。そもそも晒したからといって何だというのだ。そんな考えが次第に思考の支配権を握り始めた。何もおかしくはない。そもそもこれが普通なのだ、少なくともこの場所では･･･。木隠が葛藤にすらならぬ議論を頭の中で展開させている間に、少女はすでに次の行動に出ていた。自分の秘所を熱く滾った肉の棒にこすりつけている。そこはすでに多量の愛液にまみており、先ほどの口付け以上に淫らな水音が否が応にも木隠の耳に入りこむ。それがきっかけとなり、彼が展開している取るに足らない議論は即座に終息した。ほら、この通り、これが当たり前。
「気持ちいい？私も気持ちいいよ･･･。でも、まだ足りないの。このまま入れていい？いいよね？そうすればもっと気持ちよくなれるんだから」
少女は返事を待たずに木隠の雄の象徴を自分の内に押し込んだ。
「は･･･ぁっ･･･！」
彼女の膣内を木隠が満たす。無数の襞を持つ膣壁が決して逃がすまいと木隠の男根を締め付けた。しかし、その反動に少女に走る強い快感。口付けとは攻守が一転、今度は木隠は責める番になった。精力が戻りつつある身体に力を込め、彼女の中を強く突き上げた。
「やっ、そんないきなり･･･！」
終始にやにやと笑うのみであった少女から笑顔が消える。これを好機と見た木隠は更に何回も突き上げる。その度に少女の口から愛らしく、それでいて妖艶な嬌声が漏れる。それがさらに木隠の興奮を煽った。必然的に突き上げの間隔が短くなっていった
「んぁ、は、早いよぅ･･･。で、でも、気持ち･･･いぃ」
少女の顔に笑顔が戻った。しかし今までの獲物を見る狩人のような笑顔ではなく、与えられる快楽に身を委ねるまぎれもない雌としての顔。顔は完全に紅潮し、だらしなく舌を出しながら涎まで垂らしている。それでも足は相変わらず木隠にしがみついているのはハーピー種ゆえだろうか。そして、木隠にも次第に余裕がなくなってくる。少女が快感を感じるたびに膣壁が締まり、同様に木隠を絶頂へと導こうとする。さらには彼女が自ら腰を動かし男根との擦れ合いを強めていた。少女を攻めるために木隠が使う唯一の武器は、同様に木隠にも快感を与える一本の諸刃の剣のみなのだ。
「だ、だめだ。もう出る･･･」
その言葉を聞いて少女が再び木隠の唇を奪う。こんどは舌を入れることなく、ただ食み合うだけのやさしめの口付け。もはや彼女に木隠の口内を蹂躙するだけの余裕は無いが、それでもお互いに決め手となるには十分だった。
「らひて！ほのままらひて！んっ･･･！わらひも･･･イク･･･から･･･――ッッ！！」
少女の締め付けが最高点に達し、少女が木隠に一際強くしがみつき大きく身体を震わせるのと同時に、木隠が白濁した液体を少女の胎内にぶちまけた。二人の身体は痙攣し、木隠が吐き出した精を少女が貪る。木隠が与える全てをその身体に染み付けるように、二人の絶頂は長く長く続いた。これでいいんだ。もう戻る必要などない。このまま永遠にここで暮らしていこう、彼女を幸せにするためにも。
高く輝いていた日は既に、二人が交わると同時に暮れてしまった。夜の静寂のみが、二人の愛を音楽のように、この不思議の国に響かせる。

町外れのとある邸宅、バスローブを纏い豪華なイスに座った男と、傍らに佇むキノコのような帽子をかぶった女が書類を見ながら話し合っていた。
「また一人行ったか」
「ええ、今回は木隠さんですね」
「こんな方法でいいのだろうか、どうも誘拐しているようで気が引ける」
「では正直に真相を話しますか？不思議の国に支店を開いたからそちらへ回って欲しいと。社長は気が振れたなんて噂を立てられるのがオチですよ。」
「しかしこちらに残っている社員にハードワークを強いているぞ、それはどうなのだ。集団で辞められでもしたらそれこそおしまいだ。」
「仕方ありません、疲れ果てでもしなければ不思議の国なんて胡散臭いにも程があるものなんて信じませんからね。大丈夫です、社員が辞めると言い出す前に私があちらへお送りいたします。それに疲れなんてすぐ吹き飛びますよ。あちらに行ったその日に妻を見つけ、イチャラブ性活が確約されるんですからね。そりゃあ能率も上がりますよ。ハードワークはそれに耐えられる体力をつけるための訓練にもなります、何しろ彼女達はいつだってお盛んですから」
女は書類をしまい、男に身を寄せた。
「私のように、ね」
「おい、昨夜だって散々･･･「だ・め」