時代錯誤な男
私ことランス＝ロットが住むこの国が中立国を名乗るようになって早五年、首都はおろか地方にまで魔物が自由に出入りし、人間と同様に外を歩いて魔物を見ぬ日は無いとまで言われるようになった。
かつて神を頂点とし、魔物を悪とするこの国がどうしてここまで変わり果てたのか。
理由は至極単純である。この国は勢力を拡大する魔物達と戦い、そして敗戦国となったのだ。人間と魔物の実力差は圧倒的、元々が勝ち目のない戦争だった。
だが王室や教会はそれだけでは終わらなかった。転んでもただでは起きない。敗戦による法改正の協議会に参加し、彼らは高らかとこう宣言した。
「我が国は今後一切魔物を敵と見なすことを止め、法からもその旨を全て削除致します」
協議はこの宣言と共に終了し、魔物達はほくほく顔で帰っていった。目的は殆どその一つだけだったのだから、当然ともいえる。
しかし、そもそもこの国の法において魔物に関することは、教典に従いそれを敵とする旨が記されているだけである。今まではそれで十分だったのだ。これを削除した今、法律に魔物の文字は一切存在しなくなった。これは何を意味するだろうか。
国が積極的に魔物を敵視することはないが、保護することも無い。つまり、目の敵にこそされないが、国民が勝手に彼女らに危害を加えてもそれは一切罰せられもしないということだ。上の奴ら、こういうときの言い逃れにはとんでもなく頭が回る。魔物を納得させたばかりか、自分は取り締まりも何にもせずに楽が出来るのだからな。
さて、いまやこの国では魔物に対してやりたい放題。煮ようが焼こうが好きにできるというわけだ。しかしその全ては自己責任の上に成り立っている。魔物に反撃されればそれまで、向こうだってこっちに何をしようが勝手なのだ。法律に魔物の文字は無い。ありもしないものに怪我や損害を受けたって、保障のしようがないではないか。
一部の熱心な狂信者達はこれ幸いと虐殺を繰り返しているらしいが、それでは縄張りを奪い取った獣とやってることが変わらない。面白半分で動物を殺す幼い子供とほぼ同レベル。全く嘆かわしく軽蔑すべき話だ。
私はそのような無益な行動は起こさない。奴らを殺してなんになるというのだ。それよりももっと良い方法を思いついたぞ。すぐに私は計画をもとに行動を起こした。善は急げ、もっとも道徳的に考えれば褒められたことではないだろうが、どうせ相手は魔物だ。そこは気にしないでも良いだろう。
私は街中を適当に歩き回る。いつにも増して人魔が入り乱れ、活気が満ちているようだった。これなら計画はすぐに果たせるだろう。私の狙いは、魔物を捕まえて奴隷にすることだ。古い教典に盲目的に従ってただ虐げるよりも、よほど有益ではないか。
ふと、私の目の前を白い羽毛のようなものが横切った。目で追ってその姿を確認すると頭から生えた赤い羽根と、トカゲのような尻尾が見える。あれは確か、コカトリスといったか。その姿を見ている内に、同時にふわりとある香りを感じた。それはあくまで優しく私の鼻にたどり着きはするが、それがもたらす刺激は非常に強いものであった。目の前の女を手に入れたい、犯したい、自分の物にしてしまいたいという感情が源泉の如く湧いて出た。よし、あいつにしよう。私は理性を半ば捨ててコカトリスに向かい走り出す。予想通り彼女は一目散に逃げ出した。しかし私は現役の戦士、戦争が終わったとはいえ、毎日厳しい訓練を行っているのだ。同じ兵ならともかく、ただの魔物に足で劣るなどあるはずがない。私は多少息が切れたものの、比較的素早くコカトリスを捕まえた。体を掴んで押し倒すと、彼女は嘘のようにおとなしくなった。それどころか目を潤ませ、顔も紅潮している。このまま犯しつくしたい衝動に駆られるが、周囲の視線で我に返った。コカトリスを立たせて、逃げられないようにしっかりと抱き寄せながら我が家に連れて帰る。しかしその心配はなさそうだった。なぜなら彼女は道中で私に擦り寄り、しかも私は隙を突かれて彼女に唇を奪われたのだから。
―目撃者の証言―
「あれはロットさんじゃないか、遂に嫁をとることにしたか。あーあ、あんなに熱々で」
「しかもコカトリスとは。あれを捕まえられる奴は兵士でもごく僅か。流石は王国一の兵士といわれるだけはある」
私はとりあえず寝室のベッドにコカトリスを寝かせた。もちろん咄嗟に逃げ出されないようドアに鍵は掛けてあるが、どうも杞憂らしい感じがした。私が一旦彼女から離れようとしても、彼女に抱き締められてそれは敵わなかったからだ。しかもまた唇を奪われた。二度目の不意打ちに私は少し腹が立ち、彼女の口元を割って舌を押し入れた。
「ん！･･･んむ♥」
静寂の中に唾液による水音と、彼女の喉から漏れる艶やかな声が寝室に響いた。それを聞いて私はとうとう堪えきれなくなった。そもそもここに連れてくる間にも、私は至近距離であの香りを浴び続けたのだ。彼女の身を覆う露出の多い服を乱暴に引き剥がす。小柄な身体に見合った小さな胸が露になり、彼女は顔をさらに赤らめる。私は少しの背徳感を味わった、だがそれがまた劣情を煽る。私が指先で片方の胸の突起を弄るとすぐに彼女は反応を返した。
「んっ･･･んぅ」
彼女は目を閉じて与えられる快感に耐えつつそれを楽しむ。やがて声が落ち着き、代わりに息が荒くなってきたのを見てもう片方への刺激を始めると、彼女は大きな嬌声を上げた。不意打ちのお返しだ、どうだ参ったか。そこで私はあることを思い出し、彼女に質問をぶつけた。
「そういえばまだ名前を聞いてないな、魔物にも名前ぐらいあるだろう」
「んん、ギネ･･･ビア―ああぅ･･！」
「そうか。ではギネビア、私は今からお前を犯すぞ。覚悟はいいな」
ギネビアに向かってそう宣言すると、彼女は笑顔になって鉤爪と羽毛のついた足を広げた。その間に彼女の女陰が見える。私は服を脱いで裸になり、そそり立った男根をギネビアに見せ付けた。散々焦らされたそれは血管が浮かび上がりはち切れんばかりに膨れ上がっている。
「は、早く。ご主人さまぁ･･･」
甘い声でギネビアが誘ってきた。最早我慢ならん、私は男根を押し付け、女陰を貫いて膣の奥まで割って入った。さらなる嬌声と共にびくんとギネビアの身体が震え、膣の肉が男根に吸い付く。うむ、比較の対象が無いのでなんとも言えぬが、これが名器というものなのだろう。柔らかい肉の壁は強く私の男根を締め付けているのにも関わらず、苦痛は一切感じることはなく快感だけが私の身体を駆ける。しかも小刻みに膣内が震えるたびに内側の細かい襞がこすり挙げてきて、私はその一つ一つを感じとってしまう。ただ突き入れているなどとても耐えられない。私は溢れる劣情のままにピストン運動を始めた。動けば襞の刺激は更に強くなり、それが更に私の動きを激しくする。その繰り返し。
「あ･･･あ･･･あ･･･！」
ギネビアは舌を出したまま半開きになった口から涎を垂らし、うつろな目で私を見つめてくる。開いていたはずの足はいつの間にか私の腰を動きの邪魔にならない程度に、しかし決して抜けないように固定し、翼腕は私の上半身を抱き締めていた。突き出された舌を見て私は無意識にそれを食み、それから先ほどと同じように彼女の口内を蹂躙する。すると膣内の締め付けがいささか強くなった気がした。情けない話だがそれでもう限界ギリギリまで押し上げられてしまった。私は一度男根を大きく引き抜き、それから一気にギネビアの奥まで入り込む。その動きがお互いへのトドメとなった。
「ぐっ･･･！」
「んっ、んん――･･･ッ！！」
ギネビアが声にならない叫びをあげると、今度は全身をつかってほとんど動けないほど私を抱き締めてくる。私は彼女の一番奥に滾るような白濁液をぶちまけた。それとほぼ同時に、膣内が今までよりずっと強く締め付けてきた。私達は絶頂を共に味わい、それが共鳴して未知の快楽に身を任せ続ける。どれだけの間抱き合っていたのか定かではないが、やがてそれも終わり、余韻と疲れがどっと体に押し寄せてくきた。窓の外を見ればもう日はない、ギネビアに翼腕で包み込まれると、私の意識は睡魔に刈り取られた。
―隣家の証言―
「やっと嫁が出来たからってここまで聞こえるほど愛し合わなくてもいいじゃないか。それになんだ、あの嫁さんの幸せそうな鳴き声。俺にはそんな話なんか全く無縁だってのに。くそったれめ」
寝室は東に向いており、毎朝の朝日を直接浴びて私は目覚める。しかし今日は今までに無いほど清々しい目覚めだった。横を見ると、ギネビアはまだ気持ち良さそうに夢の中にいる、時々寝言で「ご主人様ぁ♥」などと呟きながら。さて、これからこいつと一つ屋根の下で暮らすわけだが、その準備をしなくてはならない。まずは寝床をどこにするか、だ。奴隷なんだから地下の物置にでも放り込んでおけばいいとも考えたが、体を交えるのだからそうもいかない。汚れて妙な病気にかかられても困るし、地下からいちいち寝室まで連れて行くのも面倒だ。かといって他に空き部屋があるわけでもない。仕方が無い、寝室は一緒にすることにするか。さて、考えがまとまったところでねぼすけを叩き起こすとしよう
「おい、起きろ。腹が減ったぞ」
「んん･･･？はーい、ご主人様。すぐ作るねぇ♪」
ギネビアは急いだ様子でキッチンに立ち調理を始めた。私は食卓について出来上がるのを待つ。まもなく料理の匂いがキッチンから漂ってきた、空腹をほどよく刺激する良い匂いだ。一通り作り終えたと見えて、ギネビアが朝食を翼腕で器用に運んでくる。そういえばあんな腕で料理などできるのだろうか。そんな懸念が起こったが、それはすぐに消えた。彼女の腕は十分賞賛に値するものだった。しつこくなく、かといって物足りないわけでもない、朝食には最適の味である。私も料理は出来なくもないが、こんな味を出すことは一生かかっても不可能だろう。私はギネビアの料理を堪能し、瞬く間に平らげてしまった。ふと彼女の方を見ると、その様子を何故か嬉しそうに眺めていた。食事が終わり、私はいつもの癖で食器の片付けに取り掛かろうとした。ところがギネビアが慌てて制された。
「そんなこと私がやるよ」
それを聞いて私は苦笑いする。どうも一人暮らしというのが心に染み付いているようだ。私が少しぎこちなく持ち上げた食器を差し出すと、ギネビアはそれを受け取り、残りの食器もまとめて運び洗い物を始めた。一段落したのを見て、私は彼女を呼びつけてこう言った。
「私はこれから訓練所に向かう、その間家のことを任せたぞ。まあ掃除に洗濯ぐらいしかないだろうが、しっかりやっておきなさい」
ギネビアは笑いながら答えた。
「何よ、わざわざ言いつけなくたって、それくらい当然じゃない」
私はやや当惑した。奴隷が希望を失くした目で弱々しくはいと答える、もしくは隙を見て反撃に出るならまだ分かる。しかし命令をさも当然のように受け入れるとはどういうことなのだ。まさか妙な性癖でも持っているのではあるまいな。だが考えても無駄だ。承諾したのだからそれ以上言う言葉がない。もし留守の間に怠けきっていたのならしかるべき対処をすればいい。私は「よし」とだけ返して玄関を出た。
「いってらっしゃい、ご主人様！」
振り向くとギネビアが手を振りながら私を送り出している。ますます混乱する、ああいうのが昨今の流行だとでもいうのか。
―隣家の証言―
「いってらっしゃい、ご主人様！だとよ。なんだありゃ、メイドをそのまま娶ったとでもいうのか。あれでしかも料理上手とかいったら、俺は立ち直れなくなっちまうよ」
訓練所に向かう途中、私は男と、ギネビアと同じコカトリスに呼び止められた。
「はて、どなたでしょう」
「私達はギネビアの両親です。ロットさんとはあなたでしょうか」
まずい。一晩帰らぬ娘を心配して親が捜しに出たらしい。捕まえて奴隷にしたなんて知れたら、どんな目に合わされるかわからない。
「まぁ、そうですが」
「今回ギネビアをもらっていただいたそうで。挨拶に行こうとしたら、お留守のようでしたので娘に聞いてここまで追ってきたんですよ」
私は三度当惑した。烈火のごとく怒り狂い娘を返せと私を怒鳴りつけるならともかく、こともあろうにもらってくれた挨拶をしたいだと？自分の娘を進んで奴隷にしたい親など、聞いたことが無い。もしかしたらギネビアは、実の親でさえ内心ではそんなことを考えるほど酷い女なのだろうか。いや、あの様子から見てとてもそうは思えない。だとしたらなんて酷い親だろう。私に将来子供ができたとしても、こいつらのようには決してならんぞ。だが相手の機嫌がいいのは確かだ。妙なことを口走って騒ぎを起こしたくは無い。適当に話を合わせておこう。
「それはそれは、大変失礼いたしました」
「あの子、とにかく足ばかり速くて。健康なのは嬉しいですが、ひょっとしたら誰にも捕まらないんじゃないかと心配していたのです。だがあなたは見事あの子に追いついて契りを交わした。これからも末永くお願いします。では」
そう言って二人は去っていった。まあ末永くという点には同意しよう。料理上手で、従順で、なおかつ床上手。あれほど素晴らしい女はそうそういるまい。絶対に手放すものか。
そんなことを考えるうちに訓練所に着く。上官が張り上げる大声を聞きながら、用意された訓練を順番にこなす。戦争も無いのに無駄だと喚く人間もいるが、いざ戦いが始まればそいつらは真っ先に我々に頼ることを私は知っている。
日が暮れ始めたころに訓練は終わる。上官に敬礼をし、私は帰途についた。へとへとになりながら玄関のドアを開けると、すぐにギネビアが飛びついてきた。
「お帰りなさい、ご主人様！疲れてるでしょ？お風呂沸かしといたからごゆっくりね！」
私はハッとした。そうだ、これを命令するのを忘れていた。家に帰ると既に風呂の用意が出来ていて、疲れ果てた体をすぐさま癒すことができる。これは私の長い間の夢であった。だのに今朝はそのことを言い忘れていた。それでもギネビアは私が疲れることを予想して風呂を沸かしていたのだ。
「あ、ああ、ありがとう」
思わず礼を言ってしまった。奴隷にありがとうなどという者など古今東西をみても私一人だろうが、そんなことは考えられないほどに疲れていたのだ。私は風呂に入り一息つく。まさに至福の時間だった。その後ギネビアが夕食を作ったが、その味が絶品であることは言うまでもあるまい。ここでも私は素直に彼女を褒め称えてしまった。食事を終えて、ギネビアに風呂に入るように言う。早く彼女の美しい身体に触れたい。私は風呂から上がったギネビアを引っ張るように寝室に駆け込む。お互いの服を取り払い、ベッドに彼女を横たわらせると、やはりまた抱きついてきた。背中に触れる彼女の翼腕がもふもふとして心地よく、直接振れる肌は扇情的であった。私はまた理性を奪われ、彼女の中に入り込んだ。
それから数日。ギネビアには、私が以前一人で行っていた家事の一切を任せている。私がうんざりするような仕事なのに、彼女はいつも笑顔でこなしていた。一度だけその疑問を押さえ切れず、苦にならないのかと聞いてみたが、ギネビアは一瞬きょとんとした表情を見せたあと、私を見てより一層ご機嫌になりながら「ご主人様のためだもん！」と言ってのけた。私はそれ以上の追求をやめた。続けたところで無駄だろうし、また何故かひどく無粋な気がしたからだ。
いつか、ギネビアが買い物に行きたいと言った事がある。料理の材料を買い揃えたいのだそうだ。逃げ出す可能性もあるので奴隷を一人で外に出すなど言語道断、キッパリ駄目だと言おうしたが、彼女の作る料理の味が忘れられない私はそれが言えなかった。もしかしたら、もっと素晴らしいものを作るかもしれない。その食欲に抗いきれず、私はギネビアの買い物に同行することにした。無論、脱走を防ぐために彼女の翼腕をしっかりと握り、その身を抱き寄せながら。
―通行人の証言―
「おい、昨日のあれ聞いたか？お帰りなさい、ご主人様！だとよ。なんだありゃ、メイドをそのまま（以下同文）」
「しかも今度はご両人でお買い物ときた。あんなにくっついているところを見ると、随分上手く行っているようだな。やれやれうらやまけしからん」
ギネビアが来てから私の不自由は一切消えたと言っていい。煩わしい仕事は全て彼女がやってくれる。今までの面倒くささが嘘のよう。こんなことなら、もっと早く彼女と出会いたかった。
しかし一つだけ不満がある。いや、新しく出来たというべきか。同僚や知り合いの女性を家に招こうとするたびに、彼女達は「あんなに佳い人がいるじゃない、私じゃとても敵わないわ」などとわけの分からないことを言いながら去っていくのだ。私にいい人などどこにいるというのか。それを見つけるたびに君達に声を掛けているのだぞ。だんだんと私には女性が寄り付かなくなっていった。原因はわからないが、その時期はギネビアが来てからと一致している。まさか、彼女が報復に何か妙な仕掛けでも施したのだろうか。だとしたらすぐにでも追い出さなければ。このまま独り身などごめんだ。しかし、どうにもそれに踏み切ることが出来ない。ギネビアは最早私の生活の一部と化している、手放すなど考えられない。或いは、私の人生において唯一無二のかけがえの無い存在になっているかもしれないのだ。
ある日、私は町で行われるパーティに出席した。私が会場に入ると、同僚や近所の住民から、またも意味不明な言葉や質問を投げかけられた。嫁さんとは上手く行っているか。ついにやりやがったなこの裏切り者め、爆発しろ！などなど。流石に耐えられなくなって、私は大声でこう言い放った。
「おい、みんな何いってるんだ。私はまだ独身だ。魔物の奴隷なら一人捕まえたが、それと勘違いしてるんじゃないのか」
一瞬の静寂のあと、パーティ会場は爆笑の渦に包まれた。
かつて神を頂点とし、魔物を悪とするこの国がどうしてここまで変わり果てたのか。
理由は至極単純である。この国は勢力を拡大する魔物達と戦い、そして敗戦国となったのだ。人間と魔物の実力差は圧倒的、元々が勝ち目のない戦争だった。
だが王室や教会はそれだけでは終わらなかった。転んでもただでは起きない。敗戦による法改正の協議会に参加し、彼らは高らかとこう宣言した。
「我が国は今後一切魔物を敵と見なすことを止め、法からもその旨を全て削除致します」
協議はこの宣言と共に終了し、魔物達はほくほく顔で帰っていった。目的は殆どその一つだけだったのだから、当然ともいえる。
しかし、そもそもこの国の法において魔物に関することは、教典に従いそれを敵とする旨が記されているだけである。今まではそれで十分だったのだ。これを削除した今、法律に魔物の文字は一切存在しなくなった。これは何を意味するだろうか。
国が積極的に魔物を敵視することはないが、保護することも無い。つまり、目の敵にこそされないが、国民が勝手に彼女らに危害を加えてもそれは一切罰せられもしないということだ。上の奴ら、こういうときの言い逃れにはとんでもなく頭が回る。魔物を納得させたばかりか、自分は取り締まりも何にもせずに楽が出来るのだからな。
さて、いまやこの国では魔物に対してやりたい放題。煮ようが焼こうが好きにできるというわけだ。しかしその全ては自己責任の上に成り立っている。魔物に反撃されればそれまで、向こうだってこっちに何をしようが勝手なのだ。法律に魔物の文字は無い。ありもしないものに怪我や損害を受けたって、保障のしようがないではないか。
一部の熱心な狂信者達はこれ幸いと虐殺を繰り返しているらしいが、それでは縄張りを奪い取った獣とやってることが変わらない。面白半分で動物を殺す幼い子供とほぼ同レベル。全く嘆かわしく軽蔑すべき話だ。
私はそのような無益な行動は起こさない。奴らを殺してなんになるというのだ。それよりももっと良い方法を思いついたぞ。すぐに私は計画をもとに行動を起こした。善は急げ、もっとも道徳的に考えれば褒められたことではないだろうが、どうせ相手は魔物だ。そこは気にしないでも良いだろう。
私は街中を適当に歩き回る。いつにも増して人魔が入り乱れ、活気が満ちているようだった。これなら計画はすぐに果たせるだろう。私の狙いは、魔物を捕まえて奴隷にすることだ。古い教典に盲目的に従ってただ虐げるよりも、よほど有益ではないか。
ふと、私の目の前を白い羽毛のようなものが横切った。目で追ってその姿を確認すると頭から生えた赤い羽根と、トカゲのような尻尾が見える。あれは確か、コカトリスといったか。その姿を見ている内に、同時にふわりとある香りを感じた。それはあくまで優しく私の鼻にたどり着きはするが、それがもたらす刺激は非常に強いものであった。目の前の女を手に入れたい、犯したい、自分の物にしてしまいたいという感情が源泉の如く湧いて出た。よし、あいつにしよう。私は理性を半ば捨ててコカトリスに向かい走り出す。予想通り彼女は一目散に逃げ出した。しかし私は現役の戦士、戦争が終わったとはいえ、毎日厳しい訓練を行っているのだ。同じ兵ならともかく、ただの魔物に足で劣るなどあるはずがない。私は多少息が切れたものの、比較的素早くコカトリスを捕まえた。体を掴んで押し倒すと、彼女は嘘のようにおとなしくなった。それどころか目を潤ませ、顔も紅潮している。このまま犯しつくしたい衝動に駆られるが、周囲の視線で我に返った。コカトリスを立たせて、逃げられないようにしっかりと抱き寄せながら我が家に連れて帰る。しかしその心配はなさそうだった。なぜなら彼女は道中で私に擦り寄り、しかも私は隙を突かれて彼女に唇を奪われたのだから。
―目撃者の証言―
「あれはロットさんじゃないか、遂に嫁をとることにしたか。あーあ、あんなに熱々で」
「しかもコカトリスとは。あれを捕まえられる奴は兵士でもごく僅か。流石は王国一の兵士といわれるだけはある」
私はとりあえず寝室のベッドにコカトリスを寝かせた。もちろん咄嗟に逃げ出されないようドアに鍵は掛けてあるが、どうも杞憂らしい感じがした。私が一旦彼女から離れようとしても、彼女に抱き締められてそれは敵わなかったからだ。しかもまた唇を奪われた。二度目の不意打ちに私は少し腹が立ち、彼女の口元を割って舌を押し入れた。
「ん！･･･んむ♥」
静寂の中に唾液による水音と、彼女の喉から漏れる艶やかな声が寝室に響いた。それを聞いて私はとうとう堪えきれなくなった。そもそもここに連れてくる間にも、私は至近距離であの香りを浴び続けたのだ。彼女の身を覆う露出の多い服を乱暴に引き剥がす。小柄な身体に見合った小さな胸が露になり、彼女は顔をさらに赤らめる。私は少しの背徳感を味わった、だがそれがまた劣情を煽る。私が指先で片方の胸の突起を弄るとすぐに彼女は反応を返した。
「んっ･･･んぅ」
彼女は目を閉じて与えられる快感に耐えつつそれを楽しむ。やがて声が落ち着き、代わりに息が荒くなってきたのを見てもう片方への刺激を始めると、彼女は大きな嬌声を上げた。不意打ちのお返しだ、どうだ参ったか。そこで私はあることを思い出し、彼女に質問をぶつけた。
「そういえばまだ名前を聞いてないな、魔物にも名前ぐらいあるだろう」
「んん、ギネ･･･ビア―ああぅ･･！」
「そうか。ではギネビア、私は今からお前を犯すぞ。覚悟はいいな」
ギネビアに向かってそう宣言すると、彼女は笑顔になって鉤爪と羽毛のついた足を広げた。その間に彼女の女陰が見える。私は服を脱いで裸になり、そそり立った男根をギネビアに見せ付けた。散々焦らされたそれは血管が浮かび上がりはち切れんばかりに膨れ上がっている。
「は、早く。ご主人さまぁ･･･」
甘い声でギネビアが誘ってきた。最早我慢ならん、私は男根を押し付け、女陰を貫いて膣の奥まで割って入った。さらなる嬌声と共にびくんとギネビアの身体が震え、膣の肉が男根に吸い付く。うむ、比較の対象が無いのでなんとも言えぬが、これが名器というものなのだろう。柔らかい肉の壁は強く私の男根を締め付けているのにも関わらず、苦痛は一切感じることはなく快感だけが私の身体を駆ける。しかも小刻みに膣内が震えるたびに内側の細かい襞がこすり挙げてきて、私はその一つ一つを感じとってしまう。ただ突き入れているなどとても耐えられない。私は溢れる劣情のままにピストン運動を始めた。動けば襞の刺激は更に強くなり、それが更に私の動きを激しくする。その繰り返し。
「あ･･･あ･･･あ･･･！」
ギネビアは舌を出したまま半開きになった口から涎を垂らし、うつろな目で私を見つめてくる。開いていたはずの足はいつの間にか私の腰を動きの邪魔にならない程度に、しかし決して抜けないように固定し、翼腕は私の上半身を抱き締めていた。突き出された舌を見て私は無意識にそれを食み、それから先ほどと同じように彼女の口内を蹂躙する。すると膣内の締め付けがいささか強くなった気がした。情けない話だがそれでもう限界ギリギリまで押し上げられてしまった。私は一度男根を大きく引き抜き、それから一気にギネビアの奥まで入り込む。その動きがお互いへのトドメとなった。
「ぐっ･･･！」
「んっ、んん――･･･ッ！！」
ギネビアが声にならない叫びをあげると、今度は全身をつかってほとんど動けないほど私を抱き締めてくる。私は彼女の一番奥に滾るような白濁液をぶちまけた。それとほぼ同時に、膣内が今までよりずっと強く締め付けてきた。私達は絶頂を共に味わい、それが共鳴して未知の快楽に身を任せ続ける。どれだけの間抱き合っていたのか定かではないが、やがてそれも終わり、余韻と疲れがどっと体に押し寄せてくきた。窓の外を見ればもう日はない、ギネビアに翼腕で包み込まれると、私の意識は睡魔に刈り取られた。
―隣家の証言―
「やっと嫁が出来たからってここまで聞こえるほど愛し合わなくてもいいじゃないか。それになんだ、あの嫁さんの幸せそうな鳴き声。俺にはそんな話なんか全く無縁だってのに。くそったれめ」
寝室は東に向いており、毎朝の朝日を直接浴びて私は目覚める。しかし今日は今までに無いほど清々しい目覚めだった。横を見ると、ギネビアはまだ気持ち良さそうに夢の中にいる、時々寝言で「ご主人様ぁ♥」などと呟きながら。さて、これからこいつと一つ屋根の下で暮らすわけだが、その準備をしなくてはならない。まずは寝床をどこにするか、だ。奴隷なんだから地下の物置にでも放り込んでおけばいいとも考えたが、体を交えるのだからそうもいかない。汚れて妙な病気にかかられても困るし、地下からいちいち寝室まで連れて行くのも面倒だ。かといって他に空き部屋があるわけでもない。仕方が無い、寝室は一緒にすることにするか。さて、考えがまとまったところでねぼすけを叩き起こすとしよう
「おい、起きろ。腹が減ったぞ」
「んん･･･？はーい、ご主人様。すぐ作るねぇ♪」
ギネビアは急いだ様子でキッチンに立ち調理を始めた。私は食卓について出来上がるのを待つ。まもなく料理の匂いがキッチンから漂ってきた、空腹をほどよく刺激する良い匂いだ。一通り作り終えたと見えて、ギネビアが朝食を翼腕で器用に運んでくる。そういえばあんな腕で料理などできるのだろうか。そんな懸念が起こったが、それはすぐに消えた。彼女の腕は十分賞賛に値するものだった。しつこくなく、かといって物足りないわけでもない、朝食には最適の味である。私も料理は出来なくもないが、こんな味を出すことは一生かかっても不可能だろう。私はギネビアの料理を堪能し、瞬く間に平らげてしまった。ふと彼女の方を見ると、その様子を何故か嬉しそうに眺めていた。食事が終わり、私はいつもの癖で食器の片付けに取り掛かろうとした。ところがギネビアが慌てて制された。
「そんなこと私がやるよ」
それを聞いて私は苦笑いする。どうも一人暮らしというのが心に染み付いているようだ。私が少しぎこちなく持ち上げた食器を差し出すと、ギネビアはそれを受け取り、残りの食器もまとめて運び洗い物を始めた。一段落したのを見て、私は彼女を呼びつけてこう言った。
「私はこれから訓練所に向かう、その間家のことを任せたぞ。まあ掃除に洗濯ぐらいしかないだろうが、しっかりやっておきなさい」
ギネビアは笑いながら答えた。
「何よ、わざわざ言いつけなくたって、それくらい当然じゃない」
私はやや当惑した。奴隷が希望を失くした目で弱々しくはいと答える、もしくは隙を見て反撃に出るならまだ分かる。しかし命令をさも当然のように受け入れるとはどういうことなのだ。まさか妙な性癖でも持っているのではあるまいな。だが考えても無駄だ。承諾したのだからそれ以上言う言葉がない。もし留守の間に怠けきっていたのならしかるべき対処をすればいい。私は「よし」とだけ返して玄関を出た。
「いってらっしゃい、ご主人様！」
振り向くとギネビアが手を振りながら私を送り出している。ますます混乱する、ああいうのが昨今の流行だとでもいうのか。
―隣家の証言―
「いってらっしゃい、ご主人様！だとよ。なんだありゃ、メイドをそのまま娶ったとでもいうのか。あれでしかも料理上手とかいったら、俺は立ち直れなくなっちまうよ」
訓練所に向かう途中、私は男と、ギネビアと同じコカトリスに呼び止められた。
「はて、どなたでしょう」
「私達はギネビアの両親です。ロットさんとはあなたでしょうか」
まずい。一晩帰らぬ娘を心配して親が捜しに出たらしい。捕まえて奴隷にしたなんて知れたら、どんな目に合わされるかわからない。
「まぁ、そうですが」
「今回ギネビアをもらっていただいたそうで。挨拶に行こうとしたら、お留守のようでしたので娘に聞いてここまで追ってきたんですよ」
私は三度当惑した。烈火のごとく怒り狂い娘を返せと私を怒鳴りつけるならともかく、こともあろうにもらってくれた挨拶をしたいだと？自分の娘を進んで奴隷にしたい親など、聞いたことが無い。もしかしたらギネビアは、実の親でさえ内心ではそんなことを考えるほど酷い女なのだろうか。いや、あの様子から見てとてもそうは思えない。だとしたらなんて酷い親だろう。私に将来子供ができたとしても、こいつらのようには決してならんぞ。だが相手の機嫌がいいのは確かだ。妙なことを口走って騒ぎを起こしたくは無い。適当に話を合わせておこう。
「それはそれは、大変失礼いたしました」
「あの子、とにかく足ばかり速くて。健康なのは嬉しいですが、ひょっとしたら誰にも捕まらないんじゃないかと心配していたのです。だがあなたは見事あの子に追いついて契りを交わした。これからも末永くお願いします。では」
そう言って二人は去っていった。まあ末永くという点には同意しよう。料理上手で、従順で、なおかつ床上手。あれほど素晴らしい女はそうそういるまい。絶対に手放すものか。
そんなことを考えるうちに訓練所に着く。上官が張り上げる大声を聞きながら、用意された訓練を順番にこなす。戦争も無いのに無駄だと喚く人間もいるが、いざ戦いが始まればそいつらは真っ先に我々に頼ることを私は知っている。
日が暮れ始めたころに訓練は終わる。上官に敬礼をし、私は帰途についた。へとへとになりながら玄関のドアを開けると、すぐにギネビアが飛びついてきた。
「お帰りなさい、ご主人様！疲れてるでしょ？お風呂沸かしといたからごゆっくりね！」
私はハッとした。そうだ、これを命令するのを忘れていた。家に帰ると既に風呂の用意が出来ていて、疲れ果てた体をすぐさま癒すことができる。これは私の長い間の夢であった。だのに今朝はそのことを言い忘れていた。それでもギネビアは私が疲れることを予想して風呂を沸かしていたのだ。
「あ、ああ、ありがとう」
思わず礼を言ってしまった。奴隷にありがとうなどという者など古今東西をみても私一人だろうが、そんなことは考えられないほどに疲れていたのだ。私は風呂に入り一息つく。まさに至福の時間だった。その後ギネビアが夕食を作ったが、その味が絶品であることは言うまでもあるまい。ここでも私は素直に彼女を褒め称えてしまった。食事を終えて、ギネビアに風呂に入るように言う。早く彼女の美しい身体に触れたい。私は風呂から上がったギネビアを引っ張るように寝室に駆け込む。お互いの服を取り払い、ベッドに彼女を横たわらせると、やはりまた抱きついてきた。背中に触れる彼女の翼腕がもふもふとして心地よく、直接振れる肌は扇情的であった。私はまた理性を奪われ、彼女の中に入り込んだ。
それから数日。ギネビアには、私が以前一人で行っていた家事の一切を任せている。私がうんざりするような仕事なのに、彼女はいつも笑顔でこなしていた。一度だけその疑問を押さえ切れず、苦にならないのかと聞いてみたが、ギネビアは一瞬きょとんとした表情を見せたあと、私を見てより一層ご機嫌になりながら「ご主人様のためだもん！」と言ってのけた。私はそれ以上の追求をやめた。続けたところで無駄だろうし、また何故かひどく無粋な気がしたからだ。
いつか、ギネビアが買い物に行きたいと言った事がある。料理の材料を買い揃えたいのだそうだ。逃げ出す可能性もあるので奴隷を一人で外に出すなど言語道断、キッパリ駄目だと言おうしたが、彼女の作る料理の味が忘れられない私はそれが言えなかった。もしかしたら、もっと素晴らしいものを作るかもしれない。その食欲に抗いきれず、私はギネビアの買い物に同行することにした。無論、脱走を防ぐために彼女の翼腕をしっかりと握り、その身を抱き寄せながら。
―通行人の証言―
「おい、昨日のあれ聞いたか？お帰りなさい、ご主人様！だとよ。なんだありゃ、メイドをそのまま（以下同文）」
「しかも今度はご両人でお買い物ときた。あんなにくっついているところを見ると、随分上手く行っているようだな。やれやれうらやまけしからん」
ギネビアが来てから私の不自由は一切消えたと言っていい。煩わしい仕事は全て彼女がやってくれる。今までの面倒くささが嘘のよう。こんなことなら、もっと早く彼女と出会いたかった。
しかし一つだけ不満がある。いや、新しく出来たというべきか。同僚や知り合いの女性を家に招こうとするたびに、彼女達は「あんなに佳い人がいるじゃない、私じゃとても敵わないわ」などとわけの分からないことを言いながら去っていくのだ。私にいい人などどこにいるというのか。それを見つけるたびに君達に声を掛けているのだぞ。だんだんと私には女性が寄り付かなくなっていった。原因はわからないが、その時期はギネビアが来てからと一致している。まさか、彼女が報復に何か妙な仕掛けでも施したのだろうか。だとしたらすぐにでも追い出さなければ。このまま独り身などごめんだ。しかし、どうにもそれに踏み切ることが出来ない。ギネビアは最早私の生活の一部と化している、手放すなど考えられない。或いは、私の人生において唯一無二のかけがえの無い存在になっているかもしれないのだ。
ある日、私は町で行われるパーティに出席した。私が会場に入ると、同僚や近所の住民から、またも意味不明な言葉や質問を投げかけられた。嫁さんとは上手く行っているか。ついにやりやがったなこの裏切り者め、爆発しろ！などなど。流石に耐えられなくなって、私は大声でこう言い放った。
「おい、みんな何いってるんだ。私はまだ独身だ。魔物の奴隷なら一人捕まえたが、それと勘違いしてるんじゃないのか」
一瞬の静寂のあと、パーティ会場は爆笑の渦に包まれた。
15/05/12 20:01更新 / fvo