飛べぬ鳥と優しき戦士
青い空、白い雲、そして青い海、とつなげたいところではあるが、残念ながらここは地上、そして広がるのは見渡す限りの草原である。東に森、西には低めの山が見え、風が吹けばその森や山から心地よい香りを運んでくる。
そしてその草原を歩く羽根付きの少女が一人。彼女の名をリデスという。
「ラーララーと君は言う、舌を回し〜なが〜ら〜♪」
のんきな歌声は風に乗り草原を駆ける、だがそれも少しの間だけだった。突然地中から伸びた腕が彼女の足を掴んだのだ。
「えっ・・・なっ・・・何!何!?」
腕を振り払おうと翼や足を振り回す。しかしそれは強靭なハーピーの暴れる足をしっかりと掴むほど強固だった。さらに二本目の腕が出現し地面をつく、その腕に力が入ったかと思えば一人の少年が這い出してきた。
「や・・・やだ・・・」
リデスは既に戦意はおろか逃げ出す意思さえ失い大地に転がる、少年に掴まれた足を除いては。その少年は鬼のような顔で彼女を睨みつけると、今まであれほど強く掴んでいた腕を簡単に放した。
突如として地中から現れ出でた少年は、背中に大きな剣を持ち軽装を身にまとっていた、しかし当然のことその服は泥にまみれている。
「チッ、ハーピーか」
自分が掴んだものが目的のものとは違うことに気付き、苛立ち呟く。そのまま踵を返しさっさと去ろうとする少年をリデスが呼び止めた。
「ちょ・・・ちょっと、このままこのまま放って置く気?」
少年は振り返りハーピーを見る、その顔には疑問が表れているも険しい表情は微塵も変わっていなかった。
「掴んだだけだ、どこも怪我はしてねえだろ」
「・・・こ、腰が抜けたのよ」
やや顔を赤くしリデスが答える。少年の顔がやや呆れたものに変わった。少年は彼女の羽を掴み乱暴に引っ張り上げた。そして立ち上がるとリデスは彼を質問攻めにする。
「あんた何者?なんで埋まってたの?」
「どうでもいいだろ」
少年は彼女の質問には一切答えず、今度こそ方向転換し進むことが出来た。しかし人というものは(今回は魔物であるが)そう簡単に振り切ることは出来ないもの。少年のあとをリデスがついていく。
「答えてよ、あんた誰?この辺りに住んでるの?」
「うるせえな、ついてくるんじゃねえよ」
しかしそれでも少年はまるで答えようとはしない。そうこうしているうちに東の森に着いてしまった。森の中からは幅の狭い川が流れ、入り口には掘っ立て小屋が住んでいた。
「あ、あれがあんたの住処でしょ?やっぱりこの辺に住んでるんじゃん」
予想通りとばかりに彼女が聞く。しかしもはや少年は受け答えることすらやめ、小屋の中に入ってしまった。案の定扉には鍵が掛けられている
「フン、そっちがその気なら全部知り尽くすまで居座ってやるんだから!」
彼女はそう宣言し小屋の壁に寄りかかった。草原からここに移動するまでに既に日は落ちてしまったため、リデスはそのまま眠りについた。
翌朝
小屋の扉が開かれ釣竿を持った少年が出て来るのを、待ち構えていたリデスが出迎える。
「なっ、お前まだいたのか!」
「あれだけ驚かせておいて謝りもしないのはそっちじゃない、せめて名前ぐらい教えてよ!」
どうやら相当しつこい性格のようである。しかしこの少年は負けず嫌いというか天邪鬼というか、とにかくそんなことを言われると相手が諦めるまで勝負に出てしまうのだった。彼女を無視し近くにある川に釣り糸を垂らす。しかし一向に魚はかからない。
「ねえ、なんとか言ってってば!あんた何者なのよ!あ、そういえば私はリデスっていうんだ!」
それもそのはず、少年の横でリデスが大声で喋り続けているのだ。そのせいで魚はかかるどころか釣り針にさえ近づかない。それでも少年は返事さえしなかった。だが彼女の行動はそれだけでは終わらない。足で水面をバシャバシャと蹴り始めたのだ。これでは釣れるほうが奇跡というもの。流石の少年も我慢の限界が来てしまった。
「わかったわかった、レヤ−ドだ!これでいいだろ!水を蹴るのをやめろ!」
「じゃあレヤード!お互い名前知ったんだから私達はもう友達ね!」
「・・・勝手に言ってろ」
呆れた少年が再度無視を決め込もうとしたその時、一本の矢が二人目掛けて直進してきた。
「・・・!」
「えっ」
ガバっとレヤードがリデスに覆いかぶさり矢を避ける。着弾地点からして、それは自身を狙ったものだと判断した。
「ちくしょう、どこからだ・・・」
レヤードが辺りを見回す、しかし射手の姿は見えない、それに矢も飛んでこない。
仕留めそこなったのを確認すると同時に逃げたのだろう。そして、彼の下でリデスは恐怖に震えていた。彼女はそこから這い出ると、レヤードに向き直った。それを見た彼がリデスに言う。
「分かっただろ、俺に近づくんじゃねえ・・・怪我するぞ」
リデスは落胆した、友達ができたと思ったら、その人は命を狙われているのだ、無理もあるまい。
「・・・私ここにいちゃいけないよね・・・その、邪魔して、ごめん・・・」
落ち込んだ声で彼に謝ると、そのまま西に見える山に向けて歩き出した。レヤードはその様子を見つめていた。そして、ふと疑問に思い彼女に問う。
「お前、なんで飛ばないんだ」
リデスは歩みを止めた、いつか聞かれると覚悟はしていたがやはり言いにくいことだった。
「・・・飛べないんだ、私。小さい頃に教団の矢に狙われて落ちちゃってから、浮き上がれもしないらしいんだ。まあ、私はよく覚えてないんだけど・・・それでも、羽を動かすと、よくわからないけどすっごく怖くなって・・・」
そこまで言うと彼女は黙ってしまった。レヤードは聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がしてばつが悪そうにリデスから目を背ける。そして彼なりの謝罪というか、気遣いというか、今彼女が喜ぶであろう提案をした。
「時々・・・本当に時々だぞ?ここに来てもいい、許す」
それを聞いたリデスは振り返り、満面の笑顔で
「うん!」
とだけ言って、山へと走っていった。
それからは時々、いやそれどころかリデスはしょっちゅうレヤードの小屋を訪れていた。晴れていれば外で釣りをしたり、雨が降れば小屋の中でレヤードが持っている本を見せてもらったり。その中でリデスは自分が住む山の話をする、だがレヤードは自分の話を一切しようとはしない。それでもリデスは嬉々として話し続けた。そんな中で一つの習慣ともいえるようなものができた。リデスが小屋を訪れる際に、必ず大声で名前を呼ぶので仮をしているレヤードが狙っていた獲物に逃げられてしまい、リデスはまず最初に彼の怒声を浴びるのだった。
ある日、雨が降る中でレヤードとリデスが本を読んでいると―
「レヤード・ヴァルティス!!」
大きな声が辺りに響き渡った。小屋を出て声の主を探すと、重厚な白い鎧を纏い腰に剣をさげた男が少し離れたところに立ち少年を凝視している。それは先ほど叫ばれたものが少年を呼ぶ声であることを意味していた。
「え・・・」
男の鎧に刻まれた紋章にリデスは驚いた。決して関わるなと散々に教え込まれた教団の紋章だ。それは少年も瞬時に理解したようで、すぐにリデスと男を阻むように間に立ち塞がった。
「一体何の用だ。」
「大方予想はつくだろう、慈愛のヴァルティス。貴様の首には一生どころか孫まで遊んで暮らせる程の賞金がかかっているのだよ」
慈愛のヴァルティス、それを聞いてレヤードはまるで侮辱を受けたような顔になった。そしてリデスは隙を見て小屋の影に隠れながら首をかしげる。男がレヤードを呼んだ名は、どこかで聞いたことがある、少なくともまるで知らない名前ではなかった。
「ケッ、二度とそう呼ばれたくはねえってのによ・・・」
「背負いの分際で退役兵気取りか、いい気なもんだなぁ!」
背負い、それは少年兵を指す隠語である。彼らは「未熟であり重い剣を腰にさげて走れぬ者」を表すために剣を背中に背負うのだ。
ふと、そのような語源を思い出し男が呟く。
「あんな事やっておいて何が未熟だか、たった一人で500の兵を倒したって?」
しかしレヤードは男の言葉を聞き大笑いした。
「ハッハッハ!500か、なるほどそんな金がかけられるわけだ!」
笑い終わるとレヤードはゆっくりと続けた。
「そういう数ってのはやっぱり増え続けるもんだなあ、だが俺が覚えてる限りじゃ・・・」
そこで彼は一呼吸置き、静かに告げた。
「200だった気がするがなあ?」
「知ったことか!てめえの数はどうあれ賞金の額は事実なんだからな!さあ今すぐあの世に逝ってもらおうか!」
そう言うと男は腰の剣を抜きレヤードに向かって走り出した。レヤードは一瞬遅れて背中の剣を抜き迫り来る男を待ち構える。
勝負は一瞬だった。
レヤードは一太刀目で男の剣は叩き折りそのまま跳躍、空中から男の後ろに回り二太刀目で鎧を繋ぐ紐を断ちそのまま男を蹴り倒して完全に戦闘不能に追い詰めたのだ。
「流石・・・俺が勝てる道理なんてあるわけねんだよな」
レヤードに見下ろされ男が再び呟いた。
「今すぐにここから消えろ」
レヤードが怒りに満ちた声で男に言い渡す。男は起き上がり、壊された装備を抱えてそそくさと逃げ出した。
どさくさに紛れて小屋の影に隠れたリデスが男がいなくなったのを確認しレヤードに近づいてきたのと同時に彼に問う。
「今の人は何・・・?教団兵なのは分かったけど・・・」
「知るか、どうせ賞金目当てで来たんだろうよ」
レヤードの口からは今見た事実しか語られなかった。そこでリデスは最も気になっていた質問を彼にぶつける。
「慈愛のヴァルティスって、あれだよね。この近くの親魔物国の戦士で、2年前の教団との戦争で大手柄をたてたっていう・・・」
「・・・何人だ、その慈愛のヴァルティス手柄は?」
「えっと、200人って聞いてるけど・・・」
まさか少年兵だとは夢にも思わなかったが、それは伏せておいた。リデスの答えを聞いて、ふっ、とレヤードが笑った。
「魔物ってのは無意味に噂を拡大させたりしないらしいな」
話をはぐらかそうとするが、リデスには通じず次の質問をかけられる。
「なんで、慈愛なのさ。戦争とはいえ・・・200人・・・なんでしょ?」
これにレヤードは暫く沈黙した、答えるべきか、それとも黙っておくべきか。
出来ればあのことを多くのものに知られたくはない。
その思いは彼の中に強く存在していた。
しかし、誰かに話せば吹っ切れられるかも知れない。
そんな考えもあったのだろう、レヤードの口が開いた。
「その200人全員、死んでないからだ。今はどうか知らんが、あの戦場ではな」
リデスはまたも驚愕した。どういうことだろう、200人の敵を倒したというのに、それら全てが生きているとは。彼女の疑問に答えるようにレヤードは続ける。
「ヴァルティスは喧嘩が強かった。町の中で勝てる子供は一人もいなかった。そいつは口癖のように、大人になったら戦士になって大手柄をたてる、と言っていた。すぐに奴は戦士の養成所に入った。成績は常に1位、それも2位以下に大きく差をつけてな。首席で卒業し、正式に戦士になってからも自分を鍛え続けた、『平和な国の戦士ほど楽な仕事はない』などと現を抜かす仲間を尻目にどんどん強くなっていった、強くなりたかった。そしてついに2年前あの日、初陣に出た。慌てふためく仲間の中で一人だけ落ち着いて期待に満ち溢れていた。ようやくこの時がきた、自分の実力が飾りではないことを見せ付けるんだ、と。先頭を切って戦場に飛び出すと、目の前の教団兵が剣を振り回して襲い掛かってきた。でもそれは、少なくともそいつからすれば亀のように遅かった。簡単に見切り剣を叩き折る、さらには相手の鎧も壊し、丸裸にした相手に向けてとどめの剣を振り上げた。でもその剣はいつまでたっても振り下ろされなかった。ヴァルティスは相手を掴みながら泣いていた、ここでこいつが死ねば親友は、家族は、果たしてどんな顔するだろうか。そんなことばかり考えていた。ついに初戦の相手から離れて次の兵に向かっていった。だが同じだった。どれだけ簡単にいなそうが、命だけは奪えなかった。やがて装備を全て破壊された兵がそこらじゅうに溢れかえった。戦いが終ってから、そいつは兵士長に呼び出された。なぜお前は敵兵を殺さぬのだ、と。とても殺せなかったなどとは言えなかった、今更ふざけているようにはとられたくなかった。兵士長はこのことを国王に報告した。程なくしてそいつは格下げされた。戦場に赴く戦士から、ただの警備兵に。それを聞いたときすぐに国を出ると言い放った。だが誰も咎めはしなかった、国王はおろか、友も、家族でさえも。国を出てからはそいつの噂でもちきりだった。『200の兵を倒しても命を奪わない慈愛を持った戦士』とな。こうしてヴァルティスは1回の戦闘で200の敵兵の撃破という手柄を手に入れた、だがくだらんオマケまで付いてきた。それが慈愛のヴァルティスだ。」
話をしている間、レヤードはずっと悲しげな顔をしていた。全てを失い、このまま滅び行く覚悟をしたように、何も見ずに語っていた。リデスは何も言えなかった。何も知らなかった。慈愛などという言葉を使うからには、国をあげて英雄扱いをされていると思っていた。だが実際にはこの上なく屈辱的な皮肉でしかなった。
「で、でも!今からでも国に戻ったら?戦えないなら、ほかのことをすればいいじゃない!」
リデスが提案した。しかしレヤードは静かにそれを否定する。
「そうだな、戦士をやめたら作家になれたかもしれない、もしかしたら学者になって大発見をしたかもしれない。でももう遅い、そんな可能性は全て自分の力につぎこんだ。いまさら他の道を行ったって、何にもできやしねえよ」
リデスは黙り込んだ、この少年は自分の実力に全てをつぎこんだのだ。そしてその全てがまるで意味を成さなかったのだ。それを理解したとき、かける言葉も見つからなくなってしまった。
「あの・・・私、そろそろ帰るね・・・」
やはりレヤードとは住む世界が違うのだと、彼女が決別を覚悟して西に向かって歩き出そうとした時
「また・・・こいよ」
レヤードが、ほとんど呟くようにリデスに言った。しかし耳が良く、それをはっきりと聞き取ったリデスは振り返り、
「うん!またね!」
最初の頃と同じように笑顔で返した。
しかし、また来るとは言ったものの、これからレヤードにどう接するべきなのか。またいつも通りに自分のことを話し続ければいいのだろうか
リデスはそれが分からず、西の山で悩んでいるうちに日が暮れるという日々をしばらく過ごしていた。
「・・・レヤード」
自然と口から彼の名前が出た。それをめざとく聞きつけた者が一人いた。
「あら、誰の名前かしら?」
「ひえっ!」
背後から声をかけられリデスは跳び上がる。振り返ると、リデスよりも長身で大人びたハーピーがいた。
「な、何の用よ・・・」
「山に篭りがちだったあなたがこのところかなり出かけるようになってきたのに、また篭るようになったんだもの。そりゃあ気になるわ」
長身のハーピーはゆったりとした口調で話す。その姿はやや気品を感じさせる。
「それで、誰なのレヤードって、名前からして男の人だと思うけど・・・ははあ」
彼女がにやりと口をゆがめた。
「さては恋煩いね」
「なっ・・・ち、違うよ!レヤードは・・・ただの、友達だよ!初めて出来た人間の・・・」
彼女の言葉をリデスは必死で否定する。しかしその顔は真っ赤に染まっていた。
「友達って・・・あのねえ、人間の男とハーピーの友情なんて聞いたことないわよ?そんなこと言ってると他の魔物がきちゃうかもよ〜?」
「え・・・?」
この言葉にリデスは反応した。食いついたとばかりに彼女はまくし立てる。
「今からでも遅くないわ!さっさと行って食べてきちゃいなさい!」
リデスの顔がさらに赤くなった
「や、やめてよ!そんなんじゃないってば!それに・・・私、やり方よく知らないし・・・」
この言葉にはさすがの彼女も呆れ果てた。
「知らないって、じゃあいつも発情期のときどうしてるのよ」
「じ、自分で・・・なんとか抑えてる・・・けど・・・」
リデスの顔はもう赤いところしかなくなってしまった。彼女はリデスの答えを聞いて気付いた。
そういえばこの子は飛べなかった、だから男をさらうこともできないのか。
しかし彼女は案ずる必要はないと判断した、彼女が何もしなくてもリデスは自らレヤードなる男性のもとへ赴くだろうと。
「いままではそれでもよかったけど、今度はそうはいくかしらねえ・・・」
「な、なんで・・・?」
リデスがきょとんとした顔を向けた。
リデスは知らなかった。ハーピーに意中の男性ができると、発情期のその欲求は数十倍に膨れ上がることを。それこそ、自らでは慰めきれないほどに。
「じきに分かるわよ、じゃあね」
その事実はリデスに伝えず、彼女は飛び去っていった。
そしてついにその日がやってきた。
リデスは自分の部屋で自らの秘所や胸を腕翼で必死に慰めていた。しかしどうしても、何回絶頂に至っても収まらない。おかしい、いつもはこれでいいはずなのに。
「はぁ・・・ふ・・・ぅ・・!レヤー・・・ドォ・・・」
そして頭の中は例の少年兵で一杯だった。分からない、分からない、どうしてこうまで体が疼くのか。彼女は助けを求めるように、頭に浮かんだその人物のもとへと、千鳥足で向かっていった。いつもの小屋へとたどりつくころには、もう日は落ちていることだろう。
小屋の中でレヤードはいつものように狩りで得た成果を目の前に並べ、今晩の夕食について考えていた。その時、不意に小屋の扉が開いた。
「誰だッ!」
背中の剣に手を掛けて扉を開けた人物を睨みつける、しかしそれは彼が見知った人物だった。
「リ、リデス・・・」
突然の訪問にレヤードも驚きを隠せない。いつも日が暮れる前に帰ってしまうというのに、こんな時間に来るとは。そもそも最近リデスの顔を見ていなかった。
「レ・・・ヤー・・・ド・・・」
ふらふらと、覚束ない足取りでレヤードに近づいていく。よく見れば息遣いは荒く、顔も赤い、そして何よりいつものはつらつとした掛け声はどうしたのだろう。そんなことを考えているとリデスは彼に抱きついてきた。
「うわっ、おい大丈夫かよ!?」
しかしその言葉にリデスは微塵も反応しない。翼をレヤード背中に回し、足でしっかりと彼の胴をホールドした。
「お、おい、本当に・・・」
「レヤード・・・はぁ・・・レヤードの匂いがする・・・いい匂い・・・」
やはり彼の言葉は届かない。そして不意を突かれリデスに唇を奪われた。
「んむっ!?」
「ちゅ・・・んぅ・・・れろ・・・」
それだけでは収まらず、リデスの舌がレヤードの口腔に侵入した。口の中を舐めまわし、彼の舌を発見するとそれに絡みつく。手足を押さえられたレヤードはなすすべなくその蹂躙に従った。しばらく後にようやく、リデスの口が離れた。
「ぷはっ、はぁ・・・はぁ・・・」
呼吸を整えてリデスを見ると彼女もこちらを見つめてきた。レヤードはここでようやく、彼女の可愛さに気付く。整った顔立ちが朱に染まり彼の情欲を少なからず焚きたてた。
「ねえレヤード、体が熱いよ・・・いつもみたいに抑えられないんだ。」
レヤードはそのまま黙っていた、何も言わずに彼女の話を聞いていた。
「最初の内は、初めて人間の友達ができて、それだけでうれしかったけど・・・。でも今はね、頭がレヤードで一杯になって、レヤードに会ったら体がもっと熱くなって・・・やっと分かったんだ」
リデスは荒い呼吸を必死で整えようとした。赤い顔で、レヤードの目を穴が開きそうなぐらいに見つめて言い放った。
「私、レヤードが好き。ずっと一緒に居たい・・・!」
レヤードは混乱した。
好きだと、俺がか?自分で積み上げたものを自分で崩し、もはや何も残らない俺が好きだと?
しかし彼女は今確かに自分を好きだと言った、それだけはしっかりと理解できた。
「リ・・・デス・・・」
震える手で彼女の背中に手を回す。久しぶりだった、本当にひさしぶり。誰かが、それもこんなに近くにいるのは、記憶をたどっても幼い頃に1度か2度あるばかりだった。
「リデス・・・ああ、リデス・・・グスッ」
涙を流しながら、強くリデスを抱きしめる。その行動はリデスの熱い体にさらに熱を加えた。
「あう、レヤード・・・もう、我慢できないよぅ・・・ベッド、行こ?」
「・・・うん」
レヤードは体の軽い彼女を抱きかかえベッドに横たわらせた。そしてその植えに自分が覆いかぶさった。一人用なのでやや狭く感じるが、それ故に二人が密着し興奮を煽る。服を互いに脱がしあい、何も纏わぬ男女の組が一つ出来た。レヤードはリデスの小ぶりな胸に手を当て、やさしく揉み始める。その動きに合わせてリデスが小さく声をあげた。レヤードの手が胸の中心に近づくにつれ、彼女の声は次第に高く、大きくなっていく。そして中心の突起に指が触れると、大きな快感が走り一際高い声をあげた。
「ごめん、痛かったか?」
その声に驚きレヤードが謝った、しかしリデスは首を横に振った。それを見た彼は続けて刺激を与える。彼女の喘ぎ声はどんどん激しさを増すが、いきなり途切れたかと思うと、いつの間にか仰け反らせた上体ぐったりとさせ、最後に再び荒い呼吸が始まった。
「はぁ、はぁ、レヤード・・・胸はもういいよぉ、それより、こっちの方がいいな・・・」
リデスは両の翼で自らの秘所を広げた。レヤードは湿ったその入り口を見て生唾を飲み込む、彼の中の、長い間押さえつけていた欲が、今解き放たれた。彼の分身はその役目を果たさんと激しく隆起する。その匂いにあてられたのか、リデスの秘所は先ほどよりもさらに水気を増した。
「いいん・・・だな」
「うん、来て」
レヤードはそれを穴にあてがい最後の確認を取った。互いの意思が一致すると同時に強く腰を押し進めた。肉棒が穴を掻き分け彼女の奥深くへと侵入していく。その強い快感と若干の痛みにリデスは翼を彼に背中に回し足を絡めて喘ぐ。
「本当に、痛くねえのか・・・?」
「ちょっとだけ、気持ちいいほうがずっと強い・・・から」
レヤードがリデスの最深部まで到達すると、彼は一旦動きをとめた。リデスの襞が強く滾る彼を刺激し、それだけで達しそうになる。しかし長い間溜め込んだ欲はそれだけでは満足せず、レヤードの腰を突き動かす。いきなり与えられた刺激にリデスは若干戸惑いを感じるものの、快楽によってすぐに塗りつぶされた。辺りには二人の愛が混じり合う淫らな水音と、男女の鳴き声が響き渡っる。奥に動けばリデスは強く感じレヤードを締め付け、引き抜くときは襞が棒に引っかかり共に刺激し合う。どちらの動きも二人を凄まじい勢いで絶頂に導いていった。そして最初に限界を迎えたのはレヤードだった。
「ぐ・・・ぅ、リデス・・・出そう、だ・・・」
「あ、出し、てぇ・・・このまま、私も、イきそう・・・だからぁ!」
レヤードがやや小刻みに腰を動かし、最後に強く腰を打ち付けると、リデスは足で彼の腰を固定した。それと同時にレヤードはリデスの中に大量の精を放つ。
「はぁ、はぁ、出てる・・・!私の中に、いっぱい・・・!ああっ、ああああああっ!!!」
その熱量と彼への愛からリデスも同時に体を震わせ絶頂に達する、同時にレヤードは強い締め付けを受けてさらに精を放ちその熱でさらにリデスが達する・・・結局、レヤードの精が全て撃ち放たれるまでの十数秒間この繰り返しが続いていた。
長い長い絶頂のあとに、二人は一人用ベッドの中で密着し抱き合っていた。
「こんなに気持ちいいんだね・・・もう自分でするんじゃ満足できない・・・レヤード、また私の盛りがきたら、相手してくれる?」
「あ、ああ」
恥ずかしいことを平気で聞いてくるあたりはやはり魔物と言ったところか。そしてレヤードもまた、リデスに依存したことが一つあった。彼女と会ってから、一人でいるのが無性に辛く感じられた。リデスがしばらく現れなくなったときには狩りの成果が大幅に落ちるほど落ち着きをなくしていた。もう彼女なしでは生きられぬと悟ったレヤードは、思い切って口に出す。
「なあ、もし俺が言うことが嫌ならすぐに忘れてくれ」
「え、なあに?」
顔を近づけてリデスが促す、レヤードはあの初陣のとき以上に勇気を振り絞り、そして言った。
「ここで、二人で、暮らしてくれないか?」
それを聞いて、リデスの顔が今までで最高の笑顔に満たされた。もちろん、答えはすぐに頭に浮かんだ。そしてこれからの事に考えを巡らせる。仲間のハーピーに知らせて、荷物をここに運んで・・・
明日は忙しくなりそうだ。
〜Fin.
そしてその草原を歩く羽根付きの少女が一人。彼女の名をリデスという。
「ラーララーと君は言う、舌を回し〜なが〜ら〜♪」
のんきな歌声は風に乗り草原を駆ける、だがそれも少しの間だけだった。突然地中から伸びた腕が彼女の足を掴んだのだ。
「えっ・・・なっ・・・何!何!?」
腕を振り払おうと翼や足を振り回す。しかしそれは強靭なハーピーの暴れる足をしっかりと掴むほど強固だった。さらに二本目の腕が出現し地面をつく、その腕に力が入ったかと思えば一人の少年が這い出してきた。
「や・・・やだ・・・」
リデスは既に戦意はおろか逃げ出す意思さえ失い大地に転がる、少年に掴まれた足を除いては。その少年は鬼のような顔で彼女を睨みつけると、今まであれほど強く掴んでいた腕を簡単に放した。
突如として地中から現れ出でた少年は、背中に大きな剣を持ち軽装を身にまとっていた、しかし当然のことその服は泥にまみれている。
「チッ、ハーピーか」
自分が掴んだものが目的のものとは違うことに気付き、苛立ち呟く。そのまま踵を返しさっさと去ろうとする少年をリデスが呼び止めた。
「ちょ・・・ちょっと、このままこのまま放って置く気?」
少年は振り返りハーピーを見る、その顔には疑問が表れているも険しい表情は微塵も変わっていなかった。
「掴んだだけだ、どこも怪我はしてねえだろ」
「・・・こ、腰が抜けたのよ」
やや顔を赤くしリデスが答える。少年の顔がやや呆れたものに変わった。少年は彼女の羽を掴み乱暴に引っ張り上げた。そして立ち上がるとリデスは彼を質問攻めにする。
「あんた何者?なんで埋まってたの?」
「どうでもいいだろ」
少年は彼女の質問には一切答えず、今度こそ方向転換し進むことが出来た。しかし人というものは(今回は魔物であるが)そう簡単に振り切ることは出来ないもの。少年のあとをリデスがついていく。
「答えてよ、あんた誰?この辺りに住んでるの?」
「うるせえな、ついてくるんじゃねえよ」
しかしそれでも少年はまるで答えようとはしない。そうこうしているうちに東の森に着いてしまった。森の中からは幅の狭い川が流れ、入り口には掘っ立て小屋が住んでいた。
「あ、あれがあんたの住処でしょ?やっぱりこの辺に住んでるんじゃん」
予想通りとばかりに彼女が聞く。しかしもはや少年は受け答えることすらやめ、小屋の中に入ってしまった。案の定扉には鍵が掛けられている
「フン、そっちがその気なら全部知り尽くすまで居座ってやるんだから!」
彼女はそう宣言し小屋の壁に寄りかかった。草原からここに移動するまでに既に日は落ちてしまったため、リデスはそのまま眠りについた。
翌朝
小屋の扉が開かれ釣竿を持った少年が出て来るのを、待ち構えていたリデスが出迎える。
「なっ、お前まだいたのか!」
「あれだけ驚かせておいて謝りもしないのはそっちじゃない、せめて名前ぐらい教えてよ!」
どうやら相当しつこい性格のようである。しかしこの少年は負けず嫌いというか天邪鬼というか、とにかくそんなことを言われると相手が諦めるまで勝負に出てしまうのだった。彼女を無視し近くにある川に釣り糸を垂らす。しかし一向に魚はかからない。
「ねえ、なんとか言ってってば!あんた何者なのよ!あ、そういえば私はリデスっていうんだ!」
それもそのはず、少年の横でリデスが大声で喋り続けているのだ。そのせいで魚はかかるどころか釣り針にさえ近づかない。それでも少年は返事さえしなかった。だが彼女の行動はそれだけでは終わらない。足で水面をバシャバシャと蹴り始めたのだ。これでは釣れるほうが奇跡というもの。流石の少年も我慢の限界が来てしまった。
「わかったわかった、レヤ−ドだ!これでいいだろ!水を蹴るのをやめろ!」
「じゃあレヤード!お互い名前知ったんだから私達はもう友達ね!」
「・・・勝手に言ってろ」
呆れた少年が再度無視を決め込もうとしたその時、一本の矢が二人目掛けて直進してきた。
「・・・!」
「えっ」
ガバっとレヤードがリデスに覆いかぶさり矢を避ける。着弾地点からして、それは自身を狙ったものだと判断した。
「ちくしょう、どこからだ・・・」
レヤードが辺りを見回す、しかし射手の姿は見えない、それに矢も飛んでこない。
仕留めそこなったのを確認すると同時に逃げたのだろう。そして、彼の下でリデスは恐怖に震えていた。彼女はそこから這い出ると、レヤードに向き直った。それを見た彼がリデスに言う。
「分かっただろ、俺に近づくんじゃねえ・・・怪我するぞ」
リデスは落胆した、友達ができたと思ったら、その人は命を狙われているのだ、無理もあるまい。
「・・・私ここにいちゃいけないよね・・・その、邪魔して、ごめん・・・」
落ち込んだ声で彼に謝ると、そのまま西に見える山に向けて歩き出した。レヤードはその様子を見つめていた。そして、ふと疑問に思い彼女に問う。
「お前、なんで飛ばないんだ」
リデスは歩みを止めた、いつか聞かれると覚悟はしていたがやはり言いにくいことだった。
「・・・飛べないんだ、私。小さい頃に教団の矢に狙われて落ちちゃってから、浮き上がれもしないらしいんだ。まあ、私はよく覚えてないんだけど・・・それでも、羽を動かすと、よくわからないけどすっごく怖くなって・・・」
そこまで言うと彼女は黙ってしまった。レヤードは聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がしてばつが悪そうにリデスから目を背ける。そして彼なりの謝罪というか、気遣いというか、今彼女が喜ぶであろう提案をした。
「時々・・・本当に時々だぞ?ここに来てもいい、許す」
それを聞いたリデスは振り返り、満面の笑顔で
「うん!」
とだけ言って、山へと走っていった。
それからは時々、いやそれどころかリデスはしょっちゅうレヤードの小屋を訪れていた。晴れていれば外で釣りをしたり、雨が降れば小屋の中でレヤードが持っている本を見せてもらったり。その中でリデスは自分が住む山の話をする、だがレヤードは自分の話を一切しようとはしない。それでもリデスは嬉々として話し続けた。そんな中で一つの習慣ともいえるようなものができた。リデスが小屋を訪れる際に、必ず大声で名前を呼ぶので仮をしているレヤードが狙っていた獲物に逃げられてしまい、リデスはまず最初に彼の怒声を浴びるのだった。
ある日、雨が降る中でレヤードとリデスが本を読んでいると―
「レヤード・ヴァルティス!!」
大きな声が辺りに響き渡った。小屋を出て声の主を探すと、重厚な白い鎧を纏い腰に剣をさげた男が少し離れたところに立ち少年を凝視している。それは先ほど叫ばれたものが少年を呼ぶ声であることを意味していた。
「え・・・」
男の鎧に刻まれた紋章にリデスは驚いた。決して関わるなと散々に教え込まれた教団の紋章だ。それは少年も瞬時に理解したようで、すぐにリデスと男を阻むように間に立ち塞がった。
「一体何の用だ。」
「大方予想はつくだろう、慈愛のヴァルティス。貴様の首には一生どころか孫まで遊んで暮らせる程の賞金がかかっているのだよ」
慈愛のヴァルティス、それを聞いてレヤードはまるで侮辱を受けたような顔になった。そしてリデスは隙を見て小屋の影に隠れながら首をかしげる。男がレヤードを呼んだ名は、どこかで聞いたことがある、少なくともまるで知らない名前ではなかった。
「ケッ、二度とそう呼ばれたくはねえってのによ・・・」
「背負いの分際で退役兵気取りか、いい気なもんだなぁ!」
背負い、それは少年兵を指す隠語である。彼らは「未熟であり重い剣を腰にさげて走れぬ者」を表すために剣を背中に背負うのだ。
ふと、そのような語源を思い出し男が呟く。
「あんな事やっておいて何が未熟だか、たった一人で500の兵を倒したって?」
しかしレヤードは男の言葉を聞き大笑いした。
「ハッハッハ!500か、なるほどそんな金がかけられるわけだ!」
笑い終わるとレヤードはゆっくりと続けた。
「そういう数ってのはやっぱり増え続けるもんだなあ、だが俺が覚えてる限りじゃ・・・」
そこで彼は一呼吸置き、静かに告げた。
「200だった気がするがなあ?」
「知ったことか!てめえの数はどうあれ賞金の額は事実なんだからな!さあ今すぐあの世に逝ってもらおうか!」
そう言うと男は腰の剣を抜きレヤードに向かって走り出した。レヤードは一瞬遅れて背中の剣を抜き迫り来る男を待ち構える。
勝負は一瞬だった。
レヤードは一太刀目で男の剣は叩き折りそのまま跳躍、空中から男の後ろに回り二太刀目で鎧を繋ぐ紐を断ちそのまま男を蹴り倒して完全に戦闘不能に追い詰めたのだ。
「流石・・・俺が勝てる道理なんてあるわけねんだよな」
レヤードに見下ろされ男が再び呟いた。
「今すぐにここから消えろ」
レヤードが怒りに満ちた声で男に言い渡す。男は起き上がり、壊された装備を抱えてそそくさと逃げ出した。
どさくさに紛れて小屋の影に隠れたリデスが男がいなくなったのを確認しレヤードに近づいてきたのと同時に彼に問う。
「今の人は何・・・?教団兵なのは分かったけど・・・」
「知るか、どうせ賞金目当てで来たんだろうよ」
レヤードの口からは今見た事実しか語られなかった。そこでリデスは最も気になっていた質問を彼にぶつける。
「慈愛のヴァルティスって、あれだよね。この近くの親魔物国の戦士で、2年前の教団との戦争で大手柄をたてたっていう・・・」
「・・・何人だ、その慈愛のヴァルティス手柄は?」
「えっと、200人って聞いてるけど・・・」
まさか少年兵だとは夢にも思わなかったが、それは伏せておいた。リデスの答えを聞いて、ふっ、とレヤードが笑った。
「魔物ってのは無意味に噂を拡大させたりしないらしいな」
話をはぐらかそうとするが、リデスには通じず次の質問をかけられる。
「なんで、慈愛なのさ。戦争とはいえ・・・200人・・・なんでしょ?」
これにレヤードは暫く沈黙した、答えるべきか、それとも黙っておくべきか。
出来ればあのことを多くのものに知られたくはない。
その思いは彼の中に強く存在していた。
しかし、誰かに話せば吹っ切れられるかも知れない。
そんな考えもあったのだろう、レヤードの口が開いた。
「その200人全員、死んでないからだ。今はどうか知らんが、あの戦場ではな」
リデスはまたも驚愕した。どういうことだろう、200人の敵を倒したというのに、それら全てが生きているとは。彼女の疑問に答えるようにレヤードは続ける。
「ヴァルティスは喧嘩が強かった。町の中で勝てる子供は一人もいなかった。そいつは口癖のように、大人になったら戦士になって大手柄をたてる、と言っていた。すぐに奴は戦士の養成所に入った。成績は常に1位、それも2位以下に大きく差をつけてな。首席で卒業し、正式に戦士になってからも自分を鍛え続けた、『平和な国の戦士ほど楽な仕事はない』などと現を抜かす仲間を尻目にどんどん強くなっていった、強くなりたかった。そしてついに2年前あの日、初陣に出た。慌てふためく仲間の中で一人だけ落ち着いて期待に満ち溢れていた。ようやくこの時がきた、自分の実力が飾りではないことを見せ付けるんだ、と。先頭を切って戦場に飛び出すと、目の前の教団兵が剣を振り回して襲い掛かってきた。でもそれは、少なくともそいつからすれば亀のように遅かった。簡単に見切り剣を叩き折る、さらには相手の鎧も壊し、丸裸にした相手に向けてとどめの剣を振り上げた。でもその剣はいつまでたっても振り下ろされなかった。ヴァルティスは相手を掴みながら泣いていた、ここでこいつが死ねば親友は、家族は、果たしてどんな顔するだろうか。そんなことばかり考えていた。ついに初戦の相手から離れて次の兵に向かっていった。だが同じだった。どれだけ簡単にいなそうが、命だけは奪えなかった。やがて装備を全て破壊された兵がそこらじゅうに溢れかえった。戦いが終ってから、そいつは兵士長に呼び出された。なぜお前は敵兵を殺さぬのだ、と。とても殺せなかったなどとは言えなかった、今更ふざけているようにはとられたくなかった。兵士長はこのことを国王に報告した。程なくしてそいつは格下げされた。戦場に赴く戦士から、ただの警備兵に。それを聞いたときすぐに国を出ると言い放った。だが誰も咎めはしなかった、国王はおろか、友も、家族でさえも。国を出てからはそいつの噂でもちきりだった。『200の兵を倒しても命を奪わない慈愛を持った戦士』とな。こうしてヴァルティスは1回の戦闘で200の敵兵の撃破という手柄を手に入れた、だがくだらんオマケまで付いてきた。それが慈愛のヴァルティスだ。」
話をしている間、レヤードはずっと悲しげな顔をしていた。全てを失い、このまま滅び行く覚悟をしたように、何も見ずに語っていた。リデスは何も言えなかった。何も知らなかった。慈愛などという言葉を使うからには、国をあげて英雄扱いをされていると思っていた。だが実際にはこの上なく屈辱的な皮肉でしかなった。
「で、でも!今からでも国に戻ったら?戦えないなら、ほかのことをすればいいじゃない!」
リデスが提案した。しかしレヤードは静かにそれを否定する。
「そうだな、戦士をやめたら作家になれたかもしれない、もしかしたら学者になって大発見をしたかもしれない。でももう遅い、そんな可能性は全て自分の力につぎこんだ。いまさら他の道を行ったって、何にもできやしねえよ」
リデスは黙り込んだ、この少年は自分の実力に全てをつぎこんだのだ。そしてその全てがまるで意味を成さなかったのだ。それを理解したとき、かける言葉も見つからなくなってしまった。
「あの・・・私、そろそろ帰るね・・・」
やはりレヤードとは住む世界が違うのだと、彼女が決別を覚悟して西に向かって歩き出そうとした時
「また・・・こいよ」
レヤードが、ほとんど呟くようにリデスに言った。しかし耳が良く、それをはっきりと聞き取ったリデスは振り返り、
「うん!またね!」
最初の頃と同じように笑顔で返した。
しかし、また来るとは言ったものの、これからレヤードにどう接するべきなのか。またいつも通りに自分のことを話し続ければいいのだろうか
リデスはそれが分からず、西の山で悩んでいるうちに日が暮れるという日々をしばらく過ごしていた。
「・・・レヤード」
自然と口から彼の名前が出た。それをめざとく聞きつけた者が一人いた。
「あら、誰の名前かしら?」
「ひえっ!」
背後から声をかけられリデスは跳び上がる。振り返ると、リデスよりも長身で大人びたハーピーがいた。
「な、何の用よ・・・」
「山に篭りがちだったあなたがこのところかなり出かけるようになってきたのに、また篭るようになったんだもの。そりゃあ気になるわ」
長身のハーピーはゆったりとした口調で話す。その姿はやや気品を感じさせる。
「それで、誰なのレヤードって、名前からして男の人だと思うけど・・・ははあ」
彼女がにやりと口をゆがめた。
「さては恋煩いね」
「なっ・・・ち、違うよ!レヤードは・・・ただの、友達だよ!初めて出来た人間の・・・」
彼女の言葉をリデスは必死で否定する。しかしその顔は真っ赤に染まっていた。
「友達って・・・あのねえ、人間の男とハーピーの友情なんて聞いたことないわよ?そんなこと言ってると他の魔物がきちゃうかもよ〜?」
「え・・・?」
この言葉にリデスは反応した。食いついたとばかりに彼女はまくし立てる。
「今からでも遅くないわ!さっさと行って食べてきちゃいなさい!」
リデスの顔がさらに赤くなった
「や、やめてよ!そんなんじゃないってば!それに・・・私、やり方よく知らないし・・・」
この言葉にはさすがの彼女も呆れ果てた。
「知らないって、じゃあいつも発情期のときどうしてるのよ」
「じ、自分で・・・なんとか抑えてる・・・けど・・・」
リデスの顔はもう赤いところしかなくなってしまった。彼女はリデスの答えを聞いて気付いた。
そういえばこの子は飛べなかった、だから男をさらうこともできないのか。
しかし彼女は案ずる必要はないと判断した、彼女が何もしなくてもリデスは自らレヤードなる男性のもとへ赴くだろうと。
「いままではそれでもよかったけど、今度はそうはいくかしらねえ・・・」
「な、なんで・・・?」
リデスがきょとんとした顔を向けた。
リデスは知らなかった。ハーピーに意中の男性ができると、発情期のその欲求は数十倍に膨れ上がることを。それこそ、自らでは慰めきれないほどに。
「じきに分かるわよ、じゃあね」
その事実はリデスに伝えず、彼女は飛び去っていった。
そしてついにその日がやってきた。
リデスは自分の部屋で自らの秘所や胸を腕翼で必死に慰めていた。しかしどうしても、何回絶頂に至っても収まらない。おかしい、いつもはこれでいいはずなのに。
「はぁ・・・ふ・・・ぅ・・!レヤー・・・ドォ・・・」
そして頭の中は例の少年兵で一杯だった。分からない、分からない、どうしてこうまで体が疼くのか。彼女は助けを求めるように、頭に浮かんだその人物のもとへと、千鳥足で向かっていった。いつもの小屋へとたどりつくころには、もう日は落ちていることだろう。
小屋の中でレヤードはいつものように狩りで得た成果を目の前に並べ、今晩の夕食について考えていた。その時、不意に小屋の扉が開いた。
「誰だッ!」
背中の剣に手を掛けて扉を開けた人物を睨みつける、しかしそれは彼が見知った人物だった。
「リ、リデス・・・」
突然の訪問にレヤードも驚きを隠せない。いつも日が暮れる前に帰ってしまうというのに、こんな時間に来るとは。そもそも最近リデスの顔を見ていなかった。
「レ・・・ヤー・・・ド・・・」
ふらふらと、覚束ない足取りでレヤードに近づいていく。よく見れば息遣いは荒く、顔も赤い、そして何よりいつものはつらつとした掛け声はどうしたのだろう。そんなことを考えているとリデスは彼に抱きついてきた。
「うわっ、おい大丈夫かよ!?」
しかしその言葉にリデスは微塵も反応しない。翼をレヤード背中に回し、足でしっかりと彼の胴をホールドした。
「お、おい、本当に・・・」
「レヤード・・・はぁ・・・レヤードの匂いがする・・・いい匂い・・・」
やはり彼の言葉は届かない。そして不意を突かれリデスに唇を奪われた。
「んむっ!?」
「ちゅ・・・んぅ・・・れろ・・・」
それだけでは収まらず、リデスの舌がレヤードの口腔に侵入した。口の中を舐めまわし、彼の舌を発見するとそれに絡みつく。手足を押さえられたレヤードはなすすべなくその蹂躙に従った。しばらく後にようやく、リデスの口が離れた。
「ぷはっ、はぁ・・・はぁ・・・」
呼吸を整えてリデスを見ると彼女もこちらを見つめてきた。レヤードはここでようやく、彼女の可愛さに気付く。整った顔立ちが朱に染まり彼の情欲を少なからず焚きたてた。
「ねえレヤード、体が熱いよ・・・いつもみたいに抑えられないんだ。」
レヤードはそのまま黙っていた、何も言わずに彼女の話を聞いていた。
「最初の内は、初めて人間の友達ができて、それだけでうれしかったけど・・・。でも今はね、頭がレヤードで一杯になって、レヤードに会ったら体がもっと熱くなって・・・やっと分かったんだ」
リデスは荒い呼吸を必死で整えようとした。赤い顔で、レヤードの目を穴が開きそうなぐらいに見つめて言い放った。
「私、レヤードが好き。ずっと一緒に居たい・・・!」
レヤードは混乱した。
好きだと、俺がか?自分で積み上げたものを自分で崩し、もはや何も残らない俺が好きだと?
しかし彼女は今確かに自分を好きだと言った、それだけはしっかりと理解できた。
「リ・・・デス・・・」
震える手で彼女の背中に手を回す。久しぶりだった、本当にひさしぶり。誰かが、それもこんなに近くにいるのは、記憶をたどっても幼い頃に1度か2度あるばかりだった。
「リデス・・・ああ、リデス・・・グスッ」
涙を流しながら、強くリデスを抱きしめる。その行動はリデスの熱い体にさらに熱を加えた。
「あう、レヤード・・・もう、我慢できないよぅ・・・ベッド、行こ?」
「・・・うん」
レヤードは体の軽い彼女を抱きかかえベッドに横たわらせた。そしてその植えに自分が覆いかぶさった。一人用なのでやや狭く感じるが、それ故に二人が密着し興奮を煽る。服を互いに脱がしあい、何も纏わぬ男女の組が一つ出来た。レヤードはリデスの小ぶりな胸に手を当て、やさしく揉み始める。その動きに合わせてリデスが小さく声をあげた。レヤードの手が胸の中心に近づくにつれ、彼女の声は次第に高く、大きくなっていく。そして中心の突起に指が触れると、大きな快感が走り一際高い声をあげた。
「ごめん、痛かったか?」
その声に驚きレヤードが謝った、しかしリデスは首を横に振った。それを見た彼は続けて刺激を与える。彼女の喘ぎ声はどんどん激しさを増すが、いきなり途切れたかと思うと、いつの間にか仰け反らせた上体ぐったりとさせ、最後に再び荒い呼吸が始まった。
「はぁ、はぁ、レヤード・・・胸はもういいよぉ、それより、こっちの方がいいな・・・」
リデスは両の翼で自らの秘所を広げた。レヤードは湿ったその入り口を見て生唾を飲み込む、彼の中の、長い間押さえつけていた欲が、今解き放たれた。彼の分身はその役目を果たさんと激しく隆起する。その匂いにあてられたのか、リデスの秘所は先ほどよりもさらに水気を増した。
「いいん・・・だな」
「うん、来て」
レヤードはそれを穴にあてがい最後の確認を取った。互いの意思が一致すると同時に強く腰を押し進めた。肉棒が穴を掻き分け彼女の奥深くへと侵入していく。その強い快感と若干の痛みにリデスは翼を彼に背中に回し足を絡めて喘ぐ。
「本当に、痛くねえのか・・・?」
「ちょっとだけ、気持ちいいほうがずっと強い・・・から」
レヤードがリデスの最深部まで到達すると、彼は一旦動きをとめた。リデスの襞が強く滾る彼を刺激し、それだけで達しそうになる。しかし長い間溜め込んだ欲はそれだけでは満足せず、レヤードの腰を突き動かす。いきなり与えられた刺激にリデスは若干戸惑いを感じるものの、快楽によってすぐに塗りつぶされた。辺りには二人の愛が混じり合う淫らな水音と、男女の鳴き声が響き渡っる。奥に動けばリデスは強く感じレヤードを締め付け、引き抜くときは襞が棒に引っかかり共に刺激し合う。どちらの動きも二人を凄まじい勢いで絶頂に導いていった。そして最初に限界を迎えたのはレヤードだった。
「ぐ・・・ぅ、リデス・・・出そう、だ・・・」
「あ、出し、てぇ・・・このまま、私も、イきそう・・・だからぁ!」
レヤードがやや小刻みに腰を動かし、最後に強く腰を打ち付けると、リデスは足で彼の腰を固定した。それと同時にレヤードはリデスの中に大量の精を放つ。
「はぁ、はぁ、出てる・・・!私の中に、いっぱい・・・!ああっ、ああああああっ!!!」
その熱量と彼への愛からリデスも同時に体を震わせ絶頂に達する、同時にレヤードは強い締め付けを受けてさらに精を放ちその熱でさらにリデスが達する・・・結局、レヤードの精が全て撃ち放たれるまでの十数秒間この繰り返しが続いていた。
長い長い絶頂のあとに、二人は一人用ベッドの中で密着し抱き合っていた。
「こんなに気持ちいいんだね・・・もう自分でするんじゃ満足できない・・・レヤード、また私の盛りがきたら、相手してくれる?」
「あ、ああ」
恥ずかしいことを平気で聞いてくるあたりはやはり魔物と言ったところか。そしてレヤードもまた、リデスに依存したことが一つあった。彼女と会ってから、一人でいるのが無性に辛く感じられた。リデスがしばらく現れなくなったときには狩りの成果が大幅に落ちるほど落ち着きをなくしていた。もう彼女なしでは生きられぬと悟ったレヤードは、思い切って口に出す。
「なあ、もし俺が言うことが嫌ならすぐに忘れてくれ」
「え、なあに?」
顔を近づけてリデスが促す、レヤードはあの初陣のとき以上に勇気を振り絞り、そして言った。
「ここで、二人で、暮らしてくれないか?」
それを聞いて、リデスの顔が今までで最高の笑顔に満たされた。もちろん、答えはすぐに頭に浮かんだ。そしてこれからの事に考えを巡らせる。仲間のハーピーに知らせて、荷物をここに運んで・・・
明日は忙しくなりそうだ。
〜Fin.
13/06/16 14:12更新 / fvo