淵源、新たなるプロローグ
キーンコーン、カーンコーン
「きりーつ、れいー」
「…………ということで、無事期末テストも終わり、待ちに待った夏休みです。みんな高校生活最後の夏休みということもあって遊びマくったり受験のために勉強しまくったりすると思うけど、ここで私から提案です!
我がクラスは学校祭の出し物にオいて見事売上額が全クラス2位という快挙を成し遂げました!そこでクラス打ち上げをしようと計画中です!時期は夏休みの中旬あたりを計画してます。みんな用事空けておいてね」
「「ハーイ!!」」
「「おっけー」」
委員長である私は、教卓に立ちひとりで喋っている。
学校祭の打ち上げの計画をタイチと一緒に人知れず計画していて、初めてみんなの前で公表した。みんなの表情を見ると、とても楽しみにしてそうで、主催である私も俄然やる気が出るというものだ。
「先生も一緒に付き添いでお願いね」
「アァ……かっテにしてろ……」
ホームルームの始まりは先生が何か一言言うことになっているのだけど、その先生はというと、気が抜けて糸の垂れ下がった人形みたいになっていた。その虚ろな目はまるで全てを燃えつくしてしまった燃えカスみたいだ。
私は先生に打ち上げのことを説明すると、生返事で承諾してくれたようだった。
みんなは先生のことを夏風邪って認識してるようだけど実は全然違くてね……フフッ♪
その証拠に、教室の一番後ろの席のランコからは燃え滾るような熱視線が常に先生に向けられている。
私は知っている。あの日、放課後なにがあったのかを。全部聞こえていたのだから。
でもあえてそれを語ることはしない。だって、他人の馴れ初めを長々と語るほど迷惑なものはないでしょ?
私の知りうる言葉で表現するとしたら、この上なく『淫靡』だった。その一言に尽きるね。
「いやーついに明日から夏休みかぁ」
「高校生活最後の夏休みだね。タイチはなにする予定?」
「俺?俺ァやりたいことが多すぎてなぁ。チャリでどこまで行けるか挑戦してみたり、3日オールでダチと遊びつくしてみたり……まぁそんなんだ」
「なるほどね。で、宿題と勉強は?」
「……そこはおいおい考える」
「はぁー……それじゃ、明日からウチで寝泊りしなよ。一緒に宿題して受験勉強もしたら短い時間でたくさんのことできない?」
「それっぽい理由つけてるようだが、お前ただ単にヤりたいだけじゃねーのか?」
「あ、バレた」
「いわれるまでもなく毎日する気マンマンだっての。覚悟しとけよ」
「ふへへ、エヘ♪夏休み終わるころには妊娠してたらいいなー」
「もしくは俺が干乾びるか、か?」
「♥♥」
私の夏休みの計画は、宿題を初日で終わらせて後は時間の許すかぎりタイチと子作りセックスしまくるという極めて利口で模範的な性活だ。
全国の学生は是非私のような優等生を見習ってほしいものだね。
「ところで、打ち上げって言ってもなにやるか決まってンのか?」
「もちろん。私たちのクラスは男子19人、女子20人、先生1人で偶然過ぎるぐらいピッタリだからね。それぞれ『打ち上げ』てもらうよ♪」
「いい考えだな。そうだ、ドリンクサーバーに俺らの体液混ぜてやりゃいいんじゃね?」
「その案いただき!」
「あとはそうだな……コレなんてどうだ」
「それよりもここをこうして…………」
「おおなるほど……………………」
私とタイチの”最後”の委員会活動が始まった。
きっとこれから先、私が委員長として名乗る場面はもうないだろう。
そのときが訪れるころにはみんなはもう…………ふふふ。
―――――
私はもう、以前の私ではない。
聞こえなかった耳は、今では耳以上の働きをする器官になっていてありとあらゆる音を聴き逃さない。
外見は貧相な体つきだったものが、見違えるように瑞々しくなり、グラビア女優顔負けのものになっている。
髪の毛は擬態こそしているけど、ひとたび変化を解くとそれは私の複数の腕代わりとなって全てを抱擁する。
足も二対あったものは、一本に収まり、けれど決して不自由なんてものではなくむしろ愛する人に絡ませて独占することのできる素晴らしい足になった。
私は変わった。タイチも私に同調するかのように変わった。
だからお母さんとお父さんも変えてあげた。
親友のランコも変わるまでそう時間はかからないだろう。
それじゃあ次はクラスを変えてあげよう。
みんな仲良く、みんな一緒に、いつまでも。イツマデモイツマデモ。
みんな同じ、同じ仲間に。変えてあげよう。
そうしたらみんなで一緒に行こう。
どこへ?それは私にもわからない。
でも私には聞こえる。
深い……ずうっと深い場所から私を呼ぶ声が聞こえる。私たちを招いている。
深淵の呼び声が私には聞こえる。
だからみんなを導いてあげよう。私がみんなを先導してあげよう。
きっとそこにあるのは素晴らしい場所。
ありとあらゆるものが澱み、濁り、白濁としている場所。
天国よりも極楽で、地獄よりも暗い場所。
さあ行こう。輝かしい無光層の領域へ。
私はアイ。東峰アイ。ただの高校三年生。
私はすこし耳が悪い。でもそれはもう過去の話。
私は化け物。ただの化け物。
精神を覗き、啜り、削り取る者。
私の体は湿ってて。いつでもぬるぬる音がする。
その音はヒトの精神を蝕む音。一度聞こえたらもう忘れられない。
一度聞こえたらもう手遅れ。
振り向けばホラ、そこには――
―普遍ナル女子高生ハ深淵ノ怪異ニナリテ異形振リマク侵略者。然レドソノ実態ハ愛ト肉欲ノ権化ナリ。響ク雑音鳴キ散シ、彷徨キ蠕動スル姿。其ノ音聞クベカラズ、視界ニ入レルベカラズ―
―――――
『――ザザッ――ジジジッ――次のニュースです。
先週から行方不明になっています骨倉高校3年C組の捜索が始まって一週間が経とうとしているところです。依然として生徒らの行方は誰一人として把握できておらず、捜査が難航しているようです。
生徒39名、教員1名の計40名がある日を境に突如として行方をくらましてしまったこの事件についてですが、捜査関係者からのコメントでは「生徒と教員のスマートフォンの電源は生きており、GPS機能も健在している。だが40名それぞれが世界中に散り散りになっており些か信憑性にかける。ある者はアルプス山脈の山頂付近にいたり、またある者は太平洋のど真ん中におり捜査資料としては不適である。恐らくGPSの故障であろう』とのことです。
警察ではこのクラスの担任である34歳男性が何らかの手がかりを持っていることを視野に入れ特に捜査に力を入れているということです。番組でも視聴者の皆さまからの情報の提供をお待ちしております。
……続いて世界株価の状況を――ザザッ――ッザザーッ――――』
「――――ザザッ――ザザーッ――ジジッ――
―――プツンッ。
……オヤ、テレビの調子が悪いですね……
………………ふぅ……結局【ドブ=アングル】を授けたあの方は戻ってきませんでしたか。恐らく今頃は優雅な毎日を過ごされているのでしょう……エエ……そんな気がします。
シルバー・キー重工社製の特殊変異型聴覚増強器:型番0165【ドブ=アングル】……それがあの商品の正確な名です。説明書どおり使用すれば魔物化はせず人間の姿のまま画期的な機械の性能を堪能できるのですが……一度でも間違えてしまえばそこでもう終了なのが取り扱いの難しいものでありまして……はい……
クレームは受け付けておりませんので一体どれほどの方が被害に合ったのかはわかりかねますが、かなりの数になるでしょうね……
記憶というものはえてして、不確かなものです。当人が忘れたといえばもうその記憶を知る手立てはなくなってしまい、たとえそれが嘘だとしても確かめようがありません。
人間はその不確かな情報の中で真実を探り、虚偽を見抜き、生きてゆかねばならないのです。
しかし記憶というものは完全に消失してしまうものではありません。ひとえにそれはただ忘れてしまっているだけというもの。脳の奥底で思い出されるのを待っているのです。
思い出すきっかけはささいなものでしょう。ある日、ふとしたことで思いだすことがあります。
きっと、彼女も忘れていた記憶を思い出して、過去の想いを取り戻したに違いありません。一度思い出された記憶はもう二度と忘れられることがないのですから……
深く、脳の深淵にまで刻み込まれた愛。それは魔物の本質的な行動原理そのものであり、魔物たらしめるものでもあります。
もう彼女は。
いえ、彼女らは地表に戻ってくることはないでしょう。
光差し込まぬ深淵の地にて永遠の愛を誓い、永劫交わり続けるのです。実に素晴らしき光景……あぁ、この上なき楽園となりましょう。
もしかしたら好奇心の強い者は地表に姿を現すかもしれません。その時、地上の人間は全てが同じ種族に成り果てるか、はたまた人間と魔物の共存をゆくのか。それは人間に委ねられることでしょう…………
コホン…………独り言も過ぎましたね。
さて……それでは私はそろそろ去るとしましょうか。深淵の地は今頃素晴らしい楽園になっていると思いますが私は少々暗いところが苦手でしてね……
それでは次はどこに赴きましょうか……
道具を求める声がそこにあるかぎり、私という存在は。この店はいつ、どこでも現れます。
過去、現在、未来、別の世界線。いつでもどこでも駆けつけます。
さてさて、次の舞台はどこになるでしょうか…………」
チリン、チリン、チリン
「オヤ……?
珍しいですね。
同じ世界、同じ時間、同じ地域で立て続けにお客様が来店されるとは……実に珍しい……
いらっしゃいませ、ここはヒトという殻を抜ける店『ぬけがら屋』にてございます。お客様のお求めの商品は…………
…………ほう。おやおやこれは………………そういうことですか。わかりました。
貴女はその短剣を手にしてしまった。
何の躊躇いもなく、まっすぐ手を伸ばしそれを掴んだ。
ならば私はなにも言うことはありません、どうぞお持ち帰り下さい。
呪われし短剣【嘆きのタナトス】を……」
「きりーつ、れいー」
「…………ということで、無事期末テストも終わり、待ちに待った夏休みです。みんな高校生活最後の夏休みということもあって遊びマくったり受験のために勉強しまくったりすると思うけど、ここで私から提案です!
我がクラスは学校祭の出し物にオいて見事売上額が全クラス2位という快挙を成し遂げました!そこでクラス打ち上げをしようと計画中です!時期は夏休みの中旬あたりを計画してます。みんな用事空けておいてね」
「「ハーイ!!」」
「「おっけー」」
委員長である私は、教卓に立ちひとりで喋っている。
学校祭の打ち上げの計画をタイチと一緒に人知れず計画していて、初めてみんなの前で公表した。みんなの表情を見ると、とても楽しみにしてそうで、主催である私も俄然やる気が出るというものだ。
「先生も一緒に付き添いでお願いね」
「アァ……かっテにしてろ……」
ホームルームの始まりは先生が何か一言言うことになっているのだけど、その先生はというと、気が抜けて糸の垂れ下がった人形みたいになっていた。その虚ろな目はまるで全てを燃えつくしてしまった燃えカスみたいだ。
私は先生に打ち上げのことを説明すると、生返事で承諾してくれたようだった。
みんなは先生のことを夏風邪って認識してるようだけど実は全然違くてね……フフッ♪
その証拠に、教室の一番後ろの席のランコからは燃え滾るような熱視線が常に先生に向けられている。
私は知っている。あの日、放課後なにがあったのかを。全部聞こえていたのだから。
でもあえてそれを語ることはしない。だって、他人の馴れ初めを長々と語るほど迷惑なものはないでしょ?
私の知りうる言葉で表現するとしたら、この上なく『淫靡』だった。その一言に尽きるね。
「いやーついに明日から夏休みかぁ」
「高校生活最後の夏休みだね。タイチはなにする予定?」
「俺?俺ァやりたいことが多すぎてなぁ。チャリでどこまで行けるか挑戦してみたり、3日オールでダチと遊びつくしてみたり……まぁそんなんだ」
「なるほどね。で、宿題と勉強は?」
「……そこはおいおい考える」
「はぁー……それじゃ、明日からウチで寝泊りしなよ。一緒に宿題して受験勉強もしたら短い時間でたくさんのことできない?」
「それっぽい理由つけてるようだが、お前ただ単にヤりたいだけじゃねーのか?」
「あ、バレた」
「いわれるまでもなく毎日する気マンマンだっての。覚悟しとけよ」
「ふへへ、エヘ♪夏休み終わるころには妊娠してたらいいなー」
「もしくは俺が干乾びるか、か?」
「♥♥」
私の夏休みの計画は、宿題を初日で終わらせて後は時間の許すかぎりタイチと子作りセックスしまくるという極めて利口で模範的な性活だ。
全国の学生は是非私のような優等生を見習ってほしいものだね。
「ところで、打ち上げって言ってもなにやるか決まってンのか?」
「もちろん。私たちのクラスは男子19人、女子20人、先生1人で偶然過ぎるぐらいピッタリだからね。それぞれ『打ち上げ』てもらうよ♪」
「いい考えだな。そうだ、ドリンクサーバーに俺らの体液混ぜてやりゃいいんじゃね?」
「その案いただき!」
「あとはそうだな……コレなんてどうだ」
「それよりもここをこうして…………」
「おおなるほど……………………」
私とタイチの”最後”の委員会活動が始まった。
きっとこれから先、私が委員長として名乗る場面はもうないだろう。
そのときが訪れるころにはみんなはもう…………ふふふ。
―――――
私はもう、以前の私ではない。
聞こえなかった耳は、今では耳以上の働きをする器官になっていてありとあらゆる音を聴き逃さない。
外見は貧相な体つきだったものが、見違えるように瑞々しくなり、グラビア女優顔負けのものになっている。
髪の毛は擬態こそしているけど、ひとたび変化を解くとそれは私の複数の腕代わりとなって全てを抱擁する。
足も二対あったものは、一本に収まり、けれど決して不自由なんてものではなくむしろ愛する人に絡ませて独占することのできる素晴らしい足になった。
私は変わった。タイチも私に同調するかのように変わった。
だからお母さんとお父さんも変えてあげた。
親友のランコも変わるまでそう時間はかからないだろう。
それじゃあ次はクラスを変えてあげよう。
みんな仲良く、みんな一緒に、いつまでも。イツマデモイツマデモ。
みんな同じ、同じ仲間に。変えてあげよう。
そうしたらみんなで一緒に行こう。
どこへ?それは私にもわからない。
でも私には聞こえる。
深い……ずうっと深い場所から私を呼ぶ声が聞こえる。私たちを招いている。
深淵の呼び声が私には聞こえる。
だからみんなを導いてあげよう。私がみんなを先導してあげよう。
きっとそこにあるのは素晴らしい場所。
ありとあらゆるものが澱み、濁り、白濁としている場所。
天国よりも極楽で、地獄よりも暗い場所。
さあ行こう。輝かしい無光層の領域へ。
私はアイ。東峰アイ。ただの高校三年生。
私はすこし耳が悪い。でもそれはもう過去の話。
私は化け物。ただの化け物。
精神を覗き、啜り、削り取る者。
私の体は湿ってて。いつでもぬるぬる音がする。
その音はヒトの精神を蝕む音。一度聞こえたらもう忘れられない。
一度聞こえたらもう手遅れ。
振り向けばホラ、そこには――
―普遍ナル女子高生ハ深淵ノ怪異ニナリテ異形振リマク侵略者。然レドソノ実態ハ愛ト肉欲ノ権化ナリ。響ク雑音鳴キ散シ、彷徨キ蠕動スル姿。其ノ音聞クベカラズ、視界ニ入レルベカラズ―
―――――
『――ザザッ――ジジジッ――次のニュースです。
先週から行方不明になっています骨倉高校3年C組の捜索が始まって一週間が経とうとしているところです。依然として生徒らの行方は誰一人として把握できておらず、捜査が難航しているようです。
生徒39名、教員1名の計40名がある日を境に突如として行方をくらましてしまったこの事件についてですが、捜査関係者からのコメントでは「生徒と教員のスマートフォンの電源は生きており、GPS機能も健在している。だが40名それぞれが世界中に散り散りになっており些か信憑性にかける。ある者はアルプス山脈の山頂付近にいたり、またある者は太平洋のど真ん中におり捜査資料としては不適である。恐らくGPSの故障であろう』とのことです。
警察ではこのクラスの担任である34歳男性が何らかの手がかりを持っていることを視野に入れ特に捜査に力を入れているということです。番組でも視聴者の皆さまからの情報の提供をお待ちしております。
……続いて世界株価の状況を――ザザッ――ッザザーッ――――』
「――――ザザッ――ザザーッ――ジジッ――
―――プツンッ。
……オヤ、テレビの調子が悪いですね……
………………ふぅ……結局【ドブ=アングル】を授けたあの方は戻ってきませんでしたか。恐らく今頃は優雅な毎日を過ごされているのでしょう……エエ……そんな気がします。
シルバー・キー重工社製の特殊変異型聴覚増強器:型番0165【ドブ=アングル】……それがあの商品の正確な名です。説明書どおり使用すれば魔物化はせず人間の姿のまま画期的な機械の性能を堪能できるのですが……一度でも間違えてしまえばそこでもう終了なのが取り扱いの難しいものでありまして……はい……
クレームは受け付けておりませんので一体どれほどの方が被害に合ったのかはわかりかねますが、かなりの数になるでしょうね……
記憶というものはえてして、不確かなものです。当人が忘れたといえばもうその記憶を知る手立てはなくなってしまい、たとえそれが嘘だとしても確かめようがありません。
人間はその不確かな情報の中で真実を探り、虚偽を見抜き、生きてゆかねばならないのです。
しかし記憶というものは完全に消失してしまうものではありません。ひとえにそれはただ忘れてしまっているだけというもの。脳の奥底で思い出されるのを待っているのです。
思い出すきっかけはささいなものでしょう。ある日、ふとしたことで思いだすことがあります。
きっと、彼女も忘れていた記憶を思い出して、過去の想いを取り戻したに違いありません。一度思い出された記憶はもう二度と忘れられることがないのですから……
深く、脳の深淵にまで刻み込まれた愛。それは魔物の本質的な行動原理そのものであり、魔物たらしめるものでもあります。
もう彼女は。
いえ、彼女らは地表に戻ってくることはないでしょう。
光差し込まぬ深淵の地にて永遠の愛を誓い、永劫交わり続けるのです。実に素晴らしき光景……あぁ、この上なき楽園となりましょう。
もしかしたら好奇心の強い者は地表に姿を現すかもしれません。その時、地上の人間は全てが同じ種族に成り果てるか、はたまた人間と魔物の共存をゆくのか。それは人間に委ねられることでしょう…………
コホン…………独り言も過ぎましたね。
さて……それでは私はそろそろ去るとしましょうか。深淵の地は今頃素晴らしい楽園になっていると思いますが私は少々暗いところが苦手でしてね……
それでは次はどこに赴きましょうか……
道具を求める声がそこにあるかぎり、私という存在は。この店はいつ、どこでも現れます。
過去、現在、未来、別の世界線。いつでもどこでも駆けつけます。
さてさて、次の舞台はどこになるでしょうか…………」
チリン、チリン、チリン
「オヤ……?
珍しいですね。
同じ世界、同じ時間、同じ地域で立て続けにお客様が来店されるとは……実に珍しい……
いらっしゃいませ、ここはヒトという殻を抜ける店『ぬけがら屋』にてございます。お客様のお求めの商品は…………
…………ほう。おやおやこれは………………そういうことですか。わかりました。
貴女はその短剣を手にしてしまった。
何の躊躇いもなく、まっすぐ手を伸ばしそれを掴んだ。
ならば私はなにも言うことはありません、どうぞお持ち帰り下さい。
呪われし短剣【嘆きのタナトス】を……」
15/08/09 22:49更新 / ゆず胡椒
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