連載小説
[TOP][目次]
s…
 それから時間あっという間に流れ……
 楽しかった学校際が終わると、すぐに面倒くさい期末テストが訪れるというのも毎年恒例となったものだ。この時期になると毎度の如く「お前勉強してないって言ってるけど実はしてるタイプだろ」とか「今回赤点取ったらレギュラーから外される……」などという生徒達の絶望の悲鳴が聞こえるのもいつも通りといったところか。
 まぁ私はそうならないために日々コツコツと勉強してたから、そこまで焦ってはいないんだけどさ。

「やばいよやばいよ……これは本格的にやばいよ……」

 だから今にも世界が滅亡しそうな表情をしている親友の顔を見るとつい気になってしまうというものだ。顔面蒼白で冷や汗をたらしながらブツブツとそう呟いている。
 彼女、ランコははっきり言って絶望的なまでに頭が悪い。
 タイチですらも「俺より頭が悪いやつは一人だけ断言できる、ランコだ」と言い張るぐらいの悪さだからね。

「今回はなにがヤバいって?」
「あっ、アイちゃん。実は……」

 彼女曰く、今回の期末テストで赤点の科目を1つでも取ったら高校生活最後のテニスの試合に出させてもらえないそうだ。
 学生たるもの本業は学業であって、部活は二の次でしかない。部活動に熱を入れすぎて、本業をおろそかになってはいけないものだ。それは誰でもわかる話だよね。
 だから彼女は……典型的スポーツバカであるランコは焦っていたんだろう。
 彼女がこの高校三年間のなかで一番力を注いできたものは間違いなくテニスだ。その最後を飾る、三年間の集大成とも言うべき大事な試合の出場権が自分の学力によって左右されるということに不安を感じているんだろう。

「ど、どどどどどどうしよう今から勉強したって絶対間に合わない……」
「ランコ、毎日復習とかシてないの?」
「復習とか一度もやったことないし……テスト前の勉強でいっつも乗り切ってきたから」
「…………」

 すがる子犬のような瞳を私に向けてくるランコ。
 あぁ、だいたい予想できるよこの後の展開が。

「おねがいアイちゃん!勉強教えて!!」
「そういうことだと思った」
「え、じゃあ……」

 もはや予定調和のようなものかもしれない。
 そういえば去年の期末テストもこんな感じのやり取りをしてたっけなぁと今更になって思い出した。
 まったく……ランコは私がいないとダメなんだから。私はタイチがいないとダメなように、ランコには私がついてないとダメなんだよね。昔っからそうだったっけ。

「いーよ。親友の頼みだし、ね」
「ああああお願いしますうううう!!お礼ならなんでもするから!」
「いいよお礼ナんて」

 そう口では言ったものの、私の頭の中ではとてつもなく崇高的なある事柄をずっと思い描いていた。そしてランコはその事柄の体験者になるだろう。
 深く、底の見えぬ深淵なる思慮はただの人間にはわかるまい。私は私の意思でもってあることをやり遂げようとしているのだからそれは誰にも止めることはできないの。
 神であろうと、悪魔であろうと、この世の如何なる万物たるものであったとしても私のこの深淵の意思を砕くことは適わない。
 ああ、今からランコにすることを想像するだけで興奮のあまり変身が解けてしまいそうだ。

「それじゃあ今週の土曜、ウチで勉強会ね」
「ありがとう〜!!おやつはわたしが持ってくから、アイちゃんは何も準備しなくていいよ!」
「そこまで感謝されることなのかなぁ」
「アイちゃんは私の救世主ッ!なの!」

 私に勉強を教えられるだけで、さも赤点を免れたかのように勘違いしているようだけど最終的には自分の実力を信じるしかないのを忘れているんじゃないだろうね?
 と思ったけど、さすがにそこまで言うのは口うるさすぎるので言わないことにした。

「多分タイチもイるだろうけど気にしないでね」
「あ、タイチも勉強的な?」
「ん……まぁそんな感じかな」

 あの日以来タイチは私と一緒にいる時間が多くなった。そりゃ彼氏彼女の関係だから当たり前えっちゃ当たり前なんだけどさ。
 タイチの親は結構な放任主義らしく、息子の帰りが遅くてもとやかく言うことはしないらしいので私たちにとっても好都合というわけだ。最近の私たちといったら、放課後は屋上でセックスするか家に行ってセックスするかのだいたいどちらかだから帰りも遅くなってしまうのは仕方のないことで……
 ウン、仕方ない。たっくさんの精液を注いでもらってこの上なく幸せになってお腹一杯になって。
 全部当たり前のことを当たり前のようにやっているだけだよね。何もおかしいことじゃあない。
 ……むしろおかしいのは皆の方なんじゃないかな、って最近思うようになってきた。こんなにも気持ちよくて幸せになれて愛し合える行為があるというのに、やれ勉強だやれ進学だって、そんなのツマラナイ。どう考えても退屈すぎるよねぇ。

「……なんかヘンな音しない?湿った音みたいな……」
「気のせいでしょ。さ、次の授業始まっちゃうよ」

 気のせいじゃなくて、音の原因は目の前にいるんだけどね。
 ネタバラシしたいところだけどここはあえて秘密におこう。





―――――





 土曜日。
 普段なら部活動は普通にあるのだけど、テスト期間だからか全部の部活は活動を休止している。
 ランコの所属しているテニス部も今時期は部活がない。
 だから、土曜日にランコと一緒にいるってことは結構久しぶりだ。それも町に買い物に出かけるんじゃなくて家で勉強ときたものだから尚更久しぶりなのかもしれない。

「おじゃましま〜す」
「いいよいいよそんなの、親は両方とも仕事だから誰もいないんだし」
「他人の家に上がる時はどんな状況でもおじゃましますぐらいは言わないと!マナだよマナー」

 靴をそろえ、帽子を脱ぎややかしこまった調子で家に上がるランコ。いくら久しぶりだからといってここまで律儀にならなくてもいいんじゃないかな。
 逆にそこまでされると、まるでなんだか親しい友人の仲じゃないみたいじゃないか。ランコぐらいの親友なら好き勝手に上がって実家のようにくつろいでもらって構わないんだけど……
 まぁでも礼儀がよくて気分が悪くなるってことはないから別にいいんだけどね。彼女の育ちのよさが垣間見える瞬間だ。育ちがいいのに成績が悪いのはあまり気にしてはならないケド。

「いや〜アイちゃん家久しぶりだなぁ」
「ホントだね。最後に来たのは去年の今時期だったっけかな」
「あっははは……去年も確か期末テスト教えて!って駆け込んだ気がするよ」
「去年から全く成長していないんだけど、どういうことかな?」
「それは〜その〜……」

 軽く微笑みかけながら睨んであげると彼女はしどろもどろと後ずさりをする。
 今年も去年も全く同じ理由でランコを家に上げてたんだった。今思い出したよ。
 確か去年は「来年はウチに勉強で来ることがないように頑張んなさいよ」って言った記憶があるけど、残念ながらその助言は果たされることはなかったようだ。
 まったく、このテニスバカはいつまでたってもダメダメなんだから。そんなダメダメな親友にはオシオキを加えなきゃだめだよネ。ペニスバカにでもなってもらわないと。

「ヒッ!?ア、アイちゃん、あ、あれなに?あんなでっかいイカ見たことないよ……」

 彼女はふるふると震える指を台所のほうに指していたので、私はその先を見てみる。
 その先には台所のシンクの上に堂々と突っ立っていた巨大なイカがあったのだ。食腕の先端から頭部の切先まででおおよそ2mくらいはあるだろうか、毒々しい色をした紫色の巨大イカがいた。

「ん?あーアレはタイt……」
「タイ?」
「…………あ、ああ、そうそう鯛だよ。お父さんよく趣味で釣りに行くんだけどさ。鯛を釣るための餌としてイカ用意してるんだよ」
「へぇ〜そうなんだ!こんなでっかい餌はじめて見た!」

 我ながら無理のある嘘だと思った。
 けど、頭の緩いランコはどうやら本当だと信じてくれたらしい。ホッとしたわ……
 そう、このイカはイカの姿こそしているけれどその実態はイカならず。
 鯛の餌ではなくタイチそのものだ。
 化け物の私のパートナーにふさわしい姿をしたタイチ。ああなんておぞましくて愛くるしい姿なのだろう。
 その瞳は瞳孔が無く、ただ黄緑色の蛍光色に仄暗く発光しているだけで、瞳から感情を読み取ることはできない。今まで四本だった四肢は十本に増え、私を愛撫するためだけに特化した腕は魅力的過ぎるものだ。その触手はただ私を愛撫するだけにとどまらず、私のナカに入れて射精までできるのだから至れり尽くせりといったものだ。
 正直ランコとの勉強会なんてほっぽり出して今すぐにでもタイチと営みたいんだけど、今は辛抱するしかない。ランコにだってランコの用事があるんだからそれを蔑ろにしちゃいけないってモノだ。

「な、なんかこっち見てない?」
「気のせい気のせい。さ、部屋行くよ」
「は〜い。あれ、そういえばタイチはまだ来てないの?」
「……後から来るってさ」

 すでに対面しているんだけどね。
 これぞまさに知らぬが仏ってやつだ。ま、たとえ知ってたとしても知らなかったとしても、もうニゲラレナイんだけどさ。
 この家に入った時点でもう終わってるんだよ。いや、もっと言えば私と親友になった時点でもうこうなる運命だったのか。

 階段を上り私の部屋へと案内すると、ランコはおずおずとした様子で私に続いて部屋に入って来た。もう、そこまで怪しいものなんてないったら。もっと怪しい人物が目の前にいるってのに、ねぇ。
 その胸、その色気。私と同じ化け物になったらどれほど魅力的に進化するだろうか。きっと私なんかよりも格段と艶かしく、淫靡になるに違いない。
 だけどその色気は彼女が恋しているというとある人物にだけ発揮させられるものなんだろう。その人物とは一体誰なのか、気になる、気になるナァ♪

「それじゃ、なにから勉強教えてもらおっかな〜」
「あのさランコ。あんたもしかしてタダで教えテもらおうだとかいう魂胆じゃないよね?」
「えっ……でもお礼なんていらないって」
「それとこれとは別」




 ぐじゅっ




「うっ、またあの音……」
「へぇ聞こえるんだ。抑えてたつもりなんだけどな」
「なん、のこと?」
「話を逸らさないでよね。そうだねぇ……それじゃアレ教えてくれたら私も勉強教えてアゲル♪」

 ぐじゅりと笑う。
 ニンマリと開いたその口内では粘ついた粘液が糸を引いているのを彼女はまだ知らない。一度浴びればもうモドレナイ魔性の粘液、私の体液は今にも弾けそうに溜まっている。
 ランコの警戒心が鈍過ぎるのか、私の隠密が完璧過ぎるのか。
 彼女は身の危険が迫っていることを何一つ知らないし気がついてすらいない。でもそのほうがやりやすいから好都合だ。

「アレって?」
「アレったらアレよ。ランコの好きな人、私知りたいなぁー」
「えっ、それは、その……」

 見るからに困惑している。それほどまでに言いたくない人なのだろうか。
 そういえばこの前もめんどくさいとか厄介って言ってたっけ、うーむこれは困った。
 あわよくば私が恋のアドバイス的なことをしてあげようかと思ったんだけど、好きな人がわからないんじゃどうしようもないよ。

「どうして言えないの?私たちの仲でしょ、やましいことならナイショにしておいてあげるからさ」
「それは、そう、なんだけど……」
「どーしても、ダメ?」
「う、うう〜……」

 あと一押し!
 この調子だといい感じに聞き出せそうだ。
 意外とランコって頑固なところあるから結構崩すの難しいんだよね。その頑固さが吉と出るか凶と出るか見ものだ。
 あー、もう凶と大凶かな?吉なんてなかったわ。あはっ♥

「やっぱり言えないぃ!ゴメンアイちゃん、やっぱ無理!!」

 ……あー、そう。そうなんだ。ふーん。
 ちょっと私イラっときたよ。私にしては珍しく他人に対してイラついたよ。
 そこまでして言いたくないんだ、頑なに?ふーん。
 私はさ、今までランコにたくさん勉強教えてあげたし奢ってあげたし恩を売ってるはずなんだ。
 そりゃ私だってランコに助けられたことあるよ?タイチが私を助けてくれたようにランコだって同じだ。
 でも恋愛相談くらいさせてくれたっていいじゃないか。そこまでして言えないってことはきっと何かしらのやましい理由があるのは確実なんだろうケド、それを踏まえて打ち解けてくれるのが親友ってモノなんじゃないだろうか。
 いいたいことも言えずに自らの内側に秘め続けて、ランコはそれでいいのだろうけど、それじゃ私が納得いかない。
 私だってランコの世話になってあげたいんだ。だから教えてもらいたいだけなんだ。
 それなのにそこまで口を開かないだなんて。
 ……ふーーん……

「ランコ、それ大凶だよ」
「へっ?どゆこと」

 すうっ、と大きく息を吸って私は言った。

「私ね、タイチと付き合ってるの」
「…………ええええええっ!?ホントに?いつから?というか全然そんな素振り無かtt……」

 ゴボゴボと濁音交じりの声で語り始めた。

「私が告白したのが学校祭初日の放課後でね。お互い子供ころからずっと好きだったんだけど、常に一緒にいすぎたせいで好きって感覚が麻痺してて今の今まで気づかなかったんだ。でも、告白は成功して、そのまま性交しちゃったんだよ、なーんて。それからというもの、毎日欠かさずにセックス三昧でとっても幸せなんだぁ。ねえわかる?わからないでしょ、ただの人間には決して理解できないものなんだから。コンドームもなしに毎回精液タップリ中出ししてもらってさ……飽きるどころかむしろその逆、中出ししてもらうたびにどんどんもっと欲しくなってきちゃって今じゃもう半日に一回精液補給しないと乾いて頭おかしくなっちゃいそうなんだよね。ランコも好きなヒトとセックスする妄想くらいはしたことあるでしょ?そのとき、幸せじゃなかった?幸せだったよねぇ、そうに違いないはずなんだ。だって好きなヒトとセックスできるってこの世の中の何よりも尊重すべき大切なことであって、一番優先しなきゃならないことなんだから当然のことだよね。人間のランコにはまだ理解できないか。そうだ、ホラ見てこの髪の毛、ぐじゅぐじゅしてて気持ち悪いでしょ?デモ私たちにとってはかけがえの無い大切な触手なんだ。この触手をもってすれば相手の考えていることなんて手に取るようにわかっちゃうし、セックスの時には愛撫することだってできる。どれも人間にはできないことだよ。だからさ、ランコも一緒に、人間なんか辞めて一緒になっちゃおうよ。そうすれば例の好きなヒトとだって確実に、100%結ばれることができるんだしね。損なんてないよ。得しかないんだって、私が証明してあげる。一緒に化け物になって、愛するパートナーと共に肉欲の赴くままに営むことができるんだからこれ以上ない幸福が待ってるに違いないんだ。愛するパートナーの子供を妊娠してさ、出産して、子育てして、教育して、そして立派に成人したらいつの日か孫ができるの。あぁ……想像するだけで胸が焼け焦げるよう。孫ができてひ孫ができて玄孫ができて……延々と続いてゆくその系譜は私個人が生きた歴史にもなるし、純粋に子孫繁栄として喜ばしいことだよね。寿命の短い人間にはそれは適わない。せいぜいひ孫の顔を拝めれば上々だろうね。だけど、化け物になった今ならわかるんだ。生命力が満ち溢れてていつまでも長生きできそうだって、さ。先祖十代だって、百代だって生きながらえそうな気がするの。それってとっても素敵なことだよね、間違いない。ねぇランコ、私たち親友だよね。いつまでも一緒だよね。だったら……お互い一緒にいつまでも長生きして、これからの一生を一緒に楽しんでいこうよ。そのためには人間という殻を捨ててさ、新しく生まれ変わらないと。ね?」

「ヒッ!ア、アイちゃん……そ、そその髪の毛な、なに……きゃぁッ!!」

 あぁ、いつもの私の悪い癖だ。語り始めるとキリがなくなっちゃう。
 一体ランコは私の話をどこまで聞いていたのだろうか。今目の前で怯え縮こまっている彼女にそれを問うたとしても、きっとまともな答えは帰ってこないのだろう。
 だって私の姿を見てしまったのだから。
 私はいつの間にか人間に化けていたのを解いて、化け物の姿へと変えていた。
 着ていた衣服を突き破り、内側から触手が突き出てくる。もはや服の原形を留めないそれは、ただの布切れとなって私の足元に破れ落ちる。
 それを蹴飛ばそうとしても、私の足では布切れは触手の粘液にくっついてしまって適わないというものだ。しょうがないから手で取り除いて、私はその全貌を明らかにさせた。

「ア、アイちゃん、なの……?その姿、なに……さ……」
「私は私、間違いなく東峰アイだよ。でも、もうランコの知るアイとはちょっと違うかもね」
「い、いやだっ!寄るな!き、きききもちわるいっ!!」
「この姿を見て”きもちわるい”か。やっぱそうなるんだ。残念」

 私の姿を目に捉えただけで彼女は軽い錯乱状態へと陥っていたようだった。
 ランコの心拍数がみるみる上がっていくのが聞こえる。もう、補聴器なんて無くても全ての音が聞こえちゃうんだ。
 ありとあらゆる音が、言葉が。私の耳に入ってくる。それらを全て理解し、把握できる私がいる。まるで聖徳太子の上位互換だ。

「私は言ったよ?私の好きな人を教えたんだからランコの好きな人だって教えてくれてもいいんじゃないかな」
「た、助けてェ!!おねがいだから、ヒィッ!!!」

 ……そんなにこの姿怖いのかな。
 ま、いーや。そこまで教えてくれないならもう無理やり教えてもらうしかないよね。


 パチンッ!


 私が湿る指を鳴らすと、突如私の部屋のドアが開いてある者がそこに姿を現した。
 私の愛しいパートナー。一生を誓った相手がそこにいて、ランコをはさむように私と向かい合う。
 部屋のドアにはイカ状態のタイチがいて、その目の前でランコが尻餅をついていて、更に目の前には私がいる。
 ランコはもう、ニゲラレナイ。

「い、いやぁ!!!ヤダッ、放してぇ!!」

 タイチの触手がランコの四肢を縛り付ける。いくらテニス部で筋力を鍛えていたからといって、男子高校生の筋力に女子が勝てるなんてことは難しいものだ。
 それに化け物になった人ならざる怪力が備わっているのだから、ランコが逃げる手立てはもう、ない。
 もう終わりだよ、ランコ。
 いや……始まりなのかな。新たな生物として生まれ変わる、そのスタートラインだ。

「タイチそのまま縛り付けててね」
「タイ、チ……?なに言っているの!?もう、ワケがわからないよう……」
「ランコを縛ってるそのイカ、タイチだよ。とってもカッコイイでしょ♪だって私の彼氏なんだもん」
「もう、ヤダァ……助けて…………誰か……」








「ただいま」
「ただいま〜」







 ん?
 この声は……お父さんとお母さんかな?
 まだ仕事の終わる時間じゃないはずなんだけど……随分速い帰宅だ。
 私はふと、ランコの顔を見てみると、絶望に染まりきった表情はほんの僅かな希望を見出しているようで、渾身の力を振り絞って叫んだ。

「たっ、助けてくださいぃ!!!!誰か、だれでもいいからたすけてー!!!」

 あっ、バカっ!近所迷惑じゃないそんなに大声出したら!
 ああ、もう両親が階段を上る音が聞こえる。見つかっちゃうよコレ。
 まいったなぁ。

「どうシたアイっ!!……って」
「あら〜ランコちゃんにタイチくんイらっしゃい。ランコちゃんは久しぶりねぇ」
「近所に迷惑かかるんだからソんな大声出すんじゃないぞ、アイ」
「大声だしたのはランコだってお父さん」
「お、おおごめんごめん。ランコちゃん、ウチは壁が狭いからちょっとボリュームを下げてくれないかな」
「それじゃ母さんたちは先にご飯食べテルからね♪アイもタイチくんと一緒に食事しなさい〜」
「わかったってばお母さん」
「アイは妹が欲しがっていたからね。お母さん久しぶりに頑張っちゃうよ♪」

 そう言って両親はそのまま下へ降りていった。
 なんてことはない普通の会話。そう、ごくごくありふれた普通の会話だ。
 だけどランコの目に見えたモノは普通じゃないんだろう。
 だって、私がお父さんと呼んでいたモノはイカで、お母さんと呼んでいたモノは私と同じ姿をした化け物なんだから。半裸で全身に触手をまとうお母さんと、巨大なイカの姿をした紫色のお父さんだ。
 ランコの目から光が消えかけるのがハッキリと見えた。

「は……はは、なに、アレ……」
「もう、いいよねランコ」

 仰向けに縛り付けられるランコに私は跨る。
 もう彼女は叫ぼうとしなくなっていた。戦意喪失といったところだろうか。
 肉食動物に襲われる草食動物というのは始めこそ全力で抵抗するが、いざ捕まるとそれまでの逃走劇が嘘であったかのように呆気なく抵抗しなくなる。恐らく自分の死期を悟るのだろう。
 だからランコもそれに似たようなものなのかもしれない。恐怖と絶望に埋め尽くされた脳内で、自分は草食動物であると理解し、私という肉食動物に食われるということを想像したのだろう。
 だけどその結末は違う。
 草食動物はそのまま捕食され生命を終わらせる。けれど私は違う。
 私は人間という生命を終わらせこそすれど、手越ランコという生命を終わらせることはしない。むしろ昇華させると言ったほうがいいのかもね。
 私の確固たる意思を持って、ランコを造り替えるんだ。

「や、やだっ……はなし……」
「我慢しないほうがいいよ。初めては結構キツいから♥」

 私はランコに跨りながら、両側面の二対の触手をうねらせる。
 あの時タイチにやったときと同じように、お母さんにやってあげたときと同じように、ランコにも同じことをしてあげよう。
 触手の全容は粘液に覆われて、ビクンビクンと脈打ってる。先端からは私の体液が溢れ出ていて、今か今かと待ち望んでいる。

 じゅるっ
 ぐちぃ……

「ひうっ!!?」

 触手がランコの頬を伝う。
 薄ら寒いその外見とは裏腹に触手は燃え盛るように熱く、血管を浮かび上がらせながら粘液を彼女にこすり付ける。粘液が付着した部分はとっても痒くて疼き始めて、タマラナクなるの。虫刺されとか皮膚疾患だとかそういう次元の痒さじゃなくてね、もう体の内側から皮膚の裏側まで全てが疼いて仕方なくなるの。
 そしてその疼きはじんわりと全身に行き渡って……あとはもうわかるよね。

「どうして……こんな……ぁ……」
「どうして?そんなこと考えたこと無かったよ。だってこれが当たり前なんだもん」

 今の私は記憶と外見は人間の時をベースにしているが、中身はすっかり変わってしまっていた。これは悲観することじゃなくてむしろ喜ばしいことだ。
 避妊行為とは悪そのものであり、絶対に許してはならない。コンドームを使用した者は異端審問にかけるレベルで咎められるべきだ。
 ピルは危険ドラッグとして厳重に取り締まり、バイアグラは医療機関以外でも手軽に買えるようにドラッグストアーに陳列する必要がある。
 床オナをしている者は将来が危ぶまれる可能性があるので、小学校の段階で道徳の授業として正しいオナニーのやり方を教えるべきだ。
 そう、それが正常でアタリマエのこと。なーんにもおかしくないし、教育的に必要不可欠なことなの。

「当たり前のことを当たり前にして、なにかヘン?私はちゃんと倫理と理性に則ってヤってるつもりだよ」
「……ぁ、あうぅ……」

 ああ、もう目が錯乱しちゃってる。心が、折れちゃってる。
 こうなったら何言ってももうダメなんだよね、お母さんのときと同じだ。
 それじゃ、もうやっちゃおうか。
 うんそうしよう。
 私はランコの耳介に触手をあてがうと、そのまま流れ込むように耳の中に入れ込んだ。


 にゅるんっ ずぷぷ……

 ぐち ぐち
 
「へぁっ!あ、な、ナニ、こここ、こえれ……?」

 ランコは残り少ない正気を振り絞り、耳の異常を必死に理解しようとしてるんだろう。
 歯をガチガチ鳴らして、目を見開き、恐る恐る自分の耳を触っている。そうして自分の耳の中に異常なるものが侵入しているという事実を確認すると、必死に触手をつかんで外へ外へ掻き出そうとしているようだった。

「や、やあぁぁぁぁ!!ナニ、これ!?ッやめ、あぅ、滑って……」

 でも、ムダ♥
 ぬるぬるに滑る触手はランコの指の間をするりと通り抜け、その勢いは留まることを知らない。まるで素人がやるウナギの手掴み体験のようだ。

 
 ぶち ブチブチブチブチッ


「あ゛っ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ッッ♥♥」


 鼓膜を突き破るとやっと始めて彼女の嬌声が聴こえた。
 ランコの耳まんこを私の触手ペニスが犯して、今ちょうど耳の処女膜である鼓膜を突き破ったんだ。たぶん気持ちよくてタマラナイんだと思う。だって現に私が気持ちイイんだもの、ランコだってそうに決まってる。
 耳から流れ出るのは破瓜の血ではなくて、粘液と漿液が混ざり合った生ぬるい体液。
 その体液を一口舐めるとこれまたなめらかな舌触りでもっと味わってみたくなる探究心が生まれてしまう。
 デモ、やっぱり一番美味しいのは精であって、その次が脳で……じゃあこれは三番目に美味しいものなのかな。

「はい到着〜どう?どう?今まで感じたことナイでしょ、こんなの♪」
「あっ、ぐぐうぐぐ、あえっ♥あ、ンアァッ!」

 今回が三人目となれば私も少し手馴れてきていて、あっという間に脳髄までたどり着くことができてしまった。
 ここから頭蓋を溶かしちゃってもいいし、脳幹を私色に染めちゃってもいいんだけど、まずは最初にやるべきことがあるよね。

「ランコが言わないから悪いんだよ。無理やり覗いちゃうンだから」
「あ、ガッ、や゛めって……!お゛ねがい゛だがらっ……ミ゛ナイ、デッ!」
「口ではいくらでも抵抗できるけどね。無理だよ。もうランコの一番大事なところに入っちゃった♪」
「ア゛っ、やめっ、あ゛あ゛っ!!ダメ゛ッ!だめだめだめ゛!!ダめェーッ!!!」

 ぐじゅぐじゅぐじゅっ、ビチィビチィ!
 ゴリゴリッ、シャグッ
 ……ボグンッ!


「あ゛うっ♥」


 …………


 …………


 …………


 …………


 …………


 …………


 …………見えた。


 見えちゃった。
 そっか、ソウナンダァ。ふふっ、そういうことだったんだ。
 なるほどそいうことね。全ての合点が一致するわ。
 フフ……アハハ!!!
 アー、素敵♥♥

「……ランコ、この人好きだったんだ」
「ひぐっ、ひど、ヒド、い゛よ……アんま゛り、だ、よ……」

 正直予想外だった。
 まさかこの人を好きになっているだなんて誰が想像できようものか。
 もちろんこの人を私は知ってるし、この人も私のことを知っているだろう。
 でも、まさか恋愛感情に結びつくとは思いもよらなかったので、内心ドキドキしながらも実はとってもワクワクしている。
 ランコとこの人が結ばれれば実に喜ばしいことだ。きっとクラス全体から祝福されるだろう。
 だから私は、二人の仲を取り持つ愛のキューピッドになる。なってやるんだから。

 ぐじゅぎゅじゅぐじゅぐじゅ
 ごぼごぼごぼごぼごっ


「あっ、ああっ、ナニ、ゴれ゛ッ、あっ、がぁっ♥」

 触手を使って彼女の脳を刺激してあげる。
 タンパクと脂質の塊は思った以上にやわらかいもので、少しでも触手を滑らせれば大事な中枢まで傷つけてしまいかねない。いや、もう傷つけちゃってるのかもしれない。
 でも、彼女は。ランコは平気だ。
 顔面から涙と鼻水と唾液と耳汁を垂れ流して、ぐっちゃぐちゃのどろどろになっている。そうなりながらも全身を痙攣させて快感によがっているのだから、体の運動神経はまだ健在という証拠になる。

「キモチイイでしょ?頭の内側から感覚神経を刺激されるのって人間じゃ体感できないんだから」
「も、もうっ、ヤメ♥えぇっぅ、ア、あァぅ♥」

 彼女がぐちゃぐちゃになっているのは顔だけじゃない。
 スカートの内側から覗くパンツ。
 薄い水色のパンツはマンコを中心にじっとりと濡れているのがわかった。
 パンツ越しからでもわかる。入り口をひくひくさせて、ありもしないあの人のペニスを待ち望んでいる。
 けど、今ここにいる男性といえばタイチと私のお父さんだけだ。タイチのペニスは私専用だし、お父さんのペニスはお母さん専用だ。今この場所にはランコの望むものは存在しない。
 それは頭で理解していても、メスとしての本能が望んでいたのだろう。自分の穴を満たして欲しいと。

「想像してごらん?今とってもキモチイイ……その気持ちよさはあの人のことを想うともっと、もおっと強くなる……おマンコがぐちょぐちょに濡れてあの人のペニスが欲しくてタマラナァイ……」
「あっ……ああっ♥あ、やだ、やだや゛だっ、アァッ♥」
「挿れたらどうなるのかな?ランコのお腹のナカにあの人の一部が侵入してきて……いっぱい突かれて……ほら、気持ちいい、キモチイイ……」
「ふぁ、やだ、ダメ゛ッ、な、にか、ヘン、だ、よっ♥」

 そうやって暗示をかけると、彼女の脳内ではあの人の映像が所狭しと上映されて、まるでその光景は全席満員の映画館のようだ。
 だから私はポップコーンの変わりにランコのニューロンをつまみ食べるという算段なワケ。
 ただ、食べるだけだと逆に申し訳ないから、ニューロンの隙間に私の愛情たっぷり込めた粘液を放出させる。その粘液は脳に付着するとすぐさま結合して、構造を変化させるんだけどもうここら辺の説明はしなくていいよね。
 遺伝子の塩基配列をバラバラに解いて、人ならざるものへと組み替える。その光景を見るのは三度目だけど、やっぱり神秘的でついつい見入ってしまうものだ。
 人の数だけ存在する遺伝子はその組み換えもまた人の数だけ存在する。決して同じものは二つとない、ランコならランコだけの光景が見れる。
 万華鏡のように、無限の可能性と組み合わせがあるんだ。

 ぐちょっ、ずぞっ、ぐじゅっ、ぞりっ
 ビキビキビキビキッ!!


「あ゛ァ!も、もうや゛らっ、ゆるじ、アッ♥」
「許して……って別に私ランコのこといじめてるワケじゃないよ。ただもっと素直に、あの人への好意に開放的になってほしイだけ」
「あ゛たまが……シロ……アァ、なに、もかんがえ……」

 理性を極限まで削り取り、本能の部分まで刷り込む。
 あの人を愛したい、繋がりたいという理性で押さえ込んでいた本能をさらけ出すんだ。常に理性の外側に弾き出された本能は抑制の効かない暴走機関車。
 私はそのレールを引いてあげるだけ。
 レールさえ引けばあとは勝手にランコが発進するんだから、ね。

「やめっ、イクっ♥アッあっあっ、アァ♥ダメッ、イッちゃっ、う!!」

 ペニスが膣を突き刺すように、私は触手で脳をブスブス突き刺す。
 普通なら確実に死ぬだろうね。
 でも、死なない。それどころか気持ちよすぎて何も考えられない。
 血は出ないし、神経も傷つけない。そこにあるのはただのカイカンだけ。

 ぐっじゅ、じゅっぷ、ごりっ、がりっ、ぐじゅっ

「キモチイイでしょ?でも、あの人に突かれた方がもっと気持ちいいよ。あの人が欲しくてタマラナイ、今すぐにでも会いたい……さあ、会ってナニしたい?」
「あ゛ぁ……あ゛いだ、い!エッちし……たい゛……ふぁっ……」
「そうだよねぇ、エッチしたいよねぇ、もっと気持ちよくなりたいよネェ。でも、今のままじゃダメ。もっとキレイにならなきゃ。あの人を悩殺するぐらいに変わらなきゃ」
「そ、うだよね……キレ、イ…………な゛り、たい……もっと、キレイに……」

 アハッ♥
 もうここまでくれば9割方堕ちたも同然。
 でも残りの1割が一番大切だ。最後の壁をどうやって崩すかによって大分変化が変わってきちゃうからここは慎重にやらなきゃならない。


 ぐじゅっ、ぐじゅっ、ぐじゅぅ!!
 どちゅっ、ごりっ、ぐぢゃ!!



「あ゛はあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ……♥♥も、もうダめ゛ェっ!イくっ、イっちゃ……」
「いいの?私なんかにイかされちゃっていいの?初めてはあの人にイかせてもらわなくていいの?おマンコぐちゃぐちゃにされて精液いっぱい出してもらうんじゃないの?ホラ、ホラホラホラ早くしないとイっちゃうよ?」
「あ゛ぅっ……い、いヤ゛ダッ!イきたくな……アァッ、イクッっ、んあぁぁっ!」


 どちゅっ、どちゅっ、ボグンッ!
 ぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅ



「全身にキスされて、愛撫されて、肌で触れ合って、愛を確かめ合って、キモチよくなりたいんでしょ?中出しされて子作りセックスしたいよね、いっぱいいーっぱいセーシ注いで欲しいよねぇ♥」
「も、うダメッ……やめっ、テッ……あぐぅうっぅ!」
「じゃあイっちゃだめじゃない?どうしてイこうとしているのかな?ねぇ、ねぇねぇねぇねぇねぇ?」

 ……頃合かな。
 ランコの目はもう瞳孔が開きっぱなしで光が宿っていなかった。全身の震えは収まり、逆に死んでしまったかのようにぐったりとしている。
 それでいい、それでいいのだ。
 私は最後の工程に取り掛かる。

「もうすぐでランコ、イっちゃうよ。私にイかされて悔しい?キモチイイ?初イキをあの人で体験できなくて残念だったね」
「ヤダァ!!イきたくな゛……ンアアァッ♥」

「想像するともっと気持ちよくなる、でもイキたくない。フフッ、葛藤してるしてる」


 ぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅ

      ぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅ

  
「キモち……でもっ、だ、め……んうぅ♥♥」

                  ぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅ
 
  ぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅ


「ほらほらイっちゃうよ?もう脳がイキたいって叫んでる」   ぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅ




    ぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅ




「あはぁぁっ、デモ……やっぱりダめ゛っ、いきだくないッ♥」

 ぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅ

                    ぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅ


        ぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅ




「ホラッ、もう……イっちゃえッ!」

  ぐじゅぐじゅぐじゅ       ぐじゅぐじゅぐじゅ


        ぐじゅぐじゅぐじゅ


  ぐじゅぐじゅぐじゅ   ぐじゅぐじゅぐじゅ
                            ぐじゅぐじゅぐじゅ


    ぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅ


           ぐじゅぐじゅぐじゅ


「あっ、ダメっ……イクッ、アッ、イクッ!!ああぁぁあああ♥♥♥――――――」












































































   「はい、オシマイ」














































――――――――――




「――――――ぁぁぁぁああああ!!!!!!」


 ガバッ!!!


 ハァ……
 ハァ…………
 ……ッッはぁ……
 夢……?
 夢にしてはすっごいリアルで……ううん、夢に違いない。
 ああー、にしてもすっごい夢だったナぁ。
 見たこともないような化け物に襲われて、頭食べられちゃうなんて……うう、思いだけでも震えちゃう。
 うぅん…………悪夢だ。悪夢を見たせいで頭が重いなぁ。しかも熱っぽいし〜。
 からだが火照ってる。なんだかあっつい。

「ランコー、朝ご飯よー降りてらっしゃーい」
「はあ〜い」

 もぐ、もぐ、もぐ。
 ウーン、いつも通りの朝ごはん。ご飯に味噌汁に昨日の夕飯の残り物。
 ……あれ、昨日の夕飯ナニ食べたっけ?思い出せない……
 というか家に帰ったっけ……あれ……??
 まぁいいか。

 ごちそうさまー!
 いってきまーっす!!

「おはようアイちゃん!あ、今日はタイチも一緒なんだぁ〜」
「おはようランコ。よく眠れた?」
「そレが聞いてよアイちゃん!なんか変な悪夢見チゃってさぁ。おかげで寝起きサイアクーって感じだよ」
「おっ、ランコにも寝不足ってあるんだな。てっきりいつも爆睡してるかと思ってたぞ」
「もーなにそれ!デリカシーないよタイチそれ!!」
「クスッ♥まぁまぁ二人とも、朝からそんなに元気良いと放課後疲れちゃうよ?」
「そうだぞランコ。むしろ放課後がメインの活動だからな」
「ちょ、なにさ〜二人とも〜ってかなんかヌメヌメしてるし〜」

 いつも通りの通学路にいつも通りの友人との会話。
 あぁ、高校生活って最高!青春万歳!!
 これであとは素敵な彼氏とかいたら最高なんだけどね〜




 ぐじゅっ





 キーンコーン、カーンコーン


「きりーつ、れいー」



「はいおはよう。この前やったテストの答案返すぞー。相沢ー、上田ー、金山ー……」

「…………高島ー、武田ー、手越ー」

「おい手越、何だこの点数は」
「あっ、いやぁ〜ははは……」
「…………放課後補習するから帰るなよ」
「そ、そんなぁ!先生ちょっと待ってくださ」
「帰るなよ?」
「ふぇぇいぃ……」



「ランコ何点だったのよ」
「はい……」
「うっ!……こりゃひどいわ。補習くらっても文句言えないね」
「うぅぅ……アイちゃんは何点?」
「92点」
「…………泣きそう……」



 ぐじゅっ




 キーンコーン、カーンコーン


 ああ放課後だ。
 テスト期間ならいつもならそのまま家に帰って勉強…………いや、しないかもね。
 結局テスト直前になって焦るパターンは目に見えるんだもん。
 はぁ〜わたしっていっつもこう。
 のんびりしてて、気がついたら時期が迫ってて……
 ばかばかばかっ、わたしのばかっ。
 先生が補習してくれルんだったらしっかり勉強してテストでイい点取らなきゃ!
 テストでいい点とってお母さんに褒められて〜うへへ〜
 あとはあの人にも褒められたいなぁ……
 褒められてご褒美も貰っちゃったりして。大人のムードを体験して、夜は素敵なディナーを頂いちゃって……そして夜はホテルで一夜を明かして熱い夜をすごす……あはぁ♥愛されたい♥♥
 ……ってあれ、私ナニ考えてるの?
 こんなこと、前は考えなかったはずなのに。

「おうランコ、災難だったな」
「タイチ。今日はこれから勉強?」
「ああ、アイん家で教えてもらうんだ。あいつ無駄に頭イイからよ。ま、勉強よりもセッ……別のことメインなんだけどな」
「びっくりだよね〜今日のテスト答案だって92点だよ?ホント……雲の上だわ〜」
「ま、せいぜい補習頑張るこった」

「タイチーなにしてんの早く行くよー」
「おー今行く!んじゃ、またな」
「……と、そうだった。ランコ、これアイからの贈り物だ。これ耳につけると英語のリスニングが聞き取りやすくなるらしいぞ。絶対つけとけよな!!」

 そういって貰ったのは小さな豆粒みたいな機械だった。なにこれ?
 ……というか、タイチとアイちゃんって最近やけに仲が良いような……というか常に一緒にいるような……
 も、もしやこれってラブなやつ!?もしかしてそんな関係になっちゃってるパータン!?
 はわわ……これは後で深く追求しなきゃダネ……
 私はとりあえず補習頑張らなきゃ。





 ぐじゅっ




 すーはー、すーはー。
 はぁぁ緊張する。先生ってちょっと怖いんだよね。基本的にぶっきらぼうで、人相悪くて、無口で。
 そんな人とマンツーマンってかなりビビッちゃう。でも実は悪い人じゃないんだよね。だから私は…………いや、いいんだ、なんでもない。
 そんなことを想うから私はだめだめなんだ。
 よし!行こう!
 ちょうど今日の補習内容は英語だ。
 それだったらさっきタイチから貰ったこのヘンテコな機械を試してみる価値はありそうだね。なんせアイちゃんお墨付きものだからさ!
 
 ……これを耳に入れればいいのかな?


 なかなか入れるの難しい……んしょ、よいしょ、


 
 よし!入った!

 …………アレ、頭ガ イタい
 

 ナニ カガ ハイッテ ク る

 アァ……   







 ガラガラガラッ




「おー来たか来たか。みっちり教えるから覚悟しとけ…………手越?」


















「よろしくお願いします、せんせぇ♥
15/08/09 23:59更新 / ゆず胡椒
戻る 次へ

■作者メッセージ
近いうちに最終話UPしま――ぐじゅぐじゅっ、ぐじゅっ

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33