連載小説
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「えーただ今をもって学校祭一日目を終了いたします!!おつかれさまでした!明日もまたよろしくお願いしまーす!」

 時刻は夕方に差し掛かった頃、校内放送がけたたましく響き渡る。
 多忙に追われてんやわんやとしている間にいつの間にか終わってしまうほど今日は時間が流れるのが早く感じられたものだ。現に、クラスメイトたちももう終わり?とでも言いたげな表情でパスタを茹でている。
 我が3年C組のメイド喫茶は大成功を収めているのは間違いない。この売り上げを見れば一目瞭然だろう。よしよし、上々だ。このまま残りの日数も変わらず盛況し続ければもしかすると売り上げ一位も狙えるかもしれないね。

「おつかれアイちゃ〜ん。すっごい人だったねぇ」
「おつかれランコ。それもこれも全部ランコがこの案を出してくれたカラだよ」
「でも指揮を執ってくれたのはアイちゃんだから手柄はアイちゃんのもの!」

 もう、手柄とかそんなの気にしてないのに。
 私はただ、みんなと楽しく過ごせればそれでいいのさ。楽しい思い出を作って、後で振り返ることに意味があるってものだ。
 みんなが忘れてしまわないような、とっても素敵な出来事をやりたいだけ。

「いや〜この学校祭でより一層みんなと仲良くなれた気がするよ。そう思わない?」
「ソウだね。今だって、私が先導しなくテモみんな自発的に掃除してくれているし」
「でも私的には一番メインを飾っていたのはアイちゃんだね」
「私?」
「うんっ!だってアイちゃん、そこらへん歩くだけですれ違う人みんな振り向いちゃうほど色っぽいんだもん。なんかアイちゃんのホンキを見た!って感じ〜」

 別になにも意識しないでフツーに歩いてただけなんダケドネ。むしろひとりで勝手に汗だくになってたから、汗っかきの多汗症女として見られているんじゃないかとヒヤヒヤものだったよ。
 ただ、まぁ……あえて言うなら我慢しすぎてたせいでちょっと濡れてたのがキメ手だったのかもしれない。フェロモンをむんむんに振り撒き男の劣情をさそうような気配を纏っていたのは確かだ。
 ふふ……それを直に当てられていたタイチはどんな心情なんだろうネェ……うふ、フフ……

「ゴメン、ちょっと用事あるから後のことまかせていい?」
「お安い御用!掃除終わったらみんな下校させちゃっていいかな」
「それでお願い。じゃ、また明日ね」
「じゃぁね〜」

 私はランコにばいばいの手を振り教室を後にし、更衣室へと向かう。そしてメイド服を着替えいつもの制服に戻ると、一際大きな深呼吸をして高まる胸の鼓動を落ち着かせることにした。
 トクンッ……
 トクンッ……
 ……ドクッ
 心臓のポンプがひとつ、ふたつと拍動する度に私の血管を流れるマグマがとてつもない勢いで全身を駆け巡る。足先、手先、頭頂までを一周すると、全身が燃えるように熱くなり、それに比例して発汗も誘発されるのだ。
 その汗は今までかいたどんな汗よりも粘度が高く、ほぼ半固形状のゲルみたいなものに近い。私は体表を覆い尽くす汗を指でつかむとなにを思ったのかそれを口に入れてみた。
 ……甘い。
 汗のしょっぱさなど微塵にも感じズ、口いっぱいに広がる桃のような甘みは疲れたこの体をリラックスさせてくれるかのようだった。自分の体から出た老廃物を再び自分の体に戻すという正直自分でもなにやってんの、ってツッコミたくなる行動だけど、どうしてか私は無意識にそうすることが正しいものだと思い込んでいた。

「聞こえる……みんなが帰る音が聞こえる。だんだんと静かになっていって……学校からどんどん人が少なくなる……聞こえる、キコ、エル」

 もはや私の耳は、聞こえるはずのない音すらも聞こえるようになっていた。
 更衣室で着替えているというのに生徒達の下校する音が聞こえる。
 職員室で先生方が何を話しているのかが聞こえる。
 もはや、ただ耳が良いということでは済まされない。音原から位置を逆算し、どこに誰がいるかなんて芸当もできるようになっていたのだから済まされないのは当然だ。
 だけど、そんなことはどうでもいい。
 私が今一番気になるのは、ある一つの音だけだった。
 生徒たちが下校する中、たった一つの音だけがその真逆の方向へと足を進めている。
 カツン
    カツン
        カツン……
 普段生徒が使うはずもない第二階段の、さらに上へと続く階段。そこを上っているひとつの足音が私の心を捉えてやまないのだ。
 私はいてもたってもいられず、全身の汗を拭うことなくワイシャツを着て、更衣室を後にするとその足音がする第二階段へと走り、そして上へと上るのであった。

 バァン!

 錆びついたドアを思い切り開ける。
 そこは屋上だ。
 普段は生徒の立入は原則的に禁止されているが、学校祭期間中は物置として代用する場所でもあるので施錠はされていなかった。というか、そもそもドア自体が錆びついてボロボロなのでその気になれば鍵がかかっていても無理やりこじ開けられる程度の立入禁止だ。
 さほど意味のないセキュリティは、屋上の隅に溜まっているタバコの吸殻だったり、やけに汚れた体育マットやゴムの空きフィルムがそれを証明している。恐ラク警備員すら来ないのだろう。
 
 ガチャリ

 ドアを閉め、鍵が閉まる。
 鍵を持ってないのにも関わらずなぜ鍵が閉まったノカはわからないが、私がそうなって欲しいと念じたら独りでに閉まったのだから、つまりそういうことナのだろう。
 夕方だというのに気温は昼間とほとんど変わらず、西日ですら熱く感じ。
 その西日を見つめるかのように、屋上のフェンスの側にはあの足音の正体がいて、私を待っているようだった。

「先に待ってると思ったら俺のほうが早かったみたいだな」
「ちょっと着替えに時間カカッテね」
「あーメイド服だからしゃぁねえか。なにはともあれ、今日はお疲れさん」

 背後の西日で逆光になるタイチはいつもと変わらぬ調子で私に話しかける。
 
 ずぐんっ……!

 その声を、姿を、臭いを嗅いだ瞬間、私の中で一つ何かが爆ぜる音が聞コエタ。
 いや、爆ぜるとはまた違う。なんだろうか……
 咲く?生える?現れる?崩れる?そのどれでもあってどれでもない。どう表現していいのかワカラナイ。ぐじゅっ。

「おつかれ、タイチ。隣いい?」
「おう」

 タイチがそう言うのを聞くか聞かずか、すでに私の体はタイチの隣にあった。
 真正面を見渡すと遠くの山々までハッキリと見え、そのバックには赤々と燃ゆる太陽が沈みかけている。フェンスの下を見下ろすと、下校している生徒たちがまばらに見え散り散りに学校から遠ざかっていくのが見える。
 実に眺めのいい光景だ。こんな素敵な光景、私たちが独り占めしちゃっていいのだろうか。

「キレイ……」
「まさか学校の屋上がこんな絶景だったとは……俺も始めて知った」

 私は半歩ほど、タイチとの距離を近づける。
 私の肩とタイチの二の腕くらいの場所がぶつかり合う距離だ。その行為にタイチはというと、私から遠ざかることなくその場にずっと佇んでいた。むしろ寄りかかる私を支えてくれているかのような気がして再び私の心拍数が上がる。
 肩を同じ高さに並べるという行為は無理だけれど、こうやって身を寄せ合うことならできる。むしろこのくらいの身長差のほうが燃えるというものだ。
 燃える?なにが……?
 ……ウゥ、疼く、ウズク……ぐじゅっ、じゅぶっ……

「タイチ、今日の私のメイド服どうだった?」
「お、おぅ……よかったぞ」
「よかった?ホントにそれだけ?」
「いや、その……なんつーか……別人みたいだった……と、思う。今までのアイと違いすぎてな」

 どもるタイチを尻目に、私は笑みをこぼす。その笑みははたしてどのような笑みだったのだろうか。少なくとも、可愛げのある朗らかな笑みではなかったということだけは断言できそうだ。
 湿り気のある、陰鬱で狡猾とした笑み。おそらくはそんな笑みを浮かべていたのだと思う。
 面白くて、おかしくて、嬉しい。いろいろな感情が頭の中でグチャグチャに混ざり合いその笑みを形成していた。
 おかしい?オカシイ、犯シ、イ。

「ねえタイチ、覚えてる?あの日タイチが私になんていったのか」

 私はもう我慢ができなくなって、一呼吸おいて問いかけた。
 さり気なく自分の指をタイチの指に絡ませながら、そう質問したのだ。

「あの日?いつだよそりゃ」
「あの日はあの日だよ。私とタイチが始めて会ったあの日のコト」
「あぁ……ってこれまた随分昔のことだな。ありゃ小学校に上がるちょっと前だっけか?」
「そう。私にとってはとても大切な日。絶対に忘れることのない日なんだよ」

 さかのぼること今から十数年前。
 私はタイチと出会ったあの日のことを思い出して物思いに耽っていた。
 あの日から、私とタイチの運命は回り始めたといっても過言じゃない。
 うん、そうなんだ。運命なんだ、赤い糸で繋がった絶対的なさだめなんだ。だから私がタイチのことをこんなにも愛おしいと思うのも当たり前のことであって、子を成したいと思うのも、一杯気持ちよくなりたいと思うのも、もっとたくさん増やしたいと思うのもごくごく普通なことなんだ。
 なにも異常ジャナイ。これはセイジョウだよね。
 ……ナニを増やす?うぅん、わからない。ワカラナイ。

「で、なんて言ったか覚えてる?」
「んー……すまん、昔過ぎて覚えてねぇわ」
「そっか、覚えてないか。いや、それが当たり前だよね。そんな昔のこと覚えてるワケないもんね」
「なんかゴメンな……にしても、そんな大事なこと俺言ったっけか……?」

 実は私もつい最近まですっかりあの日のことは忘れていた。
 いくら思い出深い出来事だったとしても所詮幼いころの思い出のひとつにすぎないのだ。激動の小学生時代が始まると、そのあまりにも濃過ぎる日常によっていつの間にかあの日の出来事は記憶の奥底へと追いやられてしまっていた。
 だから先日、このことを思い出したとき、私は心の底から喜び感動した。同時に下半身が言いようのない疼きと熱さにさらされたのも嬉しさから来るものなのだろう。

 あの日はそう、今日みたいに真っ赤な夕焼けの日だった。




〜〜〜




 タイチは始めからここ骨倉市にいたというわけではなく、私が4、5歳くらいの時に近所に引っ越してきたんだ。
 その時、引越しの挨拶回りでタイチの親が私の家に訪問してきたとき、私は始めてタイチと出会った。

「ほらアイ、こんにちはは?」
「こん、にちは……」
「ごめんなさいね、ウチの子耳が生まれつき少し悪くて」
「えっ、そうなんですか……」
 
 もともと人見知りの激しかった私は訪問してきたタイチの親にもうまく挨拶することすらできなかったものだ。そもそも耳が悪くてあまり物音が聞こえなかったからどう対応していいのかわからなかったといったほうがいいか。
 私はお母さんの影に隠れながらチラチラと見ては隠れてを繰り返していた。

「そうだわ!タイチ、ほら挨拶しなさい。今日からご近所さんでお世話になる東峰さんよ」
「こんちわー!」
「こんちわじゃなくてこ・ん・に・ち・はでしょ、もう……タイチ、今日からアイちゃんのことしっかり面倒見てあげるのよ」
「ええっ!?い、いやお気持ちは嬉しいのですがタイチくんにも負担がかかりますし……」
「いーのいーの!タイチったら毎日泥だらけになって遊んでもまだ遊び足りなそうにしてますし、これぐらいなんてことないですよ」

 ひょんなことから、タイチは私のお目付け役件遊び相手になってしまったわけだ。
 親が半強制的に決め付けたようなものだが、それでもタイチは嫌がる素振りもせず返事していたんだっけ。

「おれタイチってんだ!名前なんてーんだ?」
「ア、アイ……とうほうアイ、です」
「アイだな!よし、今日からおれがいっしょにあそんでやる!」

 タイチの馬鹿でかい声は耳の悪い私でもつんざくくらいに良く聞こえ、逆に少し耳がキーンとするぐらいだ。
 それでも、聞こえる声というだけで私はとても安心した記憶がある。

「アイちゃんは耳が悪いらしいけど……タイチの声なら気にする必要なさそうね。タイチ、男の子なんだからアイちゃんに何かあったらちゃんと守りなさいよ」
「わかったよ〜カーチャン。アイ!みみがわるくたって、おれがついてるからな!まもってやるからあんしんしろ!」

「フフッ、アイ、頼もしい友達ができたじゃない」
「あ、あう、うん……」




〜〜〜





「あー……そういえばそんなだったような気がする」

 隣でそう呟くタイチは頭をポリポリと掻いており気恥ずかしいようだ。
 その隣では、私がしっかりと指を絡ませタイチの手を強く握っていた。じっとりと湿る手の平は、もはや湿るというよりも普通に濡れており、潤滑油となった手汗は私の指の絡ませを余計円滑にさせている。
 じっくりと、ねっとりと。そしてゆっくりと。
 もういいかな?イイヤ、マダダヨ。

「しっかし、俺がアイと出会ってもう12、3年は経つのか?長ぇような短ぇような」
「私はすっごく短く感じたなぁ。あっという間だった」
「そういうもんかい」
「うん……そう……」

 私とタイチは二人きりで、屋上にいる。
 二人並んで沈む夕日を眺めながら手を握り、夏のぬるい風を浴びながら黙って遠くを見つめ続けていた。
 私たちを邪魔するものはなにもない。警備員さんも、クラスメイトももういない。天気だって快晴で空気を読んでくれている。
 ジャマモノはいない。
 
 ずぐんっ……!!

 その状況を意識すると、再び体の内側から何かが崩れる音が聞こえた。
 まるで込み上げる私の体熱が臨界を突破し、体組織の一部が核崩壊を起こしてしまったのかと錯覚してしまうほどだ。それほどまでに、私の体熱は上昇しグツグツと煮えたぎっている。
 それに呼応するかのように、表皮からはべたついた汗が吹き出て、ドロリと体表を覆い始めるのであった。

「おまっ、すげぇ汗だな。まーた熱中症になんかなるなよ?」
「ダイじょうぶだよ。今日は大丈夫、ダイジョウブ……ちゃんと対策してるから」
「そっか、ならいーけど」

 対策?そんなもの、なにもしていない。
 唯一私が今日のためにしていることといったら、タイチの声を一字一句聞き逃さないために補聴器を耳の奥底まで突っ込んでいるということくらいだ。
 耳の奥、鼓膜に触れるか触れないかぐらいまで入れ込んだ補聴器による音声増幅機能は私の脳をダイレクトに揺さぶり、その振動を隅々まで知らしめる。それがたまらなくキモチイイ。
 音が聞こえるのが気持ちいい。タイチの声がキモチ、イイ。シアワセ。

「けど、タイチさ。あの日のことちゃんと今日まで実現してくれてるよね」
「今日まで実現?」
「”私を守ってくれる”ってコトをさ。今まで何度、タイチに助けられたことか。ホント数え切れないよ」

 小学校のいじめ事件から始まり、修学旅行ではみんなとはぐれたところを見つけてくれたり、現地の怪しい不審者に絡まれているところを助けられたり。
 中学校ではあまり友達のできなかった私とよく一緒に遊んでくれたり、お互い思春期で意思疎通が上手くできなくなって喧嘩したこともあったけど、結局最後に仲直りするきっかけを作ってくれたのは全部タイチだった気がする。
 そして……体育館庫で迎えた初体験。あの時はお互い初めて同士で無我夢中になってやったっけ。ゴムのつけかたも良くわからずに恐る恐る挿入したのはよく覚えている。始めのころは痛かったけれど……タイチが優しくリードしてくれたからいつの間にか痛みなんてどこかへ飛んじゃってて、最後にお互い果てるときは二人同時にイケて感動したものだ。
 それから高校に上がっても、たまにタイチとセックスをするという習慣は消えることなく継続してて、毎日がとても楽しく過ごせている。たまたまゴムが切れてた日はしかたなく中出ししてたけどキモチイからやめられなくて、ね……いつ妊娠しちゃうかハラハラものだよ。
 それもこれも、あの日タイチと出会ったからなせることだし、今もタイチと私の関係が続いてる結果がこれだ。
 私はタイチに感謝している。
 …………感謝?いいや、これはもう感謝ではなくて……

「まてまてまて、ちょーっと待て。オイ、なんだそれ、そんなデタラメ俺ぁ知らないぞ」
「へ?ああぁ〜声に出ちゃってたか♪」
「出ちゃってたか♪じゃねーよ!妄想もいい加減にしてくれよな」
「……何言ってるの?全部本当のことでしょ。まさか忘れてただなんていわないでよね」

 信じられない。
 タイチ、まさかこれすらも忘れてしまったというの?
 お互いの初体験という記念すべき出来事も、楽しく過ごしてきたあの毎日も、覚えてない?
 そんな……そんなことってあっていいのかな。
 誰も覚えていない。ワタシだけが覚えていル。そんなこと……

「…………やっぱアイ、最近変じゃねえか?いきなり耳が良くなったり、記憶があべこべになったり、普通に考えてやっぱりおかしいだろ」
「ソンナコトないよ。私は普通だよ。正常だよ。ダカら思い出して、楽しかった出来事、愛した日々を。私だけ覚えているなんて不公平だよ」
「……ッッ!だからッ!」

 そう言うとタイチは繋いでいた指を離して一歩後ろへ下がる。
 そんな、どうして。私はもっとタイチと一緒に、イッショ、ニ、イタイダケ、ナノニ

「だからッ!俺はそんなことしたことなんて一切ねえっ!!だ、だって俺……俺童貞だし。自分のことは自分が一番わかってるってーの。お前はどうなんだよ」
「私?なに言ってるのさ。そんなの処女に決まってるんじゃん」
「…………処女なのに俺とヤったってか。おもしれー冗談だな」

 あ、れ?どうして?
 私は確かに、中学生のころタイチと体育館庫でセックスをした。はっきりと、ちゃんと記憶にある。
 ……なのにどうして私は今、自分のことを処女と言ったの?
 セックスした記憶はあるのに、非処女であるという事実がない。事実無根の矛盾だ。
 どっちが正しくてどっちが間違いなのダろうか……私の記憶とタイチの記憶と私の身体は全てが事象に結びつかず、どれが真実なのかワカラナイ。
 デモ記憶はある……
 アアッ、頭が痛い……イ、イタ、い

「アイ、やっぱお前今度病院行ってみたほうがいい。あんまりこういうことは言いたくねーがちょっと異常だぞ」
「イジョウ、じゃない……私はなにもおかしく、ない……ナイ……」
「喋り方も呂律回ってねぇし、脳マヒとかだったらシャレになんねぇぞって」
「大丈夫ダイジョウブ。へーきだよ、へーきへーき」
「よく見りゃ顔だって赤いだろ。熱でもあんのか?」
「うわ、ちょ、やm……」





 …………………………ぐじゅっ





「ああぅっ!!」
「!?ど、どした?」

 …………来た。
 きたきたきたきたきたきたキタキタキタ!!
 やっと、やっとあの音が来たぁ♪
 ハヤク!!もっとハヤク、私のところへ!さあ早く!
 私の内側へ、中心部へ来て!

「ち、ちょっと耳鳴りが、ね……」
「そのわりには随分色っぽい声だったんだが」

 あともう少シ……もう少しであの音が一番素敵な音色で響く場所に来るんだ。これを喜ばずしてなにを喜べというものか。
 ああ、ずっと待ち望んでいた、我慢していた。
 今、タイチが目の前にいるこの瞬間、このときに鳴り響くのをずっと待っていたのだ。
 ようやく私は……

「ねぇタイチぃ。私が今日ここに呼んだ理由、わかる?」
「さ、さあな。もったいぶらずに早く用事済ましてくれよ。もう夜になっちまう」
「……ホントはわかってるんじゃないの?放課後、学校祭後、屋上、男女二人……ふふ、漫画にありそうなシチュエーションだねぇ♪」
「うぐ……」

 ぷい、と顔を背けて私との距離を開けるタイチ。
 ああああ〜ヤバイやばいやびぃあびゃい これまあmじうあうsマズイ
 かわいい愛しい食べたい好き好き犯して犯されて交尾子作り妊娠あははへへへうへうえ
 …………アタマ、イタイ





 ……………………ぐじゅぅ





「あへぅッ♥」
「ほ、ほんとに大丈夫かよ……」
「らいじょうぶらいじょうぶ。で、私ちょっとタイチに言いたいことがアッテね」
「お、おう」

 あぁなんて言おうか。この想いをどうやってぶちまけてしまおうか。
 私が言うのが早いか、脳ミソがぐじゅぐじゅに溶けてしまうのが早いのか、どっちかだ。
 もう ぐじゅっ そろそろ近い。あの水音が私のナカへと近づいてきている。
 私はタイチが好きだ。好き過ぎてどうにかなってしまうほどに好きなのだ。愛している、ラヴ!
 いつからこの想いになっているのは不思議なことにわからない。ただ、気がつけば好きになっていたのだ。その想いに気づいたのはつい最近だということだけはわかる。デモ、いつから好きになっていたのかは本当にわからない。
 好きなものに理由はなく、ただそこにタイチがいて、その隣に私が付き添っているという場面を頭の中でイメージしてしまうだけで胃袋全体に砂糖菓子をぶちまけられたような満腹感と甘みが想像される。それだけで私がどれだけタイチのことを愛しているかという証明になる。もう、タマラナイ。

「タイチってさ。好きな人、いる?」
「……!!やっぱそれか……」
「んふふ♪どうなのさ、いるの、いないの?」
「んぁ、えーと、その……」

 困ってる困ってる♪
 私は知ってるよ。タイチはね、こういう真面目な話になる ぐじゅっ といつもどもってはぐらかすんだ。わかってるんだから。
 どもる、ということは言いたいけれど上手く言葉にすることができない、言いたくないからそうなる。ということは今のタイチはつまりはそういうことなんだ。
 どう言葉で表現していいのかわからないのか。
 そもそも言いたくないのか。
 そのどちらかなんだと思う。いや、思うじゃなくてそうなんだろうきっと。
 ……んふ♪

「な、なんだっていきなりそんなこと……」
「そんなこと?アハハッ、放課後の屋上で男女二人だけがいたらそうなるに決まってるじゃん」
「んなバカな」
「ホラ、ほらほらほら、いるの?いないの?」

 一度は離れ互いに距離を開けていたが、私はその距離を埋めるかのようにじりじりと歩み寄っていく。一歩進む度にぐちゅりという頭の中で鳴り響いている水音とは別の水音が鳴るのだが、今はそんなことに気にかけている余裕はない。
 もう目の前のタイチ、雄しか見えない。周りの音、風景、臭いは一切合財すべて遮断され、タイチの姿と発する音と体臭しか感じられなくなっていた。
 それは恐らく私の最後の抵抗なのだろうか、視界の端に映る夕日は紅色に輝いている。しかし、タイチの体臭を胸いっぱいに深呼吸しタイチのどもる声をもう一度堪能すると、私の視界から太陽は消失してしまっていた。
 モウ、何も見えない。見えるのはタイチだけ。
 でもこれは正常。正常、セイジョウ。ふつう、でアタリマエ、のこと。

「そ、そういうアイはどうなんだよ。聞くならまず自分から言うのが鉄則ってモンだろ」
「このチキン」
「うぐっ」
「ま、いいケドさ。私はそんなところも含めて好きになったんだから」
「…………えっ」 

 ……………………
 ………………
 …………
 ……あれ?もしかして私、言っちゃった?
 好きって、言った?
 タイチの顔がみるみるうちに赤くなっていく。視線が泳ぎはじめる。口をパクパクさせている。
 あぁそうか、やっぱり言っちゃったんだ。
 このキモチ伝えちゃった…………
 …………
 ……
 ……アハッ♪あはあはっ
 えへへへえへ、恥ずかしいなぁ、ウレシイなぁええへへへっへ





 …………じゅるっ





「な、おま、え、ちょ、うそ、まじ、だろ」
「私がこんな場面で嘘つくとオモう?」
「いや、お、おもわん……おもわんが、正直頭が回転してない」
「好き。私はタイチが好きです。すきすきすきすきすきすき、アイシテル、どう理解した?クスッ♪」

 自分で思う、なんてこっ恥ずかしいことを口にしてしまっているんだろうと。
 でも、もう我慢の限界はとっくのとうに超えてしまっていた。もう、ダメなんだ。この想いは押さえ込むことはできない。
 クスリと笑ったその笑顔はこの上なく蟲惑で妖艶で私自身どうやってこんな笑顔を作っているのだろうかと自問自答したいクらいだった。その笑顔を向けられたタイチの鼓動が聞こえる。
 バクバクと弾けんばかりに拍動して心拍数が上がっていく。私の想いを聞いて、笑顔を見て、体が無意識に反応している。
 心筋の不随意運動は自らの意思で制御することはできないので、タイチの拍動はタイチの深層心理が働く無意識の力によるものなのだ。

「やめ……わかった、わかったから!ふぅー……」
「タイチの心臓の音聞こえるよ。緊張してるでしょ」
「……うるさいちょっと喋るなお前」

 照れ隠しかな?
 えへっ、えへえへっ、もう我慢できない。
 音が、チカイ。私がずうっと待っていたものが ぐじゅっ アト少しでやってくる。
 耳の奥で補聴器が震えているのがわかる。来る音を待ち構えているのか今にも発芽せんとばかりに蠢き私の鼓膜をツンツンと刺激しているのがわかる。
 あはぁ、耳かきなんてメじゃないほどきもちいぃ〜あたまがとろけぇる……
 アタマだけじゃなくてぇ……からだもとろける……

「ア、アイ……な、なんだよ……これ……うそだろ……」
「へぇぁ?どうひぁの?」

 震えるようなタイチの声がひこえて、気持ちよさに体をまかへていた私は意識をとりもどす。
 そしてもう一歩、タイチの方へと歩み寄ろうとしたところで、タイチがなにに怖れていたのかがわかった。

「あれ?わたしの足、なんか……ヘン、だよ」

 歩こうとしたら足に力が入らなくて、べちゃっと転んでしまった。
 転んでしまうのは別になんてことはない。だけど足に力が入らなくって不思議に思ったわたひは自分の足を見てみた。
 ……ナンダ、これ?

「なんだ……なんだこれ?!アイ、大丈夫か!!!」

 結論から言うと。
 私の足は溶け始めていた。
 比喩的な表現ではない。物理的に、そのまま文字通り溶けてイたのだ。
 皮膚が崩れ落ち、肉がボトボトと剥がれ、骨もコンニャクみたいにぐにゃぐにゃになって解け始めていた。あまりこうは言いたくないのだけれども、自分で客観的に見てみると相当グロテスクなんだと思う。
 だけど、なんでか今の私は自分の異常な足を見ても「それが正常」だと自信を持って言えた。
 足が崩れるだなんて、感染症で壊死してしまったりだとか危険な薬物の後遺症だったりとかそんなぐらいでしかまず起こりえない現象なのに、現に今私の足は溶けている。
 それが有るべき姿。そう、私が待ち望んでいたもの……

「あっ、あっ、あっ、ああっあああ♥」
「クッソどうすりゃいい!?アイ痛くねぇか?わけが……わけがわからねぇ……」

 タイチが倒れるわたひを抱きかかえる。
 あっ、それヤバイ。臭いがダイレクトに……あ゛っ♥
 足がぐちょ、ぐ、ちょでアタマもぐちゃぐちゃ……あへぇへへ、もう、イイや……
 もうなにもかもぜーんぶ、任せちゃえ。
 私のタイチがぜんぶまもってくれる……タイチが私のよりどころなんだか、ら♪




 …………ぐじゅっ!!





「あ゛うぅっ♥♥」

 もうそろそろホンカクテキに近い。音が来る!クル!
 溶ける足は骨格すらも原型をトドメナクなっていて、溶けカスが私の足元に一塊となってのこっているだけだった。いや、もう足ないから足元なんていうのもオカシーんだけどね。
 その溶けカスはブヨブヨになって蠢いている。
 わたしは全身からねばつく汗を垂れ流し、タイチに抱きかかえられながらその音をひたすら待っていた。
 あれ……?
 …………どうしてわたひ、音を待っているんだろう。
 音が私の中に入ってきたら、いったいどうなるのカナ?
 そこまで深く考えていなかったからそのアトのことなんてまったくわからにあいうぇあ
 んんんんんでもまーいっかぁ、べつにわぽおえrでわいたいはいsどうなるmなかなんてしったことじゃにんでさいし

「なんだこの音……意味がわかんねぇ……なにもかもぜんぶ、意味が……」

 もうタイチの耳にも聞こえるぐらいに音が近づいてきている。
 もうすぐで、私が終わる……
 わたしがオワル?なにがどうして……
 …………まぁいいや……

「タ、タイ、チ……モット抱いて……抱きしめ、て」
「チクショウ、今の俺にできることったらこれぐらいしかねぇのかよ……」





 ……ぐじゅぅ、じゅぐっ!!!




「え゛へっ♪あぁぅ、あっ、あ゛っ」

 ツギだ……
 つぎ、あの音が鳴ったら、オソラク……おそらくなにかが起こる。
 それがこの上なくマチドオシクテどれほど待ったことだろうか。
 タイチがいるこの場で鳴ることがどれほどウレシクて疼くことだろうか。
 じくじくと熟れたトマトが真っ赤な液体を飛び散らせて爆ぜるかのごとく、わたひの体は変わり果てる。そんな予感がして……待ち遠しかった。
 異常でも正常でもなんでもいい。私はただ純粋にいままでずうっとタイチに感謝してきて、それだけ魅力を感じていたんだ。それを気づかせてくれたんだから、そのお礼としてこの体を差し出してもまったく悔いなどなかった。

「ふっー♪うぅ゛っ♪」
「イミがわかんねぇよ……お前どうなっちまうんだ……」
「ダイじょう、ぶだよ、タイチ。私はずっとカワラズに……タイチを愛しつづけるんだからぁ♪」
「バカヤロ、んな台詞こんな状況に言うモンじゃねぇ」
「えへっ……ずっとイッショにいようね……タイチも、ランコも……クラスメイトのみんなもぉ……」
「……そうだな。俺もお前とずっと一緒にいてやるよ。約束しちまったからな」

 そう、約束したんだからネ。
 あの日タイチがわたしを守ってくれるって……約束……
 ……ん?
 ”ずっと一緒にいてやるよ?”
 それって、どういう……

「お、俺ももしかしたらお前のことす、すす………………好き…………なの、かも知れな」










 ぐじゅっ!!!!!










「あ゛ッ♥あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ♥♥♥」

 あ゛あ゛あ゛♥♥
 キタッ!!キタキタきた!!!
 私のナカまでキタっ!これ、やば、あっあっぁつぁつあっ
 脳ミソのしわが全部ほどけて、一本一本のヒモになってしまっている。錯覚?幻覚?ワカラ、ナイ。
 わからないけど言葉にできないほど気持ち良いということだけわかる。それだけでジュウブン……
 耳の鼓膜が破けて何かが入ってくるあっあっあっ、あっ、うっ、え゛
 それは恐らく補聴器から出芽した得体の知れない物体で、耳の内側を蹂躙し始める。
 私はその間、ただただひたすらにうめき声を上げることしかできなかった。言葉を発しようとしても、鳴り響く水音にじゃまされて言語がウマく発せなかった。

「あ゛ッー♥あ゛ぁ゛ッ♥♥」

 やがて聴覚神経すらも侵されると、得体の知れぬ物体は神経を辿り脳内へと辿りつくと頭の中をグチャグチャにされて脳みそがぶっ壊れそうになってもうけがわからなくなってイミフメイだけどどうしようもなく気持ちよくてうナニモカンガエラレナイから瞳孔がひろがってめん球ひん剥いてあぅっ、あ゛っ、あはっ、いぇあグ、グ
 この時点で私は、タイチの腕の中に抱かれながら痙攣して失禁して体中の汁という汁を垂れ流していた。
 ぜんしん、が、ドロドロして、てぐちゃぐちゃ……ぅへ、へ……

「は、はは……夢だ、これは夢だ……夢だそうだ夢なんだ……じゃねぇと意味不明すぎて……」
「あギっ、ゆ、夢なんかジャ、ないよ。全部本当の……現実の……あ゛っ」

 私の言葉を遮るかのように、もう一度頭がぐじゅりとオトを立てる。
 すると私の体に変化が訪れ始めた。
 髪の毛が……汗により数本の大きな毛束に分かれていた毛髪がまるでそれぞれ別の意志があるかのように蠢きだしたのだ。
髪の毛の一本一本がそれぞれ結合して、ばらばらだったものが一塊の個として変貌する。
 その全てが粘液性の汗によりぐじゅぐじゅに濡れて光沢しており、自由自在に蠢くそれはまさに【触手】というべきものだった。私の髪の毛はきめ細やかなストレートセミロングだったものが、数十本の意思を持つクセっ毛となり……いや、はたして毛と呼んでいいものなのか。
 あ゛はっ♪
 でも、私の意志で自由自在に動かせることもできそうだからそれはそれでイイかもぉ♪
 髪でも触手でもなんでもイイジャないかぁ♪

「あぁうッ♥♥オデコ……わ、れ、んんんっ♥」

 額の中心部分がやけに痒くなって私は一心不乱にその部分を掻き毟る。
 そこで私は、おでこの皮膚がやけに盛り上がっていることに気がついた。ドクドクと脈打ってて、そのたびにどんどんそれ大きくなって……
 痒みが収まる頃には、一つの目玉のような突起物ができていて、指で触るとプニプニしててとってもキモチイイ♥
 アレルギー?奇形?
 いいやちがう……きっとこれはタイチへの愛が具現化した形なんだ。私がタイチを好きすぎるあまり、感情が爆発して抑え切れなくなった欲が露になったものなんだ。
 だからこれは異常なんかじゃなくて、あたりまえの出来事。恋するオンナノコならみんなが通る通過儀礼のようなものダヨね。

 私の右頭部分から徐々に変化していくその姿は今のタイチニハどのように映っているのだろう。
 恐怖?驚愕?それとも……魅力?
 あはあは、アハ、もう、だめェッ♥♥





「アイ……なのか?これは一体……」

 タイチとの距離がこんなにチカイというのに、私は口を半開きにして、舌もだらしなく伸ばして、ただただこの身を襲う身体の変化を堪能してイタ。
 あぁ、私が変わっていくのがわかる。私という形をしたナニカ別のものになっていくのがわかる……
 それでも意志と自我はちゃんとして自分を保っていて。
 だから、私はもうガマンができなくなった。もう、いいや。全部任せてしまえ、自分のシたいままにすればいいじゃん。
 ぐじゅっ、じゅぐぅっ、ぷじゅるっ……へえへへえへ♥

「ア、アイ痛く、ないのか?」
「……ねえタイチ、くち、開けて♥」
「は?……こうでいいkッッ!?」

 大きく口が開いたその刹那、私は自分でも驚くぐらいの速度でタイチに口に貪り喰らいついた。
 そうしてミミズのようにうねうね蠢く自分の舌をタイチの口腔内にねじ込んで、口の中を舐め回す。唇を吸って、歯を舐めて、唾液を流し込んでタイチの口という穴を一心不乱に弄り舐める。
 あはぁ♥♥♥これヤミツキになりそう♥
 私の唾液をタイチに流して、タイチの唾液を啜り飲み込む。その味は気を抜くと意識が遠くへ飛んでしまうほどに甘美で、愛らしくて、もう、なんだろ、ヤバイ。自分の語彙が少ないのが困ったものでとにかくヤバイんだ。
 これはもうキスというよりはほぼ蹂躙に近いものなのかもしれない。デモ私がこれをキスと言い張ればそれはもうキスなんだから別にどうだっていいじゃないか。
 だってほら、タイチの目見てごらんよ。
 トロ〜ンとしてさ……逆に私の唾液を啜り始める始末なんだから♪

「じゅぷ、んちゅ、じゅるっ、ハァ、あれ……俺なんで、ん……?これ、キスなの、か……?」
「えっへへへ♥♥やぁっと気がついた」

 私の汗を直に浴びて、唾液を直接飲まされて徐々に私色に染まりつつあるタイチ。それでいいんだ、それがきっとあるべき姿なんだ。
 もうわかる、わかるよ全部。ワカラナイだなんて言わない。全てはこうなる為だけに私というメスが存在していて……タイチと一つになるためだけに……ウフフ……ぐじゅっ、じゅるぅ
 ふふ……ふ、あ、あ゛っ、あああ゛あ゛ッッ♥♥♥♥
 え゛う゛っ♥

「ハァ、ハァ……アイ、その足……」

 私の足元にあった足の溶けカスがブヨブヨに波打っている。薄紫色か濃桃色かそれらに近い色を呈している塊は蠕動して震えている。
 そうしてしばらく放っていると、その溶けカスは独りでに動き始め、あろうことか私の腰の部分にぐちゅぐちゅとくっつき始めたじゃないか。

「あああっ、あっ、あっ、あっ、焼けるッ♥アツイ!!熱いぃ♥♥」

 溶けカスは私の腰に付着すると、そこから一気に下へと流れ、新しい部位を形成していく。
 ぐち、ぐち……と肉々しい生々しい音を立ててスカート状に広がるその組織はなんなのだろうか。見た感じ両生類の皮膚のようにぬらぬらしていて、明らかに人間の一部とは一線を画しているということがわかる。

「ホラ見てタイチぃ……これ、なんだろうね……足、なのかな♥」

 やがて私の元々あった足先の部分くらいまで延びると、組織の伸縮は止まり、体に馴染むようにギチギチと私の腰と結合していく。
 あっ♥それ、イイ……あぁ……
 そうして一通りが終わったのか、身を包む快楽と熱はある程度収まりいつもの調子に戻る。
 だけど……足はいつもの調子とは少し異なっていて、私は自分の足を恐る恐る見てみることにした。
 そこにあったのは……大きな一本の触手のようなものだった。
 いや、一本という表現じゃないね。一筒、とでも言えばいいのかな。
 スカート状に足首まで伸びた膜は私の腰の太さと同じくらいの太さで、ぐるりと一周してて筒状になっていたんだ♪なんて……キレイな下半身なんだろう……
 ぬらぬらにテカってて、ブヨブヨに伸縮して、うごうご蠕動している、とっても気持ちわるくて愛らしい私の足♥私の新しい足ぃ♥♥

 ぬるっ
 ぐちょっ
 ずるずるっ

 少しでも動かそうとすると粘膜が擦れ合いあの水音が鳴り響く。
 あぁ、そうか。もう頭の奥から鳴り響いているんじゃないんだ。
 もう、私自身の体からそのオトは鳴っている。私が水音の発生源となった今、私は何をして、どうしたいのか。本能的に理解し始めていた。
 これをこうして、ああすれば……ウフフ……

「アイだけど……アイじゃない……どういうことなんだ」
「私は私、正真正銘アイそのものだよぉ」
「お、俺の知ってるアイはそんな口調じゃない。そんな艶かしく……ない」

 私は今何をしたいのか?
 ぐじゅぐじゅになった脳内で考えてみるといろいろと楽しい発想が浮かんでくる。
 まずタイチと繋がりたい。これは当然だからひとまず置いといて……面白い発想はそうだねぇ……
 あっ、そうだ。この私の髪の毛をタイチの耳に入れてみるっていうのはどうだろう。私自らの意志で動かすことができるようになったこの粘液滴る髪の毛を、耳の奥深くマデ……タイチの中枢までマデ入れてみたい……あぁ、入れたらどうなっちゃうのかな♥

「そんなに怪しがるナラ逃げちゃえばいいのに」
「ぐっ、しかし……お前をほうってはおけ……」
「ア゛ハッ♥♥ほらね、やっぱりタイチは優しいんだからぁ。もうニゲラレないよ」
「なっ、これっ、いつのまにっ!?」

 蠕動する下半身をねじらせ、タイチの体にべったりと巻きつける。そうすることでタイチの体の自由を奪い取り身動きができなくなるようにするんだ。
 いくらもがいてもムダムダ♪
 分泌される粘液で滑って抜けられないんだから。
 あっ、イッ♥♥ヤメッ♥
 タイチがもがけばもがくほど私の体は刺激させられ、その度にビクビク身体が感じちゃう♥

「んーふふふふふ……♥んちゅっ、んむぅ、ちゅくっ……」

 もう一度、タイチの唇を奪って唾液の啜る。あぁ、やっぱり甘くてオイしいひひ、ヒヒッ、ひひ♥
 もう美味し過ぎて虜になっちゃいそう。いや、もうなってるのか♪
 私ばっかり唾液を飲んでちゃ申し訳ないので、口腔内から多量に分泌される特濃の体液をタイチに飲ましてあげる私ってとってもヤサシーよね♪どろっどろに粘ついて、喉の奥にひっつくくらいべたついてる私の唾液をタイチにあげる。
 ほぅら……タイチの身体が脈打ってビクビクしてる……
 ひとくち、ふたくち、みくち……もっと、もうっと飲んで飲んで、いっぱい私に染まってネ。

「ふへ……ちょっと痛いかもだけどガマンしてね♥」
「んぁ…………何をするつもり、だ」
「ナンだろうねぇ、私もよくわかってないんだぁ……」

 私はナニをしようとしているのか?
 実を言うと自分でもあんまりよく理解していない。ただ、タイチに耳に髪の毛を突っ込んでみたい、そう思っただけなんだ。
 だからそうする。それだけのこと。
 その後のことなんて別にどうでもいい。今、この瞬間が大事なんだよね。私が本能的にやりたいと思っているからそうするだけ。本能には従わないとねぇ♥
 私は数本の髪の毛…………いやもう触手でイイや。触手でタイチの頭を固定すると、両側面から生えるちょっと長くて太めの1対の触手を前面に出す。そして自分で触手を舐め、たっぷりと唾液をつけてそれを潤滑油とするの。耳に入れても痛くないように、スムーズに挿入できるように♪

「それじゃ、いくよ……」
「ちょっとまて、お前一体なにしようと、して、い……」

 じゅぷっ!! 

 ちゅく、ちゅく……

 ぬぷっ…………

「ふぁ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!?!ナン、だ、これ、み、みみみ耳あ゛っあ゛っあ゛っ」
「あぁ〜♥♥挿ったよ♥挿っちゃったよぉ♥いい、これ、イイ!」

 耳の穴より二回りも大きいであろう触手は驚くことにすんなりと挿ってしまった。
 触手を入れた途端に聞こえるタイチの絶叫。自分の耳に得体の知れない触手が侵入してくるのはどれほどまでに恐怖なんだろうか。それはタイチの表情が物語ってて……思わずニンマリ笑ってしまう。
 その断末魔にすら聞こえる絶叫をも愛おしくて私はもっともっと奥へと触手をもぐりこませる。
 長い長い外耳通を突き進み、その奥に突き当たるモノ。
 ……コツンッ
 ある程度進ませると、それ以上突き進めない壁のようなものが存在していることに気がついた。これは多分……鼓膜なのかな?生物の授業で耳の解剖はちょっと習った気がする。

「ア゛イッ、なにじでる……や゛め、ろ……みみが、お、おかし、く……」
「うぅ〜んもうちょっと奥に入れたいんだけどなぁ……えーいこうしちゃえ!」





 ブチィ!!!





「あガッ――――――――――!!」

 鼓膜のようなものを突き破るとタイチの断末魔は金切り声みたいになってキーンと響き渡って、体がビクンビクン痙攣していた。ちょっとやりすぎちゃったかな、ゴメンゴメン♪
 ケド、そのおかげでほら……もっと奥まで進めるようになったよ。
 鼓膜の奥に触手を入れ込むと、次に突き当たったのは何やら硬いモノだ。
 鼓膜の次っていうと……あ、そうか耳小骨だ!ツチ、キヌタ、アブミだったっけ?記憶が間違っていなければそんな名前だった気がする。
 鼓膜を破ってから聴覚神経までたどり着くのは随分と速かった。
 中耳とか内耳とか詳しい解剖学的知識はよくわからないけど、うずまき管とか三半規管とかもいつの間にか通り過ぎていたのだろう。最後の突き当りにまでたどり着くとそこが聴覚神経の部分だということは直感で理解した。
 だから私は、もっと奥に進むためにその神経を伝って上へ上へと昇ることにしたんだ。神経のその先にあるのは、そう……脳。
 ……フフッ♥聴覚神経を直接撫でられて侵されているタイチにはどんな音が聞こえているんだろうネェ。その音を私も聞くことができればいいんだけど、さすがにそればっかりはどうしようもないのでちょっとくやしい。

「あ゛っ、あうっ、お゛お゛お゛あ゛あ゛ぁぁぁ゛♪♪ナ、ニガ、どうな、って、グギ、ぎ、ぎあ゛」
「アハッ♥♥イイよタイチぃ!もっとそのコエ聴かせて♥」

 私にSっ気はないけれど、相手に自分の体の一部を挿入するという感覚は否応なしに相手を支配している感覚に陥ってしまう。あぁ、そうか、これセックスの時の男ってこういう感覚なのかなぁ。
 私は女でタイチは男だけれど、今このときに限って言えばその立場は逆転しているようにも見える。私の触手でタイチの脳髄を侵そうとしているんだからね。
 今までメインの触手二本でタイチの耳に侵入して、残りの触手でタイチの頭を固定していたのだけど、抵抗力が弱まってきたのか今となっては残りの触手で固定してなくともタイチの頭は動かずに安静にしていた。
 だから私は密着していた顔を少し離して、タイチの胸に顔を埋めることにした。顔を離したら触手も一緒に抜けてしまうかと危惧したけど、多少の伸び縮みが利くようで数センチ程度なら影響は無さそうだった。
 タイチの鼓動が聞こえる。
 バクバクに拍動してて、とても激しい音が聞こえる……タイチの生が実感できる……
 ……生……セイ……セ、性……精……精……

 ……そうか、私の行動原理は全部精なんだ。とーっても単純明快じゃないか。
 精が欲しい。血潮滾る精エネルギーを全身に浴びて、体内に注がれたいんだ。
 アァ……そういうことだったんだね。

「んしょ、よいしょ……よし、着いた♥♥」

 精についての思いを馳せている間に触手は瞬く間に上行して目的の場所へとたどり着いた。
 脳だ。
 ヒトの、いや脊椎動物の全てを支配している要といっても過言ではない器官、脳。
 
「タイチ喋れる?私の言ってることわかる?」
「あ゛あ゛あ゛っあ゛あ゛っあ゛あ゛っあ゛っ」
「あーそっか、耳に触手入れてるからまず聞こえないのか」

 聞こえないなら直接脳にメッセージを伝えればいいだけだよね。
 私は触手の先端から聞きたい内容の電気信号を脳に伝えると、脳は電気信号を受け取りタイチの中枢に伝達しているようだった。
 その結果、タイチの口から直接言葉が発せられる。

「じゃべれ、る、ぎごえ、る……アイ、お゛まえ、ナニ、したん、だ……」
「私の触手を使ってタイチの頭の中に入ってるんだよ♪痛くないでショ?」
「いたい、とか、そうい゛う次元ジャナクて……あっ、あ゛っ、えぅ、グっ」
「ああ、あんまり激しく動かないで。まだ不慣れで難しいんだから」

 私が脳に信号を送り、タイチは口でその回答をする。
 一見するとどっかのSFのワンシーンみたいにも思えるんだけど、ところがどっこいこれが現実なんだよねぇ。ホント人生って何が起こるかわからないものだ。
 ホント……ね。
 私がタイチに出会わなければこんなことは起こりえなかったんだろう。数億分の1の精子の確率で生まれた私とタイチが、偶然にも近所に住んでいて、偶然お互い気が会って、偶然今日の今日まで一緒に生きている。
 まして私の耳が生まれつき悪くなかったらここまで仲が良いとは限らないし、タイチに恋もしてなかった可能性だってある。
 だから私は今日という日を胸に抱いて、正々堂々タイチのことを好きと言える。

「タイチ、私のこと好きって言ったデショ?聞き逃さなかったんだから♥」
「あ、いや、あ゛れ、は好きカモ、ってい、いいって、だな……」
「”好きかも?”……ふぅーん……」

 ぐじゅぎゅじゅぐぐぅっ ぐちゃぐちゃ、 ビキビキビキィッ!
 ぼごぼごぼごっ!!


「あ゛ッ♪あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!や゛、やめ゛ッ、お゛あ゛あぁあ゛ェッ!!」
「いーよーだ、そんなこと言っても勝手に脳みそ覗いちゃうんだから」

 脳を強く擦ってあげるとタイチは悶絶してのたうち回っている。多分これは痛みじゃなくて、快感によるものなんだと思う。だって痛かったらもっと抵抗するはずなのに、タイチはひたすら体を痺れさせ叫んでいるだけなんだもの。きっとキモチよすぎて頭真っ白なんだ。
 でも、いつまでもはぐらかして口を割らないタイチには強硬手段するしかないよね。
 私は触手の先端を脳に埋める。
 ずぷ……にゅぷ……って感覚が先端から伝わって脳の表面部分をほじくり回す。
 こんなこと、医者からして見れば卒倒ものだろう。解剖学的知識なんてほぼ皆無の状態でとりあえず手当たり次第に脳をほじくっているのだから脳外科の先生は顔面蒼白間違いなしだ。
 でも私は医者なんかじゃないから免許剥奪なんてされる心配ないし大丈夫。

「うーん…………あれ、これって……」

 脳の隅々までくまなく探してタイチの記憶と感情を探していると、ある瞬間脳内にとある映像が流れ始めた。
 その映像には今より少し幼い姿の私が勉強している場面が映し出されていて、第三者が私の姿を見ているという映像だった。もしかして、これってタイチ視点で見えてる私ってこと?へぇ、私ってタイチからだとこういう風に見えてたんだ。
 いや、それよりもだ。
 私は「タイチの好きな人」という情報を検索していてさ。その検索結果に私自身が映っていることに気がついた。
 ……フフ、うふ、やっぱりそうなんだあ♥

「タイチも見えるよね?タイチの好きな人で探しているんだけど……どうして私が映ってるのかなぁ?エヘ、ヘヘ……」
「や゛めろぉ、み゛、みる、な……おれ゛のキオク……」

 やめろと言っているけれど、私が「好きな人」というワードを口にした途端、とてつもない数の映像が脳全体にスクリーンとして映し出されていた。
 私の言葉がきっかけで思い出してしまったのだろう。あえて表立って出さないようにしていた記憶が。
 見渡すかぎり私一色の光景は幼いころの姿からつい最近までの光景までありとあらゆる光景が広がっている。
 あれは……小4の夏休みに近所の林でクワガタを取りに行った光景だ。懐かしいなぁ、あのときは頑張って早起きして行ったけど結局全然採れなかったんだっけ。ああそうそう、蛇に噛まれそうになった私を突き飛ばして庇ってくれたんだったっけ。アオダイショウだったからよかったものの、マムシだったらと思うとゾッとしたなぁ。けど、やっぱりそのときもタイチが私を守ってくれていたんだね。
 ありがと♥

「……小学生のころは覚えているのに、私たちの初体験は覚えてないなんて失礼すぎないタイチ?」
「だ、から……おれ、そんな゛の、知らねぇ……」

 次に見えた光景は……中2の家庭科の授業かなこれは。あー……そうそうこうだった。私とタイチが一時期同じ班だったときがあって、班で課題の料理を作るってことになってたんだけど……私料理下手糞すぎるから班員全員分の料理台無しにしちゃったんだっけなぁ。
 今となっては笑い話だけど、当時は申し訳なさでいっぱいだったよ。
 ああ、そっか。このときもタイチは顔色一つ変えないで私の作った料理食べてくれてたんだっけ。我慢して食べてるのバレバレなのに、ほんとよくやるよね。
 ほんと……
 …………
 ほんとに大好き。好きすぎてタマラナイ。

「ねぇタイチっていつから私のこと好きだったの。ねぇ、ねえ」

 返答を聞かずとも、私はその問いかけをするだけで十分だった。
 「問いかけを聞いて、それを考えない」ということは脳にはできないのだから。問われたことを聞いて人は誰しも、その答えを頭の中で考える。
 それが言いたくないことだったら言わなければいいことだし、わからなければわからないという返答すればいいだけのことなんだから。
 だから「考えない」ということはありえない。
 あと、ついでに言うとちょっとタイチの記憶探索が楽しくなってきちゃったっていうのもあって、どうでもいいことも知りたくなっちゃった感はある。

「初恋はいつかな〜……あ、あったあった。これは……」

 小学5年。
 お昼休みの時間に外のグラウンドでみんなとサッカーをしてたときだ。
 あっ、タイチが転んで膝を……うぅ痛そう……
 で、そこにやってきたのが私で。あぁそうそう、ちょうどその日ばんそうこう持っててタイチの膝につけてあげたんだったっけ。
 ……………………
 ………………
 …………
 ……
 ……え?これだけ?
 こんな、なんてことない日常の出来事が初恋ダッタってわけ?

「あ゛ぁ……はず、かし……だ、から言いたくなかった……」
「え、ちょっと待って。もしかしてタイチ……タイチの初恋の人って……私なの?」


 そういえば、「タイチの好きな人」で脳内検索した時もよくみれば映し出されていたのは私一人だけだった。
 「好きな人」ならば今までの生涯で好きになった人がずらっと全員出るはずなのに、私だけが映されるだけ。
 それってもしかして……

「もしかしてタイチ、初恋から今までずうっと……私のこと一途だったワケ……?」

 コクリ、と首が縦に振られる。
 ……うそ、え、やだやだ……ちょっと、めっちゃ嬉しいんだけど。

「は……アハッ、あ、はっ♥そっか、そうなんダァ♥♥」

 なぁんだ。タイチも私と同じだったんだ。私がタイチのことをずっと好きだったように、タイチもまた私のことを心の底では好きでいてくれたんだ。シアワセ♪
 本当は好きだったのに、いつもずっと一緒にいるせいで好きって感情が鈍っちゃってたんだね。
 そうかそうか、うん。タイチの気持ちはよーく伝わったよ。これ以上ないってくらい、それこそ頭の隅から隅まで知ることができた。
 だって頭の中を直接覗いたんだもん、当然だよね。
 それじゃあお互い両想いってワケかぁ♥
 両想い、リョウオモイ……両方想う……良い言葉だよね♥

 ぐじゅぐじゅじゅる るぎゅじゅるぅうぅ

  アハッ♥アハハッ♥
 嬉し過ぎて触手全体が震えるように踊ってる♪
 タイチと付き合える。今までの親友関係じゃなくて、これからはオトコとオンナとして突き合える。
 今までどれほど待ち望んだことだろうか。この時を、この瞬間を、この一瞬を。
 触手が早く精液を飲ませろとせがんで来ているのがわかる。子宮がうずいているのがわかる、卵巣がフル稼働で排卵しようとしているのがわかる。
 タイチが私のことを好きで、初恋の相手も私だということも知って……もう知りたいことは十分知り尽くした。あとはスることだけシちゃわないとねぇ♥♥

「これからもずっとずーっとヨロシクね、タイチ♥」
 
 みたび私からキスをする。今度は貪るような激しいキスではなく唇と唇が触れ合うような軽いものだ。その行為は気持ちよくはないし、唾液を飲ませる行為に適していない。
 けれど、お互いの気持ちを確かめ合うという点においては何よりも適しているキスだと感じた。ささやかな愛とこれから始まる熱い交わりを予感させるものになるんだ。
 そして私は触手を引き抜こう……としたけど、最後にもうひとつ面白いことをやってみようと考えた。

「えへ、これから面白いことスルよ。見ててね」
「な゛にをするんだ……?」

 脳内を探りまわし、目的のモノを見つけると私は触手の先端からドロリとした粘液を脳内にぶちまける。脳内にこんなもの出しちゃっていいのかって?いいよそんなもの、気にするほうがヤボってものだ。
 私のマリョクをたっぷり含んだ特濃の粘液を脳に擦り込むように絡めてまぜる。するとタイチの体はビクビク痙攣しだしてとっても気持ちよさそう。

「ほお゛おおぉぉあ゛ぁぁ……♪」
「ほぅら見て見て、タイチの股間むくむくしてきちゃったでしょ♥」

 視線をタイチの股間に下ろすと、タイチの股間は制服のズボンの上から山を形成していて今にも破けそうな勢いだ。
 あぁ、とってもくるしそう……今出してあげるからね。
 私がズボンのベルトを外して、するすると下ろしてあげると迫り上がった山の部分に突っ掛かってそこから先へは下ろせなくなってしまった。
 ああ、もう!あと少しなのに、あと数センチズボンを下ろせれば待望のアレとご対面できるというのにぃ!
 待望していたものが寸前で見えなくなると、私のイライラは一瞬にして最高潮になり考えるよりも早くタイチのズボンをちぎり投げていた。
 人ならざる怪力をもってすればズボンの繊維なんてそこらへんの紙屑となんら変わりないんだから。


 ぼろんっ!


「はわぁぁああ……♥♥これがタイチの勃起チンポォ♥ア゛ッ、あ゛ぅっ♥」
「はぁ……ハァ……なんだ、下半身があ、つい……熱すぎる……」

 目の間に聳えるタイチの勃起したチンポ。
 これはいけない。凶悪的すぎる。
 法で取り締まらないといけないよこれはだって見ただけで理性吹っ飛びそうになっちゃうんだし臭いだってむわってしてて鼻が性器になっちゃったのかなって錯覚しちゃったしそもそもこれは私とタイチだけが対面することを許されたご神体にも匹敵する神聖なものなので厳重に警備しなくちゃならないんだだから私が24時間厳重体勢でタイチのチンポを警備する役割になると共にタイチの性欲処理も担当すれば一番手っ取り早い話になるわでそうだそうしようそれがいいそして更には……
 …………ハッ、いけないいけない
 いやぁ、立派だね。でもまだ、もうちょっと一押し。

「もっと濃いのいくよ〜♥」
「へっ…………おごお゛ッ!♪」

 さらに私は粘液を分泌させる。
 私がピンポイントに粘液をかけているのは副交感神経の部分だ。
 チンポが勃起する本質は、チンポ内部の海綿体に多量の血液が流入して海綿体そのものが拡張してなるものだ、と保険の教科書に書いてあった。それじゃあ副交感神経をちょっと改造して、血液の流入する量を増やしてあげたらどうなるだろう?
 それが、こうだ。

「あ、がっ、なんだこれ……俺のチンコがで、でかク……」
「♥♥」

 ビキビキと青筋を立てて剛直するステキなチンポ♥
 最初は14cmくらいだったものが15、16……とおっきくなっていって、今では19cmになろうとしているところだろうか。長さだけじゃなくて太さもそれに比例して太くなってるよ。もちろん、血流量を増やしただけじゃ一時的な増大にかならないから、チンポの組織自体を今の勃起したサイズで固定するようにするのも忘れない。
 ネットで洋モノをたまに見たりはしてたけど、アレは長いだけで気持ちよくなさそうなんだよね。
 やっぱりチンポは太くてでかい方が立派に見えてオスの象徴らしいってものだ。オンナの私が語ってどうこうなる問題じゃないんだけどさ。
 ちょっとくらい夢を見さしてくれたっていいよね?

「ほんト、にこれが俺の……マジかよ……」
「嫌だった?」
「いやむしろちょっと嬉しかったり。デカくなるってのは男の象徴だったりするカラな」
「でしょ♥それじゃぁ次は〜」

 とりあえずチンポの大きさはここまでで良いとして、次に私は前頭葉の部分に粘液を放出する。
 前頭葉は主に理性を司る部分らしいので、ここらへんをちょこっと改造して人間の理性をぶっ壊してあげようという魂胆だ♪
 多分、私もう人間じゃないし、それだったらタイチも一緒に化け物にならないとダメでしょ?
 もう私にとって人間は異常であって、化け物こそが正常なのだから当然のこと。化け物の彼氏であるタイチもまた化け物にならないとね。
 
 しゃぐっ
 ぐじゅっ
 じゅぐぅ
 ぶちぶちぶちっ

 食べる。
 人間の理性を私は食べる。倫理とか常識とか今までの学校生活で培ってきた人として守らなければならないことを私は根こそぎ貪りつくす。
 その味は実に甘美で、あのケーキ屋のスイーツよりも格段に美味しく感じられた。
 食べ終わった理性のスキマに私の粘液を織り交ぜつつ新しい理性を備え付けてあげる。するとホラ、できあがり♥

「なんか……アタマがスースーする。気分が軽い……何かしたのか?」
「ちょっとタイチの理性を造り替えたんだ」
「あーソウかい。どうりでなんかムラムラするときたもんだァ」

 あ、そうだ。最後にもう一つだけ……っと。
 視床下部と脳下垂体だったっけ?そこらへんをいじくって、と。よし、これでOK。
 これからいっぱい精液出してもらうんだから、性ホルモンもたくさん分泌されるようにしないとね。元気で生きの良い精子をたっくさん作ってもらわなきゃ♥

「これでほんとに……おしまいっ」
「あ゛あ゛うっあ゛っ♪………………ふぅ」

 ずるんっ、という音を立てて触手が勢いよくタイチの耳から抜け出される。
 触手の先端は脳漿でべちゃべちゃに濡れていて、元々の粘液のせいによるものなのかわからないけどすごくイヤらしい見た目だ。
 よくよく考えたら私の手首ほどの太さのあるこの触手、よく耳に入ったなぁと思う。相当気持ちよかっただろうねぇ。

「ねえタイチどうだった?キモチよかっt……」
「………………」

 ……あれ?
 あれあれあれ、どうしたのだろう。
 耳から粘液垂れ流して、ペニス勃起させてつっ立ってる。
 目が、すっごく血走ってる。

「あれ〜♥もしかしてもうシたくなっちゃった?いいよ、ホラ……」
「……俺が童貞ジャなかったら今頃アイをぶち犯しているだろうに」
「まだそれ言ってる。だからタイチは非童貞で私はしょじょ、で……アレ?」

 初体験は私とタイチでお互い済ませたというのにどうして私だけが処女なの?
 セックスはしたけど処女で、セックスしてないけど非童貞で……ああ、もうわけがわからない。
 こうなったらお互い思いだスマでセックスしまくってやる。そうすればいつか何らかのきっかけで思いだすかも知れないしね。

「あっち行こ……マット敷いてあるから」
「……ふぅっー、ふぅぅー」

 ヒトの理性を食べちゃったからタイチはもう私とシたくてたまらないんだろう。性欲の制御はもう利かないよ。
 勃起チンポからが我慢汁がドロドロ流れてまるで私の粘液みたいだ。
 アハッ♥♥あんなの挿れらたらすぐ昇天しちゃいそう♥
 私は屋上の角にひっそりと敷かれているマットまでタイチを連れて行く。その周囲には使い捨てられたコンドームのごみがたくさん破棄されていて、いかにここで数多くのヒトがコトを勤しんだということがわかるものだ。
 そして、私たちもそのうちの一組となる。

「さ、いつものように私を犯して♥いっぱい、いーっぱい精液ドプドプ注いで欲しいな♥」
「その前にひ、とつ言っておきたいことが、ある……アイ」
「なに?」







「俺、お前のこと……好き…………だ。かもじゃなくて……本当に」

「!!!!」







「……バカ、もう知ってるって///」

 強がってはみたものの、思わず感動のあまり泣いてしまいそうになってしまったのはここだけのハナシ。
 やっとタイチの口から直接聴けた。それさえ聴ければもう十分だ。
 もう、ほかに考えることはナニモナイ。

「タイチ……来て……♥」
「ああ……」

 胸は揉まれてない。フェラもしてないし、クンニもされていない。けれど愛撫なんてする必要なかった。私のマンコはもうぐっちょぐちょに濡れてて準備万端すぎるくらいだから早く挿いれてほしい、それしかもう考えられなかったんだ。私はスカートを脱ぎ捨て、マットに仰向けに寝そべるとタイチに自らのマンコをさらけ出すように突きだす。
 上半身の肉体部と下半身の触手部のちょうど境目には身体が変化する前と全く変わらぬ器官がそこにあった。
 けれど変わらないのは外見だけであってその実態は人ならざるものへと変貌している。どろどろの粘液を膣口から垂れ流し、今か今かと挿入されるのを待ち望んでいるんだ。

「ぐっしょぐしょじゃないか」
「んっ……」

 その巨大なペニスは下から見上げると、想像以上に大きいことがわかる。
 亀頭のカリ首は鋭敏なエッジをきかせ膣壁を刺激することに特化してそうな形状をしてる。あんなので突かれたら、もう……

「ふぁっ……♥」

 その亀頭の先端が私の突起に接触すると、ビリビリと稲妻が走るような感覚に囚われた。全身を駆け巡る電撃は股間から四肢へと伝わり、頭頂へ伝播すると、再度折り返して突起へと帰ってくる。それがたまらなく気持ちよくて、でもいじらしくて……
 亀頭でクリトリスと膣口を何度か往復し亀頭全体に粘液をつけて滑りをよくしているのだろう。だけど、私にとってはその行為が挿入するようにみせかけ挿入しないという焦らしプレイに思えるものだ。
 だからげしっ、と軽くタイチの体を蹴って視線で訴えると彼は一度深く頷き亀頭を膣口にあてがった。

「じゃあ、挿れるぞ……」
「いいよ、いつでも……」

 あっ、ああっ♥
 クルッ、あの快感が、モウイチド、久しぶりにッッ、クルッ♥
 
 ヌプッ……

「あ、んっ♥」

 挿っっっ……たぁ♥
 亀頭が私の中に挿ってくる。するんっ、と勢いよく挿入されると、その形状ゆえにカリ首のところまで一気に入り、竿の部分に差し掛かったところで進入は止まった。
 あぁ♥タイチの体の一部が私のナカに……それを意識すると体の芯からゾクゾクッって震えが止まらなくなって全身の毛穴という毛穴から粘液が吹き出てくる。まだ亀頭を入れただけなのに、もうすでに私のお尻の部分のマットは水溜りのように濡れてて、少し体重をかけると液が染み出てくるくらいだった。

「すごっ……アイの中、吸い込まレそう、だっ」
「いいよ、もっと吸い込まれて。もっと奥へ、キテッ♥♥」

 さっきは私がタイチの耳という穴を侵して愉悦に浸っていたけど、今はその逆だ。
 いや、むしろこれが本来の体の関係なんだよね。男であるタイチと女である私。タイチの雄雄しいチンポで私を犯してくれるんだ。
 これこそが正しい性交、交配というもの。あぁ、やっと私の交配願望が満たされた瞬間だ。
 なんて達成感……デモ、ここはまだ始まりに過ぎないの。

「ふぁ、あ、ぁぁ、ぁん」

 ペニスが徐々に私の内部へと侵入してくるとその快感は更に大きいものとなって私を包み込む。全神経を一点に集中させ、ひたすら快感のみを感じるためにタイチを意識して、中で受け止める。
 膣壁とカリ首が擦れ合うたびに、私とタイチはくぐもった声を鳴らして互いを実感していた。タイチの嬌声が聞こえると、私の膣で感じてくれているんだという達成感と多幸感に満たされそれが快感へと直結するんだ。それはタイチも同じようで、私の嬌声を聞いてより一層ペニスの硬さが増していくのがわかった。

「う、くっ」
「ぃぃよ、タイチぃ……」

 ゆっくりと、だけど遅すぎはせず私が中に入れて欲しい速さをまるでタイチにも伝わっているかのようにシンクロしていた。
 いや、もう実際にシンクロしているといっても過言ではないのかもしれない。脳の細部にわたって混ざり合った私とタイチならばそれくらい造作もないことなのかも……知れない。
 これはただの私の憶測なんだけどさ。でも、そう思ったほうが夢があるっていうか、ね。

「す、げぇ……これがアイの膣……」
「膣、じゃないよ。マンコ、だよ♥」
「マンコ……そう、ダな。アイのマンコ、すげぇよ」
「あぅ、んフ、ぁぁ、もう、えっち……♥♥」

 ずぶ、ぬぷ、と徐々に徐々に入り込んでいくタイチのペニス。
 さっき大きくした時よりも更にもうちょっとだけ大きくなっていて、今は22cmくらいあるんじゃないだろうか。ここまでくればもう立派な外国人サイズにも顔負けだろう。彼女の私としても鼻高々だよ。
 ふふっ♥
 そのチンポで私の子宮にキスされたぃ……いっぱい精液ほしい……もっと奥へ、オク、ヘ……

「…………んおっ」
「んぐっ……あれナンカ、変なカンジ……」
「……ここらへんなのか」
「な、なにが?」

 順調に挿入されていったペニスなんだけど、途中でタイチの腰がストップしてしまう。
 それと同時に私も何か不思議な違和感を感じて思わず腰が引けてしまう。
 …………??
 なんだろう、コレ。
 なんていうか、変な突っ掛かりがあるというか、せまいというか……

「噂にゃ聞いてたがこんなもんなんだな」
「え、なに、わかるの、コレ?」
「なにっておま……これ処女膜ってやつじゃねぇのか」
「…………へあっ?」

 ショジョマク?
 ショジョマク……しょじょまく……処女膜?
 いやいや、まさかそんなバカな。だって私タイチと初体験した時にもう貫通したんだよ?
 なのになんで処女膜がまた元通りに戻ってるのさ。そんなのアリえないし。
 だって私処女だし。
 ………………………………あれ?

「ほら見ろ。やっぱりお前の言ってタこと全部妄想なんじゃねぇか」
「あ……アハッ、アハハッ♥そんなはずないって♥ほら、一思いにブチ破っちゃっていいからさ」
「え、いいのか」
「いいよ。それで何も起きなければ私の言ってたことは妄言じゃなくて本当だったって証明になるでしょ」
「……後悔してもしらねぇぞ」

 私は初体験ではない。
 中学時代にタイチとやったんだ。間違いないんだ。絶対そうなんだって。
 自分に強く言い聞かせて、革新的な自信を持っている。
 だからこの妙な突っ掛かりも処女膜じゃなくて……そう、なにか別のヒダみたいなものよ。
 膣壁のヒダが異常に大きくって、それが膣の内部を狭くしているだけのこと。それに違いない。
 
「それじゃ一思いに残りの部分まで全部入れちまう、ぞ」
「いいよ……タイチので私のお腹全部満たして♥」
「正直、俺もあまり我慢できそうにねぇ。アタマの奥で入れろ入れろってずっと鳴り響いてやがる」

 私が理性を消し去ってしまったからタイチの本能がそう囁いているんだろう。
 動物的な本能。ただ、メスに種付けして子孫を残すという原始的な行動である交配願望だ。
 タダの獣はそこには愛はない。
 けれど私たち化け物には愛し合うということが前提に組み込まれているから獣のようなセックスをしたとしてもそこには必ず愛があるのだ。
 だから私は安心して彼に体を委ねられる。
 いいや……タイチに体を委ねていたのは今に始まった話じゃなかったね。今まで数々のことでお世話になって助けられてきた。それはもう数え切れないくらいに。
 私はとっくの昔から、タイチに体を委ねていたんだ。

「ふぅー……」
「あ、はぁ、もっと、イッキに♥」
「よし、それじゃあ……」

「ふんっ!!!」


 ギチギチ、ブチッ!!





「ア゛ッ――――――」




 アタマ が まっしろに なる

 くもひとつない あおぞら トんでいるような きぶん

 フワフワ うかんで きもちいぃ

 ちじょうで だれかが よんでいる

 おーい もどって おいでよー

 ああもう せっかく フワフワ とんでたのにい

 しょうがない もどってやるか――

 わたしは――――

 じめんに――


「――――ああああああッッ♥♥♥♥」

 一瞬、意識がすっ飛んでいた?
 私の体に何が起こったのかよくワカラナイ。
 だけどこの爽快感は一体何なのだろう。今までまとわりついていた枷が全て解き放たれて、全てが自由になったこの感覚は一体……

「……うおっ、アイ、大丈夫か。痛くないか」
「イタイ?どうしてそんなこと……えっ」

 え?
 真っ赤。
 マットが真っ赤。
 私とタイチの接合部が真っ赤。
 粘液と混ざって流血がマットに染み込んで、私のお尻の部分まで全部真っ赤。
 え、ナニコレ?

「やっぱり処女だったじゃないか」
「…………あふっ、は、ハハッ」

 私が処女なのは知ってる。
 だけどそれを肯定するということは、私はタイチとセックスをしていないという証明になってしまう。あの日、体育館庫でヤったあれはなんだったの?私が勝手に夢見てた妄想だというの?
 そんなことってあっていいの?
 こんなに鮮明にキオクしているというのに、アンナ気持ちよくなっていたというのにアレは全部まやかしだったと?
 そんな……

「アイ……お前これでもやっぱり非処女だって言い張るのか」
「いや、もう、イイ」

 認めざるを得なかった。
 私は処女であり、今の今まで性交渉なんてしたことがなかったということを。タイチと愛し合ったあの日々は全て偽りのキオクだったということに。

「…………」

 それじゃぁ次はどうする?
 そうだ、こんなところでへこたれている場合じゃない。 私には今があるじゃないか。
 過去の記憶がまやかしだったとしても、今現時点で愛するタイチが目の前にいるじゃないか。タイチとセックスしているんじゃないか。
 だったら……だったら!!
 嘘偽りのキオクよりも濃厚で淫靡な思い出をたくさんこれから作ればいいことじゃないか。
 過去の幻想に囚われることなく、現在進行形でやりたいことをやりつくせば……万事解決というものでしょう?

「……れて」
「ん?」
「モット、奥までいれて。今までの……いや……初めてのセックス記念はお互い処女童貞喪失記念として激しくしてほしい、な……」
「アイ……」

 正直言うと私もそろそろ限界だった。ペニスを入れられているというのにピストンされないやきもき感はこの上ない焦燥感を生み出して、子宮の疼きをより一層強いものにしていた。
 身体が欲しいテイル。精液を、タイチの子種を何よりも欲している。


 ずぷんっ……!!


「ああんっ♥♥イイッ♥それ、もっとぉ♥」
「アイ……もう、ダメだっ……腰が止まらねぇ」
「いいよ、もっと突いてっ、奥まで突いて子宮にキスしてッ♥」

 私が欲しいと合図するよりも早く、タイチのほうから体を動かしてきた。
 もうタイチも限界なんダろう。
 いいよ、モット頂戴。ペニスで私を乱暴に扱って、壊れるぐらいに犯して♥
 いや、壊れちゃってもいいや。だってもう人間じゃないんだモノ。

「はっ、はぁっ、うくっ、アイ、アイッ」
「タイ、チっ、タイチッ、きもちい、いッ♥♥」
「すごっ、絡み付いて、もげそうっ、だっ」

 視界がバチバチ点灯している。一瞬暗転しては、カラーになったりモノクロになったりノイズが走ったり目まぐるしい変化を繰り返していた。
 破瓜の痛みなんてどっかに飛んでしまったのか、今の私の支配しているのは圧倒的な快感とタイチの巨大なペニスの二つのみだ。カリ首で膣壁とGスポットを刺激され、長いペニスで子宮口をノックされ、陰毛でクリトリスを愛撫され、もう私の意識に逃げ場なんてなかった。
 目の前に見えるのは愛しい彼氏だけ。血走った目をしていながらも、どこかでよがり快感に苦しんでいるような表情は私の嗜虐心をくすぐられてつい意地悪したくなっちゃう。

「はっ、蠕動してっ、あうっ♪これは、しぬっ……!」
「アァン、し、なないで♥もっと、もっと頂戴ィ♥」

 膣壁をくねらせ敏感な亀頭を攻め立てる。コレが私の精一杯の悪戯であり、そして抵抗だった。
 先ほど、私がタイチの耳を侵していたときの優越感の余韻のようなものがまだ残っていたのだろう、少しだけタイチより有利の立場になってみたかった。
 でもやっぱり本物のオスには適わない。チンポに適うわけなかったんだ♥
 私はタイチの前ではタダのメス。快楽を知って互いに共感するタダのメス。
 それでいい♥
 いままでずうっとタイチに甘えてきたんだ。これぐらい恩返しないと割に合わないよね。

「アイっ、好きだっ、俺はおま、えガ、好き、ナンだっ」
「やぁ♥それっ、反則ゥ♥♥」

 どんどん、どんどん早くなるピストン。
 私の粘液とタイチの我慢汁が混ざり合った液体は私とタイチの間でねばっこい糸を引き、タイチが私に打ち付けては離れてを繰り替えすたびに納豆のように伸びている。
 また、粘液性の少ない汗はそこら四方八方に飛び散り、まるでその部分だけ集中豪雨でも降ったのかと思うほど水浸しになっていた。そしてそれはお互いのセックスの激しさを物語っている。

「ハァ、ハァッ、アイ、いつの間にかこんな、胸しやがって……!」
「んっ、アァッ♥らめっ、おかしく、コワレッ♥♥」

 タイチは私の夏用のニットベストとワイシャツを引き裂くと、目の前に露になった胸を一心不乱に揉みしだき、そして吸い始めた。
 その間も絶え間なくピストンは続き、私の性感を刺激し続ける。私の体を襲う快感は更に一つプラスされたことにより、もう物事を考えることすらもままならなくなってきたところだ。

「エロい……最高にエロいッ、ああ゛っ、もうっ、キモチッ、い゛い゛ッ」
「わたひもっ、もうイミわかんないっ、くらい♥♥きもひぃ♥」

 ぐじゅぐじゅ
 ぬぷっぬぷっ
 ばちゅんぱちゅん

 ありとあらゆる水音が鳴り響く。
 その音は、私が今まで聞こえてきた水音よりも格段にいやらしく、生々しく、そして心地よい音色だった。
 そしてその音は、私が、私たちが奏でているんだ。
 もうこれからはいつだって、好きなとき、好きなタイミングでこの音を楽しむことができる。
 私たちは、いまここに生きている。

「うぉっ、アイ、くすぐったっ、うぐッ……」
「しゅきぃ♥もっと触れたい、感じたい♥アァッ♥♥」

 胸に吸い付くタイチを私は強く抱きしめ、触手を巻きつかせる。
 私なりの最大限の愛情表現でもってしてこの身を提供するんだ。
 私は無意識のうちに何度かタイチの首元に噛み付いて、吸い付いて傷跡を残していた。それと同時にタイチも私に胸を噛んで吸い付き跡を残す。
 お互いがお互いの所有物であるという証を刻み込み、それと同時に愛し合った証明としてそこに印すんだ。

「んちゅ、はむっ、んむむっ♥エヘヘっ♥」

 でもその印も数日したら消えてしまう。
 だったら消えてしまうたびにまた付け直せばいいだけのことだ。
 私たちの愛の証は恒久的なものではなくて、常に新しく更新されてゆくものなのだから。

「アイッ、アイッ……もうそろそろっ、限界がっ、あうっ……」
「んっ、あっ、あうっ、イイヨ……私ももう、近いカラッ……」

 タイチは顔を胸から離して、私を覆いかぶさるような体制になった。お互いの顔が一番よくわかる位置だ。
 タイチの顔は苦しそうで、息も絶え絶えでとても切なそう。
 だけど私の顔のほうがもっと大変なことになっているのだろう。もう、何も考えられない。

「そうい、えばナマで挿れちまってるんだ、った、あぐっ……」
「そんな、のっ、カンケーないよ♥出して♥いっぱいドクドクッって♥」

 その言葉を聞いた瞬間、タイチの睾丸が一気にパンパンに膨れ上がって、同時に私のナカに入っているタイチのペニスもまた一回り拡張して、私の胎内を広げている。
 多分彼は建前的にゴムなしでヤっていることを気にかけたんだろう。その心の奥では私に種付けしたい一心で精液を溜め込んでいるのに、一応高校生という身分からナマ中出ししていいのか不安になったんだと思う。
 もう、そんなこと気にしなくていいのに。
 セックスって、メスが精液を貰うために存在する行為でしょ?それを遠慮するんじゃ本末転倒ってものじゃないか。

「うぐっ、もう、ホントにっ、やばっ……」
「あはぁっ♥子宮が準備してう♥精液そそいで、モラウ、あはっ♥」

 お互いのラストスパート。
 タイチのピストンは猛烈に速度を増し、射精へのボルテージを極限までに高めているのがわかる。その高速のピストンは私の膣をぐちゃぐちゃに溶かし混ぜ、どこが性感帯なのかもわからぬぐらいに刺激し続けていた。
 私は仰向けになりながら眼前に覆いかぶさるタイチの顔を見て、心のそこから愛おしく想い、その両手に指をあわせる。タイチも私の意図を読み取ったのか、承諾するかのように指をあわせてきて、両手が恋人つなぎの体制になった。
 ぁぁこれよく漫画とかで見る構図だ……憧れだったんだぁ♥なんて幸せ……♥♥

「アイッ、ア、イッ、もう、出ッ!!」

 最終段階。
 もう、これ以上いうことはなにもない。
 ペニスが最大限まで膨らんで、精液を溜め込んで。
 そして――

「いいよっ、出してッ♥タイチ、タイチッ!好き、スキ!!♥」
「あ゛っ、で、出るッ、アイっ、イクっ……あッ!!!!」


 びゅぐッ!!!
 どぷんっ、どぷっ、びゅくっ!!
 びゅっ、びゅっ、びゅるっ!!


「お゛あ゛ッ……あああぁぁぁぁあ!!」
「んあぁぁあっ♥うああああっっ♥♥♥」

 ペニスの先端から夥しい量の精液が射出される。
 まるで鉄砲水かのごとき勢いで私の膣内で射精されると、その勢いは止むことなく私の子宮へとダイレクトに伝わり、ものの数回の射精で子宮内を満たしてしまった。
 行き場の失った精液は膣内部まで戻ってきて、さらに開いてるスペースへと押しやられていくと、最後には膣口から出て外界へ漏れ出てしまうのであった。

「あ゛はっー、はぁーっ、ウグっ……」
「アァ♥すっごい量だぁ……私のナカじゃ納まりきらない……」

 射精は1分、2分と続いて3分目くらいに差し掛かったところでやっと落ちついた。
 その間タイチはずっと私のナカに精液を送り続けていて、一向にペニスを抜こうという素振りはしなかった。
 許容量を越えた私のナカにいくら注いだとしても溢れ出てしまうしかないのだけど、本能的にタイチは生きの良い優良な精子を絶え間なく注ぎ込むためにペニスを差し続けていくれていたんだ。
 そのかいあってか、私のナカに残っている精液はプリップリの特濃な精液でもしかしたらこの一回で妊娠しちゃうかもしれないってぐらいの新鮮さだ。

「あ、ふぅ……もったいない♥」

 零れ落ちた精液がもったいないので触手で絡め取って、それを自分の口に運んで飲む。
 んくっ、ごくっ、ちゅるんっ
 んあぁ♥やっぱり精液がイチバン美味しいんだぁ♥
 私の血と粘液とが混ざり合ってピンク色みたいになってる精液だけど、これもまた美味ってものだよね。
 
「はぁ、はぁっ、せ、精液なんて美味いモン、なのか……」
「んふっ♥それじゃタイチも飲んでみる?」
「いや、いい、遠慮、シとく」

 タイチは私の隣に倒れこみ、仰向けになって空を見上げていた。
 いきり立っていたペニスはひとまず役目を終えたのか、徐々にしぼんでいくと通常時の大きさに戻っていて先ほどの巨大ペニスの面影はどこへやらといったところだ。
しかしそれでも、通常時の時点で普通の成人男性の勃起状態よりも大きいのだから拡張は成功したのだろう。

「ふうっ……キレイな夜空だ」
「あ、ホントだ……いつの間にか夜になってたんだね」
「でも昼間みたいに目が利く。暗いトころもまるで昼間みてぇだ。俺も変わっちまったのかね」
「んふっ♪私と一緒だよ♥」

 うねる触手でタイチの体をぺたぺた触り愛撫する。コレが私なりのスキンシップだ。
 私はいま、とても幸せだ。
 長年愛し続けていたヒトと両想いになれて、セックスができて、一緒になれたんだから。
 幸せすぎて、逆に怖いくらい。

「幸せすぎて逆に怖い?」
「あ、あはは……また声に出ちゃってたかぁ」
「怖いモンなら俺に頼れ。また守っテやるからよ」
「……♥」





「タイチ……ずっと好きでシた、付き合ってください」
「俺でよければ」




 満点の星空の元、屋上には一人と一匹だけが残されていて、夜風に当たりながら涼しげにピロートークを繰り広げていた。
 いや、もう”二匹”でいいのかもしれない。
15/08/01 11:08更新 / ゆず胡椒
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■作者メッセージ
初めて挿絵といふもの描きけり。
いと難し、なれどいとおかし。

マインドフレイアへ送る精一杯の愛をつたない挿絵と性癖まみれの文章で表現いたしました。
棒立ちだとか、どっかで見たことあるポーズだとかはお察しください…

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