連載小説
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【嵐と慈雨の神バアル、崇高なる神也

 神は贄を求め、人々に豊穣をもたらす者也

 なれど野蛮な異教徒共は贄を良しとせず神を迫害し

 崇高なる神は信仰を失い蝿へと成り下がる

 神は怒り人々の前から姿を消すと

 地獄の最下層にて六つの公爵と共に大罪を司る也】


「オヤ……貴女のような役職の方がこの店に来店なさるとは珍しいことです。
ふむ、どうやら新しい環境にまだ不安があるとお見受けられますがいかがでしょう。図星ですね。
そんな貴女には特別に……これを差し上げましょう。
信じる者に豊穣と繁栄をもたらすとされている秘密の書物。中に書かれています内容はそれはそれは素晴らしいことが書いております。
貴女の信ずる神とも干渉せず、裏で作用するものですから戒律にも触れることはありません。どうぞお読みになって豊穣の祝福を肌で感じて下さい。
多くの人が信じれば信じるほどより豊かになるはずですから。
代金は後払いで結構ですよ。
それでは吉報をお待ちしております……」





※※※





・A月A日
『私の名前はエレミヤ=ペルセスカ。
歳は二十五歳。
女。
夫、彼氏はいない独身。
身長163cm。
体重◎☆×◆。
趣味は読書。
職業は教団の大神官。先日まではごく普通の神官だった。
 自分の日記だというのに自己紹介をしているのはよくありがちなミスだけれど、折角書いてしまったのだから消さずに取っておこう。こうやってみると自分を自分で見返すと少し恥かしいな。全身をくまなく見舞わされているみたいだ。赤裸々に。
 とまぁ個人的な感想は置いておいて。
 今まで日記なんてつけていなかった私がいきなりつけ始めたかというと、これはちょっとした自分への訓練みたいなものを兼ねている。
 というのも、私は本日付からこの辺境の地エクロンで新たに業務を始めることとなった。辺境と言っても教会は大きいし人口だって数万人はいるなかなか大きな町だ。
 私個人としては田舎でのんびりと職務を全うしたかったんだけど、配属先は部隊の元帥だったり教団の枢機卿やらが決めたりするので私からはどうすることもできない。一度決められたら余程の理由がない限りはその配属先で決定してしまうからね。
 そんなところで新しい生活に心機一転するわけだから、気をしっかりと引き締めるために日記を書こうと思った次第だ。毎日は勤務時間的に難しいと思うので、数日に一回ペースでもかまわないから継続していこうと思う。
 今日は新任の挨拶とか業務の流れを確認するので手一杯だったのでひどく疲れた。そろそろ寝るとしよう』


・A月B日
『新しい職場だから妙に気合が入って無駄に疲れてしまった……明日からはもっと気を抜いていこう。いや、気を抜くといってもだらけるというわけではない。
 エクロンの教会はこの地域には珍しく兵舎と学校も兼ねそろえているなかなかに立派な教会だった。兵士として働くも良し、教団役員として働くも良し、教員として働くも良し、多彩な選択肢を選ぶことのできるいい場所だと思う。
 その中でも私は大神官として新たに配属されたのだから当然教団役員として働いている。業務としては礼拝をしたり、婚約葬儀を執り行ったり、時には異端審問なんて物騒なこともしたり。まぁ異端審問なんてこんな辺境ではまずやることもないんだろうけどさ。』


・A月C日
『自慢じゃないけど私の役職である大神官っていうのは実は結構凄い階級だったりする。
 というのも大神官になるには上層部に認められるほどの貢献と知識が求められるんだけど、生半可な人じゃまず昇格試験を受けることすらできないんだ。大神官の平均年齢は大体六十歳後半っていうのもどれだけ難しいかわかりやすい指標だね。
 で、私は二十五歳という歴代最年少で大神官に就くことができた。と言っても、教団への貢献はというと偶然と奇跡が織り交ざって運よくデュラハンの兵団を退治できただけだし、知識だってたまたまその分野が好きだから勉強してたら丁度試験の時もその分野しかでなかっただけだし。自分の実力とは言いがたいものがある。そこで教団の歴史の中でもこれは二百年に一人くらいの逸材なんていわれた日には否定する気も起きないってもんだよ。
 だから私は必然的にエクロンでは一番位の高い神官様ということになってしまった。新任のクセに位が一番高いって、実はこれけっこう精神的に辛いものがある。いくら役職的に偉くたって、長年働いていてキャリアの高い人から見てみれば私なんて新米のペーペーにすぎないわけだ。
 名ばかりの大神官、仮初の大神官。そう言われる日もいつか来そうで若干不安を感じている今日この頃』


・A月G日
『大分業務に慣れてきたところで、今回は一緒に働いている仲間をちょっとだけ紹介してみようと思う。とは言うものの、この教会には五十人程度の役員がいるので全員を紹介するわけではない。日頃から同じ部署で働いたり、気があったりする人たちを書こうと思う。
 まず忘れてはいけないのが、このエクロン教会の責任者であるジェイド司祭だ。階級的には大神官である私の方が上なんだけど、実績や経験は遥かにジェイドさんの方が優れている。穏やかで誰にでも優しい初老の男性で常に落ち着いた物腰から厳格な雰囲気を感じ取れる。上の階級である私に対しても特に腰が低くなることなく接してくれるので私個人としても嬉しい限りだ。本部にいたころは大神官だからって金魚のフンみたいについてくる人を払うので大変だったなぁ。
 次は、多分一番接している時間が長いであろうシスターであるマリー。彼女もまた私に尻込みもなく接してくれる数少ない人であり、この辺境の地エクロンで初めて友人となった人物だ。故郷の友人達とはまた違ったタイプの友人であり些細な言動にも新しさと面白さを教えてくれる愉快な人だ。これからも良い交友関係を築いていきたい。
 最後は……なんとなくだけど一応書いておくと、同じ部署で働いている兵士のミハイル。訓練を怠るサボり魔で巡回の度に私の元へちょっかいを出しにやってくる厄介者だ。こっちは礼拝やら書類のまとめやらで忙しいってのに邪魔して来るんだからもう信じられない。まぁその度にジェイドさんに説教されているから私の気も晴れるというものだ。もしこれが本部だったら大神官の業務を妨害した罪で重く罰せられるところだよコレ』


・A月Q日
『私が日々行なっている業務のアレコレ

 礼拝→毎日、朝昼夕の決まった時間に主神様へ祈りを奉げる時間。毎日欠かさず行なう事により常日頃から主神様の加護を受け取り教団役員としての自覚を確認するとともに、魔を祓い聖を取り込むことを目的とする。礼拝堂にて片膝をつき両手を合わせ祈るような姿勢をとりながら主神を奉る。

 朝礼→毎朝教会役員を全員集め、今日を無事に過ごせるのも主神様の加護のお蔭であることを詠い気を引き締めていこうという行事。朝礼に間に合わない者はいかなる理由があろうとも遅刻とする。用事で遅れる場合は事前に手続きをしておくこと。

 祓魔→魔を宿らせ体調の不調を感じた者が訪れた際行なう。聖なる力で体内の魔を浄化し魔物化を停止させる。なお、その際には症状の度合いより処置を行なうレベル分けがされており。それぞれにあった対処法を行なう。
  レベル1:魔力を一切宿していない状態。正常。
  レベル2:魔力を僅かに宿している状態。虜の果実を一つ食べる、魔界の空気を少量浴びるなど。軽い処置で済む。
  レベル3:魔力を一定量宿している状態。言動に変化が現れるが本人は自覚していない。また、異性を求め始める状態。適切な処置を行なう。
  レベル4:魔力の規定値を超えそうな状態。発情し始め、日常生活に支障をきたしている。厳重な体制で処置を行なう。場合によっては祓魔のショックにより生命の危険が危ぶまれる可能性あり。
  レベル5:魔力の臨界値を越えてしまった状態。魔物と接触してしまった者もしくは魔物化になる寸前のもの。即刻状況に応じた処分及び神罰を下す。

 書類のまとめ→住民の個人情報や要望を取り扱ったり、本部との連絡を行なったりする。一番面倒臭い業務で、尚且つ一番時間が長い。本当にめんどい』


・B月C日
『今日は二週間に一度ある休業日だったので、マリーと共に商店街へ出かけた。まだ、私はエクロンの町に慣れていないのである程度馴染めるようにとマリーが提案したものだった。マリーは本当にいい人だ。
 普段祭服しか着ていない私や、シスターの格好をしているマリーにとって衣服屋はとても輝かしくて、つい何でも買いたくなってしまう衝動に駆られちゃう。二人とも二十代半ばなものだからつい気合も入ってしまうものだよね。ね?
 巷で有名な菓子を食べ、王都で流行っているらしい服装を取り入れ、綺麗なアクセサリーを買う。流行に敏感とも言えるし、ただ流されているだけなのかもしれない。けれど普段堅苦しい仕事をしているからこそこういう日常的な行動に惹かれるのかもしれないなぁ、と思ってみたりする。私だって女を磨いて……ゆくゆくは素敵な殿方と婚約したい願望はあるのだ。大神官だからだとかそういうのは一切なしに、普通の女として幸せになりたいものだと最近思う。
 いやあ今日は楽しい一日だった。これでまた明日からの業務も気合を入れて行なう事が出来そうだ。
 …………そういえば、今日マリーと別れ帰路に就く途中に奇妙な店を見かけた。今にも崩れそうなボロ小屋で何の魅力もなさそうな店。ふらふらっと立ち寄ってみたらなんだかちんまい女の子が店番をしていて可愛かった。
 女の子のくせには妙に落ち着いていて神秘的な雰囲気を感じさせる大人びた子だったのはよく覚えている。長々と色々語られた後、分厚い本をよこしてくるので否応なしに受け取るほかなかったものだ。おかげで今は肩がこって辛い』


・B月D日
『今日も仕事は何の異常もなく平穏に終わった。
 家に帰り一息ついたところで昨日貰った例の分厚い本を見てみたが、あの本、どうやらただの普通の書物ではないようだ。というのも読める言語で書かれていない。
 こんな文字今までの人生で一度たりとも見たことはない。酷くぐちゃぐちゃな文字で、見ているだけで気分が悪くなってきそうだ。恐らくは人間界には存在しない言語だと思われる。
 普段ならば私はそこでその本を閉じ焼却炉に放り投げるはずだったんだけど……何故かそうすることはできなくて読めもしない本を見つめ続けるだけだった。題名すら読み取ることのできない謎の書物への探究心といったものなのかな。捨てるのがもったいないと思ったのかもしれない。
 私もいち神官として神学を専攻し学ぶ者だ、それくらい興味を持ったって罰は当たらないでしょ。少しずつでもいいから解読を始めようと思う』


・B月H日
『ミハイルのヤツったらもう信じられない!馬鹿なの死ぬの?
 遅刻しない日なんてないし、提出する書類は毎回期限切れだし、訓練怠ってるし、兵士としての自覚ないし、デリカシーないし、頭悪いし、下品だし、ガラ悪いし!
 今日だって教会を訪れていた人に道を尋ねられていたのに、無愛想で適当な案内だったし!そんなんでわかるはずないでしょ!もっと他人を労わる心を知りなさいよ。
 あーもう書き始めるとキリがない。今日はもうすぐ寝ちゃおうそうしよう。寝たらスッキリするわ』


・B月R日
『私は大図書館が好きだ。図書館はこの世のありとあらゆる叡智を集合させた知識と好奇心の結晶ともいえる。
 例の書物の言語を解くカギがないかを教会の大図書館で物色してみたというわけだけど……見つからない。
 言語に関する書物など数千とある中であの言語を解読できるほどのものを見つけるのは至難だろうなぁ。
 まぁ気長にさがしてみるとしようか。手がかりぐらいは見つかって欲しいものだよホント……』


・C月A日
『今日は本当に大忙しだった。
 レベル3か4くらいの人が急に運ばれてきたのだ。
 大の男数人に押さえつけられながら運ばれてきた女性は霞んだ目をしており、恐らくはレベル4はいっていたと思う。今にも男を食おうとしている行動がありありとわかるものだ。
 あ、補足しておくと私は魔物が人間を食物的に捕食するなんて古い思想はこれっぽちも持ち得ていないことを記述しておく。旧時代の魔物なんてもう既にこの世には一匹たりとも存在していないことは重々承知しているけど、教団のお偉いさん方の方針で一般庶民には知らせていないらしい。
 と、話が逸れた。久しぶりの祓魔の儀式なものだから私一人ではちょっぴり荷が重かったのでジェイド司祭とその他数人で儀式に取り掛かることにした』


・C月B日
『祓魔の儀式は準備から終わりまでを通すと一晩かかってしまう。故に今はものすごく眠い。
 結果は成功した。無事命に別状はなく、体内から魔力は全て払い除けることができた。今後の様子を診るためにも一週間ほどは教会で治療することになるが、それが終われば以前と同じように生活することができるだろう。
 ジェイド司祭や他の神父たちは相当慌てふためいていたようでどうなるかと思っていたが、予想以上にスムーズに進み驚いたと口をそろえて言っていた。
 エクロンではレベル4の人なんてものは一年に一人来るか来ないかの頻度らしいのでそれは慌てるのも無理もない話しだ。私が前勤めていた本部では三日に一人は来るペースであったので、今回の儀式も多少久しぶりではあったけど然程驚くようなことはなかった。
 まぁこれで少しは名ばかりの大神官とは思われなくなったかな?私だってやるときはやるんだから』


・C月J日
『図書館で書物を探しているとジェイド司祭とばったり出くわした。
 丁度お互い業務が落ち着いて暇な時間だったので少し雑談をすることにした。
 年上、経験の積んだ人の話というものはとてもタメになるし勉強になる。私もジェイド司祭のようにいずれはひとつの町を象徴するような偉い人になってみたいな。誰からも頼られ、時には親身に接することができるような人になりたい。
 先日の祓魔の儀式の件についていろいろと褒められたが、あんなものは要はただの慣れだ。手順と段階を間違えずにできたらそんなに難しいものではない。と、ジェイド司祭には何度も言ったのだけど、やっぱり彼は私のことを同じ聖職者として尊敬し共に高みを目指そうなんて言ってきた。
 そんなに尊敬されるほど立派な人間じゃないんだけどなぁ私。
 でも、階級関係なく互いに切磋琢磨しあう仲間というのもなんだか悪くはない。これからも頑張っていこうかと思えるいい一日だった。
 あと、ジェイド司祭の煎れるコーヒーは苦い』


・C月S日
『今日は特に何も出来事は起きなかった。
 書物の解読も全然手がかりが見つからないし、半分諦めの色が出始めてさえいる。どうしようか迷う。
 あと、本部から転勤の通達が届いていた。まだ正確に決まったわけではないが、エクロンから数人程度異動させるということらしい。まぁ私はまだここに来たばかりだから転勤はないだろうけど……願うことならあの憎きミハイルを遠い僻地にぶっ飛ばして欲しいところだ』


・C月T日
『どうも私は運が悪いらしい。
 マリーと二人で食事に行くつもりが、なぜかミハイルも同行していた。いや、意味がわからない。
 どうやらマリーが私と食事に行くということを彼に言ってしまったらしい。いや、マリーが悪いというわけじゃない。悪いのはミハイルだ。なぜお前は女子二人の食事会に付いて来ようとするのだ。やはり意味がわからない。
 本当にコイツは、コイツだけがこの職場で唾棄すべき存在だと思う。新しい場所にも慣れてやっと落ち着いてきたところなのに、ミハイルの存在だけが唯一苛立ちを感じさせる。
 もう!昼食の時だっていつも隣に座りに来るし、私と同じコーヒーを飲んでたりするんだから馴れ馴れしいのよ。まったく』


・D月B日
『やった……ついに見つけた。ついに解読の手がかりとなる翻訳書を見つけることが出来た!とても嬉しい。
 調べてみるとどうりで長い間手がかりが掴めなかった理由がわかった。というのもこの書物に書かれている言語、とても古い時代の魔界言語で綴られているのだ。恐らく数千、いや数万年以上も前に普及していたということを翻訳書には書かれている。
 そんな存在しているかも曖昧な言語は全く興味がなかったけれど、今はその逆でとても興味が沸いている。
 早速解読に取り掛かり、どうにか書物の題名だけは解読することができた。言い回しがまどろっこしくて翻訳しにくいんだけれど、直訳すれば「巍然たる惡喰の聖典」という題名らしい。なんだか物騒な名前だ。
 何が書かれているか早く読み解いてみたいが、いかんせん翻訳書は分厚いし数十冊にもなるから持ち帰るのは無理そうだ。それに今日はもう晩いから寝るとしよう。これからは図書館に泊り込みで解読しようかな』


・D月F日
『そういえばこの書物をくれたあの女の子は"豊穣と繁栄をもたらす"なんてことを言ってたっけ。それもなんとなくだけど納得できるような気がする。
 この書物「巍然たる惡喰の聖典」……いや長いから以後聖典としよう。聖典には食についてのありがたみについてとても素晴らしいことを書かれている。それに付随した産業、それも水産や農産など食に限定した産業を発展させるための社会的工夫すらも書かれていた。素晴らしい書物だ。
 見たこともない料理とその調理法が手書きで丁寧に書かれている。どれもこれもがとても魅力的で思わず喉を鳴らしてしまいそうになった。いや、その前に腹が鳴った。
 産業だって画期的な漁の方法、魚類の養殖法、それに作物のヒンシュカイリョウという技術、イデンシクミカエなんて高度な技すらも書かれている。
 古代の技術とはこれほどに発展していたものなのかと改めて実感させられてしまったな。今の我々人類の科学力では到底不可能だろう。オーバーテクノロジーの他ならない』


・D月H日
『輩の教え"他者の血肉を喰らうことは決して嫌悪すべきことではない。喰らわれた者は以後永遠に捕食者の一部となって体内に残り続けるのだから"
 輩というのは恐らくこの聖典を綴った者なのだろう、いたるところにそのワードが出てきている。食すことをこよなく愛し、自然との調和を望む素敵な思想の持ち主であることは、この聖典を読み進んでいくと自ずと理解できる。さぞ聡明な者だったのであろう。
 私も輩という人物の思想には賛成したい。
 したい……が私には無理だ。私には主神を信じるという義務がある。大神官として、人間として。人々を正しい道に導くために主神の教えを信じ広めなくてはならない義務が。
 主神の教えと輩の教えを天秤にかけれるほど私の信仰心は生ぬるいものではない』


・D月L日
『今日も業務が終わりいつものように図書館で解読作業をしていると思わぬ珍客が現れた。ミハイルだった。
 なんでも最近私が寝不足だという噂が広まっているらしく、それを気にしたミハイルが私の動向を確認していたというわけだ。なんともお節介で彼らしいと言った所か。有難迷惑な気さえする。
 彼は教団兵士だというのに信仰心は一般人のそれと大差なく、本当に何故入団試験を合格できたのか信じられないほどだ。不正があったわけじゃないだろうね?
 これだけ信仰心の薄い彼なら聖典の教えを説いても罰は当たらないだろうと思ったので、興味本位でいい感じっぽいのを教えてあげるとミハイルは想像以上に感動していたようであった。まるで子供みたい』

・D月M日
『今日もまた解読中にミハイルがやってきた。どうにも、昨日教えた聖典の教えにいたく心打たれたらしく、解読の手伝いがしたいと志願してきた。一体全体どういう風の吹き回しなのだろう。
 猫の手も借りたいほどだから実際助かるんだけど、どうにもミハイルだからということで心から感謝する事が出来ない。私はこれほど貴方のことを嫌ってるというのに、貴方は逆に私のところに毎回寄ってくる。これがどれほど嫌なことか。貴方にはわからないだろう。
 壊滅的な気楽者なのかマイペースなのかはいざ知らず、私の嫌悪感をものともせず面と向かってくるのはある種の畏敬の念すら感じるわ。
 無駄に声はでかいし、聖典に傷付けそうになるし、翻訳だって私の十分の一ぐらいのスピードでしか進んでいない。何しに来たの?と問いたくなる。
 まぁ話し相手くらいにはなってくれてるからまだマシなんだけどね。
 あと特筆して書くことがあるとすれば……悔しい事にミハイルの煎れるコーヒーは美味しかった。少しだけ、ほんの一ミクロンくらいは見直してあげてもいいかもしれない』


・D月R日
『この聖典はどうやら数章に分かれて書かれているようで、私は今第一章を解読している最中だ。
 第一章には食の起源やら栄養に関する様々な記述が書かれている。私自身既に知っている事から新しい発見まで学んだ。聖典には食物に関するすべてのことが書かれているとっても過言ではないだろう。
 このペースで解読が出来れば、あと数日で第一章は完璧に訳せそうだ。この章を読み終えた時何が起こるのだろうか……私には想像もつかない。
 ただ一つ用心はしておこう。何せこの聖典は魔界言語で綴られている、つまりは魔物が書いたものだ。魔物が手を下した物にロクな物などありはしないからね。一応衣服と身体に退魔の術式を施しておこうか』


・D月Y日
『ついに第一章を完璧に翻訳する事が出来た!!やったぁ!
 一通り読んでみたものの特に怪しげなことは起きなかったが、最後の一文に妙な文章が書かれていた。
 "以下の一文を呪いの力を込めて唱えよ"とあり、呪文のようなものが続いていたのだ。呪いの力とは恐らく魔力や聖力といった魔法を引き起こす力のようなものだろう、呪文に込める力といったら八割方そういうものだ。それならば私の得意とする分野である。
 これこそ本当に何が起きるかわからない。万全を期して呪文を唱えるのは明日にしよう。鬼が出るか蛇が出るかと言うが、未知への恐怖心は際限ない探究心によってかき消されている!
 大神官なんだからある程度の事は自分で処理しよう』


・D月Z日
『私は奇跡を目の当たりにしたのか?
 そんな馬鹿な…………ありえない!!』
13/04/23 18:33更新 / ゆず胡椒
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■作者メッセージ
魔物化シリーズ5は羽音が五月蝿いベルゼブブさんです。
例によって登場はまだでございます。
今回ブブはあまりブブ様らしいものではないような気がしますのでこんなブブ様もありナンダナァ……的な感じで呼んでいただければ光栄です。

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