11日〜15日
・8月11日
『天気:晴れ
私自身、大分日記をつけるのに慣れてきたと思うので、久しぶりにエルに日記を聞いてもらうことにした。性交のことを記録した日記を聞かせるのは少々恥ずかしい思いもするが、やはり自分の記したことは評価してもらうのが一番であるし、それの方が感情を知る手がかりにもなるだろう。
今日はエルに頭を撫でられた。とても胸がぽかぽかして《暖かい》気持ち。
い、いやなんて言うことはない。
私が綴った日記がエルの予想をはるかに上回り、非常に急成長を遂げていたらしいのだ。エル自身とても驚いていて、日記のことを事細かにノートに書きなぐっていた。頭を撫でたのは日記を放棄せず続けたことに対する褒美だと言っていた。
私自身、自覚はないが日記の節々に感情の芽生えとなるキーが存在しているらしく、より日記としての精度が上がり、表現豊かになってきているらしいのだ。もしかすると今こうやって何気なく記録している日記にも何らかのキーがあるのかもしれないが、未だ解析不能。
この世のあらゆる事象において、「無から有を生み出す」のと「有を無に帰す」とでは天地が返るほどに難度が違う。モノを失うのはいとも容易く行うことができるが、モノを新たに創り出すのは比べ物にならないほど難しく、次元が違うと私は思っている。何度も言うようだが、私自身感情の芽生えということはまったく自覚していない。だが、元々「無」であった私の感情が「有」になりつつあるのならば、それは想像を絶する偉大で、人智を凌駕する万有的創造とでも言うような超進化論宛らである。私はそのような途方もなく巨大な何かを達成してしまうのかとイメージしてしまうだけで、胸の拍動が大きくなるような気がしてならないのだ。
最近は、よくこうやって一人で考え事をすることが増えてきたようにも感じ取れる。それ自体はとても良いことだとエルは言っていた。だが、問題なのは考えることの7割はエルの事なのだ。性感を取り戻すのは不要だと思う傍ら、早く取り戻したくてどうしようもない自分も存在している。
今だってそうだ、もうすぐ深夜を回るというのに、エルに頭を撫でられたことを想起して今にも熱暴走が起きてしまいそうな次第である。一体全体私はどうしてしまったのだろうか。とりあえず冷却しなければ。』
・8月12日
『天気:晴れ
今日はエルの工房での作業手伝いで一日が終わった。折角の晴れなのでエルと買い物にでも誘ってみようかとも思案したが、エルと共にいることができればどちらでも良いのかもしれない。私はこれほどまでに単純であっただろうか。プログラムの異変かもしれないが、最近はデバッグも面倒になってきた。寧ろこの言いようのないぽかぽかとした状態を心地よく思っている私が当たり前のような気さえしてきて、できればこの状態を維持できればとも思ってきている。
作業は順調に進んだ。今まではエルが設計、加工、組み立て、実験を全て行ってきたが、私が加わったことによりエルの作業は加工と組み立てに減った。超性能人工知能の手により1ビット違わず精密計算できる私にとってカラクリの設計など朝飯前である。エルに渡された資料を基に構築、施行、削除、再施行の繰り返しによって完成される設計図に不良など存在するはずがないのだ。
だがしかし、そんな私をもってしても部品の加工と組み立てはできなかった。というよりも、私だからできないと言ったほうが正しい。溶接はある程度行える。だがしかし、エルの必要とする部品は、ゴーレムである私にとって天敵である、力の微調整を一番要求されるものであったのだ。極めて微小な部品を頭の中で構築することまではできるのだが、それを作成する技術がまるで足りない。おおまかな日常作業は既に完璧なのだが、経験を要する手作業は私には不向きであることを再認識させられた。よって部品加工は全てエルの手に委ねることにしたのだが、長年の経験により慣れた手つきで加工するエルは溶接光のせいか眩しく映った。
組み立ても終わり、最後にある実験をして作品の完成である。そのある実験とは「強度検査」。
ようやく本来の力の5割は戻ってきたところで、今では大きな一枚岩程度は用意に粉砕することができる私の右アーム。実験とは単純で、その完成品を現在出しうる最高出力で打撃するということだ。
実際に殴ってみた。
微小な部品を規則性のある複雑な配置に組み立てて、鋼鉄の箱で覆ったであろうそれは、大きさで言うと手乗りサイズであった。それを一撃、最高出力で打撃してみたのだが、その結果に私は《唖然》とした。傷一つ付いていないのだ。岩を粉砕することのできる力をもってしても無傷であるとは、いよいよもってエルの作品の《素晴らし》さに実感せざるを得なくなってきた。
そのカラクリは最後の微調整を加えて後日披露してくれるとのことだ。エルと私が二人がかりで始めて作ったモノ。完成が待ち遠しい。』
・8月13日
『天気:晴れ
大変なことが起きた。妹様が何者かさらわれたのだ。
今日も妹様と町へ買い物へ出かけていた。前と同じように食料、日用品等を買い一息ついたところで、妹様がある提案をしてきたのだ。時刻はまだ昼間ということなので各自自由時間として自由に町を歩き回るということだった。妹様も一人で行きたい店があるらしく、私もその提案に了承した。今考えると妹様の提案は、少しでも私に人間の生活に慣れて欲しいという粋な計らいだったのかも知れぬが、やはり了承するべきではなかった。悔やんでも悔やみきれない。
私は集合場所に10分前に到着し、妹様を待っていたのだが、集合時間になってもとうに1時間を過ぎても訪れる気配すら感じなかった。妹様が約束を破るとは到底思えなかったので少し不審に思っていたのだが、2時間を過ぎたところでいよいよこれは事件と感じた私は町の自警団に捜索の以来を申し出た。自警団総出で捜索が始まった。こんなに大事になるとは思っていなかったので詳しく聞くと、最近この町では人さらいが頻繁に発生しているというのだ。さらわれる対象は若い女子でまさしく妹様に当てはまった。私はこれほどまでに自分が《愚か》者だと思っていなかった。いっそのこと自ら自爆して命を絶ってやろうかとも想起したが、それよりもまず妹様を見つけ出すことが先決。自警団には妹様の容姿を事細かに伝え、ひとまず捜索を任せた後、私は屋敷に戻りこれまでのことをエルと母様に報告した。やはりお二人はとても優しい人柄である。私のことは一切責めたてずに私の不甲斐ない報告を親身に聞いてくださったのだ。
町へと戻った私とエル、そして母様に自警団、さらには町の住民の親切な人たちとで妹様の捜索が始まった。その間も私は自分が許せなかった。エルに関わる全ての人を守ると言っておきながら、守れていない。私は人工脳の神経回路を切断してしまおうかとも思ったが、エルの監視の目が行き届いていたので行うことはできなかった。
最近出没しているらしい人さらいは、若い女性をさらって一体何をしているのだろうか。私の想像し得る最悪な行為をもし行っているとしたならば、私は絶対に許さない。妹様をさらった下賎な低俗を分子レベルにまで解体してやろうかと思う。それほどまでに今の私は《怒り》に溢れているのだ。
しかし、夜通しかけても妹様を見つけ事はできなかった。一晩寝なずに協力してくれた自警団の方々や町民たちも疲労の顔が見えてきているので、捜索は一旦中止しまた昼前頃から開始するという。私とエル、母様は一旦屋敷に帰り、昼頃まで休息をとることにした。この日記を記録し終えたらまた妹様を捜索しに出かけるので、準備をしなければならない。』
・8月14日
『天気:晴れ
頭がショート寸前である。認めたくはないが現実に起きてしまったのでどうにも回避しようがない。
というのも、今日の昼頃妹様を再度捜索に出かけようと私、エル、母様とで準備していた時である。玄関のノック音が聞こえたので来客かと思い赴いたところ、なんと妹様が御一人で帰ってきたのだ。だが、その声、仕草、雰囲気は妹様そのものであったが、外見が異なっていた。
今までと見違えるような豊満な身体つき、頭には真っ黒な双角が聳え立ち、極めつけは人ならざる黒翼と、軟体動物かのごとく蠢く尻尾が妹様の身体から発生していた。そして全裸。
サキュバス。
私は認めたくなかった。急いでエルと母様を玄関に呼び出したのは現実拒否反応であろう。私が見たのは夢であったと思いたかったのだ。だが、二人も私と同じように呆然と立ち尽くし、言葉が見つからない様子からこれは夢ではなくて現実であると認識せざるを得なかった。
そんな私たちを視認した妹様は今まで見たこともないような卑猥で、歪みある笑顔を見せながら屋敷の中へ入ってきたので、私は目の前の存在が妹様だと認めたくないあまり質問をした。貴方は何者なのだと。
そしてこう返された。
「つれないのねユミル。あなたもゴーレムなら私が誰かなんてわかるでしょ?」
認めたくはなかったが、認めるしかなかった。目の前の、むせ返るような精の芳香を醸し出し、頬を赤らめて恍惚と歩く女性が妹様だと。何故ならユミルという私の名前は、私を含めエル、母様、元使用人、そして妹様しか知らないのだから。
その後、屋敷の中で緊急家族会議が開かれた。私たちには知らないことが多過ぎたのだ。母様は神妙な顔つきで誰にさらわれたのか、どうやって戻ってきたのか、何故サキュバスになってしまったのかを問うた。妹様は尻尾を振りながらぽつりぽつりと語り出した。
あの日、私と共に買い物に行き自由時間になると、妹様はいの一番に魔具屋に走ったらしい。その魔具屋に行くには人通りの少ない裏通りを渡らなければいけなく、最近よく人さらいが出没しているという情報もあった。妹様はそれを知らずに裏通りに行き、運悪く人さらいに出会ってしまったのだ。人さらいは5人の男の集団だったようで抵抗の意味はなかったと言う。
町外れの廃屋に連れて行かれた妹様は縛られ、何をされるのか恐怖で脅えていた。妹様曰く、人さらいの奴らはカルトな新興宗教の一員らしく、妹様を中心に祭壇を立て、儀式のような何かを行おうとしていたらしい。脅えている妹様の前に一人の男が桃のような果物を大量に持ってきて妹様に無理やり食べさせたという。それがまた不思議な果実だったらしく、食べれば食べるほど渇きが襲ってきて、次第に頭がぼんやりしていき、苦しくなるのだとか。
4つ目を食べ終えたあたりから記憶がなくなっていて、気が付いたら全裸で体液塗れになっている自分と、男5人が横たえていたのだという。身体が変化しているのにも関わらず、開放感と快感で頭が満たされ、さらわれたことなどどうでも良くなっていたらしい。
以上が妹様が語った全てである。核心であるサキュバスになった理由がわからないが、おそらく妹様が食べさせられたのは虜の果実であり、大量に摂取させられ我を忘れて性交してしまった故に、身体に蓄積した魔力が開放されてしまったのだということは容易に考えがつく。
怪我もなく無事に戻ってくれたのは喜ばしいところだが、これは喜んでもいいところなのだろうか難しいところだ。むしろ妹様自体は魔物娘になれて幸せと思っているらしく、それについては私もエルも苦笑いといったところである。母様はとにかく命が無事でよかったととても安堵していたので良しとしよう。
とりあえず私は妹様が無事に戻ってきたので、自警団へ報告しに町へと飛翔した。妹様のエルに対する視線が熱情しきっていたことに言いようのない《不安》を感じながらも。』
・8月15日
『天気:晴れ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハッいけない。もう録音開始していたか。
今日は特にやることもなく、屋敷の掃除をして終わった。
・・・・・・やはり今日のことは日記に書いておかないと私の気がすまない。
いつも通り私は屋敷の掃除をしていた。だんだん手際も慣れてきて残すはエルの部屋の前だけとなったのだが、そこで私は異変を感じた。エルは今日はアカデミーに行っているはずなのに、部屋から物音が聞こえてくるのだ。カラクリが勝手に動き出したのだろうかとも考えたが、どうにもそれらしい音ではない。むしろその音はカラクリにはまったく無縁の水音であったのだ。勝手にエルの部屋を覗くのは命令違反であるのにもかかわらず、身を揺るがす大きな好奇心によって私の制御はかき消されてしまった。ドアをゆっくり物音立てずに開くと、さらに聞こえる音が鮮明になる。そうして見えた私の視界には信じがたいものが映っていた。
ベッドの上で仰向けになる全裸のエルがとても苦しそうで汗だくになりながら呻き声を上げている。そしてエルに跨っているサキュバス。魔物化により成長した大きな美尻をこちらに向けながら、どこで覚えたのか腰をくねらせ喘ぎ声を上げている。
エルと妹様が性交していたのだ。
妹様は身体から滲み出る汗を迸らせ、口をだらしなく開け甘美な唾液を垂れ流しにしている。一方エルはどこか背徳とした表情で眉間にしわを寄せ妹様を見つめているだけであった。よくよく見てみるとエルの四肢は魔術により硬直させられており、妹様の絶対的支配下に当てられていた。妹様が更に腰の速度を速めると部屋の音は更に淫らに響き渡り、同時に二人の表情も切なさと幸福感に満ち足りたようなものになり、私の聞いたこともない声を上げて呻き合っていた。
私はその禁じられた行為の一部始終を見納め、自室に戻ると今まで感じたことの無いモノが何か胸の奥底からこみ上げてくるような気がした。始めて見る他の存在の性交、セックス。エネルギー補給ではない己の欲望最優先の行為は私が以前エルと行った行為と同じなれど、全く違うものに見えたのだ。部屋中に漂う甘い香りが今でも脳裏に焼きついて離れない。映像が何度も反復して繰り返される。もしかしたらドアの隙間から見ている私に、セックスしていることを見せ付けているのではないかとも考えた。
気が付けば、私はエネルギー補給するわけでもなしに股から粘性の液体が流れていたのに今気が付いた。まさか私はエルと妹様のセックスを目の当たりにして、欲情していたというのか。己のマスターとマスターの家族とのセックスを見て視姦していたとでも。
私は最低だ。命令違反した挙句、他人のセックスを覗き見して快感を覚えているなど、ゴーレムにあるまじき。いや、常識として禁忌である。私は罪な存在になってしまった。どうすれば許してもらえるだろうか。もうエルには十分に使えている、これ以上何かエルの為に何かできることなど・・・・・・
・・・そうだ・・・・・・気持ちよくさせればいいのだ。
視姦では満足できない。どうしておめおめと見るだけで満足できようか。セックスだ。セックスの快感を味わわせてあげればきっとエルはこの罪な私を許してくれるだろう。私は今一度エルとセックスしたいと考えているのだ。見るだけで満足できるほどこの欲望は小さくない。
近いうちにまたエネルギーが少なくなるだろうから、その時を見計らって再びエルとセックスするまでだ。身体の器官もいい具合に調子が戻ってきたところである。妹様には悪いが、エルは私の主だ。主に仕えるものは必ず主に使われなければならないのだよ。』
『天気:晴れ
私自身、大分日記をつけるのに慣れてきたと思うので、久しぶりにエルに日記を聞いてもらうことにした。性交のことを記録した日記を聞かせるのは少々恥ずかしい思いもするが、やはり自分の記したことは評価してもらうのが一番であるし、それの方が感情を知る手がかりにもなるだろう。
今日はエルに頭を撫でられた。とても胸がぽかぽかして《暖かい》気持ち。
い、いやなんて言うことはない。
私が綴った日記がエルの予想をはるかに上回り、非常に急成長を遂げていたらしいのだ。エル自身とても驚いていて、日記のことを事細かにノートに書きなぐっていた。頭を撫でたのは日記を放棄せず続けたことに対する褒美だと言っていた。
私自身、自覚はないが日記の節々に感情の芽生えとなるキーが存在しているらしく、より日記としての精度が上がり、表現豊かになってきているらしいのだ。もしかすると今こうやって何気なく記録している日記にも何らかのキーがあるのかもしれないが、未だ解析不能。
この世のあらゆる事象において、「無から有を生み出す」のと「有を無に帰す」とでは天地が返るほどに難度が違う。モノを失うのはいとも容易く行うことができるが、モノを新たに創り出すのは比べ物にならないほど難しく、次元が違うと私は思っている。何度も言うようだが、私自身感情の芽生えということはまったく自覚していない。だが、元々「無」であった私の感情が「有」になりつつあるのならば、それは想像を絶する偉大で、人智を凌駕する万有的創造とでも言うような超進化論宛らである。私はそのような途方もなく巨大な何かを達成してしまうのかとイメージしてしまうだけで、胸の拍動が大きくなるような気がしてならないのだ。
最近は、よくこうやって一人で考え事をすることが増えてきたようにも感じ取れる。それ自体はとても良いことだとエルは言っていた。だが、問題なのは考えることの7割はエルの事なのだ。性感を取り戻すのは不要だと思う傍ら、早く取り戻したくてどうしようもない自分も存在している。
今だってそうだ、もうすぐ深夜を回るというのに、エルに頭を撫でられたことを想起して今にも熱暴走が起きてしまいそうな次第である。一体全体私はどうしてしまったのだろうか。とりあえず冷却しなければ。』
・8月12日
『天気:晴れ
今日はエルの工房での作業手伝いで一日が終わった。折角の晴れなのでエルと買い物にでも誘ってみようかとも思案したが、エルと共にいることができればどちらでも良いのかもしれない。私はこれほどまでに単純であっただろうか。プログラムの異変かもしれないが、最近はデバッグも面倒になってきた。寧ろこの言いようのないぽかぽかとした状態を心地よく思っている私が当たり前のような気さえしてきて、できればこの状態を維持できればとも思ってきている。
作業は順調に進んだ。今まではエルが設計、加工、組み立て、実験を全て行ってきたが、私が加わったことによりエルの作業は加工と組み立てに減った。超性能人工知能の手により1ビット違わず精密計算できる私にとってカラクリの設計など朝飯前である。エルに渡された資料を基に構築、施行、削除、再施行の繰り返しによって完成される設計図に不良など存在するはずがないのだ。
だがしかし、そんな私をもってしても部品の加工と組み立てはできなかった。というよりも、私だからできないと言ったほうが正しい。溶接はある程度行える。だがしかし、エルの必要とする部品は、ゴーレムである私にとって天敵である、力の微調整を一番要求されるものであったのだ。極めて微小な部品を頭の中で構築することまではできるのだが、それを作成する技術がまるで足りない。おおまかな日常作業は既に完璧なのだが、経験を要する手作業は私には不向きであることを再認識させられた。よって部品加工は全てエルの手に委ねることにしたのだが、長年の経験により慣れた手つきで加工するエルは溶接光のせいか眩しく映った。
組み立ても終わり、最後にある実験をして作品の完成である。そのある実験とは「強度検査」。
ようやく本来の力の5割は戻ってきたところで、今では大きな一枚岩程度は用意に粉砕することができる私の右アーム。実験とは単純で、その完成品を現在出しうる最高出力で打撃するということだ。
実際に殴ってみた。
微小な部品を規則性のある複雑な配置に組み立てて、鋼鉄の箱で覆ったであろうそれは、大きさで言うと手乗りサイズであった。それを一撃、最高出力で打撃してみたのだが、その結果に私は《唖然》とした。傷一つ付いていないのだ。岩を粉砕することのできる力をもってしても無傷であるとは、いよいよもってエルの作品の《素晴らし》さに実感せざるを得なくなってきた。
そのカラクリは最後の微調整を加えて後日披露してくれるとのことだ。エルと私が二人がかりで始めて作ったモノ。完成が待ち遠しい。』
・8月13日
『天気:晴れ
大変なことが起きた。妹様が何者かさらわれたのだ。
今日も妹様と町へ買い物へ出かけていた。前と同じように食料、日用品等を買い一息ついたところで、妹様がある提案をしてきたのだ。時刻はまだ昼間ということなので各自自由時間として自由に町を歩き回るということだった。妹様も一人で行きたい店があるらしく、私もその提案に了承した。今考えると妹様の提案は、少しでも私に人間の生活に慣れて欲しいという粋な計らいだったのかも知れぬが、やはり了承するべきではなかった。悔やんでも悔やみきれない。
私は集合場所に10分前に到着し、妹様を待っていたのだが、集合時間になってもとうに1時間を過ぎても訪れる気配すら感じなかった。妹様が約束を破るとは到底思えなかったので少し不審に思っていたのだが、2時間を過ぎたところでいよいよこれは事件と感じた私は町の自警団に捜索の以来を申し出た。自警団総出で捜索が始まった。こんなに大事になるとは思っていなかったので詳しく聞くと、最近この町では人さらいが頻繁に発生しているというのだ。さらわれる対象は若い女子でまさしく妹様に当てはまった。私はこれほどまでに自分が《愚か》者だと思っていなかった。いっそのこと自ら自爆して命を絶ってやろうかとも想起したが、それよりもまず妹様を見つけ出すことが先決。自警団には妹様の容姿を事細かに伝え、ひとまず捜索を任せた後、私は屋敷に戻りこれまでのことをエルと母様に報告した。やはりお二人はとても優しい人柄である。私のことは一切責めたてずに私の不甲斐ない報告を親身に聞いてくださったのだ。
町へと戻った私とエル、そして母様に自警団、さらには町の住民の親切な人たちとで妹様の捜索が始まった。その間も私は自分が許せなかった。エルに関わる全ての人を守ると言っておきながら、守れていない。私は人工脳の神経回路を切断してしまおうかとも思ったが、エルの監視の目が行き届いていたので行うことはできなかった。
最近出没しているらしい人さらいは、若い女性をさらって一体何をしているのだろうか。私の想像し得る最悪な行為をもし行っているとしたならば、私は絶対に許さない。妹様をさらった下賎な低俗を分子レベルにまで解体してやろうかと思う。それほどまでに今の私は《怒り》に溢れているのだ。
しかし、夜通しかけても妹様を見つけ事はできなかった。一晩寝なずに協力してくれた自警団の方々や町民たちも疲労の顔が見えてきているので、捜索は一旦中止しまた昼前頃から開始するという。私とエル、母様は一旦屋敷に帰り、昼頃まで休息をとることにした。この日記を記録し終えたらまた妹様を捜索しに出かけるので、準備をしなければならない。』
・8月14日
『天気:晴れ
頭がショート寸前である。認めたくはないが現実に起きてしまったのでどうにも回避しようがない。
というのも、今日の昼頃妹様を再度捜索に出かけようと私、エル、母様とで準備していた時である。玄関のノック音が聞こえたので来客かと思い赴いたところ、なんと妹様が御一人で帰ってきたのだ。だが、その声、仕草、雰囲気は妹様そのものであったが、外見が異なっていた。
今までと見違えるような豊満な身体つき、頭には真っ黒な双角が聳え立ち、極めつけは人ならざる黒翼と、軟体動物かのごとく蠢く尻尾が妹様の身体から発生していた。そして全裸。
サキュバス。
私は認めたくなかった。急いでエルと母様を玄関に呼び出したのは現実拒否反応であろう。私が見たのは夢であったと思いたかったのだ。だが、二人も私と同じように呆然と立ち尽くし、言葉が見つからない様子からこれは夢ではなくて現実であると認識せざるを得なかった。
そんな私たちを視認した妹様は今まで見たこともないような卑猥で、歪みある笑顔を見せながら屋敷の中へ入ってきたので、私は目の前の存在が妹様だと認めたくないあまり質問をした。貴方は何者なのだと。
そしてこう返された。
「つれないのねユミル。あなたもゴーレムなら私が誰かなんてわかるでしょ?」
認めたくはなかったが、認めるしかなかった。目の前の、むせ返るような精の芳香を醸し出し、頬を赤らめて恍惚と歩く女性が妹様だと。何故ならユミルという私の名前は、私を含めエル、母様、元使用人、そして妹様しか知らないのだから。
その後、屋敷の中で緊急家族会議が開かれた。私たちには知らないことが多過ぎたのだ。母様は神妙な顔つきで誰にさらわれたのか、どうやって戻ってきたのか、何故サキュバスになってしまったのかを問うた。妹様は尻尾を振りながらぽつりぽつりと語り出した。
あの日、私と共に買い物に行き自由時間になると、妹様はいの一番に魔具屋に走ったらしい。その魔具屋に行くには人通りの少ない裏通りを渡らなければいけなく、最近よく人さらいが出没しているという情報もあった。妹様はそれを知らずに裏通りに行き、運悪く人さらいに出会ってしまったのだ。人さらいは5人の男の集団だったようで抵抗の意味はなかったと言う。
町外れの廃屋に連れて行かれた妹様は縛られ、何をされるのか恐怖で脅えていた。妹様曰く、人さらいの奴らはカルトな新興宗教の一員らしく、妹様を中心に祭壇を立て、儀式のような何かを行おうとしていたらしい。脅えている妹様の前に一人の男が桃のような果物を大量に持ってきて妹様に無理やり食べさせたという。それがまた不思議な果実だったらしく、食べれば食べるほど渇きが襲ってきて、次第に頭がぼんやりしていき、苦しくなるのだとか。
4つ目を食べ終えたあたりから記憶がなくなっていて、気が付いたら全裸で体液塗れになっている自分と、男5人が横たえていたのだという。身体が変化しているのにも関わらず、開放感と快感で頭が満たされ、さらわれたことなどどうでも良くなっていたらしい。
以上が妹様が語った全てである。核心であるサキュバスになった理由がわからないが、おそらく妹様が食べさせられたのは虜の果実であり、大量に摂取させられ我を忘れて性交してしまった故に、身体に蓄積した魔力が開放されてしまったのだということは容易に考えがつく。
怪我もなく無事に戻ってくれたのは喜ばしいところだが、これは喜んでもいいところなのだろうか難しいところだ。むしろ妹様自体は魔物娘になれて幸せと思っているらしく、それについては私もエルも苦笑いといったところである。母様はとにかく命が無事でよかったととても安堵していたので良しとしよう。
とりあえず私は妹様が無事に戻ってきたので、自警団へ報告しに町へと飛翔した。妹様のエルに対する視線が熱情しきっていたことに言いようのない《不安》を感じながらも。』
・8月15日
『天気:晴れ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハッいけない。もう録音開始していたか。
今日は特にやることもなく、屋敷の掃除をして終わった。
・・・・・・やはり今日のことは日記に書いておかないと私の気がすまない。
いつも通り私は屋敷の掃除をしていた。だんだん手際も慣れてきて残すはエルの部屋の前だけとなったのだが、そこで私は異変を感じた。エルは今日はアカデミーに行っているはずなのに、部屋から物音が聞こえてくるのだ。カラクリが勝手に動き出したのだろうかとも考えたが、どうにもそれらしい音ではない。むしろその音はカラクリにはまったく無縁の水音であったのだ。勝手にエルの部屋を覗くのは命令違反であるのにもかかわらず、身を揺るがす大きな好奇心によって私の制御はかき消されてしまった。ドアをゆっくり物音立てずに開くと、さらに聞こえる音が鮮明になる。そうして見えた私の視界には信じがたいものが映っていた。
ベッドの上で仰向けになる全裸のエルがとても苦しそうで汗だくになりながら呻き声を上げている。そしてエルに跨っているサキュバス。魔物化により成長した大きな美尻をこちらに向けながら、どこで覚えたのか腰をくねらせ喘ぎ声を上げている。
エルと妹様が性交していたのだ。
妹様は身体から滲み出る汗を迸らせ、口をだらしなく開け甘美な唾液を垂れ流しにしている。一方エルはどこか背徳とした表情で眉間にしわを寄せ妹様を見つめているだけであった。よくよく見てみるとエルの四肢は魔術により硬直させられており、妹様の絶対的支配下に当てられていた。妹様が更に腰の速度を速めると部屋の音は更に淫らに響き渡り、同時に二人の表情も切なさと幸福感に満ち足りたようなものになり、私の聞いたこともない声を上げて呻き合っていた。
私はその禁じられた行為の一部始終を見納め、自室に戻ると今まで感じたことの無いモノが何か胸の奥底からこみ上げてくるような気がした。始めて見る他の存在の性交、セックス。エネルギー補給ではない己の欲望最優先の行為は私が以前エルと行った行為と同じなれど、全く違うものに見えたのだ。部屋中に漂う甘い香りが今でも脳裏に焼きついて離れない。映像が何度も反復して繰り返される。もしかしたらドアの隙間から見ている私に、セックスしていることを見せ付けているのではないかとも考えた。
気が付けば、私はエネルギー補給するわけでもなしに股から粘性の液体が流れていたのに今気が付いた。まさか私はエルと妹様のセックスを目の当たりにして、欲情していたというのか。己のマスターとマスターの家族とのセックスを見て視姦していたとでも。
私は最低だ。命令違反した挙句、他人のセックスを覗き見して快感を覚えているなど、ゴーレムにあるまじき。いや、常識として禁忌である。私は罪な存在になってしまった。どうすれば許してもらえるだろうか。もうエルには十分に使えている、これ以上何かエルの為に何かできることなど・・・・・・
・・・そうだ・・・・・・気持ちよくさせればいいのだ。
視姦では満足できない。どうしておめおめと見るだけで満足できようか。セックスだ。セックスの快感を味わわせてあげればきっとエルはこの罪な私を許してくれるだろう。私は今一度エルとセックスしたいと考えているのだ。見るだけで満足できるほどこの欲望は小さくない。
近いうちにまたエネルギーが少なくなるだろうから、その時を見計らって再びエルとセックスするまでだ。身体の器官もいい具合に調子が戻ってきたところである。妹様には悪いが、エルは私の主だ。主に仕えるものは必ず主に使われなければならないのだよ。』
11/08/27 15:30更新 / ゆず胡椒
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