連載小説
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1日〜10日
・8月1日
『ザ……ザザッー……
テステス、よし。今日からゴーレムこと私の音声日記というものをつけてみようと思う。ただ単純に私が喋った事を記録媒体に録音しているだけなので、はたから見ると独り言をつぶやいているだけに見えるだろうが、想定の範囲内。とりあえず今日は私のメモリーがショートするほどたくさんの出来事が起こったので明日の日記に整理するとしよう。』


・8月2日
『日記というものは初めてなので何をすればよいのかまったくわからない。私のメモリーにもプログラムされていないのだ。とりあえず、私の経歴でも記録しておこうと思う。
私は今から換算して468年と250日前に一人の錬金術師の手によって創り出された。余談だが私のボディパーツはとても貴重なもので出来ている・・・らしい。話を戻そう。しかし彼、もとい前マスターは私を創り終えるとすぐさま私を試験管に詰めコールドスリープを施してしまった。今でもその意図は解析不能だがきっと前マスターなりに何らかの思案があったのだと信じたい。
それから私は時が停まった。468年もの間、薄暗い試験管の中で永遠かと思われる長い時間をただただ漂っているだけであった。そして何かをずっと待っていた。そのように前マスターが私をプログラムしたのかは不明である。
そしてついに私の長い凍結が解除される日が来た。ちょうど昨日、(暦が変わっており8月1日だったらしい)とある青年が前マスターの研究施設跡地に侵入してきたのである。凍結された私を見た青年は驚いたと同時に何か確信したかのような表情でもあったので、私が居るということはある程度把握していたようだ。しかし何故?私には確認できず。
その青年は私を捜し求めていたらしく、施設内に転がっていた鉄くずを手に取り試験管に向けて思い切り叩きつけた。衝撃で私の魔導ボディが傷いてしまうかと推測されたが運よく無傷で済んだ。精密であるからにして取り扱いには十分気をつけてほしいものである。
解凍された私はその青年の手によりマスター情報を書き換えられ、その青年を現マスターとして、私のゴーレムとしての生活を開始する。私のルーンに書き加えられたプログラムは彼と主従関係になれという極めて単純なものであった。駆足での説明であるので不備があれば随時補足する。』


・8月3日
『音声日記を現マスター(以後エルと呼ぶ。名前で呼ぶようにと命令?された)に聞かせてみたところ、これは日記ではなくて記録だと指摘されてしまった。雑用から戦闘まで幅広く完璧に遂行できるよう設計された私が日記ごときに苦戦するとは思ってもみなかった。どうも私には日記を書くにあたって必要な感情というものが欠落してしまっているらしい。感情のないゴーレムに日記をつけさせるということ自体が無理難題である。
実を言うとこの音声日記はエルから提案されたものであり、感情の起伏が極めて薄い私が感情を知るきっかけになればいいと言っていた。有難迷惑のような気がするが命令となれば従うしかないのがゴーレムの宿命。人に作られし存在が感情を会得するなどありえないことであるのに、エルは一体何を考えているのだろうか。理解不能。
余談だが今日、名前のない私にプレゼントだということでエルから「ユミル」という名前を授かった。北欧神話に登場する巨人から取ったものらしいが私には勿体ないくらいの名前だ。だがやはり今まで無かったものが貰えるとなると《嬉しい》ものである。』


・8月4日
『天気:雨
今日は雨だということで、室内で行う業務をメモリーに書き加えた。主に私が行う業務は屋敷の清掃、食料の調理、警備等等とのことだ。
エルはそのボロ雑巾のような作業服姿とは裏腹に名のある富豪の長男であるらしい。少々《驚いた》が現に住まいにしている住居は豪邸であり、母様と妹様は実に気品溢れており身なりが正しい。エルに綺麗な服装はしないのかと問うたところ、この服装の方が楽でいいとのことであった。
さっそく今日の業務、屋敷の清掃を執り行おうとしたところ、元々この屋敷に専属で雇われている使用人が通りかかった。私の業務の手際を観察して指摘してくれると言うので、私は大エントランスホールを2分程で清掃を終えた。評価を問おうとしたが使用人の顔が急に青ざめ調子が悪いと言いどこかへ行ってしまったので結果は聞けずじまいであった。しかし、この広さのホールを清掃するのに2分もかかってしまうとは私もまだまだである。早く先輩使用人の手本を見てみたいものだ。
次に、早朝ハーピートレイラーから届いた大量の荷物を屋敷の倉庫に移動する仕事であったが、その場にも先ほどの使用人がいた。20箱ほどの大きな木箱が山積みされているのを彼は一箱づつ運んでいたのだがどうにも効率が悪いようなので、私が残りの19箱を全て片手で運んでしまった。私としたことが少々出しゃばり過ぎてしまったようで、彼の機嫌が悪くなってしまったようだ。一箱50キロ程度だったので19箱一度に運ぶのは簡単過ぎたのだが彼の仕事を奪ってしまったのは事実である。他人の仕事を奪うのは良くないということを改めて実感できたので今日は良い一日であった。』


・8月5日
『天気:曇り
今日はエル曰く、「とっておきの秘密の場所」に連れて行ってくれた。豪邸のエルの部屋、本棚の上から三段目右から五冊目の本をを引くと秘密の場所への道は現れ、地下へと続く階段となっていた。階段を全て下りるとやや開けた空間に出たが、私にはこの空間がどこか懐かしい気がしてならなかった。オイルの油臭い香り、薬品の独特な刺激臭、まるで前マスターの研究施設を髣髴とさせるようだった。ここはエルの秘密の工房だったのだ。機械仕掛けの大小様々なカラクリが至る所に散乱していて、まだ正常なもの、既に壊れているものが無造作に転がっていた。私は足元に転がっていた一体の機械人形を手に取り観察してみたが、どれも精密に設計されており、故障品としても非常に価値のあるものだと即認識した。同時に私もこれらと同じでいつかは機能しなくなると考えると少々《悲しく》なった。
エル曰く私の今後の第二業務はカラクリの設計を手伝うとのことだ。私のメモリーにインプットされている超性能人工知能をもってすれば、一刹那に百京ものシュミレートを行うこともできるので、作業効率は上がること間違いなしであろう。』

・8月6日
『天気:晴れ
今日は晴れているということで妹様と町で買い物に行った。買い物に出かける際に妹様が私の格好を見て「そんなカッコじゃ町で歩けないわ!」と仰ったので妹様直々のこーでねーと?というもので身なりを正してもらった。人間の女性の服装とは胸と恥部さえ隠しておけばいいのではなかったのだろうかと些か疑問に思うところもあったが、折角妹様がこーでねーとしてくれた服だ、今後とも大切にしようと思う。
荷物持ちとして専属使用人も付いていくことになった。私は今更になって空を飛行することが出来ることを思い出したので、背中に妹様を乗せ足の裏から噴出される高出力飛行機器で町へと飛んで行った。専属使用人はなぜか空を飛ばずに馬車で追いついてきたのだが・・・なぜ彼も空を飛ばなかったのだろう。主に仕えるものならば空を飛べるのが当たり前と私は考えているのだが、どうして彼は顔を真っ赤にし鞭を叩いているのかが理解できなかった。馬が《可哀相》ではないか。
 私は造り出されて始めて人間の町というものを目の当たりにした。映像に見えるもの、感じ取れる音、におい、全てがこの世界の現象としては当たり前のことなのだが、エルや妹様達と別の人間を見ることや、空間が言いようのない賑わい、活気を醸し出していることが理解できなく言葉に表すことが不可能であった。
 町の壁には所狭しとチラシが貼られており、いかにこの町が活気付いているかが伺うことができる。
「新商品入荷!!お一人様2つまで」
「人さらいに注意」
「性感アクメエステ〜若返りの魔術〜」
「ジパング骨董店」
など他にも沢山の物があった。この世界のことの知識は持ちえている私だが、実際にこの水晶レンズで見たことはない。故にこういったただのチラシだけでも十分に世界を知るきっかけのようなものになるのだ。それはチラシに限ったものではない、食べ物、道具、文化、歴史・・・等等。私はそれらを知っているだけであって、見たことはないのだ。小さなものひとつとっても、それには度重なる浪費や用途、そして歴史というものがある。私はまだまだ無知すぎるのだと再認識した。
 食料、日用品、衣服を一通り購入したが、衣服を購入しているときの妹様の顔の輝きを私は始めて認識した。衣服を着用するという概念そのものが存在しない私にとって衣服を選ぶという行動も感情も当たり前のようにインプットされていない。ゴーレムと人間の生態や感性といったものは極めて違っているのでお互いがお互いを理解するのは非常に難である。だが、そんなものとはまったく関係なしに、衣服を楽しそうに選ぶマスターのご家族がいる。それを私が見守っている。それだけが私の生きるすべてであり主従するゴーレムの全てであるのだ。前マスターが何故に私をこの時代まで凍結させていたのかは今でも理解することが出来ずにいる。だが、いつの時代に解凍されても私の役目は代わらずマスターとマスターに関わる者を守ることだけである。今日の買い物に付き合うことで私の役目を再確認することができ、とても良い一日であった。
 日が暮れて帰宅する時間になったので、使用人に荷物を預け背中に妹様を乗せ再び屋敷へと飛翔していった。使用人が羨ましそうな眼差しで私たちを見つめていたが、気にせず帰宅した。使用人ならば足に飛行機器を踏査しているのは当たり前なのではないのだろうか。私の思い違いではないと思うのだが。真相は定かではない。』

・8月7日
『・・・気:晴・・・
そ・・・そろ・・・エネル・・・ーが切・・・るころだ・・・
明日・・・・・・も補・・・しない・・・活動で・・・なくな・・・』

・8月8日
『天気:晴れ
今日はエルに用事を空けてもらい一日中私のエネルギー補充に付き合ってもらった。もちろんエネルギー補充というのは性交のことである。
関節もまともに動かなくなった私は最後の力を振り絞りエルの部屋に侵入すると、まだ寝ぼけているエルの衣服を引きちぎり身体を露にさせた。ようやくそこで目が覚めたエルは一瞬抵抗していたが私のエネルギー補充ということをすぐさま理解し性交の用意に取り掛かってくれた。私も性交が円滑に行えるようにと胸と恥部の補助パーツを取り外したのだが、私の露になった身体を視認したエルはやや頬を赤らめていた。と同時に彼の股間からは赤黒いペニスが隆々と勃起しているので準備は万全らしい。興奮するとペニスが立つというのは男性の宿命、ということは魔物娘としての本能で知っていたのだがこうも見事に目の当たりにすると些か《感慨深い》ものがある。そして私も魔物娘の宿命なのか恥部から粘性の液体が分泌されていた。性交を円滑に行えるように備わっている本能らしいが私の人工膣でもその機能を有しているとは流石に思わなかったので少々《驚いた》ものだ。
 私は創り出されたと同時に凍結された身であるので性交は初行為である。そして、エルも始めての行為らしいのでお互いの知りうる最大限の知識で執り行うことにした。エルには悪いが私のエネルギーが枯渇するのも時間の問題なので、世間一般的に知られている前戯という行為は一切なしにいきなり挿入することにした。エネルギーが切れて再起動するのはいろいろと面倒なのだ。切れる前に補充しておきたい。
 エルは黒光りしたペニスの亀頭を私の膣口にあてがい上下に揺らした。エルの尿道からも透明の分泌液が垂れ流れてきており、そうとう溜まっているようだ。ネロネロヌルヌルと室内は気味の悪い水音が木霊しエルをさらに興奮させたようで、ペニスが更に膨張したのが目に見えて確認できた。予断だがエルのペニスは私の測定では183mmであったのでなかなか大きい部類なのではないだろうか。ちなみにこの家族はアジア系である。
 私が測定している間にエルは亀頭を徐々に私の中へ潜りこませていった。今の今まで童貞であったエルは亀頭を挿入させるだけで肌を震わせ歯を噛み締めていた。そうして私の了承を得ると一気に根元まで突き上げたのだ。一瞬、ゴムの切れるような重たい音が聞こえたかと思うと私の膣から人工血液が一筋の線をつくりベッドのシーツに赤い染みを残していた。
処女膜貫通。
それは全ての男性の目標であり愛のステップを一歩踏み進んだ証ではなかろうか。私とマスターの記念すべき一歩である。主従関係には愛というものは必要ないのだがここは建前的に言っておこう。
 だが、ここで予期せぬ事態が起こる。私がまったく感じないのだ。膜を貫通した痛み、ペニスが膣に入り込んだ快感、どちらもまったく痛くも痒くも感じることがない。魔物娘というものは、人間の数倍性感に敏感だと聞く。それがどうしたことか私は何も感じることがないのだ。エルは私が痛みに耐えて悶絶してるのかと思い聞くが、そうではないと言い返した。構わず続きを始めていいと促しエルは腰をゆっくりと上下に動かし始めピストンと強めていく。私もエルに気持ちよくなってもらおうと、膣に力を入れきつくしようとするのだがどうにも力が入らない。男性の感度が高まれば高まるほど精液の量も比例して増えるので快感に浸ってもらおうとするのだが、思うようにいかない。しかしそれなりにエルは気持ちいいようでパン、パチュン、パァンといったピストン音がリズミカルに聞こえてくるのも確かだ。私も快感を感じようとするのだが一向に感じることはなく世間一般的に言うマグロ状態になっていた。エルにはそれを理解したうえで性交を行ってもらってるのだがこれでは喋るダッチワイフとなんら変わりがないではないか。エルには申し訳ないことをした。
 ピストンが徐々に早くなるとエルの顔つきも苦しそうでフィニッシュ、すなわち射精に向かっているのだということは即理解できた。私は精液を一滴も零さぬようにと両足をエルの背中にホールドさせエルを見つめる。エルも私の瞳一点を凝視し、徐々に顔が近づくと思っていたら口付けをされていた。キスと挿入の順番が逆のような気がしたが、エネルギー採取には大きな支障がないので問題ない。
そして射精。エルのペニスが、全身が脈打ち私の中に性欲と快感の結晶を止め処なく注いでいて、私はエルの腰が離れぬようにしっかりと両足を固定し抱きつくように密着させ精液を吸収していった。ディープキスのネロネロした音と、恥部のゴポゴポ注ぐ音が、部屋中に常に反響しているだけであった。

 と、つい先ほど読み終えた官能小説のように今日の出来事を記録してみたのだが、これは失敗だ。記録している私が《恥ずかしい》のである。
 これは、行為の後に分かったことだが、私の恥部に快感や痛みがなかったのは、私が目覚めてからまだ1週間しか経過してないからであり、まだ身体の一部の器官が正常に戻っていないためであったのだ。遅くても今月中には全ての器官が普段の機能を取り戻すだろう。早く戻りたいものだ。
・・・・・・なぜこんなにも元の機能を取り戻すのを待ちわびているのだろうか。性感などエネルギー補充にとって障害でしかないのにも関わらず、こんなにも期待している。私が私でないかのようだ。プログラムのデバッグを急いでおこう。』

・8月9日
『天気:晴れ
私は今までひどい思い違いをしていた。
というのもあの使用人のことだ。今日は特に何も用事がなかったので一通り掃除を業務を終えたらエルの元へ行こうと思っていたのだが、その途中に使用人に出会った。私は彼の仕事ぶりを見たことがないので是非見せて欲しいとお願いしたところ、彼の口から驚くべき事実を聞かされた。
彼は今日をもって使用人を辞めたのだと言う。彼曰く、この仕事は次の仕事を始めるまでの準備資金稼ぎとのことで先日ようやく目標額まで達したらしい。彼は五年近くもこの屋敷で使用人として働いていたらしく、それにはエルも妹様も、そしてなにより雇い主の母様が一番驚いていたという。
 今日は元使用人の彼の「さよならパーティー」という名目で妹様が腕を振るって料理を作ってくださった。この前の買い物の大量の荷物はが余っているのでそれを料理にすることにした。人間4人とゴーレム1人の晩餐はとても《楽しく》彼もこんなお屋敷と家族に恵まれ使用人ができてよかったと言っていた。
 どうにもこの家族は総じて酒に弱いらしく、私と彼を除いて3人はフローリングで横たわりながら深い眠りに陥っていた。私はゴーレムなので酒に酔うことはなく最後まで彼と語り合っていたが、そろそろ時間だと言い彼は出発の準備を始めた。私は3人を起こそうとしたが起きる気配が全くと言って良いほどないので私一人だけでも見届けようと思い、彼の出発を待ったがよくよく考えてみるとその時は夜であった。こんな時間に外を出歩くと、野盗や魔物に襲われるから出発は朝にしたほうがいいと促したのだが、彼は問題ないと言ったのだ。
 そこで私は目を疑った。彼が一言呪文のようなことと呟くと、ボロ切れのようなこ汚い衣服から、真っ黒なローブととんがり帽子、そして金銀宝石の装飾がなされた魔杖に切り替わったのだ。そうしてまた一言呟くと一瞬のうちに私の視界から姿が消えてしまった。まさに一瞬の出来事であった。翌朝目が覚めたエル達にはおおかたの事を説明したが、やはり誰も理解できるはずがなく、彼の素性の真相は定かではない。
 今ではこうして落ち着いて音声日記を記憶しているから言えるが、彼の使った術「空間転移の術」は徳の積んだ賢者ですら会得するのは容易ではない術のはずだ。それを彼はたった一言の詠唱で一瞬のうちに完了するとなれば相当達者な術者だったに違いない。なぜそんな彼がこのような屋敷で使用人として業務を全うしていたのかは知る由もないが、きっと何らかの理由があったのには違いないだろう。
 そう、前マスターが私を凍結したかのように何らかの理由が。』

・8月10日
『天気:晴れ
エルは普段、町外れの丘に聳える魔公立アカデミーに通っている。そこは人間と魔物娘が分け隔てなく学業に専念できる夢のような施設であるらしく、エルは錬金術学を専攻している。錬金術学といえば魔道学と科学の両方を有する極めて高位な学問であることは誰でも知っていることだろう。エルはクラス順位こそは最下位らしいが私から言わせれば、錬金術に携わることだけでも立派なことだと思う。それは、このエルの工房を見れば一目瞭然ではなかろうか。一見何の価値もなさそうなカラクリが散々と転がっているだけに見えるが、この一つ一つにエルの魂が宿っている。知恵と努力の結晶なのだ。
エルはよく常日頃から「この世の全ての出来事には理由が必ずある。その果てを俺は探求したい。」と提唱している。それには私も共感だ。
少し考えてみよるとしよう。以前私が妹様との買い物で学習した服についてだ。
服はなぜある?人が恥を知ったからだ。
なぜ恥がある?人の感情が発達したからだ。
なぜ感情が発達した?脳が他の生物よりも大きいからだ。
なぜ脳が大きい?進化の過程で大きくなったからだ。
なぜ進化した?より賢くなり生き残るためだ。
なぜ生き残らなければならない?子孫を残すためだ。
なぜ・・・・・・
というように疑問と理由の無間ループが発生する。生い立ち、由縁、結果、それに伴う過程。終わることのない繰り返しのように思えるが、実はその途中において必ず通る題があるのだ。それが「生と死」である。
人は、魔物は、生物は明日を生きぬく為に進化し知恵を振り絞り、今日という日まで生き長らえてきた。それは誰の命令でもなく、この星に生きる生命として備わった概念のようなものであり、誰にも変えることはできない。人も、魔物もその概念に無意識の更に奥底、本能としてコントロールされ生を育んできた。
だがそれは、人に作られし存在・・・魔物娘でもあり無機物でもあるゴーレムにはそうは言えるのだろうか。生存競争を生き抜いてきた知恵もない、子孫を残す力もない。定義上は魔物娘として通ってはいるが、生命として見てみると私達はそれこそ「無生物」と言われたものの方がよほど似合っているのではないだろうか。
とまあこのような議題をゴーレムである私が語っていても何の意味も成さない。私が言いたいことはエルは私が思っている以上に《魅力的》であることだ。博学でありながら完璧ではない。一つの信念に基づいての行動。野心家でありながら家族想い。時に見せる優しげな微笑。精悍な顔立。引き締まった筋肉。雄雄しく脈打つペニス。打ちつけられる肉欲。固形物であるかのような粘性の精液。血潮。生。生。精!!!







どうやら先日の性交でプログラムが本格的にエラーを起こしてしまったようだ。まるで本来あるはずのない思考回路が蜘蛛の糸のように複雑に絡み合い揉まれ合いメモリーの中を駆け巡っているような錯覚さえ感じる。私は今までのように普通の主従関係を続けていけるのだろうか。
いや、考えていても埒が明かない。今日はもう休息しよう。今日の私が異常だったのだ。業務のことよりもエルのことを考えている時間のほうが長かったとは異常としか考えられない。』
11/08/23 22:29更新 / ゆず胡椒
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■作者メッセージ
約半年ぶりの投稿で完全にものの書き方を忘れてしまったゆず胡椒です。
しばらく離れている間に素敵な作家さん方がたくさんいる中で肩身が狭いおもいでございます故、何とぞ初めての方はよろしくお願いいたします。

今回はあまり不人気でありますゴーレムさんが主役の小説といたしました。
最後まで読んでいただけるのならば大感謝でゴザイマス。

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