連載小説
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2章 逢魔時
ここは触手の森。
非常に美しく禍々しい植物達が鬱蒼と生い茂っており、よくよく見るとそれらは皆、少し蠢いておりその姿はまるで体を切断されたミミズのように身をしならせている。訪れるもの全てに快楽のフルコースをもてなすだろう。
そこになんとも場違いな人間達がざっと七、八十人。無謀としかいえない挑戦が始まった。


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「ハァッ!ハァッ!ハァッ!・・・皆付いてきているかっ!?」
「ええ。幸いまだ誰一人も捕まっていないわ。あなた達大丈夫?」
「私達は大丈夫です!お二人は道を切り開くことに集中していてください!」
 騎士団一行は森の中を駆け抜けてゆく。ただひたすら速く。速く。

「ソフィア!お前は進行の邪魔になりそうな枝を出来るだけ取り除いてくれ!俺は・・・」
 そう言うとグレイは背中の大剣に手をかざし思いっきり引き抜く。幅1m弱、長さは2mはゆうにありそれは剣というにはあまりに大きく巨大な鉄塊にしか見えない。彼はそれをなんと片手で軽々と持ち、大きく構えたかと思うと刹那―――
「ちょいとうるさいが勘弁してくれな。」

     ブォオオオオオオオオオオオン!!!!


 前方約100mの木々は斬撃か風圧か衝撃波かでなぎ倒されたりするものや根こそぎ宙へ舞っているものもあった。まったくもって規格外な力である。
「よし!安全な道が開けたぞ!この調子で皆俺に続け!」
「さすがグレイ団長・・・俺も負けてられないぞ!最後まで守り通してやる!」
「私も守ってばっかいられるのは割に合わないわね。援護魔法をかけるわ!」
 このような状況下でも一人一人が各自自分の役割を見出し行動している。その行動は彼らをさらに成長させているのは確かだった。


 思ったほど攻撃は激しくなく、順調に進んでいく。その時グレイの近くにいる兵士が声をかけた。
「グレイさん!魔王城裏門が見えてきましたね!」
「ああ。スノウか。お前は大丈夫か?」
「まだまだいけるっすよ!伊達に毎日の訓練は完璧にこなしてるだけあるっす!」
「おいおい、それ自分で言うか?」
 自信気たっぷりのどや顔で隣を走る金髪の青年はスノウ=ヴィンダー。
 ごくごく一般的な兵士であるが、やたらと団長であるグレイになれなれしいのには理由がある。
 彼はついこの前、王国に引っ越してきたのだが、その場所がたまたまグレイの自宅の隣であった。ご近所さんというわけで、ご近所付き合いをしているうちに同じ職場ということがわかり、騎士としての階級抜きで普通に友人となったのだ。しかし彼はなぜか半分敬語である。
「やっぱグレイさんはすごいっすね〜。そんなでっかい剣軽々と片手で振り回して。俺なんて両手でも無理っすよ!」
「俺の筋力は訓練だけでつけたものじゃないからな。」
「そうなんですかっ!?ぜひ今度その話を詳しく聞かせてもらいたいっすね〜」
「話せば長いからな。時間のあるときにゆっくり聞かせてやろう。」


「そういえば、お前のつれはどこにいる?見かけないが・・・まさか触手にっ!?」
 グレイはふと思い出し、辺りを心配しながらキョロキョロと見回す。
「あぁそれなら心配いらないっすよ。」
「団長さんー!私はここに居るじゃないですか!」
 背が大きいグレイが見下ろすとそこには、小柄な小さめの背で大きいだぼだぼのローブに着られている女性が杖でグレイを突っついていた。

 彼女の名はミラージュ。
 騎士団魔術師部隊隊長であり腕は相当高いと評判である。
 そして驚くことに彼女もまたグレイ&ソフィアのようにスノウ&ミラージュと交際中ことなのだ。
 本当にここは騎士団なのか不安になってきた・・・

「もうすぐで目的地らしいよ、ミラ」
「やっとか〜速く終わらせて一緒に帰ろうね♪」
「そうだね。帰ったらどこ行こっか?」
「う〜んとね。あそことあそこと・・・・・・一杯ありすぎてわかんない♪」
「なら全部行っちゃおうか!」
「ないすあいであ〜だね♪」以下略

 流石にこれまでイチャつかれるとグレイも困ったものなので注意しようとしたその時凄まじい殺気を感じた。
「ここはまだ触手の森よ?気を緩めてもらっちゃ困るわね。そんなに触手につかまりたいのかしら?あぁ、それとも騎士辞めたい?」
 ソフィアの顔からは怒りのオーラがダダ漏れで、ものすごい顔つきで二人を睨んでいた。まるでジパングの般若のような顔だったという。
「「すいません副団長・・・」」
 スノウとミラージュは走りながら説教を受け、グレイはソフィアをずっとなだめていた。






 奇跡的に何事もなく触手の森を抜けることが出来た一行。
「皆止まれ!」
 グレイが叫ぶと今まで転がるように走っていた一行は時が止まったかのようにピタリと立ち止まった。
「皆の頑張りで誰一人捕まることなく触手の森を抜けることが出来た。これは誇りに思っていいぞ。」
 兵士達は今すぐにでも叫びだしたい気持ちだった。だが、大きな音を出すと魔王城に自分達の居場所を知らせることになり今までの作戦が水泡と化すので、喜びの気持ちを精一杯抑える。
「これから今回の作戦の説明する!各自所定の位置についてくれ。」
 兵士達はいそいそと所定位置に移動する。
「位置についてくれたな。それじゃソフィア頼む。」

「ええ。今から今回の作戦の内容を詳しく言うからある程度理解しておくように。」
「まずグレイ団長と数名の兵士達は裏門に近づいてもらいます。今回の任務は戦闘こそ行いませんが、もしも万が一のためにを考え近接戦闘慣れしている人のほうが好ましいです。その人たちは私と団長で選抜します。」
 ソフィアとグレイの手により計二十五人の裏門接近チームが出来上がる。
「そして、私と残りの人たち、そして魔術師隊の人たちはここに残ります。まず魔術師隊は全員が一箇所に集まり全員の力を合わせ現時点で使える最高の魔法を魔王城に叩き込みます。魔王城には大したダメージは入らないと思いますが、今回の目的は魔王軍の警告なので、これくらいが丁度良いと思われます。余りの人たちは、魔術師隊のサポートに徹してください。魔法詠唱中は完全に無防備なのでもし魔物が襲って来たら対処をお願いします。」
 説明される内容に兵士達、魔術師達は相槌をつく。
「魔法が当たると魔王城の魔物たちは大量に出てくるでしょうし、魔王軍の魔物たちも多数出てくるはずです。そうしたらそこでグレイ団長は魔王軍のリーダー格の魔物と会話をします。上手く話がまとまればそのままなにもなく帰還できるのですが・・・」

「とにかくだ。俺が守ってやるから皆は安心してくれ。」
 グレイは似たようなことを何度も言うが、何度言われても絶対的な安心感に満たされるような気持ちになる。それほど彼の存在は兵士達にとって頼りにされているのだ。


「よし。それじゃ皆頼んだぞ。」
 裏門接近チームはそう告げ魔王城裏門へ接近していく。彼らも彼女らも覚悟はしているのだろう。
「グレイッ!!!」
 ソフィアの叫びに足を止めた。
「必ず・・・戻ってきてね」
 それを聞いて彼は振り返らずに歩く。そして大剣を抜き出し天高く一突きするとまた戻し、そのまま闇の中へ消えていった・・・














「とても寒気がする・・・本当に何も起きなければいいのだけど・・・」
10/09/12 21:51更新 / ゆず胡椒
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■作者メッセージ
相変わらず素人&中二成分たっぷりな仕上がりになりました。
新たに2人の人物を出しましたがメインは
グレイとソフィアのお二人なので。

今後もちょくちょく出す予定です。
予定は予定です。

あと、何章で終わるか自分でもわかなくなってきました。

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