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蛇嫁日記・その1ページ
「むぅ……」
春の早朝、魔界から程近い某山村の片隅、若い木こりの夫婦が住まう一軒家。
一番鳥の鳴き声を目覚ましに、いつも通りに目を覚ました夫は、
これまたいつも通りに、自分に抱きついて幸せそうに寝こける妻を見やって、
困ったような唸り声を発した。

身動きが取れん……だって僕のかみさん、ラミアだし。

腿から始まり、脛の中ほどでUターンし、最後に互いの腰を固定するような形で、
緋色の鱗に覆われた太い蛇体が巻きついていた。
おまけに肩には両腕が回されている。自由になるのは右腕と首から上くらいだった。

穏やかに上下する豊満な乳房の感触や、
目の前のなめらかな柔肌と波打つ金髪から漂ってくるほの甘い匂いに反応して、
ただでさえ朝勃ちしているモノが痛いくらいに張り詰めていた。
分身の惨状に軽く苦笑しつつも、夫は妻の肩を揺すりながら呼びかけてみる事にした。

「スカーレット、朝だよ、起きて」

……効果なし。ついでに軽く頬や額を叩いてみたが、眉がしかめられただけで、
拘束は小揺るぎもしなかった。
このままでは、仕事仲間との待ち合わせに遅れてどやされる。
それはまっぴらだったので、彼は毎朝の恒例になっている起こし方をする為に、
目の前でうっすらよだれを垂らしながら綻びている、紅い唇に口づけた。

昨夜、散々彼の唇と男根を吸って食んだそれは、やはりしっとりと柔らかく甘かった。
ずっと吸いついていたい誘惑に駆られるが、今は起きてベッドを出なくてはならない。
口で口を塞いで、ついでに尖った細く高い鼻をつまむ。
息苦しさで目を覚ましてくれれば、この後に控えている工程を省略できるかな?
彼はそう思いながら、妻の鼻をつまんでみたのだが……。

一瞬、こっちの息が止まりそうになった。いつの間にか肩から外れていた左手が、
彼の睾丸を思いっきり捻り上げたからである。
涙ぐみながら彼は鼻から手を離し、妻の顔を見た。
目は閉じられたままだが、見事なへの字口だった。
と、子供っぽい唸り声とともに、唇が突き出された。
ゴメンねとすまなそうに呟きながら、彼は再び妻に口づけた。
そして抱きしめ、肩や背中を腕全体で擦る。今度は嬉しそうに唸りながら、
妻もそれに答えるように胴体を擦りつけてくる。しばし、唇や舌が絡み合う水音と、
互いに腕や胴体を擦り合わせる衣擦れや摩擦音が寝室を満たした。

「ん〜、にゅ〜…………」

ひとしきり身体を擦り合い、ぬくもりを共有すると、
含み笑いと唸り声の中間のような音を鼻から漏らしつつ、妻は夫の股間に手をやった。
そして下穿きをずらし、硬く張り詰めた逸物をしごき出す。
親指と人差し指は小さく輪を作ってカリ首をこすり、
残り三本の指は波打たせるように緩急をつけて幹を締め上げた。
口を吸い合ったまま、腰を引いて妻の頭を撫でる彼の表情は、
諦観にかすかな期待が混じった苦笑であった。

程なくして、夫は妻の肩口を軽くタップした。
ひときわ強く夫の唇と舌を吸いながら、
妻は手のひらで夫の亀頭を包み込み、射精を受け止める。
尿道口を指先でそっとなぞり、残っていた最後の一滴まで精液を掬い取ると、
彼女は唇を離して目を開いた。

実に目つきの悪い三白眼だった。
おまけに瞳孔は、まるで毒蛇のそれを髣髴とさせる、縦に細いスリットだった。
顔の造作そのものは美形なのだが、鋭く尖ったパーツが多いため、
寝起きである事を差し引いても機嫌の悪そうな顔立ちである。
出るべきところは出て、引っ込むべきところは引っ込んだ体型も相まって、
いささか少女趣味なネグリジェが、どこかちぐはぐな雰囲気を醸し出していた。

金髪金眼の彼女は、不機嫌そうな無表情のまま、左手を口元に持っていった。
そして付着した精液を舐め取る。手のひらに溜まった塊に始まり、
爪の先や指の股にこびりついた雫まで、一滴残さず綺麗に。
それが終わると一息つき、にっこりと笑う。吊り上がった頬が白目の下半分を隠し、
表情が一気に愛らしさと、先程まであったものとは別方向の色香に染まった。

「おはよ、あなた。今朝もご馳走様……相変わらず寝癖ひどいわねー」
「おはよ、スカーレット……僕の髪は四六時中こんなだよ」
「あ〜、そーだったわね……さて、じゃあ今日も一日、頑張りましょうか」
「あはは……うん。ところでね」

と、癖の強い黒髪の後頭部を掻きながら、夫は伸びをする妻に呼びかけた。
毎朝のこれ、せめてキスとハグくらいで抑えてもらえないかなー、と。
返答はへの字口から発せられた二言だった。
すなわち、「えー、やだ」である。

「だってだって、わたしってラミアじゃない。半分ヘビよ?だから寒いのはやなの。
 身体擦ってあっためてもらわないと、完全に目が覚めないんだもん」
「えーと、僕だっておしくら饅頭まではいいんだよ?
 ただ、その後、別に手でしてくれる必要は無いんだけどなぁ」
「じゃあ口?それともあそこ? やだぁ、カラットのえっち、むっつりすけべー」
「いやいや、別に毎朝ヌいてくれなくてもいいよ、って言いたいんだけどさ」

赤らめた頬に手をやり、面映そうな笑顔で首をぶんぶん横に振るスカーレットに、
苦笑のままカラットはツッコミを入れた。
途端にスカーレットの口元が尖る。

「えー?そんなカチカチにしておいて、したくなっちゃったんじゃないのー?」
「朝勃ちっていってね、若くて健康な男は寝てるとこうなるの」
「わたしのパパもそんな風になってたけど、毎朝ママに弄られてたよ?嬉しそうに」
「うん、嬉しい事は嬉しいし気持ちいいんだけどね?
 今から力仕事するのに、一発ヌいてから行くのはどうかなー、と」
「あー、力が出ない、って事?
 でもアレ飲んでかないとわたしも力出ないんだけどなー……お昼ごはん、
 食べられなくなるのはいやでしょ?」
「う、うん……はぁ……ま、いいか」

力なく息を吐く夫をよそに、妻は得意げな笑顔でベッドを這い降りた。
お昼はたぶんイノシシ関係だから期待しててねー、とのたまうスカーレットに、
あいよー、と返しながら、カラットもベッドを出る。
カーテンと窓を開けながら、朝の森の香気を目一杯肺に吸い込んで、深呼吸。
そして彼は、右腿を撫でながら、誰にともなくつぶやいた。

「今日も無事、二人健やかに過ごせますように」




時は進んで、太陽が中天に差し掛かった頃。

森で木々を伐採する男達のもとに、異形の女達が姿を現した。
ワーウルフがほとんどだが、ミノタウロスが数人、
ラミアとアラクネが一人ずつ混じっている。
みなそれぞれ野鳥や野ウサギなどの小動物を小脇に抱え、
大振りな包丁や鍋などの調理器具を担いでいた。
簡素で動き易そうな衣類に身を包んだ彼女らは、木こり達のかみさん連中である。

おー、やっと昼メシかとざわめく男達や、
わりィ、ちっと手間取っちまったと返す女達を尻目に、
満面の笑顔で、緋色のラミアが自らのパートナーに喚いた。

「あなたー!今日のお昼ごはん、獲ってきたわよー!」
「ん、ありがとー」

汗をぬぐいながら穏やかに返すカラットに、幼馴染のミノタウロスから軽口が飛んだ。

「おーおー、相変わらず仲いーなァ、あんたらンとこは」
「あはは……そうだね」
「うふふー、今朝もあーんなことやこーんなことしてきたもんねー」

そのままスカーレットはカラットの首っ玉にかじりついて頬擦りする。
絵に描いたような、うざったくも微笑ましい新婚カップルのようだった。
たはは、まー朝の一番搾りは基本だわなぁ、と嘯きながら、
ミノタウロスは他の魔物妻達ともども獲物を捌き始めた。
スカーレットもそれに加わり、二十分足らずで昼食の準備を整えると、
一同はめいめいに丸焼きやごった煮で腹を満たし始めた。

彼らの村では、夫は木こり、妻は狩猟をして生計を立てる家庭が主流である。
村が開かれた二世代前は、半樵半猟の男性と専業主婦がほとんどだったのだが、
その息子達は近くの森に住まう魔物を妻に迎える者が多く、
孫の代では、村で生まれ育った魔物の少女達と婚姻を結ぶ者ばかりとなってしまった。
人間と魔物の間には魔物の娘しか生まれないため、
次の世代は村の外から男性の移民を招くしかないのだが、
今のところ誘致は手探りの段階であった。

ただ、二世代目の初期に、東方からの移民であるウルフ種の女性とその夫が、
温泉を発見して宿を開いたので、それを目当てに訪れるような者も増えていた。
後は近隣の町村との物産の流通に携わる者が、
村の未婚の娘に見初められて、夫婦になるケースなどであろうか。

閑話休題。昼食をたいらげ、腹がくちくなった彼らは、一組また一組と、
森のあちこちへ姿を消していった。
「腹ァ膨れたら、ヤるこたァひとつだろ?」とは、
先程のミノタウロス女史を始めとした、村の若奥様方全員の共通見解である。
そして勿論、件の二人も、赤面した妻が夫の袖を引き、
そろって森の奥へと身を隠していた。

適当な立木の幹に背を預けると、カラットは妻のスカートを捲り上げた。
紅く色づいた陰唇は、軽く触れただけで糸を引き、今にも雫を滴らせんばかりである。
そこに右手の中指を添えて遊ばせると、やわらかく水っぽいものが擦れる音がして、
高く甘い声が、更なる淫蜜とともに漏れ出してきた。

「にゃ、あぁん……」
「あんまり触ってないのに、もうぐちょぐちょだね」
「う〜……オクタヴィアが、媚薬まがいの薬草なんて混ぜるんだもん……」

嗜好の感性が近しいからか、スカーレットと親しいアラクネの、
どこかキツネめいた美貌を思い浮かべつつ、カラットは口を開いた。

「あ〜、あの派手好きか……さっきのごった煮?」
「うん……ねえ、早く、早く挿れてよぉ……」
「んー、その前に、胸を触りたいかな?」
「んぅ……はぁい」

股間同様に瞳を潤ませながら、スカーレットはブラウスの胸元を緩めた。
途端に巨大な桃のような色形の、張りと質量のある双乳がまろび出る。
いつもなら駄々をこねて、まずはあなたのを先に頂戴と言い張るはずなのだが、
妙に素直だなと、カラットはうっすら思った。

――まあいい、お言葉に甘えさせてもらう事にしよう。

下方から円を描くように揉みしだき、親指と人差し指で乳輪付近を刺激する。
甘い呻き声が漏れ出してきたら、
屹立した乳首をしごき上げ、吸い付き、舌先で転がす。
ほの甘い胸を愛撫しているうちに下半身が露出させられていたのを幸い、
スカーレットの股間付近に、立ち上がった男根を擦りつけた。

適度な弾力と反発を兼ね備えた乳房と、ほんのり温かい腹板の感触を楽しんでいると、
唐突に彼の腰は押さえ付けられた。スカーレットの両手だ。
そのまま腰を沈められ、とぐろを巻いた蛇体に腰掛けるような形となる。
同様に腰の位置を調整し、亀頭の先端に膣口を押し当てながら、
半分震えたような声でスカーレットが宣言した。

「もう、焦らさないでよぉ……ダメって言われても挿れるからね?」

カラットが返事をする前に、粘っこい音を立てて、
彼のペニスは妻の膣内に飲み込まれた。
熱い肉の感触に、思わず互いの口から吐息が漏れる。
そのまま抱擁しあい、スカーレットは夫の首筋に軽く噛み付いた。
鋭く尖った細い犬歯が、血を吹き出させる寸前まで皮を裂くと、
引き抜かれて別の位置にまた埋められる。手荒い甘噛みだった。

蠕動しながら絡みつく、濡れた柔肉に溺れながら、
カラットはサルのように腰を振った。
スカーレットもそれに合わせて、女体と蛇体の狭間に位置する女陰を前後させる。
息を荒げ、嬌声を断続的に漏らしながら、二人の腰の動きが速まるに従って、
カラットが腰掛けているとぐろが、体積を小さく減らしていく。
変わってカラットの膝に、脛に、交わる二人の腰を密着させるように、
緋色の蛇体がじわりじわりと巻きついていった。

そして限界が訪れた。
カラットのペニスは精液を吐き出し、スカーレットのヴァギナは痙攣して、
咥え込んだモノを喰い千切らんばかりに締め上げた。
連動するように蛇体は二人の腰とカラットの下腿をへし折りかねないくらいに巻きつき、
スカーレットの牙は、夫の首筋から零れた紅いものに薄く染まった。

「あぁ……ったァ……」
「あ、あ……ゴメン、つい牙立てちゃった……」
「ん、だいじょぶだよ、心配しないで。ところでさ、なんでキスしなかったの?」

軽く妻の頭を撫でながら、普段の彼女とは違う挙動をいぶかしんだ夫が訊ねる。
問われた方は恥ずかしげに俯き、視線を逸らしながら、

「ホントはキスしたかったけど、わたしもあなたもさっきお肉食べちゃったじゃない。
 臭くなっちゃった口で、キスしたりされたりするのなんてやだもん」

とのたまった。
あー、なるほどね、そりゃそーだと微苦笑しつつ、
カラットはスカーレットの頭を撫でる手を休めずに、
穏やかな口調で約束する事にした。

「じゃ、夜の時はいっぱいしよっか?」
「うん!うふふー……」

満面の笑みで応えて、改めて抱擁してくるスカーレット。
その笑顔を見つつ、カラットは口角の吊り上がりを自覚しながら、内心でぼやいた。

――何だか、この娘と結婚してから、自分は四六時中苦笑いばかりしてるよな。
――この娘は満面の笑みを浮かべてばっかだし……どっちが年上だか分かんないや。

イヤじゃあないんだけどね、と結んで、
彼は一歳年上になるはずの妻を抱き返す。
やや体温は低いが、やわらかくて華奢でほの甘い香りのする、いとしいひと。
人相は悪いし押しはやたら強いが、寂しがり屋の甘えん坊。
まったくもう、毎朝毎晩手間掛けさせるんだから、この娘は…………と、
カラットが伴侶と出会った頃の回想に浸ろうとしたところで。
スカーレットの上半身から伸びるたおやかな腕だけでなく、
強靭な筋肉をそなえた蛇体まで抱擁に参加して、
どてっ腹を中心にぎゅうぎゅうと締め上げてきたので、
彼はつい先程食べたイノシシやら野ウサギやらを戻しかけ、
必死に妻の肩口をタップする破目になった。




「あ゛〜…………」
「もう、おじさん臭いんだから……」

夜、村の住人が共同の浴場として使っている、
宿の温泉から引かれた岩風呂に浸かりながら、
カラットは若者らしからぬ呻き声を上げた。
隣でスカーレットが苦笑しているが、耳に入っちゃいない。
今の彼は、妻と繋がっている時とは、別の天国にいる心持だった。
もっとも、現在でも彼の右腕には妻の左腕が、右脚には尻尾が巻きついているのだが。
尾の先端が陰嚢をくすぐってくるのを牽制しつつ、カラットは腹と両脚に目をやる。
昼にスカーレットに巻きつかれた鱗の痕が、くっきりと残っていた。
十八歳で彼女と夫婦になって早二年、彼の胸から下に、
妻の蛇体の痕がついていなかった日は無い。
と、カラットがぼんやりと腹の鱗の跡を眺めていると、そこに白い右手が添えられた。
それにともない右肩に軽い感触を感じて視線を移すと、
豊かな長い金髪を結い上げたスカーレットが、目を軽く瞑って頭を預けていた。
目を瞑ったまま、火照った顔でラミアは伴侶に囁く。

「ねえ、誰もいないし、しちゃおっか?」
「いや、またしてる最中に人が来たり、二人とものぼせたりしそうだからよそうよ」
「うー、いけず……最近カラット嘘吐きー。こっちはけっこー期待してるくせにー」

不満げなソプラノとともに、みぞおちの辺りに人差し指がぐりぐりと押しつけられる。
加えて尻尾の先端が、愛撫するように男性器に巻きつき、前後に動いていた。
だが、息子が妻の指摘通りに臨戦態勢でも、彼は意見を改めない。

――まったくこの娘は、温泉で体温ついでにテンションも上がってるんだろうか?

実は自分も軽く高揚している事は棚に上げて、
カラットは岩風呂の縁に頭を預け直しながら言った。

「さすがに四回も夜中の診療所に担ぎ込まれれば懲りるよ……帰ったらしよ?」
「ん、じゃあ今すぐ帰ろう、さあ帰ろう!」
「うわわ!」

問答無用でカラットの腰に蛇体を一巻きすると、
スカーレットは岩風呂から這いずり出た。
夫の胴体を持ち上げている為、いつもの速度よりやや遅くはあるが、
それでもスムーズに、カラットともども障害物にぶつからずに前進する。
十五歳で独り立ちして以来、狩りの獲物を蛇体で巻いて運搬し続けた成果である。
実はかつて、二人が出会った際にも、彼女はこの方法で
崖から落ちて右脚を骨折していたカラットを自分の巣穴まで運んで手当てしたのだが、
それは余談。
笑顔のまま自分を運んでいくスカーレットに恐慌をきたし、
カラットは珍しく落ち着きの無い口調で言った。

「ちょ、ま、スカーレット、脱衣所の入り口で降ろしてよ? 男女別々なんだから」
「ん〜、どうしようかしら? 何か服着るのも面倒だし、このまま帰ろうかな?」
「恥ずかしいし何より風邪引きそうだから勘弁してください……」

それもそうね、と呟き、彼女は蛇体の戒めを解いて、女性用の脱衣所へと姿を消した。
カラットは盛大にくしゃみをしてから、
隣接した男性用の脱衣所にふらふらと入っていった。




「う〜……久しぶりにカラット運んだら腰痛くなっちゃった……ねえ、あなたぁ」
「はいはい、髪まとめたらベッドにうつぶせになってね」
「はぁい……うふふー」
「嬉しそうだね?」
「ぎゅ〜ってして色々したりされたりするのも気持ちいいけど、
 これも気持ちいいもん……にゃあぁ……ああ……」

カラットに人間で言う腿の辺りに跨られ、露出した腰に彼の親指が沈み込んだ瞬間、
スカーレットの口からネコの鳴き声のような嬌声が漏れた。
自宅に帰り、寝巻きに着替えて早々、彼女が腰痛を訴え、
カラットに腰のマッサージをせがんだ結果である。
強張った腰部がほぐれていく快感に浸りながら、
声ばかりか形まで、ネコのそれのように歪めた口元をスカーレットは開いた。

「ふにぃ……ねえ、知ってる?
 ラミア種とかケンタウロス種って、実は腰痛持ちが多いのよ?」
「どうして?」
「ヘビの背骨やウマの首の骨で、ヒトの上半身を支え続けるのってツラいから」
「アラクネはどうなんだろうね?」
「外骨格で支えられてるからかしらねえ、あまりそういうのは無いかなって
 オクタヴィアは言ってたけど、肩凝りがひどいみたい。
 まあ肩凝りがひどいのは、三種とも一緒なんだけどね……」
「胸か、胸のせいか……」
「せ〜かい♪ ん〜……うふふー、カラットのえっちー。
 またここ、こんなにしちゃってる……」

雑談を切り上げ、嬉しそうに嘯きながら、
スカーレットは夫の股間を尻尾の先端で弄り回した。
ズボンを下着ごと引き摺り下ろし、
半分屹立したペニスの上にじわじわと尾を這い回らせる。
彼女がいつも受け入れている硬さと大きさにさせると、
カリ首を軽く締めつけてしごき始めた。
ついでに先端部は亀頭を撫でるように這いずり、時折尿道口をつつくように刺激する。
鱗がかりかりとペニスのそこここを引っ掻いてくる快感をこらえつつ、
カラットは恥ずかしげにぼやいた。

「スカーレットのうなじや背中、白くてすんなりしてて綺麗だし、
 腰はしっかりくびれてるし、むっちりしたおっぱいが
 軽く潰れてはみ出してるのが見えるし、腰揉むたびに変な声出すし……」
「うふふー……そーなんだ? じゃあ一回ここで出しちゃおうか?」
「え……あっ!!」

彼のぼやきを聴き取り、表情を蟲惑的なものにしたスカーレットは、
嬉々としてカラットのペニスをしごく速度を上げた。
尾でしごいているモノが断続的に震えだすと、一層のスパートを掛け、
精液が撒き散らされる直前に、軽く亀頭を下に向け、背筋にそれを受けた。
うふふー、あつーい……と気怠げに呻きながら、
彼女は尾の先で白いものを拭い、口に含みながら仰向けになると、
夫を誘うように二の腕で豊満な乳房を挟んで寄せて上げ、息を漏らすように囁いた。

「ねえ、今度はおっぱいでする?それともお口?いきなりあそこ?」

ま、いきなりって言っても、あなたのしごいてたら濡れてきちゃったし、
いつでもいけるんだけどねと、面映そうに微笑む妻を見て、
これまた面映そうに頬を染めて微笑みながら、
カラットはスカーレットに覆い被さり、耳元で口を開いた。

「ぜんぶ」
「はぁい、うふふー……ん……」

笑みを深めてカラットに軽くキスをすると、彼に腹の上に跨るよう促し、
スカーレットは再び鎌首をもたげ始めた男根に、唾液にまみれた舌を伸ばした。
ヘビのもののように先が分かれたそれは、螺旋を描いてペニスに絡みつき、
亀頭周辺の各所を小突き回しながら唾液をまぶしていく。
十分に全体を濡らすと、再び口の中に舌を収め、巨大な双子の白桃で
いきり立ったモノを挟み込み、強弱をつけてゆるゆると刺激しながら小声でひとりごちた。

「ん〜、ちょっと勿体無いかもね?」
「ん……何、が?」
「うん、そろそろあなたの赤ちゃん、欲しいかなって……。
 口やおっぱいじゃ、妊娠できないじゃない」
「あは、まあ、ね」
「ん〜?何だかもうねばっこいのが出てきたわよー?
 赤ちゃん欲しいなんて聞いて興奮しちゃったの?」
「しちゃいました。受け止めてください」
「はいはい、あむ……ん!」

二回目の射精とは思えない量と濃さで、、
むせそうになりながらもスカーレットはそれを飲み干した。
そして亀頭に吸いつき、乳房での刺激も加えて、尿道に残っていた分も啜り出す。

「けほ、二回目なのに早いわね?」
「ゴメンなさい」
「ホントにわたしの胸が好きなんだから……うふふ、まだまだ頑張ってよね?」
「そりゃあもう!」

今度はあなたが仰向けになってねとのお達しに、カラットは快諾しながら、
腕を伸ばしてスカーレットの上半身を抱きしめた。
そのまま彼女の唇にむしゃぶりつき、かすかな青臭さに辟易しながらも
舌を絡めていると、蛇体が下半身全体を拘束していくのを感じる。
亀頭が膣口を貫き、子宮口と接触したところで、腰に回された分の蛇体と膣壁が、
同時に震えるのを感じると、目の前のスカーレットが小声で告げた。

「今夜も寝かせないから」
「できれば早寝ついでに早起きしてほしいんだけどね」

苦笑する彼の軽口に対し、いとしい妻の返答は、満面の笑顔で発せられた、

「あなたに甘えられないから、やだ!!」

であったという。

Fin

蛇足
「パパはママを甘やかし過ぎだと思うの」
「え、そうかな?」

カラットとスカーレットが夫婦になって八年後の、とある一夜。
五歳になる長女のルビーは、母親譲りの三白眼を不機嫌そうに細めて父親にこぼした。
彼女の目には、最近激化してきた母親との父親争奪戦における、
母への嫉妬やら父への寂しさまじりの不満やらが篭もっていたのだが、
自他共に認める朴念仁のカラットに、それを察知できるはずが無く。
悲しいかな、生まれてからの五年でそれに関しては慣れてしまっていたので、
彼女は滞りなく次の言葉を繋げる事が出来た。

「二人でお出かけする時はいっつも手を繋いでるじゃない。
 ミリアちゃんのとこも、モニカちゃんのとこも、そんな事してないよ?」
「手を繋いでないとママ怒っちゃうからなぁ……おねえちゃん家(ち)に行く時でも、
 手を繋がないとイヤって言い張るしね」

両親それぞれの僚友の娘であるミノタウロスの少女と、
鍛冶屋の跡取り娘であるサイクロプスの少女の名前を挙げて、ルビーはまくし立てた。
対する父はいつも通りの泰然自若、暖簾に腕押しぬかに釘である。
その態度が娘を、ラミア種にありがちな、照れや嫉妬まじりの激昂に走らせるのだが、
妻と娘以外のラミア種とは、とんと付き合いの薄いカラットには察する事が出来ない。
というか、彼の妻がラミア種にしては、だいぶ変わり者の部類に入るのが、
ルビーの不幸だったのだろう。

「おねえちゃんまでけーかいしてるママは異常だと思うよ……あとね、
 家にいる時は、ず〜っとパパに巻きついてるのなんて、ママだけだと思うけど。
 ごはんの時もお風呂の時も尻尾の先をパパの手足に巻きつけっぱなしなんて……。
 離れてるのはトイレの時くらいじゃない」
「あ〜、それくらいなら別に構わないんだ。
 ママの尻尾はひんやりしてて気持ちいいんだよ、夏なんか特に」

今年で十六歳になる父方の叔母を引き合いに出して、母への苦言を呈してみたが、
何やら聞き捨てならないフレーズを耳にして、一気に父との距離をゼロにしつつ、
幼いラミアは声を弾ませた。

「ふーん、パパは巻きつかれてると気持ちいいんだ……。
 じゃああたしが巻きついてあげる! ……えへへ……」
『あはは……』「楽しそうな事してるわね、ママもまぜて♪」

短い蜜月であった。

「チッ」
「おぅ……さすがに二人分の締め付けはちょっとキツい……って締まってる締まってるぐぇぇ」
「ふふーん」
「ママ、娘にまでヤキモチ妬くのはどうかと思うんだけど」
「やぁねぇ、ヤキモチなんて妬いてるわけないじゃない。
 家族のスキンシップよスキンシップ」
(ぐぁぁぁ、締まってる、締まってるって二人とも……てか死ぬ!臓物ブチ撒けて死ぬる!)

胴体と両脚をみしみし軋ませながら口をぱくぱくさせるカラットをよそに、
金色の瞳を向け合って、火花を散らすラミアの母娘。
かたやへの字口、かたやネコめいた微笑であるが、
その目つきの鋭さと、燃え盛るような緋色の蛇体と金髪はまさに瓜二つであった。
しばしの睨み合いの末、口火を切ったのは、父の左半身に取りついた娘の方であった。

「ところでママ、前から言いたかったんだけど」
(ルビ、痛い、痛いって!パパの脚折れる!左脚が!)
「なぁに?」
(ぎゃん!今アバラミシって言った!!)
「ママってラミアにあるまじき甘えん坊だよね」

娘の一言に何やらスイッチが入ったか、嬉し恥ずかしを絵に描いたような笑顔で、
頬を押さえたスカーレットは、カラットの胴腹と右脚を巻く蛇体の力を増しつつ、
首を左右にぶんぶん振りたくった。
ちなみに、彼女は夫が自分とは逆の顔色で、
同様に首を振りたくっているのには気づかなかった。

「うふふー、余計な意地張ってパパとくっついていられないのなんてイヤですものぉ。
 それに、パパはママの素直さが好きだって言ってくれたのよ?
 一番大切なひとに生まれつきの性格を好きだなんて言ってもらえるなんて、
 わたしって世界一幸せなラミアよね」
(ああ、そんな事もあったなぁ……その後は何回したんだっけ?
 あの時の締めつけ具合は絶妙だったなぁ……。
 さておきそろそろ本気で左脚とアバラがヤバいんですけど)

結婚式の前夜の情景をカラットが走馬灯で見ていると、
ルビーは苦虫を噛み潰したようなしかめっ面で吐き捨てるように言った。

「世界一自堕落の間違いじゃないの?
 人目もはばからずにベタベタベタベタ……スライムやおおなめくじじゃあるまいし」
「ママの前世はワーラビットだったらしいのよね、パパと一緒じゃないと死んじゃうのよ」
(すみません、パパはそろそろ死にそうです……)

死因はおそらく、妻の拘束による窒息か内臓破裂であろう。
さておき、父が十五年に亡くなった曽祖父母に、近況を報告しているのにも気づかず、
年に似合わぬダーティーな雰囲気を醸しながら、
ルビーはやさぐれた声音で、再び舌打ちしつつ言葉を続けた。

「死んじゃえとまでは思わないけどね」
「なぁに?」
「パパ貸して」
「ママも一緒なら喜んで♪」
「独り占めしたいんだけど」
「違うわ、パパに甘えるのと一緒に、ママにも甘えて欲しいなぁ……。
 というか、三人で巻き巻きごろごろしてみない?ダメ?」
「却下……ママの尻尾は全力で邪魔しにかかるじゃない」
「いやいや、ママはパパだけじゃなくて、ルビにも巻きつきたいんだけどな?」
「わたしは!パパだけに!巻きつきたいの!ママは後!!」

ごき♪ ばきき♪

『あ』
10/05/04 22:48更新 / ふたばや

■作者メッセージ
リハビリらしきもの。
ツンデレを書こうとしたら、何故か押しの強い甘えん坊になっていたでござる。
さておき、キャラのネーミングが我ながらテキトー。前作&前々作もですけれど(w

と、先程は投稿ミスをしてしまってゴメンなさい。

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