2.少年と箱入り娘
「ふんふんふーん♪いやぁ、楽しいですねえ〜♪」
「足滑らせないようにね。」
唐突だが、僕は今かなりの面倒ごとに巻き込まれている。
原因と理由は隣にいるこの美少女、ぱっと見は人間に見えるが実はそうではない。
正体は宝箱に潜み、知らずに箱を開いた人間を襲うミミックという魔物だ。
なのだが……
外見をよく見ると、フリルブラウスにははち切れんばかりの胸がかなりギリギリで収まっているし、履いているストライプパンツも太ももを強調するもので見ていてかなり艶やか。
何より、鍵穴の意匠が施されたそのシルクハットが、陽光を受けてキラキラ光っていて物凄く目立つ。
何もかもが、僕の知っているミミックという魔物とかけ離れている。
……本当にミミックなのか?という疑念はとりあえず置いておいて、なぜこうなったかといえば僕のせいであったりもする。
時を遡って、あの出会いの少し前。
とある諸用で世界に偶発的に現れるダンジョンの調査に赴くことになっていた僕は、代表的な魔物達の情報を集めていた。
今回向かうのは「死者の塔」と呼ばれる、ゾンビやリッチと言った死霊系統が多く生息しているダンジョンだ。
死霊系は総じて陽光に弱いと相場が決まっているので、日中に向かえばそこまでの対策は必要ないと思ったのだが、一つ問題があり……
「なあ、お前知ってるか?また死者の塔辺りで行方不明者が出たんだってよ。」
「またか…最近多いな。あそこはそこまで危険なダンジョンじゃなかっただろ。」
「それが最近、理由はわからんがよくミミックが出てくるって噂が立っててな。」
「ミミックか……神出鬼没だからなあの魔物。確かにいつの間にか巣食っていてもおかしくはないか。」
「司教様も大変お怒りらしいんだよ、勇者も何人かやられたらしいぜ。」
「まあでもそのために調査員を雇ったんだ。しばらくすりゃまた安全になるだろ。」
「そうだな、わかってさえいりゃそれほど危険でもないし、別に大したこたぁないな。」
自警団(この街の自警団は、主神教の勇者達が兼任している)の噂話を小耳に挟む。
「……だからって、ろくに武装もないほぼ一般人をダンジョンに放り込むか普通?まあ報酬はそれなりに良かったけど。」
最近どうやら、この街の近くにある反魔物領との争いが激化しているらしく、勇者の人数が足りないらしい。
僕に仕事が回って来たのは、それが理由だ。
その噂話に夢中の自警団達を通り過ぎ、僕は酒場に向かう。
この街はなかなか規模が大きく、人口も多い。
そんな街の酒場にはいろんな人物が集まる為、情報も入りやすいのだ。
それに、店主とは長い付き合いなので話しやすい。
ボロいくたびれた扉を押し開けると、ワッと喧騒の声と食器の触れ合う音が増す。昼間だというのに既に盛況のようだ。
「おう、らっしゃい……ってなんだよ、ソリードじゃねえか。相変わらず仏頂面だなお前。」
店主のハゲた親父が、僕の方を見ながら笑う。
「……そんなこと言われてもこれが普通だから困るんだけど。」
実際どう反応していいのかわからない。
「んで、何の用だ?お前の事だ、こんな時間から飲みに来たわけじゃあねえだろ?」
察しが良くて助かる。
「ああ。情報収集しにきたんだよ。ちょっと近くのダンジョンに行く羽目になってさ……あ、なんか適当に一杯、アルコール抜きで。」
何かしら注文しておかないと流石に気が引けるので注文しておく。
「あぁ?なんでおめえみたいなただのしがない旅人がダンジョンなんか行くんだよ、宝探しか?」
そう言いながら、店主はカウンターから適当なソフトドリンクを注いで出してくれる。
「まあ一山当てたいってのもあるけど、今回は仕事だよ。主神教が結構な額の報酬が出る依頼を出してたから。しばらくまたヴォール=クロイツにいる気だったし、身銭稼いどこうと思ってさ。」
「ほーう、まあ確かにあそこは報酬だけはいいもんなあ、その分危ねえ仕事なんだろうけどよ。んで、情報収集って何が知りてえんだ?」
「さっき自警団が噂してるのを聞いてさ。これから僕がいくダンジョン、なんか最近ミミックが多いらしいんだよ。その対策とか傾向をちょっとね。」
頬杖をつきながらそう話すと、店主はなにか考えるようなそぶりをする。
「あー、もしかしてそれ死者の塔か?」
「アタリ。」
「最近飲みにくる勇者達もそんなこと言ってたなぁ、ミミックに突然襲われたとかなんとか。」
「お、じゃその時の話してくれ。」
「お前ほんとに遠慮しねえなぁ…まあ金は落としてくれてるしいいけどよ。」
軽くサンドイッチ等の軽食を胃に収めつつ、店主から情報を仕入れる。
「んでよ、箱を押さえても、なんなら近くに寄っただけでも箱が開くことがあるらしいぜ。」
「ふーん…じゃ、防ぎようがないのか?」
近くに寄っただけで襲われては対策もなにもない。
「いや、そうでもねえらしい。結構意外な方法なんだけどよ、鍵を使うんだと。」
「……鍵?」
「ああ、鍵を鍵穴にさせば襲われないって言ってたぞ。確かかはわかんねえけどな。」
「鍵を差すとどうなるんだ?」
何が起こるのかわからない方法を試すのは気が引ける。できれば知っておきたい。
「そこまではさすがに知らねえ。さも自慢気に語ってるのを聞いただけだからな俺は。」
「そんな都合よくは行かないか……」
「何もわからねえよりはいいじゃねえか、なんでもミミックに会った人間は、まるで魅了されたように自分からミミックに襲われに行くとか言うしよ。」
おお怖え怖え、と震えながら店主はこちらを見て笑う。
「そうならないように気をつけるよ。ここの飯が食えなくなるのは困る。」
「おう、気ぃつけて行ってこい、無事に帰って来たら何かしら振舞ってやるよ。」
店主に礼を言い、代金を情報料含め気持ちばかり多めに支払って僕は店を出る。
「……お兄さん、お兄さん!!」
ぼーっと過去に想いを馳せていた時、唐突に肩を叩かれて僕は現実へと引き戻される。
「あ、えっと……何?」
「何?じゃないですよ〜!私、さっきからずっと呼んでたんですからね?なのにお兄さんときたらずっと何か考えてるみたいで適当な相槌しか帰ってきませんし……」
目の前でミミック娘がむすっとした表情を浮かべている。どうやら無視してしまっていたらしい。
「ああ、ごめん。ちょっと昔のこと考えてた。」
酒場の店主に今の状況が知れたらどんな顔をされるだろうと想像しながら、青年は答える。
「で、何の用だったの?」
「何の用も何も、そういえば私お兄さんの名前聞いてなかったから教えて欲しいって言ってたんです!」
どうやら相当長い間無視してしまっていたらしく、かなりご立腹だ。
「謝るからそんなに怒らないで……それにしても、名前か……確かにお互い何にも知らないよね。」
「そうですよ〜!これからは一連托生なんですから、お互いのことはもっとよく知っておかないと危ないですし!」
「いや、いつそんな関係になったのさ。あくまで君の魔力?が回復するまでって言ったじゃないか。」
さりげなく自分との距離を縮めてくる彼女の言葉をあしらいながら、青年は歩き続ける。
「なかなか手強いですねえ……でも、名前を知りたいのは本当ですよ?いつまでもお兄さんじゃなんか他人行儀ですし。」
「……別に僕はそれでもいいんだけど。あくまで一時的な関係なんだし。」
「そんなつれないこと言わないでくださいよ〜!せっかくですし一緒にいる間くらい仲良くしましょうよ〜!!」
ミミック娘が腕に手を回して泣きついてくる。必要以上に馴れ合わないほうがいいのはわかってはいるのだが、どうにも彼女の顔をみるとまるでいじめているみたいで良心が痛む。
「まあ、名前くらいならいいか……」
「ほんとですか!?やったやった〜!じゃ早速教えてください、早く呼んでみたいんです!」
先ほどまでの悲しそうな雰囲気はどこへやら、途端に元気になって僕の目の前でミミック娘はピョンピョンと飛び跳ねている。
「ほんと演技派だよね君……まあいいや。」
感心したような、呆れたような、そんな気持ちになりつつも青年はミミック娘の顔をまっすぐと見据える。
「僕の名前はソリード。ソリード・マルクだ。」
「ソリード……ソリードさんですか……」
ミミック娘は噛みしめるように何度も僕の名前を口にする。
「じゃあ、今度は私の番ですね!」
「……魔物にも名前ってあるんだ。」
「今すっごい失礼なこと言いましたね!?当たり前じゃないですか!それに魔物じゃありません!魔物『娘』です!」
娘の部分を特に強調しながらずい、と顔の前に人差し指を立てるミミック娘。
「それ、そんな大事なことなの?」
「なっ……!?大事も大事です!魔物と魔物娘じゃ、月とその辺の石ころくらい違いますからね!!」
よくわからない例えだが、とりあえず納得しておく。
「わかったわかった、ちゃんと覚えとく。魔物娘ね。」
話が少し脱線してしまった。
「で、君の名前は?なんて言うの?」
「私はミミックのセトネです!どうです?可愛い名前でしょう?」
さも自慢げにふふんと鼻を鳴らしながら彼女…セトネは名乗る。まあ自分の名前に誇りや愛着があるのは悪いことじゃない。
「それ、自分で言うことじゃないと思うんだけど……まあ可愛いんじゃないか?多分。」
「むむっ、どうにも煮え切らないですねえ……まあ良いとしましょうか。」
微妙そうな顔をするセトネ。他にどういう反応をすればいいのか、僕にはわからないから仕方ない。
「まあ何はともあれ、改めてよろしくお願いしますね、ソリードさん!」
ぴょん、と軽快に飛び跳ね、こちらに可愛らしい笑顔を向けてくるセトネ。その仕草の可愛らしさに、その気がなくても思わずどきりと胸が高鳴ってしまう。
「あ、うん。よろしく、えっと……セトネさん。」
名前を教えあった、ただそれだけなのに。少しだけお互いが打ち解けたような、そんな感じがした。
「足滑らせないようにね。」
唐突だが、僕は今かなりの面倒ごとに巻き込まれている。
原因と理由は隣にいるこの美少女、ぱっと見は人間に見えるが実はそうではない。
正体は宝箱に潜み、知らずに箱を開いた人間を襲うミミックという魔物だ。
なのだが……
外見をよく見ると、フリルブラウスにははち切れんばかりの胸がかなりギリギリで収まっているし、履いているストライプパンツも太ももを強調するもので見ていてかなり艶やか。
何より、鍵穴の意匠が施されたそのシルクハットが、陽光を受けてキラキラ光っていて物凄く目立つ。
何もかもが、僕の知っているミミックという魔物とかけ離れている。
……本当にミミックなのか?という疑念はとりあえず置いておいて、なぜこうなったかといえば僕のせいであったりもする。
時を遡って、あの出会いの少し前。
とある諸用で世界に偶発的に現れるダンジョンの調査に赴くことになっていた僕は、代表的な魔物達の情報を集めていた。
今回向かうのは「死者の塔」と呼ばれる、ゾンビやリッチと言った死霊系統が多く生息しているダンジョンだ。
死霊系は総じて陽光に弱いと相場が決まっているので、日中に向かえばそこまでの対策は必要ないと思ったのだが、一つ問題があり……
「なあ、お前知ってるか?また死者の塔辺りで行方不明者が出たんだってよ。」
「またか…最近多いな。あそこはそこまで危険なダンジョンじゃなかっただろ。」
「それが最近、理由はわからんがよくミミックが出てくるって噂が立っててな。」
「ミミックか……神出鬼没だからなあの魔物。確かにいつの間にか巣食っていてもおかしくはないか。」
「司教様も大変お怒りらしいんだよ、勇者も何人かやられたらしいぜ。」
「まあでもそのために調査員を雇ったんだ。しばらくすりゃまた安全になるだろ。」
「そうだな、わかってさえいりゃそれほど危険でもないし、別に大したこたぁないな。」
自警団(この街の自警団は、主神教の勇者達が兼任している)の噂話を小耳に挟む。
「……だからって、ろくに武装もないほぼ一般人をダンジョンに放り込むか普通?まあ報酬はそれなりに良かったけど。」
最近どうやら、この街の近くにある反魔物領との争いが激化しているらしく、勇者の人数が足りないらしい。
僕に仕事が回って来たのは、それが理由だ。
その噂話に夢中の自警団達を通り過ぎ、僕は酒場に向かう。
この街はなかなか規模が大きく、人口も多い。
そんな街の酒場にはいろんな人物が集まる為、情報も入りやすいのだ。
それに、店主とは長い付き合いなので話しやすい。
ボロいくたびれた扉を押し開けると、ワッと喧騒の声と食器の触れ合う音が増す。昼間だというのに既に盛況のようだ。
「おう、らっしゃい……ってなんだよ、ソリードじゃねえか。相変わらず仏頂面だなお前。」
店主のハゲた親父が、僕の方を見ながら笑う。
「……そんなこと言われてもこれが普通だから困るんだけど。」
実際どう反応していいのかわからない。
「んで、何の用だ?お前の事だ、こんな時間から飲みに来たわけじゃあねえだろ?」
察しが良くて助かる。
「ああ。情報収集しにきたんだよ。ちょっと近くのダンジョンに行く羽目になってさ……あ、なんか適当に一杯、アルコール抜きで。」
何かしら注文しておかないと流石に気が引けるので注文しておく。
「あぁ?なんでおめえみたいなただのしがない旅人がダンジョンなんか行くんだよ、宝探しか?」
そう言いながら、店主はカウンターから適当なソフトドリンクを注いで出してくれる。
「まあ一山当てたいってのもあるけど、今回は仕事だよ。主神教が結構な額の報酬が出る依頼を出してたから。しばらくまたヴォール=クロイツにいる気だったし、身銭稼いどこうと思ってさ。」
「ほーう、まあ確かにあそこは報酬だけはいいもんなあ、その分危ねえ仕事なんだろうけどよ。んで、情報収集って何が知りてえんだ?」
「さっき自警団が噂してるのを聞いてさ。これから僕がいくダンジョン、なんか最近ミミックが多いらしいんだよ。その対策とか傾向をちょっとね。」
頬杖をつきながらそう話すと、店主はなにか考えるようなそぶりをする。
「あー、もしかしてそれ死者の塔か?」
「アタリ。」
「最近飲みにくる勇者達もそんなこと言ってたなぁ、ミミックに突然襲われたとかなんとか。」
「お、じゃその時の話してくれ。」
「お前ほんとに遠慮しねえなぁ…まあ金は落としてくれてるしいいけどよ。」
軽くサンドイッチ等の軽食を胃に収めつつ、店主から情報を仕入れる。
「んでよ、箱を押さえても、なんなら近くに寄っただけでも箱が開くことがあるらしいぜ。」
「ふーん…じゃ、防ぎようがないのか?」
近くに寄っただけで襲われては対策もなにもない。
「いや、そうでもねえらしい。結構意外な方法なんだけどよ、鍵を使うんだと。」
「……鍵?」
「ああ、鍵を鍵穴にさせば襲われないって言ってたぞ。確かかはわかんねえけどな。」
「鍵を差すとどうなるんだ?」
何が起こるのかわからない方法を試すのは気が引ける。できれば知っておきたい。
「そこまではさすがに知らねえ。さも自慢気に語ってるのを聞いただけだからな俺は。」
「そんな都合よくは行かないか……」
「何もわからねえよりはいいじゃねえか、なんでもミミックに会った人間は、まるで魅了されたように自分からミミックに襲われに行くとか言うしよ。」
おお怖え怖え、と震えながら店主はこちらを見て笑う。
「そうならないように気をつけるよ。ここの飯が食えなくなるのは困る。」
「おう、気ぃつけて行ってこい、無事に帰って来たら何かしら振舞ってやるよ。」
店主に礼を言い、代金を情報料含め気持ちばかり多めに支払って僕は店を出る。
「……お兄さん、お兄さん!!」
ぼーっと過去に想いを馳せていた時、唐突に肩を叩かれて僕は現実へと引き戻される。
「あ、えっと……何?」
「何?じゃないですよ〜!私、さっきからずっと呼んでたんですからね?なのにお兄さんときたらずっと何か考えてるみたいで適当な相槌しか帰ってきませんし……」
目の前でミミック娘がむすっとした表情を浮かべている。どうやら無視してしまっていたらしい。
「ああ、ごめん。ちょっと昔のこと考えてた。」
酒場の店主に今の状況が知れたらどんな顔をされるだろうと想像しながら、青年は答える。
「で、何の用だったの?」
「何の用も何も、そういえば私お兄さんの名前聞いてなかったから教えて欲しいって言ってたんです!」
どうやら相当長い間無視してしまっていたらしく、かなりご立腹だ。
「謝るからそんなに怒らないで……それにしても、名前か……確かにお互い何にも知らないよね。」
「そうですよ〜!これからは一連托生なんですから、お互いのことはもっとよく知っておかないと危ないですし!」
「いや、いつそんな関係になったのさ。あくまで君の魔力?が回復するまでって言ったじゃないか。」
さりげなく自分との距離を縮めてくる彼女の言葉をあしらいながら、青年は歩き続ける。
「なかなか手強いですねえ……でも、名前を知りたいのは本当ですよ?いつまでもお兄さんじゃなんか他人行儀ですし。」
「……別に僕はそれでもいいんだけど。あくまで一時的な関係なんだし。」
「そんなつれないこと言わないでくださいよ〜!せっかくですし一緒にいる間くらい仲良くしましょうよ〜!!」
ミミック娘が腕に手を回して泣きついてくる。必要以上に馴れ合わないほうがいいのはわかってはいるのだが、どうにも彼女の顔をみるとまるでいじめているみたいで良心が痛む。
「まあ、名前くらいならいいか……」
「ほんとですか!?やったやった〜!じゃ早速教えてください、早く呼んでみたいんです!」
先ほどまでの悲しそうな雰囲気はどこへやら、途端に元気になって僕の目の前でミミック娘はピョンピョンと飛び跳ねている。
「ほんと演技派だよね君……まあいいや。」
感心したような、呆れたような、そんな気持ちになりつつも青年はミミック娘の顔をまっすぐと見据える。
「僕の名前はソリード。ソリード・マルクだ。」
「ソリード……ソリードさんですか……」
ミミック娘は噛みしめるように何度も僕の名前を口にする。
「じゃあ、今度は私の番ですね!」
「……魔物にも名前ってあるんだ。」
「今すっごい失礼なこと言いましたね!?当たり前じゃないですか!それに魔物じゃありません!魔物『娘』です!」
娘の部分を特に強調しながらずい、と顔の前に人差し指を立てるミミック娘。
「それ、そんな大事なことなの?」
「なっ……!?大事も大事です!魔物と魔物娘じゃ、月とその辺の石ころくらい違いますからね!!」
よくわからない例えだが、とりあえず納得しておく。
「わかったわかった、ちゃんと覚えとく。魔物娘ね。」
話が少し脱線してしまった。
「で、君の名前は?なんて言うの?」
「私はミミックのセトネです!どうです?可愛い名前でしょう?」
さも自慢げにふふんと鼻を鳴らしながら彼女…セトネは名乗る。まあ自分の名前に誇りや愛着があるのは悪いことじゃない。
「それ、自分で言うことじゃないと思うんだけど……まあ可愛いんじゃないか?多分。」
「むむっ、どうにも煮え切らないですねえ……まあ良いとしましょうか。」
微妙そうな顔をするセトネ。他にどういう反応をすればいいのか、僕にはわからないから仕方ない。
「まあ何はともあれ、改めてよろしくお願いしますね、ソリードさん!」
ぴょん、と軽快に飛び跳ね、こちらに可愛らしい笑顔を向けてくるセトネ。その仕草の可愛らしさに、その気がなくても思わずどきりと胸が高鳴ってしまう。
「あ、うん。よろしく、えっと……セトネさん。」
名前を教えあった、ただそれだけなのに。少しだけお互いが打ち解けたような、そんな感じがした。
18/07/04 02:35更新 / 翅繭
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