調達
数日後、今日は最初の休みの日だ。 彼女を修理するために調べていたら、何と球体関節人形の専門店が見つかった。 少々遠いが、ここでなら修理用の部品も手に入るようなので、彼女を車に乗せて連れて行った。 もちろんガラスケースは積めないので、そこから出て助手席に座ってもらっている。 ちょっとしたデート気分ではある。 もちろん、関節がへたって、まともに座っていられない、古い人形を助手席に乗せているなんて、傍目から見れば何か怪しい人に見えているかもしれないが、そんな事はどうだっていい。
1時間くらい走って、ようやく目的の店に到着した。 思っていたより大きい店だ、しかし彼女のような等身大人形も扱っているので、大きな面積が必要なのだろう、そう思えば納得できた。 彼女を車に乗せた時と同様に、お姫様抱っこでそっと店内に運んだ。
入ってみたら大小様々な球体関節人形が並んでいる。 こんなに色々なものを、それもこれだけの数があるなんて、それだけでも驚きである、しかもどこをどれだけ見ても、同じものは1つとして見当たらない。 どうやら全てがこの世に1つだけのもので、量産品は取り扱っていないようだ。 それをこんなにだなんて、大変じゃないんだろうか?
さて、しばらく店内を見て回っていたが、流石に関節がへたった等身大の球体関節人形を抱えた姿は、こんな店の中でも目立つのだろう、店員さんが声を掛けて来た。
「お客様、もしかして、そちらの修理依頼でしょうか?」
ずいぶんと美人な店員さんだ、こんなにきれいな人がいるなんて、そう思って一瞬フリーズしたが、すぐに本来の目的を思い出した。
「いや、依頼するんじゃなくて、自分で修理したくて、それに必要な部品を探しに来たんだ。」
しかしこの格好は、まるでコスプレか何かの場所にでも迷い込んだのだろうか、そう思わざるを得ないものだった。 何しろ店員さんまで、等身大ドールのような恰好をしている。 手袋はまあ、人形を汚したりしないためなのかもしれないが、それでもこの格好が店の制服だとしたら、随分と妙なことをしているものだと思った。 あるいは雰囲気作りだろうか?
「さようでございましたか、自分で修理したいだなんて、よほど大切にしているんですね。」
「そうなんだ、間違った修理はしたくないから、どういう部品を使えばいいか聞きたくて、ここのことを調べて来たんだ。」
すると店員さんは、部品のコーナーにに案内しながらこう言った。
「偶にお客様のように、自分で修理したいと言って、部品をお求めになる方もいるんです。 でも中には結局失敗して、修理依頼で再来して、それも最初から頼んでいれば良かったのに、なまじ手出しをしたために、余計に修理が大変になってしまう人もいますから、そういうことにならないかは心配なんです。」
ああ、やっぱりいるんだな。 自分で修理しようとして、やっぱりできないって人が。 そういう人がどんな気持ちで、修理してみようとするのかはわからないけれど。
「それにしても、ずいぶん凄い人形ですよね、かなり古そうですけれど、どれくらい前のものなんですか?」
「明治時代のものなんだ、俺の曽祖父が生きてた頃、自分の生まれた日に、この人形も生まれたんだって言ってたんだ。」
「そんなに昔ですか、それだと中の部品もだいぶ弱っていそうですね、でも肌はとってもきれいですよね、これだけ良好なものは珍しいんですよ。」
「そうなんですか、曽祖父がとても大切にしていたから、そのおかげなのかな。」
「きっとそうですね、あ、こちらです。」
そうこうしているうちに、修理用部品のコーナーに到着した。 どういう部品が必要になるかについては、事前に彼女の各部を計測した際に、サイズについての調べはついていたが、種類はどういうものがいいのか、店員さんにも教えてもらい、さらに自力修理の際に重要になる注意点まで教えてもらえた。 できるだけ元の部品を活かしたいという希望も伝えたら、そのためにすべきことまで話してもらえた。 こんなに親切な対応をしてもらえるなんて、きっとこの店員さんが目的な常連客もいるんだろうな。
さらに、部品を手に取った所で、予想外な話も出た。
「当店では人形用の服も取り扱っております、そちらのドレス、元々はすばらしいものだったのでしょうけれど、すっかり傷んでしまっているので、そのままではかわいそうだと思ってしまって。」
「ああ、やっぱりそうだよな、何かおすすめってあるかな?」
「はい、こちらにございます。」
俺としては予想外なことだったが、店員さんは、何と彼女の着ているドレスのことまで気にかけていた。 確かにせっかく修理してきれいになっても、着ているドレスが老朽化してくたびれ切っていたら、彼女だっていい気分はしないだろうな。 それだったら、もっときれいな服を着せてやるべきだろう。
そうして、オススメだというドレスを何着か見せてもらい、その中から気に入ったものを3着購入することになった。
「ありがとうございました。」
あの店員さんが笑顔で送り出してくれる。 何から何まで本当に親切なんだなと、感心してしまった。
部品については、おおむね想定していた範囲内の金額でおさまった。 しかしまさかのドレスまで買ったため、最初に考えていたよりずっと大きな出費だったけれど、これも彼女のためだと思えば、特に気にする必要があるとも思えなかった。 そして部品やドレスを車に積むと、彼女を再度助手席に座らせて、帰路についた。 それにしてもあの店員さん、ただならぬ雰囲気のある人だったな。 そんなに年はいってなさそうだったけれど、あんなに詳しいってことを考えると、意外と長いことあの店に勤めているのかもしれないな。
1時間くらい走って、ようやく目的の店に到着した。 思っていたより大きい店だ、しかし彼女のような等身大人形も扱っているので、大きな面積が必要なのだろう、そう思えば納得できた。 彼女を車に乗せた時と同様に、お姫様抱っこでそっと店内に運んだ。
入ってみたら大小様々な球体関節人形が並んでいる。 こんなに色々なものを、それもこれだけの数があるなんて、それだけでも驚きである、しかもどこをどれだけ見ても、同じものは1つとして見当たらない。 どうやら全てがこの世に1つだけのもので、量産品は取り扱っていないようだ。 それをこんなにだなんて、大変じゃないんだろうか?
さて、しばらく店内を見て回っていたが、流石に関節がへたった等身大の球体関節人形を抱えた姿は、こんな店の中でも目立つのだろう、店員さんが声を掛けて来た。
「お客様、もしかして、そちらの修理依頼でしょうか?」
ずいぶんと美人な店員さんだ、こんなにきれいな人がいるなんて、そう思って一瞬フリーズしたが、すぐに本来の目的を思い出した。
「いや、依頼するんじゃなくて、自分で修理したくて、それに必要な部品を探しに来たんだ。」
しかしこの格好は、まるでコスプレか何かの場所にでも迷い込んだのだろうか、そう思わざるを得ないものだった。 何しろ店員さんまで、等身大ドールのような恰好をしている。 手袋はまあ、人形を汚したりしないためなのかもしれないが、それでもこの格好が店の制服だとしたら、随分と妙なことをしているものだと思った。 あるいは雰囲気作りだろうか?
「さようでございましたか、自分で修理したいだなんて、よほど大切にしているんですね。」
「そうなんだ、間違った修理はしたくないから、どういう部品を使えばいいか聞きたくて、ここのことを調べて来たんだ。」
すると店員さんは、部品のコーナーにに案内しながらこう言った。
「偶にお客様のように、自分で修理したいと言って、部品をお求めになる方もいるんです。 でも中には結局失敗して、修理依頼で再来して、それも最初から頼んでいれば良かったのに、なまじ手出しをしたために、余計に修理が大変になってしまう人もいますから、そういうことにならないかは心配なんです。」
ああ、やっぱりいるんだな。 自分で修理しようとして、やっぱりできないって人が。 そういう人がどんな気持ちで、修理してみようとするのかはわからないけれど。
「それにしても、ずいぶん凄い人形ですよね、かなり古そうですけれど、どれくらい前のものなんですか?」
「明治時代のものなんだ、俺の曽祖父が生きてた頃、自分の生まれた日に、この人形も生まれたんだって言ってたんだ。」
「そんなに昔ですか、それだと中の部品もだいぶ弱っていそうですね、でも肌はとってもきれいですよね、これだけ良好なものは珍しいんですよ。」
「そうなんですか、曽祖父がとても大切にしていたから、そのおかげなのかな。」
「きっとそうですね、あ、こちらです。」
そうこうしているうちに、修理用部品のコーナーに到着した。 どういう部品が必要になるかについては、事前に彼女の各部を計測した際に、サイズについての調べはついていたが、種類はどういうものがいいのか、店員さんにも教えてもらい、さらに自力修理の際に重要になる注意点まで教えてもらえた。 できるだけ元の部品を活かしたいという希望も伝えたら、そのためにすべきことまで話してもらえた。 こんなに親切な対応をしてもらえるなんて、きっとこの店員さんが目的な常連客もいるんだろうな。
さらに、部品を手に取った所で、予想外な話も出た。
「当店では人形用の服も取り扱っております、そちらのドレス、元々はすばらしいものだったのでしょうけれど、すっかり傷んでしまっているので、そのままではかわいそうだと思ってしまって。」
「ああ、やっぱりそうだよな、何かおすすめってあるかな?」
「はい、こちらにございます。」
俺としては予想外なことだったが、店員さんは、何と彼女の着ているドレスのことまで気にかけていた。 確かにせっかく修理してきれいになっても、着ているドレスが老朽化してくたびれ切っていたら、彼女だっていい気分はしないだろうな。 それだったら、もっときれいな服を着せてやるべきだろう。
そうして、オススメだというドレスを何着か見せてもらい、その中から気に入ったものを3着購入することになった。
「ありがとうございました。」
あの店員さんが笑顔で送り出してくれる。 何から何まで本当に親切なんだなと、感心してしまった。
部品については、おおむね想定していた範囲内の金額でおさまった。 しかしまさかのドレスまで買ったため、最初に考えていたよりずっと大きな出費だったけれど、これも彼女のためだと思えば、特に気にする必要があるとも思えなかった。 そして部品やドレスを車に積むと、彼女を再度助手席に座らせて、帰路についた。 それにしてもあの店員さん、ただならぬ雰囲気のある人だったな。 そんなに年はいってなさそうだったけれど、あんなに詳しいってことを考えると、意外と長いことあの店に勤めているのかもしれないな。
20/10/29 07:17更新 / Luftfaust
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