中編―そんな治療法で大丈夫か?
その日の朝は穏やかに始まらなかった。
朝、というにはいささか遅すぎるかもしれない。
目が覚めた時に一番はじめに見た携帯の画面には嫁との2ショットの上に10:25と示されていた。
ありゃ、いつもより遅く起きてしまったなと思う前に、下半身に違和感があった。
「あむっ、ぺろぺろ……ぁ、おはよう、けいくん♪」
見事に剥されて露出している下半身。
その珠袋を丁寧に舐めている嫁。
その隣に見知らぬお姉さんが俺の肉棒を実においしそうに頬張っていた。
「くぷっ、じゅるる・・・あふぁ、おふぁひょう、ふぁなひゃんのふぁれひふぁん♪」
あら、おはよう、さなちゃんのかれしさん、と何とか聞こえたが、声出しながら頬張っているとむず痒く、それにて気持ち良い。
SDにかからなければ、口の中にすぐにぶちまけてたに違いないが、ヒクヒクと痙攣を起こすだけで我慢汁一滴すら出てこない。
「……やっぱり、出てこないね」
半ば悲しそうに、半ばホッとしたように呟く嫁。
どうやらこの姉さんに俺の朝一番の精液―お天道様が見てる前で何をしているんだ貴様らはと言わんばかりに顔を出しているという時間帯だが―を飲まれるのではないかと心配していたらしい。
嫁は俺に関する事全てににえらく執着して、他人にどうこうされる事を嫌い、妬む節があるのだから、友人との付き合いに少々疲れる。
だが、そんな嫉妬して怒る嫁の顔もまた可愛い。
……だがそれはさておいて、これでも出てこないのかと必死な形相でバキュームフェラをするサキュバスのお姉さんは一体誰だろうか?
もしや、このお姉さんが昨夜嫁が言っていた友人なのだろうかって痛い痛いい"たいッッ!!!
吸引力の変わらない掃除機の様に吸われてもなお、俺の肉棒は萎えることなく、むしろ一回り大きくして猛っているが、誰もが見ても痛々しい赤黒い色になって、ビクビクと痛々しく震えていた。
おおぅ、見るに耐えられない光景だ。俺の身体の一部だけど。
「はふぅーっ。ガマン汁一滴も出ないなんて、こりゃかなりの重症みたいねぇ」
嫁以上に残念な表情を浮かばせているサキュバスのお姉さん。
その割にはどこかしらつやつやと顔色がいい気がするのは気のせいか。
「……な、治せないの?シャルミィ」
今にも泣き出しそうに声が震えている。
そんな嫁の言葉から察して、どうやらこのお姉さんの名前はシャルミィと呼ぶみたいだ。
「うーん。重症といっても、治せるのは治せれるんだけどねぇ」
一方のシャルミィと呼ばれたお姉さんは治すのは朝飯前よんと言わんばかりに余裕だ。
その余裕さは別にいいが、俺の方をニマニマしながら横目で見つめている。
なんだ、その私も犯して!と言わんばかりの目つきは。俺には嫁がいるんだぞ、嫁が。
だがしかし、なるほど、容姿を見ればどうも魔界からヤッキキマシタヨーって感じる。
光沢感のある、オレンジ色のセミロングヘアーに真っ黒なねじれた角。健康な小麦色に真っ赤なツリ目。美女を思わせるような端正な顔つきに官能的な唇。
体つきもまさにお姉さん、いや、お姉さまと呼ばれるにふさわしい、長身で出るとこは大きく出て、出ない所は極力出ない、見事なパーフェクトバディ。
メロンと同じぐらいの、嫁よりも大きなおっぱい(嫁も『サハギン』の中ではかなり大きい方だと誇らしげに言っていた)を隠してるとは思えない、挑発的な赤いブラと僅かな面積しか隠していない、これまた赤いパンティを身につけ、それだけでも大抵の男性なら惚れてまうやろと言わんばかりの魅力が溢れている。あっ、ミノタウロスは暴走してしまうか。
だが残念、生憎俺には可愛く愛しいロリィな嫁がいるので、その魅力で魅了しようなんて無理である。
か わ い い は 正 義なのだから。
「……あー、今更ながらドウモオハヨウゴザイマス。シャルミィさん」
起きたばかりだが、空腹感は全く感じない。こんな状況だからなのだろうか。
「あらぁ、さん付けなんてよそよそしいわねぇ。シャルと呼んでもいいのよぉ?♪ それとも…お姉ちゃんと呼びたいのかsう"ぐぅッ!?」
悩ましい体躯をくねらせながら、馴れ馴れしく、しかし色気を含んだ声を出しながら、さり気に抱きつこうとするお姉さんの鳩尾に嫁の尻尾の先端がメキョッという音を立ててめり込んだ。
「……ソンナ事ノ為ニ呼ンダンジャナイヨ?」
死んだ魚のような目で淡々と、しかし部屋の気温が一気に数度下げるほどの冷気と殺気を含ませた声で淡々と言い放った。
……おぉ、こわいこわい。
「アハハッ、冗談よぉ、冗談♪ あぁ、そうそう、アタシは沙奈ちゃんの親友のシャルミィよぉ。今日はヨロシクねぇ♪」
それに対して、慣れきっているのか、穿られた鳩尾をさすりながらニコニコと笑っていた。
流石魔物娘の上位種だろうか。
ってか、これでも親友なのか。どうやって知り合った。
「ど、どうも。沙奈の夫であります、慧と言う人間です。ど、どうぞよろしくです」
どうもぎこちない挨拶だが、美人な相手が下着姿で、こっちが下半身だけが素っ裸という状況で堂々と言えるだろうか。いや、言えるはずが無い。
「…………。」
そして嫁はというと…ご察し下さい。
―――
「-――さて、今日の本題に入るわよ。まず結論からいうと、貴方の症状は『治せる』わ」
奇妙な挨拶が終わって少し経った後、急にお姉さんは真剣な表情で本題に触れた。
嫁の話によると、どうやらお姉さんは『性』に関するカウンセリングから治療といった、『性』に関する医療を専門とする医療師の『研修生』であるようだ。
そもそも、現代の社会においては、人間のみならず、魔物娘も差別される事なく社会進出している。
時間にとことんルーズであるのを除けば、人間よりも優秀であるのだが。
もっとも、魔物娘によって得手不得手があるので、種族ごとの専門的な仕事が存在する。
例として、ジャイアントアントなら土木関係、セイレーンなら音楽関係、ドワーフは鉄工業、リャナンシーなら芸術…といった具合で、彼女たちにニートという言葉は無い。
というか、子供を産む為に毎夜営むのがお仕事だと言っても良いかもしれない。
しかし、こういう種族だからこのお仕事一筋という訳でなく、人間と共に商品開発を行ったりはもちろん、かつて森のアサシンと呼ばれたマンティスが国民的アイドル―我々一般市民にクーデレを認知させるのに一役買った―になったり、高慢なドラゴンが老人たちを甲斐甲斐しく世話する介護師―おじいちゃんおばあちゃんの笑顔が何よりの宝物だと言う名ゼリフが生まれた―になると言った珍しいケースもある。
その例にもれず、シャルミィ姉さんは『性』に関する立派な医療師になるのが目標だといい、嫁の沙奈は『SAHAGI社』でオリジナルの水着を作るデザイナーになりたいと言っていた。
え?俺はどうなんだって? ……言わせないでくれ。
さて、話がだいぶ逸れてしまったが、しかしどうやって治すのだろうか?
「そうね、治す方法は二つあるのだけど、その前に貴方に質問してもいいかしら?」
「あ、あぁ。どうぞ」
俺に関して何か気になる事があるみたいのか、意味深な表情で質問された。
「単刀直入に言うわよ。貴方、『子供』を産ませたくないと思っているのかしら?」
思い当たる事を一発で見抜かれた。
会ってまだ間もないと言うのになぜばれたし。
研修生と言えど、流石サキュバス。
「……どういう事なの?」
妻は意味が理解出来ず、オロオロしている。
魔物において、子供を産みたいと言う欲求は根源的な本能の欲望であり、子を孕むと言う事は最上の喜びを意味する。
「……どうしてわかったんだ?」
「そうね、貴方の精が体中に異常なほど溜まっているの。それなのに、汗と唾液から、それも僅かにしか出てないのよ」
だからなのか。
朝一番のフェラには、俺の異常を確認する為の行為だと言うなら彼女の行動に納得がいく。
「けれど、貴方のおちんちんは普通に大きくなるし、アタシや沙奈ちゃんをいやらしい目で見てくれてる。そう考えると、単にエッチな事に興味が失ったとか、女の子になりたい訳じゃないと思うの」
彼女の説明に十分な説得力があった。
もし、前者の様に興味が失えば、俺の方から妻を避けていたかもしれないし、後者なら『アルプ』になる可能性があっただろう。
「それにどうも、心因的な原因がつっかえになってて、貴方はインキュバスになりかけで完全に成り切れていない、とても中途半端な状態にあるのよ」
「その心因的な原因が、子供を産みたくない思いである、と?」
「えぇ、その通りよ。あくまでもアタシの推測だけど、貴方は人一倍抑制する意思が強いみたい。だから貴方のおちんちんに無意識に強烈なストップをかかっているみたいなのよ」
彼女の的確すぎる指摘でようやく原因がハッキリとわかった。
そう言えば、4日ほど前に妻とセックスしてた時こんなこと言ってたんだっけ。
「私の膣中にだしてぇっ!赤ちゃんが欲しいのぉぉッ!!」
嫁がイく直前に叫んだ言葉を聞いた途端、俺の肉棒は勃起している状態からさらに膨張した際の極度の緊張感で射精が出てこなかった。
あぁ、そうだったのか。
俺は嫁が魔物である以上、子供を産ませるのが一番の幸せだと理解していたし、嫁自身も産みたかってたのを知っていた。
だけど、俺は心のどこかで「赤ちゃん」を産ませたくなかったのだ。
なぜ産ませたくなかったのか、今の俺ならわかる。
こんなに早くに子供を産ませて、これから先養っていけれるのだろうか?
仕事を持たないどころか、仕事をしたくない俺がどう子供たちに顔向けができるのか?
そんなプレッシャーと嫁の想いが板ばさみになって、俺の身体がこんな事になったのだろう。
「……ハハッ。仕事をする気も起らない俺が父親として、子供に胸を張って養えないからって嫁の想いを拒むなんて…っ!あぁ、俺って情けないなぁ、ほんと…っ!!」
結局、原因は全部俺の中にあったのだ。
こんなにも情けない夫を愛してくれている嫁の事を考えると、目じりから涙があふれ出した。
「……け、けいくんっ!?」
突然泣き出した俺を見て、嫁は酷く驚き、狼狽していた。
俺の泣き顔を見るのは初めてだったのだろう。
「こんな情けない夫でほんとにごめん…ゴメンなっ…ぐ、う"ぅぅっ」
だが、驚く嫁に構わず俺は許しを請うように嫁に抱きついて子供の様に泣きじゃくっていた。
そんな俺を嫁は赤子をあやす様に抱きしめながら頭を撫でて。
嫁の友人は優しく俺の背中をさすってくれた。
―――
「……どう?落ち着いたかしら?」
俺が泣きやむ頃にはお昼の12時が過ぎていた。
泣きやむと同時に腹の虫が鳴きはじめて恥かしい思いをしたのは内緒である。
泣きやんだものの、まだ気持ちが落ち着いていなかったので、とりあえず服装を整えて、簡単なお昼を済ませた。
嫁の手料理で無いからなのか、味がほとんどしなかったが、夕食まではとりあえず腹が持つ気がする。
「あぁ。一応」
これ以上考え込むのは止めだ。今はどうやって治すのかが先決だ。
「……それで、治す2つの方法って?」
嫁が早く説明してと言わんばかりに待ちわびていたようだ。
「そうね。まず一つ目は……心のケアっていうやつね。お互いの悩みをよく話し合って、理解しあえる様になれれば徐々に良くなっていくと思うわ」
サキュバスらしからぬ、まともで堅実な方法だ。
「だけど、この方法は治るのにとても時間をかけなきゃならないの。そうなると沙奈ちゃんが、今度は『性渇望症』に罹る可能性も出てくるわ」
やはり一筋縄ではいかないらしい。
ちなみに『性渇望症』とは、長期間性行為を行った反動でいつもより多く、つまるところ、冗談抜きで1日中性行為を行わなければ治らないという、生身の男性では地獄を味わう症状である。
「それで二つ目は…、アタシはこっちの方を推奨するけど。簡単にいえば、アタシの魔力を貴方に直接注いで手っ取り早く『インキュバス』になる事。そうすればおちんぽミル…じゃなくて、精液が出ないどころか、ほぼ尽きることなく出るわよぉ?♪」
前 言 撤 回 。
このお姉さん、やっぱり淫魔だ。しかも後半あたりやましい事を想像したのか、ヨダレを垂らしてハァハァしてやがる。
しかし、お姉さんの言うとおり、こっちの方が手早く、確実に治る。
代わりに石仮面を付けた元人間の様に人間を辞めなければならないが。
完全なインキュバス化になれば、今の日本の法律によりそれなりの制約が課せられる。
といっても、少し不自由な思いをするだけで、特にデメリットはないし、隠し通す事も一応可能だ。
むしろ、殆どの病気に罹らないと言うのはとても魅力的である。
それにSDになる以前に幾度も嫁としているのだから、いずれは自然にインキュバス化になるだろう。
だが、直接インキュバスにさせると言う事は当然、嫁以外の女性と交わると言う訳で―――。
嫉妬深い嫁はきっと快くないだろう。
ならば、長い時間を要してじっくりと治していくか。
それとも今回限りで治療目的の為と割り切ってさっさとインキュバス化になった方がいいのか。
つまるところ、嫁に対する良心か、効果的な治療か、どちらかを選ばないとならない。
「さぁ、貴方ならどちらを選ぶかしらぁ? アタシは二番目をお勧めするけどぉ?♪」
……このお姉さん、どうやら俺ととにかく交わりたいらしい。
表情が蕩けてやがる。
さて、どちらを選ぶべきか、嫁に訊こうとすると。
「……どちらでもいいよ。……けいくんが決めること、だよ」
どうやら俺自身が決めるべき問題であると改めて認識した。
それならば、こっちを選ぼう。
俺は意を決し、決断を下した―――。
続く。
朝、というにはいささか遅すぎるかもしれない。
目が覚めた時に一番はじめに見た携帯の画面には嫁との2ショットの上に10:25と示されていた。
ありゃ、いつもより遅く起きてしまったなと思う前に、下半身に違和感があった。
「あむっ、ぺろぺろ……ぁ、おはよう、けいくん♪」
見事に剥されて露出している下半身。
その珠袋を丁寧に舐めている嫁。
その隣に見知らぬお姉さんが俺の肉棒を実においしそうに頬張っていた。
「くぷっ、じゅるる・・・あふぁ、おふぁひょう、ふぁなひゃんのふぁれひふぁん♪」
あら、おはよう、さなちゃんのかれしさん、と何とか聞こえたが、声出しながら頬張っているとむず痒く、それにて気持ち良い。
SDにかからなければ、口の中にすぐにぶちまけてたに違いないが、ヒクヒクと痙攣を起こすだけで我慢汁一滴すら出てこない。
「……やっぱり、出てこないね」
半ば悲しそうに、半ばホッとしたように呟く嫁。
どうやらこの姉さんに俺の朝一番の精液―お天道様が見てる前で何をしているんだ貴様らはと言わんばかりに顔を出しているという時間帯だが―を飲まれるのではないかと心配していたらしい。
嫁は俺に関する事全てににえらく執着して、他人にどうこうされる事を嫌い、妬む節があるのだから、友人との付き合いに少々疲れる。
だが、そんな嫉妬して怒る嫁の顔もまた可愛い。
……だがそれはさておいて、これでも出てこないのかと必死な形相でバキュームフェラをするサキュバスのお姉さんは一体誰だろうか?
もしや、このお姉さんが昨夜嫁が言っていた友人なのだろうかって痛い痛いい"たいッッ!!!
吸引力の変わらない掃除機の様に吸われてもなお、俺の肉棒は萎えることなく、むしろ一回り大きくして猛っているが、誰もが見ても痛々しい赤黒い色になって、ビクビクと痛々しく震えていた。
おおぅ、見るに耐えられない光景だ。俺の身体の一部だけど。
「はふぅーっ。ガマン汁一滴も出ないなんて、こりゃかなりの重症みたいねぇ」
嫁以上に残念な表情を浮かばせているサキュバスのお姉さん。
その割にはどこかしらつやつやと顔色がいい気がするのは気のせいか。
「……な、治せないの?シャルミィ」
今にも泣き出しそうに声が震えている。
そんな嫁の言葉から察して、どうやらこのお姉さんの名前はシャルミィと呼ぶみたいだ。
「うーん。重症といっても、治せるのは治せれるんだけどねぇ」
一方のシャルミィと呼ばれたお姉さんは治すのは朝飯前よんと言わんばかりに余裕だ。
その余裕さは別にいいが、俺の方をニマニマしながら横目で見つめている。
なんだ、その私も犯して!と言わんばかりの目つきは。俺には嫁がいるんだぞ、嫁が。
だがしかし、なるほど、容姿を見ればどうも魔界からヤッキキマシタヨーって感じる。
光沢感のある、オレンジ色のセミロングヘアーに真っ黒なねじれた角。健康な小麦色に真っ赤なツリ目。美女を思わせるような端正な顔つきに官能的な唇。
体つきもまさにお姉さん、いや、お姉さまと呼ばれるにふさわしい、長身で出るとこは大きく出て、出ない所は極力出ない、見事なパーフェクトバディ。
メロンと同じぐらいの、嫁よりも大きなおっぱい(嫁も『サハギン』の中ではかなり大きい方だと誇らしげに言っていた)を隠してるとは思えない、挑発的な赤いブラと僅かな面積しか隠していない、これまた赤いパンティを身につけ、それだけでも大抵の男性なら惚れてまうやろと言わんばかりの魅力が溢れている。あっ、ミノタウロスは暴走してしまうか。
だが残念、生憎俺には可愛く愛しいロリィな嫁がいるので、その魅力で魅了しようなんて無理である。
か わ い い は 正 義なのだから。
「……あー、今更ながらドウモオハヨウゴザイマス。シャルミィさん」
起きたばかりだが、空腹感は全く感じない。こんな状況だからなのだろうか。
「あらぁ、さん付けなんてよそよそしいわねぇ。シャルと呼んでもいいのよぉ?♪ それとも…お姉ちゃんと呼びたいのかsう"ぐぅッ!?」
悩ましい体躯をくねらせながら、馴れ馴れしく、しかし色気を含んだ声を出しながら、さり気に抱きつこうとするお姉さんの鳩尾に嫁の尻尾の先端がメキョッという音を立ててめり込んだ。
「……ソンナ事ノ為ニ呼ンダンジャナイヨ?」
死んだ魚のような目で淡々と、しかし部屋の気温が一気に数度下げるほどの冷気と殺気を含ませた声で淡々と言い放った。
……おぉ、こわいこわい。
「アハハッ、冗談よぉ、冗談♪ あぁ、そうそう、アタシは沙奈ちゃんの親友のシャルミィよぉ。今日はヨロシクねぇ♪」
それに対して、慣れきっているのか、穿られた鳩尾をさすりながらニコニコと笑っていた。
流石魔物娘の上位種だろうか。
ってか、これでも親友なのか。どうやって知り合った。
「ど、どうも。沙奈の夫であります、慧と言う人間です。ど、どうぞよろしくです」
どうもぎこちない挨拶だが、美人な相手が下着姿で、こっちが下半身だけが素っ裸という状況で堂々と言えるだろうか。いや、言えるはずが無い。
「…………。」
そして嫁はというと…ご察し下さい。
―――
「-――さて、今日の本題に入るわよ。まず結論からいうと、貴方の症状は『治せる』わ」
奇妙な挨拶が終わって少し経った後、急にお姉さんは真剣な表情で本題に触れた。
嫁の話によると、どうやらお姉さんは『性』に関するカウンセリングから治療といった、『性』に関する医療を専門とする医療師の『研修生』であるようだ。
そもそも、現代の社会においては、人間のみならず、魔物娘も差別される事なく社会進出している。
時間にとことんルーズであるのを除けば、人間よりも優秀であるのだが。
もっとも、魔物娘によって得手不得手があるので、種族ごとの専門的な仕事が存在する。
例として、ジャイアントアントなら土木関係、セイレーンなら音楽関係、ドワーフは鉄工業、リャナンシーなら芸術…といった具合で、彼女たちにニートという言葉は無い。
というか、子供を産む為に毎夜営むのがお仕事だと言っても良いかもしれない。
しかし、こういう種族だからこのお仕事一筋という訳でなく、人間と共に商品開発を行ったりはもちろん、かつて森のアサシンと呼ばれたマンティスが国民的アイドル―我々一般市民にクーデレを認知させるのに一役買った―になったり、高慢なドラゴンが老人たちを甲斐甲斐しく世話する介護師―おじいちゃんおばあちゃんの笑顔が何よりの宝物だと言う名ゼリフが生まれた―になると言った珍しいケースもある。
その例にもれず、シャルミィ姉さんは『性』に関する立派な医療師になるのが目標だといい、嫁の沙奈は『SAHAGI社』でオリジナルの水着を作るデザイナーになりたいと言っていた。
え?俺はどうなんだって? ……言わせないでくれ。
さて、話がだいぶ逸れてしまったが、しかしどうやって治すのだろうか?
「そうね、治す方法は二つあるのだけど、その前に貴方に質問してもいいかしら?」
「あ、あぁ。どうぞ」
俺に関して何か気になる事があるみたいのか、意味深な表情で質問された。
「単刀直入に言うわよ。貴方、『子供』を産ませたくないと思っているのかしら?」
思い当たる事を一発で見抜かれた。
会ってまだ間もないと言うのになぜばれたし。
研修生と言えど、流石サキュバス。
「……どういう事なの?」
妻は意味が理解出来ず、オロオロしている。
魔物において、子供を産みたいと言う欲求は根源的な本能の欲望であり、子を孕むと言う事は最上の喜びを意味する。
「……どうしてわかったんだ?」
「そうね、貴方の精が体中に異常なほど溜まっているの。それなのに、汗と唾液から、それも僅かにしか出てないのよ」
だからなのか。
朝一番のフェラには、俺の異常を確認する為の行為だと言うなら彼女の行動に納得がいく。
「けれど、貴方のおちんちんは普通に大きくなるし、アタシや沙奈ちゃんをいやらしい目で見てくれてる。そう考えると、単にエッチな事に興味が失ったとか、女の子になりたい訳じゃないと思うの」
彼女の説明に十分な説得力があった。
もし、前者の様に興味が失えば、俺の方から妻を避けていたかもしれないし、後者なら『アルプ』になる可能性があっただろう。
「それにどうも、心因的な原因がつっかえになってて、貴方はインキュバスになりかけで完全に成り切れていない、とても中途半端な状態にあるのよ」
「その心因的な原因が、子供を産みたくない思いである、と?」
「えぇ、その通りよ。あくまでもアタシの推測だけど、貴方は人一倍抑制する意思が強いみたい。だから貴方のおちんちんに無意識に強烈なストップをかかっているみたいなのよ」
彼女の的確すぎる指摘でようやく原因がハッキリとわかった。
そう言えば、4日ほど前に妻とセックスしてた時こんなこと言ってたんだっけ。
「私の膣中にだしてぇっ!赤ちゃんが欲しいのぉぉッ!!」
嫁がイく直前に叫んだ言葉を聞いた途端、俺の肉棒は勃起している状態からさらに膨張した際の極度の緊張感で射精が出てこなかった。
あぁ、そうだったのか。
俺は嫁が魔物である以上、子供を産ませるのが一番の幸せだと理解していたし、嫁自身も産みたかってたのを知っていた。
だけど、俺は心のどこかで「赤ちゃん」を産ませたくなかったのだ。
なぜ産ませたくなかったのか、今の俺ならわかる。
こんなに早くに子供を産ませて、これから先養っていけれるのだろうか?
仕事を持たないどころか、仕事をしたくない俺がどう子供たちに顔向けができるのか?
そんなプレッシャーと嫁の想いが板ばさみになって、俺の身体がこんな事になったのだろう。
「……ハハッ。仕事をする気も起らない俺が父親として、子供に胸を張って養えないからって嫁の想いを拒むなんて…っ!あぁ、俺って情けないなぁ、ほんと…っ!!」
結局、原因は全部俺の中にあったのだ。
こんなにも情けない夫を愛してくれている嫁の事を考えると、目じりから涙があふれ出した。
「……け、けいくんっ!?」
突然泣き出した俺を見て、嫁は酷く驚き、狼狽していた。
俺の泣き顔を見るのは初めてだったのだろう。
「こんな情けない夫でほんとにごめん…ゴメンなっ…ぐ、う"ぅぅっ」
だが、驚く嫁に構わず俺は許しを請うように嫁に抱きついて子供の様に泣きじゃくっていた。
そんな俺を嫁は赤子をあやす様に抱きしめながら頭を撫でて。
嫁の友人は優しく俺の背中をさすってくれた。
―――
「……どう?落ち着いたかしら?」
俺が泣きやむ頃にはお昼の12時が過ぎていた。
泣きやむと同時に腹の虫が鳴きはじめて恥かしい思いをしたのは内緒である。
泣きやんだものの、まだ気持ちが落ち着いていなかったので、とりあえず服装を整えて、簡単なお昼を済ませた。
嫁の手料理で無いからなのか、味がほとんどしなかったが、夕食まではとりあえず腹が持つ気がする。
「あぁ。一応」
これ以上考え込むのは止めだ。今はどうやって治すのかが先決だ。
「……それで、治す2つの方法って?」
嫁が早く説明してと言わんばかりに待ちわびていたようだ。
「そうね。まず一つ目は……心のケアっていうやつね。お互いの悩みをよく話し合って、理解しあえる様になれれば徐々に良くなっていくと思うわ」
サキュバスらしからぬ、まともで堅実な方法だ。
「だけど、この方法は治るのにとても時間をかけなきゃならないの。そうなると沙奈ちゃんが、今度は『性渇望症』に罹る可能性も出てくるわ」
やはり一筋縄ではいかないらしい。
ちなみに『性渇望症』とは、長期間性行為を行った反動でいつもより多く、つまるところ、冗談抜きで1日中性行為を行わなければ治らないという、生身の男性では地獄を味わう症状である。
「それで二つ目は…、アタシはこっちの方を推奨するけど。簡単にいえば、アタシの魔力を貴方に直接注いで手っ取り早く『インキュバス』になる事。そうすればおちんぽミル…じゃなくて、精液が出ないどころか、ほぼ尽きることなく出るわよぉ?♪」
前 言 撤 回 。
このお姉さん、やっぱり淫魔だ。しかも後半あたりやましい事を想像したのか、ヨダレを垂らしてハァハァしてやがる。
しかし、お姉さんの言うとおり、こっちの方が手早く、確実に治る。
代わりに石仮面を付けた元人間の様に人間を辞めなければならないが。
完全なインキュバス化になれば、今の日本の法律によりそれなりの制約が課せられる。
といっても、少し不自由な思いをするだけで、特にデメリットはないし、隠し通す事も一応可能だ。
むしろ、殆どの病気に罹らないと言うのはとても魅力的である。
それにSDになる以前に幾度も嫁としているのだから、いずれは自然にインキュバス化になるだろう。
だが、直接インキュバスにさせると言う事は当然、嫁以外の女性と交わると言う訳で―――。
嫉妬深い嫁はきっと快くないだろう。
ならば、長い時間を要してじっくりと治していくか。
それとも今回限りで治療目的の為と割り切ってさっさとインキュバス化になった方がいいのか。
つまるところ、嫁に対する良心か、効果的な治療か、どちらかを選ばないとならない。
「さぁ、貴方ならどちらを選ぶかしらぁ? アタシは二番目をお勧めするけどぉ?♪」
……このお姉さん、どうやら俺ととにかく交わりたいらしい。
表情が蕩けてやがる。
さて、どちらを選ぶべきか、嫁に訊こうとすると。
「……どちらでもいいよ。……けいくんが決めること、だよ」
どうやら俺自身が決めるべき問題であると改めて認識した。
それならば、こっちを選ぼう。
俺は意を決し、決断を下した―――。
続く。
11/08/26 11:43更新 / 浮浪物
戻る
次へ