日本―元ジパンクで、筆者らの日本とは色々と大きく異なる一種のパラレルワールド―のある町。
対して大きくない病院のある診察室で困ったような表情を浮かべる初老を迎えた医者と項垂れている青年がいた。

「診察の結果が出ましたよ。結果はSD。しかし、原因の方は・・・」

「特定不能で、身体は至って健康・・・ですか」

そう呟きながら、青年は頭を抱えて唸るように答えた。



SD。

正式に言うと性機能障害。簡単に言うと、夜の営みが満足に出来なくなる病気。

それは生命の危機に陥るほど危険な病気ではないが、夫婦の営みに於いてはとても深刻な悪影響を及ぼす病気である。

しかし、魔物との共生が当たり前となった今では深刻を通り越して、絶望するに値する病気であるのだ。　
三大成人病の方がはるかにマシだと言う位の。

それもその筈、男性の精を主な糧とする魔物娘にとって、その生命源が絶たれるのと等しい。

そうとなれば、幾ら夫を愛しても、別れるか、他の男に性交を求めるしか生きる道が無いのである。

そしてこの青年は若くも、3日前にSDに陥っている。独身を貫く意思があってかつ初老からならそこまで深刻ではない。しかし、若くして嫁持ちとなれば、これ以上の無い絶望感はないだろう。



通常、SDは性欲・勃起・性交・射精・性的絶頂のいずれか一つ以上が機能停止している状態を示す。

その中で彼の場合は、性欲は持て余しており、男性器の勃起は確認できる。そして性交も妻達と毎日してる。が、射精が全くできないのである。ちゃんと「イッた」感覚はあるようだが。

「……どうしよう、このままじゃ、俺の愛しい嫁にどう顔を向けたらいいんだ……っ」

「とりあえず、薬を処方しておいた方がいいかもしれないね」

医師から薬を貰った後、青年は酷く幽鬱そうな表情で病院から出た。


―――

　俺―潺　慧(せせらぎ　けい)―はいつも以上に重たい身体をひきづって自宅前にたどり着いた。

アルバイトで小づかいを貯めている大学生でありながら、嫁と結婚して早数カ月の出来たてほかほかの夫であったりする。

結婚相手は同じ大学の同じゼミで知り合ったある魔物娘であり、初めての授業で初めて挨拶した事がきっかけで仲よくなり、一カ月頃には結婚(俺の両親と家族には一切知らせるつもりはない)するまでに至った。

なんとまあ速くて早すぎる電撃婚だが、魔界に住んでいる嫁のご両親は大層嬉しそうに祝福しているメールとヒデオが届けられた事に思わず涙を流したのは内緒である。

今もなお新婚気分が抜けない熱々なカップルとしてゼミ内だけでなく、大学内で評判になっているようだ。


が、今はそれどころでは無い事態にどん底に落ち込んでいた。

「ただいまぁー……」

「……お帰りなさい。……けいくん、どうしたの？」

戸を開けると、俺の元気の無い声に気づいているのか、玄関先で俺の嫁がほんのわずかに不安な表情を浮かべていた。他人から見れば全く変化の無い無表情だが。

「あ、あぁ。ちょっと病院に行ってきたとこでさ」

「……具合、悪いの?」

「……いや、それよりも今はお腹が空いてるよ。もう夕食出来てるかい?」

正直に話そうかと思ったが、それよりも嫁の飯でも食って少しでも気持ちが落ち着かせてからの方がいいだろう。すこし強引に話をそらして夕食が出来ているるかどうか訊いてみる。


「……もうすぐだから。……少し待ってて」


一通りの会話を済ませ、嫁に日頃の感謝として頬に軽くキスした後、自室でルームウェアに着替えた。


うん、やっぱり俺の嫁は可愛い。

少しだけ俺の嫁自慢でも話しても良いんじゃないかな。


まず髪から。漆黒をメインに紫紺を合わせたかのような、大人の美しさを持つ、長いポニーテール。

それに対になるかのような、雪のように白い肌に、紫のタレ目でほんのり赤く小さい唇をへの字にさせて無表情に徹しているがこれがまた可愛い。

そして目を引くのが、彼女の身体にある。

腕と脚にはは深海を思わせるような青い鱗が、手と足と耳には大きなヒレが生えており、彼女に不釣り合いなゴツさがある。そして腰辺りには少し太くしなやかな尻尾が生えて、幼さを残す彼女の体型に違和感を感じさせるが、それがまた可愛い。

なぜならば、彼女の二の腕、ふとももは雪のように白く(大事な表現なので二回言いました)、華奢ながらもとても柔らかな肌が先ほどのギャップと相まって、より一層心にググッときて可愛い。

だが、一番に注目したいのは彼女が身につけているものである。

大学では露出をそれなりに控えた魔物娘用の服装―ミニスカとカッターシャツ姿もこれはこれでそそるが―を着ているが、家の中では本来の姿でいる。

その本来の姿が、世間から言われる、紺色のスクール水着―それも旧型である。

彼女曰く、これは皮膜であると。
恐らく日本の学校のお偉いさんは彼女たちの皮膜をモチーフにして学校の水着を作ったのだろう。




目の付けどころが凄いな、日本。




……っと失礼、話を戻すが、彼女の巨乳寄りで真ん中辺りの美乳がピッチリとした水ｇ…じゃなく、皮膜に張りついて可愛すぎてやばい。ちなみに着脱可能なんだとか。
水着は中途半端に脱がす所にグッと来る俺にとってたまらないものである。



……さて、ここまで彼女の自慢っぽい特徴を聞いてもうお分かりになっただろうか。
そう、俺の嫁はサハギンである。

サハギンと言えば、昔は川や沼辺りに生息する種族であったが、最近においては水分補給の技術が発達しているのか周りに水が無くても生活に何ら支障をきたすことはない。
しかし、表情と会話の乏しさという種族の負の特徴は現代の技術でも変えるのはむりだ。

それでも、彼女の婿になれたのは、積極的な挨拶(俺の場合は声による挨拶だが、彼女は抱きつくという挨拶)をしてきたおかげかも知れない。

そういう訳で、大学では有名だったりする。




しかし、そんな俺達カップルでも３日前に悲劇が起きた。
その日から、精液が一滴たりとも出てこなくなったのだ。

嫁と夜の営みをしても、試しに久々の自慰をしても、ビクビクッと痙攣をおこすだけで全く出ない。
このままでは嫁を汚せれないどころか、子供が産めなくなってしまうという非常事態になりかねない。


しかし、まだ嫁はこの事実について知らない。
３日前の営みにおいては珍しく朝まで失神して以来、今に至るまでしていない。

しかし、ばれるのも時間の問題だ。

この３日間、何とかキスと軽い身体の抱き合いでやり過ごしてきたのだが、いつ嫁から犯されるのか判らない。

なので、その話は夕食後に正直に話す事にしよう。


―――

「なぁ、沙奈。話しておきたい事があるんだ」

「……病院に行ってきた事?」

嫁の美味しい夕食の後にというのはやはり気が引けるが、これ以上隠すわけにはいかないので真剣な表情で話す事にする。　

嫁―潺 沙奈(せせらぎ さな)―は、どこかしら不安そうな雰囲気を出している。やはり無表情だったが。

「あぁ……医者にSDだと言われた」

「……えす…でぃ？」

「まぁ…精液が全く出てこない症状なんだ」


やっぱり正直に答えるのは辛い。
確かに嫁はサキュバスなどの精を主な糧とする魔物娘と違って、精液が無くとも、何の支障もなく生きてこれる。

しかし、このままでは彼女を喜ばせる事も、悦ばせる事も出来ないし、子供が作れないと思うと辛くて仕方ないのだ。

そんな辛い事実を告げると、予想通り、嫁は酷くショックを受けていた。
他の人から見れば相変わらずの無表情だが。

だが、嫁は泣く事もなく、俺に近づいたかと思うと、優しく、密着する様に抱きついた。

「……大丈夫、きっと大丈夫よ」

まるで俺を慈しむかのように頭を撫で、今度は誰もが見てもわかるように優しくほほ笑んだ。他人から見ればほぼ無表情だが。

「すまない、沙奈。俺も早く治るように頑張るよ」
ここで泣いては男が廃る訳で、グッとこらえ、けれども、顔を見せない様にぎゅっと嫁に抱きついた。今、頬に二筋の汗がなぜか流れているから。

―――

「……そうだ」

お互い抱きついて数分後、ふと彼女は何かを思いついたようだ。他人から見れb(ry

「どうした？」
「……明日。……友達に、相談していい?」

つまりは言うと、俺の症状を他人に話すと言う事であるのか。
普通なら恥かしくてOKするなんてとんでもない話だが、状況が状況だ。

「あ、あぁ…構わない。ただ、関係ない人と魔物には内緒にしてくれないか」
万一のために釘を刺しておくと、嫁はコクコク、と頷いた。

俺のみっともない症状がばれるとなると、世間から笑い種にされる事必至なのだから。

「……今夜は寝る？」

先ほどの話を考慮してか、嫁は少し寂しそうな顔で訊いた。相変わらず無表z(ry

「いや、少しだけ……いいかな？」

しかし、このまま寝るのも億劫だし、嫁に３日間お預けしていたので、これ以上延ばすのも申し訳ない。

そいう言う訳で「本番無し」という条件でと告げると、彼女は若干不満っぽく口をへの字に曲げたが、仕方ないと思い、納得したのか、やがてにっこりと笑った。ここばかりは他人でもやっと表情の変化が判るだろう。

「…今夜は、私の身体でたくさん、愛でてくださいね。……あ・な・た♪」

いつもよりも発情しているのか、声が普段の嫁には決して出てこない、艶かしさがあった。



その夜。

寝室で左肩紐部分の皮膜を腕の方へずらし、貴重な生おっぱいを見せつけた嫁に俺は我を忘れて嫁を押し倒した。

精は出せなくとも、嫁を喘がせ、絶頂を迎えらせる事に成功し、俺も幾分か満足できた。

まだ恋人だった頃は嫁にヒィヒィ言わされ、干からびる事も度々あったが、すでにインキュバス化に成っている親友―中学生の頃にサキュバスに襲われたとの話―から教わった、様々なテクニックを用いてからは、徐々に干からびる事も無くなり、結婚してからは逆に嫁をヒィヒィ言わせれるようになった。

インキュバス化になった親友にはある意味で尊敬する。


「…そういや沙奈、友達の連絡は付いたのか?」

本番無しの夜の営みが終わった後も、嫁の背中に抱きついて、密着しながら露出している嫁のおっぱい―皮膜越しから揉むのも最高だが、生の揉み心地はハンパない―を左手でふにふにと揉みながら訊いてみた。

「はぅんっ…んぅっ、だ、大丈夫だよ、けいくぅ、んっ///」
いつもより敏感なのか、身体を海から引き揚げられた魚の様にびちっ、びちっ、と身体を跳ねるように震わせ、蕩けて緩んだ口からヨダレを垂らしている。

「そっか、それならいいんだ。それで…今夜は満足できたかい?」

俺は苛めるつもりも無い口調で、左手は動きを止めず、今度は空いた右手を嫁のお尻と尻尾の付け根あたりを撫でるように触る。皮膜のスベスベとしたさわり心地とおしりの絶妙な弾力が見事に合わさって手が幸せ。そして尻尾はローションを塗りたくったかのような、けれどもぬめりを全く感じない、言葉では表せないさわり心地がこれまた幸せ。

「…っ、ひぁっ！そ、そこさわっちゃ、らめぇっ！またイッちゃうぅ！///」
触れられるたびに嫁はおっぱいに揉まれるよりもさらに激しく身をよがらせ、おしりからでもぐっしょり濡れているのか判る。

普段の嫁から想像もつかない反応にすっかり俺はご満喫だ。

普段の嫁はいつも不機嫌そうな無表情で滅多に他人と喋る事をしない。
まぁ、他人から俺に変われば、随分と表情や感情が豊かに口数が増えるのだ。といっても、他人から見ればほんのわずか程度だが。

そんな嫁も夜の営みが始まれば、この様に豹変するのだ。
激しく俺を求めてくるものだから、愛しくて仕方無い。

だから、その愛しさをしっかり伝える為に強すぎない様に嫁の尻尾の付け根を抓った。

「ぅ"あ"ッ!? やっ、ゃぁ"っ−−−ｯｯｯ!!!」

しまった。
強すぎない様にとはいっても、嫁には強すぎたらしい。

嫁は腰の骨が折れそうなほど、弓のように身体を反らせ、３度目の「イク」を迎えた。
皮膜で隠している嫁のアソコからプシュッと愛液を噴き出しているのを右手が直で伝わる。

「……ぅーッ。酷いよぉ、けいくぅん…///」

振り向きながら、嫁の沙奈は睨むように怒った顔で言うが、手の方は俺の背中にそっと触れ、優しく抱きしめていた。

「ごめんよ、沙奈。キミがあまりに可愛くて愛しいもんだから」
嫁の大好きな台詞を愛一杯込めて言いながら、今度は喜ばせる為に頭と背中をさすさすと撫でる。

すると嫁は顔を真っ赤になりながら、「……ぁりがとう///」って小さく言う。

それから少しすれば、俺にしか見せてくれない、とびっきりの笑顔でこう言うんだ。

「……けいくん、大好きっ！」ってね。

俺自身が抱え込む悩みがどっか行くぐらい、俺は幸せな気分になれた。

■作者メッセージ
皆さん初めまして、浮浪物です。

皆さんのSSを見ていく内に書きたい衝動が止められず、こんな駄文が産声をあげてきやがりました(笑

今回は、皆さんが知らない間に避けている、エロ系統では恐らくタブーである「性機能障害」を題材にして書きました。
お相手の魔物娘がサハギンなのは筆者の嫁だからです(ｷﾘｯ

上記の異論は勿論、感想や意見をお待ちしておりますｂ