Attack ―― the age of 15
早朝、レイスの部屋。
「くぁ……眠……」
窓の外からの陽光と喧騒、そして漂ってくる朝食の香りで彼は目を覚ます。
寝ぼけ眼のままで着替えを済ませ、のろのろと歩を進める。
大きな欠伸をしながら、居間のドアを開いた。
「ふあぁ……母さん、今日の朝メs」
そこまで言って、居間にいる人物を見て、フリーズ。
中途半端に口を開き、ドアノブに手をかけたまま、彼は固まった。
「あら、おはようレイス♪」
年甲斐もなく少女のような笑顔を浮かべ、食卓の椅子に座っている母はいい。
そこにいるのが当然、というかいない方がおかしい人物だ。
だが、しかし。
「おはようレイス、今日も素敵だな抱いてくれ」
何故か隣家のイヌミミ幼なじみ娘が台所に立っていた。
右手におたま、左手にフライパン、胴はエプロンという『おはよう装備』で。
「………」
バタン、とドアを閉めてみる。
ガチャリ、とドアを再び開く。
「レイス、何してるの? 早く来なさーい。もうご飯できるから」
「ああ、あまりゆっくりしていると遅刻してしまうぞ」
しかし、エジェレは間違いなくそこに立っている。
ため息を一つ、レイスは諦めて食卓へと歩み寄った。
「母さん……なんでエジェレがここに」
「決まってるじゃない、朝ごはん作るため♪」
「ああ、やっぱそうなのか……」
しかし、なんでまたいきなり。
そう聞こうと、レイスは台所のエジェレの方に首を向けて――
「ぶごふぉっ!?」
噴いた。
は だ か え ぷ ろ ん 。
彼に背を向けて料理をする彼女の、その背を覆うものは、何もなかった。
つまり、エジェレの装備は『おはよう装備』ではなく。
今の彼女の姿、その装備の真の名は――『エロ新妻装備:朝ノ型』。
15歳。ウルフ種らしいすらりとした体は、完全に『女』のそれになっていた。
褐色の肌にはシミ一つなく、チョコムースのように滑らか。
肩甲骨がうっすらと浮かび上がり、凹凸のアクセントをつけている背中。
芸術品のごとく美しい曲線を描く、胸から腹、そして腰への輪郭。
尻尾で肝心な箇所は隠れているものの、軟らかさが見て取れる臀部。
その下から伸びるのは、よく締まった細く長い足。
それらは、同様に『男』として成長しているレイスが反応するには十分過ぎるほどの色香を放っていた。
「カハ、ゲホッ、ゴホッ!」
「どうした? レイス」
咳込む声に、エジェレが振り返る。
よく見れば、ほんのわずかにだが、その顔は上気しているようだった。
「お、お前なんてカッコしてんだ! 服を着ろ服を!」
「しかし、愛情のこもった料理を作るにはこの装束が必要だと」
「母さんだろ!? いい加減にしてくれよ!!」
レイスは母へ向き直り、両の拳で食卓を叩く。
クチナは紅茶のカップ片手に、窓の外を見ながら口笛など吹いている。
「横向いて口笛とか、ベタ過ぎるだろ!」
「もう、本当は嬉しいくせにぃ」
「全然嬉しくなんか――」
「そうか……私の体など、見ても嬉しくないか……」
「な、ッ……」
その沈んだ声にレイスが振り返ると、エジェレはしゅんと頭上のイヌミミをへたらせていた。
「もう、ホントにレイスは正直じゃないんだから。見なさい、エジェレちゃん」
クチナはゆったりと立ち上がると、エジェレの横へ並び。
俯く彼女の肩をぽんぽん叩きつつ、レイスの顔を指差す。
エジェレはゆっくりと顔を上げ――そして、何かに気付いて目を見開く。
なんだよ、と後ずさりながら、レイスは口元にヌルリとしたものを感じた。
「体は正直よ〜? ホントは心臓バクバクいってるんでしょ〜?」
レイスが口元を拭う。その手には、赤い液体がついていた。
「後ろ姿だけで鼻血出しちゃうなんてね。前見たらどうなっちゃうのかしら?」
クチナは片手を口に当て、くふくふと人を小バカにしたように笑う。
レイスが歯噛みして睨みつけるも、鼻血を拭きながらでは迫力も何もない。
いや、そもそも相手がその程度で臆するような人物でもないが。
「レ、レイスが……私の裸エプロンに興奮してくれた……」
一方、エジェレは天を仰ぎ、頬を赤くしつつ小さくガッツポーズ。
尻尾がパタパタと左右に振られ、喜びを表現していた。
「ところで、エジェレちゃん?」
「……はっ!? な、なな何でしょうお義母さん!?」
「あそこの鍋、スープ吹きこぼれてるわよ?」
「はぅあ!?」
※※
夕方、学校からの帰り道。
手に持った一枚の紙を睨みながら、レイスは呻いた。
「あー、もー、なんだよ進路調査って」
レイスが手にしているのは、いわゆる進路調査票(就職版)。
その主な内容は、卒業後にどんな職業に就きたいか。
そこに書いて提出すれば、学校を通してだいたいの職を斡旋してもらえる。
冒険者ならギルドに登録、料理人ならレストランで修行、という具合だ。
しかし、レイスには特にこれといった技能はなく、どうするか決めかねていた。
「なんだ、まだ決められないのか?」
そんな彼とは対照的に、隣を歩くエジェレは涼しい顔。
「うっせーな、配られた瞬間書いて提出できるお前が異常なんだよ」
「そうか? 他のクラスにもちらほらいたようだが」
レイスの言葉通り、彼女は調査票が配られるや否や一瞬で書き上げ、提出していた。
他のクラスメイトがアーだのウーだのゾンビのように唸っている間、彼女はレイスの横で彼の職について提案していたという訳だ。
「私たちも、いつまでも子供ではいられないのだ。そろそろ将来のことを意識するべき時期に入ってきていると思うぞ?」
「わかってるよ、そんなことは」
「計画はしっかり立てておいて損はないからな」
「はいはい。……ん? そういえば、お前は何て書いたんだ?」
「……わからないのか?」
ふと気になったレイスが聞いてみれば、エジェレは意外そうに目を丸くする。
その声には、わずかながら拗ねたような雰囲気が含まれていた。
「わかるワケねーだろ。なんでそんな顔してんだ。で?」
「君の妻に決まっているだろう」
……。
………。
…………。
「えーと、イマナンテイイマシタカ?」
無感情かつ抑揚のない声で、レイスが確認する。
今聞いたことが聞き間違いであることを願いつつ、しかし絶対にそうでないことを確信しながら。
「だから、君の妻、嫁、家内、細君、奥様、ハニー、だ」
ほらやっぱりなあああ!! と、レイス絶叫。ただし、心の中で。
それで進路調査が通る辺り、ああ教師も魔物なんだなぁ……というか。
だが、彼はその気持ちは表面には出さず、無表情をキープ。
「とりあえず、お前の場合がまったく参考にならないことはよくわかった」
さてどうしたもんか……と考え込むレイス。
そんな彼の袖を、エジェレのモフ手が掴んだ。
「……なんだ?」
「できれば、君は毎日定時に帰ってこれる職に就いてくれるとありがたい」
学校では言ってこなかった要求。
その裏に潜む理由に一抹の不安を感じながらも、意を決してレイスは聞いた。
「……一応聞いとくけど……なんでだ?」
「その方が、規則正しい生活計画が立てやすいからだ。それに、夜の性活もより計画的に送れ「もういいから黙れお前!」
そんなやり取り、夕暮れの帰り道。
「くぁ……眠……」
窓の外からの陽光と喧騒、そして漂ってくる朝食の香りで彼は目を覚ます。
寝ぼけ眼のままで着替えを済ませ、のろのろと歩を進める。
大きな欠伸をしながら、居間のドアを開いた。
「ふあぁ……母さん、今日の朝メs」
そこまで言って、居間にいる人物を見て、フリーズ。
中途半端に口を開き、ドアノブに手をかけたまま、彼は固まった。
「あら、おはようレイス♪」
年甲斐もなく少女のような笑顔を浮かべ、食卓の椅子に座っている母はいい。
そこにいるのが当然、というかいない方がおかしい人物だ。
だが、しかし。
「おはようレイス、今日も素敵だな抱いてくれ」
何故か隣家のイヌミミ幼なじみ娘が台所に立っていた。
右手におたま、左手にフライパン、胴はエプロンという『おはよう装備』で。
「………」
バタン、とドアを閉めてみる。
ガチャリ、とドアを再び開く。
「レイス、何してるの? 早く来なさーい。もうご飯できるから」
「ああ、あまりゆっくりしていると遅刻してしまうぞ」
しかし、エジェレは間違いなくそこに立っている。
ため息を一つ、レイスは諦めて食卓へと歩み寄った。
「母さん……なんでエジェレがここに」
「決まってるじゃない、朝ごはん作るため♪」
「ああ、やっぱそうなのか……」
しかし、なんでまたいきなり。
そう聞こうと、レイスは台所のエジェレの方に首を向けて――
「ぶごふぉっ!?」
噴いた。
は だ か え ぷ ろ ん 。
彼に背を向けて料理をする彼女の、その背を覆うものは、何もなかった。
つまり、エジェレの装備は『おはよう装備』ではなく。
今の彼女の姿、その装備の真の名は――『エロ新妻装備:朝ノ型』。
15歳。ウルフ種らしいすらりとした体は、完全に『女』のそれになっていた。
褐色の肌にはシミ一つなく、チョコムースのように滑らか。
肩甲骨がうっすらと浮かび上がり、凹凸のアクセントをつけている背中。
芸術品のごとく美しい曲線を描く、胸から腹、そして腰への輪郭。
尻尾で肝心な箇所は隠れているものの、軟らかさが見て取れる臀部。
その下から伸びるのは、よく締まった細く長い足。
それらは、同様に『男』として成長しているレイスが反応するには十分過ぎるほどの色香を放っていた。
「カハ、ゲホッ、ゴホッ!」
「どうした? レイス」
咳込む声に、エジェレが振り返る。
よく見れば、ほんのわずかにだが、その顔は上気しているようだった。
「お、お前なんてカッコしてんだ! 服を着ろ服を!」
「しかし、愛情のこもった料理を作るにはこの装束が必要だと」
「母さんだろ!? いい加減にしてくれよ!!」
レイスは母へ向き直り、両の拳で食卓を叩く。
クチナは紅茶のカップ片手に、窓の外を見ながら口笛など吹いている。
「横向いて口笛とか、ベタ過ぎるだろ!」
「もう、本当は嬉しいくせにぃ」
「全然嬉しくなんか――」
「そうか……私の体など、見ても嬉しくないか……」
「な、ッ……」
その沈んだ声にレイスが振り返ると、エジェレはしゅんと頭上のイヌミミをへたらせていた。
「もう、ホントにレイスは正直じゃないんだから。見なさい、エジェレちゃん」
クチナはゆったりと立ち上がると、エジェレの横へ並び。
俯く彼女の肩をぽんぽん叩きつつ、レイスの顔を指差す。
エジェレはゆっくりと顔を上げ――そして、何かに気付いて目を見開く。
なんだよ、と後ずさりながら、レイスは口元にヌルリとしたものを感じた。
「体は正直よ〜? ホントは心臓バクバクいってるんでしょ〜?」
レイスが口元を拭う。その手には、赤い液体がついていた。
「後ろ姿だけで鼻血出しちゃうなんてね。前見たらどうなっちゃうのかしら?」
クチナは片手を口に当て、くふくふと人を小バカにしたように笑う。
レイスが歯噛みして睨みつけるも、鼻血を拭きながらでは迫力も何もない。
いや、そもそも相手がその程度で臆するような人物でもないが。
「レ、レイスが……私の裸エプロンに興奮してくれた……」
一方、エジェレは天を仰ぎ、頬を赤くしつつ小さくガッツポーズ。
尻尾がパタパタと左右に振られ、喜びを表現していた。
「ところで、エジェレちゃん?」
「……はっ!? な、なな何でしょうお義母さん!?」
「あそこの鍋、スープ吹きこぼれてるわよ?」
「はぅあ!?」
※※
夕方、学校からの帰り道。
手に持った一枚の紙を睨みながら、レイスは呻いた。
「あー、もー、なんだよ進路調査って」
レイスが手にしているのは、いわゆる進路調査票(就職版)。
その主な内容は、卒業後にどんな職業に就きたいか。
そこに書いて提出すれば、学校を通してだいたいの職を斡旋してもらえる。
冒険者ならギルドに登録、料理人ならレストランで修行、という具合だ。
しかし、レイスには特にこれといった技能はなく、どうするか決めかねていた。
「なんだ、まだ決められないのか?」
そんな彼とは対照的に、隣を歩くエジェレは涼しい顔。
「うっせーな、配られた瞬間書いて提出できるお前が異常なんだよ」
「そうか? 他のクラスにもちらほらいたようだが」
レイスの言葉通り、彼女は調査票が配られるや否や一瞬で書き上げ、提出していた。
他のクラスメイトがアーだのウーだのゾンビのように唸っている間、彼女はレイスの横で彼の職について提案していたという訳だ。
「私たちも、いつまでも子供ではいられないのだ。そろそろ将来のことを意識するべき時期に入ってきていると思うぞ?」
「わかってるよ、そんなことは」
「計画はしっかり立てておいて損はないからな」
「はいはい。……ん? そういえば、お前は何て書いたんだ?」
「……わからないのか?」
ふと気になったレイスが聞いてみれば、エジェレは意外そうに目を丸くする。
その声には、わずかながら拗ねたような雰囲気が含まれていた。
「わかるワケねーだろ。なんでそんな顔してんだ。で?」
「君の妻に決まっているだろう」
……。
………。
…………。
「えーと、イマナンテイイマシタカ?」
無感情かつ抑揚のない声で、レイスが確認する。
今聞いたことが聞き間違いであることを願いつつ、しかし絶対にそうでないことを確信しながら。
「だから、君の妻、嫁、家内、細君、奥様、ハニー、だ」
ほらやっぱりなあああ!! と、レイス絶叫。ただし、心の中で。
それで進路調査が通る辺り、ああ教師も魔物なんだなぁ……というか。
だが、彼はその気持ちは表面には出さず、無表情をキープ。
「とりあえず、お前の場合がまったく参考にならないことはよくわかった」
さてどうしたもんか……と考え込むレイス。
そんな彼の袖を、エジェレのモフ手が掴んだ。
「……なんだ?」
「できれば、君は毎日定時に帰ってこれる職に就いてくれるとありがたい」
学校では言ってこなかった要求。
その裏に潜む理由に一抹の不安を感じながらも、意を決してレイスは聞いた。
「……一応聞いとくけど……なんでだ?」
「その方が、規則正しい生活計画が立てやすいからだ。それに、夜の性活もより計画的に送れ「もういいから黙れお前!」
そんなやり取り、夕暮れの帰り道。
10/11/02 00:11更新 / かめやん
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