蟲の少女に捕まって
妙なものに捕まっていた。
「んあ?」
「ああ……起きたのですか。 済みません…あと少し、もう少しだけお待ちくださいませ……
すぐに終わりますから、じっとして下さいね……わたしの、愛しい旦那さま?」
というか、マズイものに捕まっていた。
大蜈蚣。
旧い時代においては神とも語られた強大な存在であり、神話における強力な敵役。
妖どもが概ね人間に友好的になった現在においても「怪物」と認識される危険な存在。
現在の俺の状況はすこぶる危険だ。
辺りはまるで見覚えのない林の中で、人の気配一つなくひっそりとしている。
既に数箇所ほど「噛み付かれ」て、痛みと見紛うような快楽に身を焼かれている。
蜈蚣の毒は長く残るという。ついで、脹脛の辺りでその節足の無数についた胴を巻きつけられている。
ここから逃げるのは至難……いや、もはや不可能。
あとは搾り尽くされるなり何処ぞの山奥に連れ去られるなり、碌な事にはなるまい。
命運尽きた。後はこのまま誰にも知られず朽ちるのだろう。
まあ、こんなチンピラ男の末路としては妥当な方か。
……まあ、それは別にして。
とりあえず魔物であるから、別嬪さんな事に間違いはない。
黒い羽織を纏っただけで惜しげもなく晒しているその肌は、まるで陽の光を知らないかのように白い。
そこに走る、刺青のような赤紫が強く目についた。
足に当たるべき場所には、太刀を用いてすら捌けそうにない堅牢な甲殻に覆われた禍々しい蜈蚣の躰がある。
しかし人と同じ形をした女の上体はそれとはまるで対照的で、出るところも出ていない、抱けば砕けてしまいそうなほど細く、華奢だった。
不釣り合いに思える要素が複雑に絡んで、それら全てが女の魅力を滲み出させている。
表情はオドオドとして、形の良い眉はハの字型に少しだけ眉間によっている。
その憂いを帯びた表貌を簾掛けの向こうに隠す長い髪は、されど細く。些細な表情の変化を見て取るには十分だ。
陰気で恥じらいの強そうな所作。被虐嗜好を見せ付けるような顔をするくせ、逃げられぬように俺を捕らえ、首に肩に脇腹にと牙を突き入れていく容赦のないその様子はヒドく嗜虐的だ。
表情や態度ではない。醸し出す雰囲気と場に淀む空気によるモノである。これは実に高得点。
うむ。好みだ。
いや、そうじゃなくてな?
「はむ……ん、ふっ……っ、はあ♥
んっあ、はい……終わりましたよ? 旦那さま♥」
「ん? あ、っつ…あ〜、ご苦労さん……?」
「いえいえ、これも全ては旦那さまが気持ちよ〜くなって頂くため……お礼には及びません。
ああ、そうです旦那さま、子どもは何人欲しいですか? わたし達は力が強い方の妖ですので、そんなに子どもが出来ないんですけれど……ああ、だけど、旦那さまがお望みになるのでしたら、きっと10人でも20人でも………」
「ああ……いや、1人か2人でいいさ」
いやいや、待て。そうじゃないだう俺。
寝起き頭と、毒が回ってるせいで今ひとつシャンとしない。
頭がボーッとして……というか、頭の考えに体の方がついて来ない。
「そうですか! ああ、よかった…♪ 旦那さまも、わたしと子作り…したかったんですね?
ああん…嬉しいです! …あぅ、ん…つはぁ……おなかが、キュゥってしちゃいました……♥
こんな気持ち、はじめてです……やっぱり、わたしと旦那さまはぁ…、きっと、運命に結ばれた仲だったんですね…!!」
「そっかあ……よかったなぁ」
「はい…♪」
いやいやいや、マテコラおい俺。
違うだろう。いや、そこは違うだろう。
というかいい加減ツッコめよ、ツッコミ待ちだろう。
完全にコレ、明らかにツッコマないとダメな流れだろうコレ。
「……その『旦那さま』ってのは、何だ?」
よーし、言った。よく言った。
よくやったぞ、俺。快感に耐えてよく言った。感動した!
その調子で次、ビシバシと言っていこうか。
大丈夫、突っ込みどころは多すぎるほどある。
「旦那さまはぁ……わたしの旦那さまだから、旦那さまなんです♥
ああ…旦那さま。マラを御拝見させて頂いても……?」
「そうかあ……ああ、うん、構わん」
おい、こら俺〜〜!!!
いや、アンタもアンタだ! 少しはその回答に疑問を持て!
そして嬉々として俺の帯を解いてるんじゃない!
何だその上気した頬と、僅かな躊躇いを見せる目は。
可愛いな、ちくしょう。チューしちゃうぞ!?
「ふぁ…すっごく濃いにおい……これだけで酔ってしまいそう…♥
ねえ、旦那さま? 最初の一回は、手の中と、お口の中と、わたしの膣内と……どこで出すのがお好きでしょうか?
いえ、はい…わたしは旦那さまの最愛の人ですもの、どこであってもきっと旦那さまは満足して頂けるでしょうけれども……ほら、初めて二人が交わるのなら、やっぱり最高の快楽で2人一緒に堕ちて行ってしまいたいじゃないですか……だから、 さいしょは、わたしに任せてください♪ ね?」
いや、おかしいだろ今のセリフ!?
最初尋ねてたのが言ってる内に選択肢ゼロになってるじゃねえかよ!
というか何時の間にアンタは俺の最愛の人になってんだ?
いや、いねえけど。女の知己なんざもういねえけどさ。
どうせ女っ気の無い男ですよコンチクショー!
そもそもが、旦那さま旦那さまって俺はアンタのことすら知らんわ!?
……ああ、もうダメだこりゃ。
いっぺん落ち着こう。いや、落ち着くのは無理だとして
リラックスって奴だ。深呼吸……は、しなくて良いか。
素数を数えよう。1,3,5,7,9,11……出だしから間違ってるっての。
「ん…は、っふ、はぁ………んんっ、…ちゅ」
そうこうしている内に、蜈蚣女は俺の股間にしゃぶりついていた。
いや…しゃぶるよりは、ねぶるの方が正しいか。
片手で陰嚢を揉みほぐしながら、半萎えの俺のモノをもう片方の手で持ち上げて、舌で竿の付け根のあたりからカリ首の裏側まで。
いっぱいに伸ばされた赤い舌が、時に舌先で線を引く様にくすぐり、時に全体でベタリと這う様に往復していく。
女の冷ややかに濡れた舌が素肌に触れた瞬間、背筋に得も言えぬものが走った。
その一瞬、背骨の力が抜けて、支えのない俺の上体は倒れかけた……が、女の蜈蚣の半身が背もたれとなって俺を受け止める。
俺はそのまま楽な体勢で、女の与える亀頭にも裏筋にも触れない緩い刺激を甘受していた。
音も立てず、ただベタベタと女は舌を動かし続ける。
それはまるで、単に竿を湿らすだけのような舌の動き。
しかし毒の回った俺の身体には十分な刺激だったらしく、ムクムクと見る間に愚息は膨らんでいった。
くすぐり、這わせ、這い上がり、まっすぐ下ろされ、そのまま上り、左右にゆらゆらと揺れながら這い降りる。
その三巡で、半萎えだったモノは、完全に芯の通った状態にまでなっていた。
「んっふ…大きくなってきましたね……けど、まだまだ。 これからが本番ですよ…♥」
さも嬉しそうにそう言って、女は自身の上体を俺へと摺り寄せた。
腰に手を回して抱きつくように、猫一匹潜り込む隙間もないほど身体を密着させてくる。
いきり立っていた愚息はその合間に挟まれ、その位置にはちょうど女の胸が来ていた。
女は腰をくねらせるようにして上半身をゆすって、薄いが確かな膨らみと柔らかさを持った胸の合間にある俺のモノに刺激を与えていく。
くの字に曲がって突き出され、ゆらゆらと揺れる肉付きの薄い尻と。背中に水に溶かした墨のように広がっている女の長い髪とが、俺の位置からだとはっきりと見える。中々に絶景だ。
先程からそうなのだが、女はおっかなそうに目をつむりながらこれらの行為をしていて、時折伺うような上目遣いを俺に向けてきていた事もここに加えておく
先ほどまで竿をあの手この手でねぶっていた舌は、今度は俺の鳩尾のあたりをチロチロと舐めていた。
そうして貯められた唾液は重力に従って、その下でギュウギュウと挟み潰されていた亀頭を濡らす。
それを狙っているのか、はたまた単純に甘えているのかは分からない。女は、ただただ愛おしそうな表情で、俺の体を舐め続けていた。
……ああ、そういえば。昔いた、気の合う野良猫が、同じように俺の腹を舐め回していたっけか。
はて、あいつは今頃どうしているやら……
「むぅ……」
カリッ
「痛った……ッ!?」
女の、首飾りのような蟲の口器が俺の下腹に牙を立てた。
微かに血が滲み、鋭い痛みが背骨まで一瞬に駆け上り、即座に別の感覚情報に刷り変わる。
今度のは位置もあり、文字通り腰の抜けるような快楽に足腰から力が抜けて、代わりに股間のモノが熱と硬さを持った。
いきり立つそれは、女の柔らかい肌をグイグイと押して、女はそれに応えるように自らの柔肌を押しつけ、なすり付ける。
いよいよ他の何でもなく快楽を感じ始めて、気づかぬ内に俺自身も腰を浮かせ、擦りつけるように動かしていた。
その様子を見て取って、女はにんまりと愛おしそうな笑みを陰気な表情の上に形作る。
そうして女は、次第に責め立てる動きを激しくしていった。
胸の谷間を使って前後させていたのが、次第に乳房や乳頭を押し当てるような動きに変わる。
なだらかで柔らかい起伏を通る度に女の唾液と先走りに濡れた亀頭が、ぷくりと膨らんだ乳首にコツコツとぶつかった。
時に女は器用に上体をくねらせて、乳首を鈴口に押し当て、潜りこませるような真似までしてきた。
これはむしろ女が自身で快楽を得るための動きだろう。
切なげに押し殺した吐息が腹に当たる。
時折こちらを見上げてくる顔は、情欲の色をより濃くしていた。
最初に見た時の病的な白さがウソのように血の巡りのいい顔をしている。
半ば伏せられた目は、トロリと甘くとろけるような視線を俺へと向けている。
それはひどく愛おしげで、先程から女がそう言っていた通り、生涯の伴侶と慕うものへ向けるような目だ。
情欲に酔ったその顔は、たぶん俺の方でも同じようなもの。
毒が巡ってきているのだろう、皮膚が泡立ち沸騰するような感覚がひっきりなしに身を苛む。
まるで湧き水か何かのように溢れてくる性欲が、目の前の女をやたらと愛おしく見せていた。
「はぁ……ぅ、ん…♪ ね、…どう、ですか…旦那さま?
気持ちいですか? 気持ちよくなってくれていますか? わたしは気持ちいいですよ……だって、旦那さまの熱っつ〜いのが、モグモグってわたしの胸を優しく愛撫してくれているんですもの。
旦那さまも気持ちいいですよね。気持よくなっていますよね。ふふ……ああ、嬉しい。嬉しいです。とっても、と〜っても♥
……だけど、まだまだ、これからですからね?」
甘ったるい声を出して女が言う。
相変わらず疑問形の口調のくせに、俺の回答を求めていない。
言い終えた女は、ぎゅ〜っと腰に回した手に力を込めて強く抱きしめ、自分の唾液で濡れた俺の腹へと頬ずりをした。
たっぷり数十秒はそうしていて、否応にも素肌に女の体温が伝わってくる。
そうしてそれが終わると、女は最初の時と同じくらいの距離まで身体を離した。
しかし俺の方は最初と違って大蜈蚣の躰を背もたれに倒れているので、先ほどでは俺を見上げていた女と、まっすぐに目線を合わせられるくらいになっている。
「ふぁ…やっぱりおっきいです♥
それじゃあ、さいしょはお口で出しますね、旦那さま……?」
圧迫していた物がなくなって、女の体で押しつぶされていた肉棒が立ち上がっている。
何の支えもなくとも真っ直ぐに屹立するそれに片手を添え、もう片方の手は自分の顔にかかる髪をかき分けて、女が俺のモノを咥えこんだ。
女の口に含まれたのは亀頭だけ。
しかし、舌だけで竿ばかりを舐めていた先程とはモノも質も違う。
熱い、ただひたすらに熱い、唾液。固く充血して熱を持った俺のそれよりも更に熱い口腔内のナマの体温。
何の遮りもなしに伝わってくる女の体温と毒混じりの唾液。
それに触れた、ただそれだけで腰が跳ねた。
急に口の中で跳ねたそれを、しかし女は何てこともない風に舌で制して、そのまま亀頭を平たく伸ばした舌で包み込む。
裏筋から鈴口までを、まず形を確かめるように一舐め。
伸ばした舌先でつつきながら雁首を縁取るように一周。
そんな愛おしみ、くすぐるような動きから一転、急に女はペースを早める。
くちゅ……と竿の半ばまで口の中へ入れて、舌は亀頭に巻きつけるように絡める。
絡めた舌は亀頭をねぶり、全体は頭そのものを動かすようにして刺激されていく。
時に内頬の粘膜と柔らかさを、時に打って変わった歯の側面まで使われて、痛みにも近いような強い刺激が加えられていった。
硬軟の快楽を混ぜ込めた積極的な責め。
ぞくぞくと背筋にくる、べっとりとした快楽。
それに耐えていると、ふとして女と目が合った。
女の送る、伺うようなオドオドとした上目遣いの視線。
やたらと自信なさ気なその所作は、どうにも彼女の印象をチグハグとさせている。
そして目があった際に気付いたのだが、竿の根本を押さえていた手がいつの間にかのけられていた。
どこに行ったのか…と探してみると、手は女の体の側へ伸びていた。
肘の辺りから先は女体の胴の影に隠れているが、行き先を推測するに手は下腹のあたりだろう。
それに気づけば、くちゅくちゅと響いていた水音が、一箇所からだけ立っているのでは無いと知れる。
多少「遠く」から聞こえる方の濡れ音が、細かく早くなっていく。
それに合わせて女の顔も赤らみが増し、亀頭に当たる吐息も、次第に熱くなっていった。
目は相変わらずおっかなびっくりに閉じられているが、時折開くそれは蜂蜜漬けのように甘く潤んで、増しに増した情欲の火にあぶられたように蕩けていた。ハの字眉も切なそうに揺れている。
責めらているのは俺だというのに。
手馴れた娼婦もかくやと言わんばかりの技巧を持って、一心不乱にちんぽをシャブっているクセして。
そんなドのつく淫乱女が、自分の手淫一つで切なそうな顔して必死に……それこそ初心な少女のように必死で快楽をこらえている。
……それはいよいよ滑稽で、笑ってしまうほど滑稽で、俺は自分が圧倒的な不利に立っていることも忘れていた。
喉の奥にくつくつと笑みが溜まる。
そいつは次から次へと溢れていって、隠し通せず口からこぼれて出て行ってしまう。
流石にそれは女に気づかれて、怪訝そうな目を向けられた。
その目が俺の視線を追っていって、そいつで俺が何を見ているのか、自分が何を見られているのかを察したらしい。
元から情欲で真っ赤に染まっていたその顔が、それこそ火でも灯したような色で羞恥の心情を顔いっぱいに映し出していた。
その様子もまた、俺の笑いに薪木をくべる。
「ん、ぅ……むぅ。わらふひゃんへ、ひろいれふ…」
もごもごと口を動かして女が言う。
何と言っていたかは分からないが、どこか怒っているようであるのは分かる。
しかしその怒りは根底に照れがあるのが分かるようなもので、口淫の最中で無かったならばプイっと顔を背けでもしそうなものだった。
それは素直に、彼女を可愛らしいと思える仕草だ。
しかし、そうこうしている内にも女の責めは微塵も揺るがない。
むしろ怒りやら仕返しのつもりなのか、より強く激しいものに変わりつつあった。
少女らしい性格は顔と仕草にしか出さないようだ。
口の中で弄ばれる性器は少しずつ奥へと誘い込まれ、飲み込まれていく。
そうして遂に、亀頭は口腔の最奥、喉の入り口近くの柔肉へと至り、少しずつ角度を変えて二度三度とそこへと擦りつけられる。
そこは骨の通っていない柔らかな肉の感触を持っており、また口腔内でありながら温度が低く、冷たいとすら思える部位だ。
今まで熱に慣らされていた所へと与えられるその冷気は、ピリッという驚きを含んだ、程良い刺激となる。
しかしそれを堪能している余裕すらなく、また少しずつ、んぐんぐと肉矛が飲み込まれていく。
飲み込まれた先はといえば喉であり、並の食い物よりは太さがあるであろう俺のモノに合わせてグイグイと広げられていった。
苦しくないのかと彼女の顔色を見てみれば……やはり苦しいのか閉じている目を更につむっているのだが、どこか嬉々として恍惚を感じている様子もまた見て取れた。
しかし彼女が苦しむだけ俺へと送られる悦楽もまた一塩で、今までの責めの中では味わえ得なかった種の快楽……四方からの締め付けが敏感に濡れた亀頭を襲う。
「…ッ!」
「ふ、あむ…ん、…ふふ♪」
いよいよ射精感は高まって、背筋をゾクゾクと快楽が駆け抜けていく。
それを腰に力を込めて寸でのところで堪えていると……彼女が小さく笑い、さらなる手管を加えてきた。
……この時、喉の奥まで飲み込まれていたのは亀頭の雁首ほど迄で、それでも口内に入っているのは全体の六、七割だ。
そして外と内の境界に位置している三割の部分に何があるのかといえば、彼女の歯。牙。毒牙。
痛みは一瞬。
それを掻き消して余りある新たな感覚情報に、神経が焼き切れるような思いを持つ。
更にダメ押しとでも言わんばかりに、ギぅ……と喉が締められ、ズゾゾゾゾッ…と強烈なバキュームを入れられる。
こらえてなどいられる筈がない、たまらず俺は吸われるがままに彼女の喉の奥深くへとドロリとした欲望を吐き落としてしまっていた。
「っ…く、は…」
「ふわ…んん、ああ……おいしい…! 美味しいです!
すっごく濃くって、ドロ〜っとしてて……喉の奥から香りが登ってきちゃいます♥」
射精したばかりの男根を、愛おしそうに緩々と舌でねぶりながら引き出して、尿道に残った僅かな分まで口の中にこそぎ出される。
彼女はそうして口に含んだ精液を、口をおおきく開いて見せつけるようにしながら、舌先で丸く舐めるように少しずつ少しずつ……大事そうに愛おしげに嚥下していった。
魅せつけられたその様はひどく淫卑で扇情的で、出したばかりだというのに愚息は再び大きく固く膨らんでいた。
「ねぇ旦那さま…旦那さまぁ……! 旦那さまも、もっと、も〜っと…シて欲しいですか…?
欲しいですよね、だって出したばかりだというのに、こんなにも固く凝らせているのですもの……だけど大丈夫です、今度はこっち…下のお口に、ちゃ〜んと入れて……んっ、…何度だって出させてあげますから」
甘えるような声で彼女が言った。
声も目も表情も、どれもこれもが甘く蕩けてドロドロと定まらない。
腰を突き出すようにして見せ付けてきたのは、彼女の秘部。
そこは先程の自慰のためであろう、てらてらと妖しく湿っていた。
陰核は包皮を押し上げてピンと立ち上がり、淫唇はヒクヒクと物欲しげに蠢いていた。
その淫唇を彼女は自らの指で押し広げ、その刺激に甘い吐息を零しながら、腰をくねらせて俺を誘う。
俺が生唾を飲む音が、どこか遠くで大きく響いた。
「ええ、ええ…満足させてさしあげます。
何度でも…何度でも……これから先、旦那さまの人生はず〜っとわたしと一緒です。ずっと一緒に暮らして、ずっと同じものを食べて、ずっと気持ちよくなって……わたしは何度も何度もこの中に旦那さまの子種を頂くんです。
良いですよね…? それで良いですよね? だってそんな幸せ、他にありませんもの。旦那さまの幸せは、わたしといること唯一ただそれだけですもの……♥」
情欲に狂った声が耳元で響く。
気づかぬ内に女は、呼吸も擦れ合うほど俺を抱き寄せていた。
耳たぶを濡らすその声はひどく熱い。そして甘い。
……そこでようやく、ようやく俺は気づいた。
ああ、なんだ。 両手は別に自由に使えるんじゃあないか
全くようやく。
全体、そもそもどうして気付かなかったのだろう?
こんなにも可愛らしい女が尽くしてくれるというのだ。
こんなにも可愛らしく俺を誘っているというのに。
一体、俺は今まで何をしていたのだ?
気づけたならば、後は難しくなかった。
抱きついて、耳元に顔を寄せている彼女は気づいていない。
その長い髪に隠れた小さな耳に、俺の唇が触れる。
「ひゃうッ!? はひ…それ…ダ、メぇ♥」
触れたのは一瞬。
その一瞬が隙を作って、容易く彼女の肢体を俺の腕の内に収められる。
彼女が何か言ったような気もするが気にしない。気にならない。
逃げようとする彼女の頭と、それから腰とを手で押さえてしまう。
そうして今度はこちらから彼女をしっかりと抱きしめる。
眼の前にあるのは、宵越しの空と同じ色をした彼女の瞳。
唇は鞠のように柔らかなモノに触れ、俺はそれを舌先で押し割っていく。
驚きに見開かれていた彼女の瞳は、その時にギュッと硬く閉じられてしまった。
勿体ないなとは思ったが、しかしそれについては今はそれほど気にならない。気にしていられない。
柔らかな蕾を押し開けて、その後には固い門が待っているかと思っていたが……意外なことにもソレは無かった。
いや、考えてみれば当然か。彼女の常々の言動を顧みれば、どうしてだかは知ったこっちゃないが、こんな男の口付けを拒む理由をどうも向こうは持っていないらしい。
理由は知らんが、そういう事ならば堪能させてもらうだけだ。
まずは歯の、歯茎の裏の上顎側。
皮が突っ張ってシワが出来ている場所をなぞる。
舌先だけを平たく使って、匙で引っ掻くような塩梅で2度3度……
このくすぐりが効いたのか、彼女の身体が小さく震えたのを両腕で感じる。
向こうの舌は奥のほうに縮こまって逃げてしまっている。
ならば代わりに表に出ている下歯茎、舌の裏側を舐め上げる。
芯のある熱い肉壁を、唾液の溜まる柔らかな肉を、細く伸ばした舌先でチョンチョンと掻いていく。
……などとしている内に、なぜか俺の方が体の火照りを感じ始めた。
ああ、そうか。唾液にも毒が入ってるのか
また忘れていた当然のことを、今更に思い出す。
それとほぼ同じくして、舌先が彼女の犬歯に触れた。
まだ俺の血で塩と鉄の味をさせた、鋭く尖った歯だ。
そこから滲み出る毒液が、時間の経過と一度の射精で薄れていた身体の熱を再び立ち上らせる。
熱い。熱い。熱い……
熱く、痛い。疼くような、爛れるような、痒みにも似た、痛み。
しかし痛みと快楽は程度の違いであり、等価だ。
身を焼き苛む熱と痛みと快楽に、眉根が寄って表情を崩れる。
どうにかそれに耐えながら、彼女の口腔を舐めくすぐり続ける。
数十秒もそれを続けて、息も辛くなり始めた所で、ようやく彼女の舌へと触れる。
相変わらず奥に隠れようと縮こまる……まるで大石をどけた後にいる蟲のよう……その舌を捉えて、舌先を絡める。
毒混じりの彼女の唾液で濡れたその舌に、他人の俺の粘液を塗りつける。
左へ右へ…表へ裏へと舌先を遊ばせていると、次第に彼女からも舌を動かしてくるようになっていた。
その動きは、さきほど俺を口だけで射精に追い込んだとは思えもしないほど拙い動きで、精々がこちらに合わせて舌先をチラホラと動かす程度。
試しに、ずずずっと唾液ごと舌を啜りあげて、こちらの口の中まで引っ張り上げる。
これも特に抵抗なく成功して、引き寄せられてからハッとして引き戻そうとしたくらいだ。
まったく……つまらない
当然、そんな戻るなどという動きを許しておくわけも無し。
甘噛みして舌を捕まえて、逃げられなくなった舌を徹底的に弄ぶ。
そう…先程俺がやられたように、舌の縁をつつくようにくすぐっていく。
口が塞がっているのだから、呼吸はもちろん鼻からする事になる。
それはお互い同じであるが、気恥ずかしいのか彼女のそれは遠慮がちだった。
次第に息は熱く荒くなっていったのだが、どうもそれは息苦しさだけでは無いようだと気付く。
舌先の遊びを進めている内に、目に見えて彼女の表情はより甘くとろけていった。
目もいつからか…そう、彼女も舌先を絡めるようになった辺りから…開かれていて、その瞳は焦点も上手く定められていない様子だった。
完全に欲情した風の様子だった。
試しに、背に回した手で背筋の線上を触れるか触れないかの表層で撫で上げると、たったそれだけでビクン、と過敏に過ぎる反応を示した。
しかしそのお返しとばかりに、彼女の細い指が、俺の腹の上でくるりと円を描くと、俺もまた腰が砕けたようになって、膝を笑わせてしまう。
そんなようなやり取りを二度、三度と繰り返す。
尻に手のひらを這わせ、脇腹を指先でくすぐり、うなじの産毛を逆立てるように撫で上げた。
繰り返す内に「ああ、なるほど…俺達は今同じなのか……」と、気付いていった。
毒が回っているのだ。淫毒に侵されているのだ。犯すよりも先に、淫らな毒に侵蝕を受けているのだ。
俺も、どういうわけか彼女も。
……今は理由など、どうでもいい。
いよいよ溺れた小鹿のようになる彼女の呼吸。
さすがに見るに見かねて、こちらから唇を離す。
自由になった口を使って、ぜぇはぁ…と深い息。
彼女の二本の腕は、どちらも俺の背をがっちりと掴まえていた。
そればかりか二人分の体ごと、長い蟲の体躯が巻き上げている。
蟲の節足まで俺を掴んで、そろそろ本気で身動きが取れない。
それでも片腕と、かろうじてながら腰周りの関節は動かせた。
動かせる方の腕……彼女の腰辺りへと回していた腕を前に戻して、彼女の秘部を人差し指でなぞる。
「挿入れてもいいんだったか?」
問いかけに、言葉での回答はない。
しかし彼女の手が俺の手の下に重ねられて、二本の指が淫唇を開いたことは、十分にすぎる答えだろう。
それに応え、俺も自身のモノの根本を押さえて、彼女が押し開く肉門に位置を合わせる。
互いに十分に動くことの出来ない状況、少しずつ微調整して合わせたそこに、俺はゆっくりと腰を沈ませていく。
「ふぁ……ぅ…、んっ!」
途中、一枚の薄い遮りが邪魔をした。
そこに至って、俺が微かに逡巡した。
しかし彼女の方から腰を落として、それはあっさりと破られてしまう。
明らかに痛みの色の方が濃い彼女の声に、俺は眉根を上げた。
だが彼女の方は、唇を噛み締めながら首を左右に大きく振って、眉間に一本のしわを寄せながらも、濡れた瞳で俺の方へと微笑みかける。
逸物は愛液の潤滑に血のヌメリが加わって、ずるりと膣道の奥まで滑り込み、子宮口をコツンと叩いた。
そのまま、彼女は自分から腰を振ろうとする。
まだ破瓜血も止まっておらず、まだ彼女の表情には隠し切れぬ苦痛が滲んでいる。
毒に侵されていようと、明らかにまだ早すぎる。
「まだ動くのはよせ」
言葉で制しても、彼女は辛そうな顔のまま首を横に振るばかり。
ならばせめて…と、自由になる片手で彼女の手のひらを包みこむ。
驚いたのか指先がパッと広がって……その後すぐに、その指を俺の手ヘ絡めてきた。
破瓜血をトクトクと流しながら、腰を動かすのは止めようとしない。
ならば俺も、敢えて止まっていようとは思わない。精々この極上の女の躰を、貪るように堪能するだけだ。
一体何がそこまで彼女を駆り立てているのか…?
心当たりはまるで無い。自分で言うのもなんだが、妖怪助けをした経験はまるで無い。全くない。
断言しよう。悲しいかな断言できる。妖怪から恩を感じられるようなことをした覚えはまっったく、無い。
……まあ、そもそもが妖連中ってのが元からこんな様な性だってのが一番ありそうな話だ。
よく聞くことでもあるしな。
「んっ…、くっ、ふ…ぐ、ぁう……ん……どう、ですか…?」
「ああ…。っつ、中々…や、かなり、具合がいい…」
彼女は腰を打ち付けるように、俺は内壁を擦るように、それぞれ違う動きで同じように互いを貪る。
ピストンの深みを彼女が変えて、打ち入れる角度を俺が変える。
二つの動きで歯車を合わせて何物にも代えがたい法悦を生む。
熱くぬめる、硬くとも締め付けの強い膣の中。
毒が視覚が触覚が聴覚が嗅覚が味覚が、全ての要素を組み合わせて、かつてない悦楽に脳が焼けるような感覚を味わう。
今日何度目かもわからない異形の快楽の中で、本日二度目の感覚に背骨の髄液がすすられたような心地を得る。
「出す。…膣内で出すぞ!」
「あ…、ふ、ふぁい! …はい! 出して……いっぱい…、…全部、出してくだひゃい♥」
問答は短く済んだ。
しかしその後の射精は、長い。
一度目の比ではないほど大量で濃い精液を、彼女の膣道深くで放っていた。
おそらくはこれも毒の影響か……はたまた単に、快楽が強すぎたためか。
いずれにせよ、その心地よさは何もかもを緩めて押し流してしまう。
ぎゅっと結んでいた手も半ばまで解かれていて、手のひらを合わせて指と指がかすかに絡んでいる程度。
二人の身体をぐるぐると巻き上げていた蜈蚣の躰も緩んでいて、俺の足も長らくぶりに地面を踏みしめるに至った。
男の余韻は早く過ぎ、女の余韻は長く続く。
一足先に開放と脱力の感から抜けだした俺は、しかしまだ物足りなさを感じていた。
理由……という程の確かなものはないが、それの一欠片になった事はある。
「なんつー無茶すんだ、お前は……結局痛み、引かなかっただろ?」
「…だって、ん…ッ、せっかく旦那さまが……わたしを頂いてくれるというのに……わたしの痛みなんて些細なこと、ふぁ…ん…、思慮にも入れることじゃない…です……」
「俺が気になんだっての。どれ見せてみろ」
言って、彼女の下腹へ顔を寄せる。
蜈蚣の長い身体のせいで背丈は向こうのほうが圧倒的に高い。
抱え上げられていたような体勢だったさっきまでと違って、互いに地面に立っている今なら、こちらが立ち膝をついて、ちょうど真正面に彼女の下腹がくるくらいの身長差だった。
そうして見えるのは、ぐちゃぐちゃに濡れた彼女の秘部。
サーモンピンクに充血した小陰唇を指先で一撫でして、さきほど彼女がしたように二本の指で割り裂く。
そうして見えるのは、愛液と精液の二種の白色に、血の赤みが加わった粘液がどろどろと奥から溢れでてくる肉の洞。これ以上なく、とびっきりに淫卑な場所。
敏感な秘肉が外気に触れたせいだろう、切なげに高く高くトんだ声が頭上から奏でられた。
俺はそのザマに口元を歪めて、彼女の腰を抱き寄せるようにとびっきりの口付けをしてやった。
「ひゃ……や、まだイったばっかりで…敏感で……ひゃぅあ…んんッ!!」
ビクビクと、彼女の腰が跳ねる。
構わず、両手を使って押さえつけ、溢れる蜜を啜り上げる。
口の中に広がるのは、鉄と塩と毒の味……苦く、喉の奥にエグ味が残る。
だがそれは甘美だ。この味こそがなによりも甘美、何物をも押しのけて味わい尽くさんと思わせる甘美……それは酒のような中毒を持っていた。
その味わいを唾液と共に啜り上げ、ぐじゅじゅぐゅ……と、名状しがたい擬音を立てる。
吸い上げて、続けて今度は舌を差し入れる。
ドロドロと蜜を溢れさせる膣の入り口を、ぐるりぐるりとなぞるように舐めあげる。
更にその穴の中へと舌先を差し入れたり、時にそこから離れ、鍵穴のようなもう一つの小さな孔を舌で撫で上げて……まるで子どもの迷路遊びのように、ただ気の向くままに舌を進ませた。
上から聞こえてくる声は次第に熱く、大きく、切なく甘く……
次第に声にもならない音へと溶けて崩れていく。
そろそろ頃合いだろう、いつの間にやら蜜の味から鉄の風味が薄れていた。
俺は淫唇から口を離して、それからゆっくりと舌を引き抜いていく。
どろぉり…と糸を引く粘液が珠を作って地に落ちる。
「…ふぇ…あ、っん……ヤめ、ちゃうんです…か……? は、ふぅ…んん〜♥」
怪訝に、切なげに、物欲しげに紡がれた彼女の言葉を遮って、秘部にあてがっていた指を内へと滑りこませる。
そうして二本の指でぐるぐると、グツグツと、白く泡立てるようにランダムにかき回す。
それと一緒に、俺は顔を少しずつ上げていって、複雑な模様の刺青が差された彼女の腹を、犬のようにベロベロと舐めくすぐる。
すると彼女は、今までに無いほどに淫らに酔った声を上げた。
どうしたことかと訝しむが、すぐに素肌と刺青の上とでの微妙な舌触りの違いに気づく。
刺青の模様の上は、少しだけ固くしこりになっていた。肩や腰などのコリと似たような物か。
良くはわからないが、そのしこりを舌でほぐされると彼女はひどくよがり狂ってくれるらしい。
なら、それを放って置く道理はない。
「ひゃ…ぅ、ひ、あ……や、ら…ぅう、…どくせ、ばっかり舐めひゃ……ひやぅ〜!」
何を言っているのか分わからない。
よがっているのは分かる。
なら十分。
続ける。
脇腹に唇を這わせ、赤紫のしこりをなぞるように再び下へ。
細く枝分かれする模様の先まで余さず舐め下ろし、下へ下へ……そうしている内に、人肌と蟲殻の境界に触れた。
どうなっているのか少し気になっていたので、舌と歯でつついてみる。
継ぎ目の所をカリカリと探る。どうも肉の上にしっかりとくっついてらしく、カサブタの継ぎ目と同じような感触だった。
「ん…ゃ、くすぐっ…た………へ? ふぁ、あ…ぃや…そこ、は……んぁああ…!」
抑え切れない声で彼女は笑い、俺を引き離そうと二本の腕で俺の肩を押し突いてくる。
それにも構わず、俺は甲殻の縁を舐めながら身体の前へ舌をすすめる。
下腹部は紋の始点となる位置で、他のどこよりも赤紫の模様が密集している場所だ。
それだけ悦びも強いのだろう、一度は言語に戻っていた声がまたすぐに単なる鳴き声に戻ってしまっていた。
その声があまりにも可愛らしく、子どものような抵抗をする彼女が愛おしくて、つい悪戯心が出てしまう。
舌先を、俺が手で弄り続けるそこへ向ける。指を挿し入れた膣道ではなく、その上……ぷっくりと充血して膨らんだ陰核。
自分から包皮を脱いで外に飛び出ていたソレを、門歯で軽く甘噛みする。
「〜〜〜ッッッ!」
大きく声が跳ねる。
同時、彼女の手に力がこもって、俺の肩が強く掴まれる。
妖の力で肩を握り締められて、少なくない苦痛が両肩を襲う。
鬱血してしまいそうなその痛みは何とかこらえながら、しかしその反動で、秘所をかき回していた指が引きつり、彼女の内を爪を立てて引っ掻いてしまう。
それもまた彼女には快楽として受け入れられたらしい。
「ふ…は、ひぅ……は、ひゅ…」
ぷしゅ…ぷしゅ〜……と、彼女の尿道が透明の潮を吹き出した。
その熱い液体は俺の顔にもろにかぶって、危うく溺れそうになってしまう。
彼女の方は強い絶頂でぐったりと体全体を弛緩させて、口笛にも似た、ヒュゥヒュゥという息をしていた。
力が抜けて地に倒れそうになった彼女の身体を、いつだったか俺がされたように今度はこちらが支えてやる。
肉付きの薄い体であるし、体重の半分は彼女の蟲の体が支えてくれている。
大した重さは感じもない。ただ心地良い柔らかさと、体温。そして早鐘を打ち続ける心臓の音とを感じるばかりだ。
重くはないが、しかし立ち膝をしつづけるのは流石に辛い。
背もたれにしようと手頃な樹の幹を探していると、彼女が蟲の体を回してくれた。
どうやら俺の身体はそれに預けろという事らしい。
それに甘えさせてもらって腰を降ろすと、節足が俺の腿をがっちり捕まえてきた。
逃がさない…いや、誰にも渡さないとでも言いたげな仕草だ。
すぐ目の前にある彼女の瞳に嫉妬の緑が見えた気がした。
やれやれ、これは……なんとも可愛らしい
眼の前にあるのは女の首筋。
俺を旦那と慕う、可愛らしくて仕方がない少女の肌。
愛おしくてたまらない彼女のその白く細い肩に、また唇を寄せる。
ただし今度は趣向を変えて……舐めるのではなく、齧り、啜る。
柔らかな肉を口に含み、犬歯まで使って強く噛み付く。だが出血させる程の力は込めない。
強く押さえ、捕まえて、痛みを感じさせるほど締め付ける。
そうして口腔に収まった肉を、じゅずじゅずゅ…と唾液と共に吸い上げる。
長く、長く……息の続く限り吸っては、鼻から息を吐いて、また啜り上げる。
そうして数十秒。
口を離すと、白かった肌は鬱血していて、赤い斑点がポツポツと浮かんでいる。
その上を指先で撫でると、ほんの小さく彼女の肩が震える。わずかながら肌が敏感になっているのだ。
人である俺でも使える、彼女と同じように噛み付いて使う淫毒。
これが世に言うキスマーク。
時に言われるその名を、所有刻印。
強く付ければ数日間はもつ物だから、情事の跡として長く、生々しく残る。
だからこいつのある女は、そういう関係の男がいるって証になる。
店先に並べられる商品についた売約済みの札と同じようなもんだ。
「あ…はッ、ふ……嬉しいです…旦那さま
わたし……旦那さまのモノで、良いんですね?
ずっと…ず〜っと、一緒にいてもいいんですね?」
「俺はお前の物なんだろう?」
今の口づけの意味は、彼女も知っていたのだろう。
陰気な顔を少しばかり明るくして、彼女は俺に頬ずりしながらそう尋ねてきた。
……尋ねてはいたが、やはり俺の答えは待っていない類の問いかけか。
それでも俺は、腰に絡められている彼女の足を指さしてそう答える。
「ありがとうございます旦那さま……んっ、ふ…わたし、貴方が大好きです。だから、ずっとずっと、一緒に生きて行きましょう……?」
彼女は俺の耳元に口を寄せてそう言った。
まるで幸福の絶頂にいるかのような甘ったるく弾んだ声。
そして彼女は、先ほど俺が彼女に印をつけた同じ場所を狙いすまして、首飾りのようなもう一つの口で毒牙を付き立てた。
「ッ…」
再び流し込まれる熱い毒。
まるで慣れないその快感に気をやりそうになる。
俺はそれに必死で耐えるて、まだ脱力して体重を俺に預けていた彼女の上体を押し倒した。
驚いたのか腰回りの拘束が少しだけ緩む。
それに乗じて、彼女のヒトカタの体に折り重なるように身体を倒す。
両の手のひらを合わせて指を絡め、そのまま地面の上に押し付ける。
そうして抵抗できないようにして、俺は彼女に囁きかけるように問いかけた。
それはきっと……そう、彼女がするような答えを待たない類のもの。
「もう一度…構わないか?
さっきは痛かったんだろう。
そろそろ、ほぐれてるんじゃないか?」
「は…ふ……はい、はい! もちろんです!
……わたしは、もう、旦那さまのモノですから…♪」
名詞のない俺の言葉を、しかし彼女は察してくれた。
気恥ずかしそうに頬を染めながらも、確かな喜びを含んだ声で肯定する。
甘く蕩けて涙に潤んだ紫の瞳、桜よりも桃よりも淡く確かに色づいた頬……口の端には、先ほどの口付けの残滓だろう、泡だって白くなった唾液が見える。
とびっきりに淫らに歪んだ可愛らしい顔。…うん、好みだ。
少しずつ位置を調整して、十分過ぎるほど準備を整えた互いの性器を合わせていく。
ようやくぴたりと合わせられたそれを少しずつ沈めていく……
どちらともなく唇が合わせられ、互いを毒し合っていた。
「んあ?」
「ああ……起きたのですか。 済みません…あと少し、もう少しだけお待ちくださいませ……
すぐに終わりますから、じっとして下さいね……わたしの、愛しい旦那さま?」
というか、マズイものに捕まっていた。
大蜈蚣。
旧い時代においては神とも語られた強大な存在であり、神話における強力な敵役。
妖どもが概ね人間に友好的になった現在においても「怪物」と認識される危険な存在。
現在の俺の状況はすこぶる危険だ。
辺りはまるで見覚えのない林の中で、人の気配一つなくひっそりとしている。
既に数箇所ほど「噛み付かれ」て、痛みと見紛うような快楽に身を焼かれている。
蜈蚣の毒は長く残るという。ついで、脹脛の辺りでその節足の無数についた胴を巻きつけられている。
ここから逃げるのは至難……いや、もはや不可能。
あとは搾り尽くされるなり何処ぞの山奥に連れ去られるなり、碌な事にはなるまい。
命運尽きた。後はこのまま誰にも知られず朽ちるのだろう。
まあ、こんなチンピラ男の末路としては妥当な方か。
……まあ、それは別にして。
とりあえず魔物であるから、別嬪さんな事に間違いはない。
黒い羽織を纏っただけで惜しげもなく晒しているその肌は、まるで陽の光を知らないかのように白い。
そこに走る、刺青のような赤紫が強く目についた。
足に当たるべき場所には、太刀を用いてすら捌けそうにない堅牢な甲殻に覆われた禍々しい蜈蚣の躰がある。
しかし人と同じ形をした女の上体はそれとはまるで対照的で、出るところも出ていない、抱けば砕けてしまいそうなほど細く、華奢だった。
不釣り合いに思える要素が複雑に絡んで、それら全てが女の魅力を滲み出させている。
表情はオドオドとして、形の良い眉はハの字型に少しだけ眉間によっている。
その憂いを帯びた表貌を簾掛けの向こうに隠す長い髪は、されど細く。些細な表情の変化を見て取るには十分だ。
陰気で恥じらいの強そうな所作。被虐嗜好を見せ付けるような顔をするくせ、逃げられぬように俺を捕らえ、首に肩に脇腹にと牙を突き入れていく容赦のないその様子はヒドく嗜虐的だ。
表情や態度ではない。醸し出す雰囲気と場に淀む空気によるモノである。これは実に高得点。
うむ。好みだ。
いや、そうじゃなくてな?
「はむ……ん、ふっ……っ、はあ♥
んっあ、はい……終わりましたよ? 旦那さま♥」
「ん? あ、っつ…あ〜、ご苦労さん……?」
「いえいえ、これも全ては旦那さまが気持ちよ〜くなって頂くため……お礼には及びません。
ああ、そうです旦那さま、子どもは何人欲しいですか? わたし達は力が強い方の妖ですので、そんなに子どもが出来ないんですけれど……ああ、だけど、旦那さまがお望みになるのでしたら、きっと10人でも20人でも………」
「ああ……いや、1人か2人でいいさ」
いやいや、待て。そうじゃないだう俺。
寝起き頭と、毒が回ってるせいで今ひとつシャンとしない。
頭がボーッとして……というか、頭の考えに体の方がついて来ない。
「そうですか! ああ、よかった…♪ 旦那さまも、わたしと子作り…したかったんですね?
ああん…嬉しいです! …あぅ、ん…つはぁ……おなかが、キュゥってしちゃいました……♥
こんな気持ち、はじめてです……やっぱり、わたしと旦那さまはぁ…、きっと、運命に結ばれた仲だったんですね…!!」
「そっかあ……よかったなぁ」
「はい…♪」
いやいやいや、マテコラおい俺。
違うだろう。いや、そこは違うだろう。
というかいい加減ツッコめよ、ツッコミ待ちだろう。
完全にコレ、明らかにツッコマないとダメな流れだろうコレ。
「……その『旦那さま』ってのは、何だ?」
よーし、言った。よく言った。
よくやったぞ、俺。快感に耐えてよく言った。感動した!
その調子で次、ビシバシと言っていこうか。
大丈夫、突っ込みどころは多すぎるほどある。
「旦那さまはぁ……わたしの旦那さまだから、旦那さまなんです♥
ああ…旦那さま。マラを御拝見させて頂いても……?」
「そうかあ……ああ、うん、構わん」
おい、こら俺〜〜!!!
いや、アンタもアンタだ! 少しはその回答に疑問を持て!
そして嬉々として俺の帯を解いてるんじゃない!
何だその上気した頬と、僅かな躊躇いを見せる目は。
可愛いな、ちくしょう。チューしちゃうぞ!?
「ふぁ…すっごく濃いにおい……これだけで酔ってしまいそう…♥
ねえ、旦那さま? 最初の一回は、手の中と、お口の中と、わたしの膣内と……どこで出すのがお好きでしょうか?
いえ、はい…わたしは旦那さまの最愛の人ですもの、どこであってもきっと旦那さまは満足して頂けるでしょうけれども……ほら、初めて二人が交わるのなら、やっぱり最高の快楽で2人一緒に堕ちて行ってしまいたいじゃないですか……だから、 さいしょは、わたしに任せてください♪ ね?」
いや、おかしいだろ今のセリフ!?
最初尋ねてたのが言ってる内に選択肢ゼロになってるじゃねえかよ!
というか何時の間にアンタは俺の最愛の人になってんだ?
いや、いねえけど。女の知己なんざもういねえけどさ。
どうせ女っ気の無い男ですよコンチクショー!
そもそもが、旦那さま旦那さまって俺はアンタのことすら知らんわ!?
……ああ、もうダメだこりゃ。
いっぺん落ち着こう。いや、落ち着くのは無理だとして
リラックスって奴だ。深呼吸……は、しなくて良いか。
素数を数えよう。1,3,5,7,9,11……出だしから間違ってるっての。
「ん…は、っふ、はぁ………んんっ、…ちゅ」
そうこうしている内に、蜈蚣女は俺の股間にしゃぶりついていた。
いや…しゃぶるよりは、ねぶるの方が正しいか。
片手で陰嚢を揉みほぐしながら、半萎えの俺のモノをもう片方の手で持ち上げて、舌で竿の付け根のあたりからカリ首の裏側まで。
いっぱいに伸ばされた赤い舌が、時に舌先で線を引く様にくすぐり、時に全体でベタリと這う様に往復していく。
女の冷ややかに濡れた舌が素肌に触れた瞬間、背筋に得も言えぬものが走った。
その一瞬、背骨の力が抜けて、支えのない俺の上体は倒れかけた……が、女の蜈蚣の半身が背もたれとなって俺を受け止める。
俺はそのまま楽な体勢で、女の与える亀頭にも裏筋にも触れない緩い刺激を甘受していた。
音も立てず、ただベタベタと女は舌を動かし続ける。
それはまるで、単に竿を湿らすだけのような舌の動き。
しかし毒の回った俺の身体には十分な刺激だったらしく、ムクムクと見る間に愚息は膨らんでいった。
くすぐり、這わせ、這い上がり、まっすぐ下ろされ、そのまま上り、左右にゆらゆらと揺れながら這い降りる。
その三巡で、半萎えだったモノは、完全に芯の通った状態にまでなっていた。
「んっふ…大きくなってきましたね……けど、まだまだ。 これからが本番ですよ…♥」
さも嬉しそうにそう言って、女は自身の上体を俺へと摺り寄せた。
腰に手を回して抱きつくように、猫一匹潜り込む隙間もないほど身体を密着させてくる。
いきり立っていた愚息はその合間に挟まれ、その位置にはちょうど女の胸が来ていた。
女は腰をくねらせるようにして上半身をゆすって、薄いが確かな膨らみと柔らかさを持った胸の合間にある俺のモノに刺激を与えていく。
くの字に曲がって突き出され、ゆらゆらと揺れる肉付きの薄い尻と。背中に水に溶かした墨のように広がっている女の長い髪とが、俺の位置からだとはっきりと見える。中々に絶景だ。
先程からそうなのだが、女はおっかなそうに目をつむりながらこれらの行為をしていて、時折伺うような上目遣いを俺に向けてきていた事もここに加えておく
先ほどまで竿をあの手この手でねぶっていた舌は、今度は俺の鳩尾のあたりをチロチロと舐めていた。
そうして貯められた唾液は重力に従って、その下でギュウギュウと挟み潰されていた亀頭を濡らす。
それを狙っているのか、はたまた単純に甘えているのかは分からない。女は、ただただ愛おしそうな表情で、俺の体を舐め続けていた。
……ああ、そういえば。昔いた、気の合う野良猫が、同じように俺の腹を舐め回していたっけか。
はて、あいつは今頃どうしているやら……
「むぅ……」
カリッ
「痛った……ッ!?」
女の、首飾りのような蟲の口器が俺の下腹に牙を立てた。
微かに血が滲み、鋭い痛みが背骨まで一瞬に駆け上り、即座に別の感覚情報に刷り変わる。
今度のは位置もあり、文字通り腰の抜けるような快楽に足腰から力が抜けて、代わりに股間のモノが熱と硬さを持った。
いきり立つそれは、女の柔らかい肌をグイグイと押して、女はそれに応えるように自らの柔肌を押しつけ、なすり付ける。
いよいよ他の何でもなく快楽を感じ始めて、気づかぬ内に俺自身も腰を浮かせ、擦りつけるように動かしていた。
その様子を見て取って、女はにんまりと愛おしそうな笑みを陰気な表情の上に形作る。
そうして女は、次第に責め立てる動きを激しくしていった。
胸の谷間を使って前後させていたのが、次第に乳房や乳頭を押し当てるような動きに変わる。
なだらかで柔らかい起伏を通る度に女の唾液と先走りに濡れた亀頭が、ぷくりと膨らんだ乳首にコツコツとぶつかった。
時に女は器用に上体をくねらせて、乳首を鈴口に押し当て、潜りこませるような真似までしてきた。
これはむしろ女が自身で快楽を得るための動きだろう。
切なげに押し殺した吐息が腹に当たる。
時折こちらを見上げてくる顔は、情欲の色をより濃くしていた。
最初に見た時の病的な白さがウソのように血の巡りのいい顔をしている。
半ば伏せられた目は、トロリと甘くとろけるような視線を俺へと向けている。
それはひどく愛おしげで、先程から女がそう言っていた通り、生涯の伴侶と慕うものへ向けるような目だ。
情欲に酔ったその顔は、たぶん俺の方でも同じようなもの。
毒が巡ってきているのだろう、皮膚が泡立ち沸騰するような感覚がひっきりなしに身を苛む。
まるで湧き水か何かのように溢れてくる性欲が、目の前の女をやたらと愛おしく見せていた。
「はぁ……ぅ、ん…♪ ね、…どう、ですか…旦那さま?
気持ちいですか? 気持ちよくなってくれていますか? わたしは気持ちいいですよ……だって、旦那さまの熱っつ〜いのが、モグモグってわたしの胸を優しく愛撫してくれているんですもの。
旦那さまも気持ちいいですよね。気持よくなっていますよね。ふふ……ああ、嬉しい。嬉しいです。とっても、と〜っても♥
……だけど、まだまだ、これからですからね?」
甘ったるい声を出して女が言う。
相変わらず疑問形の口調のくせに、俺の回答を求めていない。
言い終えた女は、ぎゅ〜っと腰に回した手に力を込めて強く抱きしめ、自分の唾液で濡れた俺の腹へと頬ずりをした。
たっぷり数十秒はそうしていて、否応にも素肌に女の体温が伝わってくる。
そうしてそれが終わると、女は最初の時と同じくらいの距離まで身体を離した。
しかし俺の方は最初と違って大蜈蚣の躰を背もたれに倒れているので、先ほどでは俺を見上げていた女と、まっすぐに目線を合わせられるくらいになっている。
「ふぁ…やっぱりおっきいです♥
それじゃあ、さいしょはお口で出しますね、旦那さま……?」
圧迫していた物がなくなって、女の体で押しつぶされていた肉棒が立ち上がっている。
何の支えもなくとも真っ直ぐに屹立するそれに片手を添え、もう片方の手は自分の顔にかかる髪をかき分けて、女が俺のモノを咥えこんだ。
女の口に含まれたのは亀頭だけ。
しかし、舌だけで竿ばかりを舐めていた先程とはモノも質も違う。
熱い、ただひたすらに熱い、唾液。固く充血して熱を持った俺のそれよりも更に熱い口腔内のナマの体温。
何の遮りもなしに伝わってくる女の体温と毒混じりの唾液。
それに触れた、ただそれだけで腰が跳ねた。
急に口の中で跳ねたそれを、しかし女は何てこともない風に舌で制して、そのまま亀頭を平たく伸ばした舌で包み込む。
裏筋から鈴口までを、まず形を確かめるように一舐め。
伸ばした舌先でつつきながら雁首を縁取るように一周。
そんな愛おしみ、くすぐるような動きから一転、急に女はペースを早める。
くちゅ……と竿の半ばまで口の中へ入れて、舌は亀頭に巻きつけるように絡める。
絡めた舌は亀頭をねぶり、全体は頭そのものを動かすようにして刺激されていく。
時に内頬の粘膜と柔らかさを、時に打って変わった歯の側面まで使われて、痛みにも近いような強い刺激が加えられていった。
硬軟の快楽を混ぜ込めた積極的な責め。
ぞくぞくと背筋にくる、べっとりとした快楽。
それに耐えていると、ふとして女と目が合った。
女の送る、伺うようなオドオドとした上目遣いの視線。
やたらと自信なさ気なその所作は、どうにも彼女の印象をチグハグとさせている。
そして目があった際に気付いたのだが、竿の根本を押さえていた手がいつの間にかのけられていた。
どこに行ったのか…と探してみると、手は女の体の側へ伸びていた。
肘の辺りから先は女体の胴の影に隠れているが、行き先を推測するに手は下腹のあたりだろう。
それに気づけば、くちゅくちゅと響いていた水音が、一箇所からだけ立っているのでは無いと知れる。
多少「遠く」から聞こえる方の濡れ音が、細かく早くなっていく。
それに合わせて女の顔も赤らみが増し、亀頭に当たる吐息も、次第に熱くなっていった。
目は相変わらずおっかなびっくりに閉じられているが、時折開くそれは蜂蜜漬けのように甘く潤んで、増しに増した情欲の火にあぶられたように蕩けていた。ハの字眉も切なそうに揺れている。
責めらているのは俺だというのに。
手馴れた娼婦もかくやと言わんばかりの技巧を持って、一心不乱にちんぽをシャブっているクセして。
そんなドのつく淫乱女が、自分の手淫一つで切なそうな顔して必死に……それこそ初心な少女のように必死で快楽をこらえている。
……それはいよいよ滑稽で、笑ってしまうほど滑稽で、俺は自分が圧倒的な不利に立っていることも忘れていた。
喉の奥にくつくつと笑みが溜まる。
そいつは次から次へと溢れていって、隠し通せず口からこぼれて出て行ってしまう。
流石にそれは女に気づかれて、怪訝そうな目を向けられた。
その目が俺の視線を追っていって、そいつで俺が何を見ているのか、自分が何を見られているのかを察したらしい。
元から情欲で真っ赤に染まっていたその顔が、それこそ火でも灯したような色で羞恥の心情を顔いっぱいに映し出していた。
その様子もまた、俺の笑いに薪木をくべる。
「ん、ぅ……むぅ。わらふひゃんへ、ひろいれふ…」
もごもごと口を動かして女が言う。
何と言っていたかは分からないが、どこか怒っているようであるのは分かる。
しかしその怒りは根底に照れがあるのが分かるようなもので、口淫の最中で無かったならばプイっと顔を背けでもしそうなものだった。
それは素直に、彼女を可愛らしいと思える仕草だ。
しかし、そうこうしている内にも女の責めは微塵も揺るがない。
むしろ怒りやら仕返しのつもりなのか、より強く激しいものに変わりつつあった。
少女らしい性格は顔と仕草にしか出さないようだ。
口の中で弄ばれる性器は少しずつ奥へと誘い込まれ、飲み込まれていく。
そうして遂に、亀頭は口腔の最奥、喉の入り口近くの柔肉へと至り、少しずつ角度を変えて二度三度とそこへと擦りつけられる。
そこは骨の通っていない柔らかな肉の感触を持っており、また口腔内でありながら温度が低く、冷たいとすら思える部位だ。
今まで熱に慣らされていた所へと与えられるその冷気は、ピリッという驚きを含んだ、程良い刺激となる。
しかしそれを堪能している余裕すらなく、また少しずつ、んぐんぐと肉矛が飲み込まれていく。
飲み込まれた先はといえば喉であり、並の食い物よりは太さがあるであろう俺のモノに合わせてグイグイと広げられていった。
苦しくないのかと彼女の顔色を見てみれば……やはり苦しいのか閉じている目を更につむっているのだが、どこか嬉々として恍惚を感じている様子もまた見て取れた。
しかし彼女が苦しむだけ俺へと送られる悦楽もまた一塩で、今までの責めの中では味わえ得なかった種の快楽……四方からの締め付けが敏感に濡れた亀頭を襲う。
「…ッ!」
「ふ、あむ…ん、…ふふ♪」
いよいよ射精感は高まって、背筋をゾクゾクと快楽が駆け抜けていく。
それを腰に力を込めて寸でのところで堪えていると……彼女が小さく笑い、さらなる手管を加えてきた。
……この時、喉の奥まで飲み込まれていたのは亀頭の雁首ほど迄で、それでも口内に入っているのは全体の六、七割だ。
そして外と内の境界に位置している三割の部分に何があるのかといえば、彼女の歯。牙。毒牙。
痛みは一瞬。
それを掻き消して余りある新たな感覚情報に、神経が焼き切れるような思いを持つ。
更にダメ押しとでも言わんばかりに、ギぅ……と喉が締められ、ズゾゾゾゾッ…と強烈なバキュームを入れられる。
こらえてなどいられる筈がない、たまらず俺は吸われるがままに彼女の喉の奥深くへとドロリとした欲望を吐き落としてしまっていた。
「っ…く、は…」
「ふわ…んん、ああ……おいしい…! 美味しいです!
すっごく濃くって、ドロ〜っとしてて……喉の奥から香りが登ってきちゃいます♥」
射精したばかりの男根を、愛おしそうに緩々と舌でねぶりながら引き出して、尿道に残った僅かな分まで口の中にこそぎ出される。
彼女はそうして口に含んだ精液を、口をおおきく開いて見せつけるようにしながら、舌先で丸く舐めるように少しずつ少しずつ……大事そうに愛おしげに嚥下していった。
魅せつけられたその様はひどく淫卑で扇情的で、出したばかりだというのに愚息は再び大きく固く膨らんでいた。
「ねぇ旦那さま…旦那さまぁ……! 旦那さまも、もっと、も〜っと…シて欲しいですか…?
欲しいですよね、だって出したばかりだというのに、こんなにも固く凝らせているのですもの……だけど大丈夫です、今度はこっち…下のお口に、ちゃ〜んと入れて……んっ、…何度だって出させてあげますから」
甘えるような声で彼女が言った。
声も目も表情も、どれもこれもが甘く蕩けてドロドロと定まらない。
腰を突き出すようにして見せ付けてきたのは、彼女の秘部。
そこは先程の自慰のためであろう、てらてらと妖しく湿っていた。
陰核は包皮を押し上げてピンと立ち上がり、淫唇はヒクヒクと物欲しげに蠢いていた。
その淫唇を彼女は自らの指で押し広げ、その刺激に甘い吐息を零しながら、腰をくねらせて俺を誘う。
俺が生唾を飲む音が、どこか遠くで大きく響いた。
「ええ、ええ…満足させてさしあげます。
何度でも…何度でも……これから先、旦那さまの人生はず〜っとわたしと一緒です。ずっと一緒に暮らして、ずっと同じものを食べて、ずっと気持ちよくなって……わたしは何度も何度もこの中に旦那さまの子種を頂くんです。
良いですよね…? それで良いですよね? だってそんな幸せ、他にありませんもの。旦那さまの幸せは、わたしといること唯一ただそれだけですもの……♥」
情欲に狂った声が耳元で響く。
気づかぬ内に女は、呼吸も擦れ合うほど俺を抱き寄せていた。
耳たぶを濡らすその声はひどく熱い。そして甘い。
……そこでようやく、ようやく俺は気づいた。
ああ、なんだ。 両手は別に自由に使えるんじゃあないか
全くようやく。
全体、そもそもどうして気付かなかったのだろう?
こんなにも可愛らしい女が尽くしてくれるというのだ。
こんなにも可愛らしく俺を誘っているというのに。
一体、俺は今まで何をしていたのだ?
気づけたならば、後は難しくなかった。
抱きついて、耳元に顔を寄せている彼女は気づいていない。
その長い髪に隠れた小さな耳に、俺の唇が触れる。
「ひゃうッ!? はひ…それ…ダ、メぇ♥」
触れたのは一瞬。
その一瞬が隙を作って、容易く彼女の肢体を俺の腕の内に収められる。
彼女が何か言ったような気もするが気にしない。気にならない。
逃げようとする彼女の頭と、それから腰とを手で押さえてしまう。
そうして今度はこちらから彼女をしっかりと抱きしめる。
眼の前にあるのは、宵越しの空と同じ色をした彼女の瞳。
唇は鞠のように柔らかなモノに触れ、俺はそれを舌先で押し割っていく。
驚きに見開かれていた彼女の瞳は、その時にギュッと硬く閉じられてしまった。
勿体ないなとは思ったが、しかしそれについては今はそれほど気にならない。気にしていられない。
柔らかな蕾を押し開けて、その後には固い門が待っているかと思っていたが……意外なことにもソレは無かった。
いや、考えてみれば当然か。彼女の常々の言動を顧みれば、どうしてだかは知ったこっちゃないが、こんな男の口付けを拒む理由をどうも向こうは持っていないらしい。
理由は知らんが、そういう事ならば堪能させてもらうだけだ。
まずは歯の、歯茎の裏の上顎側。
皮が突っ張ってシワが出来ている場所をなぞる。
舌先だけを平たく使って、匙で引っ掻くような塩梅で2度3度……
このくすぐりが効いたのか、彼女の身体が小さく震えたのを両腕で感じる。
向こうの舌は奥のほうに縮こまって逃げてしまっている。
ならば代わりに表に出ている下歯茎、舌の裏側を舐め上げる。
芯のある熱い肉壁を、唾液の溜まる柔らかな肉を、細く伸ばした舌先でチョンチョンと掻いていく。
……などとしている内に、なぜか俺の方が体の火照りを感じ始めた。
ああ、そうか。唾液にも毒が入ってるのか
また忘れていた当然のことを、今更に思い出す。
それとほぼ同じくして、舌先が彼女の犬歯に触れた。
まだ俺の血で塩と鉄の味をさせた、鋭く尖った歯だ。
そこから滲み出る毒液が、時間の経過と一度の射精で薄れていた身体の熱を再び立ち上らせる。
熱い。熱い。熱い……
熱く、痛い。疼くような、爛れるような、痒みにも似た、痛み。
しかし痛みと快楽は程度の違いであり、等価だ。
身を焼き苛む熱と痛みと快楽に、眉根が寄って表情を崩れる。
どうにかそれに耐えながら、彼女の口腔を舐めくすぐり続ける。
数十秒もそれを続けて、息も辛くなり始めた所で、ようやく彼女の舌へと触れる。
相変わらず奥に隠れようと縮こまる……まるで大石をどけた後にいる蟲のよう……その舌を捉えて、舌先を絡める。
毒混じりの彼女の唾液で濡れたその舌に、他人の俺の粘液を塗りつける。
左へ右へ…表へ裏へと舌先を遊ばせていると、次第に彼女からも舌を動かしてくるようになっていた。
その動きは、さきほど俺を口だけで射精に追い込んだとは思えもしないほど拙い動きで、精々がこちらに合わせて舌先をチラホラと動かす程度。
試しに、ずずずっと唾液ごと舌を啜りあげて、こちらの口の中まで引っ張り上げる。
これも特に抵抗なく成功して、引き寄せられてからハッとして引き戻そうとしたくらいだ。
まったく……つまらない
当然、そんな戻るなどという動きを許しておくわけも無し。
甘噛みして舌を捕まえて、逃げられなくなった舌を徹底的に弄ぶ。
そう…先程俺がやられたように、舌の縁をつつくようにくすぐっていく。
口が塞がっているのだから、呼吸はもちろん鼻からする事になる。
それはお互い同じであるが、気恥ずかしいのか彼女のそれは遠慮がちだった。
次第に息は熱く荒くなっていったのだが、どうもそれは息苦しさだけでは無いようだと気付く。
舌先の遊びを進めている内に、目に見えて彼女の表情はより甘くとろけていった。
目もいつからか…そう、彼女も舌先を絡めるようになった辺りから…開かれていて、その瞳は焦点も上手く定められていない様子だった。
完全に欲情した風の様子だった。
試しに、背に回した手で背筋の線上を触れるか触れないかの表層で撫で上げると、たったそれだけでビクン、と過敏に過ぎる反応を示した。
しかしそのお返しとばかりに、彼女の細い指が、俺の腹の上でくるりと円を描くと、俺もまた腰が砕けたようになって、膝を笑わせてしまう。
そんなようなやり取りを二度、三度と繰り返す。
尻に手のひらを這わせ、脇腹を指先でくすぐり、うなじの産毛を逆立てるように撫で上げた。
繰り返す内に「ああ、なるほど…俺達は今同じなのか……」と、気付いていった。
毒が回っているのだ。淫毒に侵されているのだ。犯すよりも先に、淫らな毒に侵蝕を受けているのだ。
俺も、どういうわけか彼女も。
……今は理由など、どうでもいい。
いよいよ溺れた小鹿のようになる彼女の呼吸。
さすがに見るに見かねて、こちらから唇を離す。
自由になった口を使って、ぜぇはぁ…と深い息。
彼女の二本の腕は、どちらも俺の背をがっちりと掴まえていた。
そればかりか二人分の体ごと、長い蟲の体躯が巻き上げている。
蟲の節足まで俺を掴んで、そろそろ本気で身動きが取れない。
それでも片腕と、かろうじてながら腰周りの関節は動かせた。
動かせる方の腕……彼女の腰辺りへと回していた腕を前に戻して、彼女の秘部を人差し指でなぞる。
「挿入れてもいいんだったか?」
問いかけに、言葉での回答はない。
しかし彼女の手が俺の手の下に重ねられて、二本の指が淫唇を開いたことは、十分にすぎる答えだろう。
それに応え、俺も自身のモノの根本を押さえて、彼女が押し開く肉門に位置を合わせる。
互いに十分に動くことの出来ない状況、少しずつ微調整して合わせたそこに、俺はゆっくりと腰を沈ませていく。
「ふぁ……ぅ…、んっ!」
途中、一枚の薄い遮りが邪魔をした。
そこに至って、俺が微かに逡巡した。
しかし彼女の方から腰を落として、それはあっさりと破られてしまう。
明らかに痛みの色の方が濃い彼女の声に、俺は眉根を上げた。
だが彼女の方は、唇を噛み締めながら首を左右に大きく振って、眉間に一本のしわを寄せながらも、濡れた瞳で俺の方へと微笑みかける。
逸物は愛液の潤滑に血のヌメリが加わって、ずるりと膣道の奥まで滑り込み、子宮口をコツンと叩いた。
そのまま、彼女は自分から腰を振ろうとする。
まだ破瓜血も止まっておらず、まだ彼女の表情には隠し切れぬ苦痛が滲んでいる。
毒に侵されていようと、明らかにまだ早すぎる。
「まだ動くのはよせ」
言葉で制しても、彼女は辛そうな顔のまま首を横に振るばかり。
ならばせめて…と、自由になる片手で彼女の手のひらを包みこむ。
驚いたのか指先がパッと広がって……その後すぐに、その指を俺の手ヘ絡めてきた。
破瓜血をトクトクと流しながら、腰を動かすのは止めようとしない。
ならば俺も、敢えて止まっていようとは思わない。精々この極上の女の躰を、貪るように堪能するだけだ。
一体何がそこまで彼女を駆り立てているのか…?
心当たりはまるで無い。自分で言うのもなんだが、妖怪助けをした経験はまるで無い。全くない。
断言しよう。悲しいかな断言できる。妖怪から恩を感じられるようなことをした覚えはまっったく、無い。
……まあ、そもそもが妖連中ってのが元からこんな様な性だってのが一番ありそうな話だ。
よく聞くことでもあるしな。
「んっ…、くっ、ふ…ぐ、ぁう……ん……どう、ですか…?」
「ああ…。っつ、中々…や、かなり、具合がいい…」
彼女は腰を打ち付けるように、俺は内壁を擦るように、それぞれ違う動きで同じように互いを貪る。
ピストンの深みを彼女が変えて、打ち入れる角度を俺が変える。
二つの動きで歯車を合わせて何物にも代えがたい法悦を生む。
熱くぬめる、硬くとも締め付けの強い膣の中。
毒が視覚が触覚が聴覚が嗅覚が味覚が、全ての要素を組み合わせて、かつてない悦楽に脳が焼けるような感覚を味わう。
今日何度目かもわからない異形の快楽の中で、本日二度目の感覚に背骨の髄液がすすられたような心地を得る。
「出す。…膣内で出すぞ!」
「あ…、ふ、ふぁい! …はい! 出して……いっぱい…、…全部、出してくだひゃい♥」
問答は短く済んだ。
しかしその後の射精は、長い。
一度目の比ではないほど大量で濃い精液を、彼女の膣道深くで放っていた。
おそらくはこれも毒の影響か……はたまた単に、快楽が強すぎたためか。
いずれにせよ、その心地よさは何もかもを緩めて押し流してしまう。
ぎゅっと結んでいた手も半ばまで解かれていて、手のひらを合わせて指と指がかすかに絡んでいる程度。
二人の身体をぐるぐると巻き上げていた蜈蚣の躰も緩んでいて、俺の足も長らくぶりに地面を踏みしめるに至った。
男の余韻は早く過ぎ、女の余韻は長く続く。
一足先に開放と脱力の感から抜けだした俺は、しかしまだ物足りなさを感じていた。
理由……という程の確かなものはないが、それの一欠片になった事はある。
「なんつー無茶すんだ、お前は……結局痛み、引かなかっただろ?」
「…だって、ん…ッ、せっかく旦那さまが……わたしを頂いてくれるというのに……わたしの痛みなんて些細なこと、ふぁ…ん…、思慮にも入れることじゃない…です……」
「俺が気になんだっての。どれ見せてみろ」
言って、彼女の下腹へ顔を寄せる。
蜈蚣の長い身体のせいで背丈は向こうのほうが圧倒的に高い。
抱え上げられていたような体勢だったさっきまでと違って、互いに地面に立っている今なら、こちらが立ち膝をついて、ちょうど真正面に彼女の下腹がくるくらいの身長差だった。
そうして見えるのは、ぐちゃぐちゃに濡れた彼女の秘部。
サーモンピンクに充血した小陰唇を指先で一撫でして、さきほど彼女がしたように二本の指で割り裂く。
そうして見えるのは、愛液と精液の二種の白色に、血の赤みが加わった粘液がどろどろと奥から溢れでてくる肉の洞。これ以上なく、とびっきりに淫卑な場所。
敏感な秘肉が外気に触れたせいだろう、切なげに高く高くトんだ声が頭上から奏でられた。
俺はそのザマに口元を歪めて、彼女の腰を抱き寄せるようにとびっきりの口付けをしてやった。
「ひゃ……や、まだイったばっかりで…敏感で……ひゃぅあ…んんッ!!」
ビクビクと、彼女の腰が跳ねる。
構わず、両手を使って押さえつけ、溢れる蜜を啜り上げる。
口の中に広がるのは、鉄と塩と毒の味……苦く、喉の奥にエグ味が残る。
だがそれは甘美だ。この味こそがなによりも甘美、何物をも押しのけて味わい尽くさんと思わせる甘美……それは酒のような中毒を持っていた。
その味わいを唾液と共に啜り上げ、ぐじゅじゅぐゅ……と、名状しがたい擬音を立てる。
吸い上げて、続けて今度は舌を差し入れる。
ドロドロと蜜を溢れさせる膣の入り口を、ぐるりぐるりとなぞるように舐めあげる。
更にその穴の中へと舌先を差し入れたり、時にそこから離れ、鍵穴のようなもう一つの小さな孔を舌で撫で上げて……まるで子どもの迷路遊びのように、ただ気の向くままに舌を進ませた。
上から聞こえてくる声は次第に熱く、大きく、切なく甘く……
次第に声にもならない音へと溶けて崩れていく。
そろそろ頃合いだろう、いつの間にやら蜜の味から鉄の風味が薄れていた。
俺は淫唇から口を離して、それからゆっくりと舌を引き抜いていく。
どろぉり…と糸を引く粘液が珠を作って地に落ちる。
「…ふぇ…あ、っん……ヤめ、ちゃうんです…か……? は、ふぅ…んん〜♥」
怪訝に、切なげに、物欲しげに紡がれた彼女の言葉を遮って、秘部にあてがっていた指を内へと滑りこませる。
そうして二本の指でぐるぐると、グツグツと、白く泡立てるようにランダムにかき回す。
それと一緒に、俺は顔を少しずつ上げていって、複雑な模様の刺青が差された彼女の腹を、犬のようにベロベロと舐めくすぐる。
すると彼女は、今までに無いほどに淫らに酔った声を上げた。
どうしたことかと訝しむが、すぐに素肌と刺青の上とでの微妙な舌触りの違いに気づく。
刺青の模様の上は、少しだけ固くしこりになっていた。肩や腰などのコリと似たような物か。
良くはわからないが、そのしこりを舌でほぐされると彼女はひどくよがり狂ってくれるらしい。
なら、それを放って置く道理はない。
「ひゃ…ぅ、ひ、あ……や、ら…ぅう、…どくせ、ばっかり舐めひゃ……ひやぅ〜!」
何を言っているのか分わからない。
よがっているのは分かる。
なら十分。
続ける。
脇腹に唇を這わせ、赤紫のしこりをなぞるように再び下へ。
細く枝分かれする模様の先まで余さず舐め下ろし、下へ下へ……そうしている内に、人肌と蟲殻の境界に触れた。
どうなっているのか少し気になっていたので、舌と歯でつついてみる。
継ぎ目の所をカリカリと探る。どうも肉の上にしっかりとくっついてらしく、カサブタの継ぎ目と同じような感触だった。
「ん…ゃ、くすぐっ…た………へ? ふぁ、あ…ぃや…そこ、は……んぁああ…!」
抑え切れない声で彼女は笑い、俺を引き離そうと二本の腕で俺の肩を押し突いてくる。
それにも構わず、俺は甲殻の縁を舐めながら身体の前へ舌をすすめる。
下腹部は紋の始点となる位置で、他のどこよりも赤紫の模様が密集している場所だ。
それだけ悦びも強いのだろう、一度は言語に戻っていた声がまたすぐに単なる鳴き声に戻ってしまっていた。
その声があまりにも可愛らしく、子どものような抵抗をする彼女が愛おしくて、つい悪戯心が出てしまう。
舌先を、俺が手で弄り続けるそこへ向ける。指を挿し入れた膣道ではなく、その上……ぷっくりと充血して膨らんだ陰核。
自分から包皮を脱いで外に飛び出ていたソレを、門歯で軽く甘噛みする。
「〜〜〜ッッッ!」
大きく声が跳ねる。
同時、彼女の手に力がこもって、俺の肩が強く掴まれる。
妖の力で肩を握り締められて、少なくない苦痛が両肩を襲う。
鬱血してしまいそうなその痛みは何とかこらえながら、しかしその反動で、秘所をかき回していた指が引きつり、彼女の内を爪を立てて引っ掻いてしまう。
それもまた彼女には快楽として受け入れられたらしい。
「ふ…は、ひぅ……は、ひゅ…」
ぷしゅ…ぷしゅ〜……と、彼女の尿道が透明の潮を吹き出した。
その熱い液体は俺の顔にもろにかぶって、危うく溺れそうになってしまう。
彼女の方は強い絶頂でぐったりと体全体を弛緩させて、口笛にも似た、ヒュゥヒュゥという息をしていた。
力が抜けて地に倒れそうになった彼女の身体を、いつだったか俺がされたように今度はこちらが支えてやる。
肉付きの薄い体であるし、体重の半分は彼女の蟲の体が支えてくれている。
大した重さは感じもない。ただ心地良い柔らかさと、体温。そして早鐘を打ち続ける心臓の音とを感じるばかりだ。
重くはないが、しかし立ち膝をしつづけるのは流石に辛い。
背もたれにしようと手頃な樹の幹を探していると、彼女が蟲の体を回してくれた。
どうやら俺の身体はそれに預けろという事らしい。
それに甘えさせてもらって腰を降ろすと、節足が俺の腿をがっちり捕まえてきた。
逃がさない…いや、誰にも渡さないとでも言いたげな仕草だ。
すぐ目の前にある彼女の瞳に嫉妬の緑が見えた気がした。
やれやれ、これは……なんとも可愛らしい
眼の前にあるのは女の首筋。
俺を旦那と慕う、可愛らしくて仕方がない少女の肌。
愛おしくてたまらない彼女のその白く細い肩に、また唇を寄せる。
ただし今度は趣向を変えて……舐めるのではなく、齧り、啜る。
柔らかな肉を口に含み、犬歯まで使って強く噛み付く。だが出血させる程の力は込めない。
強く押さえ、捕まえて、痛みを感じさせるほど締め付ける。
そうして口腔に収まった肉を、じゅずじゅずゅ…と唾液と共に吸い上げる。
長く、長く……息の続く限り吸っては、鼻から息を吐いて、また啜り上げる。
そうして数十秒。
口を離すと、白かった肌は鬱血していて、赤い斑点がポツポツと浮かんでいる。
その上を指先で撫でると、ほんの小さく彼女の肩が震える。わずかながら肌が敏感になっているのだ。
人である俺でも使える、彼女と同じように噛み付いて使う淫毒。
これが世に言うキスマーク。
時に言われるその名を、所有刻印。
強く付ければ数日間はもつ物だから、情事の跡として長く、生々しく残る。
だからこいつのある女は、そういう関係の男がいるって証になる。
店先に並べられる商品についた売約済みの札と同じようなもんだ。
「あ…はッ、ふ……嬉しいです…旦那さま
わたし……旦那さまのモノで、良いんですね?
ずっと…ず〜っと、一緒にいてもいいんですね?」
「俺はお前の物なんだろう?」
今の口づけの意味は、彼女も知っていたのだろう。
陰気な顔を少しばかり明るくして、彼女は俺に頬ずりしながらそう尋ねてきた。
……尋ねてはいたが、やはり俺の答えは待っていない類の問いかけか。
それでも俺は、腰に絡められている彼女の足を指さしてそう答える。
「ありがとうございます旦那さま……んっ、ふ…わたし、貴方が大好きです。だから、ずっとずっと、一緒に生きて行きましょう……?」
彼女は俺の耳元に口を寄せてそう言った。
まるで幸福の絶頂にいるかのような甘ったるく弾んだ声。
そして彼女は、先ほど俺が彼女に印をつけた同じ場所を狙いすまして、首飾りのようなもう一つの口で毒牙を付き立てた。
「ッ…」
再び流し込まれる熱い毒。
まるで慣れないその快感に気をやりそうになる。
俺はそれに必死で耐えるて、まだ脱力して体重を俺に預けていた彼女の上体を押し倒した。
驚いたのか腰回りの拘束が少しだけ緩む。
それに乗じて、彼女のヒトカタの体に折り重なるように身体を倒す。
両の手のひらを合わせて指を絡め、そのまま地面の上に押し付ける。
そうして抵抗できないようにして、俺は彼女に囁きかけるように問いかけた。
それはきっと……そう、彼女がするような答えを待たない類のもの。
「もう一度…構わないか?
さっきは痛かったんだろう。
そろそろ、ほぐれてるんじゃないか?」
「は…ふ……はい、はい! もちろんです!
……わたしは、もう、旦那さまのモノですから…♪」
名詞のない俺の言葉を、しかし彼女は察してくれた。
気恥ずかしそうに頬を染めながらも、確かな喜びを含んだ声で肯定する。
甘く蕩けて涙に潤んだ紫の瞳、桜よりも桃よりも淡く確かに色づいた頬……口の端には、先ほどの口付けの残滓だろう、泡だって白くなった唾液が見える。
とびっきりに淫らに歪んだ可愛らしい顔。…うん、好みだ。
少しずつ位置を調整して、十分過ぎるほど準備を整えた互いの性器を合わせていく。
ようやくぴたりと合わせられたそれを少しずつ沈めていく……
どちらともなく唇が合わせられ、互いを毒し合っていた。
12/03/19 01:21更新 / 夢見月