相似した遺跡
ある晴れた日の青空に、二つの影が上空を飛行していた。一つは人以上に大き過ぎる巨体が逆関節の足を折り畳んで、頭部の辺りの左右のジェットエンジンで飛んでいる。もう一つは縦長のものに二つの人影が跨っていた。
『兄上とハイキング〜♪』
『こら、首を振らな、ぃてっ!』
「楽しそう・・・」
「とてもいい雰囲気だと思われます」
飛行する巨体はエスタ専用の青い機体の『NYCYUS』で、搭乗しているのはエスタ本人と司令官のレシィである。その右隣にいるのがスカイチェイサーを操縦するレートと、その後ろに跨るレックス。
「この先の山にあるの?」
「レシィ様の情報が正しければ、この先だそうです」
彼らが向かう先には、森林地帯にそびえる巨大な山が存在していた。
<数時間前 戦艦クリプト 司令室>
レシィはドラグーン隊の目の前であることを話す。イーグルは彼女が口にした言葉を繰り返し尋ねた。
「封印された遺跡?」
「そうじゃ。未だかつて誰も入ったことの無い、古代の遺跡だと言われる封印の扉の場所を見つけたのじゃ!」
「要はその探索に人手が欲しいんだね?」
「その通りじゃ、兄上」
「先読み、はえよ」
エスタの瞬時の答えに呆れるラキ。いつものようにレシィは光学マップへ位置を示す。今回指定した位置は以前、村人たちを避難させた場所からさらに南側の森林地帯である。
「ある情報の入手で、誰も開けることのできなかった扉が存在すると聞いたのじゃ」
「・・・誰も開けたことのない扉を見に行くだけか?」
「無論、その扉を開けて中身を拝見するのじゃ!」
「・・・誰がどうやって?」
ブレードは不機嫌そうな口調で質問したが、レシィは気にせず胸を張って答えた。
「ワシの魔術でどんな扉だろうと開けてやるのじゃ!」
「随分自信があるようだね?」
「だから、兄上」
「はい?」
「一緒に付いて来て欲しいのじゃ♪」
結局、彼女の頼みでエスタ、レックス、レートが同行することとなった。
木々によって包まれた大きな山。その麓の辺りに自然とは不釣り合いのものが存在していた。それはまるで、鉄に似た重そうな素材を使ったような無機質で出来た巨大な黄白色の扉。10mもあるアーチ状の扉で真ん中に縦筋の隙間があり、内部が確認できないほど固く閉ざされていた。
「ほえ〜」
「ようやく来たのじゃ!」
レートは呆然と扉を見上げ、レシィは張り切って扉を見つめる。一方、機体から降りたエスタとレックスは真剣な眼差しで扉を見つめていた。
「レックス」
「スキャン開始・・・」
レックスの瞳孔が怪しく光り、彼の視界で映し出されるデータ表示が次々と出現していく。しばらくして、彼は左隣に居たエスタへある報告をした。
「この扉の動力はまだ生きています。恐らく内部の動力炉から電源を取り入れている可能性があります」
「やっぱりね」
「兄上?」
「へ?エスタ?」
突然の発言でレシィとレートは、ポカンとした顔で彼らを見つめた。ここであることに気付いたレシィが、二人にそのことを尋ねる。
「兄上、もしかして・・・これを知っておったのか?」
「いや、知らないけど・・・僕たちの知ってる技術とよく似た構造の扉みたいだね」
「山中に施設らしきものが埋まっているようですが、動力がまだ生きているようです」
「これ、施設なの?ねえ、施設なの!?」
「レート、落ち着いてください」
喚くレートを抑えるレックス。それを気にせず、エスタは扉の右横にある草で覆われた壁へ歩き向かう。彼が手で草を掻き分けると、壁に端末らしき装置が付いていた。ひび割れたモニターの下にあるキーボードを操作し始める少年。それを見ていた他の3人も彼に近寄って様子を伺う。
「ドクター」
「手伝わなくていいよ。割と簡単な解除作業だし」
「おお、流石、研究員」
「流石、兄上!」
「こんなの朝飯前だ・・・よっ!」
『コードロック解除 貨物ドアオープン』
ゴォォォォォォォン
モニターにオープンの表示が映し出され、巨大な扉が重苦しい音を立てて左右へと開いていく。4人が内部の様子を見ようと覗き込むが、灯り一つ見当たらない程の暗闇で確認できなかった。
「真っ暗なのじゃ」
「仕方ない、レックス」
「了解。レート、今度は私が操縦します」
「へ?」
エスタは軽い指示をして『NYCYUS』に乗り込む。遅れてレシィも乗り込み、レックスはチェイサーに跨って操縦し始めた。続けてレートもレックスの後ろに跨る。それぞれの機体の前面部分からライトが照射され、前方の闇に包まれた通路を照らしだす。
『幸いG.A.Wでも入れる通路みたいだから、このまま進むよ』
「了解、後方を警戒しながら進みます」
「魔物とか、異形者とか出ないよね?」
『どちらが来てもワシの敵ではないのじゃ!』
『魔物は仲間でしょ?』
『兄上を取ろうとする輩は皆ワシの敵じゃ!』
『・・・・・・程々にしてね』
「今日もドクターとレシィ様の仲は良好のようです」
「一方的に思えるのは気のせいなの?」
騒がしくしながら1体と1台は通路の奥へと進んで行った。その場所から遥か遠くの茂みが蠢くのに気付かず・・・。
エスタ達は約500m進んだ先にある資材置き場らしき広い空間へ辿り着く。そこは錆びついたコンテナやその運搬用の小型車が放置されていた。エスタとレシィは機体内部からその場の様子を伺う。
「兄上、これは一体・・・」
「さっきのモニターに表示された貨物ドアから予想してたけど・・・ここは資材を運び込むエリアだね」
「一体どういう施設なのじゃ?」
「さあね、もう此処は無人のようだし・・・何なのかは僕達で調べるしかないね」
そんな中、レックスはチェイサーから降りて、両肩の特殊ライトで周りを照らし、辺り一帯を見回す。チェイサーに残されたレートはハンドルを握って、ゆっくりと浮上しながら辺りを旋回した。
「レート、止まって下さい」
「え?なん・・・いでっ!」
レックスの警告を聞いたレートは余所見して、前方に垂れ下がっていたクレーンの先に頭をぶつけてしまう。幸い速度が遅かったため、すぐに姿勢を戻し降下していく。
「貨物用のクレーンがいくつか存在しますので、暗闇で飛ぶのは危険です」
「早く言ってよ!思いっきりこめかみに当たった!」
痛みに堪えるレートを余所に、レックスは奥へと続く通路を発見した。
「ドクター、施設奥へと続く通路を発見しました。ですが、『G.A.W』では進めない幅の通路です」
『分かった。レシィ、降りるよ』
『もうちょっとだけ、このままで・・・』
『そう言ってさり気にズボンをずらそうとしないで』
『NYCYUS』のコックピットが開き、ズボンを抑えるエスタと渋った顔のレシィが降りてくる。機体はライトを照らしたまま停止した。二人のもとへ、レックスとチェイサーから降りたレートもやって来る。
「さて、少し歩こうか」
「周囲を警戒して行きます」
「何があるのか楽しみじゃ!」
「探検の感じだな。ラートと一緒に来ればよかったかも・・・」
細い無機質に囲まれた通路を進んでいく一行。途中にいくつかあるドアは電源が行き届いてないせいか、重く閉ざされたままだった。その内の一つのドアをレシィが魔法で吹き飛ばそうとしたが、警報装置が作動する恐れがあるとエスタに指摘される。むすっとした顔でエスタにしがみ付くレシィ。
「仕方ないよ。下手に警備システムを作動させたくなからね」
「やっぱりここもセキュリティとかあるのかな?」
「今のところ駆動音や赤外線の装置などは見当たりません」
「確かに静かすぎるのじゃ」
暗闇を進んでいく中、通路の右端に置かれた物体が見えてきた。それは金属の骨格をした四足の物体だが、両前足が半分もげている。大きさは背の低いエスタやレシィより小さく、胴体の上部には実体弾を使用した銃器が付けられていた。よく見ると銃器にはスコープが付いていて、それはまるで生物でいう目の役割をしているように見える。
「何じゃこれ?」
「ガードロボ的な奴?」
「レックス」
エスタの指示でレックスがその物体に近づいて様子を伺う。すぐさま結果が出たらしく、彼は首だけ振り向いて報告した。
「搭載されていた電源が底を尽いています。後は前方の脚部も損傷が酷いようで焼け焦げているようです」
「取りあえず、動いたりはしないんだね?」
「電源が無いうえ、脚部破損では頭部の銃器しか使い物にならないでしょう」
「つまり、この四足はエネルギーが無ければ動けんのじゃな?」
「そういうこと・・・」
結局、発見したそれは放置することにして、一行はさらに奥へと進んでいく。
(焼け焦げていた・・・何かと戦闘したのだろうか?)
少し進んだ場所に、ひび割れてしまった大きなガラス窓が左右にあり、窓の向こうは閉鎖的な空間が存在した。そこはまるで何かを隔離するかのような室内だった。
「・・・」
「レート、大丈夫ですか?」
「うん・・・もう、見慣れたからね・・・」
双子の片割れは隔離室を嫌悪するかのように見つめていた。それを見ていたレシィは目を細める。
「よいのか?」
「心配ない。あの二人にとっては嫌な思い出だけど・・・」
「あの者の能力に関係が?」
「・・・・・・それ以上の検索は控えて」
エスタの静かな申し入れに少女は頷いた。
4人は通路の突き当りにある入口の扉が外れた巨大な室内へとやって来た。そこには奥の壁全体にモニター画面がぎっしりと敷き詰められ、その下には多数の操作盤が置かれている。その他にも端末デスクがいくつか存在したが、どれも光を失い、ただの鉄の置物と化していた。
「こりゃまた広いね・・・」
「むう、全て動いたら眩しくなりそうじゃ」
「残念ながらほとんどの端末に電力が行き届いてないようです」
「奥に光ってるのは?」
レートが言った場所。唯一、光を灯していたのは、奥にある壁のモニターだらけの下にある一つの操作盤である。彼らはその付近まで行き、未だに光る端末を調べた。操作盤のすぐ上にある画面には何かが表示されていた。エスタは近くにあった椅子を引き寄せて座り、端末を操作し始める。
「ふぅん・・・電力は残ってるね。でも、残量が少ないから1日すら持たないかも・・・」
「しかし、ドクター、施設がこの状態では、調査は難しいかと・・・」
「だろうね。まあ、調べる時間だけなら電力供給しても問題ないでしょ」
少年は手早く操作すると、それまで真っ暗だった室内に駆動音が響き渡り、所々のモニターや端末などの装置に光が灯り始めた。壁にある全てのモニターはどうやら監視カメラからの映像らしく、先程通って来た道や置いてきた『G.A.W』の姿が映し出される。
「おお、凄いのじゃ」
「所々いかれてるみたい・・・」
「まあ、こんだけ荒らされたら予想はつくけど・・・別に見回る必要もないし・・・レックス」
「了解」
エスタは白衣の内ポケットから手の平サイズのデータディスクを取り出し、右腕からプラグを出しているレックスに手渡す。彼は左胸部分の外装の液体金属を退かせて、本体を露出させた。そこにある差込口にデータディスクを差し込む。続けて彼は右腕のプラグをエスタの操作する操作盤右横のプラグ入れに突き刺した。
「何をするのじゃ?」
「これから、この施設に残された記録をコピーする。ここでゆっくりしたくないからね」
「確かにここじゃ兄上とゆっくりできんぞ」
「どんだけ僕と一緒に居たいのよ?」
「ワシが満足するまで♪」
軽く首を振りながら白衣の少年は再度操作し始める。興味深そうに見ていたレートがエスタに話し掛けた。
「エスタ、何を見てるの?」
「記録された一部を少し見てるの。コピーに時間が掛かる間暇だからね」
「残り81%です」
「それで・・・どんな内容じゃ?」
「ちょっと待ってね。ファイルの一部を今開い・・・」
エスタはモニターに映るファイルの内容を見て言葉を失う。そこに映っていたのは、彼らが使用している『G.A.W』の設計についてのデータだったからだ。今画面に映っているのは『ORNITHO』である。
(どういうこと?・・・これは僕が設計思想したデータと同じ!?ありえない!・・・それに“アレ”を元に設計思想したんだから、他の誰かに作られるはずは・・・)
「兄上?」
「エスタ?」
「えっ?ああ、ごめん・・・・・・」
彼は急いで映し出していたファイルの内容を仕舞い込んだ。状況が把握しきれず首を傾げるレートとレシィに、彼は作り笑いをする。
「気が変わった・・・帰ってから見ることにする」
「何か態度がいつもと違う・・・」
「兄上、一体どうしたのじゃ?」
「何でもないよ」
ワザとらしい少年の態度に疑問を抱く二人。その時、レックスが小声でエスタを呼んだ。
「ドクター」
「ん?」
呼ばれた彼は、レックスの視線がモニターへ向けられているのに気付く。少年が画面に目をやると、右端に小さく表示された文章を見つけた。釣られてレシィとレートもそれを見つめる。
『後方の通路内に生体反応5つ確認 人間の可能性あり』
「「「!?」」」
三人に緊張が走る。レートは左太股のホルスターに収められた『L.B.H』へ手を伸ばし、レシィは鋭い目をして後方の気配を探った。エスタは無言で端末を操作しながら考え込む。
(相手は一体誰だ?邪魔はされたくないんだけど・・・)
(ワシと兄上の邪魔をする不届き者め・・・じゃが、この気配・・・素人ではないな)
(嫌な予感だな・・・ラートに頼んで応援を要請しようかな・・・)
「残り72%」
レックスの声だけが響く中、突如、人の足音が鳴り響き、レシィとレートは咄嗟に振り向いて身構えた。エスタも立ち上がって振り向き、通路の奥を見つめる。すると、僅かな照明だけで照らされた薄暗い通路から、5人の深緑のローブを着た男が歩いて来た。
「残り68%」
5人の男たちはエスタ達から10mくらい離れた場所で立ち止まる。真ん中に居た男が一歩踏み出して口を開いた。
「脅かして申し訳ない」
「隠れる必要が無くなったから、ワザと足音を立てたのじゃろ?」
「流石、都市アイビスの司令官であるバフォメットですね」
「ふん!ワシを見た目で判断するな。覇王たるバフォメットじゃぞ?トトギス王国所属の暗殺者ジドよ」
レシィの発言でエスタ達は相手が敵であると認識した。
「それで・・・ワシを暗殺しにでも来たのか?青二才」
「いえ、そちらの方々にお話しがあるので、魔物のあなたに用はありません」
「僕たちに何の用?」
エスタは無表情で質問すると、ジドと呼ばれた男は一息置いて話し始める。
「簡単な話ですよ。あなた方を我々教会へ迎え入れたいと思いまして・・・」
『兄上とハイキング〜♪』
『こら、首を振らな、ぃてっ!』
「楽しそう・・・」
「とてもいい雰囲気だと思われます」
飛行する巨体はエスタ専用の青い機体の『NYCYUS』で、搭乗しているのはエスタ本人と司令官のレシィである。その右隣にいるのがスカイチェイサーを操縦するレートと、その後ろに跨るレックス。
「この先の山にあるの?」
「レシィ様の情報が正しければ、この先だそうです」
彼らが向かう先には、森林地帯にそびえる巨大な山が存在していた。
<数時間前 戦艦クリプト 司令室>
レシィはドラグーン隊の目の前であることを話す。イーグルは彼女が口にした言葉を繰り返し尋ねた。
「封印された遺跡?」
「そうじゃ。未だかつて誰も入ったことの無い、古代の遺跡だと言われる封印の扉の場所を見つけたのじゃ!」
「要はその探索に人手が欲しいんだね?」
「その通りじゃ、兄上」
「先読み、はえよ」
エスタの瞬時の答えに呆れるラキ。いつものようにレシィは光学マップへ位置を示す。今回指定した位置は以前、村人たちを避難させた場所からさらに南側の森林地帯である。
「ある情報の入手で、誰も開けることのできなかった扉が存在すると聞いたのじゃ」
「・・・誰も開けたことのない扉を見に行くだけか?」
「無論、その扉を開けて中身を拝見するのじゃ!」
「・・・誰がどうやって?」
ブレードは不機嫌そうな口調で質問したが、レシィは気にせず胸を張って答えた。
「ワシの魔術でどんな扉だろうと開けてやるのじゃ!」
「随分自信があるようだね?」
「だから、兄上」
「はい?」
「一緒に付いて来て欲しいのじゃ♪」
結局、彼女の頼みでエスタ、レックス、レートが同行することとなった。
木々によって包まれた大きな山。その麓の辺りに自然とは不釣り合いのものが存在していた。それはまるで、鉄に似た重そうな素材を使ったような無機質で出来た巨大な黄白色の扉。10mもあるアーチ状の扉で真ん中に縦筋の隙間があり、内部が確認できないほど固く閉ざされていた。
「ほえ〜」
「ようやく来たのじゃ!」
レートは呆然と扉を見上げ、レシィは張り切って扉を見つめる。一方、機体から降りたエスタとレックスは真剣な眼差しで扉を見つめていた。
「レックス」
「スキャン開始・・・」
レックスの瞳孔が怪しく光り、彼の視界で映し出されるデータ表示が次々と出現していく。しばらくして、彼は左隣に居たエスタへある報告をした。
「この扉の動力はまだ生きています。恐らく内部の動力炉から電源を取り入れている可能性があります」
「やっぱりね」
「兄上?」
「へ?エスタ?」
突然の発言でレシィとレートは、ポカンとした顔で彼らを見つめた。ここであることに気付いたレシィが、二人にそのことを尋ねる。
「兄上、もしかして・・・これを知っておったのか?」
「いや、知らないけど・・・僕たちの知ってる技術とよく似た構造の扉みたいだね」
「山中に施設らしきものが埋まっているようですが、動力がまだ生きているようです」
「これ、施設なの?ねえ、施設なの!?」
「レート、落ち着いてください」
喚くレートを抑えるレックス。それを気にせず、エスタは扉の右横にある草で覆われた壁へ歩き向かう。彼が手で草を掻き分けると、壁に端末らしき装置が付いていた。ひび割れたモニターの下にあるキーボードを操作し始める少年。それを見ていた他の3人も彼に近寄って様子を伺う。
「ドクター」
「手伝わなくていいよ。割と簡単な解除作業だし」
「おお、流石、研究員」
「流石、兄上!」
「こんなの朝飯前だ・・・よっ!」
『コードロック解除 貨物ドアオープン』
ゴォォォォォォォン
モニターにオープンの表示が映し出され、巨大な扉が重苦しい音を立てて左右へと開いていく。4人が内部の様子を見ようと覗き込むが、灯り一つ見当たらない程の暗闇で確認できなかった。
「真っ暗なのじゃ」
「仕方ない、レックス」
「了解。レート、今度は私が操縦します」
「へ?」
エスタは軽い指示をして『NYCYUS』に乗り込む。遅れてレシィも乗り込み、レックスはチェイサーに跨って操縦し始めた。続けてレートもレックスの後ろに跨る。それぞれの機体の前面部分からライトが照射され、前方の闇に包まれた通路を照らしだす。
『幸いG.A.Wでも入れる通路みたいだから、このまま進むよ』
「了解、後方を警戒しながら進みます」
「魔物とか、異形者とか出ないよね?」
『どちらが来てもワシの敵ではないのじゃ!』
『魔物は仲間でしょ?』
『兄上を取ろうとする輩は皆ワシの敵じゃ!』
『・・・・・・程々にしてね』
「今日もドクターとレシィ様の仲は良好のようです」
「一方的に思えるのは気のせいなの?」
騒がしくしながら1体と1台は通路の奥へと進んで行った。その場所から遥か遠くの茂みが蠢くのに気付かず・・・。
エスタ達は約500m進んだ先にある資材置き場らしき広い空間へ辿り着く。そこは錆びついたコンテナやその運搬用の小型車が放置されていた。エスタとレシィは機体内部からその場の様子を伺う。
「兄上、これは一体・・・」
「さっきのモニターに表示された貨物ドアから予想してたけど・・・ここは資材を運び込むエリアだね」
「一体どういう施設なのじゃ?」
「さあね、もう此処は無人のようだし・・・何なのかは僕達で調べるしかないね」
そんな中、レックスはチェイサーから降りて、両肩の特殊ライトで周りを照らし、辺り一帯を見回す。チェイサーに残されたレートはハンドルを握って、ゆっくりと浮上しながら辺りを旋回した。
「レート、止まって下さい」
「え?なん・・・いでっ!」
レックスの警告を聞いたレートは余所見して、前方に垂れ下がっていたクレーンの先に頭をぶつけてしまう。幸い速度が遅かったため、すぐに姿勢を戻し降下していく。
「貨物用のクレーンがいくつか存在しますので、暗闇で飛ぶのは危険です」
「早く言ってよ!思いっきりこめかみに当たった!」
痛みに堪えるレートを余所に、レックスは奥へと続く通路を発見した。
「ドクター、施設奥へと続く通路を発見しました。ですが、『G.A.W』では進めない幅の通路です」
『分かった。レシィ、降りるよ』
『もうちょっとだけ、このままで・・・』
『そう言ってさり気にズボンをずらそうとしないで』
『NYCYUS』のコックピットが開き、ズボンを抑えるエスタと渋った顔のレシィが降りてくる。機体はライトを照らしたまま停止した。二人のもとへ、レックスとチェイサーから降りたレートもやって来る。
「さて、少し歩こうか」
「周囲を警戒して行きます」
「何があるのか楽しみじゃ!」
「探検の感じだな。ラートと一緒に来ればよかったかも・・・」
細い無機質に囲まれた通路を進んでいく一行。途中にいくつかあるドアは電源が行き届いてないせいか、重く閉ざされたままだった。その内の一つのドアをレシィが魔法で吹き飛ばそうとしたが、警報装置が作動する恐れがあるとエスタに指摘される。むすっとした顔でエスタにしがみ付くレシィ。
「仕方ないよ。下手に警備システムを作動させたくなからね」
「やっぱりここもセキュリティとかあるのかな?」
「今のところ駆動音や赤外線の装置などは見当たりません」
「確かに静かすぎるのじゃ」
暗闇を進んでいく中、通路の右端に置かれた物体が見えてきた。それは金属の骨格をした四足の物体だが、両前足が半分もげている。大きさは背の低いエスタやレシィより小さく、胴体の上部には実体弾を使用した銃器が付けられていた。よく見ると銃器にはスコープが付いていて、それはまるで生物でいう目の役割をしているように見える。
「何じゃこれ?」
「ガードロボ的な奴?」
「レックス」
エスタの指示でレックスがその物体に近づいて様子を伺う。すぐさま結果が出たらしく、彼は首だけ振り向いて報告した。
「搭載されていた電源が底を尽いています。後は前方の脚部も損傷が酷いようで焼け焦げているようです」
「取りあえず、動いたりはしないんだね?」
「電源が無いうえ、脚部破損では頭部の銃器しか使い物にならないでしょう」
「つまり、この四足はエネルギーが無ければ動けんのじゃな?」
「そういうこと・・・」
結局、発見したそれは放置することにして、一行はさらに奥へと進んでいく。
(焼け焦げていた・・・何かと戦闘したのだろうか?)
少し進んだ場所に、ひび割れてしまった大きなガラス窓が左右にあり、窓の向こうは閉鎖的な空間が存在した。そこはまるで何かを隔離するかのような室内だった。
「・・・」
「レート、大丈夫ですか?」
「うん・・・もう、見慣れたからね・・・」
双子の片割れは隔離室を嫌悪するかのように見つめていた。それを見ていたレシィは目を細める。
「よいのか?」
「心配ない。あの二人にとっては嫌な思い出だけど・・・」
「あの者の能力に関係が?」
「・・・・・・それ以上の検索は控えて」
エスタの静かな申し入れに少女は頷いた。
4人は通路の突き当りにある入口の扉が外れた巨大な室内へとやって来た。そこには奥の壁全体にモニター画面がぎっしりと敷き詰められ、その下には多数の操作盤が置かれている。その他にも端末デスクがいくつか存在したが、どれも光を失い、ただの鉄の置物と化していた。
「こりゃまた広いね・・・」
「むう、全て動いたら眩しくなりそうじゃ」
「残念ながらほとんどの端末に電力が行き届いてないようです」
「奥に光ってるのは?」
レートが言った場所。唯一、光を灯していたのは、奥にある壁のモニターだらけの下にある一つの操作盤である。彼らはその付近まで行き、未だに光る端末を調べた。操作盤のすぐ上にある画面には何かが表示されていた。エスタは近くにあった椅子を引き寄せて座り、端末を操作し始める。
「ふぅん・・・電力は残ってるね。でも、残量が少ないから1日すら持たないかも・・・」
「しかし、ドクター、施設がこの状態では、調査は難しいかと・・・」
「だろうね。まあ、調べる時間だけなら電力供給しても問題ないでしょ」
少年は手早く操作すると、それまで真っ暗だった室内に駆動音が響き渡り、所々のモニターや端末などの装置に光が灯り始めた。壁にある全てのモニターはどうやら監視カメラからの映像らしく、先程通って来た道や置いてきた『G.A.W』の姿が映し出される。
「おお、凄いのじゃ」
「所々いかれてるみたい・・・」
「まあ、こんだけ荒らされたら予想はつくけど・・・別に見回る必要もないし・・・レックス」
「了解」
エスタは白衣の内ポケットから手の平サイズのデータディスクを取り出し、右腕からプラグを出しているレックスに手渡す。彼は左胸部分の外装の液体金属を退かせて、本体を露出させた。そこにある差込口にデータディスクを差し込む。続けて彼は右腕のプラグをエスタの操作する操作盤右横のプラグ入れに突き刺した。
「何をするのじゃ?」
「これから、この施設に残された記録をコピーする。ここでゆっくりしたくないからね」
「確かにここじゃ兄上とゆっくりできんぞ」
「どんだけ僕と一緒に居たいのよ?」
「ワシが満足するまで♪」
軽く首を振りながら白衣の少年は再度操作し始める。興味深そうに見ていたレートがエスタに話し掛けた。
「エスタ、何を見てるの?」
「記録された一部を少し見てるの。コピーに時間が掛かる間暇だからね」
「残り81%です」
「それで・・・どんな内容じゃ?」
「ちょっと待ってね。ファイルの一部を今開い・・・」
エスタはモニターに映るファイルの内容を見て言葉を失う。そこに映っていたのは、彼らが使用している『G.A.W』の設計についてのデータだったからだ。今画面に映っているのは『ORNITHO』である。
(どういうこと?・・・これは僕が設計思想したデータと同じ!?ありえない!・・・それに“アレ”を元に設計思想したんだから、他の誰かに作られるはずは・・・)
「兄上?」
「エスタ?」
「えっ?ああ、ごめん・・・・・・」
彼は急いで映し出していたファイルの内容を仕舞い込んだ。状況が把握しきれず首を傾げるレートとレシィに、彼は作り笑いをする。
「気が変わった・・・帰ってから見ることにする」
「何か態度がいつもと違う・・・」
「兄上、一体どうしたのじゃ?」
「何でもないよ」
ワザとらしい少年の態度に疑問を抱く二人。その時、レックスが小声でエスタを呼んだ。
「ドクター」
「ん?」
呼ばれた彼は、レックスの視線がモニターへ向けられているのに気付く。少年が画面に目をやると、右端に小さく表示された文章を見つけた。釣られてレシィとレートもそれを見つめる。
『後方の通路内に生体反応5つ確認 人間の可能性あり』
「「「!?」」」
三人に緊張が走る。レートは左太股のホルスターに収められた『L.B.H』へ手を伸ばし、レシィは鋭い目をして後方の気配を探った。エスタは無言で端末を操作しながら考え込む。
(相手は一体誰だ?邪魔はされたくないんだけど・・・)
(ワシと兄上の邪魔をする不届き者め・・・じゃが、この気配・・・素人ではないな)
(嫌な予感だな・・・ラートに頼んで応援を要請しようかな・・・)
「残り72%」
レックスの声だけが響く中、突如、人の足音が鳴り響き、レシィとレートは咄嗟に振り向いて身構えた。エスタも立ち上がって振り向き、通路の奥を見つめる。すると、僅かな照明だけで照らされた薄暗い通路から、5人の深緑のローブを着た男が歩いて来た。
「残り68%」
5人の男たちはエスタ達から10mくらい離れた場所で立ち止まる。真ん中に居た男が一歩踏み出して口を開いた。
「脅かして申し訳ない」
「隠れる必要が無くなったから、ワザと足音を立てたのじゃろ?」
「流石、都市アイビスの司令官であるバフォメットですね」
「ふん!ワシを見た目で判断するな。覇王たるバフォメットじゃぞ?トトギス王国所属の暗殺者ジドよ」
レシィの発言でエスタ達は相手が敵であると認識した。
「それで・・・ワシを暗殺しにでも来たのか?青二才」
「いえ、そちらの方々にお話しがあるので、魔物のあなたに用はありません」
「僕たちに何の用?」
エスタは無表情で質問すると、ジドと呼ばれた男は一息置いて話し始める。
「簡単な話ですよ。あなた方を我々教会へ迎え入れたいと思いまして・・・」
11/12/18 13:37更新 / 『エックス』
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