連載小説
[TOP][目次]
冬眠明けの凶砲
 モニター画面によって照らされた室内で、5人の黒ローブの男たちと対峙する研究員のエスタとバフォメットのレシィ。レートは戦闘態勢で構え、レックスは相手の男たちに目線を向けながら、施設のデータコピーをし続けた。

「僕たちを教会へ迎え入れる?」
「おぬしら・・・ふざ・・・」

 レシィが罵声を口にする前に、エスタが右手で彼女の口を抑える。

「どういった事情で僕たちを勧誘するのさ?」
「あなた方の技術・・・どれをとっても素晴らしい。先程の乗り物も少し拝見させて貰いました。ああ、ご心配なく、ものには一切触れていません」
「見物料は取るよ?」
「ふっふっふっ・・・」

 不敵に笑うジドに対して、エスタは冷静な態度で彼を見つめた。

「それで・・・その技術が欲しい訳? 理由は?」
「我々の戦いを早く終わらせるためですよ」
「戦い?」
「我々人間を脅かす魔物という存在との戦いです」

 そのことを聞いた4人は鋭い視線で睨む。冷ややかな態度のジドはさらにしゃべり続けた。

「人間に危害を加える、あの下賎な輩を倒すのは実に厄介。ですが、あなた方の技術さえあれば、それが容易になるはずです」
「要するに敵を倒す技術が欲しいんだね?」
「ええ、以前拝見させて貰いました黒い戦士の戦闘、我が国を襲撃した部隊・・・そして、あの乗り物。それらが有効に扱える場所を提供させましょう」

 誘いの言葉を聞いたエスタは腕を組んで少し考え込む。数秒後、彼はあることをローブの男に尋ねた。

「そういやさぁ・・・魔物と敵対する理由が解ってないんだけど?」
「その様子だと知らないようですね。彼奴らは我々を滅ぼす存在、言わば人間に仇なす敵です」
「滅ぼす?」
「彼らは私たち人間を魔物化させ、その上、自らの分身を生み出し、人間の子を減らす。これは国を滅ぼすだけでなく、人間という種族を滅亡させる所業・・・」
「ふぅん・・・」
「それ以前に、我が教会では“魔物は滅すべき存在”と認識しています。彼らを滅ぼすことこそ、我々の使命・・・いや、我が神“主神”の教えなのです!」
「“主神の教え”・・・ねぇ・・・」

 話を聞いていたエスタは組んでいた腕を下ろし、そのままの体勢で後ろに居るレックスへ声を掛ける。

「レックス、終わった?」
「残り3秒・・・・・・・・・保存されていた記録データをディスクへ完全に写しました」
「よし、元の記録は消去。施設の設備は動かせるようにしておいてね」
「了解。記録データのデリート開始・・・」
「何をしている?」
「部外者は黙って」

 ローブの男の問いかけに対し、エスタは無下に答えた。

「完全消去、終了しました」
「それじゃあ、帰ろうか」
「何処に行くつもりですか?」
「うるさいな・・・なんでいちいち、アンタに報告しなきゃいけないの?」
「どういうつもりですか?」

 子どものように苛立ちを見せるエスタの態度に、ジドは目に角を立たせて尋ねる。白衣の少年は面倒臭そうにため息を吐いて、しゃべり始めた。

「僕たちは此処へ調査をしにやって来ただけ。それも終わり、後は手に入れた情報を持ち帰って解析する。これでいいかい?」
「我々のもとへ来るつもりはないと?」
「訳の解らない宗教団体と付き合うつもりはない。特に理由もなく、強引にうちの隊員を拉致・監禁した輩と付き合えなんて、誰がするのさ?」

 少年の素っ気ない態度に、ローブの男は一瞬だけ苛ついた表情が露わになる。対話していた少年はそれを見逃さず、さらにあることを話した。

「そういや、君かな?うちの隊長が張り倒したローブの男って・・・」
「!」
「まさか、もう使えない銃を持って威張っていたなんて・・・不覚にも笑っちゃったよ」
「やはり、下賎な男の配下は下賎でしかないようですね・・・」
「的中のようだね? それに僕はあの隊長の配下でもない。部隊の管理者である研究員だよ」

 白衣の少年は左手でメガネを整え、鋭い表情で相手を見つめた。

「悪いけど、稚拙な輩の言うことなぞ・・・最初から聞いていない」
「稚拙・・・だと? 我々が稚拙だと!?」
「ほら、そこ。さっきレシィが君を暗殺者って言ってたけど、冷静さが全くない暗殺者だね。それこそ稚拙と断言できる」
「この、小僧が・・・」
「それにね・・・」

 エスタは足もとに四つの物体を落とすと、思念でホーネットシステムを作動し、ハミングバードを宙に浮かせる。それに釣られてレックスも右腕のプラグを抜いて、戦闘態勢に移行した。

「僕達にとって人種差別はもう古臭い考え方でね。そういう思想の人間は同じ人間として恥ずかしいんだよ」
「我々の使命が、主神の教えが古臭いだと!?」
「そういうこと。神にすがりついて、自身は何もしないなんて、何時まで経っても進まないだけだよ。時代へ追いつくには自身で進んだ方が早い。まあ、こんなことを古臭い君達に言っても意味がないかもね」

 エスタの言葉にジドだけでなく、他の4人も腹を立てたらしく、彼ら全員が両手に小型のナイフを取り出す。

「秀才で物分りが良さそうに見えたが、見当違いだったようだ」
「秀才はあってるよ。だけど、そちらの方が物分り悪いんじゃない?」
「言わせておけば・・・貴様達はつけ上がりよって!」
「それより、そこを退いてくれない? 帰るのに邪魔」
「こうなれば、ここで汚れた魔物と同様葬ってくれる!」
「やれやれ・・・レックス、倒せる?」
「人数が多く、非殺傷目的での戦闘はやや困難かと・・・」

 一触即発になるドラグーン隊と暗殺者達。お互い全員が構え、きっかけを待ち続けた。

ズウウウウウウウン!!
「!?」
「なんじゃ!?」
「えっ? えっ? 地震!?」
「「「「「!?」」」」」

 突如、室内全体が揺れるほどの地響きが巻き起こり、その場に居た全員が戸惑い始める。赤色ランプの警報が鳴ると同時に、何処からかアナウンスが放送された。

『WARNING Please evacuate the laboratory Repeat・・・』
「なっ、何を言っているのじゃ!?」
「この建物から避難しろと言ってる! レックス!」

 少年の指示でレックスは再度操作盤にプラグを差し込む。画面に次々と表示が現れ、2、3秒終えてから少年にある報告をした。

「施設内の動力炉下部からエネルギー反応を確認しました。これは・・・ドクター、異形者です!」
「何だって!?」
「なんじゃと!?」
「うっそ!」

 予想外の出来事にエスタ達だけでなく、ジド達も周りをキョロキョロする。そうこうしている間に建物が揺れ、あちこちに亀裂が入り始めた。

「ドクター、このままでは!」
「こりゃまずい。君た・・・」
「あやつらなら、もう逃げおったぞ」

 レシィの言う通り、先程のローブの男たちはすでに姿を消していた。モニターには通路を走る男たちの姿が映っている。

「はやっ!? 流石アサシン!」
「出遅れたね。僕たちも急ぐよ!」
「兄上、待つのじゃ!」

 レシィの静止の言葉に、3人は立ち止まった。

「あの、レシィさん。早くしないと・・・」
「心配するでない、片割れよ。ほれっ!」
「「「!」」」

 少女の掛け声とともに、その場の床に魔法陣が出来上がった。彼女の特技である転移魔法である。エスタが驚いて彼女に尋ねた。

「何時の間に?」
「兄上の機体から降りた時、もしものために用意しておいたのじゃ」
「では、此処から『G.A.W』の場所まで転送可能でしょうか?」
「無論じゃ!ほれっ、早く!」

 レシィを中心に、3人は魔法陣へと足を踏み入れる。そして、次の瞬間、光とともに4人が姿を消し、その入れ替わりに彼らの居た場所へ天井の一部が落ちてきた。



<施設内 資材置き場>

 置いてきた機体付近の魔法陣から、エスタ達が出現し、それぞれ乗って来た機体に乗り込む。ここも地響きと同時に、壁や天井の一部が少しずつ崩れ落ちてくる。

「レシィ、早く乗って!」
「よいしょ!」
「レート、操縦は私が」
「任せたよ!」

 エスタとレシィが乗る『NYCYUS』とレックスとレートが乗るチェイサー。それぞれが宙に飛んで、外に向かう通路を飛び進む。高速で飛行する彼らの向かう先に、出入り口の扉が誤作動か何かによって閉じようとしていた。

「あああああ!やばいいいい!」
「ドクター!」

 二人の叫びへ呼応するかのように、『NYCYUS』の左上部に付いていたプラズマカノンが発射され、左側の扉下に直撃する。エネルギー爆発によって変形した左側の扉は止まり、右側の扉は動いたままではあるが、彼らは難なくその間を通り抜けた。

「抜けたのじゃ!」
「レックス、上昇するよ!」
『了解!』

 指示を出したエスタが乗る『NYCYUS』に続いて、上空に向けて飛び上がるチェイサー。彼らは一定の高さまで飛び上がり、そこから先程の施設が埋まっている山を眺める。

ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!
「山が・・・」
「あの建物のあった所から何かが出てきおる」
『ドクター、反応数1 クラスGの質量です』

 彼らの居た山の麓辺りの地中から、ありえない大きさの物体が這い出てくる。それは約全長50mの平たい体型を持ち、しなやかに上へそそり立つ太めの尻尾を掲げ、十数本の大木を一気に切り落とせるほどの巨大なハサミを振り回し、オレンジに輝く一つ目をした巨大過ぎる異形。

「テ、テールカノン!? デカすぎ!」
「テールカノンキング。胴体以外を含めれば50mは超えます」
「前のダンゴムシと同じくらいじゃん!」

 レックスの後ろで喚くレート。エスタとレシィもコックピットの前方三画面モニターで異形を眺める。

「何という大きさじゃ・・・」
「尻尾もあれぐらいだと、威力が大きいだろうね・・・ん?」

 何かに感づいた少年の声を聞いて、少女も釣られて彼の視線の先を見た。巨大な異形自身が少し右側へ向いて、その先の森を見つめる。その時、左隣に居たチェイサーのレックスから通信が入った。

『ドクター、北東の方角に生体反応5確認。先程の暗殺者達と思われます』
「まさか、あやつはそれに!」
「まずい!レックス、彼らを・・・」
「GUMOOOOOOOOOOOOON!!」
ドォォォン! ドゴォォォォォォォォォォン!!

 少年が指示するも、異形はすかさず尾の先から赤く燃える球を発射し、例の暗殺者が居たであろう森一帯が吹き飛ばされる。木々を薙ぎ倒し、爆発した中心からは巨大なキノコ雲の煙が出現した。

「!」
「・・・・・・レックス」
『生体反応が消失しました・・・』
「くっ・・・」

 歯を食いしばる少年は、画面に映る異形を睨む。一方の異形はハサミを大きく広げながらエスタ達のいる上空へ一つ目を向けた。

「今度はこちらか!レックス、散開!」
『了解!レート、掴まってください!』
「兄上!ひゃっ!?」
「掴まってて!」

 機体が揺れると同時に、機内でも感じられるほどの衝撃が外から響いてくる。画面では異形はこちらに向けて赤熱球を放つ姿が映っていた。そう、異形が狙う次の標的は彼らである。

「ワシらを撃ち落とすつもりか!?」
「そうだろうね!でも、そういう訳にはいかない!」

 エスタは左右の操縦ハンドルを素早く動かし、機体の正面を異形に向ける。右上部に取り付けられたGPガトリングが連続で火を吹いて、異形目掛けて弾丸が撃ち込まれた。連続で発射された弾丸は巨大な異形の頭部辺りに命中するが、すぐに両腕のハサミで防がれてしまう。

「巨体だけあって硬さも尋常じゃないな。なら、これはどうかな!?」
バシュウウウウウ!

 少年はガトリングでは効かないと判断して、今度は左上部のプラズマカノンを発射した。ピンク色のエネルギー弾は異形のハサミに当たって爆発し、その外殻に亀裂を生じさせる。

「兄上、やったのか?」
「いや、浅かった。あれじゃすぐに再生する」

 彼の言う通り、出来たばかりのハサミの亀裂は5秒も経たない内に消失した。すかさず牽制でガトリングを発射していると、少女が少年の耳元へ話し掛ける。

「兄上、ワシがあやつにキツイのお見舞いする。それまで時間を稼いでくれまいか?」
「レシィ?・・・魔法かい?」
「うむ、強力ではあるが、詠唱し終えるにはかなり時間が必要じゃ」
「それまで稼げば奴を倒せるの?」
「サソリの丸焼きが出来るぞい♪」

 無邪気な顔で笑う少女に、エスタは微笑んで頷いた。

「カリカリが好きだから、芯まで焼いてね」
「も、もちろんじゃ!」

 少女は照れながらその場で詠唱して転移する。転移した場所はレックス達の乗るチェイサー。少女はその前面上部へ、右片足だけで垂直に立った。それを確認したエスタは操縦ハンドルを強く握って、機体を巨大な異形へと飛び向かわせる。

「じゃあ、ちょっと濃い味付けをしようか!」

 異形は少年が乗る機体に向かって、巨大な赤熱弾を発射した。しかし、それは機体のエネルギー砲によって撃ち落とされる。エスタは異形の背後へ回り込むように、旋回しながらガトリングを撃ち続けた。

「GUMOOOOOOOOOOO!!」

 『NYCYUS』がすばしっこい相手だと認識した異形は、尻尾の先に新たな射出孔を左右2つへと増やし、先程より小さい赤熱弾を3方向へ飛ばす。

「そう来るか」

 攻撃範囲が拡がったことを確認し、少年は機体を下降して避けた。意表を突いた攻撃を避けられて一瞬呆けた異形。エスタはプラズマカノンを3連射しながら、機体を地面へと着地させる。

ドォォ!ドォォ!ドォォォォン!!
「・・・・・・防がれたか」

 彼の言う通り、異形はハサミで全てのエネルギー弾を防いでいた。エスタは咄嗟に左手でハンドルにあるスイッチを押し、機体下部から放物線を描いて円柱の物体が射出される。

ボシュッ!ボシュッ!

 地面に着弾したそれは、いきなり煙を上げて爆発した。突然の煙幕が張られると同時に、エスタは機体を再び浮き上がらせて、上空からガトリングを浴びせる。



 異形とエスタが争っている場所から離れた遥か上空。レックスとレートが乗るチェイサー。その前面上部に立っているレシィは、赤い光を両手で包み込むように集束させ、詠唱を唱える。

「どんな魔法かな?」
「レート、お静かに」

 期待して見ているレートに注意するレックス。それを気にせず、少女は彼らには聞き取れない単語を呟き続ける。下で戦い続ける少年を気にしながら・・・。

(兄上・・・もう少し・・・もう少し耐えてくれ!)



『GPガトリング 残弾0』
「撃ちすぎたか」

 中央のモニター画面右下に表示された武装の残弾が、警告音とともに赤く点滅した。仕方なく左上部の武装プラズマカノンを速射するも、こちらは砲身の熱量が増加し、オーバーヒートでしばらく使用不可になってしまう。

「GUMOOOOOOOOOOO!!」
ドォォォォン!
「!」

 いつの間にか、一つの射出孔の尻尾へと変異させた異形は、攻撃できない状態の機体へ炎を纏った赤熱弾を放った。その弾速は遅く、余裕で回避できるだろうと判断したエスタは、機体を右側へ傾き飛ばす。

「・・・!」

 この時、彼はあることに気付き、ジェットエンジンの出力を最大まで上げた。先程の赤熱弾が徐々に亀裂が入り始めていたことに・・・。

「しまっ・・・」
バァァァァァァァァン!

 赤熱弾との距離はかなり離れていたが、それでも飛び散った複数の破片が機体に直撃する。咄嗟に機体を右斜めへ傾けたことにより、致命傷は避けるも、機体右側のメインのジェットと左脚部が被弾した。

『警告 レフトジェットエンジン:停止 左脚部:作動不能』
「くっ! 墜ちる・・・」

 コックピットはアラート画面から浴びせられる赤い光に包まれ、少年は操縦ハンドルを必死に引っ張る。機体はくるくる回転しながら地上へと不時着した。

「ぐうっ!」



「ドクター!!」
「やばっ!? エスタ!!」
「!?」

 上空から様子を伺っていた2人は驚愕の声を上げ、呪文を唱える少女も動揺してしまう。しかし、彼女は落ち着きを取り戻し、仕上げの術式を唱えた。

(絶対に死なせん! ワシの、ワシの兄上!)

 地上へ落ちたエスタの機体は、異形と真正面に対峙する。モニター画面で相手を睨む少年。異形はまるで勝ち誇ったかのように雄叫びを上げた。

「GUMOOOOOOOOOOOOOOON!!」

 唯一、まだ使用可能なプラズマカノンは後20秒も冷却が必要なため、彼に出来る行動は最早耐えるしかなかった。とどめの砲撃をしようと、異形が尻尾の先を『NYCYUS』に向ける。

(機体が持ってくれるだろうか・・・)

 自身を滅ぼす砲弾が来ると予想し、少年はモニター画面を見つめ続けた。その時、異形の居る地面に赤い光が輝き始める。突然の異変に彼だけでなく、異形も戸惑ってその場を右往左往に動き回った。

「獄炎なる、遥か地下を泳ぎし者よ! その身で、我が敵を焼き抱け!」

 レシィがそう叫ぶと、異形の地面下に巨大な赤い魔法陣が出来上がり、所々で炎が噴出した。

「ヒドラフレイム!!」

 少女の叫びとともに、魔法陣の至る所から蛇の形をした炎が異形に絡みつく。

「OOOOO!? OOOOO!! OOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
「!?」
「じっくり熱してやるのじゃ!」

 異形の足やハサミ、身体や尻尾へと炎の蛇が巻き付いて行く。ただの炎ではないらしく凄まじい熱で、すぐに異形の甲殻が溶け始めた。

「OOOOOOOOOOOOOOOO!!」
バァァァ! バァァァ! バァァァァァァァァァン!

 突如、炎の蛇に絡みつかれていた尻尾が連鎖的な爆発を起こした。どうやら、蛇の高熱で尻尾内部の赤熱弾が引火したらしい。異形の尻尾は無残に破裂し、根元までもげた。次第に動きが鈍くなり、身体の前面を守っていたハサミも溶け落ちる。

「ちょっと焼きすぎだよ。まあ、おいしい部分が見えたからいいか」

 モニター画面にプラズマカノンが使用可能と表示され、エスタは砲身だけを動かして狙いを定めた。狙うは異形の顔面であるオレンジ色の一つ目である。

「さっきのお返し、あげるよ!」
バシュウウウウウ!

 放たれたエネルギー弾は異形の目に向かって真っ直ぐ飛んで行った。直撃した瞬間、オレンジ色の目は破裂して爆散する。致命傷を受けた異形は炎の蛇に焼かれながら溶けていった。

シュウウウウウ・・・
「ふぅ・・・」
『レフトジェットエンジン:自己修理中 左脚部:使用不可』

 少年は安堵のため息を吐き、画面の表示に目をやる。それと同時に、機体の目の前にレシィが転移魔法で現れたこと確認した。彼がコックピットのハッチを開けると、彼女が凄い勢いで彼に抱きついた。

「わっぷ!レシィ?」
「兄上! 無事でよかったのじゃあああ!」
「ああ、痛いから! 角が痛いよ!」
「あっ、す、すまんのじゃ!」

 少女の角が少年の胸元を擦り、少し不快な圧迫感を与える。彼は両手で少女の肩を掴んで引き離した。

「でも、凄いな・・・あの巨体を焼きつくすほどの術。覇王バフォメットは伊達じゃないね」
「えっへん!」
(子どもっぽいところも目立ってるけど・・・)

 チェイサーに乗ったレックスとレートも降りて来て、少年に話し掛ける。

「ドクター、お怪我は?」
「機体しかダメージはないよ」
「むふふ、な場面だな」
「レート、新しい実験台にするよ?」
「遠慮する!」

 ピピィと電子音が鳴り、エスタが左の画面に映る表示を見ると、故障したジェットエンジンが間もなく使用可能なことを確認した。

「さて、もう少したら、帰りますか」
「ええ、長いは無用です」
「あのアサシン達・・・可愛そうに・・・」
「ワシの兄上に手を出そうとした報いじゃ」
「レシィ・・・そういうことは言わないでおこうよ?」
「むぅ・・・兄上がそう言うのなら・・・」

 右手で少女の頭を撫でるエスタは、閲覧したデータについて考え込む。

(あれは一体・・・『G.A.W』の元となった素体は自身の手の内にあったはず・・・それにあの施設・・・どう見てもこの世界の文明じゃない。僕達の世界から流れ着いたものなのか?)
11/12/31 16:37更新 / 『エックス』
戻る 次へ

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33