連載小説
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沈むべき火砲の尾
<砂漠地帯 ピラミッド入口>

 巨大なピラミッドの入口に黒毛の手足と尻尾を持つ女性が立っていた。彼女はこのピラミッドの管理者であるアヌビスのイシュタ。彼女がピラミッドの入口近くで空を眺めていると、遥か向こうの空から3つの影が近づいてきた。

「来たか・・・」

 やって来たそれは、鉄の乗り物に乗った黒服の男たち。ピラミッドの手前に着地して、乗り物から降り立った。イシュタは彼らにゆっくりと近寄る。

「お久しぶりです、イシュタ様」
「以前出会った異世界のゴーレム、レックスか・・・また会ったな」
「お初にお目にかかります、ドラグーン隊の隊長イーグルです」
「・・・同じく隊員のブレード」

 彼女はイーグルの差し出された手を握り、無言のまま、モフモフの手で握手する。

「例の“竜の部隊”か。なかなか、腕の立ちそうな輩を連れているようだな」
「他の者は若年の姿ではあるが、少し特殊です。それではイシュタ殿・・・早速、マガイモノの件について・・・」
「ふむ、では詳細を簡潔に話そう」

 彼らがピラミッドに来た理由。それは複数のマガイモノがピラミッド付近の砂漠地帯に出現したと、イシュタからギルドへと連絡が入ったからだ。ドラグーン隊はそれの討伐のため、3人の隊員をスカイチェイサーでピラミッドへ向かわせた。

「3体ほどのデカブツがいるそうだ。詳しい形状は彼女たちに聞いてほしい」
「彼女たちとは?」
「隊長、後方から熱源を確認。恐らく地中からだと思われます」
「何?」
「・・・」

 レックスの警告とともに、彼らの後方の砂中から3体の何かが現れる。それは上半身が女性で盗賊の恰好をし、下半身は赤茶色のサソリのような虫の身体をしていた。

「イシュタ様、彼女たちが以前おっしゃっていた方たちで?」
「彼女たちがギルタブリル。私の管轄である魔物たちだ」
「サソリ・・・まさに砂漠の暗殺者か」
「・・・」

 内心驚いてはいるものの、冷静な表情で近づいて握手を求めるイーグル。中央のサソリの女性は警戒しながら手を握り返す。

「ドラグーン隊のイーグルだ。よろしく」
「こちらこそ・・・」
「君らの知っている情報を聞かせてくれ」
「あの怪物は私たちと似ている・・・」
「!」

 彼女の言ったことに対して、イーグルは鋭い表情になって頷いた。

「やはり居たか・・・そいつは音に敏感だ。慎重に接近して倒す必要がある」
「それならば、私たちがそこまで連れて行こう。隠密は私たちの基本でもある」

 そう言った彼女は尻尾を高く上げて、虫の甲殻の背中を見せる。どうやら、乗せてってくれるようだ。

「すまない。では、頼むぞ・・・え―と・・・」
「名は夫になる者以外には教えぬ。一時的な呼び名を付けても構わない」
「そうか・・・では“G−1”とでも呼ぼうか」
「ジーワン?」

 聞き慣れない言葉に頭をひねるサソリの女性。それを見たイーグルは解りやすく答える。

「戦闘の際に仲間だけが解る暗号名だ。Gはある文字の一字。君ら種族のイニシャルで取ってみた。1はその隊員ナンバー的なものだ」
「気に入った・・・使わせて貰う」

 イーグルは失礼と一言言って、彼女の甲殻に片膝をついて乗る。

「ブレードは右のG−2に、レックスは左のG−3に搭乗させてもらえ」
「了解」
「・・・了解」

 両隣にいるサソリの女性に近寄って背中に乗る2人。ブレードは難なく乗るも、レックスが乗っかった女性は少しキツイ表情になる。心配になってレックスが声を掛けた。

「大丈夫ですか?」
「意外と重いね、あなた・・・でも、大丈夫よ」
「そうですか。私の総重量は900kg以上ありますので、無理はしないでください」
「あなた何者?」

 予想以上の重量に驚くG−3。レックスは人型機械であるが故、その装甲金属を含めれば3mのサメと同じくらいの重量である。それでも目立った苦しさを見せないG−3の姿にイーグルは目を丸くした。

「これも魔物としての人間離れした能力か・・・」
「お前たちの乗って来た乗り物は、管理者である私が見張っておこう」
「イシュタ殿、すまない。では、G−1、案内を頼む」
「振り落とされるなよ」

 3人を乗せたサソリたちは、ピラミッドとは反対の方向へ向いて、砂漠を駆け出し始める。残されたイシュタは目を薄めて彼らを見送った。

「異世界か・・・未だに信じがたいが、不吉を感じる・・・何事も無ければいいが・・・」



 砂上を難なく走り抜けるサソリたちに乗るドラグーン隊。彼女たちは思った以上に足音も出さず、徒歩以上の速さで移動していた。

「・・・」
「・・・」

 G−2と名付けられた女性の甲殻の背中に乗るブレード。彼の背後にあったサソリの尻尾が少し上がり、今にも彼の背中を串刺しにしそうな体勢になる。

「・・・」
「・・・鋭いわね、あなた」

 いつの間にか、ブレードは逆手に持った右手のナイフを彼女の首筋へ突きつけていた。彼女は冷静な態度で彼の方へ首を曲げて視線を合わす。

「・・・乗った時から気付いていた」
「そう・・・試したつもりだけど・・・」
「・・・その試みが本気なら、終わっていた」
「それってあなたの方が?」
「・・・お前の方だ」

 振り向いていた彼女が再び正面に視線を戻すと、尻尾の先端が左に向き、それと同時にブレードもナイフを収める。

(魅力のある匂いだが・・・今は任務のため、手は出せぬ。名残惜しいわね・・・)



 やがて、彼らはある横幅が広い砂丘の手前で立ち止まった。ギルタブリルに乗っていた3人は降りて目の前の砂山を見つめる。イーグルが隣にいるG−1に尋ねた。

「この先か?」
「そうよ・・・この丘を越えた先に三体の化け物がいる」
「よし・・・レックス、偵察を頼む」
「了解」

 指示されたレックスは丘の頂上付近まで歩いて行き、その手前で砂中へと潜り込んだ。数分後、同じ場所から再びレックスが飛び出して、イーグルたちの元へ戻ってくる。戻ってきたレックスは、左腕から光学表示を出して映像を彼らに見せた。

「・・・3体、ラージの方か」
「形状やエネルギー波が過去のデータと一致しました」
「知っているのか?」
「ああ、我々はこの異形者を“テールカノン”と呼んでいる」

『テールカノン』

 灰色のサソリの体型で、一つ目のような発光眼を持つ異形者。最大の特徴が尻尾の先が砲台のような射出孔となっており、そこから炸裂弾を発射。視認できる遠距離まで飛ばすことが可能で、威力も鉄の装甲を簡単に破壊できるほど強力である。この異形者にはグロウとは違うタイプが存在し、2mがスモール“S”4mがラージ“L”というタイプがいる。

「正面と左右斜めに別れているな。それぞれ同時に倒すぞ」
「正面の目標は近いですが、左右の目標はかなり離れています」
「よし、正面はブレード、右側はレックス、左は私だ」
「私たちはどうすればいい?」
「それぞれの移動を補助して欲しい」
「分かったわ」

 左右に別れて移動するイーグルとレックス、そして、彼らに付き添うギルタブリルの2人。残されたブレードとG−2は少しずつ頂上へと登り歩いた。頂上付近に来た時点で立ち止まり、ブレードは背負っていた『PAIN.SNAKE』を構える。隣にいたG−2が小声でしゃべりかけた。

「どうするつもり?」
「・・・敵の攻撃を封じてから接近、即効で殲滅する」
「なら、私がそこまで運ぶわ」
「・・・助かる」

 彼はロケットランチャーのスコープを展開させて、耳の無線に手を伸ばす。

「・・・位置に着いた」
『こちらも着きました。現在、プラズマバスターのチャージ中』
『レックスと私のチャージが完了次第、攻撃を開始する、いいな?』
『了解』
『・・・了解』

 イーグルは光学ライフル、レックスは腕部光学砲のエネルギーを充填させていた。一瞬だけ隣のG−2に目を合わせるブレード。

「・・・」
「・・・」
『行くぞ、3、2、1・・・GO!』

 3人が丘の向こうへと飛び出し、正面に映った異形者の姿を捕らえた。彼らが狙う場所、それは敵の尻尾の先端である。僅かな時間で狙い澄まし、まばゆい光と鋼鉄の弾頭を放った。

「「「BUMOOO!?」」」

 3体の異形は敵の存在に気付いて声を上げるが、時すでに遅く、自慢の尻尾に手痛い攻撃が直撃する。直撃した尻尾は甲殻と肉片を撒き散らすほどの爆発を起こした。

「「「OOOOOOOOOOO!!」」」
「・・・奴の手前まで行け!」
「掴まって!」

 爆発を確認したブレードはG−2に乗り、正面の異形に向かう。その際、左右では複数の光線と光弾が異形たちを貫き始めていた。

「BUMOOOOOOOO!!」

 唯一の射撃部位を破壊された異形は向かってくる彼らに対して、巨大なハサミで迎え撃とうとする。

「・・・」

 ブレードは愛用のグリードキラーを右手で取り出し、刃を展開させた。さらに左手で『RAY.EDGE』を取り出して、グリードキラーの柄頭に押し込む。目標との距離は目前である。

「・・・はっ!」
「!」

 勢いをつけてブレードは彼女から飛び降りた。彼女もそれを確認して左に曲がる。飛び降りた彼は目の前の異形へ一直線に走り向かう。

「BUMOOOOU!!」

 異形の右のハサミが振り下ろされ、彼はその攻撃を右へとかわす。それを狙っていたのか、今度は左のハサミが彼の右から襲い掛かる。

「・・・ふっ!」

 しかし、彼は体勢を低くして、前転で難なくかわした。二度も攻撃をかわされた異形は、焦りながらも左右に開く大顎開けて噛みつこうとする。

ガキン!
「BUMO!?」
「・・・鈍いな、何もかもが!」

 すでにブレードは高くジャンプし、異形の顎は空を切った。異形の背中に向けて、彼はグリードキラーを両手で逆手に持ち、輝く赤の光刃を纏わせて飛び降りた。

「・・・はああああああああ!!」

 飛び降りると同時に、光の刃を異形の背中へ突き刺す。

「OOOOOOOOOOOOO!!」
「・・・鳴くのを、止めろ!」

 彼は突き刺さる剣の柄を逆手から正手に戻し、そのまま異形の頭まで切り裂いた。高々と上がった刃に引き裂かれ、異形は煙を上げて力尽きる。ブレードは溶ける異形から飛び離れて、いつの間にか戻ってきたG−2に歩き近づく。

「流石ね・・・私の攻撃を見抜いたのも納得できるわ」
「・・・お前より、こいつらの方が相手しやすい」
「それって馬鹿にしてるつもり?」
「・・・そうではない」
「?」

 ブレードは光学大剣を仕舞って、彼女に背中を向けながら遠くを見つめた。

「・・・こいつらに感情はない。だが、人間やお前たちのような人外には感情がある。その違いだ」
「はぁ?」

 一方のイーグルは長銃を背負って、周囲の景色を見渡す。

「殲滅できたようだ・・・総員、撤退準備!」
「意外と簡単に倒せるのね」

 隣にいたG−1は腕を組んで溶け消えていく異形を眺めた。彼女の言葉を聞いて、彼はあることを語り始める。

「先手で奴らの攻撃を無力化させたから殲滅は容易になった。だが、奴らは一体で一個小隊を全滅させるほどの危険性がある」
「そんなに強いのか!?」
「そうだな・・・この世界なら多数の騎兵すら相手にならないだろう」
「そんな化け物・・・一体どこから・・・」
(それが我々の一番知りたいことだが・・・)

 そう思いながらG−1の背に乗ると、ブレードとG−2がこちらに向かって来た。レックスの方は、まだ、こちらに向かわず、砂丘の頂上で何かを探すかのように佇んでいる。不思議に思ったイーグルが彼に無線を飛ばした。

「レックス、どうした?」
『・・・』
「レックス!」
『失礼、隊長。今から向かいます』
「んぅ?」

 彼の奇妙な行動に、イーグルは首を傾げながら様子を伺う。

「ねえ、あんた、行かないの?」
「お待たせしました。行きましょう」
「?」

 レックスの隣にいたG−3も彼の行動が理解できず、声を掛けて催促した。

(ドクターの予想通り、例のエネルギーを感知。ですが、予測された数値より低いですね)



<砂漠地帯 場所不明>

 彼らと異形との戦闘が行われている際、その光景を見つめる視線が一つあった。ある砂丘の頂上に砂と似た布があり、そこから何かが覗いている。しばらくして、彼らが去ったことを確認すると、布が蠢きだして黄褐色の服を着た男2人が姿を現した。彼らの胸元には十字の首飾りがかけられている。

「あれが例の戦士たちか・・・」
「信じられん。あれほど巨大な怪物を簡単に・・・それに、光の刃を持っていた男が例の勇者を倒した奴・・・」
「らしいな。情報通り、傷だらけで黒い服を着た黒髪の男で間違いなさそうだ」

 彼らは手にしていた筒状の望遠鏡を仕舞い、その場から立ち去ろうとした。その時、男の1人が何かによって太陽を遮られたことに気付く。慌てて、上空を見つめて警戒するが、空には何も居なかった。

「どうした?」
「いや、何でもない・・・」

 もう1人の男に声を掛けられて、彼はもう一度歩き始める。
11/10/30 09:23更新 / 『エックス』
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