連載小説
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焦げし刃の捜索
<都市アイビス ギルド宿舎 個室>

 鱗を纏った女性がベットで仰向けに寝ていた。ぐっすりと眠っていた彼女は、ふと何かが覆い被さる違和感に気付いて目を覚ます。正体を確かめるべく、うっすらと目を開けると、そこには褐色肌の女性が自身に覆い被さっていた。

「・・・」
「アタイの夫〜」
「ふんっ!」

 すかさず、寝言を言う彼女の頬へ鱗の右手パンチ繰り出し、部屋の端まで吹き飛ばす。飛ばされた褐色の女性はその衝撃で目を覚ました。

「いって〜何しやがる!」
「こっちのセリフだ!人のベットに寝ぼけながら入って来るな!」

 鱗の女性の名はリオ・カルディス。リザードマンと言われるトカゲの手足と尻尾を持つ武術を得意とした種族である。褐色の女性の名はケイ。アマゾネスと言われる身体能力に優れ、サキュバスのような尻尾と角や翼が身体右側に片方だけ生えている。

 彼女たちが一緒の部屋にいる理由。単純に金欠だからである。普通の宿でも彼女たちの資金では泊まれないため、ギルド登録した者だけが利用できる宿舎で寝泊まりしていた。無論、こちらもただでは泊まれないが、ギルドの依頼をこなすことで宿代は破格になる。

 目を覚ました2人は身支度を整え始めた。リオはショートソードを腰に取り付け、ケイは大剣を尻尾で巻きつかせて背中に背負う。

「で、リオ、どうするつもりだ?」
「ようやくギルドの依頼をこなした分、余裕ができた。今のうちに、あいつの情報でも得ておこう」
「抜け駆けすんじゃねえぞ」
「そっちこそな」

 不仲に見える2人が共同で過ごしているのには大きな理由があった。どちらも婿探しの旅をしていて、強い人間の雄を探していた。種族としての本能でもあるその行動は、彼女たちにとって大切なことでもある。

 そんな旅の途中に訪れたこの街で、彼女たちはある人物と出会う。最初は傷だらけの歴戦の戦士だと思った2人。勇者襲撃事件をきっかけに、彼女たちは彼の正体に驚きが隠せなかった。

 彼の名はブレード。異世界から来た戦闘部隊の隊員の1人。傷だらけの身体で無愛想な態度を取る若々しい男性。そして、何より彼女たちが一番注目したのが、余裕で勇者を倒してしまう戦闘力である。

(絶対にあいつを娶ってみせる!)
(絶対にアタイの物にしてみせる!)

 現在、彼は彼女たちの求愛を拒んでいるうえに、もう1人の魔物娘に目をつけられている。彼女たちはそんな厳重で異質過ぎる彼を手に入れるため、お互い協力することにしたのだ。



<都市アイビス ギルド本部>

 宿舎と繋がっている酒場を通り過ぎようとする2人。そんな彼女たちへカウンターに居た受付嬢が話し掛けてきた。

「あら、あなた達。今日も一緒にお出かけ?」
「好きで一緒にいるわけではない」
「目的が一緒なだけだっつぅの!」
「ふふ、ごめんなさい。それよりもあなた達、これをやってくれない?」

 受付嬢がある洋紙を取り出して、彼女たちに差し出す。受け取ったリオは内容を読んだ後、すぐに洋紙を返した。

「無理だな・・・ホーネットでは分が悪い。それに交渉も得意ではない」
「飛んでるやつの相手なんてできるか!」
「そう・・・じゃあ、これは保留しておくわ」

 残念そうな顔をして洋紙をしまう受付嬢。

「また、あの傷だらけの戦士のところに行くの?」
「そうだ」
「物好きねぇ・・・まあ、あれほど魅力的な男の子はそうそういないからね」
「あいつは渡さねえぞ」
「はいはい、いってらっしゃい」

 受付嬢は2人の後ろ姿を見ながら手を振った。彼女たちが酒場から出ていくと、カウンターの手前の床に魔法陣が出来上がって光り始める。

「?」

 光とともに見知った少女と見知らぬ少年が姿を現す。

「あら・・・」
「久しぶりなのじゃ、マム」
「レシィ、此処は何処よ・・・」



<都市アイビス 北エリア>

 リオとケイは市場通りを歩きながらブレードのことについて話し合っていた。どうやって自分たちに惚れ込ませるかを検討し合う。

「やっぱ、力づくは無理か?」
「勇者を倒したあいつにか?聞いた話では複数の訓練兵を相手にしても、一撃すら与えられなかったそうだ」
「ホントに人間か?反則じゃねえか」
「こうなれば、あいつの部屋に押し切って既成事実を・・・」
「それは止めといた方がいいぞ」
「「!?」」

 第三者の意見に気付いて、彼女たちが後ろを振り向くと、そこには黒服で青いバンダナを鉢巻のように巻いた青年が立っていた。ドラグーン隊の遊撃隊員ラキである。彼は右手に齧りかけのリンゴを手にして、彼女たちを眺めていた。

「君ら、ブレードを追っかけてる例の2人だろう?」
「そうだが・・・あいつの仲間か?」
「少し、頼りなさそうな男だな」
「頼りなさそうで悪かったね!」

 ケイの感想に腹を立てる青年は、咳払いをして平静を装ってしゃべり続ける。

「あいつの部屋に押し入るのは止めた方がいい」
「どうしてだ?」
「なんかあるのか?」
「俺たちの戦艦には至る所に警報装置が付いてる。ドアを叩き壊すと、とてつもない音が鳴ってやかましくなるぜ」
「「ぬぅ・・・」」

 ラキの警告でさらに頭を悩ませる2人。そこでケイは彼にあることを尋ねた。

「おい、お前。あいつについて何か知ってんのか?」
「ブレードのことか?ん〜そうだな・・・」

 質問されて考え込む青年。程無くして閉じていた目を開ける。

「正直、俺にも分からん」
「「はっ!?」」
「いや、あいつと出会ったのは、ドラグーン部隊が出来た時点だし・・・戦闘だろうが、プライベートだろうが、自分のこと、何もしゃべらねえぞ」
「何でもいい。あいつに関することはないだろうか?」

 今度はリオが懇願するも、気難しそうに彼は答えた。

「そうだなぁ・・・戦闘が無いときはトレーニングして、戦闘時はよく怪我してるよな」
「それだけか?」
「うん、あとは解らん!」

 自信満々な顔で両手を腰に当てるラキ。リオは呆れながら近くの出店でリンゴを買い、青年に手渡した。

「教えてくれたお礼だ」
「えっ?いや、そこまでせんでも・・・」
「遠慮するな、私からの些細な好意だ」
「じゃあさ、アタイと少し付き合ってくれるかい?」
「そ、そっちは遠慮します!」

 リンゴを受け取ったラキは、その場から慌てて走り出す。

(危ねえ・・・でも、リンゴか。早くポケットに・・・)
ドンッ!
「おっと!」
「きゃっ!」

 前を見ずに歩いていた青年は、左横から来た白服の女性とぶつかる。その拍子にリンゴを落としてしまうが、ぶつかった女性が拾い上げてくれた。

「あ、お嬢さん、ごめんね」
「こちらこそ、すいませ・・・」
「?」
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「はっ!?」

 ラキは彼女の姿を見た瞬間、背筋が凍りつてしまう。その女性は人間ではなく、牛角と尻尾を生やした白肌の女性だったからだ。しかも、リンゴを見て興奮して荒い息を立てている。以前の記憶が脳裏に思い浮かび、彼は即座に右横へ走り出した。

「あ、待ってええええ!私という落し物がああああ!」
「あなたを落とした覚えはありませええええええん!」

 追われる青年をリオとケイはきょとんとした表情で見ていた。

「オレンジの方がよかったかも知れんな・・・」
「いや、おせえよ」

 2人は再び、ドラグーン隊の戦艦へ行くために向きを変えると、正面の向こうから見覚えのある金髪の男性が歩いてくる。

「おや?あなた達は確か、リオ様とケイ様ですね」
「お前は、あの時の・・・」
「あっ!アタイを掴みあげた男!」

 高性能ロボットのレックスである。

「お二人につかぬ事をお尋ねしますが、ドクターの姿を見ていませんか?」
「「ドクター?」」
「ご存じのはずですが、以前、ブレードのお見舞いの際に出会った小柄なメガネの少年を見ていませんでしたか?」
「ああ、あの少年か」
「メガネのボウヤ?ああ、あの時に居たガキか・・・」

 白衣の少年のことを尋ねられて、その特徴を思いだす2人。

「すまないが、今日、一度も見ていない」
「ラキって奴ならさっき、ホルスタウロスに追っかけられてたな」
「そうですか・・・失礼しました」

 会釈して立ち去ろうとするレックスに、リオはあることを尋ねる。

「そうだ、ブレードが何処にいるか知らないか?」
「ブレードですか?彼ならすでに起床されて、艦から降りたようです」
「「えっ!?」」
「残念ながら、行先に関しては不明です。では・・・」

 早足で去った彼を見送りながら、2人はため息を吐いた。

「船に居ねえなら、街のどっかにいるのか?」
「そのようだな。下手すれば首なしに先を越されたかも知れんな」
「え?それって、やべえじゃん!」

 焦り出すケイに対して、一方のリオは冷静に何かを悩んでいた。不思議に思ったケイがしゃべり掛ける。

「どうした?」
「ん?ああ、一昨日、あいつと話したことをな・・・」
「あの時のことか・・・」



<二日前 戦艦クリプト 甲板>

「・・・下らん、帰れ」
「お前・・・」
「アタイたちは本気だ!」
「・・・その本気が下らんのだ」

 甲板の側面端の柵近くに立つブレード。その後ろにはリオとケイが真剣な表情で彼を見ていた。2人が彼に会いに来た理由、それは単刀直入の求婚だった。

「私たちのどこが気に食わんのだ!?」
「・・・お前たちではない。この世界の常識が気に食わんだけだ」
「「なっ!?」」
「・・・お前たち魔物の本能についてはニールからも聞いている。俺は異世界の人間だ。別世界の常識に従うつもりはない」
「なんだ・・・」
「・・・元の世界の常識も気に食わんがな」
「「!?」」

 ケイの言葉を遮った彼の発言に、彼女たちは目を丸くする。彼の言ったこと。それは自身の世界の常識をも嫌悪する言葉でもある。

「どういうことだ?」
「・・・無関係なお前たちが知ることでもない」
「「あっ!?」」

 リオの質問に答えず、彼は柵に左手を当てて飛び越えた。飛び降りた彼を助けようと、2人は柵の向こうである下を覗く。ブレードはいつの間にか用意したワイヤーで降りて、艦の外壁の非常用ハッチを開けて入った。

「しまった!」
「いつ、用意したんだ!?あいつ!」

 その後、2人が追いかけるも、用意していた飛行可能な乗り物に乗って逃亡されることとなる。



<都市アイビス 中央広場>

 2人はブレードの所在を探すため、二手に別れて捜索することにした。

「私は西の兵舎辺りを探す。ケイは南のエリアを・・・」
「ちょっと待て!そっちの場所が見つけやすいだろ!」
「アマゾネスのような粗暴な奴が行けば、ここの兵士たちのいざこざになるかもしれんぞ?」
「ぐっ・・・分かったよ」

 リオの考えに不満ながらも了承するケイ。彼女はしばらくの距離を歩くと、リオに向かって叫んだ。

「絶対、抜け駆けするんじゃあねえぞ!」
「しつこいな・・・」



<都市アイビス 西エリア 訓練所>

 兵士たちの集まる場所にやって来たリオは、ブレードの所在を聞いて回る。

「いや、今日は見てないな・・・」
「また、隊長が連れてきてくれないかな?」
「あの人、私の夫に相応しいかも♪」
「是非、もう一度手合せして私の・・・」

 どうやら此処の魔物兵士たちも彼のことを狙っているらしい。リオは同じリザードマンの女性も目を付けていることに、少し焦りを感じる。

(ここまで他の奴らに目を付けられるとは・・・急がないと・・・そういえば・・・)

 此処でリオはあることを思いつき、近くの男性兵士に尋ねた。

「ニールというデュラハンは見ていないか?」
「隊長か?いつもは城で寝泊まりしているからな・・・今日はこっちに来てないな」
「そうか・・・」
(あの首なしと接触している可能性もあるな・・・)

 彼女は早足で訓練所を後にする。



<都市アイビス 南エリア>

「探すっても・・・どこを探せばいいんだ?」

 ケイは頭を掻きながら通りを歩いていた。孤児院を超えようとした時、見慣れた服を着た2人の少年を見かける。瓜二つの黒肌双子のジェミニたちだ。彼らは縦に二輪の付いた乗り物に乗って、背中に大きなリュックサックを背負っていた。

「おも・・・疲れた・・・」
「城からここまで・・・きつ・・・」
「何やってんだ?」
「「へっ?」」

 ケイはおもむろに声を掛けて、2人を驚かしてしまう。

「え〜と、確か・・・」
「あ、ブレードの追っかけか!」
「違う!アタイはあいつの妻だ!」
「「へ〜」」
「このガキども・・・」

 少しイラつくケイだが、2人のリュックサックに目が入る。

「その荷物は何だ?」
「これ?これは・・・」
「城から孤児院への差し入れだよ」
「差し入れ?」
「食糧の無償受給!」
「なのだ!」

 胸を張る2人に彼女はつまらなさそうな顔をした。

「イーグルが遊びに行くついでに持って行け!」
「っていったからな。仕方なく自転車で運んできた」
「あのイケメンか」
「でも、ちょっとうれしい」
「ことだね♪」
「?」

 嬉しそうな顔をするジェミニ。不思議に思うも、ケイは彼らにある質問をした。

「そういや、お前たち、ブレードについて何か知ってるか?あと、居場所も・・・」
「ブレードについて?」
「居場所は知らないけど・・・」
「「う〜ん・・・」」

 頭を抱えて悩み始める双子。すると、右利きの少年があることを呟いた。

「戦闘の時、いっつも自分自身を囮にしてるな」
「そういえばそうだな、ラート」
「自身を囮に?」
「そう、毎回無茶ばっかしてるんだよ」
「あ〜よく敵陣に突っ込む癖が多いね」
「むっ?強者なら、それくらい普通じゃねえか?」
「150体を相手にたった1人で足止めするのが?」
「あと、よく血だらけで帰ってくるよね」
「・・・」

 双子の言った情報に言葉を失うケイ。彼らは気にせず、しゃべり続けた。

「でも、仲間思いだから」
「あんだけ、無理に戦ってると思うよ」
「!」
「そうでなきゃ」
「自身を囮になんかしないし」
「そういう奴か・・・邪魔したな」
「「ばいばい〜」」

 何かに納得したケイは双子に手を振って立ち去る。



<都市アイビス コウノ城 城門前>

 城に入る手前で、ドラグーン隊の隊長イーグルと出会う。

「ん、また君らか。ブレードならいないぞ」
「またかよ!」
「ふぅ・・・それなら、あの首なしの居場所は知らないか?」
「ニールか?・・・彼女ならさっき会ったが・・・」

 リオはブレードの居場所となる手掛かりらしきものに期待した。

「城にいるが、魔女たちと執務をしていたから、あいつと一緒にいることはないと思うぞ?」
「「えっ!?」」

 予想外の答えに言葉を失う2人。そんな彼女たちを見て呆れるイーグルは、あることを告げた。

「私も場所は知らんが、孤高を気取るあいつなら、行きそうな場所は予想が付く」
「「ホントか!?」」
「澄んだ空気の薄くなりそうな場所。落ち着く場所によくいるはずだ」
「澄んだ空気の薄くなりそうな場所?」
「なんだよ、それ!解んねえよ!」
「私から言えることはそれだけだ」

 イーグルは意味ありげな言葉を残して去っていく。ケイは彼の背中を睨み続けるも、リオは彼の言ったことを深く考えていた。

「空気の薄い場所・・・高い場所・・・あっ」
「どうした?」
「分かった!きっとあそこだ!」
「えっ!あ、おい待てよ!」

 何かを思いついたリオはケイを置いて走り出す。ケイは慌てて彼女を追い掛けた。



 廃墟となった施設。無機質な通路を走る1人の男性。彼の手には黒い散弾銃が握られていた。物陰に隠れて息を整えると、後方から気配を察知して構える。そこには人間の腕を咥えたリッパーが立っていた。迷わず、頭部に目掛けて散弾を放つ。

 頭を吹き飛ばされたリッパーを無視して、通路の奥へとゆっくり進む。その時、自身に近づく足音を聞き取り、辺りを見回した。段々と近づいてくる足音だが、姿が全く見られない。その異常な状況に対して、彼はあることに気付いた。

「・・・ちっ!」



 芝生の地面に寝そべっていたブレードは、素早く胸元からコンバットナイフを両手に持って、それぞれ左右に刃を向けた。

「なっ!?」
「いっ!?」
「・・・?」

 ナイフの先には右側にリオ、左側にケイの喉元があった。間を置いて、ナイフを胸元に収めるブレード。

「・・・何用だ?」
「ね、寝ていても、こうまで警戒されるとは・・・」
「ちぇ、もう少しだったのに・・・」
「・・・」

 彼は襲われることに変わりが無かったと悟る。機嫌を悪くし、寝るのを諦めて立ち上がった。立った正面には街が一望できる光景が映っている。彼は街から離れた南の森にある丘で昼寝をしていたのだ。

「・・・よく此処が解ったな」
「竜の隊長がヒントをくれた。そのおかげで此処にいると推測した訳だ」
「アタイは解らねえから、リオについて行った」
(イーグル・・・余計なことを・・・)

 早々に立ち去ろうと歩き始める彼を、リオとケイは呼び止める。

「待て!」
「逃がさねえぞ!」
「・・・全く、諦めの悪い女達だな」
「当然だ、ここで諦めたらリザードマンの恥だ!」
「死ぬまでアタイの夫として追っかけてやる!」
「・・・じゃあ、俺が死ねば諦めるんだな?」
「「!?」」

 彼は腰から『RAY.EDGE』を右手で取り出し、放出させた光学刃を自身の喉に当てようとする。2人は慌てて叫んだ。

「何してんだよ!?」
「やめろ!命を無駄にしてどうする!?」
「・・・お前たちの遊びに付き合うつもりはない」
「私たちのあれが遊びだと・・・」
「ふざけんな!」

 ブレードの言葉に激昂して武器を抜く2人。彼もそれに反応して『RAY.EDGE』を仕舞い、今度は『RAY.S.R』を右手で取り出す。

「やはり、力ずくでお前を手なずけるしかないようだ」
「だな!こっちの方が簡単でいいぜ!」
「・・・いいだろう・・・来い」
「はぁぁぁぁ!!」
「うりゃああ!!」

 2人の掛け声とともに、ブレードの目が閉じる。



<同時刻 コウノ城 一室>

 ある室内のテーブルに顔が真っ青の青年がうなだれていた。彼は椅子に座りながら、上半身をテーブルに乗せている。彼の対面にいる少女が心配して声を掛けた。

「お兄ちゃん、大丈夫?」
「も、もう・・・鬼ごっこは嫌だ」
「ラキ君・・・君も男だから気を付けた方がいい」
「すんません、キュランさん」

 タキシードの青年は彼に注意の言葉を掛けて、部屋から退出しようとドアに向かう。

「ユリちゃん、後は頼んだよ」
「はい!キュラン様」
「はぁ・・・モテて困る漫画の主人公になった気分だ」

 青年は上半身を起こして正面に居る少女を見た。

「悪いな、ユリ。ちょっとの間、休憩に使わせてくれ」
「ふふ、いいよ、お兄ちゃん。何か美味しいもの作ってあげるね」
「ちょうど腹も減ってたところだし、助かる」
(あそこで青年Cとすれ違わなければ・・・終わってた)

 部屋から出ていく少女を見送りながら、ラキは窓の外を眺める。



<都市アイビス 南の森>

 草原の中、ブレードは静かに立っていた。彼の左右にはうつ伏せに倒れている女性が2人いる。左側の女性は剣を杖代わりに立ち上がろうとし、右側の女性は右肩を手で押さえながら、顔を上げて彼を睨みつけた。

「くっ!強すぎる・・・本当に人間なのか?」
「ちきしょう・・・動け!動けよ!アタイの腕!」
「・・・そうまでして俺に求愛したいのか?」

 ブレードは手にしていた『RAY.S.R』を仕舞って、彼女らに問いかける。

「あ、当たり前だ!アマゾネスとして、アンタほど強い奴は絶対欲しいんだよ!」
「私もリザードマンとして、腕の立つ戦士を娶ることこそ望ましい!」
「・・・俺は強くない!」
「「!?」」

 怒声のような否定の言葉に、リオとケイは驚いた。

「・・・俺は・・・決して強くない。目の前の敵を倒すだけの存在。ただの兵士だ」
「お前・・・」
「アンタ・・・」
「・・・戦って死ぬ兵士の一人に過ぎない。お前たちのように強さを誇示するのではない」
「「・・・」」

 何かを嫌悪するブレードは黙ったまま立ち去ろうとする。そんな中、リオは剣を捨ててブレードに掴みかかった。彼は平然と立ち、彼女に胸倉を掴まれる。

「私たちは・・・私たちは強さを見世物にするつもりはない!」
「・・・なら、何のためだ?」
「それは・・・」
「ガキを残すために決まってんだろ!」
「・・・!」
「ケイ!?」

 いつの間にか近寄っていたケイも彼の右肩に左手を置いた。

「アタイたちはね・・・生き残るために、強い雄を求めているんだよ!」
「・・・」
「そうすることで、強く生きれる子を作って、アマゾネスという種族を存続させたいんだよ!」
「・・・」
「わ、私も、軟弱な子どもより、強い子が欲しい。だから、お前みたいな夫が必要なんだ!」
「・・・」

 目に涙を浮かばせる2人に、ブレードは顔を少し俯かせる。

「・・・そうか・・・なら、一定期間待ってもらうか」
「「えっ!?」」
「・・・その間、俺を観察するか、勝負を挑んできてもいい。俺がお前たちに相応しいか見極めろ」

 彼の提案に2人は困惑してしまう。

「・・・その期間中は俺を襲うな。俺にもやるべきことがある。妨げるつもりなら・・・容赦はしない」
「わ、分かった」
「お、おう・・・」

 彼女たちの手が離れると、ブレードは街へと足を進めた。

(・・・生き残るためか・・・・・・それが魔物という生きる選択肢の一つか)



<同日 夜中 砂漠地帯 不明>

 広大な砂の地面しかない静かな場所に、突然、小さな地響きが発生する。その地響きとともに、それぞれ3つの場所が盛り上がった。砂中より出現した大きな物体は太く長い尻尾のようなものを高々と上げて、その先端を前に向ける。曲線になるように、それはしなやかに折れ曲がり、先端の穴のような部分から火がチロチロと溢れだした。

「BUMOOOOOOOOOOOOO!!」

 本体らしき巨体の前面に、輝く大きな黄色の発光体が不気味に夜を照らして、牛のような鈍い雄叫びを轟かせた。
11/10/23 10:51更新 / 『エックス』
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