連載小説
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イーグルの調査
<戦艦クリプト 個室>

 一人の男が静かにベットから起き上がる。長い髪を整えながら、洗面台に向かい、顔を洗う。身支度を整え、愛用の『C.R』を背負って部屋から出た。


<戦艦クリプト 司令室>

 司令室に入り、端末を操作し始める。彼は現在の時間帯、戦艦の状況、物資の管理、隊員の現在地を確認した。

(6時過ぎか・・・ん?・・・ブレードは相変わらず訓練室に居るのか。他は・・・ジェミニは一緒に居るということはまた、娯楽ゲームして寝たな。ドクターはもう起きているな。レックスがいるから当たり前か。ラキは・・・一般的だ)

それぞれの隊員の状態を把握すると彼は外を眺める。今後の予定を考えながら。

(情報集めが妥当だな。こちらにも異形者が居る以上、何か手掛かりがあるはず・・・もう一度領主と話してみるか。後は、そうだな・・・)

 エスタに通信を入れるイーグル。

「おはよう、ドクター」
『おはよう、隊長。何用?』
「今日の予定を決めたので知らせに」
『そういや昨日は決めてなかったね。まあ、戦闘して、豪華なごちそうして貰ったら・・・』
「はは、確かにな・・・実は今日は各自、自由行動をさせようと思ってな」
『へぇ・・・』

 彼の提案にエスタが興味を示す。

「皆も初めてのことだけでなく戦闘も連続。幸い、戦場とは言えない場所だ。気休め感覚で行動して貰う。もちろん、情報収集は出来る限りすること」
『ふぅん。じゃあ、自分は今までのデータを整理したいし、艦で待機しておくよ。他の隊員は?』
「起きたらそのことを伝えて欲しい。ブレードはすでに訓練室で朝錬をしている最中だ」
『相変わらずだね。分かった、伝えておくよ。イーグルは?』
「準備が整い次第、コウノ城に向かう。」
『人妻に会いに行くの?』
「人を浮気野郎と一緒にするな」
『冗談だよ』

 通信を切って個室に戻り、身支度を整えて格納デッキに向かう。
 一人でチェイサーに乗り、城に向けて飛び立った。


<コウノ城 城内>

 城に着き、領主と面会するイーグル。異形者と異世界に関する情報を得られないか尋ねる。だが、期待していた情報は無かった。

「足踏み状態だな・・・」
「申し訳ない。こちらでも書物保管庫からの資料を取り寄せたが、あまりいい情報は無いな」
「異形者に関してもか・・・」
「マガイモノに関しては昨日の件以外では、半年前に遭遇した記録しか残っていないそうだ」
「それほど稀という訳か・・・」

 思った以上の情報が入らなく、頭を悩ませるイーグル。結局、ギルドで情報を聞きに行っては?と領主に言われ、城を後にした。チェイサーを置いて徒歩で向かう。


<中央広場>

 城を出て南エリアのギルドに向かう途中、上空に双子が乗っているチェイサーを発見した。すかさず、通信を入れるイーグル。

「ジェミニ、チェイサーは城の手前に停めておけ。私のもそこにある」
『イーグル!?』
『サンキュー!』

 停留場所を教えてもらい、喜んで城に向かうジェミニ。彼らを見送り、南エリアに歩き出すイーグル。朝早い時間帯にも関わらず、道行く先で多くの人や魔物とすれちがう。


<都市アイビス ギルド本部>

 中に入ると、一晩過ごした酔っ払い達がテーブルで寝ていた。彼らを無視して奥のカウンターに向かう。受付のマムはゆったり、ワインを味わっていた。

「ごきげんよう、マム」
「あら、昨日の英雄さんじゃない。ごきげんよう」
「我々はただの兵士。英雄でも勇者でも無い」
「ふふ、照れちゃって・・・それで今日は何しにこちらへ?」

 彼は此処でも同じ情報を彼女に求めたが、こちらも同じ返答に終わった。

「此処も同じか・・・」
「ごめんなさいね」
「謝罪は結構だ」
「でも、こちらも世話になっているのだから、協力はするわ」
「どんなことだ?」
「こちらもギルドメンバーを使って、その二つに関する情報を探してあげる。この街以外にギルドは複数あるから、そこから情報を仕入れるわ」
「感謝する。もし、異形者を発見したら、できるだけ早く我々に教えて欲しい。駆除は慣れているからな」
「分かったわ」

 彼の用件を承諾すると残ったワインを飲み干し、新たなグラスを取り出すマム。

「あなたも飲む?美味しいわよ」
「いや、結構だ。今は任務で情報収集をしている最中だ」
「そうなの?いいじゃない、さっきしたんだし。ドリアードが育てたブドウのワイン。癖になるわよ」
「またの機会に頂こう。それでは・・・」

 留められそうになることを予測し、彼は素早く立ち去った。残された彼女は空のグラスに先程のワインを注ぎ、飲み始める。

「もう、逃がしちゃった・・・いい男なのに・・・いいわ、いつか捕まえてあげる」


 酒場から出た彼は次に向かう場所を考え歩いていると、ある建物を見て立ち止まった。それは昨日見た孤児院。教会のような造りの建物で十字架が屋根の上にそびえ立っている。

 彼は躊躇いもせず、建物の扉に手を掛け、ゆっくり開けた。中を覗くと広い空間で教会のように長椅子がいくつか並べてあった。奥の中央にはステンドガラスがあり、黄色の十字架が描かれている。

 十字架を見ながら中に入るイーグル。ガラス近くまで歩き、少し離れた場所で立ち止まった。

(思えば、運命の悪戯か神の気まぐれだと一瞬考えたな・・・我々が此処にやってきた意味・・・いや、それ以前に私も・・・彼らも・・・)
「どうなされましたか?」

 不意に声を掛けられ、彼は後ろを向き驚く。そこには純白の服を着た少女が立っていた。しかし、彼が驚いたのは彼女の人とは違う部分である。彼女の頭には輝く天輪があり、背中には服と同じ純白の翼があった。

(て、天使、なのか?)
「あの・・・」
「あ、いや、すまない。勝手に入ってしまって。お邪魔ならすぐに失礼しよう」
「いえ、お邪魔なんて、何か御用で来られたのでしょう?」
「いや、特にこれといったこともない。気まぐれで入ったようなもので・・・」
「あの・・・もしかして、昨日、子ども達を助けてくれた方ですか?」
「?」

 彼女の質問を聞いて少し固まるイーグル。

「ニールさんが言っていました。異世界から来た黒装束の人たちが無事に救ってくれたと」
「君は・・・ニールの知り合いかい?」
「あっ!私、この孤児院で働いているエンジェルのウィリエルと申します。子ども達を助けてくれてありがとうございます」
「ああ、申し遅れてすまない。ドラグーン隊隊長のイーグルです」
「あの、少しお時間頂いてもよろしいですか?」

 彼女の誘いにイーグルは快く承諾した。案内されたのは奥にある庭で、屋根のある小さなカフェテラス。三つある内、右端のテーブルの椅子に二人は座った。彼は近くの手すりに『C.R』を立て掛ける。座ってから数分もしない内に建物から、黒服の修道女が紅茶を持ってきてテーブルに並べた。

「どうぞ」
「ああ、ありがとう」
「彼女はここのシスターのアイカさんです」
「ダークプリーストのアイカです。以後、お見知りおきを♪」
「ダーク、プリースト?」

 よく見ると修道女とは思えない露出の多い服装な上に、尻尾と黒い鳥の翼が腰の後ろから出ていた。

(これも・・・魔物種族なのか?)
「失礼します」

 彼女が去り、二人きりになったところで紅茶を飲み始める。

「すまない。我々はこの世界に来て間もないので、種族についてはよく解っていない」
「そうなのですか・・・彼女は決して危害は加えないのでご安心を」
「ああ、それと昨日の救出についてだが、正確には私の部隊とこの街の住人と共同で行ったもの。私一人で感謝を受ける訳には・・・」
「ですが、子ども達を助けてくれたことに変わりはありません。本当にありがとうございます」

 感謝すると同時に彼女は俯き、暗い表情になる。

「実はあの子たちが攫われたのは私のせいなのです」
「どういった事情で?」
「私はある国のお使い様として降りてきました。ですが、今の魔物は人間に危害を与えないことに気付き、命が奪われようとしている魔物の幼子と一緒に国を脱出しました」
「その幼子があの子たち・・・」

 カップを持ち、一飲みするイーグル。

「ええ、親を失い、未来も奪われる寸前でした。私は希望を与えに降りてきたのに、何もしていないあの子たちが殺されるのは見ていられません。そして、国を裏切りました」
「もしや、昨日の奴らの目的は・・・」
「逃亡した私を捕まえるためでしょう。偶然に昨日、サリナと交代して子ども達をピクニックに連れて行かせたのは私です。私の・・・」
「その先は口にしないでくれ」
「え?」

 彼女が自身の悔いの言葉を言う前に、イーグルが素早く止める。

「何も君自身の責任で起きた問題ではない。我々の世界でも種族争いはあった。だが、誰かを責めたところで何も解決しない。無意味な行為だ」
「すみません。こんな話して・・・」
「君は何も悪い事していない」

 しばらく沈黙する二人。先に口が動いたのはウィリエルだった。

「あなたの世界でも争いはあるのですか?」
「ああ、種族争いは終わった。今は存亡を賭けた戦いが続いている」
「存亡を、賭けた戦い?」
「詳しく話そう。此処に来てから今までの事も」

 彼は元の世界で起きている出来事を事細かに話した。そして、今ここにいる理由も明かす。彼女はただ黙ったまま、イーグルの話を真剣に聞いた。

「現状を変えるために我々は派遣されたが、思わぬところに来てしまった。それでも諦めるつもりは無い。僅かな手掛かりがあることを信じ」
「うらやましいです。あなたのような人」
「自身の願いではない。部隊全員が望んでいることだ。私も彼らの期待に応えたいから自ら動いている。あなたが希望を与えに来たように」

 彼女はそれを聞いてまたも俯く。

「私は・・・何も出来ません。魔物に共感したせいで恐らく、魔王の魔力に侵されているはず・・・エンジェルとしての光も失われ、人々に希望を与えることはもう・・・」
「力が無いから出来ないと?」
「そうです」
「それは違う」
「え?」

 イーグルの否定に彼女は驚く。

「力が希望ではない。君は失われようとした命を救った。その行動をする意思こそ、皆が求めている希望だ」
「イーグルさん・・・」
「力は道具に過ぎない。それをどう扱うかによって善悪も決まる。他人のために使うのであれば、救うためなら・・!?」
「?」

 一瞬、彼の頭にある視界が映る。ライフルスコープに映る白い何か。突然、黙った彼にウィリエルは不思議になり、声を掛ける。

「イーグルさん?イーグルさん!?」
「・・・・・・う、いや、すまない。少し、熱くなりすぎたか」
「大丈夫ですか?」
「ああ、心配無い」

 紅茶を飲み干し、落ち着くイーグル。そんな彼を見て安心するウィリエル。微笑みながら話しかけた。

「ありがとうございます、イーグルさん。あなたの言葉で励まされました」
「そうか・・・もう、気を落とすな。あの子たちに希望を与えたいなら・・・」
「はい♪」

 その時、子ども達のはしゃぐ声に気付き、二人はその方向を見る。そこにはみずでっぽうを持った子ども達と遊んでいるジェミニ達が居た。

「ジェミニ?此処に来ていたのか」
「あの二人は?」
「私の隊の部下だ。全く、遊び好きだな」
「とても、お若い方ですね」
「二人とも14。あれでも私と同じ戦闘員だ」
「え、兵士なのですか!?」

 若いあの二人が兵士であることに驚くウィリエル。イーグルはこれも世界が違うせいだろうと思ったが、今の自分達の部隊構成が特殊であることを思い出す。

「それなりに理由があってね・・・最年少で12歳の研究者も一緒にいる」
「12歳で、研究者?そんなに若い方が・・・」
「異例は私も初めて見る。まあ、気にしないでくれ」
「は、はい・・・」

 水で遊ぶ子ども達を眺め、微笑む二人。

「イーグルさん」
「はい?」
「よろしければ、昼食をご一緒しませんか?」
「お邪魔でなければ・・・」
「はい。準備ができましたら、こちらにお持ちします」

 笑顔で答える彼女を見て、少し照れるイーグル。昼食後、ジェミニを連れて帰ると言うと、彼女から少し待って欲しいと頼まれる。しばらくして彼女が戻って来ると、ある紙袋を渡してきた。中を開けて見ると、そこには美味しそうなブドウが一房入っている。

「ドリアードが育てた評判のブドウです。よかったら食べて下さい」
「ありがとう」

 お礼を言い、彼は建物に居るジェミニを呼びに向かうため、彼女と別れる。

(それにしても・・・あれは・・・いや、考えるのはよそう)
11/07/16 22:30更新 / 『エックス』
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