連載小説
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ジェミニの観光
<戦艦クリプト 個室>

 電源の切れた液晶モニターの前に二人の少年。手に何かのコントローラーを握り、仰向けで寝ていた。

 不意に、左に居た少年がムクリと上半身だけ起き上がる。左手で目をこすり、大きな欠伸をした。それに続いて右に居た少年も起き上がり、左の少年と同じ行動をする。

「「・・・・・・」」
「昨日は・・・」
「何したっけ?」
「確か・・・」
「ハイパー格闘の道2じゃあ、なかったっけ?」
「どっちが勝った?」
「・・・」「・・・」
「「俺だ!」」

 二人同時に声を上げるとお互い睨みあい、視線に火花を散らす。

「「ぐぬうううう!!」」
『何してるの?』
「「!?」」

 突然の通信に驚く二人。

「「エスタ!?」」
『全く、何してんだか・・・隊長からの今日の指示、情報収集しながら自由行動だってさ』
「それって・・・」
「街を探索出来る!?」
『まあ、問題だけは起こさないように』
「レート!早速、準備だ!」
「了解、ラート!遊び♪遊び♪」
『だから遊びじゃないって・・・』

 注意をしようとするエスタの通信を途中で切り、私物を漁って準備し始める双子。お互いリュックサックを背負い、格納デッキへ向かった。


<G.A.W格納デッキ>

『CAUTION。レフトハッチオープン』
「さあ!」
「かっとばすぞ〜!」

 スカイチェイサーに乗り、テンションが上がる双子。勢いよく飛び出して街に向かった。中央広場の上空に着くと彼らは悩み始める。

「何処に停めよう?」
「駐禁くらいたくないし」
「いや、警察いないよ」
「あ、そうだった」

 チェイサーの置き場を考えていると、彼らの通信機に声が響く。

『ジェミニ、チェイサーは城の手前に停めておけ。私のもそこにある』
「イーグル!?」
「サンキュー!」

 思わぬ指示に喜び、城へ向かう双子。城の入口付近で兵士に案内され、彼らはチェイサーをイーグルの使用機に並べ停める。城門に向かい、街へと走り出そうとした時、黒鎧を着た女性と出会った。

「む、お前たちは」
「あ、ニール」
「こんちわ!」

 元気よく彼女に挨拶する双子。彼女も彼らと同じく街中に向かうらしい。

「何をしに行くのだ?」
「隊長の指示で今日は自由行動だって」
「だから、この街を探索しながら遊びに行く」
「お前たちだけなのか?」
「他の」「皆も」
「そうか・・・気を付けて行って来い。お前達を狙っている者もいるからな」
「はいは〜い!」
「そんじゃあね、ニール!」

 彼らと別れたニールは何かを呟いていた。

「あいつを探してみるか・・・」


 二人がまず初めにやって来た場所は中央広場だった。噴水の像に驚き眺める双子。

「おお、凄い造形」
「ラート、あれ!」

 レートが要求する前にリュックから何かを取り出すラート。

「ぬふふふ、ジャ―ン!」
「デジカメ!撮って!撮って!」

 最早、観光気分の二人。互いに撮り、小型三脚を使い、セルフタイマーでお互い一緒に撮ったりする。ある程度、記念撮影が終わると、二人は市場に向かって移動し始めた。

「いや―面白いとこだね」
「ん?ラート、あれ」

 レートが指差した先には、ニールとブレードが並んで歩いていた。

「お、にひひひ。ブレード」
「早速、デートしてますな」
「「特ダネだ―!」」

 すかさず、ラートはデジカメでズームアップしてシャッターを押す。

「後で・・・」
「他の人にぃ」

 面白ネタを入手し、市場に向かう双子。市場の活気にただ驚く二人。

「「凄い!」」

 必死にデジカメで撮影するラート。そんな彼の後ろに何者かがぶつかる。

「う、ごめんな・・・?」
「ごめんな、あれ?」

 ぶつかったのは大きな紙袋を抱えた角がある少女。昨日、出会ったばかりのゴブリンのミーニである。その後ろには角と翼を持つインプのサリナも居た。

「あれ、あなた達は・・・」
「「こんちわです」」
「お兄ちゃん達だ―!」

 ミーニは彼らを見て喜びの声を上げる。

「あなた達、何しているの?」
「僕達、今日は自由行動だから」
「異世界の街を観光してるの―」
「異世界?様は街を観光してるのね」
「お兄ちゃん達、一緒にご飯食べる?」
「ご飯?そういや・・・」
「朝飯食べてきてない!」
ぐぐぅぅぅぅぅ

 二人のお腹は正直だった。黒肌の顔が赤くなり、それを見て彼女達は笑う。

「んふふ、ちょうど孤児院の朝飯の材料を買って来たところよ。よければ、一緒に食べる?」
「「ごちになります!」」
「あははは、一緒!一緒!」


<孤児院 内部>

 彼女達に連れられ、孤児院に辿り着く双子。そこはまるで教会のような建物だった。中に入り、長いテーブルといくつもの椅子が置いてある広い部屋に案内される。どうやら、此処が食堂のようだ。

「ちょっと待っていて。すぐに準備して朝ご飯持ってくるわ。ミーニ、皆を呼んで」
「は―い!」

 しばらくして、昨日会ったばかりの子ども達と黒服の男性と女性が部屋に入って来る。

「あ!昨日の人だ!」
「こ、こ、こんに、ちは」
「よっ!兄ちゃん!」
「ハン、もっと丁寧に。こんにちは」
「あら、可愛い双子♪」
「アイカ、可愛いと言って襲わないように」
「もちろんです、あなた♪」
「「こんにちは!」」

 若い男性は神父の服装をして穏やかな青年の顔をしている。女性の方は露出の多い修道女の服を着て、腰の後ろから尻尾と黒い鳥の翼が出ていた。

「ジェミニ・ラートです!」
「ジェミニ・レートです!」
「ご丁寧にどうも。私はダークプリーストのアイカです。よろしく♪」
「アイカの夫で神父をしているセロンです。先日、子ども達を助けて頂いてありがとうございます」
「どういたしまして〜」
「むかつく奴らもぶっ飛ばしたし!」
「どうせなら真っ黒焦げに」
「いや、電撃ビリビリ地獄の方がいいって!」
「・・・」「・・・」
「「ぐぬううううう!!」」

 またも意見が別れ、いがみ合う双子。それを見て皆が笑いだす。サリナが出した朝ご飯は沢山のパンやスライスしたベーコン、ホットミルク。美味しく頂きながら昨日の武勇伝を話す双子。一部、嘘っぽいこともあるが、他の子ども達に見抜かれて笑われる。食べ終えるとミーニを含めた子ども達が二人と遊びたいと言い始めた。

「持ってきてよかったね。レート」
「うん。水が汲める場所ってある?」
「それなら、井戸があるわよ。私が案内してあげる」
「それじゃあ、みんな!」
「ついてこ―い!」

 サリナに案内され、双子が付いて行き、さらにその後ろにミーニ達が付いて来る。孤児院の左側の外に手動ポンプで汲み上げる井戸があった。大きな桶にはまだ水が入っていない。

「レート、あれ出しといて」
「了解ぃ」
「お兄ちゃん達、何するの?」

 ミーニが疑問に思っていると、ラートはポンプを動かし水を出し始める。その間にレートはリュックからクリアな色を持つ小道具をいくつも取り出した。

「お兄ちゃん、それは?」
「これは『みずでっぽう』といって水を入れて飛ばすことができるオモチャだよ」
「こういう風にいれて・・・」

 レートが桶の水にそれを1つ入れて、しばらくしてから取り出す。そして、引き金を引くと水が発射された。それを見て子ども達は歓喜する。

「すげ―!」
「おもしろそう」
「やらせて!ミーニにも!」
「使い方を教えるよ」
「よく見ていてね」

 双子は子ども達に水の入れ方と使い方を教えた。幸い、今日は天気もよく晴れていたので水遊びにはうってつけ。子ども達はそのオモチャで遊び回る。

「隙あり!エビータ!」
「やりましたね、ハン」
「ひ!クモの糸バリア!あぶっ!」
「リーデ、網目じゃ貫通しちゃうよ!ひゃ!冷たい!」
「えへへ、アダラ、尻尾が見え見え」
「くぅ、ミーニ!」

 元気よく遊ぶ子ども達を見てサリナは微笑む。一方の双子は両手にみずでっぽうを持って互いに向き合っていた。

「勝負だ!レート!」
「今日こそ決着を!」

 互いにアクロバティックな動きで互いに水弾を撃ち合う。それを見てミーニ達も歓声を上げる。

「いいぞ〜」
「やっちゃえ〜」
「どりゃあああ!!」
「ちぇいいいい!!」
「あははは♪」
「どっちも子どもね・・・」

 サリナは双子を見て呆れる。互いの水が無くなると一時中断して、補給しに井戸に向かう。

「ねえ、次、ミーニ達と一緒に遊ぼうよ!」
「いいね、レート!」
「おう、チーム戦だ!」
「サリナお姉ちゃんも!」
「え?私!?ちょっと、ミーニ!」

 こうしてラートとレートでチームが結成され、対抗戦が始まる。

「どうしてこんなことに・・・」
「「勝負だあああ!!」」

 結局、この遊びは子ども達が疲れ果てるまで続いた。

 昼飯を一緒に食べた後、眠りについた子ども達を双子とサリナが寝室に運ぶ。最後にミーニを運ぶと三人は食堂へ向かった。

「今日はありがとう。あの子達があんなにはしゃぐのを久々に見たわ」
「どういたしまして」
「僕達も遊びたかったし」
「ふふ、それにしても変わった双子ね。意見が違うと思ったら、意気投合したり」
「そういう、サリナさんもミーニと姉妹でしょ?」
「種族は違うみたいだけど、何か訳あり?」

 それを聞いて彼女は暗い表情で話し始める。

「ご存じのとおり、私はインプであの子はゴブリン。初めて会った姿が、血だらけの親の死体に抱かれた赤子のあの子。私はあの子を育て、あの子の姉として振る舞った。私を姉と慕い、付いて来る姿は可愛らしいわ」
「「え?」」
「ある日、教会の騎士に遭遇して私たちはある国に連れて行かれた。そこで、見せしめに殺されるために。そこでアダラとリーデに会った。3人をなだめながら、死を待っていたの」
「「・・・」」
「そんな時、エンジェルのウィリエルが私たちを救ってくれたの。彼女が居たからこそ、私たちは生き残れた。あの人には感謝しているわ」
「「・・・」」

 暗い話に双子は言葉が出なかった。そんな彼らを見て、彼女が慌てる。

「ごめんなさい、こんな話をして・・・」
「いや、大丈夫!大丈夫!」
「そうそう、僕らも、凄く酷い事が・・・」
「レート!これ以上、ネガティブストーリーを言うな!」
「あ、ごめん」
「んふふふふ、仲がいいと言った方がいいかしら?」
「「え!?」」

 唖然とする双子。そんな彼らに後ろから何者かが声を掛けてくる。

「随分、楽しんだようだな?ジェミニ」
「えっ?その声は」
「イーグルぅ!?」
「あなたは昨日の・・・」

 双子の後ろにいたのは隊長のイーグルだった。

「そろそろ艦に戻ろうと思ってな。玄関の外で待っているから支度しろ」
「「了解!」」

 イーグルはそう言うとその場から立ち去る。

「レート!リュック!」
「あいよ!ラート!」

 二人は急いで帰り支度をして玄関に向かおうとする。

「あ、待って!」
「「え!?」」
「これ、あげるわ」

 彼女が差し出したのは黄色のオレンジ。彼らに1つずつ渡し、お礼を言った。

「ミーニがあなた達にお礼したいって買ったの。今回はあなた達に助けられた。私からも感謝させて欲しい」

 二人は微笑みながら無言で頷きながら立ち去った。

「んふふ、動きも鏡合わせみたいに一緒ね」
11/08/18 22:04更新 / 『エックス』
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