翌日、朝から艦内は騒がしかった。目覚ましに警報を鳴らされ、機嫌を悪くするラキ。

「なんでだよ！？」
「お前が予定集合時間に来ないからだ！」
「艦内の掃除を遅くまでやって、ミーティングすりゃあ眠たいに決まって・・いだっ！」
「・・・目が覚めたか？」
「ブレェェドォォ！！」

　頭にげんこつを当てると一触即発になるラキとブレード。見かねたイーグルが止める。

「止めんか！これ以上やるなら一週間、部屋で謹慎してもらうぞ！」
「「ぐっ・・・」」

　懲罰されそうになり、沸騰しそうな怒りを抑える二人。そんな彼らを見て楽しむエスタ。

「まったく・・・ドクター、ミーティングを」
「はいはい。では、今日の予定。街の司令官たちが此処に訪問するから、そのお迎え。それとついでに代表で行く人が街を案内してもらう」
「代表は私とブレードで。レックスとドクターは艦で待機。それ以外はチェイサーに乗って街に向かう。以上、何か質問は？」
「朝飯まだ食ってねぇ」
「カロリーサプリを一錠飲め」
「ひどっ！」

　ラキは仕方なく、携帯食料からタブレット錠を一粒取り出し口に放り込む。

　今回も格納デッキに向かい、三台のスカイチェイサーに乗る。搭乗者はラキとジェミニ。イーグルとブレードはジェミニの後ろに同乗する。

　艦を出て高度を取り、市街地の上空を飛行する一行。街の光景を見て驚く双子と寝坊。コウノ城の手前でホバリングし、静かに着陸する。すでに三人が彼らを待っていた。

　領主であるレギーナ。司令官のレシィ。そして、防衛隊のニールだ。
　まずは、隊長のイーグルが前に出て、挨拶する。

「おはようございます。少々、遅れてしまい申し訳ない」
「なに、微々たるものよ。今日は5人で来られたのか？」
「3人が我々の艦へお連れします。残りの私とブレードで出来れば、この街を案内して貰えないでしょうか？」
「うむ、いいだろう。我が直々に案内しよう。ニールも一緒に来い」
「はっ！」
「感謝します。それと・・・」
「どうした？」
「司令官以外の方は？」

　周りには彼女ら三人しか見当たらなかった。そんな時、城から大急ぎで走って来る帽子を被った少女が走って来る。

「すまぬのぉ。助手の魔女が寝坊したらしく、今ようやく来たところじゃ」
（こちらでもあったとは・・・）

　朝の光景が蘇るイーグル。息を切らしながら少女はこちらにやって来た。

「レシィ様！申し訳ございません！はぁ・・・はぁ・・・」
「夜、盛んに兄と交わるのは咎めはせんが、予定通りに来て欲しいのじゃ。以後、気よ付けよ」
「はうぅぅぅ、すみません」

　涙目で謝罪する少女。

「今、凄い事言わなかったか？」
「・・・ラキ」
「解った。睨むな」

　どうやらこの少女がレシィの付き添いで来るらしい。少女はこちらに向かって微笑む。

「あ、私、レシィ様の助手の魔女でニケットです！よろしくおねがいします」
「「よろしく！」」
「魔女？魔法使いかなんかの？」
「まあ、それも含めて話そうぞ。さあ、異世界の船とやらに行くのじゃ！」

　レシィとニケットは双子の後ろに乗り込む。

「解ってたよ。こうなるのは・・・」
「嘆いてないでさっさと行け」

　イーグルに急かされ、飛び立つ三台。戦艦へと向かって言った。

「では我々も行くとしよう」
「お願いします」
「・・・・・・」
「相変わらず無口だな」
「・・・ふん・・・」

　ニールの話しかけに無愛想に答え、イーグルたちに付いて行く。

＜都市アイビス上空＞

「おお、これは愉快じゃ！このような乗り物は初めてじゃ！」
「レシィ様！あまり暴れないように！落ちますよ！」
「じゃあ、ちょっと」
「サービス♪」
「おお！？いいぞ！」
「わわっ！？」

双子がチェイサーをラキの周りで動き回る。ラキは朝からの不機嫌が治まらず、苛立っていた。

「遊ぶな・・・」
「おお、近くで見ると本当にでかいのぅ！」
「凄いです・・・」

　戦艦近くまで来ると彼女らははしゃぎ始める。

（こんな身なりで司令官って、ブレードの言う通りふざけた常識か？）
「ん？なんじゃ？ワシに見とれたのか？」
「いや、元気な司令官だなと・・・」
「あ〜ラキ、ひょっとして・・・」
「ペド？」
「双子！何処でその言葉見つけた！？」

　戦艦の格納デッキに入り、物珍しく見ている少女たちを連れて司令室に辿りつく。
　ドクターは椅子に座り、レックスは紅茶を用意していた。

「ようこそ、戦艦クリプトへ。この艦と部隊の管理者であり、技術研究者でもあるエスタ。ドクターエスタと呼んでくれても構わないよ」
「昨日の幻影に映っとった者じゃな。改めて、ワシはレシィ・エメラドール」
「えっと、初めまして、レシィ様の助手である魔女のニケットです」
「ご丁寧にどうも。じゃあ、お茶菓子も用意しているからこっちのテーブルへどうぞ」

　メインテーブルの周りで椅子に座り、5人はさらにこの世界についての情報を彼女たちから詳しく聞いた。

一時間後。

「へえ、神は存在していたのか。そのうえ・・・」
「魔王がサキュバスっていう好色な女性に世代交代？そんなのあり？」
「醜悪なモンスターが〜？」
「全部無害な女性化〜？」

　改めてカルチャーショックする。一番、興味深く話題に食いついたのはエスタだった。

「それで不安定な世界で君たち魔物は共存の道を進んでいると？」
「そういうことじゃ。人間なしでは子孫は残せんからのぉ・・」
「なんて解放的な・・・・・・不安定な世界・・・」
「どうしたのじゃ？」
「い、いや、なんでもない。僕たちの世界でも同じようなことがあったね。ラキ」
「いきなり振るなよ」
「ほう、お主らの世界はどんな所じゃ？」

　気が引ける話ではあったが、彼らは元の世界の情勢を事細かに話す。世界大戦。大戦後の復興と繁栄。そして、彼らが此処にいる元となった人類の未知の敵襲来。

　話し終わると沈んだ表情になる二人。

「そうか・・・そこまで深刻な状況なのにワシはお前たちに・・・」
「あ〜やめやめ―い！あんたが落ち込んでどうする！」

　突然、声を上げるラキ。

「心配するな。嘘ついてまで気を遣わなくても大丈夫。自分たちは帰れないと決まった訳じゃないし、行きがあれば帰りもあるはずさ！」
「帰りの方法が過酷で難しかったらどうするの？」
「そんなもん、エスタ！決まっているだろう。別で探せばいいことよ。自分たちは任務を果たすまで諦めん！人類存亡がかかっているからな」

　ラキの言葉にレシィだけでなく他の者たちの不安が無くなる。

「おぬし前向きじゃな。どうじゃ？ワシの経営するサバトに入らんか？」
「サバト？なんだそれ？」
「ロリコンを極めるための集会じゃ！おぬしにぴったりの妹の魔女が手に入るぞ！」
「・・・妹・・・遠慮します・・・」
「あれ〜？」
「ラキ、ペドでしょ〜？」
「だから！ジェミニ！何処でその言葉を見つけた！？」

　笑い者にされるラキ。そんな中、ドクターは彼に対してある評価をする。

（やはりラキは思った以上の存在だね。能力もそうだけど・・・）

　残った紅茶を飲み、静かに立つドクター。

「それじゃあ、そろそろこの艦の内部を案内しようか」
「おお〜！早速、行くのじゃ！」
「けれど、無闇に周りの物に触れないよう気を付けて欲しい。下手すればこの戦艦丸ごと爆発する恐れもあるから・・・」
「「嘘！？」」
「ひいっ！」
「なんじゃと！？」
「そんなやばいのあったっけ！？」
「嘘という訳にはいかないね。扱いづらい私物的な機械もあるのだから・・・」

　不敵に笑みを抱えたドクターを先頭に一同は司令室を出る。

　まず、隊員たちの憩い場でもある個室が見えてくる。部屋の数は12室。1Kで意外と広く、トイレと風呂も別々である。現在、使用中は6室だがドクターは研究室に籠りきりなので部屋は倉庫扱い。

「クンクン。確かに男の精の匂いは5つしかないのぉ・・・」
「何故そこだけ鋭い？」

　レシィの異常な嗅覚に突っ込むラキ。

　続いて来た場所は訓練室。射撃場と試合場で分かれている。射撃場では多種多様な的当て。試合場はホログラムで映された敵と戦える。

「どんな生物も幻影にすることが出来るの？」
「登録すれば出来るよ」
「じゃあ、私のお兄ちゃんを♪」
「ここでは戦闘訓練以外は禁止」

　魔女にこの部屋の規則を突き付けるドクター。

　さらに奥へ進むと物資貯蔵室。ここでは武器庫、日用品、食料庫と別れている。各扉の横に端末があり、在庫確認が出来る。すると、日用品でトイレットペーパーが切れかかっていた。

「申し訳ございません。今日の朝に各個室に配送した際、量が減少しました」
「はぁ・・・いいよ。ちょうど次に行く場所で供給できるから」
「んん？どこに行くつもりじゃ？」
「この戦艦に不可欠な装置」

　やって来たのはエアーシャワーを抜けた巨大な機械のある部屋。機械には人も入れそうな空間が二つあり、巨大なガラスドアで密閉されていた。

「なんじゃこれ？」
「『R．O．Mメーカー』足りない物質または物資を複製して増やす装置だ。レックス、やってみせて」
「了解」

　ドクターの指示でトイレットペーパーの入った段ボール箱を右の空間に入れる。ドアを閉め、端末を操作すると機械が作動。左の空間が一瞬、光輝くと同じ段ボール箱が出現。ガラスドアを開け、箱の中を開けると同じトイレットペーパーが入っていた。

「こ、これは！？」
「凄いですぅ！」
「艦のエネルギーを使用して物質の複製を行い、補給物資を長期間、維持できる。この戦艦で重要な装置でもある」
「生物はどうなるんじゃ？」
「保証はできないね」

　さらっと怖い事を口にするドクター。

　次にやって来た場所は治療室とその隣にある研究開発室。開発室はドクターの砦でもあり、不用意に他人は入れない。今回も立ち入りは出来ないらしい。

「おお、ぬしの匂いがするのぉ」
「鋭いね、君。そろそろこの艦の動力に向かうよ。絶対、何も触れないでね」

　指紋認証で入った部屋。そこは戦艦の機関室。見上げるほど大きい動力炉でその中に輝く光のカプセルが5つ厳重に保管されている。

「あれはなんじゃ？」
「あれは反物質エネルギーだよ。一つで都市一個分を支えられるエネルギーでもある。それ以外にも、この戦艦の上部には太陽光を吸収し、エネルギーとして溜めて置く電力装置もある」
「底なしのエネルギーを持っているのね。インキュバスの持つ特性と似ています」
「そういうこと」

　一同は最後に格納デッキに向かう。此処の正式な名称は『G．A．W格納デッキ』
　スカイチェイサーだけでなく様々な機動兵器を整備、搭載されている。

「G．A．Wとは機動兵器の総称。今から一体ずつ紹介するよ」

　歩きながら紹介し始めるドクター。最初の機体は4ｍ近くある二足型ロボット。腕が無く、コックピットはむき出しで、乗りやすいよう跪いている。

「作業用の建設機体を戦闘用に改造したG．A．Wの原点。通称『IGUA』（イグア）人の腕に当たる部分に換装可能な武器を取りつけられる」
「色んな腕を取り付けるんじゃな？」
「いや、元からこいつに腕は付いている。作業用アームが左右の胸部横に折り畳まれている。重量のある資物を楽に運べるよ」
「なんと！腕を隠しておるのか。じゃあ・・・」
「腕以外は何も隠してないよ」
「全てをさらけ出しているのですね」
「そうきたか・・・」

　魔女の不意打ちを受けるドクター。

　次に現れたのは下半身が左右三角面のキャタピラで上半身は人の形をし、前面装甲が上がっていて搭乗席が見える。左腕に円盤、右腕にはスパイクのような物が付いている。

「これは採掘用の機体を基地建設用に改造した戦闘兵器。通称『THERIZINO』（テリジノ）密閉型の搭乗席だから防御面は優れている」
「左腕はレーザー刃を放出するディスクカッター。右腕は三つのレーザー放出装置でそれぞれの光線先を合体。それを回転させることで鉄をも削る光学ドリルができる。使用できない場合は火薬を使用しての杭打ち機になる。上部に一つだけ換装武器が付けられる」
「逞しそうな杭ですね・・・」
「作業以外に使用するつもりは無いよ」

　続いて見る機体。こちらも先程と同じようなコックピット。大きな口を開けたように下顎に搭乗席。足が鳥のような逆関節となっている。

「強襲戦闘を目的とした跳躍可能機体。通称『NYCYUS』（ニクス）脚力だけで10ｍ以上跳び上がる。小型のバーニアも付いているから着地場所を調整できるよ。これも換装武器が二つまで」
「こっちに色違いの青があるのぉ」
「それは僕専用の改造機。上部左右に小型のジェットエンジンが付いているから飛行可能だよ」
「おお、是非ワシと一緒に・・・」
「体型的にいけそうだけど窮屈になるからやだよ」
「いけずじゃ・・・」

　最後に現れた機体。それは人の形状をした高さ5ｍのロボット。胴体に入り込めるよう装甲が左右に開き、搭乗席が見える。頭部は水色に輝くバイザーが目立つ。人の手を持ち、右腕は折り畳み剣、左腕には小盾が付いている。背中には翼のような装置が4つあり、横に拡がっている。

「これは僕が開発した最新の人型兵器。通称『ORNITHO』（オルニト）飛行による高機動の戦闘が可能。肩部に換装武器を二つ搭載。そして、腕部にはレーザー刃を纏える実体剣とシールド発生装置が付いている。これは部隊の主力兵器でもある」
「ほえ〜凄いですね」
「おぬしがこれを作ったじゃと！？むむ、これは侮れんな・・・」
「ふふん、凄いでしょ」

　なぜか、自慢げになるドクター。レシィの目が怪しくなる。

「おぬし、どうじゃ・・・ワシの兄上に・・・」
「じゃあ、次は換装武器の説明」
「無視するな〜！」

　レシィのアタックを受け流すドクター。それを見てラキとジェミニはニヤつく。

「上手く逃げたな」
「目を付けられた・・・」
「ドクターに春が・・・」
「レックス」
「了解」
「いてえ！？」
「「いた！？」」

　ドクターの指示で三人に軽いげんこつを与えるレックス。

　今度は壁などに掛けられている重量のある武器を紹介する。

「換装武器とは通称『GP』（ガンポッド）と言われ、様々な大型武器がある。ほとんどが射撃用に使用されるものばかりで、人の手で持ち上げてそのまま使用することも可能。大抵使用するのはガトリング、ロケットランチャー、レーザーカノンなど」
「でか過ぎて人の手で搭載できない武器もある。APカノン、プラズマカノン、ミサイルランチャーなど。その代わり威力は大きい」
「もっとやさしくして欲しいのじゃ♪」
「・・・・・・このやり取り疲れる」

　流石のドクターも彼女らのアタックで疲労が隠せない。

ピピィ、ピピィ、ピピィ

　突然、ドクターの通信機が鳴り出し、これ幸いに彼は通信を繋げる。

「エスタだ。・・・ああ、イーグル。どうした？・・・・・・」
「「「？？？」」」
「「？？」」

　彼にしか聞こえない音量のため、他の者には聞こえず、話の内容が掴めない。すると彼の顔が深刻な表情となる。

「・・・・・・もう一度言って・・・・・・分かった。すぐに迎えを寄こすよ」

　通信を切るとラキ達に指示を飛ばす。

「ラキ、ジェミニ、レックス。すぐに4台のチェイサーでイーグル達を迎えに行って」
「え、今かよ？」
「何？」
「どうしたの？」
「ドクター？」

　しかし、彼は沈黙したままだった。仕方なく、彼らはスカイチェイサーに乗り込む。

「一体全体どうしたのじゃ？」
「向こうで何かあったのですか？」

　沈黙していた彼が一言つぶやく。

「“異形者”を発見した」