連載小説
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足元の獲物
<都市アイビス コウノ城 城門前>

 城でラキ達が二人を連れて飛び去った後、イーグルとブレードは領主とニールに街を案内してもらう。

 城から出て、しばらく直線で歩くと広場に辿りつく。広場の中心には悪魔のような女性像の水瓶から水が放出される噴水が建っていた。

 領主によるとこの都市の建設に貢献したサキュバスがモデルらしい。ちなみに本人は魔界に帰り、夫と甘い生活を送っているとのこと。

 次に右の戦艦のある北方向へ行くと市場が見えてくる。活気溢れる商人たちが自慢の品を紹介し、お客を寄せている。店の種類は多く、食べ物、宝石、武具、日用品、娯楽など。

「凄い所だ。この場所は我々の都市と似ている」
「この街は百年以上前から存在し続けている。我が領主として就任する前の頃、魔物との交流が始まり、そこから活気がさらに上がったと聞く」
「確かに魔物の姿がかなり見られますね・・・」

 角の生えた少女は珍しい宝石や道具を売り込み、壺から上半身を出している少女は恥ずかしながらアクセサリーを拡げて露店をしている。

 お客でも巨乳で牛のような女性、手が翼の少女や炎を纏った尻尾を持つ女剣士など目につく。ふと建物の屋根を見ると猫の姿の女性が日向ぼっこ。

「・・・・・・なぜ、女性の魔物ばかりなのだ?」
「ん?ニールから詳しくは聞いていないのか?なら、南の方へ行くついでに話そう」



 ブレードの疑問に答えるべく南のエリアへ歩きながら話す領主。二人は南エリアに入ったところでこの世界について改めて情報を得た。

「・・・神か・・・下らん」
「そう言うな。我々の元の世界の神でもない。文句の一つを言ったところで世界が変わりはしない」
「そうだ。我らが動かなければ世界は変わらん。なかなか見所があるな」
「最もな意見を言ったまでです。我々は一介の兵士。口より行動が重要。戦いを食卓で見ている上司はこちらの世界にもいるはずです」
「・・・三政府なぞ当てにならんからな」
「そういえばそちらの世界では戦争中だったな・・・状況はいいのか?」
「残念ながら、波の押し合いの如く、犠牲の出し合いが続いています」
「そうか・・・すまない」

 イーグルの答えに謝罪するレギーナ。慌ててイーグルが声を掛ける。

「謝罪は結構です。それよりこの地域は?」
「ああ、こっちはギルドと言われる組合がある。そこでは様々な依頼を冒険者や傭兵にやって貰っている。お前たちのことも街で話題になっているが、揉め事が無いよう直接紹介したい」
「解りました。・・・あの建物は?」

 イーグルは街道の左側にある十字架を掲げた建物を見つける。

「あれは教会及び孤児院でもある。親を失った子どもたちがたまに発見されている。」
「あなた方は教会については・・・」
「ここは主神を掲げている愚か者どもの場所でもない。孤児たちの中には魔物の子もいる。」

 中を覗くと小さな子ども達が外で遊んでいた。普通の人の子以外に角や羽、また、蛇のような下半身、蜘蛛のような多足を持つ幼子がいた。

 一同が通り過ぎようとしたその時、イーグルは立ち止まった。幼子たちと戯れる純白の翼を持ち、輝く天輪が頭に付いている少女。彼は驚くように彼女を見つめる。

「・・・隊長?」
「いや・・・なんでもない」
「・・・?」

 酒場のような建物に入る一同。此処が領主の言うギルドの拠点場所。周りでは屈強そうな男の戦士や武装した魔物たちがテーブルでくつろいでいた。奥のカウンターに向かうと金髪の女性が居た。

「あ、領主さま、こんにちは」
「ごきげんよう、マム。例の部隊の責任者を連れてきた」
「えっ!?じゃあ、この方々が・・・」
「初めましてドラグーン隊隊長のイーグルです」
「・・・同じく隊員のブレード」
「どうも、私はギルドの受付担当のマムです。よろしくね♪」

 カウンターから身を乗り出し、イーグルと握手をする。彼女から見上げている異常な体制で握手を求められ、不思議に思うも彼女の下半身を見て納得する。彼女の腰から下は赤黒い蛇の身体だった。

「うふ♪私の身体、そんなに珍しい?」
「あ、ああ・・・」
「・・・」
「彼女はラミアという種族だ。マム、彼らはまだこの世界の魔物に詳しくない。それよりも手続きを」
「あ、そうね。ちょっと待っていてね」

 彼女はそう言うと後ろの棚から何か洋紙を取り出す。

「あなた達がギルドのメンバーと揉め事にならないよう、ギルド内で特殊登録者の情報を配布するの。そうすれば、あなた達のことを先に知り、深入りしないようになるわ」
「・・・・・・俺たちは要注意という訳か」
「そういうこと♪」

 イーグルは洋紙を受け取り、名前の欄に全隊員の名前を書いた。

「これでよろしいか?」
「ばっちりOKよ」

 手続きが完了した直後、入口から勢いよく青年が入って来た。彼はカウンターまで走りやって来る。どうやら、受付のマムに用があるらしい。

「姐さん!大変だ!」
「どうしたの?急にやってきて・・・依頼の食材キノコ採集は?」
「その採集場所の森に“マガイモノ”が出た!気付かれないよう逃げてきたが・・・」
「何ですって!?数は!?」
「急いで逃げたから分からないけど、3、4匹は居たと思う」
「参ったわね・・・今、討伐出来るメンバーは出払っているの。でも、放って置く訳には・・・」
「“マガイモノ”とは?」

 その話に興味が湧き、領主に話を聞くイーグル。

「我ら魔物とは違う貪欲な存在。他の生物を喰らうことしかしない下等生物だ。出現したのは珍しいな」
「・・・?」
「貪欲なる存在か・・・似ているな」
「何がだ?」
「いや、何でも無い」

 ニールが疑問を持ち、問いかけるがイーグルは答えなかった。考え込んだ彼はマムに話し掛ける。

「よろしければ我々がその“マガイモノ”を討伐しましょうか?」
「「!?」」

 領主とニールが驚く。

「えっ!あなた達が?」
「え、あんたら一体・・・」
「この街に来て滞在までさせて貰っている身。その見返りではないが手助けはしたい」
「でも、あなた達・・・」
「構わん。我からも許可しよう」
「領主さま!?」
「彼らは教会騎士から民を救ってくれた。それなりの技量は持っている」
「「!?」」
「これでも一介の兵士です。少数なら問題ありません」

 自信ある言葉を出すイーグル。ブレードは呆れて目をつぶる。

「それで、現場はどちらに?」
「此処から南に行った先の森よ」
「ニールに連れて行かせる。街付近の土地は詳しいからな。頼んだぞ」
「はっ!」
「行くぞ、ブレード」
「・・・了解」


<都市アイビス付近 南の森付近>

 目的の森付近に来た三人。目標を確認するため、森を見渡せる丘に上がる。念のため、見つからないよう慎重に丘の頂上へと上がる。

「“マガイモノ”は君らとは違うのか?」
「そうだ。魔力も無いため、魔王の影響が無かった個体だ」
「・・・・・・なら、暴力的に倒しても問題ないな」
「お前は最近、不機嫌な顔しか見ないな。鬱憤でも溜まっているのか?」
「・・・うるさい」

 ニールの問いかけを不機嫌に答えるブレード。そうこうしている内に頂上に辿り着く。此処でイーグルは背中にいつも背負っている長銃を取り出す。

<CONVICTION RAY>

 通称『C.R』 L.B.Hをベースに開発された長距離狙撃用光学兵器。ストックを折り畳んだ状態で全長80cm。約70発分のEパックにより、装填回数を軽減。銃身の先30cmが左右に開くことでエネルギーチャージ。これにより大口径のレーザーを発射できるが約10倍のエネルギーを消費する。

 『C.R』のスコープを覗き、敵を探す。

「さて、何処にいるか・・・・・・んっ?・・・」
「・・・隊長?」

 イーグルの反応を見て不審に思い、ブレードも携帯双眼鏡を覗く。

「どうした?居たのか?」

 二人はニールに答えず、森を見続けた。不意にイーグルが自身の携帯双眼鏡をニールに投げて渡した。

「ニール。あれが君らの言う“マガイモノ”か?」
「???」

 彼女は渡された双眼鏡で森を見る。此処から400m先、森の手前の草原にその姿はあった。

 2mある身体のほとんどが滑らかな硬質で覆われ、甲虫の外骨格のような二本爪の足。顔はサメのような尖った鼻面と輝く黄色眼。最大の特徴は腕が剣の如く、鋭利な刃と化している。

「ソードマンか・・・珍しいな」
「ソードマンと言われているのか?」
「そうだ。だが、あの姿の“マガイモノ”は昔の記述でしか見たことが無い。現物は初めてだ」
「・・・・・・」

 無言で突撃体制に入るブレード。それに気付いたイーグルは右膝をついて狙撃体制に入る。

「ん?お前達・・・」
「ブレード、突撃して奴らを撹乱しろ。数は5、援護する」
「・・・了解」
「な、待・・・」

 ニールの制止する言葉が出る前に飛び出して走るブレード。目標は400m先の5体。
どうやら、1体が彼に気付き、他の者もこちらを見始める。

「GU!?GAAAAAAAAAAA!!」

 一番手前の1体がブレードに向けて、左腕の刃を振り下ろす。彼はそれを難なく左に避け、奴の腕と身体の間を抜けながら左腕の『RAY EDGE』で切り裂いた。

「JAAAAAAAAAAA!?」

 1体目を倒し、次に向かう。今度は2体同時。その時、青白い光線が右側の1体の頭部を貫く。

 イーグルが『C.R』で狙撃援護をしたのだ。ニールは開いた口が塞がらなく、双眼鏡をずっと覗いている。

 左側のもう1体は隣が倒されたことに気付き、そちらに顔を向ける。その隙を彼は見逃さなかった。一瞬で間を詰め、右手の指の間に3本の『RAY EDGE』を持ち、青き3つの爪が奴の身体を切り裂く。

「GUOOOOOOOO!!!」

 仲間がやられたことで怒り狂う一体がブレードに走り向かう。それを平然と見つめるブレード。次の瞬間、彼の真上に光線が飛んできた。その光は走って来る奴の頭部に当たる。奴は何も出来ずブレードの前に倒れた。

 彼はすでに奴とは違う、奥にいた1体を睨み続けていた。そいつは今までの出来事をまるで観賞するかのようにこちらを見ている。

「・・・」
「・・・GUUUUUU!!!」

 突然、唸り声を上げると奴の腕に異変が訪れる。

バキバキバキバキバキッ!!ブシュウウウ!!!

 それまで一つの刃しかなかった腕が3つに分かれ、爪のような刃へと変貌した。

「・・・・・」
「なっ!?」

 ニールは奴の変化に驚いたが、次にイーグルのした行動にも驚く。

 彼は銃を背中に背負い、遠目から眺め始めたのだ。

「な、何をしている!?」
「もう援護は必要無い」
「だが、あいつが不利に・・・」
「なってなどいない。一対一になった以上、あいつを止められやしない。それにあいつ自身、邪魔するなという体制でもある」
「!?」
「心配するな。勝算なしでやってはいない。よく見ておけ」

 彼に言われて不思議に思いながら双眼鏡を見る。

 見つめ続けていたブレードに動きがみられた。彼は右手で背中の柄の付いた長方形の物を取り出す。それは突然、刃が現れて剣に変形する。しかし、その刃渡りは50cmと短い。

「GAAAAAAAAA!!!」

 奴が向かってくる。彼は構いもせず、左手の『RAY EDGE』を右手の剣の柄頭に押し入れた。その瞬間、剣の刃から赤く輝く光が放出される。それは本体の3倍以上の長さになる赤き光剣。

 奴が右手の爪を振り下ろす。だが、そこには彼はいなかった。彼は瞬時に右に避け、奴の背後に回り込む。慌てて後ろを向く奴。

 そこから奴は動かなくなった。後ろを向いた瞬間、赤き閃光が縦に走った。彼の手に持っていた剣はいつの間にか輝きを失っていた。ゆっくり剣を背中にしまうブレード。

 それを機に奴の身体が真っ二つに別れ、左右に倒れる。

「!?」
「終わったな」
「今のは・・・」
「『GREED KILLER』(グリードキラー)決戦兵器として作られた武器だ。さっきあいつが使っていた青い刃『RAY EDGE』を糧にすることで巨大な光の刃を出すことが出来る。5分しか持たないがな」
「グリード、キラー?」
「さて、ニール。ギルドに戻るぞ。領主も連れて大至急、我々の戦艦に来て欲しい」
「!?・・・何故?」
「訳は後で話す。ブレード、撤収だ」
『・・・了解』

 通信で応答し、二人に向かうブレード。ニールは彼らの行動に疑問を持ち始める。

(さっきの武器といい、戦いといい。なぜ、簡単に奴らを?)

 歩きながらイーグルはエスタに通信を入れる。

『エスタだ』
「こちらイーグル」
『ああ、イーグル。どうした?』
「ついさっき、異形者を発見し、殲滅した」
『もう一度言って』
「異形者“リッパー”を発見、殲滅した。4台迎えを寄こしてくれ。詳しい話は司令室で」
『分かった。すぐに迎えを寄こすよ』
「交信終了」

 通信終了と共にブレードが追いつく。

「よくやったブレード。記録は?」
「・・・発見時と最後の遺体を」
「上出来だ。ギルドで領主と共に戦艦に向かうぞ」
「・・・領主も?」
「我々にとって大きな収穫が手に入った。確認のために彼女も来て貰う。ニールも知りたいのなら付いて来てくれ」
「当然だ。納得いかないことがいくつか出来たからな」

 ニールはそう言うとブレードを見続けた。左手で剣を握りしめながら・・・。
11/07/15 21:15更新 / 『エックス』
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