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第二章 信仰と命の天秤 後編
 俺が教会で厄介になって数日が経過したある日、子供達に美味い物を振舞おうと狩りに出ていた。

 なぜか子供達も数人ついてきている。

 まあ、これ位なら何に襲われても守れる訳なんだが・・・。

 「エル兄ちゃん、これ重たいよー。」

 数羽に鳥の入った籠を背中に背負った男の子が弱音を吐く。

 「ミュール、もうちょっとだから頑張れ。」

 ミュールはここ数日で俺にべったり懐いてきた子だ。

 どこへ行くにも後ろをついてきて可愛いのだが・・・。

 「こら、ミュール!エル兄ちゃんを困らせたらダメでしょ!」

 他の子からも慕われているので俺にミュールがくっつきすぎるとあまり面白くないらしい。

 「喧嘩するなよー。御飯が食べられなくなるぞー。」

 「だってぇー。」

 子供達に注意をし、帰り道を歩いていると森の出口に教団の印をつけた複数の騎士が立っている。

 それを目にすると隠れるように子供達は俺の後ろへと回った。

 近づいているのに気づいたのか、一人の騎士がこちらへとやってくる。

 「ミュール、悪い。これ持ってちょっと離れてな。」

 「うん。」

 背負っていた籠をミュールに預けて近づいてきた騎士と対峙すると空気が変わっていく。

 「貴様なぜ魔物と共にいる?どれだけ危険なことか分かっているのか!」

 「危険?少なくともお前らといるよりは安全だろ?」

 俺の言葉にムッときたのか、後ろで待機していた仲間を呼び後ろ盾を作って口撃してきた。

 こいつら群れないと何もできないのか?

 「こいつ、我々より魔物と一緒の方が安全だと言ったぞ!」

 「なんと無礼な!人々の平和を守る我々より不浄な魔物と一緒の方が安全だと?貴様・・・、魔物の手先だな!」

 「貴様の邪悪に染まったその心!神の名において浄化してやろう!」

 「嫌だねぇ。誰これ見境なしで襲いかかってくる奴は。人として無礼だね。」

 「何を!!」

 頭に血が昇った一人が斬りかかってくる。

 だが、奴が振り上げた剣は俺に落ちてこない。

 ズシャッと土に何かが減り込む音だけが鳴った。

 それは地面に膝をつけた音、斬りかかってきた騎士が倒れ込んだ音。

 「き、貴様!何をやった!」

 状況が把握できないのか、俺に何が起こったかを聞いてくる。

 普通、敵に何が起こったかなんて聞いてくるか?

 「さあね?知りたければかかってこいよ。」

 答えてやる義理もないので、そのままそれを挑発へと利用して相手の怒りと闘争心を煽っていく。

 「ふ、複数だ!複数でかかるぞ!陣形を組め!」

 「まあ、戦術としたら間違いじゃないが・・・。」

 腰を低くして俺は陣形を組んでいる真っ只中へ突っ込んでいき、途中伸びている奴の手から剣を拝借して更に速度を上げる。

 遠心力と筋力を最大限にまで活用して、剣の側面で一人の頭を兜ごと思いっきり引っ叩き、ついでに回し蹴りでもう一人の腹部を鎧ごと蹴り上げた。

 「ごふっ・・・。」

 「がはぁ・・・。」

 「使いどころを間違っている・・・。」

 「き、貴様!」

 陣形の先頭と右翼の騎士が崩れ落ち、憤りと混乱で冷静さを無くした二人が体勢の悪い状態、片足で立ち両手、片足を伸ばしきった俺に斬りかかってくる。

 「おっと、これはまずいか?」

 と、対して焦るわけでもなく体勢を戻していく。

 「もらった!」

 振り上げ、降ろすまでの数秒。

 腕を収縮させ、伸ばしきるまでの数秒。

 二人の剣が加速に乗ろうとした時、突風が彼らの兜の中へ侵入し見開ききった目玉に吹きかかった。

 「ぐはぁ!なんだ!?目が!」

 「まあ、いくら鍛えた者でも目に異物が入れば一瞬でも怯むだろ?風だけにしといてやったんだから感謝しろよ。」

 「なに!?」

 体勢を戻し終え、まだ兜の眼部を手で押さえている二人の鳩尾を蹴りあげて気絶させ戦闘を終わらせる。

 「さて、こんなもんか。久しぶりの実戦だしこれだけできれば上出来か。」

 軽く動いただけだが勘が戻っていくのが実感できた。

 「エル兄ちゃーん!」

 「おう、無事だったか?」

 「うん!エル兄ちゃん凄いね!」

 「まだまだ、世の中上には上がいるもんさ。ところで、誰が縄持ってたっけ?」

 「私だよ!でも、どうするの?」

 「こうするのさ。」

 気絶させた騎士達五人の身ぐるみを剥がし肌着と下着だけにして手と足を縄で縛りあげていく。

 「この人達って教団の人だよね?大丈夫なの?」

 「おいおい、俺達は命狙われたんだぞ?これ位しても罰は当たらないさ。それに・・・。」

 親指を立てて茂みの方を指す。

 そこには角やら触角やらがちらほら見えていた。

 「あーぁ。」

 子供達全員が何かを納得する。

 「さて、帰るか。」

 「おー!」

 騎士達の末路は察するところとして、森の出口から平原に出ると帰るべき町の方から黒い煙が上がっていた。

 「町が・・・、燃えてるの?」

 「まだわからんが、急いだ方がよさそうだ!」

 俺は食材の入った籠を全部受け取り両手に持つと、脇に二人、背中に三人の子供を抱えて町へと駆けだす。

 「しっかり掴まってろよ!」

 「はーい!」

 少しきついが、街に向けて速度を上げて走る。

 子供達は必死に掴まって頑張ってくれてるのだろうと思いきや・・・。

 「きゃー!」

 「すげぇー!」

 「おいおい、町から煙出てるんだぞ?少しは心配しろよ!」

 「ええぇーっ!」

 「楽しいよ!」

 楽しんでるよ、こいつら・・・。

 平原を駆け、町が確認できる距離までくると状況がわかってくる。

 煙を上げる建物、周囲を半包囲してる聖騎士達、わかってる限り絶望的な感じだ。

 「エル兄ちゃん・・・。」

 「最悪は覚悟しとけよ・・・。俺はあいつら追っ払ってくる。こっちには来させないから食材、ちゃんと見といてくれ。」

 「うん・・・。」

 「よし、良い子だ。」

 下に子供達と食材を降ろし、全員の頭を優しく撫でると町へと向かう。

 森を出て煙を見てから身体の中をどす黒い殺意が刺していた。

 頭の天辺から足の先まで殺意が刺しきった時、眠っていた何かが解放されたのを感じる。

 「・・・。」

 黙々と歩く俺を中心に風が巻き起こり、平原を駆け、町を通り抜け、先の平原へと流れていく。

 「包囲騎士人数百五十一名、戦闘中の騎士二十七名、戦闘不能騎士数二十三名、交戦中の味方五名、町の生存者数三百二十七名。全員生きてるのか?あとで確認だな・・・。」

 町に近づくにつれて包囲していた騎士連中が俺に気付きこちらへとやってきた。

 「十人一小隊、偵察にしろ勧告にしろこんなもんか。」

 馬を走らせこちらへと近づき、敵とも知らずに注意勧告をしてくる。

 「そこの貴様!現在あの町では魔物を討伐している!怪我をしたくなければ即刻立ち去れ!」

 「大丈夫だ・・・。」

 馬と馬との間をすり抜けて騎士達が来た方へと進む。

 「そこの関係者でね・・・。通らせてもらうよ。」

 「なに!?き、貴様!」

 いつ俺が通ったかも分からず、声のする方へ顔を向ける騎士達。

 チンッと金属と金属がぶつかり合う音がするとともにどさっと何かが落ち、飛沫があがるような音が後ろから聞こえてきた。

 「君達の武器、質がよくないね。量産品か?っと、聞こえてないか・・・。」

 後ろがどうなっているかなど斬った自分が一番知っている。

 「中で戦ってる五人は健闘してるみたいだね。では俺は包囲網を削っていこうかね。」

 味方の状態を確認し、新手に向けて接近していく。

 その後、敵の本隊と当たるまで八小隊、計八十人程血の海に沈んでもらった。





 「さて、間近で同胞が散っていく様はどうかな?楽しいかい?」

 「き、気狂いが!」

 「おやおや、酷い言われようだ。君達が魔物に対してやっていることを俺が君達にしているだけだよ?」

 「う、うるさい!私達は神の名の元に魔物を殺してるんだ!お前みたいな気狂いと一緒にするな!」

 「神の名を借りないと自己肯定もできずに殺しもできないのか、情けないねぇ・・・。」

 「黙れ黙れ!ただの旅人かと思っていたらやはり魔物の手先だったのだな!」

 「やはりとはなんだやはりとは、俺はお前の案内で行った町のシスターに厄介になったから恩を返してるだけさ。」

 「なん・・・、だと・・・。」

 「話していても埒が開かないな。左翼と右翼を集めて何をするかと思えば人の周りをぐるぐるぐるぐると・・・。目の前で同胞が散っていくと流石に死が怖くなるか?」

 本隊の後方を突いて十人ほど斬り裂いたところで増援が来た。

 といっても左翼と右翼の連中が合流しただけなんだが・・・。

 その増援と残ってた騎士達が騎馬と騎士の壁を形成し、指揮をとっているものが敵である俺を見に来たところで指揮官が分かった。

 あのとんでもない案内をしてくれやがった聖騎士だ。

 そこから先ほどの会話が繰り広げられ今に至る。

 「私が死を恐れているだと!?貴様、私をホテェンズィエリッター卿の長男と知っての暴言か!」

 「知っての暴言かって・・・。知ってようが知ってまいが関係ないだろう。お前、戦場で権力使って相手を殺してきたのか?戦場舐めてるだろ?」

 「だ、黙れ!貴様なんぞ教団の力の足元にも及ばないのだ!大人しく投降すれば命だけは助けてやるぞ!」

 「・・・。お前状況わかってないな。」

 なぜ圧倒的に俺が有利なのに投降しないといけないんだ?

 「九十人殺されたのは個別で戦ったからで、六十一人で包囲してるから。有利になってるとでも思ってるのか?」

 「そうだ!」

 「つくづくおめでたい奴だな。だったら他の騎士の後ろに隠れてデカイ声あげてないでさっさとかかってこいよ。」

 「言わせておけば!諸君!相手はたった一人だ!人数では我等が有利!突撃!」

 高々と号令を上げるがこちらへは誰一人として攻めてこない。

 「お前達!何をしているんだ!突撃だ!突撃!」

 「そりゃ、無理な話だ。」

 俺が一言上げると、今まで立っていた前衛の騎士が血飛沫を上げて崩れ落ちる。

 「話が長すぎるんだよ。お前は・・・、何もしてないと思ったのか?」

 残ったのは後衛の騎士と騎馬だけ、ざっと二十一名と言ったところだろうか。

 「己・・・、よくもまた同胞を!神の名において仇を討つぞ!死を恐れるな!名誉を惜しめ!」

 騎士と騎馬を鼓舞するが、彼らが動く気配はない。

 動けば死、動かなくても死。

 もう逃げだしたいだろうなぁ、一名を除いては・・・。

 「貴様ら!相手に飲まれるな!いくぞ!」

 こいつはあくまで騎士達を先に行かせたいらしい。

 号令をかけるだけで自分は動こうとすらしないのだ。

 「誰も死にたくないんだってよ。お前くれば?」

 「な・・・、に?」

 「だからお前が来いよ!」

 「ふ・・・、ふん。き、貴様如き私が出るほどではないんだが。ど、どうしてもというのなら出てやろう!か、覚悟しろ!」

 滅茶苦茶声が震えてるよ・・・。

 後ろ盾がない状態で奴はゆっくりと馬に乗ったままこちらへと来る。

 「部下をこれだけ無駄死にさせておいてまだそんな口がきけるのか・・・。死んでいった騎士達が報われないな。」

 「だ、黙れ!わ、私の本当の力を見せてやる!いくぞ!」

 馬の腹を蹴り、奴が突進をしてきた。

 手には得物として重槍を持ちこちらの頭を狙ってきている。

 流石に先ほどまでの騎士達と違い動きが・・・。

 雑だ・・・。

 騎馬戦で重槍を使うのは難しい、ただ突けばいいともいうものではない。

 一突き後に生まれる隙が大きすぎる為にその後の動作と合わせて動かなければならないのだ。

 それに動いている馬の上ならなおさら扱いは難しくなる。

 訓練では上手くいったや訓練用の槍だったからでは話にならない。

 ここは戦場だ、常にその時その時の判断が求められる。

 最初の直線で突進してきた時は槍をそこに置いているだけで攻撃になるので鋭い一撃になるが反転時、その後の直線時の攻撃は軸がぶれており容易に避けられた。

 単調な突進を避け続けていると先にへばった奴がいる。

 奴の馬だ・・・。

 馬が一番体力があるはずなのに、その馬が一番先にばてるとは・・・。

 こいつどんな使い方してるんだよ・・・。

 「ええい、役に立たない馬め!」

 ふらふらの馬から飛び降りると、重槍を地面に捨て腰に携えている剣に手をかけた。

 戦い方が無茶苦茶だなこいつ。

 「貴様相手に剣を抜くことになるとは!覚悟しろ!」

 抜刀し斬りかかってくるが、重槍よりもやや速くなっているだけで奴の斬撃はこれまた単調なものだ。

 「ふん!でかい口を叩く割に避けてばかりだな!」

 息を荒くして、連続で斬ってきているがこちらは避けるだけに徹している。

 こいつの体力を削っているのだが、相手は自分の攻撃が速すぎて反撃できてないと思っているらしい。

 「はぁ・・・!はぁ・・・!どうだ!反撃できまい!せりゃ!」

 ヨレヨレの斬撃を避けて、頃合いを図る。

 「そろそろいいだろ。相手してやるよ。」

 構えをせず、ただ楽な体勢。

 そこから一睨みをして殺気を相手に向けていく。

 刺し、貫き、痛みさえ覚えるような気を周囲に放出し騎士達全員を威圧する。

 「き・・・、貴様・・・。あ・・・、あ・・・。」

 殺気に飲まれたのか、疲れで膝が折れたのか貴族騎士はその場に崩れ落ちた。

 「おいおい、一睨みしただけでこれか?張り合いがないな。」

 放っていた殺気を消して辺りを見回す。

 「お前らはどうするんだ?やるかい?」

 一言聞くと、騎士達は後ずさりしていく。

 囲まれた円は広がっていき、中央にはへたり込んだ貴族騎士と俺だけが残った。

 「き、貴様。私をこんな目にあわせてただで済むと思ってるのか?」

 「分をわきまえない割に元気だな。おい。」

 己の立場を理解してない馬鹿を蹴りあげる。

 重い鎧を着こんでるが奴はよく飛んだ。

 主に上に。

 弧を描いて落ちてきた奴の首の部分を持ち立ちあがらせる。

 「立場は理解したか?」

 「わ、私は、ホティンズィエリッター卿の長男なんだ・・・。がぶっ!?」

 まだ理解してないようなので地面に叩きつけた。

 「どうだ?」

 もう一度持ち上げて聞き直す。

 「ち、父上が報告を受けたら貴様なん・・・。ごふっ!?」

 また叩きつける。

 今度は少し強めで。

 「で・・・?」

 「・・・。」

 更に持ち上げて聞き直した。

 「黙ってるってことは理解したってことだよな?気絶はしてないだろ?だから黙って聞けよ?今後一切キューズにかかわるなよ?命は惜しいだろ?教団の連中にもそう言っておいてやれ。」

 そのまま騎士達の方へ投げ飛ばす。

 「お前ら!この馬鹿を連れてさっさとこの場所から消えろ!さもなければわかってるんだろうな?」

 そういうと騎士達は奴を回収して自分達が進んできた道を大急ぎで帰っていった。

 「さて、もう教団関係者はいないか。じゃ、迎えに行くかな。そこの君、立てるか?」

 座って休憩していた一頭の馬を起こし、ミュール達の元へと戻っていく。

 「お前ら、無事だったか?」

 平原の片隅でじっと待っていてくれた五人の子供達。

 だが、俺が近づくと少し怯えているようだ。

 「ふむ・・・、みたのか?」

 フルフルと首を振り否定するが、目を見れば嘘かどうかすぐわかる。

 「嫌な思いをさせたみたいだな・・・、すまん。」

 一人一人をぎゅっと抱きしめて落ち着かせていく。

 俺にはこうしてやることしかできないから。

 「エル兄ちゃん・・・。」

 どうにか全員を落ち着かせ、馬に乗せて町へと急ぐ。

 黒い煙がもうもうと上がってる割には建物への損害は少なく、倒されている騎士達も負傷半分、死亡半分と言った所だ。

 町の中を進みながら、人の集まっている方へと向かっていく。

 中央広場、俺とキューズが出会った場所に大勢の人達がいた。

 「エルフィール!」

 「キューズ!無事だったのか!」

 「ええ・・・。子供達は?」

 「全員いるよ。」

 「お姉ちゃーん!」

 馬から飛び降りて、全員が彼女の元へ駆けていき抱きつく。

 「良かった・・・。皆無事で・・・。」

 「被害は?」

 「町の建物が少し壊されたぐらいよ。町の人も孤児院の子供達も全員無事・・・。」

 「そうか。」

 それから俺達が狩りに出かけた後の事を話してくれた。

 日が低いうちにでた俺達と入れ替わりに奴らが包囲を敷き始めたらしい。

 町の自警団の人からは見えない距離で気付かれないように行っていたようだ。

 それに気がついたのは一人の魔物娘。

 旅の途中だったらしく、包囲が敷かれていない方角から町へと来て町長に事情を報告したそうだ。

 そして運の良い事に宿屋に冒険者が四人滞在しており、町の防衛を依頼したところ快諾。

 魔物娘も参戦してくれ防衛戦が展開されたという。

 「で、町の人達は安全な場所に避難していて無事だったというわけですよ。」

 キューズの説明の後に説明を入れてくれたのは武装した男女四人だった。

 彼らが防衛してくれた冒険者なのだろう、一挙手一投足から力量がよくわかる。

 「君達が防衛を?ありがりがとう、御蔭で街に被害が出なくて済んだよ。」

 「いやいや、僕達は人として当然のことをしただけですから。」

 後ろの三人もそれにうなずく。

 「それよりも貴方、町の外から戻ってきたんですよね?騎士達が包囲してませんでした?」

 「包囲?あぁ、外の奴か。あいつらなら撤退していったぞ?」

 「えっ?」

 「町を包囲してたから強襲かけて向かってくる奴斬り裂いていってたら撤退していったんだよ。」

 「な、なるほど・・・。強いんですね。」

 「いやいや、君らほどではないさ。」

 しばらく冒険者の四人とキューズを交えて話していると町長がこっちへやってきた。

 「皆さん、ここにいらっしゃいましたか!今確認してもらったんですが、戦える教団の騎士はもういないそうです!これで防衛は完了ですよ!」

 町長は喜々として話していく。

 「冒険者の方々には報酬をお渡しして、夜にささやかな宴を催しますのでそれまで宿屋で休んでいてください。それと、シスターキューズ。お話があるのですが・・・。」

 「あっ、はい。なんでしょうか・・・。」

 キューズは町長と話始め。

 「では、ぼくたちも宿屋で休ませてもらいますよ。」

 冒険者達も宿屋へと引き上げていった。

 「さて、俺はどうするかな・・・。」

 キューズの話が終わるまで待とうと思い、広場にある長椅子に腰をかける。

 子供達はときょろきょろあたりを見渡すと他の子供達と何やら話しているようだ。

 それを確認して背もたれに身体を預けて、待っていると殺気とは違う何か見られているような感覚がした。

 感覚を感じた方に目を向けるが誰もいない。

 探りをかけてみようと思ったが殺気ではないのでほっておくことにした。





 夜になり、広場では宴が開かれていた。

 町を救った英雄六人が主賓となり中央で持て成しを受けている。

 なぜ六人か?

 それは俺も勘定に入っていたからだ。

 あの時にミュール達は俺が教団の騎士と戦っていた様子を我が事のように話していて、子供達全員が町中の人達に話してったらしい。

 それが町長の耳に入り主賓として加えたいと俺の所にやってきたのだ。

 最初は断ったのだが、どうしてもと願われて参加することになった。

 町の人皆が生があることを喜び、命を救った英雄に感謝をして宴は盛り上がっていく。

 宴の場でもまたあの時と同じ感覚を感じたが、気配はすぐに消え探ることはできなかった。

 宴も終わり、孤児院へ帰ると皆色々あったせいか二階へ上がりすぐに眠ってしまう。

 下の食堂でキューズを二人きりになると、彼女が大事な話があるといってきた。

 「移住?」

 「ええっ、ここは中立の土地。またいつ教団が来るかわからない。町長の知り合いに親魔物派の領主をしている人がいるの。皆でそこへ移住するかどうかの相談を受けていたの。」

 「君はどうしたいんだい?」

 「移住には賛成なの。子供達をこれ以上危険な目にあわせたくないから・・・。お墓も、しょうがないわ・・・。」

 「そうか、ならいいんじゃないか?」

 「貴方ならそういってくれると思ったわ。それでなんだけど・・・。」

 「どうした?」

 「一緒に来てほしいの・・・。」

 「・・・。」

 「貴方が異世界から来て、旅をしているのは知っている。でも・・・、一緒に居たいの!お願い・・・。」

 「・・・すまない。俺はまだこの世界の事をよく知らない。だから旅をするんだ。ここも君も子供達も好きだよ・・・。」

 「だったら!」

 「だけど、知りもしないで旅を終わらせたくないんだ。悪いけど、その願いには応えられない。」

 「・・・。ごめんなさい、貴方のことも考えずに一方的に言っちゃって・・・。」

 「・・・すまない。」

 その後、俺とキューズの間に会話がないまま眠ってしまった。





 翌日の早朝、俺は教会の入り口にいた。

 いたたまれない思いとこれ以上一緒にいると根を降ろしてしまいそうだったから・・・。

 静かに扉を開けると、そこにキューズが立っていた。

 「行くの?」

 「ああ・・・。」

 「子供達に別れは言わないのね・・・。」

 「・・・すまない。」

 「貴方昨日から謝ってばかりじゃない。」

 「・・・。」

 「いいわ。私から話しておくから・・・。気を付けてね。」

 「ありがとう。その・・・、なんだ。厄介ばかりかけたな。」

 「気にしないで、貴方が来てくれなかったら皆の命。なかったかもしれないから・・・。」

 「そうか・・・。これ、使ってくれないか?」

 重みのある袋をキューズに渡す。

 昨晩、町長からもらった防衛の報酬だ。

 「これ・・・、貴方の旅のお金でしょ?受け取れないわ。」

 「いいんだよ。これから移住するんだろ?先立つものがないと上手に動けないから。気にすんな。」

 「・・・。」

 「それじゃあな・・・。」

 キューズとすれ違い、歩き始める。

 「エルフィール!」

 呼び止められて振り返ると、唇に柔らかいものが触れた。

 「いってらっしゃい!」

 「あぁ!いってくる!」

 手を振るキューズに見送られて俺は孤児院を後にして町を出ていく。

 日の昇る前の平原は心地よい風が駆け抜けている。

 「さて、これからどうするかねぇ・・・。」

 知識は手に入れたが文無し状態。

 あそこでああしないと男が廃るだろう。

 そう自己満足に浸りながらしばらく歩いていると背中にまたあの感覚を感じた。

 後ろを振り返ると薄い蒼の中を走ってくる一つの影。

 新手か?と思ったがそうではなかった。

 それは翡翠の鱗を持つ剣士。

 昨晩の宴で英雄と呼ばれた中の一人。

 その彼女が俺にもの凄い速度で向かってくる。

 「やった追いついたぞ!さあ!尋常に手合わせ願おうか!」
11/07/02 16:56更新 / 朱色の羽
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■作者メッセージ
後編でございます。
書いててちょっと腹が立ったのは内緒の話。
こうしないと伏線にならないでしょ!と自分を納得させてました。

今回用意した伏線は全部で3つ。
二つはわかりやすく、もう一つも分かりやすいかな〜。
などと思いつつ忍ばせました。

では、第三章でお会いしましょう。
感想や訂正、アドバイス等は随時お待ちしております。

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