物乃怪複鳥草紙 −妖狐、稲荷編−
ここは霧迦具土の端、県境となる土地。
元々この地域は古い時代三つの国だった。
海運の要、ジパングから大陸への貿易をして巨万の富を得ていた水の京を有する¨天川¨。
鉱山資源が豊富で金山と鉄の鉱脈で富を得ていた火の京有する¨鉱府¨。
広大な平野と水資源を持ち、作物の収穫で二つの京から富を得ていた土の京を有する¨穀穣¨。
その三つの国が一人の殿様によって統一され出来上がったのが霧の国で霧迦具土の走りとなったものだ。
口上が長くなったが物語とはまったく関係・・・、なくもないか。
とにかく俺はその県境・・・、穀穣は端に通る国道で食い物家¨黄金庵¨を営んでいるってそれだけのことさ。
宵ノ宮から黒垣に抜ける道路でもあるんで小さいながらもそれなりに繁盛しているんだが・・・。
交通の要所には店を構えたがる奴等が多い。
特に食い物屋はな。
周りにコンビニや飯を補充できる場所がなければ不味くない限り黙っていても客は来る。
だから軽く飲食店の激戦区にもなりやすいのだ。
そしてつい先日、客足に波が出始めた。
なぜかというと俺の店の隣に出狐狸亭という飯屋が出来たからだ。
その波が自分にまで変化を及ぼすとはこの時は思っていなかった。
「毎度あり〜。」
店に居た最後の客が勘定を払い終えて出て行く。
その後ろ姿を見送りながら昼間の掻き入れ時である山を乗り切ったことに軽く安堵するのだが、まだ一日は終わっていないし、夜に向けての仕込みもある。
そして何より・・・。
「羽やん〜。御飯頂戴〜。」
「赤羽はん、いつものよろしく。」
「羽の字!いつもの大盛りやで!」
戸が勢いよく開くと魔物娘達が入ってきた。
妖狐に稲荷、刑部狸。ミノタウロスやホルスタウス、オーク。ハーピー、ブラックハーピー。ラミアにメデューサ、更にエキドナ。サハギンに河童、そして最後にカリュブディスにマンドラゴラと大人から子供まで狭い店内の中に詰め込まれていき各々が自分達の席へと座っていき注文をしていく。
そう、安堵したのも束の間彼女達の昼食の時間となるから山を越えても休めないのだ。
ちなみにこのお嬢様方は隣店を構えている出狐狸亭の従業員達で賄いの出す御飯組みからあぶれたのでこっちで食事をしているらしい。
一度、周りにもたんまり飯屋があるだろうと聞いたところ、味と値段でうちに勝る店がなかったそうだ。
嬉しいのやら悲しいのやら。
「ん?全員いつものでいいのか?」
彼女達が注文するものは決まっていて、一応の確認をするために聞いてみるが返ってくる言葉は・・・。
「問題なし〜。」
「ええどすよ〜。」
「確認はいいから早く作ってくれ〜。」
まあこんな感じで聞くまでもないことなのだが、常連化しつつあるといってもお客はお客、蔑ろにはできない。
頭の中で各自に作る品を復唱しつつ調理へと入る。
最初は定食組みのものから作っていく。
付け合せのキャベツ、レタス、トマトを刻み、割って、切り分けていき更に盛ると業務用の冷蔵庫に寝かせていたハンバーグとコロッケのタネと調理用の大きさに切られた豚肉、牛肉。
それと白い塊を取り出して次へと行程を進めていき。
揚げ物用の鍋とフライパンを出すと火にかけて鉄と油を熱されていくのを待ち。
その間に人数分の茶碗と御椀を並べて汁物を作る準備へと入っていった。
準備といってもこちらも沸かして適温まで持っていくだけのことだ。
沸騰させてしまうと出汁袋の中に入っている素材から旨味以外のものも出てしまう。
また中途半端な温度では具材に火が通らずに汁の味を濁らせてしまうから簡単というわけではない。
予め袋を浸しておいた水入りの鍋を別の焜炉において火をつけて油とフライパンへと向き直る。
熱を吸い、いつでも焼ける状態の鉄板と小さな気泡を出してまだその時ではないと静かに待っている揚げ湯。
揺ら揺らと陽炎が浮かぶ相棒の一つに牛脂を入れてここから調理は全て終わるまで止まることがない。
ビフテキを焼き、フライパンを替えてポークチョップを焼き、また鉄板を替えてハンバーグを焼く。
色々な肉が焼けていく匂いが立ち込めていく中、蒸したり余熱で火を通している間に汁鍋に具材を入れ、準備の整った適温より少し高い油の中にコロッケや白い塊と間髪入れずに揚げていき第一陣の定食群を作り上げた。
「ステーキ定食、チョップ定食、ハンバーグにコロッケ。厚揚げ定食お待ち。火傷するなよ。」
カウンターの上に盆を置いていき、次の丼ものを注文している第二陣の調理に掛かる。
ちなみに厚揚げ定食は何の変哲のない厚揚げが皿に乗っているだけの代物だ。
ただし、作り立ての豆腐を水切りして揚げて出している。
自分で試してみて美味かったので遊びでメニューに載せたら看板の一つになってしまった。
「おぉ〜、待ってました。」
「羽さんの御飯だけがお昼の楽しみなんです〜。」
「厚揚げ♪厚揚げ♪」
ミノタウロス嬢がビフテキ、オーク嬢がポークチョップを妖狐のお嬢さんが厚揚げと次々に自分が注文したものをとっていき彼女達は食事へと入っていく。
牛や豚を食べている光景は・・・、なんというかちょっとしたシュールに映るが気にせずに待っている第二陣の材料を取り出す。
大量の卵と鶏肉、再び登場の牛と豚。
そして水切りした二種類の厚さに分かれた豆腐。
油を替えて、フライパンを流しへと移動させて丼物用の綴じ鍋を出し、まずは具材を作るために衣や溶き卵を作る。
鳥はぶつ切り、牛は細切れ、豚は筋と脂に刃を入れて軽く叩き柔らかくしていき。
油が熱くなったところで豆腐から投入して油揚げと厚揚げを拵え、豚肉に薄く卵を纏わせ衣を付けて鍋で泳がせてトンカツを作っていく。
その中で浴びせられる視線。
一つ一つ出来上がっていくもの、というより料理が始まってから具材を切る大きさ、揚げ物を油に入れる時間、全てを見逃がさないように目を凝らしている客がいた。
定食を注文した妖狐と丼物を注文している稲荷の二人なのだが、ご苦労なことだ。
見られていても仕事に支障はない。
カツを切り分け、割り下を張った綴じ鍋に入れて火に掛け、温まる間に卵を溶き、綴じていく準備をする。
煮立たせると汁の旨味が飛んでしまうので、ここでもタイミングを窺う。
昇る湯気に香る出汁、溶き卵が固まり尚且つ割り下を濁らせない絶妙な加減で器を傾けて黄色い液体をトンカツに掛けて行く。
後は客の好みになるまで火を通すだけなので、その間に丼を湯に浸して暖め、飯を盛り汁物も椀に注ぎ。
少し硬めになったカツ綴じを乗せて丼物の一つが出来上がった。
「ほい、カツ綴じ丼お待ち。」
「うふ、ワタクシのカツ綴じ♪」
エキドナ嬢がカウンターにまで尾を伸ばして盆を持ち上げ自分の席まで持っていく。
最初は驚いたもんだが、今ではそうでもない。
しかし器用なもんだな。
飯の受け渡しを見届けた後は続けざまに親子丼、卵綴じ丼、牛綴じ丼と調理していき丼物の最後、黄金丼を作りに掛かる。
これもうちの看板メニューの一つ。
贅の限りを尽くしたものかと思われがちだが、そんなものとはかけ離れた一品で。
一見さんは興味本位か勘違いかで注文してくれる。
簡単にいえば厚揚げと油揚げを綴じた丼だ。
出されてみて、目を疑う客もいれば納得して箸を伸ばす客もおり。
説明を求めてくる客もいるから面白い。
様々な反応があるが食べてみての第一声は『美味い。』なので二回目からはこれを注文してくれるようになって看板メニューにまでなったわけだ。
「黄金丼お待ち。」
「これやこれ。待っとりましたえ。」
待ち焦がれた待ち人が着たような表情の稲荷に盆を渡し注文された丼物を全て作り終えて、最後の第三陣が待つ料理へと進んでいく。
汁物を作るよりは大きな寸胴の鍋にたっぷりと水を入れて火に掛け沸騰するのを待つ。
取りとなるのは蕎麦や饂飩の麺類。
本業となる娘達に食べてもらうので先程よりも更に気を引き締めて調理をする。
といっても湯になるまでは時間があるので、麺類を頼んだ客に出す飯物を先に作っておく。
握るのは稲荷と五目、それと白だ。
まずは基礎となる白握り。
檜製の桶に保温しておいた飯を入れて、塩を振りかけていき、杓文字で混ぜ合わせた後握って形を整える。
子供をあやすように、女を抱くように・・・、優しく力を込めずに心を込めて飯粒を三角の形にして皿に置き。
手を洗って冷蔵庫の中から一晩寝かせた油揚げと出汁に浸した五目の具を取り出して、調理台の上に置き飯の補充をして具材をいれ再びかき混ぜて握っていった。
形はやはり三角形に限る。
手の平で作るのに易いし、見栄えもいい。
後は稲荷にも応用が効く、これ最大の理由だ。
次々と山をなしていく五目飯、湯もあと少し手沸きあがりそうなので、作った握りの半分を味付けした揚げで包んでいく行程に移る。
長方形を斜めから切り、中を広げられるようになったものに飯を詰めていくがその前に一つやっておかなければならない。
足元の小型冷蔵庫から素焼きの壷を取り出して中身を軽く指で掬い揚げの内側に塗り、そして握りを詰めて盛っていく。
作り終えたものをカウンターに並べるために再度手を洗い、器が置けるほどの間隔を開けて飯物を配置していると鍋からこちらを呼ぶ音が聞こえてきた。
泡立ち、限界まで温度が高まった湯が準備ができたと知らせてくれたのだ。
湯気が昇る二つの寸胴を見て、片方に饂飩玉をもう片方に蕎麦玉を入れて茹ではじめる。
水中で舞うように上下をして火が通っていく麺達。
底に落ちて貼り付かせないよう菜箸を入れて調整していき、充分な柔らかさになったのを見極めた所で湯を切り丼へと移し、熱々の出汁を掛けてやり注文に合わせた揚げや天滓、刻み葱を麺の上に添えて完成品を飯物の蕎麦において。
「狐饂飩、狸蕎麦お待ち。」
待っているお客に出来上がりを告げた。
「うっちっのおっ蕎麦〜。」
「おうどんおうどん♪」
刑部の狸嬢とカリュブディスのお嬢ちゃんがお盆を取って自分の席へと戻り、汁や麺を啜り始め。
ちゃんと手に渡ったことを確認して次の麺を鍋へと放り込んだ。
「ご馳走様でした!」
「ふぅ〜。美味しかった。」
全ての料理を作り終えて、一息つく間もなく夜の仕込を始めていると彼女達の食事が終了した声が聞こえてくる。
「そろそろお愛想か?」
「おう、頼むぜ羽の字!」
ミノタウロス嬢から順に席を立ちレジの前へと並び始めて代金を支払っていく。
そんな中で、いつもは列の中盤辺りにいる妖狐と稲荷のお嬢さん方が最後尾におり、御代を払うときにお金と一緒に包みを渡してくれた。
「白芒、紫穂。これは?」
「うちが作ったお稲荷さん。御飯食べてる暇ないやろうと思って持ってきたんよ。良かったら仕事の合間にでも摘まんでえな。」
「ありがとう。」
「それと・・・。」
「それとさ、赤羽。今日の閉店後に時間あるかしら?」
「ちょっと白芒さん。」
「いいじゃない紫穂だって言うつもりだったんでしょ?」
「それは・・・、そうやけど。」
目の前で展開される話に当の本人である俺は口を挟めずにいて、振られてくるのをジッと待つ。
「貴女もだろうけど私もなの。一緒でいいじゃない。」
「はぁ・・・、ええどすよ。でも何言われても恨みっこなしやで。」
「了解〜♪それで、時間は大丈夫?」
「問題ないが、どうしたんだ?」
「うふふ。そ・れ・は・・・。」
「秘密どす。」
「あっ!こら!」
「さっきの仕返しや。先に戻っとりますよ〜。」
「ちょっと!待ちなさいよ!赤羽、夜にまた会いましょ。」
「あ、ああ・・・。」
戸を開けて出て行った紫穂を追いかけるように白芒も外へと駆けていき店には静寂だけが残っている。
「まったく扉は閉めていって欲しいもんだ。」
車道から届く気動音と吹き込んできた風を感じながら戸を閉めに移動し、仕込を続けるために厨房へと戻っていった。
時間というのはいつの間にか過ぎていく。
暇であってもそうであるし、忙しければ気が付くと日が暮れている。
そして今日はなぜか時が経つのが早い。
客の量はいつもと変わらなかったのだが。
特に何か行事でも・・・。
そういえば、紫穂と白芒に夜空けておいてくれと言われていたな。
女性からの誘い、何があるにしろ店を構えてからそんなもの一度も受けたことことがない。
だからどこか心が弾んでいるのだろう。
暖簾を下ろして店内をいつもより機敏に清掃して鼻歌まで漏らしていたんだ。
だから時間が過ぎるのも早く感じ、面倒に思っていた掃除も早く済んだのだな。
一人でそう納得し、明かりを落として今日出たゴミを裏に捨てて約束どおり隣の店へと向かっていく。
梅雨に入る前の湿り気を少しずつ含んでいく風を身に浴びながら帰途を急ぐ車の気動音聞きつつ駐車場を跨いで出狐狸亭へと赴くが、こちらの店も暖簾が下ろされて表の明かりは消え、奥のほうだけ電気が付いている。
戸の前まで来て、勝手に開けて入っていいものか考えていると、扉が開き稲荷と妖狐の二人が出迎えてくれ中へと入る事ができた。
「赤羽はんお待ちしておりました。」
「中へどうぞ赤羽。」
促されるままに内暖簾を潜り、案内された席へと座らされ。
何が起きるのかと清純半分不純半分の気持ちで待っていると奥からいつも聞いてる音と嗅ぎなれた香りが届いてくる。
そして、少しの時間が経って目の前には厚揚げと黄金丼、稲荷寿司。
うちの看板メニュー三品が出されていた。
「何も言わんと、まずは食べてくれはりますか?」
「揚げ物と稲荷寿司は紫穂が、黄金丼は私が作ったわ。」
誰が作ったのか聞かされ、俺は只言葉も返せずに一品ずつ箸を伸ばしていく。
揚げたての厚揚げを割ると豆腐を加熱した良い香りが広がり、一口で食べれる大きさまで分けて口へと運ぶと豆の旨味もさることながら中から別の旨味が出てきてうちで出しているものとは違う美味さに驚かされる。
「ゴマの風味?だけれど中身は普通・・・、となると油か?」
零れる感想に二人は驚いた声を上げるが一応俺も料理人だ。
恐らく水切りした後の豆腐に香油の類を仕込んで油で揚げたのだろう。
となると他の二品もうちとは違うはず。
そう思って黄金丼と稲荷寿司を食べてみるとやはり味が違っていた。
丼物はさっきの技法が使われた厚揚げが入っていて、それに合うように割り下の味も濃い目になっており稲荷のほうは内側に塗ってある辛子がなく。
柑橘の香りが基礎となっている他に何か果物を乾燥させたものが入っているのだが特に寿司の方は反則だ。
美味いの一言に尽きるがただ美味いのではなく後味が軽く鼻に通る爽やかな風味が食欲を掻き立てて一個。
また一個と入ってしまうし、食べる度に腹の底から何かが溢れてくるような感覚がする。
食べることに夢中になり、気が付くと全てを平らげて合唱していた。
「ふぅ・・・。堪能と勉強をさせてもらった。」
「はい、お粗末様。」
目の前に置かれたお茶を手にとって、啜り飲みながら余韻に浸り一息つく。
「ふふふっ。満足してもらえたみたいね。」
「そうどすね。安心しましたわ。」
「んっ?安心?」
「いいえ、こっちの話よ。ところで食後のデザートなんて如何?」
「むっ?んっ・・・、もう腹一杯なんだが。」
「大丈夫、満腹でもうちらのものは入りますから。」
「そうか・・・、なら折角だから貰うかな。」
「嬉しいわ・・・。さあ、どうぞこちらへ。」
「移動するのか?」
「ええ、作った後に動かせない品物なの。」
そういわれて張った腹を摩りつつ立ち上がると彼女らの後をついていき。
二階の座敷部屋へと案内される。
「この中でお待ちください。」
「最後の仕上げをしてくるからね。」
開けられた襖の奥に促されるまま足を進めていくと中には小さな卓袱台が一つだけポツンと置かれているだけの八畳間になっていた。
「何もないな・・・。」
と考えつつ、胡坐をかき台の上に肘を乗せて頬杖を突いて彼女達を待つ。
この後何が出てくるのだろうかと思考をめぐらせていると一つのことを思い出す。
ここが出狐狸亭だという事を。
風の噂や客の会話から聞いたあれが本当ならば・・・。
そう考えていたら、隣の部屋から何か物音が届いてくる。
布が擦れるようなそんな音がして、なぜか興奮をしてきた。
それに身体が熱く火照ってきて下半身が妙に猛って来ているのだが・・・。
擦れる音も消えて聞こえなくなると。
「赤羽はん、お待たせしました。」
「それじゃ、デザートを食べましょ。」
この二人の声が聞こえたかと思えば、部屋を隔てていた障子が開き。
そこには一つの布団と三つ指を立てて薄い透けている寝巻きを纏って正座をしている紫穂と白芒の姿があった。
「えっ?」
「驚きはるやろうけど・・・。」
「これがデザート。さあ、私達を食べて・・・。」
噂や会話が本当であった事を悟ると同時に困惑もしていたが、頭を上げた二人から零れる豊満な果実と鼻を擽る湯の香りに身体の熱は全身へと回っていき。
息子ははち切れんばかりとなり、呼吸も荒くなぜか頭の方も考えがまとまらずボォーっとしてくる。
「二人が・・・、デザート・・・?」
「そう。この身体・・・、好きにしはってもええんよ?」
「逞しい肉棒でオマンコを味わって・・・。」
「妖艶に色めく舌で肌を舐めて・・・。」
「職人胼胝ができてる手で乳房や尻肉を揉んで・・・。」
「その快楽で酔った痴態を晒しとう雌を眼に焼き付けて・・・。」
「紫穂と白芒を・・・、食べる・・・。」
もう何かを思うことさえも億劫になり、今一番本能が求めているものへと足を向けて手を伸ばす。
火の付いた性欲を満たす為に彼女等の元へと向かい布団へと誘った。
柔らかな綿の詰まった布へと落ちる三つの身体。
服を脱ぐという余裕すらないまま稲荷へと近付き、唇を重ねる。
「んぅ・・・。うちからなんて・・・、ちゅぷぅ。嬉しいわぁ・・・。」
歓喜に震える紫穂を余所に、口内へと舌を滑り込ませて声を出す穴を塞いで彼女の舌を貪っていく。
「なんでそっちが先なのよ〜っ、あん!赤羽?んきゅん!?」
はぶてて恨めしそうに白芒がしていたので、手を尻へと伸ばして肉を揉むのではなく生えている一尾の根元を掴み強弱をつけて握り。
ゆっくりと引っ張って毛並みの感触を楽しんだ。
「ちょっと強く掴んじゃ・・・。きゅうん!だめぇ!はうぅん!へ、へんになっちゃう!」
懇願するのを無視して尾っぽで遊びつつ、甘い汁をくれる稲荷との口付けを満喫する。
最初は喜びを口から出して絡めることをしてくれなかったが、こちらの唾液を送って嚥下させると呼吸が速くなっていき。
積極的に求めてくれるようになった。
「んぅ!んんぅ!おいひいの!あふぅ・・・。んんぅ!んぅ!」
背中へと手が回されて力強く抱き締められ、吐かれる息も身体の中へと入り込んで欲望の火を煽って燃え盛り。
肌を重ね、接吻を交わすだけでこれ程に気持ちがいいとは知らずにこの快楽へと溺れそうになる。
ずっとこの状態が続けばいいと思っていると、紫穂から伝わる腕の位置がずれていき、身体から剥がされて布団へと仰向けにされた。
「んぅ?赤羽はん・・・。もっと・・・。」
足りないといわんばかりにこちらを向き、口付けをせがんでくるがそれよりも先に別のものが俺の口を塞ぐ。
「あん白芒はん、何しはりますの!」
尻尾を握っていたはずの妖狐が自分の番と言わんがばかりに顔を近づけて接吻する。
稲荷のほうにばかり夢中でどうやら尾への愛撫が疎かになっていたらしい。
途中から消えたモフモフ感に気付かなかった結果がこれだ。
「あんぅ!ちゅむ!むちゅ!赤羽!ちゅ!赤羽!ちゅむ!」
焦らされ、火がつけられたが中途半端に燃やされた分、白芒は俺の中にある唾液を吸い付くさんと激しく舌を動かして歯茎や口肉を捏ねて掬って貪られていく。
「あんぅ!ちゅむ!おいしい!むちゅ!おいひいよぉ!ちゅ!ちゅむ!」
「ちょ!やり過ぎや!やりす・・・。」
今度はお返しとばかりに自分が生成した唾液を送り込んできて、そのまま舌同士を絡み合わせてきた。
紫穂のとはまた違う甘さが身体へと染み、息子が更に固くなる。
それに目をつけたのが止めようとしていた稲荷。
言葉が途切れた後に待っていたのは、ズボンが下ろされて下着と擦れ合う音と最後の一枚も脱がされて空気に晒されたチンコだった。
「凄いわぁ・・・。こんなガッチガチ・・・。」
肉の棒に掛かる暖かな風。
何が起きているかわからずにいると手が添えられて。
「むせるぐらい濃い匂い・・・。うちもう・・・。」
その言葉の後、イチモツはしっとりとし水分を帯びているものに包みこれて根元から搾られているような刺激が下半身に走っていく。
目の前にいる妖狐がまだ口付けをしてくれているので下で何をされているか知ることができない。
だが、一つ言えるのは上下からくる遠慮のない電流のような快楽が射精感を高めていき。
「んぅ!んっんっんっんっ!んぅんぅ!!んっんっんっんっ!!」
塞がれた口から出るという言葉も漏らせずに熱い塊を吐き出す。
「んぐぅ!!」
あまりにも早い射精。
自身が経験したこともない気持ちよさで精を吐き出すのだが、何かが違っている。
俺も男だから自慰はするし、女だって抱いたこともあるのだが・・・。
体験したことのある射精と今この場で起きている射精は違っていたのだ。
水道の蛇口を大きく捻り、勢い任せ流れ出る大量の水と同じぐらいの精が細い管から押し出されて外へと解放されていく。
すると下半身のほうから・・・。
「んごっ!?んぐぅ!んきゅ!んきゅ!んぐぅ!!」
喉へものを詰まらせ、咽た後に嚥下していく音が耳へと届いた。
それを聞いてようやく何かが起きているか理解ができると、息子を被っていた感触がゆっくりと根元から消えて。
「うふ・・・。ねっとりと絡む濃い精液。美味しいわぁ・・・。」
口内へと放たれた精を味わい、酔っているかのような彼女の声が耳に届く。
また声を聞いたのは俺だけではなく口を塞いで、未だに舌を押し付けて歯茎を愛撫したりお互いの唾液を交換していた狐の方にも届いたようだ。
「はぁ・・・。甘いわね・・・、でももっととろけるものが欲しいわ・・・。抜け駆け稲荷に上げたやつ・・・。」
いつまでも嗅いでいたくなるぐらい甘い息を残して顔が離れる。
名残惜しいが、射精した後の反動とずっと口付けをしてろくに空気が肺にはいってこなかったせいもあり、欲望の火はある程度鎮火したものの上手く身体を動かせないでいた。
「あら、抜け駆けやなんて・・・。無理矢理引き剥がしはった狐にいわれ等ないわ。」
「貴女が彼を独り占めするからでしょ!続きは私がさせてもらうからね。」
「おぉ、怖い怖い。おめこもして欲しかったけど、しゃあないわね。ここで争っても興醒めするだけやし・・・。どうぞ・・・。」
息を荒く肩で呼吸をしている本人を余所に話が進んでいる。
デザートを食べに来てる筈だが、なせこんなことになっているのか。
霞がかった思考にその答えが出せるはずもなく、只与えられる快楽を受け取るぐらいしかできなかった。
「うふふふ、夢にまで見たオチンポちゃん。綺麗にしてあげるからね。」
下半身へと移動をして、俺の分身を愛おしそうに手に掛けると。
舌舐め擦りをして口を開け、好物を頬ぼるように肉棒を銜え込んだ。
再び被われていくがやはり先程とは具合が違う。
女一人一人、魔物娘一人一人によって異なる感触なのだと思いつつ口淫を受けていく。
「んぶぅ!ちゅぼっ!んふふふ、ちゅぼぉ!」
竿に残っている僅かな精液を掬い取り、燻ってしまった火種に油を注ぎ火力を蘇らせる為に直立こそしているが少し覇気のなくなった息子へと愛撫を始める。
舌が側面をなぞっていき唇が輪を窄めて締め上げながら上下へと動き。
傘の部分を歯が掠めて微弱な刺激が走り硬度を戻せと脳へと信号を送り始めた。
「くぁ・・・!き、気持ち・・・。いい・・・。」
口から漏れた言葉に気を良くしたのか速度は上がり、尿道をなぞっていた舌が傘へと伸び出っ張りや鈴口を撫で回して強い電気が走っていく感覚を与えてくれる。
「あぐぅ・・・!うぁ・・・。」
喘ぐ声しか出せないが、いき過ぎた快楽は苦痛と同じようなものなのでこんな風になってしまうのだ。
「じゅぶ!じゅぶっ!じゅぼ!じゅぼっ!」
最初は奉仕をしてくれるぐらいの気持ちよさだったのだが、言葉を洩らした後は我を忘れて搾取されているのと同じ状態になっていた。
快苦の刺激に頭の方は焼き切れそうになって助けを求めるようと紫穂の名を呼ぼうとすると・・・。
「蜜はいかがどすか?雌の甘くていやらしいおめこの花蜜・・・。」
「むっぐぅ!?」
目の前には股を濡らし、汁を滴らせた蜜壷が口へと近付いてきており、そのまま上に乗られると吐息以上に獣を呼び覚まし雄へと変えていく雌の香りに包まれていき再び思考に霞が掛かっていった。
考えるのをやめた俺は差し出された肉壷へと舌を伸ばして溢れる蜜を喉へと下ろしていく為に舐り吸い付いてそして飲み干す。
口液も甘露だったが愛液はもっと甘く雄を誘う媚薬のような感じがする。
桃色の肉に舌を這わせて、動かない腕に気力を振り絞り尻へと手を伸ばして自分の顔へと押し付け奥へと入っていけるようにしていく。
「えっ?赤羽はん・・・。ひゅう!?し、舌が奥にぃ!奥にぃ!こ、擦られ・・・、擦られるぅ!!おめこ肉擦られてまうの!!」
啜るほどに強く、高くなっていく匂い。
蠢く肉壁と戯れ、汁を淫豆に塗り込み更に蜜を求めて愛撫をし枯らすことなく沸き溢れさせる。
「あぅん!あっ!お豆はん吸ったらあかん!きゅうん!舌で小突くのも反則ぅぅ!反則やぁぁ!!」
顔の上で喘ぐ稲荷、彼女を気遣う暇もなく唯ひたすら快楽を貪った。
性器を目の前に興奮し、媚薬の蜜に溺れ、催淫を促す香りを嗅ぎ、イチモツは奉仕を受けて肉欲の海へと堕ちていく。
そして再び堤防が切れて崩壊するように精が吐き出される体勢へと入ったが、後一歩というところで分身を被っていた温かさは消えて剛直の肉棒だけが震えてはちきれんばかりに取り残され。
最後の一歩を求めて聳え立っている。
「出せないでしょ?このビッキビキのオチンポは私の中で果てさせて・・・。あ・げ・る♥」
何を言ったのかは耳には届いてない、頭にあるのは早く射精したい。
それだけだ。
紫穂の尻を持っていた手を股へと伸ばして自慰をしようとするが・・・。
「あかん!離したら嫌や!桃尻ギュっと掴んでおくれやす!」
彼女が嫌がり離させてくれずに逆に手を添えられて固定されてしまう。
もどかしい感覚が伝わり。
そのまま肉棒全体がきつくしっとりとしたものに覆われていく。
急にきた息子への刺激は不意打ちとなり一気に全身へと気持ちよさが伝わっていき。
不発となっていたものが解放されて吐き出される。
「熱ぅ!!何!?熱いので染まって・・・。入れただけなのにぃ!いっくぅう!!」
二度目とも思えない量が押し出されていくと、飛び散らずに奥へ奥へと飲み込まれていき零れることなく消えていった。
前に味わったことのある感覚、女性器へと挿入している感じだが格段にしまりが違う。
うねる肉壁が深い場所へと誘い底のない沼にいるようだ。
「あはぁ・・・、たっくさん。射精てる・・・。」
微かに届く艶めいた声。
それも二つ。
自分の身体の上で雌が媚声をあげて鳴いている。
聴覚までも反応し始めて射精した後だというのに分身の硬さは保たれたままで蜜壷を貫いていた。
「んふぅ・・・。二回射精してるのにまだ硬い・・・。素敵ぃ・・・。」
この息子を落ち着かせるために次の快楽を・・・、と腰を突き上げてかき回そうとしていると。
肉壁が動き始めてイチモツを擦っていく。
しかも上下ではなく左右にだ。
搾られるということはあったけれども、捻られるという経験は今まで味わったことがない。
螺旋を描くように動く膣。
「ふぁ・・・、あんっ。こ、これ凄っ!凄い!気持ちいいところぉ!いいところ擦ってぇ!擦ってくぅぅ!!」
強い快楽を得ているのは俺だけではないらしく、白芒の感じる部分にも当たって喘ぎ腰を回してその気持ちよさに浸っている。
「オチンポゴツゴツぅ!当たってるぅ!!オチンポぉ!オチンポぉぉぉ!」
「くひゅぅぅ!!いややぁ!いややぁ!おまめはんばっかりぃちゅーちゅーすわんといてぇぇぇ!あひぃぃぃ!!すわんといてぇぇぇ!!」
部屋に響く艶声。
外にまで聞こえてしまうのではないかと思わんばかりの大きな音。
溺れたものはもがこうとはせずに波に身を任せてたゆたいながら果てるときを待つ。
「このオチンポぉぉぉ!きちゅねマンコにぴったりぃぃぃ!きちゅねマンコとかしゅていくぅぅ!とけひゃう!とけひゃうのぉぉぉ!!」
「おめこすわれてもうてぇ!あかごみたいにすわれてもうていってまうぅぅ!いってまうのぉぉぉ!!」
快楽を得て震える身体、高みに届くまで後少しというところで別途から刺激を与えていく。
腰を浮かせて傘と子宮口を密着させて擦れる面を増やし。
赤く熟して桜桃のようになっている淫核を甘噛みしてやると。
「グリグリぃぃぃ!グリグリいりぐちこしゅれてるぅぅ!こしゅれてぇぇぇ・・・。」
「あひぃぃぃん!おまめはんがぁぁぁ!おまめはんあまがみされてぇぇぇ・・・。」
『いっ・・・、いっくぅぅぅぅ!!』
背を仰け反らせて気をやり、潮を撒き散らしながら果てる二人。
それと同時に俺は三度目の射精を白芒の膣内で行った。
二度目の精を押し遣り、子宮口を通って流れ込んでいく精子。
量は先程より落ちているが常人の出す量よりは遥かに多い。
何度か肉棒を脈打たせて一滴も残さずに出し切ると、絶頂を迎えて力なく仰け反っていた妖狐と稲荷が姿勢を戻して酔ったような表情でこちらを見ている。
「赤羽はん・・・。今度はうちのおめこに子種注いでおくれやす・・・。」
「ねぇ赤羽・・・。もっとしてぇ・・・。」
余韻に浸っていただけらしく。
尽きることのない性欲を見せ付けられて俺の額から汗が零れ落ちた。
この後、紫穂に膣で二回、胸で一回。
白芒には膣で一回、口で一回、胸で一回搾り取られて眠りに付くというか気絶をしてしまう。
そして意識が戻った時、俺は出狐狸亭の座敷ではない場所で横になっていた。
障子から薄く見える朝焼けの光。
ここは何処なのだろうかと身体を起こそうとするが、腕を掴まれて身動きが取れない。
左右へ首を振るとそこには全裸の狐娘が二人、可愛い寝息を立てて眠っている。
起こすのも可哀相だと思い店のことを忘れてもう一眠りすることにして目蓋を閉じていく。
「ここは紫穂の家なのか。」
「そうどす。あのまま店に居るのも営業に差し支えますやろ?やから白芒はんと二人でこっちに運んだんどすよ。」
「そういうこと。」
場所が移動した疑問は解けたが、二人からあんな事をされたほうの問題が残っている。
そして店の事を思い出し、今からでは仕込み、下拵えまで到底間に合わないので臨時休業にすることにした。
「で、なんでこうなったんだ?」
声の中に籠もる怒り、女気がなくこの歳。
三十路まで女房ができなかった俺には嬉しいことなのだが、本人の許可なく無理矢理するっていうのに嫌悪感があったのだ。
おっさんが美人に犯してもらって文句を言うなという意見はすでに締め切ってるから言ってもダメだぞ。
客商売をしている身としては信頼は大事なもので、相手の意を解さずに押し付けるっていうのは一番してはいけないこと。
それをされたから怒っているというわけ。
「・・・。うちら男っ気がのうて、出狐狸亭で働かせてもろうてたんやけど・・・。」
「他の子達は意中の男性と結ばれていくけど私達は中々そんな男性現れなかったの。」
「それである時賄いの御飯からあぶれてしもうて、隣で済ませてしまおうって話になったんよ。」
「で、赤羽に出会えたって訳。」
ぽつりぽつりと出会いから惚れられた経緯。
何度も接近してみたが手応えがなく大胆なものから定番のものまで試してみても効果が見られずに今回の手段に言ったということらしい。
「はぁ・・・。それはなんとも済まなかった。」
自分の鈍さに呆れて溜め息を吐いて詫びを入れる。
二人のように虜の果実や媚薬を料理に仕込んでまで振り向かせに掛かってくれる女性がいなければジジイになるまで、いや死ぬまで独身だったかもしれん。
「赤羽はん、謝らんといて。それよりも・・・。」
「私達は赤羽が好きよ。貴方はどうなの?」
「俺は・・・、まだわからん。だからさ、お付き合いから始めないか?身体を重ねてしまってからいうのは間違っているかもしれんが・・・。」
自分の気持ちに正直に、そして相手をもっとよく知るために。
「大丈夫。その気持ちならすぐに好いてくれはりますから。」
「そうよ。私達は好きになるまで側にいるからね。」
お互いの了承を受けて俺達は恋人となっていく・・・。
それから、紫穂と白芒は出狐狸亭を辞めてうちの店へと働きにきてくれるようになった。
人手が増えた事と看板娘ができたことで店の回転率が上がり今まで以上に忙しい日々を送っている。
「コロッケ定食一つ入ります。」
「はいよ。」
「お会計やね。どうぞこちらへ。」
まだ好きだという感情は沸いていない。
いや、もう既に持っているのかもしれない。
彼女達が居る事は徐々に日常化してきている。
少しずつ知っていき、少しずつ育てていこう。
この感情を・・・。
元々この地域は古い時代三つの国だった。
海運の要、ジパングから大陸への貿易をして巨万の富を得ていた水の京を有する¨天川¨。
鉱山資源が豊富で金山と鉄の鉱脈で富を得ていた火の京有する¨鉱府¨。
広大な平野と水資源を持ち、作物の収穫で二つの京から富を得ていた土の京を有する¨穀穣¨。
その三つの国が一人の殿様によって統一され出来上がったのが霧の国で霧迦具土の走りとなったものだ。
口上が長くなったが物語とはまったく関係・・・、なくもないか。
とにかく俺はその県境・・・、穀穣は端に通る国道で食い物家¨黄金庵¨を営んでいるってそれだけのことさ。
宵ノ宮から黒垣に抜ける道路でもあるんで小さいながらもそれなりに繁盛しているんだが・・・。
交通の要所には店を構えたがる奴等が多い。
特に食い物屋はな。
周りにコンビニや飯を補充できる場所がなければ不味くない限り黙っていても客は来る。
だから軽く飲食店の激戦区にもなりやすいのだ。
そしてつい先日、客足に波が出始めた。
なぜかというと俺の店の隣に出狐狸亭という飯屋が出来たからだ。
その波が自分にまで変化を及ぼすとはこの時は思っていなかった。
「毎度あり〜。」
店に居た最後の客が勘定を払い終えて出て行く。
その後ろ姿を見送りながら昼間の掻き入れ時である山を乗り切ったことに軽く安堵するのだが、まだ一日は終わっていないし、夜に向けての仕込みもある。
そして何より・・・。
「羽やん〜。御飯頂戴〜。」
「赤羽はん、いつものよろしく。」
「羽の字!いつもの大盛りやで!」
戸が勢いよく開くと魔物娘達が入ってきた。
妖狐に稲荷、刑部狸。ミノタウロスやホルスタウス、オーク。ハーピー、ブラックハーピー。ラミアにメデューサ、更にエキドナ。サハギンに河童、そして最後にカリュブディスにマンドラゴラと大人から子供まで狭い店内の中に詰め込まれていき各々が自分達の席へと座っていき注文をしていく。
そう、安堵したのも束の間彼女達の昼食の時間となるから山を越えても休めないのだ。
ちなみにこのお嬢様方は隣店を構えている出狐狸亭の従業員達で賄いの出す御飯組みからあぶれたのでこっちで食事をしているらしい。
一度、周りにもたんまり飯屋があるだろうと聞いたところ、味と値段でうちに勝る店がなかったそうだ。
嬉しいのやら悲しいのやら。
「ん?全員いつものでいいのか?」
彼女達が注文するものは決まっていて、一応の確認をするために聞いてみるが返ってくる言葉は・・・。
「問題なし〜。」
「ええどすよ〜。」
「確認はいいから早く作ってくれ〜。」
まあこんな感じで聞くまでもないことなのだが、常連化しつつあるといってもお客はお客、蔑ろにはできない。
頭の中で各自に作る品を復唱しつつ調理へと入る。
最初は定食組みのものから作っていく。
付け合せのキャベツ、レタス、トマトを刻み、割って、切り分けていき更に盛ると業務用の冷蔵庫に寝かせていたハンバーグとコロッケのタネと調理用の大きさに切られた豚肉、牛肉。
それと白い塊を取り出して次へと行程を進めていき。
揚げ物用の鍋とフライパンを出すと火にかけて鉄と油を熱されていくのを待ち。
その間に人数分の茶碗と御椀を並べて汁物を作る準備へと入っていった。
準備といってもこちらも沸かして適温まで持っていくだけのことだ。
沸騰させてしまうと出汁袋の中に入っている素材から旨味以外のものも出てしまう。
また中途半端な温度では具材に火が通らずに汁の味を濁らせてしまうから簡単というわけではない。
予め袋を浸しておいた水入りの鍋を別の焜炉において火をつけて油とフライパンへと向き直る。
熱を吸い、いつでも焼ける状態の鉄板と小さな気泡を出してまだその時ではないと静かに待っている揚げ湯。
揺ら揺らと陽炎が浮かぶ相棒の一つに牛脂を入れてここから調理は全て終わるまで止まることがない。
ビフテキを焼き、フライパンを替えてポークチョップを焼き、また鉄板を替えてハンバーグを焼く。
色々な肉が焼けていく匂いが立ち込めていく中、蒸したり余熱で火を通している間に汁鍋に具材を入れ、準備の整った適温より少し高い油の中にコロッケや白い塊と間髪入れずに揚げていき第一陣の定食群を作り上げた。
「ステーキ定食、チョップ定食、ハンバーグにコロッケ。厚揚げ定食お待ち。火傷するなよ。」
カウンターの上に盆を置いていき、次の丼ものを注文している第二陣の調理に掛かる。
ちなみに厚揚げ定食は何の変哲のない厚揚げが皿に乗っているだけの代物だ。
ただし、作り立ての豆腐を水切りして揚げて出している。
自分で試してみて美味かったので遊びでメニューに載せたら看板の一つになってしまった。
「おぉ〜、待ってました。」
「羽さんの御飯だけがお昼の楽しみなんです〜。」
「厚揚げ♪厚揚げ♪」
ミノタウロス嬢がビフテキ、オーク嬢がポークチョップを妖狐のお嬢さんが厚揚げと次々に自分が注文したものをとっていき彼女達は食事へと入っていく。
牛や豚を食べている光景は・・・、なんというかちょっとしたシュールに映るが気にせずに待っている第二陣の材料を取り出す。
大量の卵と鶏肉、再び登場の牛と豚。
そして水切りした二種類の厚さに分かれた豆腐。
油を替えて、フライパンを流しへと移動させて丼物用の綴じ鍋を出し、まずは具材を作るために衣や溶き卵を作る。
鳥はぶつ切り、牛は細切れ、豚は筋と脂に刃を入れて軽く叩き柔らかくしていき。
油が熱くなったところで豆腐から投入して油揚げと厚揚げを拵え、豚肉に薄く卵を纏わせ衣を付けて鍋で泳がせてトンカツを作っていく。
その中で浴びせられる視線。
一つ一つ出来上がっていくもの、というより料理が始まってから具材を切る大きさ、揚げ物を油に入れる時間、全てを見逃がさないように目を凝らしている客がいた。
定食を注文した妖狐と丼物を注文している稲荷の二人なのだが、ご苦労なことだ。
見られていても仕事に支障はない。
カツを切り分け、割り下を張った綴じ鍋に入れて火に掛け、温まる間に卵を溶き、綴じていく準備をする。
煮立たせると汁の旨味が飛んでしまうので、ここでもタイミングを窺う。
昇る湯気に香る出汁、溶き卵が固まり尚且つ割り下を濁らせない絶妙な加減で器を傾けて黄色い液体をトンカツに掛けて行く。
後は客の好みになるまで火を通すだけなので、その間に丼を湯に浸して暖め、飯を盛り汁物も椀に注ぎ。
少し硬めになったカツ綴じを乗せて丼物の一つが出来上がった。
「ほい、カツ綴じ丼お待ち。」
「うふ、ワタクシのカツ綴じ♪」
エキドナ嬢がカウンターにまで尾を伸ばして盆を持ち上げ自分の席まで持っていく。
最初は驚いたもんだが、今ではそうでもない。
しかし器用なもんだな。
飯の受け渡しを見届けた後は続けざまに親子丼、卵綴じ丼、牛綴じ丼と調理していき丼物の最後、黄金丼を作りに掛かる。
これもうちの看板メニューの一つ。
贅の限りを尽くしたものかと思われがちだが、そんなものとはかけ離れた一品で。
一見さんは興味本位か勘違いかで注文してくれる。
簡単にいえば厚揚げと油揚げを綴じた丼だ。
出されてみて、目を疑う客もいれば納得して箸を伸ばす客もおり。
説明を求めてくる客もいるから面白い。
様々な反応があるが食べてみての第一声は『美味い。』なので二回目からはこれを注文してくれるようになって看板メニューにまでなったわけだ。
「黄金丼お待ち。」
「これやこれ。待っとりましたえ。」
待ち焦がれた待ち人が着たような表情の稲荷に盆を渡し注文された丼物を全て作り終えて、最後の第三陣が待つ料理へと進んでいく。
汁物を作るよりは大きな寸胴の鍋にたっぷりと水を入れて火に掛け沸騰するのを待つ。
取りとなるのは蕎麦や饂飩の麺類。
本業となる娘達に食べてもらうので先程よりも更に気を引き締めて調理をする。
といっても湯になるまでは時間があるので、麺類を頼んだ客に出す飯物を先に作っておく。
握るのは稲荷と五目、それと白だ。
まずは基礎となる白握り。
檜製の桶に保温しておいた飯を入れて、塩を振りかけていき、杓文字で混ぜ合わせた後握って形を整える。
子供をあやすように、女を抱くように・・・、優しく力を込めずに心を込めて飯粒を三角の形にして皿に置き。
手を洗って冷蔵庫の中から一晩寝かせた油揚げと出汁に浸した五目の具を取り出して、調理台の上に置き飯の補充をして具材をいれ再びかき混ぜて握っていった。
形はやはり三角形に限る。
手の平で作るのに易いし、見栄えもいい。
後は稲荷にも応用が効く、これ最大の理由だ。
次々と山をなしていく五目飯、湯もあと少し手沸きあがりそうなので、作った握りの半分を味付けした揚げで包んでいく行程に移る。
長方形を斜めから切り、中を広げられるようになったものに飯を詰めていくがその前に一つやっておかなければならない。
足元の小型冷蔵庫から素焼きの壷を取り出して中身を軽く指で掬い揚げの内側に塗り、そして握りを詰めて盛っていく。
作り終えたものをカウンターに並べるために再度手を洗い、器が置けるほどの間隔を開けて飯物を配置していると鍋からこちらを呼ぶ音が聞こえてきた。
泡立ち、限界まで温度が高まった湯が準備ができたと知らせてくれたのだ。
湯気が昇る二つの寸胴を見て、片方に饂飩玉をもう片方に蕎麦玉を入れて茹ではじめる。
水中で舞うように上下をして火が通っていく麺達。
底に落ちて貼り付かせないよう菜箸を入れて調整していき、充分な柔らかさになったのを見極めた所で湯を切り丼へと移し、熱々の出汁を掛けてやり注文に合わせた揚げや天滓、刻み葱を麺の上に添えて完成品を飯物の蕎麦において。
「狐饂飩、狸蕎麦お待ち。」
待っているお客に出来上がりを告げた。
「うっちっのおっ蕎麦〜。」
「おうどんおうどん♪」
刑部の狸嬢とカリュブディスのお嬢ちゃんがお盆を取って自分の席へと戻り、汁や麺を啜り始め。
ちゃんと手に渡ったことを確認して次の麺を鍋へと放り込んだ。
「ご馳走様でした!」
「ふぅ〜。美味しかった。」
全ての料理を作り終えて、一息つく間もなく夜の仕込を始めていると彼女達の食事が終了した声が聞こえてくる。
「そろそろお愛想か?」
「おう、頼むぜ羽の字!」
ミノタウロス嬢から順に席を立ちレジの前へと並び始めて代金を支払っていく。
そんな中で、いつもは列の中盤辺りにいる妖狐と稲荷のお嬢さん方が最後尾におり、御代を払うときにお金と一緒に包みを渡してくれた。
「白芒、紫穂。これは?」
「うちが作ったお稲荷さん。御飯食べてる暇ないやろうと思って持ってきたんよ。良かったら仕事の合間にでも摘まんでえな。」
「ありがとう。」
「それと・・・。」
「それとさ、赤羽。今日の閉店後に時間あるかしら?」
「ちょっと白芒さん。」
「いいじゃない紫穂だって言うつもりだったんでしょ?」
「それは・・・、そうやけど。」
目の前で展開される話に当の本人である俺は口を挟めずにいて、振られてくるのをジッと待つ。
「貴女もだろうけど私もなの。一緒でいいじゃない。」
「はぁ・・・、ええどすよ。でも何言われても恨みっこなしやで。」
「了解〜♪それで、時間は大丈夫?」
「問題ないが、どうしたんだ?」
「うふふ。そ・れ・は・・・。」
「秘密どす。」
「あっ!こら!」
「さっきの仕返しや。先に戻っとりますよ〜。」
「ちょっと!待ちなさいよ!赤羽、夜にまた会いましょ。」
「あ、ああ・・・。」
戸を開けて出て行った紫穂を追いかけるように白芒も外へと駆けていき店には静寂だけが残っている。
「まったく扉は閉めていって欲しいもんだ。」
車道から届く気動音と吹き込んできた風を感じながら戸を閉めに移動し、仕込を続けるために厨房へと戻っていった。
時間というのはいつの間にか過ぎていく。
暇であってもそうであるし、忙しければ気が付くと日が暮れている。
そして今日はなぜか時が経つのが早い。
客の量はいつもと変わらなかったのだが。
特に何か行事でも・・・。
そういえば、紫穂と白芒に夜空けておいてくれと言われていたな。
女性からの誘い、何があるにしろ店を構えてからそんなもの一度も受けたことことがない。
だからどこか心が弾んでいるのだろう。
暖簾を下ろして店内をいつもより機敏に清掃して鼻歌まで漏らしていたんだ。
だから時間が過ぎるのも早く感じ、面倒に思っていた掃除も早く済んだのだな。
一人でそう納得し、明かりを落として今日出たゴミを裏に捨てて約束どおり隣の店へと向かっていく。
梅雨に入る前の湿り気を少しずつ含んでいく風を身に浴びながら帰途を急ぐ車の気動音聞きつつ駐車場を跨いで出狐狸亭へと赴くが、こちらの店も暖簾が下ろされて表の明かりは消え、奥のほうだけ電気が付いている。
戸の前まで来て、勝手に開けて入っていいものか考えていると、扉が開き稲荷と妖狐の二人が出迎えてくれ中へと入る事ができた。
「赤羽はんお待ちしておりました。」
「中へどうぞ赤羽。」
促されるままに内暖簾を潜り、案内された席へと座らされ。
何が起きるのかと清純半分不純半分の気持ちで待っていると奥からいつも聞いてる音と嗅ぎなれた香りが届いてくる。
そして、少しの時間が経って目の前には厚揚げと黄金丼、稲荷寿司。
うちの看板メニュー三品が出されていた。
「何も言わんと、まずは食べてくれはりますか?」
「揚げ物と稲荷寿司は紫穂が、黄金丼は私が作ったわ。」
誰が作ったのか聞かされ、俺は只言葉も返せずに一品ずつ箸を伸ばしていく。
揚げたての厚揚げを割ると豆腐を加熱した良い香りが広がり、一口で食べれる大きさまで分けて口へと運ぶと豆の旨味もさることながら中から別の旨味が出てきてうちで出しているものとは違う美味さに驚かされる。
「ゴマの風味?だけれど中身は普通・・・、となると油か?」
零れる感想に二人は驚いた声を上げるが一応俺も料理人だ。
恐らく水切りした後の豆腐に香油の類を仕込んで油で揚げたのだろう。
となると他の二品もうちとは違うはず。
そう思って黄金丼と稲荷寿司を食べてみるとやはり味が違っていた。
丼物はさっきの技法が使われた厚揚げが入っていて、それに合うように割り下の味も濃い目になっており稲荷のほうは内側に塗ってある辛子がなく。
柑橘の香りが基礎となっている他に何か果物を乾燥させたものが入っているのだが特に寿司の方は反則だ。
美味いの一言に尽きるがただ美味いのではなく後味が軽く鼻に通る爽やかな風味が食欲を掻き立てて一個。
また一個と入ってしまうし、食べる度に腹の底から何かが溢れてくるような感覚がする。
食べることに夢中になり、気が付くと全てを平らげて合唱していた。
「ふぅ・・・。堪能と勉強をさせてもらった。」
「はい、お粗末様。」
目の前に置かれたお茶を手にとって、啜り飲みながら余韻に浸り一息つく。
「ふふふっ。満足してもらえたみたいね。」
「そうどすね。安心しましたわ。」
「んっ?安心?」
「いいえ、こっちの話よ。ところで食後のデザートなんて如何?」
「むっ?んっ・・・、もう腹一杯なんだが。」
「大丈夫、満腹でもうちらのものは入りますから。」
「そうか・・・、なら折角だから貰うかな。」
「嬉しいわ・・・。さあ、どうぞこちらへ。」
「移動するのか?」
「ええ、作った後に動かせない品物なの。」
そういわれて張った腹を摩りつつ立ち上がると彼女らの後をついていき。
二階の座敷部屋へと案内される。
「この中でお待ちください。」
「最後の仕上げをしてくるからね。」
開けられた襖の奥に促されるまま足を進めていくと中には小さな卓袱台が一つだけポツンと置かれているだけの八畳間になっていた。
「何もないな・・・。」
と考えつつ、胡坐をかき台の上に肘を乗せて頬杖を突いて彼女達を待つ。
この後何が出てくるのだろうかと思考をめぐらせていると一つのことを思い出す。
ここが出狐狸亭だという事を。
風の噂や客の会話から聞いたあれが本当ならば・・・。
そう考えていたら、隣の部屋から何か物音が届いてくる。
布が擦れるようなそんな音がして、なぜか興奮をしてきた。
それに身体が熱く火照ってきて下半身が妙に猛って来ているのだが・・・。
擦れる音も消えて聞こえなくなると。
「赤羽はん、お待たせしました。」
「それじゃ、デザートを食べましょ。」
この二人の声が聞こえたかと思えば、部屋を隔てていた障子が開き。
そこには一つの布団と三つ指を立てて薄い透けている寝巻きを纏って正座をしている紫穂と白芒の姿があった。
「えっ?」
「驚きはるやろうけど・・・。」
「これがデザート。さあ、私達を食べて・・・。」
噂や会話が本当であった事を悟ると同時に困惑もしていたが、頭を上げた二人から零れる豊満な果実と鼻を擽る湯の香りに身体の熱は全身へと回っていき。
息子ははち切れんばかりとなり、呼吸も荒くなぜか頭の方も考えがまとまらずボォーっとしてくる。
「二人が・・・、デザート・・・?」
「そう。この身体・・・、好きにしはってもええんよ?」
「逞しい肉棒でオマンコを味わって・・・。」
「妖艶に色めく舌で肌を舐めて・・・。」
「職人胼胝ができてる手で乳房や尻肉を揉んで・・・。」
「その快楽で酔った痴態を晒しとう雌を眼に焼き付けて・・・。」
「紫穂と白芒を・・・、食べる・・・。」
もう何かを思うことさえも億劫になり、今一番本能が求めているものへと足を向けて手を伸ばす。
火の付いた性欲を満たす為に彼女等の元へと向かい布団へと誘った。
柔らかな綿の詰まった布へと落ちる三つの身体。
服を脱ぐという余裕すらないまま稲荷へと近付き、唇を重ねる。
「んぅ・・・。うちからなんて・・・、ちゅぷぅ。嬉しいわぁ・・・。」
歓喜に震える紫穂を余所に、口内へと舌を滑り込ませて声を出す穴を塞いで彼女の舌を貪っていく。
「なんでそっちが先なのよ〜っ、あん!赤羽?んきゅん!?」
はぶてて恨めしそうに白芒がしていたので、手を尻へと伸ばして肉を揉むのではなく生えている一尾の根元を掴み強弱をつけて握り。
ゆっくりと引っ張って毛並みの感触を楽しんだ。
「ちょっと強く掴んじゃ・・・。きゅうん!だめぇ!はうぅん!へ、へんになっちゃう!」
懇願するのを無視して尾っぽで遊びつつ、甘い汁をくれる稲荷との口付けを満喫する。
最初は喜びを口から出して絡めることをしてくれなかったが、こちらの唾液を送って嚥下させると呼吸が速くなっていき。
積極的に求めてくれるようになった。
「んぅ!んんぅ!おいひいの!あふぅ・・・。んんぅ!んぅ!」
背中へと手が回されて力強く抱き締められ、吐かれる息も身体の中へと入り込んで欲望の火を煽って燃え盛り。
肌を重ね、接吻を交わすだけでこれ程に気持ちがいいとは知らずにこの快楽へと溺れそうになる。
ずっとこの状態が続けばいいと思っていると、紫穂から伝わる腕の位置がずれていき、身体から剥がされて布団へと仰向けにされた。
「んぅ?赤羽はん・・・。もっと・・・。」
足りないといわんばかりにこちらを向き、口付けをせがんでくるがそれよりも先に別のものが俺の口を塞ぐ。
「あん白芒はん、何しはりますの!」
尻尾を握っていたはずの妖狐が自分の番と言わんがばかりに顔を近づけて接吻する。
稲荷のほうにばかり夢中でどうやら尾への愛撫が疎かになっていたらしい。
途中から消えたモフモフ感に気付かなかった結果がこれだ。
「あんぅ!ちゅむ!むちゅ!赤羽!ちゅ!赤羽!ちゅむ!」
焦らされ、火がつけられたが中途半端に燃やされた分、白芒は俺の中にある唾液を吸い付くさんと激しく舌を動かして歯茎や口肉を捏ねて掬って貪られていく。
「あんぅ!ちゅむ!おいしい!むちゅ!おいひいよぉ!ちゅ!ちゅむ!」
「ちょ!やり過ぎや!やりす・・・。」
今度はお返しとばかりに自分が生成した唾液を送り込んできて、そのまま舌同士を絡み合わせてきた。
紫穂のとはまた違う甘さが身体へと染み、息子が更に固くなる。
それに目をつけたのが止めようとしていた稲荷。
言葉が途切れた後に待っていたのは、ズボンが下ろされて下着と擦れ合う音と最後の一枚も脱がされて空気に晒されたチンコだった。
「凄いわぁ・・・。こんなガッチガチ・・・。」
肉の棒に掛かる暖かな風。
何が起きているかわからずにいると手が添えられて。
「むせるぐらい濃い匂い・・・。うちもう・・・。」
その言葉の後、イチモツはしっとりとし水分を帯びているものに包みこれて根元から搾られているような刺激が下半身に走っていく。
目の前にいる妖狐がまだ口付けをしてくれているので下で何をされているか知ることができない。
だが、一つ言えるのは上下からくる遠慮のない電流のような快楽が射精感を高めていき。
「んぅ!んっんっんっんっ!んぅんぅ!!んっんっんっんっ!!」
塞がれた口から出るという言葉も漏らせずに熱い塊を吐き出す。
「んぐぅ!!」
あまりにも早い射精。
自身が経験したこともない気持ちよさで精を吐き出すのだが、何かが違っている。
俺も男だから自慰はするし、女だって抱いたこともあるのだが・・・。
体験したことのある射精と今この場で起きている射精は違っていたのだ。
水道の蛇口を大きく捻り、勢い任せ流れ出る大量の水と同じぐらいの精が細い管から押し出されて外へと解放されていく。
すると下半身のほうから・・・。
「んごっ!?んぐぅ!んきゅ!んきゅ!んぐぅ!!」
喉へものを詰まらせ、咽た後に嚥下していく音が耳へと届いた。
それを聞いてようやく何かが起きているか理解ができると、息子を被っていた感触がゆっくりと根元から消えて。
「うふ・・・。ねっとりと絡む濃い精液。美味しいわぁ・・・。」
口内へと放たれた精を味わい、酔っているかのような彼女の声が耳に届く。
また声を聞いたのは俺だけではなく口を塞いで、未だに舌を押し付けて歯茎を愛撫したりお互いの唾液を交換していた狐の方にも届いたようだ。
「はぁ・・・。甘いわね・・・、でももっととろけるものが欲しいわ・・・。抜け駆け稲荷に上げたやつ・・・。」
いつまでも嗅いでいたくなるぐらい甘い息を残して顔が離れる。
名残惜しいが、射精した後の反動とずっと口付けをしてろくに空気が肺にはいってこなかったせいもあり、欲望の火はある程度鎮火したものの上手く身体を動かせないでいた。
「あら、抜け駆けやなんて・・・。無理矢理引き剥がしはった狐にいわれ等ないわ。」
「貴女が彼を独り占めするからでしょ!続きは私がさせてもらうからね。」
「おぉ、怖い怖い。おめこもして欲しかったけど、しゃあないわね。ここで争っても興醒めするだけやし・・・。どうぞ・・・。」
息を荒く肩で呼吸をしている本人を余所に話が進んでいる。
デザートを食べに来てる筈だが、なせこんなことになっているのか。
霞がかった思考にその答えが出せるはずもなく、只与えられる快楽を受け取るぐらいしかできなかった。
「うふふふ、夢にまで見たオチンポちゃん。綺麗にしてあげるからね。」
下半身へと移動をして、俺の分身を愛おしそうに手に掛けると。
舌舐め擦りをして口を開け、好物を頬ぼるように肉棒を銜え込んだ。
再び被われていくがやはり先程とは具合が違う。
女一人一人、魔物娘一人一人によって異なる感触なのだと思いつつ口淫を受けていく。
「んぶぅ!ちゅぼっ!んふふふ、ちゅぼぉ!」
竿に残っている僅かな精液を掬い取り、燻ってしまった火種に油を注ぎ火力を蘇らせる為に直立こそしているが少し覇気のなくなった息子へと愛撫を始める。
舌が側面をなぞっていき唇が輪を窄めて締め上げながら上下へと動き。
傘の部分を歯が掠めて微弱な刺激が走り硬度を戻せと脳へと信号を送り始めた。
「くぁ・・・!き、気持ち・・・。いい・・・。」
口から漏れた言葉に気を良くしたのか速度は上がり、尿道をなぞっていた舌が傘へと伸び出っ張りや鈴口を撫で回して強い電気が走っていく感覚を与えてくれる。
「あぐぅ・・・!うぁ・・・。」
喘ぐ声しか出せないが、いき過ぎた快楽は苦痛と同じようなものなのでこんな風になってしまうのだ。
「じゅぶ!じゅぶっ!じゅぼ!じゅぼっ!」
最初は奉仕をしてくれるぐらいの気持ちよさだったのだが、言葉を洩らした後は我を忘れて搾取されているのと同じ状態になっていた。
快苦の刺激に頭の方は焼き切れそうになって助けを求めるようと紫穂の名を呼ぼうとすると・・・。
「蜜はいかがどすか?雌の甘くていやらしいおめこの花蜜・・・。」
「むっぐぅ!?」
目の前には股を濡らし、汁を滴らせた蜜壷が口へと近付いてきており、そのまま上に乗られると吐息以上に獣を呼び覚まし雄へと変えていく雌の香りに包まれていき再び思考に霞が掛かっていった。
考えるのをやめた俺は差し出された肉壷へと舌を伸ばして溢れる蜜を喉へと下ろしていく為に舐り吸い付いてそして飲み干す。
口液も甘露だったが愛液はもっと甘く雄を誘う媚薬のような感じがする。
桃色の肉に舌を這わせて、動かない腕に気力を振り絞り尻へと手を伸ばして自分の顔へと押し付け奥へと入っていけるようにしていく。
「えっ?赤羽はん・・・。ひゅう!?し、舌が奥にぃ!奥にぃ!こ、擦られ・・・、擦られるぅ!!おめこ肉擦られてまうの!!」
啜るほどに強く、高くなっていく匂い。
蠢く肉壁と戯れ、汁を淫豆に塗り込み更に蜜を求めて愛撫をし枯らすことなく沸き溢れさせる。
「あぅん!あっ!お豆はん吸ったらあかん!きゅうん!舌で小突くのも反則ぅぅ!反則やぁぁ!!」
顔の上で喘ぐ稲荷、彼女を気遣う暇もなく唯ひたすら快楽を貪った。
性器を目の前に興奮し、媚薬の蜜に溺れ、催淫を促す香りを嗅ぎ、イチモツは奉仕を受けて肉欲の海へと堕ちていく。
そして再び堤防が切れて崩壊するように精が吐き出される体勢へと入ったが、後一歩というところで分身を被っていた温かさは消えて剛直の肉棒だけが震えてはちきれんばかりに取り残され。
最後の一歩を求めて聳え立っている。
「出せないでしょ?このビッキビキのオチンポは私の中で果てさせて・・・。あ・げ・る♥」
何を言ったのかは耳には届いてない、頭にあるのは早く射精したい。
それだけだ。
紫穂の尻を持っていた手を股へと伸ばして自慰をしようとするが・・・。
「あかん!離したら嫌や!桃尻ギュっと掴んでおくれやす!」
彼女が嫌がり離させてくれずに逆に手を添えられて固定されてしまう。
もどかしい感覚が伝わり。
そのまま肉棒全体がきつくしっとりとしたものに覆われていく。
急にきた息子への刺激は不意打ちとなり一気に全身へと気持ちよさが伝わっていき。
不発となっていたものが解放されて吐き出される。
「熱ぅ!!何!?熱いので染まって・・・。入れただけなのにぃ!いっくぅう!!」
二度目とも思えない量が押し出されていくと、飛び散らずに奥へ奥へと飲み込まれていき零れることなく消えていった。
前に味わったことのある感覚、女性器へと挿入している感じだが格段にしまりが違う。
うねる肉壁が深い場所へと誘い底のない沼にいるようだ。
「あはぁ・・・、たっくさん。射精てる・・・。」
微かに届く艶めいた声。
それも二つ。
自分の身体の上で雌が媚声をあげて鳴いている。
聴覚までも反応し始めて射精した後だというのに分身の硬さは保たれたままで蜜壷を貫いていた。
「んふぅ・・・。二回射精してるのにまだ硬い・・・。素敵ぃ・・・。」
この息子を落ち着かせるために次の快楽を・・・、と腰を突き上げてかき回そうとしていると。
肉壁が動き始めてイチモツを擦っていく。
しかも上下ではなく左右にだ。
搾られるということはあったけれども、捻られるという経験は今まで味わったことがない。
螺旋を描くように動く膣。
「ふぁ・・・、あんっ。こ、これ凄っ!凄い!気持ちいいところぉ!いいところ擦ってぇ!擦ってくぅぅ!!」
強い快楽を得ているのは俺だけではないらしく、白芒の感じる部分にも当たって喘ぎ腰を回してその気持ちよさに浸っている。
「オチンポゴツゴツぅ!当たってるぅ!!オチンポぉ!オチンポぉぉぉ!」
「くひゅぅぅ!!いややぁ!いややぁ!おまめはんばっかりぃちゅーちゅーすわんといてぇぇぇ!あひぃぃぃ!!すわんといてぇぇぇ!!」
部屋に響く艶声。
外にまで聞こえてしまうのではないかと思わんばかりの大きな音。
溺れたものはもがこうとはせずに波に身を任せてたゆたいながら果てるときを待つ。
「このオチンポぉぉぉ!きちゅねマンコにぴったりぃぃぃ!きちゅねマンコとかしゅていくぅぅ!とけひゃう!とけひゃうのぉぉぉ!!」
「おめこすわれてもうてぇ!あかごみたいにすわれてもうていってまうぅぅ!いってまうのぉぉぉ!!」
快楽を得て震える身体、高みに届くまで後少しというところで別途から刺激を与えていく。
腰を浮かせて傘と子宮口を密着させて擦れる面を増やし。
赤く熟して桜桃のようになっている淫核を甘噛みしてやると。
「グリグリぃぃぃ!グリグリいりぐちこしゅれてるぅぅ!こしゅれてぇぇぇ・・・。」
「あひぃぃぃん!おまめはんがぁぁぁ!おまめはんあまがみされてぇぇぇ・・・。」
『いっ・・・、いっくぅぅぅぅ!!』
背を仰け反らせて気をやり、潮を撒き散らしながら果てる二人。
それと同時に俺は三度目の射精を白芒の膣内で行った。
二度目の精を押し遣り、子宮口を通って流れ込んでいく精子。
量は先程より落ちているが常人の出す量よりは遥かに多い。
何度か肉棒を脈打たせて一滴も残さずに出し切ると、絶頂を迎えて力なく仰け反っていた妖狐と稲荷が姿勢を戻して酔ったような表情でこちらを見ている。
「赤羽はん・・・。今度はうちのおめこに子種注いでおくれやす・・・。」
「ねぇ赤羽・・・。もっとしてぇ・・・。」
余韻に浸っていただけらしく。
尽きることのない性欲を見せ付けられて俺の額から汗が零れ落ちた。
この後、紫穂に膣で二回、胸で一回。
白芒には膣で一回、口で一回、胸で一回搾り取られて眠りに付くというか気絶をしてしまう。
そして意識が戻った時、俺は出狐狸亭の座敷ではない場所で横になっていた。
障子から薄く見える朝焼けの光。
ここは何処なのだろうかと身体を起こそうとするが、腕を掴まれて身動きが取れない。
左右へ首を振るとそこには全裸の狐娘が二人、可愛い寝息を立てて眠っている。
起こすのも可哀相だと思い店のことを忘れてもう一眠りすることにして目蓋を閉じていく。
「ここは紫穂の家なのか。」
「そうどす。あのまま店に居るのも営業に差し支えますやろ?やから白芒はんと二人でこっちに運んだんどすよ。」
「そういうこと。」
場所が移動した疑問は解けたが、二人からあんな事をされたほうの問題が残っている。
そして店の事を思い出し、今からでは仕込み、下拵えまで到底間に合わないので臨時休業にすることにした。
「で、なんでこうなったんだ?」
声の中に籠もる怒り、女気がなくこの歳。
三十路まで女房ができなかった俺には嬉しいことなのだが、本人の許可なく無理矢理するっていうのに嫌悪感があったのだ。
おっさんが美人に犯してもらって文句を言うなという意見はすでに締め切ってるから言ってもダメだぞ。
客商売をしている身としては信頼は大事なもので、相手の意を解さずに押し付けるっていうのは一番してはいけないこと。
それをされたから怒っているというわけ。
「・・・。うちら男っ気がのうて、出狐狸亭で働かせてもろうてたんやけど・・・。」
「他の子達は意中の男性と結ばれていくけど私達は中々そんな男性現れなかったの。」
「それである時賄いの御飯からあぶれてしもうて、隣で済ませてしまおうって話になったんよ。」
「で、赤羽に出会えたって訳。」
ぽつりぽつりと出会いから惚れられた経緯。
何度も接近してみたが手応えがなく大胆なものから定番のものまで試してみても効果が見られずに今回の手段に言ったということらしい。
「はぁ・・・。それはなんとも済まなかった。」
自分の鈍さに呆れて溜め息を吐いて詫びを入れる。
二人のように虜の果実や媚薬を料理に仕込んでまで振り向かせに掛かってくれる女性がいなければジジイになるまで、いや死ぬまで独身だったかもしれん。
「赤羽はん、謝らんといて。それよりも・・・。」
「私達は赤羽が好きよ。貴方はどうなの?」
「俺は・・・、まだわからん。だからさ、お付き合いから始めないか?身体を重ねてしまってからいうのは間違っているかもしれんが・・・。」
自分の気持ちに正直に、そして相手をもっとよく知るために。
「大丈夫。その気持ちならすぐに好いてくれはりますから。」
「そうよ。私達は好きになるまで側にいるからね。」
お互いの了承を受けて俺達は恋人となっていく・・・。
それから、紫穂と白芒は出狐狸亭を辞めてうちの店へと働きにきてくれるようになった。
人手が増えた事と看板娘ができたことで店の回転率が上がり今まで以上に忙しい日々を送っている。
「コロッケ定食一つ入ります。」
「はいよ。」
「お会計やね。どうぞこちらへ。」
まだ好きだという感情は沸いていない。
いや、もう既に持っているのかもしれない。
彼女達が居る事は徐々に日常化してきている。
少しずつ知っていき、少しずつ育てていこう。
この感情を・・・。
12/08/18 22:23更新 / 朱色の羽