序章 風が吹く平原
世界に新たな風が吹いた。
風は緑の生い茂る草原を舞い、蒼を湛える海を遊び、生を拒絶する砂漠に跳ね、赤と黒を内包する山を駆け、木々を蓄えた森林を漂い。
そして名もない平原へと吹き込まれる。
様々な場所を流れ、行き着いた平原。
風はそこで身を翻すと八方へと別れ散っていく。
散った後に残ったのは一人の男、どうやらあの風の中から現れたようだ。
布製の袖が無く丈の短い漆黒の胴着、胴着とは対照的な純白の肌着、上と同じ漆黒の色をしたズボン。
この世界、この時代、この場所にそぐわない服装をしており。
髪は白みがかった薄紫色の短髪で、可もなく不可もなくといった感じだ。
突如として平原に現れた男は、辺りをキョロキョロと見渡し次に己の手のひらをジッと見詰めると再び辺りへ視点を移す。
すると、自然と吹いていた風は強さを増し周囲の草花は激しく揺れ、しばらくすると風は弱くなっていき最初に吹いていた時よりも穏やかになっていく。
「着たばかりでこれか。これならすぐに馴染んで元に戻るだろう。次は・・・。」
何かを確かめると次は身体を伸び縮みさせ、動く準備をし始めた。
先ほどまで穏やかだった風はいつの間にか元の自然な状態に戻り、何事もなかったかのように大地を駆けていく。
男は充分に身体を解すと左腕を前方へ突き出し、肘を上方へ曲げ、右手を左肘から少し離したところへ添えて両手を握り締め。
左足を前へ、右足を後ろへと移動させ身体を半身の状態へもっていくと膝を軽く曲げる。
息を鼻から吸い、ゆっくりと口から吐き出し、再び息を吸う。
何度か吸っては吐きを繰り返し身体に呼吸をなじませると、立っていた位置より前後左右へと常人の目で追うのは難しい速度で移動をし元の立っていた位置に戻った。
「こぉぉぉぉ・・・。ふぅ、ちょっと遅いな。身体・・・、鈍ったか?」
今の動きに満足していないのか、身体をひねりながら自身の状態に不満をもらし構えを解いて力を抜いていく。
「さて、もう一個・・・。」
楽な体勢で今度はパンッと手を合わせ、時間が経ってから離すが何も起きない。
何回か試してみたが結果は同じ様だ。
「ふむ、困ったな。使えないのか、はたまた何もないのか・・・。」
ふぅ、と一息吐きそこらへんに落ちていた石を拾うと手のひらの上に乗せる。
すると乗せた石は手のひらの中へと沈み込みどこかへと消えてしまった。
「入れる事はできるのか・・・。なら・・・。」
もう一度パンッと手を合わせると、両手の間から光が洩れ。
右手を離していくと左手のひらからさきほどの石がゆっくりと顔を覗かせ両手で石を挟んで持っている状態になっている。
「これで文無しの上、武器や術具も無しが確定か。しばらく無手になるな・・・。」
両手で挟んでいる石を下に落し、再び一息吐きだす。
「別空間、別世界。楽しくなりそうだ。」
降り立った地は図鑑世界。
金も武器も術具もこの世界の知識もない。
そんな男の旅が今始まった。
風は緑の生い茂る草原を舞い、蒼を湛える海を遊び、生を拒絶する砂漠に跳ね、赤と黒を内包する山を駆け、木々を蓄えた森林を漂い。
そして名もない平原へと吹き込まれる。
様々な場所を流れ、行き着いた平原。
風はそこで身を翻すと八方へと別れ散っていく。
散った後に残ったのは一人の男、どうやらあの風の中から現れたようだ。
布製の袖が無く丈の短い漆黒の胴着、胴着とは対照的な純白の肌着、上と同じ漆黒の色をしたズボン。
この世界、この時代、この場所にそぐわない服装をしており。
髪は白みがかった薄紫色の短髪で、可もなく不可もなくといった感じだ。
突如として平原に現れた男は、辺りをキョロキョロと見渡し次に己の手のひらをジッと見詰めると再び辺りへ視点を移す。
すると、自然と吹いていた風は強さを増し周囲の草花は激しく揺れ、しばらくすると風は弱くなっていき最初に吹いていた時よりも穏やかになっていく。
「着たばかりでこれか。これならすぐに馴染んで元に戻るだろう。次は・・・。」
何かを確かめると次は身体を伸び縮みさせ、動く準備をし始めた。
先ほどまで穏やかだった風はいつの間にか元の自然な状態に戻り、何事もなかったかのように大地を駆けていく。
男は充分に身体を解すと左腕を前方へ突き出し、肘を上方へ曲げ、右手を左肘から少し離したところへ添えて両手を握り締め。
左足を前へ、右足を後ろへと移動させ身体を半身の状態へもっていくと膝を軽く曲げる。
息を鼻から吸い、ゆっくりと口から吐き出し、再び息を吸う。
何度か吸っては吐きを繰り返し身体に呼吸をなじませると、立っていた位置より前後左右へと常人の目で追うのは難しい速度で移動をし元の立っていた位置に戻った。
「こぉぉぉぉ・・・。ふぅ、ちょっと遅いな。身体・・・、鈍ったか?」
今の動きに満足していないのか、身体をひねりながら自身の状態に不満をもらし構えを解いて力を抜いていく。
「さて、もう一個・・・。」
楽な体勢で今度はパンッと手を合わせ、時間が経ってから離すが何も起きない。
何回か試してみたが結果は同じ様だ。
「ふむ、困ったな。使えないのか、はたまた何もないのか・・・。」
ふぅ、と一息吐きそこらへんに落ちていた石を拾うと手のひらの上に乗せる。
すると乗せた石は手のひらの中へと沈み込みどこかへと消えてしまった。
「入れる事はできるのか・・・。なら・・・。」
もう一度パンッと手を合わせると、両手の間から光が洩れ。
右手を離していくと左手のひらからさきほどの石がゆっくりと顔を覗かせ両手で石を挟んで持っている状態になっている。
「これで文無しの上、武器や術具も無しが確定か。しばらく無手になるな・・・。」
両手で挟んでいる石を下に落し、再び一息吐きだす。
「別空間、別世界。楽しくなりそうだ。」
降り立った地は図鑑世界。
金も武器も術具もこの世界の知識もない。
そんな男の旅が今始まった。
12/01/27 15:56更新 / 朱色の羽
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