読切小説
[TOP]
民話「強欲な収税官とデビル」
どうも、皆様こんにちは。

私は教団のしがない一司祭でございます。
この良き出会いをあたえてくださった全知全能なる主神様に感謝を。

ああ、どうかそう興奮なさらず。
教団とは申せ、私は田舎におりまして魔物のまも見たことがございません。
なにせ私も農家のせがれの出で、他の子供よりも物覚えが良いということで教会に入れられた口でして。
苦労して司祭になったものの今でも昔と変わらぬ貧乏暮らしが沁みついています。

ああ、いや私のことはともかく本来なら異教徒のあなた方に説法をしなくてはならないのだと思いますが、
恐らく興味がないと思われるので私が聞いた魔物のお話をしたいと思います。


あるところに一人の収税官ががおりました。
信仰が薄く強欲そして傲慢なその男は官職を笠に着てやりたいほうだい。
様々な理屈をつけて賄賂を強制するなど当たり前。
どんなに貧しい領民から必要以上の税を取り立てるなど酷吏として横暴を極めていました。

え?収税官はだいたい強欲?
まあ、お気持ちは分からなくもないですが、そもそも彼らも領主に使える下っ端の役人で職務に忠実なほど憎まれるものです。
実入りが少なくどうしても収入が増やさなくてはいけませんからね。
とは言え、天から派遣されてきた天使様に不正を見咎められて領主ともども処罰を受けた話も良く聞きます。

そう言えば私の教会区の建物も最近雨漏りが……いえ、失礼。

ある日、収税官は馬に乗って村へ向かう途中、1人の少女が寝転がって道をふさいでいました。
たちまち男は腹を立てて道を開けろと怒鳴って鞭で叩こうとして、目の前にいるのが誰なのか気づきました。
見れば胸と股間以外は全裸と言う破廉恥な格好をした少女は肌が青く小さな四つの羽根をはやしていたのです。

そう、主神様の敵にして正しき信徒たちが憎み恐れる魔物。
魔王の尖兵たる邪悪な悪魔「デビル」です。

その雰囲気とは裏腹に外見はとてもかわいく、撫でたくなるような……これ以上は申しますまい、信徒として。
強欲な収税官もこれにはおとどろいて腕を止めましたが、なんと名も無きデビルは近付いてきました。
名前?まぁ適当に想像してください。
そもそも女性に名前を訪ねるときには礼儀正しく……。
失礼、魔物に名前を尋ねるなどライオンに手を突っ込むようなものです。

「あなたはこれから税を集めに行くの?」

手を後ろに組んでデビルは首をかしげてそうたずねました。
収税官がそうだと答えると、なら一緒に行きたいと言い出しました。
突然のお願いに収税官は少し考えた末にデビルが同行することを許しました。


もちろん親切で悪魔を連れていくのではありません。
欲深いものはずるがしこく自分がいい思いをするかいつも考えています。

嫌われ者の収税官のアイディアは次のようなものでした

世に恐れられるデビルを利用して、領民を脅して税金だけでなくさらに自分に様々な貢物を差し出せよう。
搾り取るだけ搾り取ったらデビルを油断させてた後騎士団を呼んで退治させ貢物を独り占めするだけでなく、デビルを退治したという
手柄も手にしよう。


いやはや、なんとも欲深い。
不信者は時に悪魔より強欲で、罪深いことをします。
魔物に出会った時には領主や騎士団、気高き主神のしもべたる教団…シスターや勇者に頼るべきです。

私ならさっさと逃げ出しますが。
皆さんは……逃げない?
はぁ、そうですか。

とにかく祈る者、耕すもの、戦うものはそれぞれの領分があると言いたかったのです。
こんな田舎の1司祭には、偉大なるレスカティエの勇者たちのように闘うなどとてもとても……。

もし私に腕っぷしがあればヴァルキリー様に存分に……あぁ、どうかこのことは秘密にしてください。

さて、言質をとったそのデビルは収税官の馬によじ登ると勝手に収税官の後ろに乗っかってしまいました。
男は不愉快に思いましたが、後で追い払うにしても今怒らせたら何をされるかわかりません。
しかしデビルはおかしなことを言い出しました。

「あなたは差し出されたものは全て受け取るの」

と。

わけのわからないことを言う悪魔だと考えながらも収税官は当たり前だと言いました。
なぜなら彼にとってそれは当然の権利だからです。
デビルはそのかわいい顔を近づけてこう言いました。

「私は心から差し出されたものしか受け取らない」

てっきり自分のおこぼれを狙っていると思っていた男はその質問がわからず、あんぐりと口をあけました。
デビルの言う言葉に内心首をかしげましたが、収税官が自分の取り分が多くなるなら知ったことではありません。
さて、収税官とデビルは目的地の村にたどりつきました。

収税官と悪魔と言う奇妙な組み合わせに人々は恐れていつも以上にかしこまっていました。
官職を笠に着るだけでなく悪魔の威を借って威張り散らすなど神のしもべとしてあきれてものも言えません。
天使様やヴァルキリー様がこれを見れば成敗すること間違いありません。

「偉大なる、賢き収税官様!」

内心の不満不平はさておきいつも以上に人々は彼に思ってもみない美麗字句を言い立てて次々と貢物を差し出してきます。
収税官は自慢げに受け取りますが、一方のデビルはつまらなさそうにあくびをしてもの一つ受け取ろうともしません。
不信に思った男がそのことを指摘すると、デビルは退屈そうに言いました。

「あんたってよっぽど嫌われているんだね。上辺だけの言葉にいい気になってるとろくなことにならないよ」

それを聞いた収税官は不機嫌になって鞭を振り回して周囲に取り巻いた人々を追い払いました。
イライラしながらお前にはおこぼれの一つも分けてやらないとデビルに言い放ちます。

人間だれしも事実を指摘されると不愉快になるものです。
悩み事、不満、奇跡を求めるなら教会へ。

ついでに主神への贈り物があればなおいいでしょう。


さて、デビルと収税官の2人が村を歩く途中、1人の牛飼いがいました。
年を取ってのろまで耳が遠い牛にいらだち、怠け者の牛など悪魔に攫われてしまえと言い放ちました。
収税官が牛を持ち帰るように言うと、デビルはあくびをして言いました。

「この牛は男にとって財産よ。ひと時のいらだちと自分を恐れて差し出したので、心からの贈り物とは言えないわ」

それを聞いた牛飼いは自分の過ちを気づき、跪いてこれからも根気よく牛を飼うと誓いました。
皆さんもひと時の感情に流されて財産を失うことが無いようにしましょうね。

次にある貧しいあばら家が2人の目に移りました。
そこからなにやら子供と女性が言い争う声が聞こえます。

デビルと収税官が家へ入ると、声の主はどうやら親子のようです。
言うことを聞かない子供に母親が「悪い子は悪魔に攫われてしまうよ!」と叱っていました。

そんな光景をせせら笑うと収税官はデビルの方を向き今度こそお前のものだと言いました。
親子は残酷な収税官と世にも恐ろしいデビルの姿に抱き合って震えあがりました。
デビルは近付き、おびえる親子を見て言いました。

「この母親は子供を心から愛している。私に手渡すつもりはないみたい」

その言葉を聞いた涙を流して親子は悪魔に感謝して仲直りしました。
面目を失った収税官は苛立ち八つ当たりのように家にあるものを分捕っていきました。


やがて村の奥につくと、収税官にたった一つの財産である家畜を取り上げられた貧農の女が収税官を見るなり手を天に掲げて
きいきいと叫びました。

「この汚らしい盗人め!お前など悪魔に攫われてしまいがいい!」

それを聞いたデビルはその赤い瞳を輝かせて収税官に言いました。
禍々しい魔力があたりを覆います。

「心からの贈り物だわ、受け取らないわけにはいかないわね」

と。
羽を広げてものすごい力で収税官を掴むとそのままどこかへ飛んでいきました。
何と言う恐ろしいことでしょう。悪魔は最初から欲深い収税官が狙いだったのです。
それに気づいたときには後の祭り。
後には突然のことに呆然とした貧農の女だけが残されました。
ちなみに村人たちから受け取った貢物は全てそこに残されていたので、村人たちは損をせずに済みました。

主神様はすべてご存知なのです、多分。


その後収税官は悪魔を知らせなかった事を問題視され、悪魔崇拝者扱いされたとか。
数々の不法を暴かれたあげく、官職を解かれ離縁されて財産を没収されたとのことです。
おそらくデビルの仕業でしょう。
聞いた話によれば、収税官は魔界に連れていかれ奴隷にされているのだと言います。
その上全てを失った事を知った収税官は廃人となり、今でもそのデビルの慰み者にされてしまっているとのことです。
なにやらそのデビルを母だと思い込んでいるとかなんとか…

いやはや、強欲だったばかりにデビルに漬けこまれ、破滅するとは恐ろしい限り。
皆さんも気を付けてくださいね。



なお、説法の時間にこの話をしたところ村の男衆からなぜ収税官ばかりいい思いをするのかと言われましたが、私には何とも。
とりあえず、魔界に行く方法を探したほうが……。
帰ってこれなさそうですが。


皆様こんにちは。
今日は皆様に、デビルの恐ろしさを"騙り"たいと思います。


18/03/31 16:19更新 / カイント

■作者メッセージ
ある民話をもとに作ってみました。
元ネタは、講談社学術文庫の『中世ヨーロッパの城の生活』から取らせて頂きました。
みんなもデビルママに甘えたいと思ないかい?

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33