連載小説
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僕の家は、道具屋だ。商売は黒字だったり赤字だったり。
ここは都市から少し離れた城塞の外れ。人の往来は繁忙期を過ぎた瞬間、店の客足もゼロになる。そんなところだ。
今日は雨。外に何か探しに行くのもダルいし、現在は15時を過ぎた。稀にご近所さんが気まぐれに挨拶に来るぐらいしかないだろう。
足を組んでナイフの先で爪の垢をほじくって店番をしていると、ドアの前で不自然な音がした。
大きな木箱か何かを運んでいるような、そんな足音。商品の入荷の予定は今日はないはずだし、そもそもそんな大量の品物や大物は頼んでいない。
入ってきたのは、随分と豪華な貴族の服を着た中年の婦人だった。

・・・

傘を閉じた婦人は、これを買い取って欲しいといって、木箱を開けた。中にはうっすらと青銅色に光る立派なプレートアーマーだ。
いくつか使用感とキズがあるが、兜から脚甲まで一式全て揃っていて、内側にはレザーの上にスケイルを鎖で繋げて関節まで保護する豪華なもの。
青色の光は魔力だろうし、装飾も豪華すぎず、控えめだがストライプを金色に掛けた美しい雪の結晶の紋が各所に刻まれている。
北国の高名な騎士が実戦に使っていた鎧というところだろうか。間違いなくオーダーメイドで作られた高級品だ。

「そんなもの買い取れるお金、持っていませんよ。」

僕は婦人にきっぱりそういうと、彼女はこういう。

「では、銀貨1枚でどう?木箱ごと渡すわ。」

「・・・どんないわくつきなんですか。」

銀貨一枚では、鎧の入ってた大きな木箱ぐらいの値段しかない。
こんな寂れた道具屋に売られる鎧だ。どうせ何か呪われてるとかで買い取られずに捨てるつもりで来たんだろう。

「い、いいえ?でもアナタ、目が肥えているじゃない。アナタの想像した額はおいくら?」

「金の延べ棒が1つぐらい、ですか。」

「そう。そうね。でもね、この鎧、使いまわそうにもどの鍛冶屋も手直しできないって断るのよ。」

「うっすら光る魔力のことですか。」

「それもあるわ。この鎧、女性向けに小柄に作られているのよ。」

「触ってみても?」

「え、えぇどうぞ。でもそっとね。魔力に当てられると良くないわ。」

婦人はぎこちなく距離を置く。僕は鎧の手甲を手に取った。

「本当だ。内側の皮の複合鎧の上にこれを着て嵩増ししてる・・・」

着用者は細身な女性のようだ。
戦場に身を置く筋肉のある男性には、まず無理だろう。華奢な男の僕の腕がプレートアーマーにピッタリ入るぐらいのサイズだった。
しかも重厚なプレートの割にはかなり軽く感じる。鎧に込められた魔法も、女性向けに金属を軽くする特殊なものだろうか。少なくともこの地方にはないもの。
カコンと音を立てて兜が横に動いて面当てが落ちる。

「ヒッ・・・!」

婦人が息を飲んで棚にもたれかかった。

「どうしました?」

「い、いえ、なんでもないわ!それで、買うの?!買わないの!?」

息を荒げて回答を迫る。

「そうですねぇ・・・うーん・・・」

置き場所に困ること以外はいい条件だが、女性向けでサイズも限られる手直しも出来ない甲冑がいつ売れるものか。
悩んでいると、彼女は私の肩を掴んで掌に小さい袋をねじ込んだ。ジャラっとコインの重みが掌に乗る。

「あぁもういいわ!じゃあ私はこれで!」

「え?あの、お客さん!?」

ドアを叩き開けて彼女は出ていくと、ドアが開いていた馬車に駆け込んであっという間に出て行ってしまう。

「参ったな・・・あの慌てようじゃ、絶対なんかいわくつきだぞ。」

馬車には馬の紋章があった。ドアを閉じて鎧を見る。微かに息づくような雰囲気のある鎧だ。魔力の光の流れがそう見えるんだろう。

「この鎧の持ち主の死因はなんだろう?戦場で死んだような傷はないなぁ・・・毒とかか?」

そういえば物置の奥に木偶が残っていた。引っ張り出して木偶に着せてみる。

「うーん、立派だ。この木偶で着れるなら、僕もいけるんじゃないかな。」

素手のままなら外側のプレートアーマーが入るだろうし、華奢な男性なら着れるかも知れない。そんなことを考えていると、カッと雷光が光った。
雷の音は遠かったが、同時に雨脚が強まった。

「こりゃあ今日は店じまいだな。」

時間は早いが仕方ない。閉店の札を立てて閂を入れる。

「あとは・・・飾る場所の用意でもするか。」

店の棚を移動して木偶を置く場所を作ろう。一人じゃ重労働だし、結構時間かかりそうだ。
鎧はまだ埃っぽいし、店の倉庫にしまおう・・・。


・・・


後日、快晴でも客足はない。常連の冒険者が1人だけ消耗品をいくつか買いこんで、ついでに木偶を置く場所を作るのを手伝ってくれた。
今日はもうそれで店じまいだ。残りの時間で鎧の手入れをして、明日の朝いちばんで置けるようにしよう。
倉庫から飾る場所に引っ張り出して、布巾で綺麗に埃を拭いていく。

「しかし凄いな。錆一つない。雪の紋章だし、北国には雪解け水で錆びないような製法でもあるのかな・・・」

僕はブツブツと独り言を呟きながら鎧を拭いていく。油っぽい汚れも拭けば落ちるから何度も往復させて綺麗に磨き上げる。
ガタガタと木偶のスタンドが床に傾いて音を立てる。立てたまま拭いてるんだから、当たり前だろう。

「よし!」

入念に磨き終えた鎧は、青白い魔力も強くなって見えた。

「さて、寝よう。」

とっぷり夜も更けて、今日は寝ることにした。

・・・

いつもより早く目が覚める。店の方から窓が揺れるような物音がする。

「なんだろう・・・泥棒かな・・・」

店に降りる途中で物音が止んだ。僕の足音に誰か気づいたのか。
急いでドアを開けてみる。窓も締まったきりで何もない。甲冑のそばにある窓辺りから物音がした。

「うーん・・・」

窓を調べてみても、誰も触った形跡がない。外側の窓の縁の埃に指の痕が付くはずだ。

「まさかな・・・」

鎧を見る。魔物には動く鎧なんてのもあるらしいが・・・。
おどろおどろ僕はつんと鎧の腕をつついてみる。

「・・・何もないか。」

しんとして鎧は動かないままだ。

そうこうして今日の店が始まった。

・・・

正午ぐらいだろうか、店に兵士が現れて、聞き込みをしてきた。

「この辺で、この貴族を見かけなかったか?」

似顔絵を見せられると、先日来た婦人だった。

「えぇ・・・そうですね。おととい来たかもしれません。」

「詳しく話を聞かせてくれないか?」

「先日あの鎧をここに売りに来ましたね。本人かどうかは定かじゃありませんが。何をした人なんです?」

「この貴族はどうやら盗賊とつるんでいたらしくな、盗品を売り払っていたんだ。」

「盗品を・・・鎧は没収でしょうか。僕は構いませんが。」

「話の分かる商人で助かるよ。みんな抵抗するからな。」

鎧を引き取ってお金まで貰っている。鎧を没収されても別に懐が痛むわけじゃないからいいだけであって、ちゃんと買い取った消耗品が没収されたら僕も嫌だ。
兵隊はリストをめくる。

「ふーむ・・・盗品に青い甲冑はないな。」

「えぇ?」

「まぁ、これを盗むにはかなりの手間と額だろうしな。大方、冒険者なりが冒険の途中で拾ったものだろう。これは君が持ってていいよ。」

「はぁ・・・そうですか。」

「それじゃあ俺達はこれで。」

兵隊たちの背中には、剣の紋章があった。見慣れない紋章だ。

・・・

翌日になって、また物音がする。

「またか・・・」

店を見てもまた何もない。

「鎧が動いてるわけじゃなさそうなんだけどなぁ・・・」

同じ場所で窓を見てみる。昨日と違って指の痕が付いていたが、そこには文字が書かれていた。

【私を着て】

「!」

振り返ってみると鎧は微動だにしないが、そういえば先日と向きが少し変わっている。

「・・・やっぱりこの鎧・・・」

貴婦人は、面当てが動いた時にやたらと怯えていた。

「動く鎧なのか?」

僕は聞いてみると、面当てが上下に2回動いた。

「・・・!」

それ以降は微動だにしない。内心恐怖で一杯だったが、何十秒かして足元を見て気づいたことがある。
この鎧、木偶に着せられて上手く動けないみたいだ。動いた後はあるが、スタンド部分が邪魔で足が届かず、ガタガタ左右に揺れ動かないと動けないらしい。

「動く・・・鎧なんだな?」

恐る恐る聞くと、面当てが二度開閉する。まるで頷いているようだ。

「これを書いたのは、お前か?」

同じリアクションを見せた。どうやらこの鎧、口が利けるらしい。
距離をおいて、落ち着きを取り戻した。僕は鎧に話しかける。

「そうだな・・・えっと・・・僕の質問に答えてくれる?返答がイエスだったらさっきと同じで、ノーだったら1回で。」

鎧が二度面当てを動かした。

「君は男?」

面当てが一度動く。どうやら女性・・・の亡霊なのかな?

「あーっと・・・君を着ろの意味が僕には分からない。と言っても・・・説明は無理だしな・・・」

少し手が動いた。

「分かった。じゃあ紙とペンを渡すから、説明して貰うよ。変な動きはするなよ。絶対だぞ。」

イエスの返答で、恐る恐る鎧にペンを渡してテーブルに紙を置いた。
ぎこちない下手な字で、書かれた文字。

【私アルマ。私 着れ 声 通じる。】

どうも女性の名前のようだ。でも魔物の鎧を着ろだなんて正直怖くてたまらない。

「・・・着た後二度と脱げないなんてないよな?」

返答はイエスだった。

「本当に?」

カパッカパッ

「本当かよ・・・」

ガタガタと音を立ててペンを走らせる

【信じて】

「でも魔物だしなぁ・・・正直口が利けても、裏切るかも知れないのが僕の見解だ。」

【なら、着なくていい。売って。】

そう書くと、彼女は兜を閉めてペンを放り投げ、ただの鎧の様になってしまった。青白い光も弱まって、黒ずんだ様に見える。
まるで商品価値が失せていくような、そんな仕草だった。
いつ売れるかもわからないのに動く鎧なんて、今後困るぞ。

「おい?アルマ?・・・聴いてる?」

微動だにしなくなってしまった。迷惑かけておいて今度はだんまりとは身勝手な奴。むっとして僕は鎧の兜をひっこぬいた。

「・・・わかったよ着てやるよ!兜だけな!毎晩ガタガタ動かれて起こされるのも嫌だし!」

僕がそう言うと、鎧が輝きを取り戻した。いや取り戻したどころか、今まで以上に輝いた。
兜を被った途端、一気に鎧が木偶から剥がれ落ちる。胸当てや手甲が浮遊して僕の体に張り付いて組みあがる。

「お、おいおいおい!?」

あっという間に鎧を着てしまった。

(ありがとう。)

頭の中に女の声が響く。僕自身には何も影響はないようだが、一瞬の出来事で動転したままだ。

「お、おい、本当に脱げるんだろうな!」

辺りを見渡すと、何か透明な布のようなものが動いている。
面当てを上げると消えて、つけると見える。面当てを着けたまま隙間を動かしてみると、女性の幽霊だった。
クールな顔立ちのロングヘアー。透けているが、注視するほど段々くっきりと見える様になる。

「・・・君が・・・アルマか?」

(そうよ。)

「・・・」

しばらく目を合わせると、彼女は恥ずかしそうに身をくねらせて目をそらした。

「どうした?」

(この間・・・私のこと拭いたでしょ。)

「そりゃ鎧だから・・・」

(どこ触ってたか・・・キミ判ってる?)

「え?そりゃ全部だけど。」

(その・・・あんなにされたの初めてで・・・7回ぐらいイっちゃって・・・)

「なんの話?」

僕が首をかしげると、彼女は少しムスっとして頬を膨らませた。

(・・・むぅ・・・まぁいい。えっと、説明するから目の付かない場所にいって。今の君は、独り言ぶつぶつしてる変な人だから・・・)

「判った。」

倉庫に入って僕は床に座る。彼女がフワフワと僕の周りを飛びながら、話しかけた。

(君の考えてることはいくつか判る。まぁ、大方当たりで、私は元は北国の女騎士。この鎧の持ち主だった。)

「へぇ・・・」

(死因は・・・餓死。敗戦して落ち伸びても、北国は食料が少ないから・・・)

「鎧になってからどれぐらい経つんだい?」

(もう5年ぐらい・・・サイズが合わないとか、呪われてるって誰にも着て貰えないまま店とか転々としてた。君も見た通り。)

「まぁそりゃそうだろうね。」

(でも、それももう終わり。今から私はキミのもの。もうサイズ調整も終わったし、君専用。立ってみて。)

言われるがまま立ってみる。重厚な鎧にも関わらず、防寒着よりも軽いぐらいに感じる。

「凄い・・・」

プレートの間には隙間があるはずなのだが、分厚くて柔らかい何かが纏わりついてフィットした感触がする。
まるで体の一部になったかのような一体感だ。

「でも鎧着て店番するの?」

(冒険にでも出れば?行商人になればいいじゃん。)

「そう簡単に店は捨てれないよ・・・」

(土地売って冒険のお金にすればいいじゃん。)

「君、物欲に乏しいね・・・」

(私にはキミだけいればいいもん。)

「そりゃどうも・・・」

(ねえ・・・)

彼女はふと前に出て来た。

(お腹減った)

「鎧って何食べるの?鉄?」

(・・・亜鉛だし、間違ってないかも。ごめんね?)

鎧が今度は急に動かなくなった。完全に固定されて動けなくなる。

「なっ・・・」

(すぐ終わるから。じっとしてて。大丈夫。)

鎧から透けた彼女の手が僕の首筋を撫でて、胸板まで降りてきた。
くすぐったい感触で背筋がゾクゾクと震える。

(お返し、させて。)

「なんの・・・」

(拭いてくれたお礼♡)

柔らかな鎧の内側が蠢いた。乳首を舐め、脇をくすぶり、全身を柔らかに撫でまわして来る。
固定された鎧に動けないまま、全身愛撫されて霊体の彼女が抱きついて耳元で囁く。

(君ってば、何も知らないまま鎧の内側で何度も何度もおっぱい弄ってたんだよ・・・♡)

口の周りを囁きながら舐め挙げて来る。霊体でも乳房が当たっているのが感じられた。

「こ・・・これは・・・」

この子、おっぱい大きい・・・。

(それはもう入念に入念に、同じところ何回もまさぐって・・・私が何回イっても知らんぷりして続けるんだもん?)

淫語が頭に響き渡る。洗脳されるようにすっかりおっ立ててしまった一物に彼女が太ももを擦り付けた。

「あ・・・アルマ・・・?」

(その気になってくれたんだ、ダーリン・・・嬉しい♡)

音を立てて唇にキスをすると、彼女はするするとしゃがんで顔をペニスの高さまで持ってきた。

(凄い♡)

頬擦りして玉を掌でさする。くすぐったさで竿をびくつかせると、彼女は唇と舌先で裏筋をなぞり上げてきた。

(リラックスしててね、イイこともあるから。)

空間に固定された鎧にもたれかかると、彼女は喜々として入念にフェラチオし始めた。

腕で足をがっちり固定して裏筋を舐めているのに、彼女の鎧の魔力が上半身を弄った。
まるで鎧の内側に何人もの彼女が要るかのようだ。自由自在に全身を愛撫してくる。

乳首をチュっと吸い上げられて頭に痺れが走った瞬間に、先走りと一緒に射精してしまった。

(あ・・・♡)

鎧の中で射精してしまったが、鎧の内側に跳ねることなく霧散していく。
じわりじわりと温かい感触が身を包む。満足感が背筋から脳天まで包み込み、色欲に思考力が失せていった。
頭の中が気持ちよさに支配される度、目の前に移るアルマの幽霊にかつての姿が彩られていく。
色白で美しくしなやかな体躯。裸の彼女が髪の毛を結っている後ろ姿を見て、恋心が同時にふつふつと湧き上がってしまう。
こんな騎士様、一目惚れしない方がオカシイだろう。彼女がこちらを見ると、頬を赤らめた微笑みを見せ、優しく手招きした。
視界には妖艶な笑みをする彼女ばかりが映り、その誰もが体に絡みついてきた。
恋心と劣情に溺れた僕には抵抗する手立てがなくなった。だらしなく鎧の中で精子を吐き出しきると、意識を失った。

・・・

目が覚めると、鎧が脱げてすぐ隣に女の子座りしている彼女がいた。

「アルマ・・・」

(ダーリン、どうだった?)

もう鎧を脱いでも声が聞こえるらしい。

「うん、凄く良かったよ。」

(喜んで貰えて良かった・・・私もお腹いっぱい。)

くっきりと見えるようになった彼女は満足そうに笑みを浮かべる。
鎧の輝きもより一層強く、隙間から入る夕日の反射する場所はプラチナの様な目をくらませる輝きだ。

「生前も凄く綺麗だったんだな、アルマ。今は白くて、澄んだ水みたいだ。」

顔を逸らしたが、余計照れてもじもじしてしまった。

「でも、非売品になったはいいけど、鎧として使うところがなぁ・・・」

(その辺は心配しないで、危なくなったら私を着て。守ってあげるから。)

「でも僕戦えないよ。」

(大丈夫、鎧を着て私と同化すれば、私の体に刻まれてる剣術をアナタに同調させることが出来る。腕っぷしには自信あるわ。着ていれば君もわかる。)

「そっか。冒険かぁ・・・してみたかったんだよなぁ・・・。」

倉庫に寝転ぶと彼女が笑った。
18/01/04 00:07更新 / 鳥のヅョン
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