連載小説
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翌日

僕はアルマを着て、早速城外に出かけてみたが、ハッキリ言って彼女のパワーは凄まじいものだった。
城外すぐの門で車輪が引っかかった馬車を片手で押し上げ、水の上を走り、チョップ一つで丸太をへし折る。

(素手ならこれぐらいでしょうか。ダーリンが一杯出してくれたから、かなり調子いいです。)

「すっごいパワー・・・」

(まぁ魔物ですから。ですが武器がありませんね・・・)

衛兵からお古で貰った剣を持ってきたはいいが、モノを切るどころか振った時の遠心力で根本から折れてしまった。

「魔法とかあればなぁ」

(魔法剣ですか・・・出来なくはないですよ。)

柄を握って刀身を念じると、炎の形に剣の刃が出来上がる。

「おぉ・・・」

シュっと音を立てて火が消えた。

(魔法剣は魔力の消耗が激しいので、すぐお腹が減ってしまうんです・・・)

「その時は一杯してあげるから。とりあえず今はこうするしかないんじゃないかな。」

(・・・はい・・・♡)

城外の平原を見渡す。爽やかな風が吹いた。

(ここは温かいですね。とても平和です・・・。)

「今は春か・・・昔はこの時期だと平原には魔物だらけだったんだけどな。」

ゴンと何かを踏んづける。足元には錆び切った円の盾があった。盾を拾うが、使い物にはならないだろう。彼はその場にポイと捨てる。
今でこそ緑に覆われているが、かつては何度となく魔物と大規模な戦闘があった合戦場だった。

「近頃の魔物は数がめっきり減ったらしい。今じゃ淫魔だらけだそうだよ。」

(私もその一人です。)

「アルマは元々スケベだったんじゃないの?アハハ。」

冗談めかして彼は言うが、アルマは熱っぽい目で言う。

(アナタに出会えていれば・・・そうだったかも知れません。)

「うっ・・・!」

(お返しです。前かがみになってますよ。今しますか?ウフフ・・・♡)

「あはは・・・日が沈んだらでお願い。」

(承知しました。)

丘を登ると、周囲を見渡す。遠くに見える街道で馬車が止まっていた。

「何してるんだろうアレ。」

(指で丸を作って、見てください。)

彼女のしようとしていることが感覚として掴めている。手を前にかざして正円を作ると、魔法で空気が歪んだ。
指の間の空気を屈折させて望遠鏡の様にしているのだ。

(どうやら山賊に襲われてるみたいですね。ひと暴れしましょう。)

「生け捕りできそう?」

(あの程度、余裕です。)

ダッシュして山賊の元へと向かう。

(魔法剣を。)

「オッケー!」

柄から透明に光る刃が現れ、すれ違い様に重装備の山賊長らしき人物を一人斬る!

(生物は誰しも魔法の可否大小問わず、魔力を持ちます。この魔法剣ならば、魔力の流れを一時的に断ち切って・・・)

「卒倒させることが出来る、と。」

彼女と一心になってやろうとしていることが自分でも掴み取れる。
草を切ったような僅かな手応え。兜の隙間から見える人の魔力の流れが乱れ、山賊は貧血を起こして青ざめ、倒れこんだ。

(魔力も全然ない、粗暴な蛮族ですね。終わらせましょう。)

弓矢を撃たれても音すら立てずに弾き返し、大斧を持った山賊が振りかぶる。
斧の刃を掴むと柄が折れて山賊は頭を地面に強打した。
悲鳴を上げて山賊は蜘蛛の子を散らす様に逃げ出すが、走って先回りして足を引っかけ、馬車の元に放り投げて戻す。

商人からロープを貰って山賊を全員お縄に着かせ、僕らは城塞に戻って山賊を衛兵に突き出した。
身分は伏せたが、報酬を貰って帰れた。売り上げの何倍も貰えて、その晩は料理を奮発して、お腹一杯になった。
家に戻った僕は、次に彼女をお腹一杯にしなければならなかった。


・・・


鎧を脱ぐと、彼女がベッドにバラバラに飛び散った。

「あーもう散らかして。」

(ふふ、待ちきれません♡)

鎧はベッドの四方にばら撒かれ、彼女は実体化している。
鎧から遠くへ行くことは出来なくとも、その間を広げてしまえば彼女のテリトリーが出来上がる。
羽根の様に軽く柔らかい彼女と手を繋ぎ、口づけを交わすと、すぐに身をよじってアルマは体を擦りつけてきた。

(ん・・・♡)

先日のお返しとばかりにうなじを舐め、乳首を吸い上げると彼女は喘ぎ声をあげる。

(ひぃん!♡)

戦場ではどこまでもクールで強い彼女が抱き着いて自ら乳首を愛撫するように甘えて来る。
堪らないギャップに昂る僕の一物を欲しがるかのようにフトモモを擦り付けて来る。
鎧の性分なのか、指先から足先までべったり触れ合うのが好きらしい。
キスしながら、愛撫しながら、ふともも同士をすり合わせて足の指先を擦り合わせ、指を絡ませて手をつなぐ。
夢中になっていると、既に挿入しているなんてザラだ。お互いお腹をこすり合わせていると、自然と反り立った一品が入っている。
布団を被り、対面に横たわって互いの足を絡ませて深く深く腰を振る。
二人だけの空間に酔いしれながら、擦れ合う互いの乳首と秘所。

だが、違うところがあるとすれば、女性と男性の差。射精を促す為に存在する女性器は、男性が与える快楽よりも遥かに強い。
それが魔物のものとなれば別格で、快楽を与えることに知り尽くした形はあっという間に僕を達させる。

「アルマ・・・もう少し加減っ・・をっ・・・」

既に果てて中に出し、腰を動かせば違うものまで出そうな中、彼女を抱きしめながら震えていると、今度は彼女が腰を動かしだす。

(ダメ・・・もっと・・・♡)

視界が震えるほどの快楽に、声にならない身悶えをして腰を前後にガクつかせ、それでも尚彼女は喘ぎ声をあげて上半身を擦り上げる様に上下に膣で竿を擦り続けた。

(ひぃん!♡くる♡ここに出して♡)

アルマが叫ぶと、失神直前のホワイトアウトと共に射精感と何かが噴出して来る。

(ふはっ・・・♡はぁ・・・♡すっごい量・・・♡中で潮吹いちゃった?♡)

返事をすることも出来ずに、彼女に頭を撫でられ続けた。
彼女の髪の毛が鼻先をくすぐる。

(おやすみ、ダーリン♡)

そのまま彼女の中で眠りに着いた。


・・・・

翌日

目が覚めて開店前の10時ごろ、ポストに送られていた手紙を読む。

「公開処刑・・・」

以前来たあの貴族と、そのつるんでいたという盗賊の女性が捕まったというらしい。処刑の日程は三日後だ。
アルマと出会えたのはあの貴族のおかげだ。完全に無関係な話ではないと思い、僕は彼女に相談する。

「という事らしいんだけど・・・引き取られている間に何か知ってることってある?」

(・・・そうですね。あの貴婦人の夫が私を引き取ったのですが・・・元々、ここの城塞の領主は、あの馬のエムブレムの者だったそうです。)

「どういうこと?」

(ダーリンの住んでるこの辺は政治には疎いですが、城塞の中央は自由貿易が盛んです。ダーリンのこの店も、品揃えに検閲はないでしょ?)

「そうだね。」

(一部ではかつての魔王の軍勢とも取引して、この巨大な城塞が生まれたそうですが、最近になって教団が突然政治に介入をし始め、失脚したらしいです。)

「教団が?今までは目を瞑ってたってことだよね。」

(大方、淫魔が城塞の内側に入ってくるのが嫌なんでしょう。私みたいに武具扱いならまだしも、商人に成り済ました淫魔が入るとあっという間に町中の女性達は淫魔になりますし。)

彼女は心なしか不機嫌な顔をする。三にも四にもエッチが好きな子だから、萎える話は嫌いなんだろう。

「そうなると、君もバレたらまずくないかな。」

(だから街をでて行商人になろうといつも言ってたんです。)

「そっか・・・そういう意味で言ってたんだね。」

(・・・ごめんなさい、舌足らずで。店にも愛着はありますよね。)

「ううん。理由と考えが判れば話は別さ。ベロチューなら後でいくらでもしてあげるよ。でも・・・」

(・・・助けるんですか?)

「君の仕入れ先、だからね。」

アルマは驚いた顔をした後、頬を緩ませた。

(ダーリンのそういうところ、大好きです。)

「まずは情報を集めよう。どうすればいいかな?」

僕は彼女を着て店のドアを開ける。

(あの貴族の家の場所なら知っています。早めに行けば役人が家宅捜索でもしているんじゃないでしょうか。)

「判った。行ってみよう。」

(でもきっと警備が厳重のはず・・・どうやって中に入り込みましょう?)

「・・・一つ思いついたことがある。」


・・・

馬のエムブレムのある屋敷に着いた。石造りで巨大。まるで城だ。
僕は彼女を脱いで、彼女は荷車の中でぐったりと横たわっている。

「すみません。先日この家から買い取った甲冑なんですが。」

剣のエムブレムを掲げた門番に話しかける。

「あぁ・・・ん?この鎧、君はあの店の?」

どうやらこの門番は僕の店に聞き込みに来た人の様だ。

「はい、お仕事ご苦労様です。」

「返品しに来たって訳かな。やはり、いわくつきの鎧だったのかな?」

「えぇ。店に来た鑑定師に聞いてみたら、北国の武将が敵に捕まって拷問の末に死んだ怨念が籠った鎧だそうでして・・・」

「おぉ・・・それは怖い。この屋敷の主もそんな呪われたものばかり集めているから、こんな目にあったのだろうな。」

カシャン・・・

門番の発言にカチンときたのか、アルマがピクりと動いた。

「!?今その鎧・・・動かなかったか?」

僕は咳払いする。

「今はまだ夕方ですから大丈夫かと。ですが日が落ちると、夜な夜な動きだすんです。」

「それは早く捨てた方がいいかもしれないな。通りたまえ。」

彼は快く門を開けてくれた。

「今は教団の支部長様が取り仕切っている。前の家主は地下の座敷牢にいるよ。自分の屋敷の牢屋に閉じ込められるとは、皮肉なもんだ。鎧を戻したら一声かけるといい。返金出来るかもな。」

「・・・ご親切にどうも・・・。」

説得に成功して屋敷の中に入ることが出来た。玄関前に来ると僕は庭の植え込みの裏に隠れた。

「上手くいった・・・。座敷牢って言ってたな。アルマ。」

一声かけると彼女は僕に纏いついた。

(後であの門番にビンタしたいです。)

「ダメだよ。悪気があったわけじゃないんだから。」

(むぅ・・・)

屋敷の中に潜入すると、見張りが歩いている。

「結構多いね。」

アルマの面当て越しには衛兵の魂が透けて見える。壁越しだろうと透視出来るから、潜入も出来るなんて、本当になんでも出来ちゃう子だ。

(やだそんな・・・いきなり褒めないで。集中きれちゃう。)

身を交わす度、アルマを着た時に彼女と心が通じやすくなっているらしいく、今では僕の心の声が聞こえているらしい。
生命探知は集中してたのか、歩いている衛兵の魂が歪んで見える。

「見つかったらヤバイんだから集中してよ。」

(ごめんなさい。牢屋は確か中庭向かいの監視塔の地下だったはず。)

「随分詳しいね。」

(そこに放り捨てられたこともあったので。)

「なんかごめん。」

気を取り直してエントランスへ入り、正面の大階段を上らずに横へ抜けて渡り廊下を真っ直ぐ進む。
中庭に出ると巡回している衛兵が数人。入口より厳重だ。何かあわただしく話している。

(ダーリン、あれを・・・)

彼女に言われて衛兵達が話している脇にある植え込みを注視した。淡くピンク色に揺らめいて光る人間の魂とは違う、紫色に放射状に輝く魂が植え込みの中にあった。

(淫魔のようですが・・・衰弱しているようです。)

「大体予想出来るね・・・」

話を終えた衛兵が声を荒げながら中庭を横切っていく。

「よし、急いで外周の番兵に知らせに行くぞ。仲間がいないとも限らん。脱走を手助けする奴が入り込んでいるかも。」

「このことが支部長様に知られたら一大事だ!あの女盗賊を一刻も早く見つけ出さなくては!」

会話が終わるや否や走って中庭から消えて行った。支部長には直接伝えず、伝令に向かうらしい。数人が消えて手薄になった様だ。
静かに走って植え込みの傍に向かう。

「フ・・・フー・・・」

緊張で荒げる息を手で抑えて隙間から漏れ出る音がする。お互いハッキリと顔が見えてないが、姿は見えた。

「静かに、落ち着いて。そこにいるのは知ってる。」

「だ・・・誰・・・」

「君達を助けに来た。ただの道具屋さ。」

「道具屋が・・・?なんで?」

「そこに入るよ。」

植え込みの陰に入る。ボロボロの服に似合わない綺麗な白い肌と犬耳、そしてピンク色のセミロングの髪。ウェアウルフだが、どうやら感染した元人間の様だ。
手枷と足枷が付いたまま脱走してる。一体どうやって逃げ出したんだろう。

「その鎧・・・私が拾った・・・」

「そういう事。動ける?君の主人は?」

僕は南京錠を捻じり千切って枷を取る。アルマって凄い剛力なんだ。

(魔力ですよ魔力。怒りますよ?)

それはそれとして、見張りが戻ってくる前に終わらせよう。

「ありがと。ご主人を助け出さなきゃ・・・一番奥にいる。」

「判った。僕が連れ出す。しばらく待ってて。」

彼女に鎧を隠す為に羽織っていた麻布をかぶせ、監視塔の入り口に向かう。門の目の前に兵士が立っていた。

「よし、素早く行こう。」

(判りました。)

剣の柄を取り出し、魔法剣で一気に距離を詰めて切りかかる。
首にするっと刃物が通ると番兵が倒れた。音をたてないように抱きかかえて座りこませると同時に開いた左手が勝手に動き、腰についている鍵の束を剣の鍔で取り上げた。

「流石の早業!」

(急ぎましょう。)

鍵を開けて中に入る。地下室への鍵も開けて入り、走って苔むした石の階段を降り格子が並ぶ通路に来た。

「一番奥!」

全力疾走して最奥部へ向かおうとしたが、体が勝手に止まった!

「アルマ!?」

(気を付けてください、この者は強敵です!)

カチャっと鎧が鳴る金属音がした。牢屋の通路の一番奥に誰か座っている。

「来たか・・・」

女性の声だ。騎士剣と大盾を持って立ち上がる。

(・・・あの鎧と本人からは強固な魔力を感じます。純粋な魔力しかない私達の剣では断ち切って失神させることはできないでしょう。)

相手は一人だが、歩き方と度量を見るに相当な手練れ。アルマが付いてるとはいえ、折れた剣一本で勝ち目はあるのか疑問だ。逃げれそうな雰囲気にも見えないが。

(貴婦人を助けたいなら戦うしかありませんね。勝算はありますが・・・通じるかどうかは試してみないと。)

「判った。どうやればいいんだい?」

(攻撃をかわして近づいたら、強く抱きついてください。そのあとは私が。)

「・・・わかった。」

剣を構えると、開いても剣を振り上げて盾を構え、にじり寄ってくる。すると盾を持つ側の左手側の壁に寄った。

(大盾の死角が消えた。気を付けてください。単純な手では勝てませんよ。)

大盾に隠れて後ろに回れなくなった。シールドバッシュによる突進の後に回り込もうとすると、右手の剣が振り下ろされる。

「アルマ・・・魔法剣でめくらましできないかな。部屋が暗いから効果があるはず。」

(良策です。やりましょう。)

柄を強く握ると、魔法剣の輝きが強くなる。バチバチと静電気の音が鳴り始めた。

「ほう・・・雷の魔法剣か。それも随分器用な。」

僕らの体に緊張が走る。僅かに震える手足が、少しずつ間合いを詰めた。
ふいに相手の動きがピタりと止まった。

「だが、残念だったな。純粋な魔法剣はこの鎧には通じない!」

(来ます!)

シールドバッシュによるタックル!右回りに避けて勢いのまま壁の格子を走った!

「早いが!甘い!」

ブンと重たい音を立てて騎士剣が振り回される!剣の柄を手放してアルマは壁から天井にジャンプして、何と地面に伏せるかの如く天井に腹這いになってギリギリで剣を避けた!
空ぶった剣は魔法剣の刀身に当たり、眩い光が牢屋を照らす。

「くっ!?剣を捨てた!?」

地面に着地して彼女を見ると、目を騎士剣で覆って怯んでいる。チャンスだ!

(今です!)

「くっ、させるか!」

見えないまま振り上げた剣の手が振り下ろされるよりも早くタックルして彼女を押し倒す。

「ぐっ、小癪な!」

急に鎧が重くなると、目の前にアルマの後ろ姿が見える。彼女が女騎士と額を合わせると、剣と盾が手放された。

「なっ・・・何だこれは・・・!?」

急に身じろぎし出して暴れまわるが、彼女が抵抗しないように僕は必死に抑え込む。

「なっやめろ!あっ♡ちょっとそこは!えっ!?嘘っ!?」

一体アルマと彼女は何してるんだ?なんか嫌な予感が。

「ちょ・・・あっ・・・♡やっ♡やぁん♡そんなっ・・・」

騎士の体がビクつきだす。

「ひっ♡ひぃん♡そんな激しっ♡イ、イクッ!♡そんな弄っちゃダメッ!♡」

手で口を覆って声を我慢すると、彼女の体から汗が滲み出てきた。

「ん〜〜〜〜〜〜!!!♡♡♡♡」

股の辺りで生暖かいものが溢れ出て来る。

「やっ♡待って♡もうイってる♡イッてるから♡♡♡」

「アルマ、一体何してるの?」

「ひゅぐぅぅぅぅ!!♡♡♡♡♡♡もうダメ!♡♡飛んじゃう!♡ダメになっちゃうからぁ!♡♡堪忍してぇ!♡♡」

上体を逸らして彼女は伸びる。

「ああぁぁぁぁ!!♡ああぁぁぁぁぁん!!♡♡」

上下に揺れる甘い声が牢屋に響き渡ると、力尽きた彼女が息を切らして倒れた。
するりとアルマが鎧に戻って来た。

(よかった・・・上手くイきました。)

「一体何したの・・・」

(ダーリンが私にしたことを彼女にテレパシーで伝えたんです。この子はたった3回目でギブアップみたいでしたが。)

「さっきまでの緊張感が台無しだよ・・・」

折角冒険者らしい戦いをしていたつもりだったのに。

(でもイかせたのはダーリンみたいなもんですからね?あくまで私の記憶を見せただけですから。)

「それは君が感じやすすぎただけなんじゃ・・・」

(ダーリンのテクニックが人間離れしてたってことですよ。)

もうなんでもいいや。さっさと貴婦人を助けてとんずらだ。
牢屋の鍵を開けると、貴婦人は倒れていた。

(痛めつけられて衰弱してますね。)

「早めに行こう。僕の道具屋まで行けば、治療が出来る。」

抱きかかえて貴婦人を連れ出そうとすると、牢屋の格子を掴む音がした。

「お、おい、アンタ!俺も出してくれ!そいつと同じ日に俺達も処刑されちまうんだ!」

牢屋から話しかけてきた男の顔を見る。

「ん?お前は・・・」

(この間私達が捕まえた山賊ですね。どうします?)

悪人ではあるが、ついで感覚で処刑されるのは僕としては不本意だ。だが街からだして悪事を働かないとも限らない。

(助け出すのも手ですよ。今現在は内側も外側も閉鎖されて、脱出は困難なはずです。手伝わせてみてはどうでしょうか。)

アルマのアドバイスは柔軟で的確だ。ここは助け出そう。

「頼む!こっから出してくれ!」

「・・・わかった。でも条件がある。見張りが厳しいから、お前達も脱出を手伝え。」

「あ、当たり前だぜ!こっちだってここから出たいんだ!」

「よし、出るぞ。」

(ついでにこの女騎士も投獄しておきましょう。)

山賊を全員脱走させ、監視塔を出た。植え込みの中に貴婦人を一度置いて、ウェアウルフの盗賊に見張らせた。

「ご主人!」

「大丈夫。まだ息がある。ここから出たら、僕と一緒に来るんだ。」

「はい!」

「僕は塔の上を制圧する。警鐘を壊したら合図するから、すぐ裏手に見える門で番兵とひと暴れして来い。」

監視塔で伸びてる門番の鎧を奪って、斧を持っていた山賊の男が鎧に着替えて代わりに見張りのフリをする。

今度は塔を上り、同じように魔法剣で門番を失神させて他の山賊も装備を奪った。鐘にぶら下がっている舌を切り落とし、準備完了だ。

「よし。準備できた。」

山賊達は識別する為に肩に白い腕章を巻いて、僕は貴婦人を抱きかかえる。ウェアウルフの子も僕に続いた。

「騒ぎに乗じて僕らは脱出する。お前達は頃合いを見てとんずらしてくれ。」

「おうよ!んじゃいってくらあ!」

山賊達が走って門番達に攻撃を始めた。正直命を奪って欲しくはないが、今はこの二人が優先だ。

裏門が合戦の様に怒号であふれ、戦う男達の足が土煙をまくしたてる。

「よし脱出しよう!ついてきて!」

「うん!」

見つかることなく門を出ると、ウェアウルフの子が口笛を吹いて山賊に撤退の合図を出す。

(生き残るれかは、彼ら次第ですね。)

僕らは山賊達を振り返ることなく屋根伝いにジャンプして一目散に館を後にした。


・・・


それから数十日後

あの後、すぐに店のポストに公開処刑の中止の案内が届いた。既にこの町の実権は教団が握ってしまったらしく、僕らだけでは手に負えないものになっていた。
回復した貴婦人とウェアウルフの子は城塞中央の商会と合流して、レジスタンスを作ることにしたらしい。
規模はまだ街を取り返すには小さいが、それでも色んな人がいる。
僕と同じように魔物娘と暮らすものや、実は淫魔だった商人の娘。それに、一緒に脱走した山賊もいる。
彼らは脱走後に街を出てすぐに拠点へ戻ったらしいが、留守にしていた間に居ついていたダークエルフやラミアに犯しに犯されて骨抜きにされ、淫魔のツテでこの街のレジスタンス活動をすることになったのだとか。

対して僕らは、街を出ることになってしまった。
あの女騎士を倒したのが悪かったのか、指名手配されていた。人相書きは鎧のアルマ、名前はその鎧を引き取った店主である僕だったのだ。

【捕まえたら、教団騎士グレーテルまで連行すること。要生け捕り。傷つけた場合は減額。殺した場合、報告者は死刑の為注意すること。】

「こんな注意書き初めて見た。生け捕りって何されるんだろう僕。」

(・・・惚れましたね、あの女。)

「あんなので惚れる女なんていないでしょ。」

(存外いるものですよ。私みたいに。)

照れながら彼女が言う。鎧を着ていると一心同体のはずなのだが、男と女じゃ絶対に判らないこともある様だ。
でも、少しぐらい判らないところがあってもいい気がする。そのデリケートなところを触れ合うのが、愛し愛されるということなんだろう。

街を出て、丘を登って少し離れた僕の故郷を見る。

「冒険者か。なってみたかったんだよな。男っぽくてカッコよくてさ。」

(前も聴きましたよ。それに、今はもう道具屋じゃないので。既に冒険者です。)

「そうだった。それじゃあアルマ、何処へ行こう?」

(手始めに、ドラゴニアはどうでしょう?あそこは剣豪のリザードマンが多い場所。男らしくなりたいなら、あそこでしょうね。)

「ドラゴンの国か。聴いたことあるけど、僕には御伽噺の世界だ。」

(男の子って、剣とか大好きですから、気に入ると思いますよ。)

「それは楽しみだ。じゃあ行こうか!」

(方角が逆ですよ。)

「先に言ってよ。」

(・・・ウフフ)

「アハハ!」

僕達は平原を駆け抜けていった。
18/01/03 22:34更新 / 鳥のヅョン
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■作者メッセージ
メインタイトルで一部の人は気づいたかな?タイタンフォールスタンバイ!
リビングアーマーちゃんの設定上、MGSのSOPやTFのニューラルリンク、ACfAのAMSに近いものがあるので、凄く可能性のある子だと思う。
折角中世だし、鎧着るならある程度バトルも欲しいよなぁなんて思って書いてたら、思ったより分量が増えてしまって連載の前後半という形で一括投稿に。
前半部分は1時間で描き終わったんだけど、バトルのある後半はアサシンクリード的な要素を入れたりしてスッゴイ手間がかかってしまった。
でもエロもバトルもフィナーレも自分の思った通りにかけたので、書いてて一番楽しかったです。

でも男用の触手甲冑ってなんか嫌な響きだよね・・・

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