連載小説
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激レース!主任vs課長補佐(エロあり・ラブコメ)
おことわり
作中にて一文だけですが、ドッペルゲンガーの能力の独自解釈の描写が含まれます。
予めご了承ください。

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「溝呂木、障害物リレー出てくれないか…アンカーで。」
上司の頼みに対して、きょとんとした表情だった諌の顔が仏頂面を経由し、般若のようなしかめっ面へとゆっくりと、しかし確実でシームレスに変わった。

澤井フーズの全ての部署が一堂に会して行うレクリエーション大会、開催を翌月に控えて諌も出場と回答していた。
体を動かす競技、技術を競う競技、頭脳を働かせる競技…本来なら同じ日・同じ会場では到底できないような競技を、魔法・魔力とVR・ARを組み合わせた技術をフルに活用した屋内スタジアムで行う会社行事である。
花形競技とも言える最終競技の障害物リレーは本社と各支社・営業所ごとに4人の2チームが選ばれ、走者ごとに走る距離もトラックも変わる特殊リレー。
そのアンカーは最も距離の長い1000m、それも過酷なオフロード区間を走る事になる事から心身の負担も凄まじい。

「理由を教えてください。
こっちは早押しクイズとボルダリングとラリークロスに出るんですよ?」
「アンカー区間には人間にハンデが与えられている、そこに下手な魔物より身体能力の高いお前を投入する。」
何か歯に物が挟まったような口調、真の目的があると本能的に気付いた。

「Aチームのアンカーが営業の湊課長補佐、恋人同士の決戦なんて燃えるだろ?」
興奮気味に答える上司に冷めた目線で返して断ろうとした諌、不意に携帯に通知音。
メッセージアプリからの新着通知は凪からであった。
大きくため息、そして10秒近い沈黙。

「……分かりました、出ます。」

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迎えたレクリエーション大会当日。
ラリークロス競技を終えた諌は、如月支社用に当てがわれた男子控え室で汗まみれになったTシャツを着替えていた。
重量で不利になってでも唯一四駆に拘った諌、舗装されていないグラベルでの圧倒的な安定感を武器に、トップとはテイル・トゥ・ノーズでの2位。
VRであればどんなに派手にクラッシュしても身体的・経済的ダメージが無いからこそ、思い切ってアクセルを踏み続けた結果の賜物であった。

ボルダリング競技は本社のカク猿やアマゾネスといった優勝候補の種族を相手に5位と善戦、早押しクイズでは即答が難しい問題をあえて捨てる大胆な作戦で他を圧倒しての優勝。
午前中で競技は終わり、最終競技まで長い休息の時間が与えられた。

正午の時報、ちょうど腹の虫も鳴き始めている。
食事に行こうと控え室の扉を開けた時、ジムカーナ競技を終えた凪と出会い頭で会った。
誰でも手軽に運転できるオートマ車が9割以上を占め、変速機すら無い電動車も増えつつある今日この頃、諌や凪のようにマニュアル車を運転できる若手は少ない。

「リレー、負けませんから…。」
「手加減するつもりはありません。」
もしリレーで勝ったら、ご褒美に諌は凪にいじめてもらうか竿かリールを買ってもらう、凪は欲しいゲームソフトか食べたいものを好きなだけ買ってもらえる、という条件を提示されている、お互い何が何でも負けたくない。

凪と諌の宣戦布告、どちらも険しい顔で向かい合う。
もっとも、凪は服の間からちらちら覗かせる諌の筋肉に、諌は凪の汗でしっとりと濡れ湿った柔肌に対して欲情しないよう必死に取り繕っているのが本心ではあったが…。

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いよいよ最終競技の障害物リレー、12人のランナーがスタートラインに立った。

この時点で総合順位は1位の本社と2位の如月支社がほぼ横並び、3位の河沿支社もリレーの成績次第では逆転三連覇の可能性を残している。

ドライ素材のTシャツにハーフパンツという身軽な姿に履き替えた諌、ラムネを幾つか口に流し込んで奥歯で擦り潰し、スポーツドリンクで溶かして飲み下す。
ほぼ同時に号砲が鳴り響いた。

「溝呂木主任、何履いてるんすか?」
「地下足袋。」
本社経理部の雷獣、朔田菓が諌の足元に気が付いた。
コハゼと呼ばれる留め金ではなく、面ファスナーで固定するタイプの地下足袋。
普段は渓流釣りや夏場の船釣りなどで履いている。
軽登山や堤防の釣りで履くトレイルランニング用のシューズより軽い、それが選択理由であった。

どんどんバトンが繋がれる…そしてアンカー前の第6走者、着地禁止の空中区間は戦闘機のドッグファイトのような動きで空中に設けられたハードルを潜ってゆく。

来る。
来る。
来る。

凪は走り出してバトンを受け取った。

6秒遅れて走り出す。

「イサミン先輩いいいいい!」
テイクオーバーゾーンの終端付近でワイバーンの日比野小夜子が強襲を掛けるかの如く急降下、諌は怯まず足の鉤爪で握られたバトンをしっかりと受け取った。

「後は任せましたあああああ!」
勢い余って床のクッションの隙間に脚が突き刺さった小夜子、間抜けな体勢なのもお構い無しに諌に声援を送る。

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はっきりと捉えた凪の背中が遠く感じる。
元から遅れていた上、バトンの受け渡しの戦術ミスでスタート時点でトータル10秒の遅れが生じていた。

最初の300mは岩場区間、地下足袋の底の柔らかい天然ゴムのグリップ力と人間という事で与えられたハンデを武器に最速タイムを叩き出した。
今走っているのは350mあるサバンナ区間、絶妙に不安定な赤土の大地を駆け、張り出した木を潜り抜ける必要がある。
そこは影の種族たるドッペルゲンガー、影の中に隠れる特技を使って潜り抜ける芸当を見せ付ける凪。
そんな離れ業を持ってるはずもない諌、いちいち屈んで潜って体勢を整えて…となると時間が掛かってどんどん不利になる。

『こうなれば…』
全速力で走ったまま左脚を畳み、右足を伸ばして身体をまっすぐ滑らせて木の下を滑り抜ける、土煙をぶちまけながらプロ野球選手顔負けのストレートスライディング。
室内戦のサバイバルゲームでやることは多いが、VRとはいえ土の上でやるのは初めて。
怪我のリスクを考えれば当然、危険な賭け。
それでも殆どタイムロスの無いスライディングは勝負を変える力もある。
凪が影に飛び込み、影から出てくる時の僅かなタイムラグを捉え、どんどん距離を詰め、ほぼ横並びでサバンナ区間を抜け出す。

最後は250mの積雪区間、吹き荒ぶ地吹雪、刺すような寒さ、うず高く積もった雪が立ち塞がる。
真っ白な絶望、それを前に諌は不敵にほくそ笑んだ。

このリレーのアンカーが走るオフロード区間、人間は魔物やインキュバスに対してハンデが与えられている。
それでも不利な勝負、戦略上人間がアンカーを務めることは殆どない。
魔物に迫る膂力を誇る諌だからこそ、

寒さに苦戦するリザードマンやアポピス、ドラゴニュートといった爬虫類型の魔物を追い越し、膝下まで積もった雪を少し早歩きで踏み抜き蹴り飛ばし、太ももの辺りまで積もった雪に手こずる凪目掛けて悠々と前に進む。
そして諌の出身地、春野県日池町は国指定の特別豪雪地帯、この程度の雪は見慣れた…否、見飽きた程には経験している。

半分を少し過ぎたあたりで凪に追い付き、一気に追い越す。
一抜けで最後の100m、砂利道のホームストレートは諌のウイニングロードとなり、雄叫びを上げながらゴールテープを切った。

最終競技の障害物リレーは諌と凪のワンツーフィニッシュで幕切れ、如月支社は9年ぶりの戴冠となった。

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「あれ、MVPの溝呂木さんは?」
「イサミンさんとナギ課長は帰ったよ、最後のデッドヒートでダウンしたんでしょ。」
打ち上げの会場、英雄不在のなかでも如月支社のメンバーは盛り上がっていた。

時を同じくして諌と凪の自宅

「んっ…ふぅ…こんなのがお望みだったんですか…?」
嗜虐的な笑みを浮かべ、Tシャツを着たままシャワーも浴びず汗だくで諌に覆い被さる、四肢でしがみ付く所謂『だいしゅきホールド』で諌に逃げる隙を与えない。
そんな凪の胸に顔を埋め、甘ったるい汗の匂いを肺いっぱいに吸い込みながら、凪に屈服・蹂躙・捕食される快楽と喜びと幸せで思考はオーバーフロー状態になっている。

「もっと…めちゃくちゃに…して…下さいいいいい…」
「いいですよ、このままいっぱいいじめてあげます…ご褒美ですからね♪」
ふたりの交わる姿、下の口が諌の陰茎を呑み込み離さないところ、さながら凪という獰猛な肉食魚が諌という獲物を咥え込み捕食するかのよう。
激しく腰を振ったり身体を打ち付けるような事はせず、あくまでゆったりまったりと、じわじわと真綿で首を絞めるように、諌を快楽の鎖で縛り上げ搾り上げる。
子宮口が下りてきて亀頭を包み込み、ちゅうちゅうと吸い立てはじめた。

「おおぉぉぉ…吸われる…いいぃ…全部吸って…」
容赦も躊躇もなく叩き込まれる快楽、当然ながらあっさりと絶頂を迎え、たっぷりと精を吐き出す。
子宮口に吸い付かれてから絶頂を迎えるまでよりも、射精している時間の方がずっと長い…当然ながらその間ずっと精を気持ち良く吸い取られている。

「はい、ごちそうさま。
まだまだいっぱい食べてあげますね♪」
幸せすぎる地獄の宣告とこれから始まる甘い恐怖、蕩け切った諌は優しい笑顔を浮かべる処刑人にしがみ付いた。

「あうぅ…早く食べて…もっといじめてぇ…」

じゃあ、いただきます♡

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「…お腹空きました。」
「日中散々戦って、その後の『延長戦』…夕飯作ったり食器を洗う気力は無いですね。」
並の人間や魔物なら日中のレクリエーション大会でも疲労困憊、当然凪も完全にガス欠状態である。
時計の時針はまもなくてっぺんに到達しようとする時刻。

「ラーメン or ハンバーガー?」
「チャーシューたっぷり、辛味噌激辛大盛り食べたいです。」
凪のリクエストしたラーメン屋まで車で10分、24時間営業だから時間は気にしなくて済む。
出る前にシャワーを浴びたい、散々搾り取られて少しだるい足腰を無理やり伸ばし、身体を一気に引っ張り起こした。
25/07/01 07:20更新 / 山本大輔
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■作者メッセージ
次回予告
凪が誘拐された!?
犯人の正体と目的はいったい、そして諌との衝突の行方は…
次回『糸の美女』、お楽しみに。

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ご一読、ありがとうございます。
早速謝罪させてください、前回予告時点でタイトル間違えました。
凪の役職、課長補佐なのになんだよ課長代理って…後で向こうも訂正します。

今回、さらっと独自要素として凪が『影の中に隠れる』というものを入れましたが、これには元ネタがあります。
ある特撮作品の主人公の相棒の宇宙人の能力がモデルです。
主人公に寄り添い、時には一緒にバカなこともして、時には悩める主人公に声をかけて導く、凪のモデルのひとりです(男性キャラですが)。

さて、ぼちぼち弩シリアスパートぶち込む用意しようかな…とも考えてます。
次回もまたご一読いただけると幸いです。

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