Epilogue
2月中旬の朝、遮光カーテン越しに少し高いところから陽の光が差し込む。
部屋の中はすこぶる寒いだろう、水道管の水抜きをしておいて正解だった。
それでも布団の中は暖かい。
昨日も夜更けまで新製品のテストをしていた、まだ眠気が心地よい。
あの日以降、一気に2人の仲は急接近、一馬のイサキチューニングデザインと由美のクロップワークスは合併してひとつの会社の事業部となった。
今では婚約者となって工房付きの新居を建てて同棲している。
寝る時はいつも、由美に抱き枕代わりとして包まれるように抱かれている。
おかげでこちらは由美に包まれるようになり、むっちりと柔らかい身体を毎晩これでもかと堪能している。
「ん…もう朝…?」
由美がゆっくりと体を起こす。
眠い目を擦りながら腕を伸ばし…
「いつまで寝てるんですかこのリア充!
とっくに雑誌の取材で記者の方来てるんですよ!?」
寝室のドアを蹴破りそうな勢いで開け、ひとりのサハギンが怒鳴り込んできた。
「ぅあぁ…紗栄子さん、おはようございますぅ…」
「おはようございますぅ…じゃあないんですよまったく!」
寝起きの由美へ容赦なくがみがみと説教を喰らわせているサハギンは鈴木紗栄子、ふたりの会社の社長として経営を一手に背負っている。
紗栄子は少し呆れた様子で溜め息をついて寝室を離れた。。
「クロップデザインの鈴木です。
すいません、ふたりともゆうべも遅くまでプロトのテストをしていたので…。」
紗栄子は椅子に座る釣り雑誌の記者に深々と頭を下げた。
「やっぱり話題の新作ロッド、気合入ってますね…。」
『ルアープレス』と書かれた腕章を付けた記者、梶城一番が期待を顔に出しながら手帳にメモを取り始めた。
手渡されたロッドはあの日振っていたロッドの製品版最終プロト、品名は初めて量産化されたジェット機から取って『ミーティア』と付けられた。
製品化に伴って少しデザインは変わったが、コンセプトや性能はほぼそのままの形で製品となった。
「このミーティアのファーストプロトの初投入で釣ったのがあの115cmのシーバス…すごいですね。」
黒鉄色の魚体が映った写真、ロッドの性能を物語り釣り人の心を惹きつけるのに十分なインパクトを持っていた。
今までずっとベイトロッド一筋だったクロップワークスのスピニングロッド初投入の報は、ちょっとした衝撃と警戒感を持って受け入れられた。
「キャスト性能や操作性、感度もそうなんですけど、魚を掛けてからが真骨頂です。
どんな大きな魚でもじわじわと体力を奪い、気づいた時には追い詰める…そんなロッドなんです。」
一番が色々な角度から写真を撮り、紗栄子は自信満々にロッドの特徴を話す。
「まるで魚の立場になったような説明、分かりやすいです。」
「この竿と戦ってますからね…この魚、私なんです。」
勝ち誇ったような自信たっぷりの顔で、薄い胸を張る紗栄子。
長い事生きてきたシーバスはあの夜、一馬との決戦で命が燃え尽き静かに死を受け入れるはずだった――そこで色々な奇跡が起きて魔物となり、今では名目上ふたりの上司として働いている。
その話を目を輝かせながら書きとる一番。
着替えを終えた一馬と由美が寝室から応接室へやってきた。
その後、ふたりが結ばれる事になるのはまた別の話。
部屋の中はすこぶる寒いだろう、水道管の水抜きをしておいて正解だった。
それでも布団の中は暖かい。
昨日も夜更けまで新製品のテストをしていた、まだ眠気が心地よい。
あの日以降、一気に2人の仲は急接近、一馬のイサキチューニングデザインと由美のクロップワークスは合併してひとつの会社の事業部となった。
今では婚約者となって工房付きの新居を建てて同棲している。
寝る時はいつも、由美に抱き枕代わりとして包まれるように抱かれている。
おかげでこちらは由美に包まれるようになり、むっちりと柔らかい身体を毎晩これでもかと堪能している。
「ん…もう朝…?」
由美がゆっくりと体を起こす。
眠い目を擦りながら腕を伸ばし…
「いつまで寝てるんですかこのリア充!
とっくに雑誌の取材で記者の方来てるんですよ!?」
寝室のドアを蹴破りそうな勢いで開け、ひとりのサハギンが怒鳴り込んできた。
「ぅあぁ…紗栄子さん、おはようございますぅ…」
「おはようございますぅ…じゃあないんですよまったく!」
寝起きの由美へ容赦なくがみがみと説教を喰らわせているサハギンは鈴木紗栄子、ふたりの会社の社長として経営を一手に背負っている。
紗栄子は少し呆れた様子で溜め息をついて寝室を離れた。。
「クロップデザインの鈴木です。
すいません、ふたりともゆうべも遅くまでプロトのテストをしていたので…。」
紗栄子は椅子に座る釣り雑誌の記者に深々と頭を下げた。
「やっぱり話題の新作ロッド、気合入ってますね…。」
『ルアープレス』と書かれた腕章を付けた記者、梶城一番が期待を顔に出しながら手帳にメモを取り始めた。
手渡されたロッドはあの日振っていたロッドの製品版最終プロト、品名は初めて量産化されたジェット機から取って『ミーティア』と付けられた。
製品化に伴って少しデザインは変わったが、コンセプトや性能はほぼそのままの形で製品となった。
「このミーティアのファーストプロトの初投入で釣ったのがあの115cmのシーバス…すごいですね。」
黒鉄色の魚体が映った写真、ロッドの性能を物語り釣り人の心を惹きつけるのに十分なインパクトを持っていた。
今までずっとベイトロッド一筋だったクロップワークスのスピニングロッド初投入の報は、ちょっとした衝撃と警戒感を持って受け入れられた。
「キャスト性能や操作性、感度もそうなんですけど、魚を掛けてからが真骨頂です。
どんな大きな魚でもじわじわと体力を奪い、気づいた時には追い詰める…そんなロッドなんです。」
一番が色々な角度から写真を撮り、紗栄子は自信満々にロッドの特徴を話す。
「まるで魚の立場になったような説明、分かりやすいです。」
「この竿と戦ってますからね…この魚、私なんです。」
勝ち誇ったような自信たっぷりの顔で、薄い胸を張る紗栄子。
長い事生きてきたシーバスはあの夜、一馬との決戦で命が燃え尽き静かに死を受け入れるはずだった――そこで色々な奇跡が起きて魔物となり、今では名目上ふたりの上司として働いている。
その話を目を輝かせながら書きとる一番。
着替えを終えた一馬と由美が寝室から応接室へやってきた。
その後、ふたりが結ばれる事になるのはまた別の話。
25/02/12 12:47更新 / 山本大輔
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