連載小説
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Phase.2:実家・啓介の場合
『ただいま。』
中原県川郷町、平野部には田んぼと小高い丘には葡萄畑がまるで二次元コードのように連なるのどかな田舎町。
啓介は実家のドアを少し乱雑に開けた。

「おうお帰り啓介…おや、恵ちゃんも久しぶりだね。」
啓介の父、光太郎が玄関に出てきた。
息子が恋人を連れてくると電話を受け、少し小綺麗な格好をしていた。

「それで…会わせたい人はどこにいるんだね?」
真剣な面持ちで啓介の顔を覗き込む光太郎、車の中も見るがもぬけの殻。

「だから会わせてるじゃん。」
「いや…恵ちゃんしかいないじゃないか。」
「何で分かんねえんだよ…だ!か!ら!メグが俺の彼女なんだよ!』
「……………………とりあえず、入るか。」

―――――――――――――――――――――――――――

「恵ちゃんはいつものカフェオレで良かったかしら?」
啓介の母、杏子が恵に砂糖たっぷりのカフェオレの入ったマグカップを置いた。
当真邸に恵が来ると必ず、オレンジ色のマグカップにカフェオレを入れて出す…20年以上続いていたルーティンである。

「俺とメグが同じ職場なのは知ってるんだろうけど…」
ふたりがその事を知ってるのは当然、裏切り者に騙されて仕事も恋人も車も貯金も全て喪って抜け殻のようになっていた啓介を、人手不足だからと半ば拉致同然に今のマックスITソリューションズに連れ込んだのが恵である。
結局、典型的なブラック企業だった前職とは桁違いの給与で思い切り実力を発揮できるようになり、挙句恵と恋人になるという結果になった訳である。

「惚れた人に恋人ができた失恋のショックでヤケクソになったメグに呼び付けられて、そのまま酒の勢いで…」
息子が話を終える前に光太郎は啓介に飛び掛かった。

「お前、それで恵ちゃんに乱暴したのか…許さん!
小石川さんに何て言えば良いんだ…!」
啓介の頭を掴み、まるで強盗を現行犯逮捕するかの如くテーブルに上半身を押さえつける。
光太郎に掴まれているシャツの布地の繊維からぎちぎちと悲鳴が響く。

「このバカ息子が申し訳ない!
こうなったら警察に自首させるし、私も議員辞職する!
一生かけて償うし、求めるならこの場でこいつを殺しても…それで許されるとは思わないが…!」
光太郎が恵に土下座をする、後悔と謝罪の涙を溢しながら何度も・何度も頭を床に打ち付ける。

「あの…頭を上げてください…話逆です。
私の方から襲いました。
三人から目を逸らし、せわしなく指をくるくるさせながら、恋人の無実と自分の犯行を打ち明けた。
光太郎が鳩が豆鉄砲を食ったような顔になるのに五秒も掛からなかった一方、杏子はなるほど…と妙に納得したような顔になっていた。

「信じられない、あの小石川さんのお嬢さんがこんなに積極的とは…」
「まあ、淫魔ですから…あの堅物の母だって、今も夜な夜な父と組んず解れつ乳繰り合ってますよ。
そのうち妹が産まれるかもですね。」
自ら言っておきながら、恵は小さく溜め息をついて右手で頭を押さえた。
もしかするとその妹は、生まれながらに年上の姪をもつ叔母にもなるやもしれない。
実際、恵の母方に大学受験を来年に控えた叔母がいる。
とはいえ、腹は据わった…あとは宣戦布告といこう。

「私の愛は本気・本物です。
死がふたりを分つまで、なんて中途半端な逃げの言葉は言わないです、冥界にカチコミ掛けて地獄の果てまでもどこまでも徹底的に添い遂げます。
伊達に川郷の魔王の娘やってる訳じゃありません。
そう啖呵を切ると、マグカップを鷲掴みにしてカフェオレを一気に飲み干した。
幼い頃から飲んでいた味、甘い、甘ったるい、懐かしい、優しい。
幼い頃から隣にいるのが当たり前だった存在、まるで家族のように触れ合ってた存在、そうか…そう遠くないうちに本当の家族になるんだ。

「先のことはもう少し落ち着いて考えて、いまは小石川姓の日々を思いっきり楽しみなさい。
さっきお隣の小場さんから打ちたての新蕎麦を貰ったからお昼にしましょう。
えび天とかき揚げもたっぷり揚げるから、恵ちゃんも食べてきなさいな。」
嬉しそうに息子と娘へ食事を振る舞う準備をする杏子、啓介と恵は顔を見合わせた。

啓介は朝食後にエナジードリンク半分とコーヒーしか飲んでいない、一方の恵の胃袋にはカレーパンと中華まんとソフトクリームが居座っている。

啓介は諦めろと言わんばかりに恵の方に手をやり、大きく頷いた。
台所からとんとんとん、と玉ねぎを切る小気味良い音が響き始めた。
24/12/10 23:10更新 / 山本大輔
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■作者メッセージ
ご一読、ありがとうございます。
ここ最近全っ然釣りに行けてません、なんで船を予約した日にピンポイントで風が吹き荒れるんでしょうね。
このままの調子だと10月末の釣行が釣り納めという超異例の年越しになりそう。
クリスマス?夫婦揃って仕事じゃい!(涙)

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