05 あがる息、流れる汗、そんなことより漕げよ青年
メリィはゾーネの話を少しのあいだ聞いていると、何かを深く考え込み始めたんだ……
何を考えているのか、俺には検討もつかないが……さっきから嫌なことが起こりそうな……そんな予感だけははっきりとするんだよな
頼むから……断ってくれよ……?
俺は心の底でそう願いつつ、事の成り行きを干し肉をかじりながら見守っていたんだ……
そうしていると、不意にメリィが顔をあげる……
メ「……まぁ、確かに…常に宿が取れる状態にあるというのは、旅においては物凄く大きな利点……でも、肝心なのは速度と安全性……その変形とやらを行って、周りに迷惑はかからないの?ほかの家をなぎ倒しながら移動するとかは絶対に許可できないわよ?」
ゾ「大丈夫じゃ……前回の反省点をしっかりと組み込んでおいたのじゃ……そうだなぁ……近代的な言い方をすると……「あんしんぶれぇきさぽーと」とやらじゃな!!危険を察知したら、即座に止まる仕組みになっているのじゃっ!」
メ「……へぇー…私、機械はどうも苦手だから……よくわからないけど、安全面は大丈夫って事でいいのかしら?」
ス「あぁっ!!師匠の発明に間違いはないぜっ!!」
………もはや、何も語るまい………
語るまい…かたる………
……………
デ「また勝手にそんな変な物をっ!!うちは宿屋なんだよっ!?もっと宿屋経営に役立つような…そんなことをしてくれたらいいじゃないかっ!!」
ゾ「風呂作ったじゃろ?それに、困ったら言ってくれたら、すぐに直してやるのじゃ……世話になってるからなぁ、それぐらいはするぞ?」
………ほ、本当かよ……
メ「……速度はどうなのかしら?」
ゾ「それは、デメトリオ次第じゃな……他にも、体力がある者が数人いれば、さらに早くはなるのじゃが……」
メ「体力……うーむ…ついてきてくれるラグーンメンバーの中で、体力があるのは……アイネとラオの二人ぐらいかしら……彼女たちとデメトリオをいれると、どれぐらいの速度で旅が出来るのかしら?」
ゾ「そうじゃな……ミスト山脈の登山口入口まではいけるじゃろうな」
メ「ふむ……私が単独で飛んでいくとしたなら、半日かかる場所に一日……でも、この大人数でその速度で進めるのは、断然早いわね…その方法で行きましょう」
め、メリィっ!?本気かっ……?
あ、あの目は本気だよ…畜生、嫌な予感が見事に的中しやがった……
どうして宝くじとかは一度も当たらないのに、こんな嫌な予感とかはピンポイントで当たったりするんだろうね…まったくっ!!
メ「さて……そうと決まれば……グロリア家のお嬢さん?私たち、今からちょっと旅にいかないといけないの……悪いけれど、お風呂はまたこんどにしてくれるかしら?」
セ「た、旅って……そんな……わ、私も………ついていく……!!」
メイド「お、お嬢様っ!?そのような事を申しては、奥様に怒られてしまいます!!」
セ「………でも………でも……!!」
メ「……ついて…行きたいのかしら?言っておくけれど、この旅は決して生易しいものではないわよ?宿の心配はしなくてもいいかもしれないけれど、旅は常に何かの危険をはらんでいるの、怪我をすることだってある、命を落としてしまう時だってあるの。覚悟がなくてそのようなことを言っているのなら、やめておいたほうが賢明だと思うわよ?」
セ「………覚悟なら……デメさんといられるなら……どこでも……」
メ「(この子も、デメトリオのこと……サリィの恋敵になるような子を連れて行ってもいいのかしら…?それは二人が決着をつける問題で、私が横槍を入れるのは野暮というもの……か……)」
メイド「お嬢様……ここは潔く諦めて……」
セ「………やだ……サフランも一緒についてきてくれたら……お母様も…」
サフ「……お嬢様…仕方がありません、ついて行かせていただきます……ですが、私はあくまでメイド……パーフェクトメイドという称号はいただけましたが、人間の身である以上、戦闘はできません…いいですね?」
セ「大丈夫………自分の身とあなた……そしてデメさんは……私が……守る」
メ「決まったようね………」
え、えぇっ!?そ、それでいいのかサフランさんっ!!
セムちゃんを少し甘やかし過ぎな気が……って、そんなことよりっ!!
俺も人間だからねっ!?宿屋店主だから、戦闘なんてできないからねっ!?
………あー…まぁ、メリィにはそれを伝えなくても、わかってくれてるだろうからいいかな
しっかし……セムちゃんって、あんなに強引だったんだな……
ま、まぁ…お嬢様ってのは外の世界に憧れている部分があるって聞いたことあるしな
別に変でも…ないか
メ「さぁ、それでは改めて、出発しましょう………っと、その前に……これから旅をするにあたって、婿探しついでに旅に同伴してくれる我がモンスターラグーンのメンバーの自己紹介をしてもらうわ……面倒かもしれないけれど、真面目に聞くように!!特にデメトリオ……あなたよ?」
そ、そんな人があたかも話を聞かないように言ってさぁ!?
お、俺だって……話ぐらい聞くさ!!
覚えてないことは多いけどな!!
デ「わ、わかったよ……」
?「まずは、私から自己紹介と行こう……私はアイネ・ハルムーンだ。モンスターラグーンとしての活動と共に、普段はフェルス城の近衛兵の部隊長を務めさせていただいている。といっても、【元】部隊長で、今は後任の者に座を譲り、夫探しついでに参加させて頂いた……よろしく頼む、デュラハンという種族上、ごくまれに首が取れて、恥ずかしいところを見せるかもしれないが、それは多めにみてほしい」
?「ラオ=ファンだ。種族は火鼠、モンスターラグーンには、強者との戦いのために加入した。手合わせならいつでも大歓迎だ、あとトレーニングにも付き合うので、気兼ねなく誘ってくれ」
ふむふむ……見た感じ、ふたりは戦闘要員って感じだなぁ……
二人共真面目そうだ……ゾーネやスカニとは真逆のタイプだね
?「わたしはクロッソ……クロッソ=アーキマン、マインドフレイアよ?マインドフレイアって聞いても…ピンとこないでしょう?うふふふっ……ねぇ、そこのあなた…」
デ「へっ?ぼ、僕ですか?」
ク「えぇ…あなたはどうして、こんなに大勢の魔物娘の前で、欲情しないのかしら?それは強靭な精神力をもっているから?そ・れ・と・も……ふふふふっ…ちょっと頭を見せてもらってもいいかしらぁ?」
メ「ダメよ、クロッソ?」
ク「はぁい……そうそう…とある人の言葉なんだけど…有名だから、聞いたことあるかなぁ…?『こちらが深淵を覗いているとき…深淵もこちらを覗いているのだ』って…あぁ、気にしなくていいわぁ……深い意味はないから」
なんだろう……クロッソって人に見られるだけで、体が危険信号を発しているような気分になる……
あと一人……けっこう少人数なんだなぁ……なんて
?「……マサヒメ……得意なのは料理です……大百足です……あっ…もしかして、地味なやつだなって思いました…?……大丈夫です…なれてますから…」
メ「マサヒメは少しだけ精神面が不安定なところがあるのだけれど、そこはみんなでフォローしてあげて欲しい……さてと、自己紹介も終わったし…そろそろ出発しましょうか」
メリィがそういうと、ゾーネが早速ウキウキをしながら、出発の準備を始める……
これから先、どんな旅が待っているんだろうか……?
……俺は無事に、フェルス興国に戻れるんだろうな……?
なんて、マイナスなことばっかり考えてしまうけど、心の中でどうにかなるだろうって思っている俺もいるんだよなぁ……
まぁ、なるようになるかぁ……
ゾ「お待たせしたのじゃっ!!では……起動っ!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
デ「な……なんだっ!?この音は……!?」
外の音が気になり、宿屋の窓から外を見てみると………こ、これはっ!?
俺の視界には、それはそれは大きなタイヤが見えたんだった……
って、これなんだよっ!?よくみたら……お、俺の宿屋につながってやがる…
ゆっくりと後ろを振り向くと、ゾーネがなにやら変なものを3台……ロビーの真ん中に備え付けていたところだった……
あの変なタイヤが二つ付いた乗り物は…一体何だっ!?
ゾ「これで……よしっと……待たせたのう……これこそが、儂の新発明……サイクロイドジェネレーTERじゃっ!!これを使えば、移動しながら体を鍛えることもできて、一石二鳥!!さぁ、ようは試しっ!!試運転してみるのだっ!!」
ア「……体を鍛える?面白そうだ……体を引き締めるのに適した機械ならば、大歓迎なのだが……どう使うのだ?」
ゾ「そこの三角系の椅子部分に座って、ひたすらにそこのペダルを動かし続けるのじゃっ!!」
ラ「ふむ……地味だな…これで体が鍛えられるとは到底思えんが……試してみるか」
デ「うっはぁ……よくもあんな意味がわからない機械に乗ろうなんて思うなぁ……」
メ「……あなたも乗るのよ?」
デ「えぇー?ぼ、僕もですかぁ?……やだなぁ……ほかの人に任せてほし…」
ゾ「あぁ、あそこにあるのはデメトリオ専用じゃからな、お主しか乗れないように設定してあるのじゃ」
……こ、こんの……迷惑発明家がぁ………
なんて思いつつ、俺は部屋にいる全員から早くやれと言われているような…そんな視線を感じて、しぶしぶゾーネの作った胡散臭い発明の上に跨った
えっと、これをひたすら動かし続ければいいのか……?
デ「よいしょっ……よいしょっ……」
ギギギッ……
っ!?お、おも…いぃ……
そう思いながら、隣を見る俺……
ア「はっ…はっ…ほう、これはなかなか、いい運動になりそうだ…」
ラ「だが、少々軽いぞ?この程度ではすぐに飽きるな」
…………えっ…えぇっ!?
おいおい……嘘だろ……?なんであんなにものすごい速度で動かせるんだ?
いや……もしかしたら、勢いに乗れば…俺もあれぐらい行けるのかも……
よっし……宿屋店主の本気を見せてやろうじゃないかっ!!
デ「ふんぬぅっ!!ぬおぉぉぉっ!!ていやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ギィ……ゴ………
デ「まだまだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ギィ……ゴ……
デ「ひぃ…ふぅ……ま…だ…まだぁぁぁ……」
ゾ「おっ?電力がタイヤ部分まで回ったみたいだ……いよいよ動くぞっ!!」
メ「思ったより、凄い速度ね……もう、フェルス興国を出るわよ?」
そ、そうなのか……?くそっ……外が見えないからどうなっているのか、わからないぜ……
ア「よし、これから1時間ごとに、20分のクールタイムを挟みつつ移動するとしよう……無理な運動は、いい体作りに適しているというわけではないのだからな?」
デ「ひぃっ…ふぅっ…ぜぇっ……い、一時間っ!?そんなの無理だって!!せめて半分っ!!半分の30分おきに休憩を……」
ラ「軽い、軽すぎるっ!!こんなものでは鍛錬にもならんっ!!」
ゾ「それなら、こっちの発電機につなぎかえるのじゃ!!」
ス「でも師匠、そっちって確か、通常の5倍ぐらいは力と体力が必要だったような……」
ラ「五倍か?それがちょうどいいかもしれんな、そっちにしてくれ」
こ、このしんどい装置をさらにしんどくする…だと…?
し、正気とは思えない……こ、これが…魔物娘の凄さか……
俺は正直、ここに種族の壁を感じ取ったね……
ゾ「よし、終わったのじゃ……」
ラ「……ぐっ…ほぅ?これは……良いではないか……」
そんなことを言いながら、俺より早い速度で装置を動かすラオ……
これ、俺…こんなしんどい思いしなくてもいいんじゃ……
セ「………大丈夫……ですか…?」
デ「ふぇ?あ、あぁ……こ、これぐらい…ひぃっ…ふぅっ…楽勝だよ…」
セ「………………(パンパン【手を叩く音】)」
サフ「はっ……ここに…タオルでございます」
セ「……これを…使ってください……」
そう言って、セムちゃんは俺にタオルと水を用意してくれたんだよ!
や、やさしい……すごく優しいじゃないかセムちゃん!!
メリィなんて、窓際で既に、我関せずって感じで本読んでるってのに……
そういえば、ほかのラグーンメンバーの姿が見えないな……
一体、何をしているのやら……
-------------------------------------------------
ク「あらぁ?マサヒメちゃんはなにか、悩み事かしらぁ〜?精神カウンセラーなら、いつでもしてあげるわよ?」
マ「……別に、クロッソさんには関係ない用事ですし……本当は私の相手をするのも面倒だとおもっているんでしょう?いいんです…なれてますから……どうせ、私なんて……」
ク「落ち込むことより、笑っておいたほうがいいわよ?たとえ嘘でも、言い切ったら本当になることだってあるのだから……ね?そうだ、今からあなたが何を悩んでいたのか、当ててあげるわ」
マ「えっ……?」
ク「マサヒメちゃんは、おそらくみんなの食事を作ろうとしていたのでしょう?それで、いざキッチンに来て、料理を作ろうとしたところで、全員の好みがわからなくて、迷っていた……自分の好みの味付けにしてもいいのか…?それとも、全員に聞いて回るのか?でも、それは迷惑になるんじゃないのか?なんて、思っていたんじゃないかしらぁ?」
マ「な……んで……それを……」
ク「長いあいだ、相談を聴いたりしていると大体マサヒメちゃんと同じ性格の娘の相談に乗ったりもしているの、だから…わかっちゃうだけなのよ?でも、それはそれっ!マサヒメちゃんはよかれと思って、料理を作ろうとしているのでしょう?だったら、その気持ちを大事にして、とりあえず怖がらないで作ってみること!!いいですかぁ?」
マ「が、頑張り……ます……」
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俺がこの装置を動かし始めて早2時間……
俺は既に、自分がなんでこの装置を動かしているのか……それすらもわからなくなってきていた……
だが、セムちゃんが見せてくれる優しさのおかげで、俺はやめることができなかったんだなぁ……
ゾ「も、もう…ミスト山脈の山道前までついた……じゃと…?」
メ「も、もうっ!?は、早すぎる……これからは、もう少しのんびりしても良さそうね……それに、毎日この装置を使っての移動は……アイネやラオはともかく、デメトリオが持たないわ…」
デ「それな……本当に、俺が持たないよ……どうにかしてくれ……自動で動かせるようにとか、できないの?」
ゾ「そ、それはじゃな……できないこともないが……時間がなぁ……軽く考えても一週間……」
デ「そうか、天才でも無理か……そりゃあ、仕方ないなぁ……ゾーネって、天才らしいけども、無理なこともあるんだなぁ……へぇーー……」
ゾ「なっ……!?わ、わしを馬鹿にするなぁっ!!待っておれっ!!明日には完成させてやるわいっ!!」
ス「その代わり、明日の朝に間に合ったら、デメトリオは一日、これを着てもらうからなっ!!」
スカニはそう言って、謎の緑の袋を取り出してきた……
あの袋の中に、何が入っている……?
こ、怖い……しかし、一週間かかる物を一日でなんて、出来るのか?
どう考えても、やけになってるとしか思えないよな……
ここは、うまく自分の有利になるように事を進めるのが…‥・宿屋店主的にも賢いと思うんだよ!!
それに、俺はこの物語のいわば主人公……つまり、こういった争いには基本的に勝てるっていうのは、目に見えてる…だろ?
デ「じゃあ、もし間に合わなかったら、どうするんだ?」
ス「そんときは、あたいが一日お前の慰みものになってやらあっ!!」
デ「結構です……それ、メリットじゃねぇし……」
ス「なっ!?お、お前っ!!それはそれで失礼なんだぞっ!!わかった!じゃあ、うちの商品、どんな高いものだろうが、ひとつデメトリオにくれてやる!!これで文句ないだろっ!!」
デ「わかった、じゃあ……それで……」
なんてやり取りをしていると、奥の方からマサヒメさんが料理をもって出てくるのが見えたんだ!!
り、料理作ってくれていたのかっ!?こ、こりゃあありがたい!!
ちょうど、いきなり旅に出発させられて、お腹がすいていたんだ………
マ「これ……まずいかもしれませんが……一生懸命……作って……」
デ「ありがとう!!いただくよっ!!」
これは……サラダだろうか?マサヒメさんはああ言ってるけど、正直とても美味しそうな料理に、俺は期待を隠さずにはいられなかった
デ「いただきます……おっ?このソース、いい味出してるね……おいしいよ、ぜひ今度、メニューを教えて欲しいなぁ……これだったら、宿に来てくれたお客さんに出しても喜ばれるだろうし……」
メ「そうね、これは美味しいわ……ありがと、マサヒメ」
マ「は、はいっ!!えへへ………すこし…うれしいです…ね」
セ「(……お、おいしい…私にも…教えてほしいな……)……」
サフ「おいしぃですねっ!!お嬢様っ!!食べ物を食べている時って…最高に至福の一瞬じゃないですか!!こう、それが充実してると……今、まさに生きてるって実感できる……私はそれが料理のいいところだと…今、感じていますっ!!」
と、みんなで料理に舌鼓をうっていると、いきなり宿屋の中に大きな警告音が鳴り響いたんだ
俺は慌てて、持っている皿を机の上に置き、ゾーネに何があったのかを聞いた
デ「ぞ、ゾーネさん?こ、この危険な雰囲気漂う音は一体なんなのでしょうか?」
ゾ「こ、これは……この宿屋の周りに、なにか敵意を持った何かがいるという警告アラームじゃな……もしかしたら、盗賊かなにかと遭遇してしまったのかもしれん……」
ラオ「ほぅ?それなら、ひとつその驚異を除けばいいことだろう」
アイネ「私たちが行こう……あと、デメトリオもついてきてくれ……お前に戦いというものを教えてやる」
デ「け、けっこうです……なんて、言っても聞いてくれないんだろうなぁ…し、仕方ねえっ!!宿屋店主は戦いとはまったくもって無縁だが、少しは戦闘も覚えておかないといけないんだろうな……ってことで、ひとついってやろうじゃないか!!」
??「美味しそうな匂いがするねぇ………」
??「あたいらの縄張りで、勝手なことされちゃあ困るなぁ……」
??「とにかくお腹すいたっ!!我慢なんてできないねっ!!」
声は三人……一体、どんな相手なのか……
そう思いながら、宿屋の入口のドアを開ける……
するとそこには、三人の魔物娘が立っていたんだ!!
右から、デビルバグ、ヴァンプモスキート、ベルゼブブ………ん?
なんだ、ただの虫か……
まぁ、ここはね、ひとつ俺が平和的解決をしてみせよう
デビ「あの建物から、すごくいい匂いがするよねぇ〜……」
デ「お、おいおい、君たち……どうしたんだい?なんだか、凄い敵意を感じるけど……僕の宿屋に……」
デビ「……っ!!あはっ……」
デ「えっ!?ぬわぁっ!?」
な、何が……起こった?
気が付くと俺は、デビルバグに倒され、馬乗りにされていたんだよ!!
ヴァ「あはっ…男まで手に入るなんて、最高にラッキーじゃないか!早速、メンバーの間で、輪姦そうぜ」
ベ「お腹も空いたんだけどねぇ〜あの家も襲ってしまおうぜ」
くぅっ…な、なんだこれ……!?いや、本気で、何だよこの状況!?
お、俺がフェルス興国にいたときは、魔物娘がここまで強引に襲ってきたことはないっていうのに…!?
ど、ど、どういうことだ?
メ「デメトリオっ!!」
メリィがそう言いながら、滑空して俺の上に馬乗りになっているデビルバグをタックルで押しのけ、そのままの勢いで俺を足でつかみあげる
デ「あいたたたたっ!!ちょ、ちょっとメリィさん、痛いですって!!」
メ「この大馬鹿っ!!あんた、旅っていうのが、どんなものか……本当に覚悟を決めて出てきたの?私、覚悟を決めろとはいったはずよ?強引に連れてきておきながら、何をって思うかもしれないけれど……この世界で、男の旅は物凄く危険なことなの……」
えっ……た、旅は危険なものだと聞いたことはあるけれど、それに性別はあまり関係ないんじゃ……?
男の旅は危険……?一体、どういう意味なんだ…?
メ「フェルス興国内では、ある事情によりあなたが襲われることはなかったかも知れない……だけど、一度国を離れてしまったら、特別な事情なんて関係ないの、一瞬の油断が人生を終わらせると思いなさい」
な……んだと…?
正直、俺はメリィの言っていることが本気だとは、素直に信じることができなかった、しかし……目の前の三人は、ギラギラした目で俺のことを見ている…
………あれ?一人消えた……?
そう思った途端に、いきなり俺の耳に変な音が聞こえてきたんだ
例えにくいような、奇妙な音……こ、この音は一体何なんだ!?
気になる……物凄く気になる………
ヴァ「………(ニタァ……)イタダキマス」
デ「……えっ?なっ!?」
いつの間に回り込まれたのか、俺は気が付くと背中から抱きしめられ、右肩あたりをペロリと舐められていたんだよ!!
間違いない……喰われるっ!?
ラオ「連火追刃っ!!」
ヴァ「うわぁっ!!う…い、痛い…」
デ「ぎゃああぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!なんで俺までェェェェェッ!?」
ラオ「安心しろ、私の技は、相手の魔力を削るのだ。肉体までは傷つけん」
デ「そ、そうか…それなら安心……あ…あれ?力が……入らない……」
これってつまり、俺の体内の魔力容量が全て削られたと解釈していいんだよな…?
……嘘、俺の魔力容量…低すぎ…っ!?
しかし、一撃で倒れてしまった俺の横で、ラグーンメンバーは…といっても、メリィとアイネとラオの三人だけだけど………
この三人は、あの三人組の魔物娘たちを確実に追い詰めていた
「ふわわぁっ……妹たちが一緒じゃないと、一人じゃ無理だよーーっ!!カーネイジーーっ!!」
ふむふむ……あのヴァンプモスキートはカーネイジというのか……
カー「つ、強いっ……デビりんっ!!ヴェルゼっ!!ここはひとまず撤退だっ!!」
ヴェ「えっ!?飯はっ!?」
カー「なしだっ!!命のほうが大事っ!!」
ヴェ「がーんっ!!め…飯……」
デビりん「早く逃げようよーーっ!!もう、痛いのやだよーっ!!」
ヴェ「ぐっ……お、覚えてろよーーーっ!!ちくしょーーっ!!」
あの三人組はそう言うと、ものすごい速度でその場所から逃げていったのだった……
ちなみに、デビルバグがデビりん、ベルゼブブがヴェルゼという名前らしい…
それから、俺はアイネに担がれて宿屋に戻った……
メリィが言うには、魔力はある程度の時間が経過すれば、自然と回復していくものらしいから、俺は一足早く自分の部屋に戻り休むことにしたんだが……
あれだね、やっぱり宿屋店主に戦闘なんて、初めから無理だったんだねっ!!
やっぱり、慣れないことはするべきではないってことか……
今度から戦闘は全力で避けようと……そう決めた瞬間だった
ガチャ……
ん……?だ、誰だろうか?ベッドの上で横になりながら、目だけをそっと時計の方に向ける……
時刻は夜の10時ぐらい……まだ、誰か来てもおかしくない時間ではあるけれども……
セ「………デメさん……起きてますか?」
デ「……ん?セムちゃん?どうしたんだい?」
こんな時間に、セムちゃんが来るなんて、珍しいな……
おっと、秘伝の薬の効果が切れ始めているからな…いつ、変な欲情を抱いてしまうかもわからない……追加で飲んどくか……
俺は枕元に置いてあった秘伝の薬をそっと飲み込み、セムちゃんの方を見たんだ
………すっごい薄着だな…風邪ひいちまうぞ…?
セ「あの……ベッドが変わって、一人で眠れなくて………で、……デメさん…一緒に………駄目…?」
デ「悪いけど、ほかの人に頼んでくれないかな?サフランさんとかでは駄目なのかい?」
セ「………わ、わかり……ました……」
セムちゃんは顔をすこし伏せると、そのまま部屋を出て行ったんだ……
……一体、なんだったんだ?
しかし、一日目から本当にドタバタしたよ……
二日目以降、無事に旅を終えることが出来るのか、物凄く不安だけど……
無事に旅が終わったらいいなぁ……
何を考えているのか、俺には検討もつかないが……さっきから嫌なことが起こりそうな……そんな予感だけははっきりとするんだよな
頼むから……断ってくれよ……?
俺は心の底でそう願いつつ、事の成り行きを干し肉をかじりながら見守っていたんだ……
そうしていると、不意にメリィが顔をあげる……
メ「……まぁ、確かに…常に宿が取れる状態にあるというのは、旅においては物凄く大きな利点……でも、肝心なのは速度と安全性……その変形とやらを行って、周りに迷惑はかからないの?ほかの家をなぎ倒しながら移動するとかは絶対に許可できないわよ?」
ゾ「大丈夫じゃ……前回の反省点をしっかりと組み込んでおいたのじゃ……そうだなぁ……近代的な言い方をすると……「あんしんぶれぇきさぽーと」とやらじゃな!!危険を察知したら、即座に止まる仕組みになっているのじゃっ!」
メ「……へぇー…私、機械はどうも苦手だから……よくわからないけど、安全面は大丈夫って事でいいのかしら?」
ス「あぁっ!!師匠の発明に間違いはないぜっ!!」
………もはや、何も語るまい………
語るまい…かたる………
……………
デ「また勝手にそんな変な物をっ!!うちは宿屋なんだよっ!?もっと宿屋経営に役立つような…そんなことをしてくれたらいいじゃないかっ!!」
ゾ「風呂作ったじゃろ?それに、困ったら言ってくれたら、すぐに直してやるのじゃ……世話になってるからなぁ、それぐらいはするぞ?」
………ほ、本当かよ……
メ「……速度はどうなのかしら?」
ゾ「それは、デメトリオ次第じゃな……他にも、体力がある者が数人いれば、さらに早くはなるのじゃが……」
メ「体力……うーむ…ついてきてくれるラグーンメンバーの中で、体力があるのは……アイネとラオの二人ぐらいかしら……彼女たちとデメトリオをいれると、どれぐらいの速度で旅が出来るのかしら?」
ゾ「そうじゃな……ミスト山脈の登山口入口まではいけるじゃろうな」
メ「ふむ……私が単独で飛んでいくとしたなら、半日かかる場所に一日……でも、この大人数でその速度で進めるのは、断然早いわね…その方法で行きましょう」
め、メリィっ!?本気かっ……?
あ、あの目は本気だよ…畜生、嫌な予感が見事に的中しやがった……
どうして宝くじとかは一度も当たらないのに、こんな嫌な予感とかはピンポイントで当たったりするんだろうね…まったくっ!!
メ「さて……そうと決まれば……グロリア家のお嬢さん?私たち、今からちょっと旅にいかないといけないの……悪いけれど、お風呂はまたこんどにしてくれるかしら?」
セ「た、旅って……そんな……わ、私も………ついていく……!!」
メイド「お、お嬢様っ!?そのような事を申しては、奥様に怒られてしまいます!!」
セ「………でも………でも……!!」
メ「……ついて…行きたいのかしら?言っておくけれど、この旅は決して生易しいものではないわよ?宿の心配はしなくてもいいかもしれないけれど、旅は常に何かの危険をはらんでいるの、怪我をすることだってある、命を落としてしまう時だってあるの。覚悟がなくてそのようなことを言っているのなら、やめておいたほうが賢明だと思うわよ?」
セ「………覚悟なら……デメさんといられるなら……どこでも……」
メ「(この子も、デメトリオのこと……サリィの恋敵になるような子を連れて行ってもいいのかしら…?それは二人が決着をつける問題で、私が横槍を入れるのは野暮というもの……か……)」
メイド「お嬢様……ここは潔く諦めて……」
セ「………やだ……サフランも一緒についてきてくれたら……お母様も…」
サフ「……お嬢様…仕方がありません、ついて行かせていただきます……ですが、私はあくまでメイド……パーフェクトメイドという称号はいただけましたが、人間の身である以上、戦闘はできません…いいですね?」
セ「大丈夫………自分の身とあなた……そしてデメさんは……私が……守る」
メ「決まったようね………」
え、えぇっ!?そ、それでいいのかサフランさんっ!!
セムちゃんを少し甘やかし過ぎな気が……って、そんなことよりっ!!
俺も人間だからねっ!?宿屋店主だから、戦闘なんてできないからねっ!?
………あー…まぁ、メリィにはそれを伝えなくても、わかってくれてるだろうからいいかな
しっかし……セムちゃんって、あんなに強引だったんだな……
ま、まぁ…お嬢様ってのは外の世界に憧れている部分があるって聞いたことあるしな
別に変でも…ないか
メ「さぁ、それでは改めて、出発しましょう………っと、その前に……これから旅をするにあたって、婿探しついでに旅に同伴してくれる我がモンスターラグーンのメンバーの自己紹介をしてもらうわ……面倒かもしれないけれど、真面目に聞くように!!特にデメトリオ……あなたよ?」
そ、そんな人があたかも話を聞かないように言ってさぁ!?
お、俺だって……話ぐらい聞くさ!!
覚えてないことは多いけどな!!
デ「わ、わかったよ……」
?「まずは、私から自己紹介と行こう……私はアイネ・ハルムーンだ。モンスターラグーンとしての活動と共に、普段はフェルス城の近衛兵の部隊長を務めさせていただいている。といっても、【元】部隊長で、今は後任の者に座を譲り、夫探しついでに参加させて頂いた……よろしく頼む、デュラハンという種族上、ごくまれに首が取れて、恥ずかしいところを見せるかもしれないが、それは多めにみてほしい」
?「ラオ=ファンだ。種族は火鼠、モンスターラグーンには、強者との戦いのために加入した。手合わせならいつでも大歓迎だ、あとトレーニングにも付き合うので、気兼ねなく誘ってくれ」
ふむふむ……見た感じ、ふたりは戦闘要員って感じだなぁ……
二人共真面目そうだ……ゾーネやスカニとは真逆のタイプだね
?「わたしはクロッソ……クロッソ=アーキマン、マインドフレイアよ?マインドフレイアって聞いても…ピンとこないでしょう?うふふふっ……ねぇ、そこのあなた…」
デ「へっ?ぼ、僕ですか?」
ク「えぇ…あなたはどうして、こんなに大勢の魔物娘の前で、欲情しないのかしら?それは強靭な精神力をもっているから?そ・れ・と・も……ふふふふっ…ちょっと頭を見せてもらってもいいかしらぁ?」
メ「ダメよ、クロッソ?」
ク「はぁい……そうそう…とある人の言葉なんだけど…有名だから、聞いたことあるかなぁ…?『こちらが深淵を覗いているとき…深淵もこちらを覗いているのだ』って…あぁ、気にしなくていいわぁ……深い意味はないから」
なんだろう……クロッソって人に見られるだけで、体が危険信号を発しているような気分になる……
あと一人……けっこう少人数なんだなぁ……なんて
?「……マサヒメ……得意なのは料理です……大百足です……あっ…もしかして、地味なやつだなって思いました…?……大丈夫です…なれてますから…」
メ「マサヒメは少しだけ精神面が不安定なところがあるのだけれど、そこはみんなでフォローしてあげて欲しい……さてと、自己紹介も終わったし…そろそろ出発しましょうか」
メリィがそういうと、ゾーネが早速ウキウキをしながら、出発の準備を始める……
これから先、どんな旅が待っているんだろうか……?
……俺は無事に、フェルス興国に戻れるんだろうな……?
なんて、マイナスなことばっかり考えてしまうけど、心の中でどうにかなるだろうって思っている俺もいるんだよなぁ……
まぁ、なるようになるかぁ……
ゾ「お待たせしたのじゃっ!!では……起動っ!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
デ「な……なんだっ!?この音は……!?」
外の音が気になり、宿屋の窓から外を見てみると………こ、これはっ!?
俺の視界には、それはそれは大きなタイヤが見えたんだった……
って、これなんだよっ!?よくみたら……お、俺の宿屋につながってやがる…
ゆっくりと後ろを振り向くと、ゾーネがなにやら変なものを3台……ロビーの真ん中に備え付けていたところだった……
あの変なタイヤが二つ付いた乗り物は…一体何だっ!?
ゾ「これで……よしっと……待たせたのう……これこそが、儂の新発明……サイクロイドジェネレーTERじゃっ!!これを使えば、移動しながら体を鍛えることもできて、一石二鳥!!さぁ、ようは試しっ!!試運転してみるのだっ!!」
ア「……体を鍛える?面白そうだ……体を引き締めるのに適した機械ならば、大歓迎なのだが……どう使うのだ?」
ゾ「そこの三角系の椅子部分に座って、ひたすらにそこのペダルを動かし続けるのじゃっ!!」
ラ「ふむ……地味だな…これで体が鍛えられるとは到底思えんが……試してみるか」
デ「うっはぁ……よくもあんな意味がわからない機械に乗ろうなんて思うなぁ……」
メ「……あなたも乗るのよ?」
デ「えぇー?ぼ、僕もですかぁ?……やだなぁ……ほかの人に任せてほし…」
ゾ「あぁ、あそこにあるのはデメトリオ専用じゃからな、お主しか乗れないように設定してあるのじゃ」
……こ、こんの……迷惑発明家がぁ………
なんて思いつつ、俺は部屋にいる全員から早くやれと言われているような…そんな視線を感じて、しぶしぶゾーネの作った胡散臭い発明の上に跨った
えっと、これをひたすら動かし続ければいいのか……?
デ「よいしょっ……よいしょっ……」
ギギギッ……
っ!?お、おも…いぃ……
そう思いながら、隣を見る俺……
ア「はっ…はっ…ほう、これはなかなか、いい運動になりそうだ…」
ラ「だが、少々軽いぞ?この程度ではすぐに飽きるな」
…………えっ…えぇっ!?
おいおい……嘘だろ……?なんであんなにものすごい速度で動かせるんだ?
いや……もしかしたら、勢いに乗れば…俺もあれぐらい行けるのかも……
よっし……宿屋店主の本気を見せてやろうじゃないかっ!!
デ「ふんぬぅっ!!ぬおぉぉぉっ!!ていやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ギィ……ゴ………
デ「まだまだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ギィ……ゴ……
デ「ひぃ…ふぅ……ま…だ…まだぁぁぁ……」
ゾ「おっ?電力がタイヤ部分まで回ったみたいだ……いよいよ動くぞっ!!」
メ「思ったより、凄い速度ね……もう、フェルス興国を出るわよ?」
そ、そうなのか……?くそっ……外が見えないからどうなっているのか、わからないぜ……
ア「よし、これから1時間ごとに、20分のクールタイムを挟みつつ移動するとしよう……無理な運動は、いい体作りに適しているというわけではないのだからな?」
デ「ひぃっ…ふぅっ…ぜぇっ……い、一時間っ!?そんなの無理だって!!せめて半分っ!!半分の30分おきに休憩を……」
ラ「軽い、軽すぎるっ!!こんなものでは鍛錬にもならんっ!!」
ゾ「それなら、こっちの発電機につなぎかえるのじゃ!!」
ス「でも師匠、そっちって確か、通常の5倍ぐらいは力と体力が必要だったような……」
ラ「五倍か?それがちょうどいいかもしれんな、そっちにしてくれ」
こ、このしんどい装置をさらにしんどくする…だと…?
し、正気とは思えない……こ、これが…魔物娘の凄さか……
俺は正直、ここに種族の壁を感じ取ったね……
ゾ「よし、終わったのじゃ……」
ラ「……ぐっ…ほぅ?これは……良いではないか……」
そんなことを言いながら、俺より早い速度で装置を動かすラオ……
これ、俺…こんなしんどい思いしなくてもいいんじゃ……
セ「………大丈夫……ですか…?」
デ「ふぇ?あ、あぁ……こ、これぐらい…ひぃっ…ふぅっ…楽勝だよ…」
セ「………………(パンパン【手を叩く音】)」
サフ「はっ……ここに…タオルでございます」
セ「……これを…使ってください……」
そう言って、セムちゃんは俺にタオルと水を用意してくれたんだよ!
や、やさしい……すごく優しいじゃないかセムちゃん!!
メリィなんて、窓際で既に、我関せずって感じで本読んでるってのに……
そういえば、ほかのラグーンメンバーの姿が見えないな……
一体、何をしているのやら……
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ク「あらぁ?マサヒメちゃんはなにか、悩み事かしらぁ〜?精神カウンセラーなら、いつでもしてあげるわよ?」
マ「……別に、クロッソさんには関係ない用事ですし……本当は私の相手をするのも面倒だとおもっているんでしょう?いいんです…なれてますから……どうせ、私なんて……」
ク「落ち込むことより、笑っておいたほうがいいわよ?たとえ嘘でも、言い切ったら本当になることだってあるのだから……ね?そうだ、今からあなたが何を悩んでいたのか、当ててあげるわ」
マ「えっ……?」
ク「マサヒメちゃんは、おそらくみんなの食事を作ろうとしていたのでしょう?それで、いざキッチンに来て、料理を作ろうとしたところで、全員の好みがわからなくて、迷っていた……自分の好みの味付けにしてもいいのか…?それとも、全員に聞いて回るのか?でも、それは迷惑になるんじゃないのか?なんて、思っていたんじゃないかしらぁ?」
マ「な……んで……それを……」
ク「長いあいだ、相談を聴いたりしていると大体マサヒメちゃんと同じ性格の娘の相談に乗ったりもしているの、だから…わかっちゃうだけなのよ?でも、それはそれっ!マサヒメちゃんはよかれと思って、料理を作ろうとしているのでしょう?だったら、その気持ちを大事にして、とりあえず怖がらないで作ってみること!!いいですかぁ?」
マ「が、頑張り……ます……」
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俺がこの装置を動かし始めて早2時間……
俺は既に、自分がなんでこの装置を動かしているのか……それすらもわからなくなってきていた……
だが、セムちゃんが見せてくれる優しさのおかげで、俺はやめることができなかったんだなぁ……
ゾ「も、もう…ミスト山脈の山道前までついた……じゃと…?」
メ「も、もうっ!?は、早すぎる……これからは、もう少しのんびりしても良さそうね……それに、毎日この装置を使っての移動は……アイネやラオはともかく、デメトリオが持たないわ…」
デ「それな……本当に、俺が持たないよ……どうにかしてくれ……自動で動かせるようにとか、できないの?」
ゾ「そ、それはじゃな……できないこともないが……時間がなぁ……軽く考えても一週間……」
デ「そうか、天才でも無理か……そりゃあ、仕方ないなぁ……ゾーネって、天才らしいけども、無理なこともあるんだなぁ……へぇーー……」
ゾ「なっ……!?わ、わしを馬鹿にするなぁっ!!待っておれっ!!明日には完成させてやるわいっ!!」
ス「その代わり、明日の朝に間に合ったら、デメトリオは一日、これを着てもらうからなっ!!」
スカニはそう言って、謎の緑の袋を取り出してきた……
あの袋の中に、何が入っている……?
こ、怖い……しかし、一週間かかる物を一日でなんて、出来るのか?
どう考えても、やけになってるとしか思えないよな……
ここは、うまく自分の有利になるように事を進めるのが…‥・宿屋店主的にも賢いと思うんだよ!!
それに、俺はこの物語のいわば主人公……つまり、こういった争いには基本的に勝てるっていうのは、目に見えてる…だろ?
デ「じゃあ、もし間に合わなかったら、どうするんだ?」
ス「そんときは、あたいが一日お前の慰みものになってやらあっ!!」
デ「結構です……それ、メリットじゃねぇし……」
ス「なっ!?お、お前っ!!それはそれで失礼なんだぞっ!!わかった!じゃあ、うちの商品、どんな高いものだろうが、ひとつデメトリオにくれてやる!!これで文句ないだろっ!!」
デ「わかった、じゃあ……それで……」
なんてやり取りをしていると、奥の方からマサヒメさんが料理をもって出てくるのが見えたんだ!!
り、料理作ってくれていたのかっ!?こ、こりゃあありがたい!!
ちょうど、いきなり旅に出発させられて、お腹がすいていたんだ………
マ「これ……まずいかもしれませんが……一生懸命……作って……」
デ「ありがとう!!いただくよっ!!」
これは……サラダだろうか?マサヒメさんはああ言ってるけど、正直とても美味しそうな料理に、俺は期待を隠さずにはいられなかった
デ「いただきます……おっ?このソース、いい味出してるね……おいしいよ、ぜひ今度、メニューを教えて欲しいなぁ……これだったら、宿に来てくれたお客さんに出しても喜ばれるだろうし……」
メ「そうね、これは美味しいわ……ありがと、マサヒメ」
マ「は、はいっ!!えへへ………すこし…うれしいです…ね」
セ「(……お、おいしい…私にも…教えてほしいな……)……」
サフ「おいしぃですねっ!!お嬢様っ!!食べ物を食べている時って…最高に至福の一瞬じゃないですか!!こう、それが充実してると……今、まさに生きてるって実感できる……私はそれが料理のいいところだと…今、感じていますっ!!」
と、みんなで料理に舌鼓をうっていると、いきなり宿屋の中に大きな警告音が鳴り響いたんだ
俺は慌てて、持っている皿を机の上に置き、ゾーネに何があったのかを聞いた
デ「ぞ、ゾーネさん?こ、この危険な雰囲気漂う音は一体なんなのでしょうか?」
ゾ「こ、これは……この宿屋の周りに、なにか敵意を持った何かがいるという警告アラームじゃな……もしかしたら、盗賊かなにかと遭遇してしまったのかもしれん……」
ラオ「ほぅ?それなら、ひとつその驚異を除けばいいことだろう」
アイネ「私たちが行こう……あと、デメトリオもついてきてくれ……お前に戦いというものを教えてやる」
デ「け、けっこうです……なんて、言っても聞いてくれないんだろうなぁ…し、仕方ねえっ!!宿屋店主は戦いとはまったくもって無縁だが、少しは戦闘も覚えておかないといけないんだろうな……ってことで、ひとついってやろうじゃないか!!」
??「美味しそうな匂いがするねぇ………」
??「あたいらの縄張りで、勝手なことされちゃあ困るなぁ……」
??「とにかくお腹すいたっ!!我慢なんてできないねっ!!」
声は三人……一体、どんな相手なのか……
そう思いながら、宿屋の入口のドアを開ける……
するとそこには、三人の魔物娘が立っていたんだ!!
右から、デビルバグ、ヴァンプモスキート、ベルゼブブ………ん?
なんだ、ただの虫か……
まぁ、ここはね、ひとつ俺が平和的解決をしてみせよう
デビ「あの建物から、すごくいい匂いがするよねぇ〜……」
デ「お、おいおい、君たち……どうしたんだい?なんだか、凄い敵意を感じるけど……僕の宿屋に……」
デビ「……っ!!あはっ……」
デ「えっ!?ぬわぁっ!?」
な、何が……起こった?
気が付くと俺は、デビルバグに倒され、馬乗りにされていたんだよ!!
ヴァ「あはっ…男まで手に入るなんて、最高にラッキーじゃないか!早速、メンバーの間で、輪姦そうぜ」
ベ「お腹も空いたんだけどねぇ〜あの家も襲ってしまおうぜ」
くぅっ…な、なんだこれ……!?いや、本気で、何だよこの状況!?
お、俺がフェルス興国にいたときは、魔物娘がここまで強引に襲ってきたことはないっていうのに…!?
ど、ど、どういうことだ?
メ「デメトリオっ!!」
メリィがそう言いながら、滑空して俺の上に馬乗りになっているデビルバグをタックルで押しのけ、そのままの勢いで俺を足でつかみあげる
デ「あいたたたたっ!!ちょ、ちょっとメリィさん、痛いですって!!」
メ「この大馬鹿っ!!あんた、旅っていうのが、どんなものか……本当に覚悟を決めて出てきたの?私、覚悟を決めろとはいったはずよ?強引に連れてきておきながら、何をって思うかもしれないけれど……この世界で、男の旅は物凄く危険なことなの……」
えっ……た、旅は危険なものだと聞いたことはあるけれど、それに性別はあまり関係ないんじゃ……?
男の旅は危険……?一体、どういう意味なんだ…?
メ「フェルス興国内では、ある事情によりあなたが襲われることはなかったかも知れない……だけど、一度国を離れてしまったら、特別な事情なんて関係ないの、一瞬の油断が人生を終わらせると思いなさい」
な……んだと…?
正直、俺はメリィの言っていることが本気だとは、素直に信じることができなかった、しかし……目の前の三人は、ギラギラした目で俺のことを見ている…
………あれ?一人消えた……?
そう思った途端に、いきなり俺の耳に変な音が聞こえてきたんだ
例えにくいような、奇妙な音……こ、この音は一体何なんだ!?
気になる……物凄く気になる………
ヴァ「………(ニタァ……)イタダキマス」
デ「……えっ?なっ!?」
いつの間に回り込まれたのか、俺は気が付くと背中から抱きしめられ、右肩あたりをペロリと舐められていたんだよ!!
間違いない……喰われるっ!?
ラオ「連火追刃っ!!」
ヴァ「うわぁっ!!う…い、痛い…」
デ「ぎゃああぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!なんで俺までェェェェェッ!?」
ラオ「安心しろ、私の技は、相手の魔力を削るのだ。肉体までは傷つけん」
デ「そ、そうか…それなら安心……あ…あれ?力が……入らない……」
これってつまり、俺の体内の魔力容量が全て削られたと解釈していいんだよな…?
……嘘、俺の魔力容量…低すぎ…っ!?
しかし、一撃で倒れてしまった俺の横で、ラグーンメンバーは…といっても、メリィとアイネとラオの三人だけだけど………
この三人は、あの三人組の魔物娘たちを確実に追い詰めていた
「ふわわぁっ……妹たちが一緒じゃないと、一人じゃ無理だよーーっ!!カーネイジーーっ!!」
ふむふむ……あのヴァンプモスキートはカーネイジというのか……
カー「つ、強いっ……デビりんっ!!ヴェルゼっ!!ここはひとまず撤退だっ!!」
ヴェ「えっ!?飯はっ!?」
カー「なしだっ!!命のほうが大事っ!!」
ヴェ「がーんっ!!め…飯……」
デビりん「早く逃げようよーーっ!!もう、痛いのやだよーっ!!」
ヴェ「ぐっ……お、覚えてろよーーーっ!!ちくしょーーっ!!」
あの三人組はそう言うと、ものすごい速度でその場所から逃げていったのだった……
ちなみに、デビルバグがデビりん、ベルゼブブがヴェルゼという名前らしい…
それから、俺はアイネに担がれて宿屋に戻った……
メリィが言うには、魔力はある程度の時間が経過すれば、自然と回復していくものらしいから、俺は一足早く自分の部屋に戻り休むことにしたんだが……
あれだね、やっぱり宿屋店主に戦闘なんて、初めから無理だったんだねっ!!
やっぱり、慣れないことはするべきではないってことか……
今度から戦闘は全力で避けようと……そう決めた瞬間だった
ガチャ……
ん……?だ、誰だろうか?ベッドの上で横になりながら、目だけをそっと時計の方に向ける……
時刻は夜の10時ぐらい……まだ、誰か来てもおかしくない時間ではあるけれども……
セ「………デメさん……起きてますか?」
デ「……ん?セムちゃん?どうしたんだい?」
こんな時間に、セムちゃんが来るなんて、珍しいな……
おっと、秘伝の薬の効果が切れ始めているからな…いつ、変な欲情を抱いてしまうかもわからない……追加で飲んどくか……
俺は枕元に置いてあった秘伝の薬をそっと飲み込み、セムちゃんの方を見たんだ
………すっごい薄着だな…風邪ひいちまうぞ…?
セ「あの……ベッドが変わって、一人で眠れなくて………で、……デメさん…一緒に………駄目…?」
デ「悪いけど、ほかの人に頼んでくれないかな?サフランさんとかでは駄目なのかい?」
セ「………わ、わかり……ました……」
セムちゃんは顔をすこし伏せると、そのまま部屋を出て行ったんだ……
……一体、なんだったんだ?
しかし、一日目から本当にドタバタしたよ……
二日目以降、無事に旅を終えることが出来るのか、物凄く不安だけど……
無事に旅が終わったらいいなぁ……
16/03/29 19:09更新 / デメトリオン mk-D
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