(前編) 青年のとてつもなく衝撃的な日
「はぁ…なんだかなぁ〜…」
俺は手に持った物件カタログを机の上に置くと、一人溜息をついていた…
なぜ俺がこのような所で一人溜息をついているのか…
それには、二つほど理由があるわけだが…
えっ？そもそも、お前がどこにいるのか、俺は知らないって？
ど、読者の皆さんは中々ハードに言って来るなぁ…
わかった！！みんなにもわかりやすいように、俺がこの場所にいるわけと二つの理由を説明しようじゃないか！！
わからなかったら、それは俺のせいじゃないぜ？
作者の表現力がものすごく残念だったからだ、それは理解してくれよな？
あれは…今から３０年…いや、３日前の出来事だ…
俺は長年務めていた会社を突然解雇されたんだ、理由は俺が仕事できないからだって…まぁ、俺だってまだ社会の荒波を知らない半人前、あの時はこれがどれだけ恐ろしい宣告だったかをまだ知らなかったんだ…
その時、まだ今いるような大都市じゃなく、どっちと言えば田舎寄りの小さな都市で働いていた俺は、解雇された日も普通に家に帰ったんだ
そして、家に帰って親に解雇されたって話したんだが…
その時の親の焦りようはもう…半端じゃなかったね
その次の日、必死に職を探しに行かされたが…地元じゃあ仕事がなかったんだよな…
で、なすすべもなかった俺は、無知にも関わらず、大都会に行くしかなかったのさ…
だが、大都会についた俺を襲った現実的な問題が１つ…そう！拠点だよ！
俺の生活の拠点は今まで家だった…だが、大都会に来てしまった以上、そんなことを言っている場合じゃないのさ！
で、拠点を探すために今現在、不動産屋に来ているってわけだ…
この不動産屋は、俺のような奴にでも親切に家を探す手伝いをしてくれているから、個人的には何も言うことはないんだが…
それにスタッフの女性も、ナイスバディだし…その点も文句はないのだが…
ひとつ、この店…っていうか、都会に対して文句が言いたいことがあるんだ
これが、俺のため息の理由の一つでもあるんだけど…
とにかく値段が高い！
一つの物件の値段が…俺の持ってきた軍資金とほとんど同額ってどういうことだ！？
そりゃあ、建物なんだから少しは値段が高いだろうってことは理解してた…
だが、これほど高いと俺は自分自身、目を疑わないといけなくなる！
いや…まてよ…
この物件一覧の表記…実は何かのミスで０が一個多くなってしまっているだけなのでは…
などと馬鹿な事を言っている間に、もう夕方を迎えてしまったわけだ…
もうこの店が開店してから８時間が経過しようとしている
まだ、まともに職も見つかっていないって言うのに、俺は何をしているんだ…
ってことで、俺はため息をついていたわけだな
「あのぉ…お客様、ちょっとよろしいでしょうか？」
「へっ…？あっ、何でしょう？」
「もう、お店を閉店する時間なのですが…」
「えっ！？あぁ…そうなんですか…」
…結局、何も買わずに店内にずっと居座るいやな客になってしまったか…
はぁ…今晩寝るとこどうしようか…
などと思いながら、店を出ようとすると、さっき俺に閉店だといったこの店のスタッフが一冊のファイルをもってこっちに来たんだよ！
しかも、俺を手招きしているわけで…まぁ、俺はそのファイルが気になってそっちにのこのこ歩いて行ったわけだな…
「お客様、これは一般のお客様には見せない物件のリストなのですが…」
そういいながら渡してきたファイルを受け取ると、俺は一応それにも目を通して…って、何っ！？
そこには、明らかに値段と不釣り合いなほどいい建物がたくさん並んでいたんだ…
こ、これはすごい…
そう思いながら、ペラペラとページをめくっていくと、俺は一軒の家に目がとまったんだ…
そのページに書かれていたのは、本当に何の変哲もない一軒家だった
ほかのページには、値段にしてはあまりに安い豪邸などもあったにも関わらず、俺はなぜかその普通の一軒家に惹かれていたんだ…
たぶん、俺が何のとりえもないつまらない男だったから、こんな何のとりえもなさそうな家に惹かれたんだろうが…これだったら、買ってもいいかも知れないな…
結局、俺はその一軒家を購入することにきめ、不動産屋を後にしたんだ
さて…家の引き渡しは明日…この紙に書かれている住所に行けばいい…
俺はその紙を財布に入れると、今晩は安いホテルで一泊することにしたのだった…
そして次の日…俺は指定された場所に行き、あのスタッフを家の前で待っていたんだが…
さっきから、変な視線を感じるんだよなぁ…
いや、たぶん俺の気のせいなんだろうけどさ？近くに人なんていないし…
「お待たせしました…えっと、この物件を購入するにあたり、まずはじめにお金をいただきます…」
「あっ…はい、これでどうでしょうか…？足りると思うんですけど…」
「確かに…では、次にですが…この書類にサインを頂けますか？取引の上で非常に大切なものとなっておりますので…」
俺は、彼女が渡してきた書類に何のためらいもなくサインすると、その書類を彼女に渡したんだ…
はっきり言うと、今はこの面倒な手続きを終わらせて家の中を見たいんだよね
俺はさ…？
そして、それから面倒な書類にサインをし続け、そして、サインを書き終わったかと思った時、スタッフの彼女が何かを思い出したかの様に懐から何かを取り出したんだ…
なんだ…？あの紙切れは…
「申し訳ありません、これを渡すのを忘れておりました…」
そう言って彼女が渡してきた紙切れに書かれていた言葉…それは…
【この物件は訳あり物件です、ご了承ください】
だったんだ…
…な、何なんだこれは！？
わ、わ、訳あり物件だと！？こんな大切なことは初めに言ってくれないと困るんだけど…
と、とにかく、それを知ってしまったらもうここには住めないぜ！？
き、気持ち的な意味でなぁ！
「ま、待ってくださいよ！！訳あり物件って…俺、やっぱり今回の物件の購入は遠慮…」
「あら…申し訳ありませんが、お客様は書類にサインをしましたね？この書類に、しっかりと書かれているのですよねぇ…[いつ、いかなる場合でもこの物件を購入する、この物件は購入後３年は売却できなくなる]とね？まさか、何も考えずに書類にサインをしたわけでもないでしょうし…」
うぐぐっ…まさか、このスタッフ…俺をだましたのか…！？
いやしかし…書類にしっかりと目を通していなかった俺も悪いわけだし…
「では…意義もないみたいなので私はこれで…っと、ああ…これ、もしよろしければどうぞ？キャンペーンの品のようなものではありますが…」
「ちょ…」
結局、俺はあのスタッフに何も言うことができず、その時は茫然と立ち尽くしていたのだった…
当然、後になってその不動産屋に文句をいいに行ったのだが…その場所はきれいに空地になっていたんだ…
こ、これは…いったい何の冗談だ…？いったい何のイリュージョンが起こった！？
などと言いつつ、俺はあのスタッフが置いていった紙袋をあの家に向かう途中の道で開ける…
するとその中には…あの有名なカップ麺【緑のた○き】が一つ入っていたのだった…
「くぅぅっ…なんだか、狸に化かされたみたいだ…と、都会…なんて恐ろしい」
そして俺は、購入した家に向かうまでの道のりの途中にあったコンビニでそのカップ麺に湯を注ぎ、無言で食べたのだった…
どうでもいいがそのカップ麺は涙の味がしたのだった…
それからしばらくの時が流れ…っていっても、たいして時は流れてねぇんだけど…とにかく、俺は自分が購入してしまった訳あり物件のところに戻ってきたんだ…
こうなったら、どんなことが起こってもひたすらに耐えるしかない…
しかし、ここはどんな訳あり物件なんだろうか？
雨漏りするとか、若干傾いているとかだったら、何とかできるんだろうけど…
そう思いつつ、部屋の扉を開けてみる俺…
だが、部屋の中は建ててすぐなんじゃないかってくらいきれいだった
何の変哲もない、ただの家がそこにあったんだよ
床はまるで掃除してあったかのようにきれいだし、家具はほこりひとつ被ってないし…逆に、それがなんか怖いんだけどさ？
さ、さすがに人が住んでいる家を他人に売りつけたりはしない…よな？
…なんだか、非常に心配になってきた
も、もし…今この瞬間、黒いサングラスかけたごつい兄ちゃんが入ってきて、人様の家でなにしてやがるとか言われたら…どうしたらいいんだ？
だが、それからも一向にごつい兄ちゃんは現れず…俺は無事に夜を迎えることができたのだった…
夜を迎えることができ、俺もなんとかこの家の間取りを把握できたんだ
一階はリビングとトイレ、そしてバスルームとキッチンというありふれた家…
読者のみんなの家と全く変わったものはないと考えてもらってもいいと思うな
まぁ、ちょっと気になることもあるにはあるんだけど…
今、俺がいるリビング…テレビが置いてあるすぐ真後ろのところの壁だけ…
微妙に色が違うんだよ…
なんていうか…肌色なんだけどうすい…的な?
あとから塗られたような色をそこだけしていたんだよ
まさか…訳ありってこれのことなのか？
ははぁっ…前の住人が穴でもあけてしまったから、それをごまかすためにベニヤ板でも貼り付けてごまかそうとしたんだな？
でも、一応家がキズものだから、誰も買ってくれない…だから訳あり物件だったのか
一度結論が自分の中で出てしまうと、一気にこの家に対する不安も消えていったんだ
で…今はちょっと贅沢して、するめを食べながらテレビ見てる所ってね？
明日からは必死に職探し…今日ぐらい贅沢したって神様は許してくれるはずさ
「最近、俺の心に熱い何かを伝えるアニメが少なくなってきたなぁ…やはり、アニメ業界もいろいろあるんだろうか…でもまぁ、それも時代かなぁ…」
そう呟きながら俺はテーブルのするめを頬張っていると、不意に部屋に変なラップ音が鳴り響いたんだよ！！
あれだ…あの、ピシッ！！って音がな！？
えっ…知ってるから早く先に行けって？
…少しは実は頭良かったかもしれないやつアピールをさせてくれても、いいと思うんだけどなぁ…
だが、その音はその一回を最後に鳴らなくなったんだ…
俺はその出来事があってちょっとビビってしまったから、するめの袋を輪ゴムで止めると、すぐに眠りに入ったのだった…
……ここは、夢の中だろうか？変に体がふわふわするのに、ものすごく重いっていう変な感じだ…
夢の中だから…にしてはものすごく視界がグルグル回っている感じがして気持ち悪…うえっ…
そう…俺はここにきて一日目の夜…さっそく意味がわからない夢を見る羽目になったわけだ…
まぁ、この夢はおそらく、大都会に来た俺の不安が作り出した幻想的な？
そんな感じのものなんだろうけどな…？
そして、俺は夢の中で子供部屋のようなところで手を振っている人形が出てくる訳が分からないシーンを見ると、また深い眠りについたのだった…
次の日…俺はまだ余り着込んでいないスーツを体に装着し、大きなビルの前に立っていた…
気温はバリバリの３２度…もう季節は夏ってことで、俺はそのビルの前でアイスを食べながら、そのビルが開くのを待っていたんだ…
「あちーっ…くっ、地球温暖化の影響がここまで…うちわでも持ってくればよかったか？しかし、この会社はやけに開くのが遅いな…もう、９時切ってるぞ？」
そう呟きつつ、熱い夏の空を見上げながら…
ただひたすらに俺は耐えたね…
それからさらに３時間が経過し、俺は辛抱強くまだその場で待機していた…
昔から、待たされるのには慣れてる…慣れてはいるんだが…
正直、少しだけイライラしてきたってのも本音ではあるんだ
この暑さの中、場違いなようにピッチリとしたスーツを着込んで立っているのは本当にきついからなぁ
俺、もう本気で干物になっちまいそうだよ…
さらにそれから５時間が経過し…ついに俺は我慢の限界に達したんだ…
かれこれ８時間も同じ場所に何もせずに立っている…これがどんな意味を持っているのかはわからないが…
おそらく、この時間はものすごく無駄だったんじゃないか！？
その苛立ちを心に秘め、俺はその会社のあるビルの入口に近づいて…
「………」
そして俺は、そこでとんでもないものを目撃してしまったんだ…
それを見たとたん、俺の周りの空気は３度ぐらい下がっただろうってぐらいの衝撃が俺を襲ったんだよ！！
えっ？実際はそんなことはあり得ないって…？
・・・・細けぇ事はいいんだよっ！！
ふぅっ…で、俺がそこで目撃したものなんだが…
そこには一枚の張り紙が貼ってあったんだ
(本日は臨時休業いたします、皆様のご理解、よろしくお願いします)
って書かれた紙がなぁ！！
つまり、俺はこの夏真っ盛りのシーズンに、何の目的もなく突っ立っていたバカってことになる！
この変な虚しさと、向ける矛先のない怒りを…俺はどこにぶつければいいんだ！？
えぇっ！？
……はぁっ、コンビニで酒でも買って帰ろう…
そして俺は、貴重な一日と軍資金をまた失ったのだった…
家に帰ると、俺は汗でぐっしょりと濡れたスーツやシャツなどを洗濯機に放り込み、軽くシャワーでも浴びることにしたんだ…
就職が決まっていないやつにしては、やけに余裕持っているなとか、そんなことは言ってはダメなんだぜ？
さぁ、ここからは俺のシャワーシーンを…
えっ？そんなのいらない？
目が腐る？
男はいいから魔物娘をだせって？
そ、そんなに悪く言わなくてもいいじゃないか…
結局、俺のサービスシーンはあっという間にカットされ、今現在…
俺は一人で酒を飲みながら、するめを食べていたんだ…
「くぅっ…お、俺だって、俺だって本当はこんな家に住みたくなかったんだよぉ…就職だってぇ…地元が…よかったのにぃ…うぅっ…ぐすっ…」
ちなみに、俺はお酒が入るとなぜか無性に泣きたくなるって変な癖がある
まぁ、そんなことはどうでもいいんだろうけどさ？
とにかく、俺が一人で酒を飲んでいた時だった…
いきなり、昨日も聞いたラップ音が部屋に鳴り響いたんだよ！！
しかも、今日はなんていうか…木が裂けるときのバキバキって音もいっしょだったんだ！
俺は一瞬で酔いがさめ…っていうか、まだ飲んですぐだったから、あまり変化はないんだけど、周りを見回したんだ…
すると、あの変に色が違う壁に赤黒い染みが浮かび上がってきたんだよ！
俺はもう、本能的に察したね…あれはやばい奴だって！
だが、俺が逃げるよりも先に、その壁に変化が起こったんだ…
いきなり、その壁のベニヤ板が裂けたんだよ！！
そして、その後ろには二階に続く階段が…
……そういえば、あまり気にしてはいなかったが…この家は二階建てだったな
まぁ、一人で住む場合は二階なんて、あまり必要ないから気にしてなかったんだけど…
そして、俺はその場所に立ち尽くしていた
あんな出来事が起こった後だから、たぶん慎重になっていたんだろうな…
だってさ？いきなり二階へ続く階段が現れたんだぜ？
あんな恐ろしいことが起こった後に…そりゃあ慎重にもなるだろう
だが…それと同時に、好奇心も首をもたげてきたってのは事実でさ…
くそっ…気になる、気になるぞ…
それから俺の心は恐怖心と好奇心で揺れ始めたんだ…
で、どっちが最終的に勝ったかというと…
好奇心のほうだったんだよな…
恐る恐る、二階へと上がっていく俺…って、あれ？
どうやら…二階は一室だけしかないようだ、階段を登り終えるとすぐ、一つの扉に対面したからなぁ…
そこには、あいちゃんの部屋って書かれた表札のようなものが下げてあったんだ…
あぁー…たぶん、前のこの家の持ち主の娘の部屋だったんだな…
たぶん引っ越すときにある程度の物は持ち出しているだろうから、部屋の中は何もないんだろうが…
そう思いつつ、部屋の扉をそっと開け…
そして、俺の目に飛び込んできたのは、物凄くトラウマを植え付けられそうなほど衝撃的なものだったんだ！！
部屋の中はいたるところが刃物による傷で傷ついており、壁や床には赤黒い液体の跡が…あ、あ、あれは血の跡なんじゃないだろうか…？
特に布団の上がものすごい…
壁にはさほど大きくないが、ただひたすらに悲しいという文字が書かれておりものすごい光景だった…
だが、ものすごく不思議なことに…ここは子供部屋だったにも関わらず…
子供がいたって痕跡はほとんど残っていないってことかな？
それに…こんな部屋に子供が住んでいたのなら、この家の前の持ち主の子供は相当に精神を病んでいたに違いない…
っと、おっ？これは…アルバムだろうか？
人の思い出の品を勝手に見るのは忍びないが…まぁ、置いていっているんだ
少しくらいならかまわないだろ？
なんて変な言い訳を言いつつ、俺はそのアルバムをのぞいてみる…
そこには、物凄く地味そうな眼鏡の女の子が映っていたんだ
そして…これまた同じく、THE・平凡って感じの男と女が映っていたんだ
服装から判断するに、三人は高校生だろうか？
しかし…どの写真にも写っているな…仲がいいんだろうか？
だが、数ページめくった後の事だった…
あの眼鏡の子の移っている写真が無くなり、あの平凡な男子と女子のツーショットの写真だけになったんだよ！
しかも…その女子の部分はカッターのようなもので切られた跡が…
なんだろうか？何か、ものすごく恨み的な物を感じるんだが…
結局、俺は怖くなったのでそれ以上、そのアルバムを見ることはやめたのだった…
そして部屋を出ようとしたときだった…俺はあるものに目が行ったんだよ！
それは…ただの人形だったんだけど、変に造りに力が入っているって…
俺は直感的にそんな気がしたんだ
その人形は西洋風の人形で、机の上にちょこんと置かれてあったんだ
その近くには日記のようなものも置かれてあった…
結局俺は、その二つをもって下のリビングに行ったんだ
この家の訳ありの理由…あの部屋だったのか…
それからしばらく、俺はのんびりとテレビを見ていたんだが…
時間が１１時を周ったころから、面白い番組もなくなってきたんだよなぁ…
いつもの俺だったらこのまま寝るんだが…
そう…いつもの俺ならこの時間ぐらいに布団に入り、ぐっすりとお休みタイムの時間だが、今回はちょっとばかし状況が違うんだ…
そうっ！！俺はあの恐ろしい部屋で人形と日記のようなものを手に入れたんだよ！！
さすがにこの年で人形遊びなんてできないが、日記は非常に気になる代物だ…
他人のプライベートをのぞきこんでしまう罪悪感がないわけではないが…
それでも、気になるだろ！？そうなんだろ！？
人間ってのは見るなって言われたら見たくなる生き物なんだよ！！
ってわけで、俺はこの日記を見てみることにしたのだった…
【４月２６日 金曜日
今日は、新しい学校で初めて友達ができた。
優太君って言って、クラスの中で孤立していた私に話しかけてくれた。
男の子に話しかけられるのなんて、本当に久しぶりだったから…
５月２日 木曜日
今日、女友達もできた、クラスの中で孤立することも少なくなってきた
毎日が今、本当に幸せで幸せでたまらない
お父さんも最近は家に帰ってくるのが早い…いいことだ
５月５日 日曜日
今日、図書館に行った帰りに優太君を見た
彼は親の仕事でたまに家の八百屋を手伝っているのは知っているけど…
がんばっているなって思った、私も頑張らないと…
５月１８日 土曜日
テストに向けての猛勉強中、優太君とマイちゃんが遊びにきた
三人で勉強を頑張ったので、いつもよりは集中できなかった
でも、あの勉強はいつもより楽しかった
５月２９日 水曜日
最近、優太君に特別な感情を抱いている自分がいることに気がついた
優太君の優しさと真面目さをすべて自分のものにしたいって…
そんな独占欲が芽生えてきた…
でも、優太君はやさしいし、私も今はこれ以上踏み出そうって気はない
６月１２日 水曜日
今日、勇気を出して優太君に好きだって言ってみた
すると、優太君も私を好きだと言ってくれた
両想いだったんだって思うと、胸が締め付けられるぐらいうれしい
６月１５日 土曜日
今日、優太君と二人っきりで買い物に出かけた
これが俗にいう…で、デートってものなのだろうか？
ふふっ…悪くない、最高の気分だ
６月２０日 木曜日
今日…優太君がクラスメイトの相沢さんと一緒に下校しているのを見た
今日は用事があるって優太君言っていたのに…これはどういうこと？
まさか…優太君が嘘を？ありえない…
だって、優太君は地味な私でも好きだって言ってくれたんだから
６月２２日 土曜日
やっぱりだ…やっぱりそうだ！！
優太君は私を避けてる…いやになったのだろうか？
なんだか、心の中に変な穴があいたような…そんな虚無感が私を襲う
６月３０日 日曜日
約一週間ほど真剣に考え、私は自分なりにある結論を導き出した
きっと…そう、優太君はやさしいから他の女の子の相談も聞いているんだ
そのなかでも、私は特別…だって、優太君本人から好きと言われたんだ
ほかの人達も優しさに甘えてもいいが…あまり私の優太君を…
独占しないでほしい
７月７日 日曜日
今日は七夕祭りのある日、お気に入りの浴衣を着て、優太君と一緒に行く
今日は楽しい日になりそうだ…
続きは、祭りが終わった後に書くことにする
マイちゃんが、私の優太君にしつこいくらい接近してきた…
友達間の間でも、距離ってものがあるのに…
でも、私はやさしいから許してあげる
だからこれ以上、私の優太君に近づくなってマイちゃんに言った
これで、今まで通りになると思う
優太君が彦星なら、私は織り姫なのだ
７月１０日 水曜日
私の優太君にマイがまた近づいてきた…
最近、クラスメイトの女子もよく話しているような気がする
誰にも、私の優太君は渡さない…誰にも…
７月１２日 金曜日
優太君が、私と口もきいてくれない様になった…
なぜ？どうして？いや、理由は分かっている…
きっと、マイが私と話すなって言ったんだ
私と優太君の愛を邪魔するなんて…マイはもう、友達じゃない
７月１４日 日曜日
マイが優太君とデートしているのを見た
ばれないように後を尾行したけど…
あんなに笑顔の優太君、最近見ていなかった…
悔しい 悔しい
７月１５日 月曜日
きっと、優太君が私と話さなくなったのはマイのせいだ…
渡さない…私の優太君はあの女には渡さない…
渡さない、渡さない、渡さない、渡さない、渡さない…
７月１８日 木曜日
マイ…マイぃっ！！憎い…悔しいっ！！
私の…私の…私の…私の…
そうだ…マイが不慮の事故でいなくなったら、優太君は私のところに…
きっとそうに違いない…
７月２３日 火曜日
あはっ…あはははははははははははははははっ！！
今日は最高の日だ、これでマイが私の邪魔をすることはなくなった
マイが私と優太君の幸せを天国から悔しそうに見ている姿が目に浮かぶ
でも…お父さんの大切な包丁セットの一本が汚れてしまった
怒られるのは嫌だから、マイと一緒に埋めたけど、それが気になる
７月２４日 水曜日
優太君が今日、違う女と一緒に歩いていたのを見た
なぜ、マイは消えたのに優太君は私のところに戻ってこない？
なぜ…？なぜ…？
はっ…そうか、そういうことか…
優太君も男だってことか
７月２５日 木曜日
今日、久しぶりに優太君を家に連れてきた
この瞬間、私はとても幸せな気分になっていた
今日はお母さんもお父さんも帰ってこない
優太君に、私が培ってきた知識と技を披露して…
私から逃げられないようにしないと…
７月２６日 金曜日
今日、私は学校をやめた
一時も優太君のそばを離れるのが嫌だからだ
この日記を優太君のそばで書ける喜び…普通の人には理解できない
７月２７日 土曜日
優太君が私のことを化け物って言った…
悲しい…悲しいっ！！
だけど、私は一つ、あることに気がついた
７月２８日 日曜日
今日、優太君と私は一緒に天に行くことにした
でも…私たち二人で行くのも忍びない…
なので、マイがくれたお気に入りの人形に見てもらおうって思う
これが最後のページ…これが私の最後の言葉になるけれど…
お父さん、お母さん、アイは幸せになります
】
俺は日記を読み終わった後、ものすごくガクガク震えていた…
こ、怖い…この日記の内容、ほのぼのしていると思ったら物凄くダークじゃないか！！こんなの読んだら夜寝れなくなっちまうじゃないか！！
「あわっ…あわわわわわっ…も、もう嫌だっ！！約束なんて知ったことか！こんな家にすめるかっ！！い、田舎に帰ろう…そこで、給料が良くなくたっていいから、のんびりと過ごすんだ…そ、そうだ、それがいい…」
俺はこの一日で、大都会での就職をあきらめた…
これ以上この家にいたら、俺の精神が持たないかもしれないって思えるほどの衝撃的な話だったんだ、仕方がないだろ？
そして実家に戻ってから一か月が立った時だった…
不意に、俺宛に宅配便が届いたんだ
「あれぇっ？確かに俺宛てだけど、あいって誰だ？」
「おめぇ、おらたちに内緒で彼女でもつくったのか？」
「お、おやじ…茶化さないでくれよ」
なんて笑いながら、その宅配物を持ってみる…
差出人は…不明かぁ…よく届いたなぁ…
持ってみた感じだと、中にはあまり重いものは入っていないみたいだ
とにかく、中身でも確認してみるかな？
そして、中身を見てみた俺は心の底から驚いたね！
もう…うっひゃあって感じさ！！
どんな感じかわからないとか、言うのはなしで頼むぜ？
と、とにかくだな、その宅配物の中身は人形だったんだよ
しかも、ただの人形じゃない…あの家にあったはずの…あの人形だったんだ
そして、その人形を見た瞬間、俺は都会で起こった出来事をすべて思い出してしまったんだ！！
案外、心の奥底では忘れたって思っていても覚えているもんなんだなって思ったね
しかし、そうとわかれば、この人形を手元に置いておくのはものすごく怖い
なんか、嫌な感じがするだろ？だから、ちょっと家から遠い所にある山に捨てに行ったんだ
まぁ、当然だな…俺じゃなくてもそうしたって思うぜ？
そうして、帰ろうとしたときだった…
「捨てるの？おにいちゃん？」
「……っ！？だ、誰だ！？」
俺はとっさに聞こえてきた声に振り向き、あたりを探してみた…
だが…当然、周りには人はいない…
気のせいだったのか…？
俺はそう思い、車でその場所を後にしたのだった
男が立ち去ってからすぐ、その場所で信じられないような出来事が起こった
なんと、男が捨てた人形が独りでに動き始めたのだ
その人形はふわりと浮かびあがると、その男の車を追いかけ始めたのだった
その人形の顔には、物凄い狂気を感じさせるほどの笑みが張り付いていた
（後編に続く）
俺は手に持った物件カタログを机の上に置くと、一人溜息をついていた…
なぜ俺がこのような所で一人溜息をついているのか…
それには、二つほど理由があるわけだが…
えっ？そもそも、お前がどこにいるのか、俺は知らないって？
ど、読者の皆さんは中々ハードに言って来るなぁ…
わかった！！みんなにもわかりやすいように、俺がこの場所にいるわけと二つの理由を説明しようじゃないか！！
わからなかったら、それは俺のせいじゃないぜ？
作者の表現力がものすごく残念だったからだ、それは理解してくれよな？
あれは…今から３０年…いや、３日前の出来事だ…
俺は長年務めていた会社を突然解雇されたんだ、理由は俺が仕事できないからだって…まぁ、俺だってまだ社会の荒波を知らない半人前、あの時はこれがどれだけ恐ろしい宣告だったかをまだ知らなかったんだ…
その時、まだ今いるような大都市じゃなく、どっちと言えば田舎寄りの小さな都市で働いていた俺は、解雇された日も普通に家に帰ったんだ
そして、家に帰って親に解雇されたって話したんだが…
その時の親の焦りようはもう…半端じゃなかったね
その次の日、必死に職を探しに行かされたが…地元じゃあ仕事がなかったんだよな…
で、なすすべもなかった俺は、無知にも関わらず、大都会に行くしかなかったのさ…
だが、大都会についた俺を襲った現実的な問題が１つ…そう！拠点だよ！
俺の生活の拠点は今まで家だった…だが、大都会に来てしまった以上、そんなことを言っている場合じゃないのさ！
で、拠点を探すために今現在、不動産屋に来ているってわけだ…
この不動産屋は、俺のような奴にでも親切に家を探す手伝いをしてくれているから、個人的には何も言うことはないんだが…
それにスタッフの女性も、ナイスバディだし…その点も文句はないのだが…
ひとつ、この店…っていうか、都会に対して文句が言いたいことがあるんだ
これが、俺のため息の理由の一つでもあるんだけど…
とにかく値段が高い！
一つの物件の値段が…俺の持ってきた軍資金とほとんど同額ってどういうことだ！？
そりゃあ、建物なんだから少しは値段が高いだろうってことは理解してた…
だが、これほど高いと俺は自分自身、目を疑わないといけなくなる！
いや…まてよ…
この物件一覧の表記…実は何かのミスで０が一個多くなってしまっているだけなのでは…
などと馬鹿な事を言っている間に、もう夕方を迎えてしまったわけだ…
もうこの店が開店してから８時間が経過しようとしている
まだ、まともに職も見つかっていないって言うのに、俺は何をしているんだ…
ってことで、俺はため息をついていたわけだな
「あのぉ…お客様、ちょっとよろしいでしょうか？」
「へっ…？あっ、何でしょう？」
「もう、お店を閉店する時間なのですが…」
「えっ！？あぁ…そうなんですか…」
…結局、何も買わずに店内にずっと居座るいやな客になってしまったか…
はぁ…今晩寝るとこどうしようか…
などと思いながら、店を出ようとすると、さっき俺に閉店だといったこの店のスタッフが一冊のファイルをもってこっちに来たんだよ！
しかも、俺を手招きしているわけで…まぁ、俺はそのファイルが気になってそっちにのこのこ歩いて行ったわけだな…
「お客様、これは一般のお客様には見せない物件のリストなのですが…」
そういいながら渡してきたファイルを受け取ると、俺は一応それにも目を通して…って、何っ！？
そこには、明らかに値段と不釣り合いなほどいい建物がたくさん並んでいたんだ…
こ、これはすごい…
そう思いながら、ペラペラとページをめくっていくと、俺は一軒の家に目がとまったんだ…
そのページに書かれていたのは、本当に何の変哲もない一軒家だった
ほかのページには、値段にしてはあまりに安い豪邸などもあったにも関わらず、俺はなぜかその普通の一軒家に惹かれていたんだ…
たぶん、俺が何のとりえもないつまらない男だったから、こんな何のとりえもなさそうな家に惹かれたんだろうが…これだったら、買ってもいいかも知れないな…
結局、俺はその一軒家を購入することにきめ、不動産屋を後にしたんだ
さて…家の引き渡しは明日…この紙に書かれている住所に行けばいい…
俺はその紙を財布に入れると、今晩は安いホテルで一泊することにしたのだった…
そして次の日…俺は指定された場所に行き、あのスタッフを家の前で待っていたんだが…
さっきから、変な視線を感じるんだよなぁ…
いや、たぶん俺の気のせいなんだろうけどさ？近くに人なんていないし…
「お待たせしました…えっと、この物件を購入するにあたり、まずはじめにお金をいただきます…」
「あっ…はい、これでどうでしょうか…？足りると思うんですけど…」
「確かに…では、次にですが…この書類にサインを頂けますか？取引の上で非常に大切なものとなっておりますので…」
俺は、彼女が渡してきた書類に何のためらいもなくサインすると、その書類を彼女に渡したんだ…
はっきり言うと、今はこの面倒な手続きを終わらせて家の中を見たいんだよね
俺はさ…？
そして、それから面倒な書類にサインをし続け、そして、サインを書き終わったかと思った時、スタッフの彼女が何かを思い出したかの様に懐から何かを取り出したんだ…
なんだ…？あの紙切れは…
「申し訳ありません、これを渡すのを忘れておりました…」
そう言って彼女が渡してきた紙切れに書かれていた言葉…それは…
【この物件は訳あり物件です、ご了承ください】
だったんだ…
…な、何なんだこれは！？
わ、わ、訳あり物件だと！？こんな大切なことは初めに言ってくれないと困るんだけど…
と、とにかく、それを知ってしまったらもうここには住めないぜ！？
き、気持ち的な意味でなぁ！
「ま、待ってくださいよ！！訳あり物件って…俺、やっぱり今回の物件の購入は遠慮…」
「あら…申し訳ありませんが、お客様は書類にサインをしましたね？この書類に、しっかりと書かれているのですよねぇ…[いつ、いかなる場合でもこの物件を購入する、この物件は購入後３年は売却できなくなる]とね？まさか、何も考えずに書類にサインをしたわけでもないでしょうし…」
うぐぐっ…まさか、このスタッフ…俺をだましたのか…！？
いやしかし…書類にしっかりと目を通していなかった俺も悪いわけだし…
「では…意義もないみたいなので私はこれで…っと、ああ…これ、もしよろしければどうぞ？キャンペーンの品のようなものではありますが…」
「ちょ…」
結局、俺はあのスタッフに何も言うことができず、その時は茫然と立ち尽くしていたのだった…
当然、後になってその不動産屋に文句をいいに行ったのだが…その場所はきれいに空地になっていたんだ…
こ、これは…いったい何の冗談だ…？いったい何のイリュージョンが起こった！？
などと言いつつ、俺はあのスタッフが置いていった紙袋をあの家に向かう途中の道で開ける…
するとその中には…あの有名なカップ麺【緑のた○き】が一つ入っていたのだった…
「くぅぅっ…なんだか、狸に化かされたみたいだ…と、都会…なんて恐ろしい」
そして俺は、購入した家に向かうまでの道のりの途中にあったコンビニでそのカップ麺に湯を注ぎ、無言で食べたのだった…
どうでもいいがそのカップ麺は涙の味がしたのだった…
それからしばらくの時が流れ…っていっても、たいして時は流れてねぇんだけど…とにかく、俺は自分が購入してしまった訳あり物件のところに戻ってきたんだ…
こうなったら、どんなことが起こってもひたすらに耐えるしかない…
しかし、ここはどんな訳あり物件なんだろうか？
雨漏りするとか、若干傾いているとかだったら、何とかできるんだろうけど…
そう思いつつ、部屋の扉を開けてみる俺…
だが、部屋の中は建ててすぐなんじゃないかってくらいきれいだった
何の変哲もない、ただの家がそこにあったんだよ
床はまるで掃除してあったかのようにきれいだし、家具はほこりひとつ被ってないし…逆に、それがなんか怖いんだけどさ？
さ、さすがに人が住んでいる家を他人に売りつけたりはしない…よな？
…なんだか、非常に心配になってきた
も、もし…今この瞬間、黒いサングラスかけたごつい兄ちゃんが入ってきて、人様の家でなにしてやがるとか言われたら…どうしたらいいんだ？
だが、それからも一向にごつい兄ちゃんは現れず…俺は無事に夜を迎えることができたのだった…
夜を迎えることができ、俺もなんとかこの家の間取りを把握できたんだ
一階はリビングとトイレ、そしてバスルームとキッチンというありふれた家…
読者のみんなの家と全く変わったものはないと考えてもらってもいいと思うな
まぁ、ちょっと気になることもあるにはあるんだけど…
今、俺がいるリビング…テレビが置いてあるすぐ真後ろのところの壁だけ…
微妙に色が違うんだよ…
なんていうか…肌色なんだけどうすい…的な?
あとから塗られたような色をそこだけしていたんだよ
まさか…訳ありってこれのことなのか？
ははぁっ…前の住人が穴でもあけてしまったから、それをごまかすためにベニヤ板でも貼り付けてごまかそうとしたんだな？
でも、一応家がキズものだから、誰も買ってくれない…だから訳あり物件だったのか
一度結論が自分の中で出てしまうと、一気にこの家に対する不安も消えていったんだ
で…今はちょっと贅沢して、するめを食べながらテレビ見てる所ってね？
明日からは必死に職探し…今日ぐらい贅沢したって神様は許してくれるはずさ
「最近、俺の心に熱い何かを伝えるアニメが少なくなってきたなぁ…やはり、アニメ業界もいろいろあるんだろうか…でもまぁ、それも時代かなぁ…」
そう呟きながら俺はテーブルのするめを頬張っていると、不意に部屋に変なラップ音が鳴り響いたんだよ！！
あれだ…あの、ピシッ！！って音がな！？
えっ…知ってるから早く先に行けって？
…少しは実は頭良かったかもしれないやつアピールをさせてくれても、いいと思うんだけどなぁ…
だが、その音はその一回を最後に鳴らなくなったんだ…
俺はその出来事があってちょっとビビってしまったから、するめの袋を輪ゴムで止めると、すぐに眠りに入ったのだった…
……ここは、夢の中だろうか？変に体がふわふわするのに、ものすごく重いっていう変な感じだ…
夢の中だから…にしてはものすごく視界がグルグル回っている感じがして気持ち悪…うえっ…
そう…俺はここにきて一日目の夜…さっそく意味がわからない夢を見る羽目になったわけだ…
まぁ、この夢はおそらく、大都会に来た俺の不安が作り出した幻想的な？
そんな感じのものなんだろうけどな…？
そして、俺は夢の中で子供部屋のようなところで手を振っている人形が出てくる訳が分からないシーンを見ると、また深い眠りについたのだった…
次の日…俺はまだ余り着込んでいないスーツを体に装着し、大きなビルの前に立っていた…
気温はバリバリの３２度…もう季節は夏ってことで、俺はそのビルの前でアイスを食べながら、そのビルが開くのを待っていたんだ…
「あちーっ…くっ、地球温暖化の影響がここまで…うちわでも持ってくればよかったか？しかし、この会社はやけに開くのが遅いな…もう、９時切ってるぞ？」
そう呟きつつ、熱い夏の空を見上げながら…
ただひたすらに俺は耐えたね…
それからさらに３時間が経過し、俺は辛抱強くまだその場で待機していた…
昔から、待たされるのには慣れてる…慣れてはいるんだが…
正直、少しだけイライラしてきたってのも本音ではあるんだ
この暑さの中、場違いなようにピッチリとしたスーツを着込んで立っているのは本当にきついからなぁ
俺、もう本気で干物になっちまいそうだよ…
さらにそれから５時間が経過し…ついに俺は我慢の限界に達したんだ…
かれこれ８時間も同じ場所に何もせずに立っている…これがどんな意味を持っているのかはわからないが…
おそらく、この時間はものすごく無駄だったんじゃないか！？
その苛立ちを心に秘め、俺はその会社のあるビルの入口に近づいて…
「………」
そして俺は、そこでとんでもないものを目撃してしまったんだ…
それを見たとたん、俺の周りの空気は３度ぐらい下がっただろうってぐらいの衝撃が俺を襲ったんだよ！！
えっ？実際はそんなことはあり得ないって…？
・・・・細けぇ事はいいんだよっ！！
ふぅっ…で、俺がそこで目撃したものなんだが…
そこには一枚の張り紙が貼ってあったんだ
(本日は臨時休業いたします、皆様のご理解、よろしくお願いします)
って書かれた紙がなぁ！！
つまり、俺はこの夏真っ盛りのシーズンに、何の目的もなく突っ立っていたバカってことになる！
この変な虚しさと、向ける矛先のない怒りを…俺はどこにぶつければいいんだ！？
えぇっ！？
……はぁっ、コンビニで酒でも買って帰ろう…
そして俺は、貴重な一日と軍資金をまた失ったのだった…
家に帰ると、俺は汗でぐっしょりと濡れたスーツやシャツなどを洗濯機に放り込み、軽くシャワーでも浴びることにしたんだ…
就職が決まっていないやつにしては、やけに余裕持っているなとか、そんなことは言ってはダメなんだぜ？
さぁ、ここからは俺のシャワーシーンを…
えっ？そんなのいらない？
目が腐る？
男はいいから魔物娘をだせって？
そ、そんなに悪く言わなくてもいいじゃないか…
結局、俺のサービスシーンはあっという間にカットされ、今現在…
俺は一人で酒を飲みながら、するめを食べていたんだ…
「くぅっ…お、俺だって、俺だって本当はこんな家に住みたくなかったんだよぉ…就職だってぇ…地元が…よかったのにぃ…うぅっ…ぐすっ…」
ちなみに、俺はお酒が入るとなぜか無性に泣きたくなるって変な癖がある
まぁ、そんなことはどうでもいいんだろうけどさ？
とにかく、俺が一人で酒を飲んでいた時だった…
いきなり、昨日も聞いたラップ音が部屋に鳴り響いたんだよ！！
しかも、今日はなんていうか…木が裂けるときのバキバキって音もいっしょだったんだ！
俺は一瞬で酔いがさめ…っていうか、まだ飲んですぐだったから、あまり変化はないんだけど、周りを見回したんだ…
すると、あの変に色が違う壁に赤黒い染みが浮かび上がってきたんだよ！
俺はもう、本能的に察したね…あれはやばい奴だって！
だが、俺が逃げるよりも先に、その壁に変化が起こったんだ…
いきなり、その壁のベニヤ板が裂けたんだよ！！
そして、その後ろには二階に続く階段が…
……そういえば、あまり気にしてはいなかったが…この家は二階建てだったな
まぁ、一人で住む場合は二階なんて、あまり必要ないから気にしてなかったんだけど…
そして、俺はその場所に立ち尽くしていた
あんな出来事が起こった後だから、たぶん慎重になっていたんだろうな…
だってさ？いきなり二階へ続く階段が現れたんだぜ？
あんな恐ろしいことが起こった後に…そりゃあ慎重にもなるだろう
だが…それと同時に、好奇心も首をもたげてきたってのは事実でさ…
くそっ…気になる、気になるぞ…
それから俺の心は恐怖心と好奇心で揺れ始めたんだ…
で、どっちが最終的に勝ったかというと…
好奇心のほうだったんだよな…
恐る恐る、二階へと上がっていく俺…って、あれ？
どうやら…二階は一室だけしかないようだ、階段を登り終えるとすぐ、一つの扉に対面したからなぁ…
そこには、あいちゃんの部屋って書かれた表札のようなものが下げてあったんだ…
あぁー…たぶん、前のこの家の持ち主の娘の部屋だったんだな…
たぶん引っ越すときにある程度の物は持ち出しているだろうから、部屋の中は何もないんだろうが…
そう思いつつ、部屋の扉をそっと開け…
そして、俺の目に飛び込んできたのは、物凄くトラウマを植え付けられそうなほど衝撃的なものだったんだ！！
部屋の中はいたるところが刃物による傷で傷ついており、壁や床には赤黒い液体の跡が…あ、あ、あれは血の跡なんじゃないだろうか…？
特に布団の上がものすごい…
壁にはさほど大きくないが、ただひたすらに悲しいという文字が書かれておりものすごい光景だった…
だが、ものすごく不思議なことに…ここは子供部屋だったにも関わらず…
子供がいたって痕跡はほとんど残っていないってことかな？
それに…こんな部屋に子供が住んでいたのなら、この家の前の持ち主の子供は相当に精神を病んでいたに違いない…
っと、おっ？これは…アルバムだろうか？
人の思い出の品を勝手に見るのは忍びないが…まぁ、置いていっているんだ
少しくらいならかまわないだろ？
なんて変な言い訳を言いつつ、俺はそのアルバムをのぞいてみる…
そこには、物凄く地味そうな眼鏡の女の子が映っていたんだ
そして…これまた同じく、THE・平凡って感じの男と女が映っていたんだ
服装から判断するに、三人は高校生だろうか？
しかし…どの写真にも写っているな…仲がいいんだろうか？
だが、数ページめくった後の事だった…
あの眼鏡の子の移っている写真が無くなり、あの平凡な男子と女子のツーショットの写真だけになったんだよ！
しかも…その女子の部分はカッターのようなもので切られた跡が…
なんだろうか？何か、ものすごく恨み的な物を感じるんだが…
結局、俺は怖くなったのでそれ以上、そのアルバムを見ることはやめたのだった…
そして部屋を出ようとしたときだった…俺はあるものに目が行ったんだよ！
それは…ただの人形だったんだけど、変に造りに力が入っているって…
俺は直感的にそんな気がしたんだ
その人形は西洋風の人形で、机の上にちょこんと置かれてあったんだ
その近くには日記のようなものも置かれてあった…
結局俺は、その二つをもって下のリビングに行ったんだ
この家の訳ありの理由…あの部屋だったのか…
それからしばらく、俺はのんびりとテレビを見ていたんだが…
時間が１１時を周ったころから、面白い番組もなくなってきたんだよなぁ…
いつもの俺だったらこのまま寝るんだが…
そう…いつもの俺ならこの時間ぐらいに布団に入り、ぐっすりとお休みタイムの時間だが、今回はちょっとばかし状況が違うんだ…
そうっ！！俺はあの恐ろしい部屋で人形と日記のようなものを手に入れたんだよ！！
さすがにこの年で人形遊びなんてできないが、日記は非常に気になる代物だ…
他人のプライベートをのぞきこんでしまう罪悪感がないわけではないが…
それでも、気になるだろ！？そうなんだろ！？
人間ってのは見るなって言われたら見たくなる生き物なんだよ！！
ってわけで、俺はこの日記を見てみることにしたのだった…
【４月２６日 金曜日
今日は、新しい学校で初めて友達ができた。
優太君って言って、クラスの中で孤立していた私に話しかけてくれた。
男の子に話しかけられるのなんて、本当に久しぶりだったから…
５月２日 木曜日
今日、女友達もできた、クラスの中で孤立することも少なくなってきた
毎日が今、本当に幸せで幸せでたまらない
お父さんも最近は家に帰ってくるのが早い…いいことだ
５月５日 日曜日
今日、図書館に行った帰りに優太君を見た
彼は親の仕事でたまに家の八百屋を手伝っているのは知っているけど…
がんばっているなって思った、私も頑張らないと…
５月１８日 土曜日
テストに向けての猛勉強中、優太君とマイちゃんが遊びにきた
三人で勉強を頑張ったので、いつもよりは集中できなかった
でも、あの勉強はいつもより楽しかった
５月２９日 水曜日
最近、優太君に特別な感情を抱いている自分がいることに気がついた
優太君の優しさと真面目さをすべて自分のものにしたいって…
そんな独占欲が芽生えてきた…
でも、優太君はやさしいし、私も今はこれ以上踏み出そうって気はない
６月１２日 水曜日
今日、勇気を出して優太君に好きだって言ってみた
すると、優太君も私を好きだと言ってくれた
両想いだったんだって思うと、胸が締め付けられるぐらいうれしい
６月１５日 土曜日
今日、優太君と二人っきりで買い物に出かけた
これが俗にいう…で、デートってものなのだろうか？
ふふっ…悪くない、最高の気分だ
６月２０日 木曜日
今日…優太君がクラスメイトの相沢さんと一緒に下校しているのを見た
今日は用事があるって優太君言っていたのに…これはどういうこと？
まさか…優太君が嘘を？ありえない…
だって、優太君は地味な私でも好きだって言ってくれたんだから
６月２２日 土曜日
やっぱりだ…やっぱりそうだ！！
優太君は私を避けてる…いやになったのだろうか？
なんだか、心の中に変な穴があいたような…そんな虚無感が私を襲う
６月３０日 日曜日
約一週間ほど真剣に考え、私は自分なりにある結論を導き出した
きっと…そう、優太君はやさしいから他の女の子の相談も聞いているんだ
そのなかでも、私は特別…だって、優太君本人から好きと言われたんだ
ほかの人達も優しさに甘えてもいいが…あまり私の優太君を…
独占しないでほしい
７月７日 日曜日
今日は七夕祭りのある日、お気に入りの浴衣を着て、優太君と一緒に行く
今日は楽しい日になりそうだ…
続きは、祭りが終わった後に書くことにする
マイちゃんが、私の優太君にしつこいくらい接近してきた…
友達間の間でも、距離ってものがあるのに…
でも、私はやさしいから許してあげる
だからこれ以上、私の優太君に近づくなってマイちゃんに言った
これで、今まで通りになると思う
優太君が彦星なら、私は織り姫なのだ
７月１０日 水曜日
私の優太君にマイがまた近づいてきた…
最近、クラスメイトの女子もよく話しているような気がする
誰にも、私の優太君は渡さない…誰にも…
７月１２日 金曜日
優太君が、私と口もきいてくれない様になった…
なぜ？どうして？いや、理由は分かっている…
きっと、マイが私と話すなって言ったんだ
私と優太君の愛を邪魔するなんて…マイはもう、友達じゃない
７月１４日 日曜日
マイが優太君とデートしているのを見た
ばれないように後を尾行したけど…
あんなに笑顔の優太君、最近見ていなかった…
悔しい 悔しい
７月１５日 月曜日
きっと、優太君が私と話さなくなったのはマイのせいだ…
渡さない…私の優太君はあの女には渡さない…
渡さない、渡さない、渡さない、渡さない、渡さない…
７月１８日 木曜日
マイ…マイぃっ！！憎い…悔しいっ！！
私の…私の…私の…私の…
そうだ…マイが不慮の事故でいなくなったら、優太君は私のところに…
きっとそうに違いない…
７月２３日 火曜日
あはっ…あはははははははははははははははっ！！
今日は最高の日だ、これでマイが私の邪魔をすることはなくなった
マイが私と優太君の幸せを天国から悔しそうに見ている姿が目に浮かぶ
でも…お父さんの大切な包丁セットの一本が汚れてしまった
怒られるのは嫌だから、マイと一緒に埋めたけど、それが気になる
７月２４日 水曜日
優太君が今日、違う女と一緒に歩いていたのを見た
なぜ、マイは消えたのに優太君は私のところに戻ってこない？
なぜ…？なぜ…？
はっ…そうか、そういうことか…
優太君も男だってことか
７月２５日 木曜日
今日、久しぶりに優太君を家に連れてきた
この瞬間、私はとても幸せな気分になっていた
今日はお母さんもお父さんも帰ってこない
優太君に、私が培ってきた知識と技を披露して…
私から逃げられないようにしないと…
７月２６日 金曜日
今日、私は学校をやめた
一時も優太君のそばを離れるのが嫌だからだ
この日記を優太君のそばで書ける喜び…普通の人には理解できない
７月２７日 土曜日
優太君が私のことを化け物って言った…
悲しい…悲しいっ！！
だけど、私は一つ、あることに気がついた
７月２８日 日曜日
今日、優太君と私は一緒に天に行くことにした
でも…私たち二人で行くのも忍びない…
なので、マイがくれたお気に入りの人形に見てもらおうって思う
これが最後のページ…これが私の最後の言葉になるけれど…
お父さん、お母さん、アイは幸せになります
】
俺は日記を読み終わった後、ものすごくガクガク震えていた…
こ、怖い…この日記の内容、ほのぼのしていると思ったら物凄くダークじゃないか！！こんなの読んだら夜寝れなくなっちまうじゃないか！！
「あわっ…あわわわわわっ…も、もう嫌だっ！！約束なんて知ったことか！こんな家にすめるかっ！！い、田舎に帰ろう…そこで、給料が良くなくたっていいから、のんびりと過ごすんだ…そ、そうだ、それがいい…」
俺はこの一日で、大都会での就職をあきらめた…
これ以上この家にいたら、俺の精神が持たないかもしれないって思えるほどの衝撃的な話だったんだ、仕方がないだろ？
そして実家に戻ってから一か月が立った時だった…
不意に、俺宛に宅配便が届いたんだ
「あれぇっ？確かに俺宛てだけど、あいって誰だ？」
「おめぇ、おらたちに内緒で彼女でもつくったのか？」
「お、おやじ…茶化さないでくれよ」
なんて笑いながら、その宅配物を持ってみる…
差出人は…不明かぁ…よく届いたなぁ…
持ってみた感じだと、中にはあまり重いものは入っていないみたいだ
とにかく、中身でも確認してみるかな？
そして、中身を見てみた俺は心の底から驚いたね！
もう…うっひゃあって感じさ！！
どんな感じかわからないとか、言うのはなしで頼むぜ？
と、とにかくだな、その宅配物の中身は人形だったんだよ
しかも、ただの人形じゃない…あの家にあったはずの…あの人形だったんだ
そして、その人形を見た瞬間、俺は都会で起こった出来事をすべて思い出してしまったんだ！！
案外、心の奥底では忘れたって思っていても覚えているもんなんだなって思ったね
しかし、そうとわかれば、この人形を手元に置いておくのはものすごく怖い
なんか、嫌な感じがするだろ？だから、ちょっと家から遠い所にある山に捨てに行ったんだ
まぁ、当然だな…俺じゃなくてもそうしたって思うぜ？
そうして、帰ろうとしたときだった…
「捨てるの？おにいちゃん？」
「……っ！？だ、誰だ！？」
俺はとっさに聞こえてきた声に振り向き、あたりを探してみた…
だが…当然、周りには人はいない…
気のせいだったのか…？
俺はそう思い、車でその場所を後にしたのだった
男が立ち去ってからすぐ、その場所で信じられないような出来事が起こった
なんと、男が捨てた人形が独りでに動き始めたのだ
その人形はふわりと浮かびあがると、その男の車を追いかけ始めたのだった
その人形の顔には、物凄い狂気を感じさせるほどの笑みが張り付いていた
（後編に続く）
13/07/13 20:41更新 / デメトリオン mk-D
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