連載小説
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(後編)青年が気がついた真実の愛
人形を捨て、車で自分の家に帰ってから…
俺はやけに眠ることもできず、自分の部屋で一人のんびりとしていたんだ
なんだろうなぁ…いつもなら、10時ごろには少し、眠気が襲ってくるんだけど…
今日は、まったく眠気が襲ってこないんだ…

季節はバリバリの夏…夜にはものすごく不愉快なあの虫が俺の眠りを邪魔してくるとか…
汗が快適な眠りを邪魔するとか、眠れない理由を見つけようとすれば、無いこともないけど…
いつもは全くそんなことは気にしないんだけどなぁ…

まっ…眠れないときは布団の中に入って何も考えずにいれば…
自然と寝るんだけどな?それまでが長いんだよ…わかるかな?

「……しかし、本当に眠くならないな…まぁ、あの恐ろしい部屋のことや都会の事を一日で全部思い出しちまったから…その時に受けた衝撃的なもののおかげで眠くならないんだろうけど…」

そう呟きながら、冷蔵庫に入っているコーラを取りに行こうとしたときだった…
カツッ…カツッって音がおれの部屋の窓から聞こえてきたんだよ!
いや…正確には部屋の外なんだけどさ?いったい…この変な音は何の音なんだ?
……ははぁっ?キツネかカラスかな?もしかしたら猫かもしれないな
おれの家の周りは田舎だから、なんだかんだ言っても野生の動物をよく見かけるんだ…
だから、今回のような変な音が聞こえるってことも珍しいことじゃないんだ

ふっ…眠れない憂さ晴らしだ…俺のジュースを取りに行く邪魔をした動物を脅かしてやるか…
俺はそう考えると、音がした窓のほうにそっと移動したんだ…
そして勢いよく扉を開けたんだよ!!
もう…あの時の俺の扉をあける勢いは、嵐のように激しく暴風のようにものすごくだな…
だが、そこには動物の姿なんて影も形もなかったんだよ…

「あれっ…?おかしいな…あの音は確かに動物だと…」

俺はそこで、気になるものを見つけたんだよ
窓の縁のところに何かが引っ掛かっているんだ
今日の昼間にはなかったと思うんだけど…なんだろう?あれは…

んっ…おっ?微妙にだが、手が届きそうだな…
俺は手が届くとわかると、その謎の物の正体が知りたくなったわけだ

「よっと…この感触は…布か?結構大きいな…」

ガコッ…ガコッ…

あれ…?引っかかったか?
引っかかったってことは、中々変な形をしているってことになるけど…

それから俺はまた数分、その謎の物体を引っ張っていたんだが…
ようやく俺はその謎の物体を持ち上げることに成功したんだよ!!
……あっ、電気つけないとこの謎の物体が何なのかわからないじゃないか!

そう思い…俺は自分の部屋の電気をつけたんだ
さて…俺をこんなに苦労させた物体は……っ!?

俺はその物体を見た瞬間、思わず言葉を失ったんだ…
その物体の正体…それはなんと捨てたはずのあの人形だったんだ!!
来ていた服装やボディの部分に少し傷は入っていたけど…間違いない!!あの人形だ!!
ど…ど…どうしてあの人形が俺の家の窓の縁に!?

「と、とにかく…コーラを飲んで落ち着こう………ゴハッ!?ゲホッ…む、むせた…あ、焦るな…落ち着け、落ち着け…」

……あ、あ、明日…近所の神社にお祓いにでも持っていこう…
え、えっと…とりあえず今日は適当なダンボールにでも詰めておくか…!?

俺はそう判断すると、その人形をダンボールの中に詰めたんだ
な、何事もなかったらいいんだが…って思ったときだ
そのダンボールが物凄くガタガタ音を立て始めたんだよ!!

「ひ、ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?あわわわっ……」

あ、足がすくんでしまった…と、とにかくこれはなんかやばい!!
逃げないと…とにかく逃げないと…
だが…そう思って焦っているときに限って、結構前に進めないもんなんだよな…
俺も結局、その場であたふたしているだけで、全然逃げることができなかったんだ

そうこうしていると、ダンボールの中からあの人形が飛び出てきたんだよ!!
しかも…その人形の周りには紫色のオーラが…

「ただいま…お兄ちゃん?」
「ひゃあぁぁぁっ!?な、なんだっていうんだ!?俺が一体何をしたと…」
「そーだ…お兄ちゃん、お願いがあるんだー…」

お、お願い…!?ま、まさか…
あの人形を捨てようとした俺に対して、復讐させてくれとか…そんなお願いなんじゃないのか!?
もしそんなお願いだったら、俺は絶対に断らせてもらいたいんだが…

「これ…ちょっと見てもらえるかなー?」

そういうと、その人形は夜の闇から一冊の本を俺のほうに投げてきたんだ!
こ、この本は…なんだ!?た、タイトルが英語なんだけど…!?
えっと…これは…どーる・ふぁっしょん…?なんだこれは?

俺はその人形が投げてきた本を見てみたんだが…
この本…中に書かれているのが人形の服の写真ばっかりだったんだよ!!
人形に言われるがままに、この本を見てしまったわけだが…これが何だっていうんだ!?

「………」

正直、俺はこれが何を意味するのか全く分からず、人形の顔をちらっとみて、これが何なのかを判断しようとした
……だが、人形はそんな俺を期待するような…そんな目で見降ろしていたわけで…
しかしっ!!これが何なのかわからないと正直に答え…俺の満足できるような答えが果たして帰ってくるだろうか!?
俺は…帰ってこないと思うね…


「ねぇねぇ…黙ってないで、見た感想をおしえてよぉー?」
「ひぃっ!?え…えっとだな…あわわわっ…た、ただの人形の服のカタログだなと…」

言っちまった…もう、後戻りはできないぞ…
頼むっ!!神様仏様!!せめてもう少しだけ長生きさせてください!!
なんて心で願いつつ、俺は人形の次の出方を待ったんだ…


「……そうだよ?それでー…お願いはこれからなんだけど…」
「………な、なんだ!?お、俺に何を願いたいんだ!?どんな願いでも話だけなら聞いてやるから!」
「私に…服をプレゼントしてくれないかなー?お兄ちゃんからのプレゼントで契約が成立するんだけど…」
「けい…やく…だと?」

契約…俺はごく最近、その契約という言葉に騙されたばかりだということを思い出したんだ…
そのおかげで、今現在このような恐ろしい目にあっている…この言葉の意味、わかるか?
つまりっ!!この契約に俺自身が納得してしまったら、もっと恐ろしいことが起こるかも知れないってことさ!!
それに…契約の代金代わりに、お前の心臓をもらおうかっ!!とか言われて、殺されたらたまったもんじゃない!!


俺はそう判断すると、契約は拒否することに決めたんだ…
契約っていうぐらいだ…この段階では拒否することができるはず…だろ?
…ってか、もうそう思っておかないと俺に救いないよな…


「………それ、拒否させてもらってもいいかな?」
「……えっ?」
「……………と、とにかくっ!!俺は拒否させてもらうってことで!!じゃっ!!」

俺は人形にそう言い放つと、即座に自分の部屋から逃げようとしたんだ…
たぶん、あの人形も親父の部屋までは追ってこないだろうから…今日は親父の部屋で寝させてもらおう
えっ?そこは妹か姉を出すべきだろうって?生憎だったな…
俺は一人っ子なのさっ!!つまり、そんな出来事は起こらないのさ!
なんて心でマシンガンのようにまくしたてながら部屋を後にしようとしたときだった…


「待ったっ!!」


……っ!?くそっ…逃げ切れなかったか…!?
か、神様め…あんなに心をこめてお願いしたってのに…
はっ!?か、神様に恨みがあるわけじゃないですから、これからも俺を見放さないで下さいよ神様!?
……ふぅっ、危うく神様が愛想を尽かして逃げていく所だったぜ…
そんな気がしただけだけど…

とにかく…俺は呼び止められ、物凄くぎこちなく後ろを振り向いたんだ…
そこには、人差し指をこっちに突きつけて、闇の中で浮いている人形がいたわけだな…



「お兄ちゃんは私と契約しなきゃだめなの……わかるかな?」
「な、なんで?」
「それはね……契約してくれないと私がお兄ちゃんを…ふふっ…うふふふっ…」

ひ、ひえぇぇぇぇぇっ!?

俺は、人形が何かを言おうとしているのを、黙って聞いていたわけだけど…
なんで具体的に何が起こるのかを言ってくれないんだ!?
はっ…ま、まさか…わざと言わないで俺を恐怖のどん底に突き落とそうって考えなのか!?
ひぃぃぃっ…か、考えただけでも体の震えが止まらない!!
こ、こんな恐怖を味わうくらいなら、いっそのこと何が起こるのか言ってくれたほうがまだ気が…
いや待て…やっぱり駄目だ!!
聞いたら…聞いたらあまりの恐怖に泡を吐いて倒れてしまうかも知れないっ!!


……これは、話が通じる相手じゃないのかも知れない
俺がそう考えたのは、あの人形が俺に話しかけてから2分くらい経過したときだった…
正直、もっとこの結論には早くたどりついても良かった気がするけど…間違いないはずだ
なんていうか、俺の人間としての本能があの人形には勝てないって告げているんだよ!!
その場合、俺のような奴はどんな行動を取るか…?そりゃあ当然逃げるだろっ!!
一人よりも二人、二人よりもたくさんってねっ!!
……まぁ、世の中にはあの人形と正面からトークできるやつもいるんだろうが…俺は逃げたね
…えっ?お前もかって?それ、どういう意味だ?ま、まぁいい…


「お…親父ぃぃぃぃぃっ!!」
「あっ!!逃げたっ!!むぅっ〜…まぁ、いいか…お兄ちゃん、絶対に逃がさないからね…」


俺は人形が何か言っている間も、無我夢中で親父の部屋に駆け込んでいったんだ!!
そして、眠っている親父を無理やり起こしたんだ…

「親父!!大変なんだ!!起きてくれって!!」
「ぐおぉぉぉっ……母ちゃん、牛が…牛が人間になったぞ…ぐおぉぉぉっ…」
「あぁぁぁぁぁぁっ!!親父っ!!何、夢を見てるんだ!!起きろ!!」

……だ、駄目だ…こうなったら、アレしかない!!
俺は親父の部屋にあった机の上に乗ると、アレの構えをしたんだ…
当然、対象はいまだにのんきに寝ている親父…覚悟しやがれ!!

「うおぉぉぉぉぉっ!!起きろ親父っ!!フライング・オーバー・グラビティ……」

ゴスッ!!

・・・・・・

「あぎゃああああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁっ!!し、失敗した…う、腕があぁぁぁぁぁぁっ!!」
「……おめぇ、何してる?」
「………ぐおぉぉっ…お、おやじ…包帯と湿布とって…」

そして親父が包帯と湿布を取ってくれたあと…俺は親父にあの人形のことを話したんだ…
だが…親父の俺を見る目がかなり痛々しいものを見るような目になっていたんだ…
そうだ…読者のみんなは危険だから、決してフライング・オーバー・グラビティ・サンシャイン・ソーメン・アタックをしてはいけないぜ?
……えっ?そもそもそれが何なのか俺たちは知らない?あと、ネーミングセンスの無さに泣けてきたって?
…まぁ、何かって言われたら天○×字拳…えっ?知らない?そう…


「おめえっ…そんなことのためにおらを起こしたのか?せっかくうちの可愛い牛の乳姫がめんこい女性の姿になったって夢を見てたのに…」
「変な夢を見ている暇があったら、少しは息子を心配しろよっ!!」
「あぁっ…心配してるだ…お前の頭をな…」
「……お、親父…」

駄目だ…いくら説明しても、親父は俺の頭がおかしくなったとしか思ってくれない…
し、仕方がない!!こうなったら直接見せるしかないな…

俺は結果的にそう結論を出し、俺を冷やかな目で見る親父を押しながら自分の部屋に戻ったんだ!!
親父だって、紫色のオーラを出して宙に浮いている人形を見たら考えが変わるはずだ…
そう思い、親父の驚く顔を少し期待しながら部屋の扉を開ける…

「どうだっ!!これを見ても何とも思わないのか親父っ!!」
「お…お前っ!?こ、これは…!?」

ふっ…そうだっ!!もっと驚けっ!!
俺が恐怖に焦ったのと同じぐらい驚き、恐怖してもらうぜっ!!
なんて、そんなことを考えながら親父の後に続き恐る恐る部屋に戻る俺……
って、なんじゃこりゃあっ!?

そこには、部屋に浮いている人形なんて影も形もなかった…
その代わりあるものが部屋を占領していたんだ!
大量の人形サイズの服が部屋の至る所にばらまかれていたのだ!!
しかも…すべて女物っ!!
お、俺が親父を起こしに行っている数分の間に…
この部屋に何があったっていうんだ!?

「何が…何があっただっ!?熱か?仕事の熱で頭の中がおかしくなったのか!?えぇっ!?おらは…お前にそんな趣味があったなんて…」
「お、俺にもこんな趣味は無いよっ!!どうして俺が女性の服を大量に部屋にばらまかないといけないんだ!?」
「いんや…お前だったらもしかしたらもしかするかも……と、とにかく、明日は仕事を休んだほうがいいべ」
「……いや、だから…」
「心配すんなっ!!おらがいい精神病院を探してやっからっ!!お前は寝るっ!!いいな?」

そういうと、親父はさっさと自分の部屋に戻っていってしまった…
た、確かに…あの人形はここにいたはずなんだっ!!
それに…俺はこんな大量に人形物の洋服を部屋にばらまいた記憶もないし…
……疲れていたのか…?
いやでも…それで済むような問題でもないような気もするけど…

「疲れて…いたのかなぁ?精神的に…俺…」
「ねぇ…お兄ちゃん…?他の人に私のこと話したでしょ…?」
「ひっ…!?や、やっぱり気のせいじゃないっ!!」

……間違いないっ!!やっぱり、あの時の出来事は本当だったんだっ!!
となると、あの人形は…ど、どこにいるんだ!?

俺はあの出来事が嘘じゃなかったってわかると、すぐに部屋の中を見回したんだ!
正直、今はあの人形を目線の中に入れておかないと何が起こるか分かったもんじゃないって空気だからな…
だが…部屋の中を探してもどこにも人形はいなかったんだっ!!
いったい…いったいどこに…っ!?

「どこ…見てるのかなぁ?私は…お兄ちゃんのすぐ…真後ろにいるんだよ?
「……えっ…?」

真後ろ…だって?そ、そんなバカな…?
そう思い、恐る恐るまた振り向いて……

「ひどいよぉ…お兄ちゃん…私のこと、他の人に告げ口するなんてぇ…」

そう言いながら、俺にものすごく近づいてくる人形…
その人形が俺の顔とわずか数センチのところまで一気に近づいてきたんだが…
俺はその顔を見た瞬間、全身が凍りつくような感じに襲われたんだよ!!
なんていうか…恐怖の上位互換みたいな感じかな…?

その人形の顔には、物凄い量の血痕のようなものが付着していたんだっ!!
そして眼は鈍い闇のような黒色…口元は笑っていたわけで…
しかも、その人形が俺の顔を触った時、その手も血にまみれていて…

「ひゃ…ひゃわああぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁっ!?あ…あはっ…ひひっ…へはっ…がくっ…」

そして俺は、ひときわ変な叫び声をあげると、気絶したのだった…


「あれ…?お兄ちゃん…?どうしたのかなぁ?せっかく冷蔵庫の中から取ってきたイチゴジャムを食べさせてあげようと思ったのに……あむっ…うん、おいしい!」



翌日、俺は昼過ぎに親に起こされたんだ…
その時の俺は、なぜかイチゴジャムを顔にへばりつけて泡を吐きながら眠っていたらしい…
おかげで物凄く母さんに怒られたんだが、そんなことはどうでもいい!!
き、昨日の事を伝えないと…とにかく昨日のことを…

「か、母さんっ!!親父っ!!真面目な話が…」

俺がそう言いかけた時だった…
母さんと親父の後ろにあの人形がいたんだよ!!
床から約1mと56cmぐらいの位置に浮遊していたんだっ!!
思わず、昨日の恐怖を思い出して左手が震え始める…
そして、次の瞬間…またあの人形の声が聞こえてきたんだ!

「告げ口したら…お兄ちゃんのこと…滅茶苦茶にしちゃうかもねぇ…わかってる?」

ひぃっ…!?って、声に出して言っていたら、告げ口も何も無いんじゃ…
なんて俺はふと思ったが…それもいらぬ心配だった…
なんと!!その声は親父たちには聞こえていなかったみたいなんだよ!!
ってことは…この恐怖は俺だけが味わっていて…

「お兄ちゃんはまだ…契約してくれていないけどぉ…もう私、お兄ちゃんから離れるつもりもないからねぇ?」

「……ひっ…ひゃっははひゅあははうあはっ!!きひひひひひひっっくっくくくくっ…あひゃひゃはへははっ!!」
「おいっ!!ど、どうしたっ!?し、しっかりするだっ!!」
「あんたっ!!び、病院に連絡をっ!!早くっ!!」
「人形が…人形が…人形が…人形が…人形がぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

俺は人形が言った一言に、ついに心の中のどこかのネジが飛んでいくような音を感じ取ったんだ…
そして、言いようの無い恐怖と精神的ダメージが俺を襲い…
俺は気が狂ったかのように笑い始めたんだ
もう…いろいろな意味で駄目かもしれないって思い始めてきたね


それから、約一日が経過した…
俺は今…精神病院の一室でベットの上に寝かされていた
いったい、誰がこんなことになると予想しただろうか?
どうして俺がこんな目に会うんだ?
なんて、色々な事を考えもした…
だが、結局俺がこうなった理由は単純だ…
俺があの家に行ってしまったから…これがそもそもの間違いだったんだ…

「……ねぇ、お兄ちゃん?まだ起きてる…?」
「…ひぃっ!?ま、また…な、何が目的なんだよ!?もう…勘弁して…」

ついに、恐怖心が耐えられなくなり、俺は言葉に泣きが入ってきた
もう…もうこれ以上恐ろしい思いをするのは嫌だっ!!嫌なんだよ俺は!

「お兄ちゃん、あのね…その…怖がらせてごめん…私、実は…」

あれ…?どうして目の前の人形が泣き始めるんだ…?
泣きたいのは俺のほうだったのに…
それに、なんだ…?人形が…目の前で人形が泣いた…
ただそれだけで、さっきまでの恐怖が嘘のように晴れて行くんだが…
俺は突然の感情に正直戸惑いながらも、人形の話を黙って聞いていたんだ


「私…メイっていうの、私、半年ほど前にあの部屋で突然生まれたんだ」
「…突然…だって?」
「うん…私の持ち主の女の子が死ぬ間際に、物凄い強い感情を持ってて、その感情が微弱な魔力となって私の体に流れ込んできて…私が生まれたの」
「魔力…魔力かぁ…」
「お兄ちゃんは私が変なことを言っているって思う?」

正直、昔の俺だったら魔力の話を聞いた時、馬鹿にしただろう…
だけど…今は良くも悪くも、俺は魔力の話を信じたんだ
だって…いくら俺でも、実際に見たものを否定なんてできないからさ?
大体、人形が話しかけてくるこの状況、魔力って言ってくれないと俺の頭がおかしくなっちまったってことになるだろっ!!
ってわけで、俺は人形…メイに正直な答えを言ったんだ

「いや…たぶん、本当のことを言っていると思うな…見ちゃったし」
「それでね、最初は一人ぼっちでも全然さびしくなかったの…でも、だんだん耐えられなくなってきたんだぁ…独りで生きるのが…その時だったの、お兄ちゃんが狸のお姉ちゃんに連れられてこの家に来たのは…」
「…た、狸だってっ!?いや…あれは…」

俺をあの家に連れてきたのは人間だったんだけど…?
あれ…?でも、確かに普通では考えられないようなことがいくつか…
いやでもそんな馬鹿な話が…そんなおとぎ話みたいなことが…

「お兄ちゃん、実はお兄ちゃんが気が付いていないだけで…この世界には人間以外の生き物もたくさんいるんだよ?それに、最近その数は増加していっているのに…」
「そ…そうだったのか…」

…正直、頭でその事実(?)を理解するのには物凄く時間がかかりそうだ
まぁ、ここは一応わかったってことにしておいて…
なんて心で情報を整理しながら聞いていく…
正直、何もかもが急な話にも関わらず、あっという間になじんでいる俺…
あんなに恐怖におびえていたのに、今じゃあ普通に人形と話をしているってのは、自分で自分の適応力にびっくりだぜ…

「それでね?お兄ちゃんがあの家に住むことになったとき、一人で決めたの!お兄ちゃんを私のものにするって!それで…お兄ちゃんに契約をせまって…」
「その結果が今の俺か…いや、本当に怖かったからさ…」
「私、一人はもう嫌だったから、それでお兄ちゃんと一緒に生活したら一人ぼっちはないし、それにたくさんのお洋服も着れるかなって思って…」

……あの大量の洋服には、そんな意図が隠れていたのか…
この人形もなんだかんだで大変だったんだな…
なんて、俺の心の中で不思議な感情がだんだん表に向かって広がり始めたんだ
これは…俺はこの人形のことがだんだん好きになっている…のか!?
ま、待て待て…さすがにこの年でお人形遊びはちょっと…
えっ…?違うだろうこの馬鹿って?
……本当に、容赦のない一言ですね…別にいいっすけど…

「でも…もう、お兄ちゃんに迷惑をかけるわけにもいかないから…じゃあね」
「……えっ?」

人形はそう告げると、いきなり俺の目の前からまるで霧のように姿を消してしまったんだよっ!!
いきなり身の内を告げられて…ようやく恐怖もなくなって普通に話せたのに……さよならかよ!?
……じょうだんじゃない!!

俺は心の奥のほうで必死に叫んでいる自分の心に全身で応え、病室を飛び出した…
向かう先は自宅…あの人形…マイがはじめに訪れるとしたら、あそこなんじゃないかって…そんな勘だけで必死に走っていたんだよ!
病院用のスリッパを履いたままだから物凄く走りにくい…
だけど!!それでも俺はただ無意識に走り続けていたんだ!!
いまなら…いまならまだ…

「……マイ?じゃあねって言って、実はさみしくてここに戻っているんだろ?」

そう言いながら、部屋の中で必死にマイを探す俺…
えっ?人形におびえていた奴と同一人物とは思えないって?
……今の俺も、あの時の俺も、まぎれもなく俺だよ
でもな、その時に何を考えていたかで人間の行動ってのは大きく変わると思うぜ?少なくとも俺は…な?

だが、どれだけ必死に探してもマイはいなかったんだ…
マイを初めて見つけたあの家にも行った…だけどマイはいなかったんだよ

「・・・・」

その時の俺は、何かが心の中から抜け落ちたかのように、無言だったんだ…
そして、ものすごく後悔した…
どうして…どうしてあの時にあれほど怖がってしまったのか…
もし、互いに自分自身の心の内を話していれば、今のこの空虚感はなかったんじゃないかってね…?


あの出来事があった日から、4年が経過した冬のことだった…
あの時あった出来事は、少なくとも俺の人生を大きく変えたんだよ!!
そして、世界も大きく変化を迎えたんだ

えっ?どんな風に変わったかって?まぁまぁ、そんなに急かさないでくれ…
えっとまずは…俺の人生からだな…

あれから4年、俺はメイと出会ったあの家で、物凄くこぢんまりとした店を開いていたんだ…
その店は、人形の洋服の専門店…そう、俺は結局自営業を始めたわけだな
はじめは、まったくお客さんも来てくれなかった…
今時、人形の洋服や和服の専門店で服を買う人なんて限られていたから、生活だって大変だった…
バイトをいくつも掛け持ちし、生きるためにがむしゃらになってやったさ!
そして…世界が大きく変わったあの日を境に、俺の職も安定してきたってわけだな

そして、4年の間に世界に何が起こったか…俺が知っている限りで説明すると…
世界は、魔物娘の波に覆われた…といったところだろうか?
何の前触れもなく、ある日突然…世界中のあらゆる場所に人ではない人たちが現れたんだ!
はじめ、人間は彼女たちを警戒して何度も抗戦していたんだけど…
2年前に、人間と魔物たちの間で共存条約が結ばれたんだ
今じゃあ、魔物娘がいるのが当たり前のような世界になった…
まさに世の中は性欲入り乱れる荒波のようになったってわけだ

そして、その出来事がどうして俺の仕事に安定を与えたのか…
理由は大きく分けて三つあるんだ
一つ目は、普通に一般人が人形という文化に興味を持って買ってくれるようになったから…
二つ目は、魔物娘たちの間で、特に高貴な種族はお人形を大切に扱うから…
三つ目は…メイのような魔物娘たちが生まれ、人間と彼女たちがファッションとして買っていくからだ
つまり!!
お人形の洋服が馬鹿みたいに売れるってわけだな!!
おかげで、バイトをかけもちせずとも、やっていけるようにはなったんだが…

「すいませーん、このドレスなんですけど…このレース部分をもうちょっとふわっとした感じにしてもらえませんか?していただけたら、買いたいんですけど…」
「あっ…はい!えっと、それじゃあこの名簿帳にサインと連絡番号を…」
「ちょっと…せっかく私が朝にお店に来ているというのに…まだ注文のドレスはできていないのかしら?ここの主人は私に血を吸われて、干物にでもなりたいのかしら?ねぇ…そこんとこどうなのよ?」
「は…はぁっ…恐縮です…後一日だけ待っていただけたら…」

はっきりと言おう…俺一人でやっていくには、少々お客さんが来すぎている!
来ないときは本当に来なかったのに…どうなってやがる!?
俺はそう思いながら、必死に仕事を片付けていく…
そして、お客さんの波が途切れた時だった…

「すみません、いつもいつも…お世話になってます」
「あぁっ!!これはどうも…あっ!!奥様の着ているその服は…」
「ここで購入させていただいた物です!!本当に、その節はわがままを聞いていただけて…」
「いえいえ…仕事ですから…」

そういいながら、俺は店に入ってきた夫婦と親しげに話していたんだ
この人たちは、かれこれ二年前からずっと通ってきてくれているお得意様だ
こういった人たちを大切にしていかないといけないって思っているから、なんだかんだで気を使っているんだぜ?
それで…今日はどんな服をお求めなんだ?

「それで、今日はどのような服をお探しで…?」
「すみません、実は僕たち…ついに結婚するんですよ!!といっても、家族間でやる小さな式にするつもりなのですが、せめてその時に妻にウエディングドレスをと思いまして…」
「ほぉっ…結婚ですか…わかりました、それで…どんなウエディングドレスを作りましょうか?」

なんて俺たちが話していた時だった…
いきなりその奥さんがカウンターの奥にあるガラスケースを指差したんだ
あ…あの商品は…

「私、あれがいいです!!あの服にはあなたの強い思いが込められているのでしょう?ですから…」
「すみません…あれは売り物じゃないんですよ…」

彼女が指さしたガラスケースの中には、確かにウエディングドレスが入っていた…
だけど、俺はそのウエディングドレスだけはどうしても売るわけにはいかなかったんだよ!
彼女が言った、俺の強い思いが込められている服ってのはあってる
俺はあの服に、物凄く特別な感情を込めたんだ、だからこそ…あの服だけは売れないんだよ!!

結局、最後にはその人も納得し、俺は新たにウエディングドレスの制作仕事も受注したのだった…
そうこうしているうちに、もう4時だな
いやぁ…本当に、時間がたつのは早いもんだぜ…
って、悟っている場合じゃないな…

「よいしょっと…さて、店じまいでもするか…」

俺がそう呟き、店を閉めようと表に向かった時だ
いきなり俺の店の扉が勢いよくあいたかと思うと、女の子が飛び込んできたんだよ!!
おいおい…確かに閉店間際だったけど、言ったらちゃんと開けてあげたのに…
なんて思いながら、俺は少女が中に入ってきたのでカウンターに戻っていった
相手が子供でも、この店では立派なお客様だ…
それで、要件は何なんだ?

「おじさんっ!!あのね…お店の前で、このお人形さんがねっ!窓に張り付いて中を見てたんだ!!だから、この子はきっとこのお店に入りたかったんだと思うの!!だから、受け取って!!乱暴に扱ったらだめだよ?じゃあね!」
「ちょ…君っ!!って…行っちまったか…」

まるで、嵐のような女の子だったな…
それはさておき、お人形さん…か…
見れば、少女の持ってきたお人形は洋服も物凄くボロボロだった
……仕方がないな、新しい服でも作ってあげようか
そう思って、うつぶせになっている人形を持ち上げた時だった…
俺はものすごく顔を赤らめている人形と目があったんだよ!!
そして…その人形を見たとたんに、俺の心に失われていたものが物凄い勢いで戻ってきたんだ!!
その人形は…俺の人生を大きく変え、俺がずっと待っていた人形…
マイだったんだ!!

「あううぅっ…お、お兄ちゃん…そ、その…久しぶり…」
「あぁっ…あぁっ!!マイ…ちょっと俺を待たせすぎなんじゃないか?」
「だって…もう二度と会うつもりはなかったもん…だから…」
「二度と会うつもりはなかった…?つれないことを言わないでくれよ!!」

そういいつつ、俺は彼女に渡すあるものを取り出したんだ…
俺がこの店を始めてから、初めて作った作品で、今の俺の作品の中ではあまり綺麗な出来ではないけど…それでも、俺はメイにこの服を受け取ってほしかったんだ

「なぁ…まだあの時の、契約の話は残っているかな?」
「…えっ?お兄ちゃん何を…?それって…」
「えっと…あーー…そのだな…」

駄目だ、マイに渡そうとしている物をカウンターの下に隠しながら、俺は次の一言が言えないでいたんだ
これまで4年間も待っていた…マイがいなくなったあの日、強く思った感情なのに、いざその時になると…いえないもんだよなぁ…

「契約したら…ずっと私と一緒なんだよ?おにいちゃん、それが嫌だって…私が怖いって言っていたのに…実は、無理しているんじゃないの?」
「それは無いっ!!あの時の俺は…間違っていたんだよ」
「……それに、お兄ちゃんってロリコンさんでしょ?私…何日かお店の外からお兄ちゃんを見てたけど……私、余り幼児体型の人形じゃないし…」
「んなっ!?ろ、ロリコンっ!?」

いやいやいや…俺はロリコンじゃない!!仮にそうだとしても、ロリコンと言う名の紳士だよっ!!
……じゃなくてっ!!俺の仕事上、確かに幼児体型の子とよく会いはしたけど、そもそもお客さんだし!!
俺…子供体型よりも同級生体型若干下ぐらいが…

「幼児体型じゃないこの私でも…いいの?」
「俺は、幼児体型だろうが大人体型だろうが、お前を愛するつもりだよ…その気持ちに嘘はない!!だから…えっとその…」
「……?」
「これ、正式に受け取ってくれないか?」

やっと、俺は自分の言いたかった言葉、そして渡したい物を渡すことができる状況になったんだ
俺はメイに、あのウエディングドレスを手渡していたんだった…
そう、あのドレスはメイのために…俺が全力で作ったものだからさ?

「えっ…?えぇっ!?お、お兄ちゃん、これ…」
「これが本当の俺の気持ちってやつさ…で、いいかな?」
「うんっ!!私こそ…お願いします…じゃあ…契約を…」

…そういえば、契約って何なんだろうか?
かなり昔から、気になっていたことなんだけど…

「ところでさ…契約って何なんだ?」
「えっ…そ、そのぉっ…性交…きゃっ…恥ずかしいっ…♥」

なん…だと…?
さすがにいくら適応力の強い俺でも、その言葉には簡単に適応できないぞ!?
だが、俺がその言葉の意味を理解するのとほぼ同時ぐらいに、俺の視界はメイのスカートに覆われてしまったのだった!

「ふむぅっ!?むぅぅっ!?」
「ふふっ…お兄ちゃんったら、そんなに興奮しちゃって…」
「っ!?むぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」

そして俺の青春は人形に捧げられてしまったのだった…
えっ?肝心のエロはどうしたエロはって?
……そりゃあ、タグを見てくれたらわかるとおり、カットされたにきまってるじゃないか!!
この作者にエロを期待するのは、そもそもの間違いなんだぜ?
しかし……なかなか、強引な卒業も悪くなかった…とだけ言っておこう…
若干、搾り取られすぎて干物になりそうだけど…な…


そして、それから俺は今までと同じで、でも変化のある生活を送り始めたのだった…
今も、お店の方は忙しいけど、今は最高のパートナーがいるしな?

「お兄ちゃんっ!!お客さんだよーーっ!!」

おっと…もうそんな時間か…
じゃあ、俺は今から仕事の時間だから…
今まで俺の話を聞いてくれて、本当にありがとうな?
俺は読者の諸君にそういうと、メイのところに行ったのだった…
さて、今日はどんな出来事があるんだろうか?


            END
13/07/18 20:32更新 / デメトリオン mk-D
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■作者メッセージ
どうも!!
ふぅっ…なんとか終わらせることができました!!

……えっ?エロはどうしたって?
それは…まぁ軽く流す方向でお願いします
そして、今回も友人に頼み込み、絵を描いていただきました
色塗りは俺が1ドットずつぽちぽちしていったので、あまりいい出来ではないですが…(もしかしたら、塗る前のほうがきれいだったか…?)
まぁ、おまけ程度で見てやってくださいw

さて、次回から…あのシリーズ物を復活させようと思います!!
デメトリオ達の活躍が帰ってきますよ!!
ってわけで、前回の時より少し変更点も加えて戻ってくる作品…
お楽しみに!!

そして、全編見てくれた人や、今回の後編だけを見たんだよ馬鹿って方も…
こんな作品を見てくださり、本当にありがとうございました!!

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