連載小説
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聖剣の実態
 本屋を出たオレとベルは気分転換に喫茶店に来た。
「2人でこういう所に来るのも久しぶりね」
 席に案内されたベルはしみじみとつぶやいた。
「そォだな。今まで鍛錬ばかりでンなヒマなかったからよ」
 教団のやつらってオレたちに魔物を殺させるために徹底的にしごきやがるンだよな。まァ教団を潰すのに力をつける必要があるから仕方ネェけどよ。
「…それにいつもあの娘たちがいたからね」
 ベルは複雑な顔をして歯切れ悪そォに言った。
「どォした?いつもオレの近くにいたのはお前だけだったのに、急にクリスとデビーが入ってきたから戸惑ってるのか?」
 オレがそォ言うとベルの顔が赤くなった。
「にゃ、にゃに言ってるのよ。そ、そんにゃわけないじゃにゃい」
 …ベル。そんなカミカミで髪から火花飛ばしながら言っても説得力ネェぞ。
「…うー。何であんたはそんなに鋭いのよ!」
「さァな。まァ鈍すぎるよりはいいンじゃネェの?」
 よく本とかでものすごく鈍感な主人公がいるが、あそこまでわかりやすくアプローチしてンのに気付かれネェのってあまりにも報われなさすぎだろ。
「そうかもしれないけど…。あまりにも読まれるのもちょっとね」
 女心っていうのは複雑なンだな。まァあまりにも見透かされ過ぎるのもあれっていう気持ちはわからなくもネェゼ。

「あのー。ご注文はお決まりでしょうか?」
 そんなことを話してるとウェイトレスが注文を取りにきた。
「えっと、オレンジジュース」
「ぼくはコーヒーで」
 ウェイトレスが注文を取ってからしばらくしてコーヒーとオレンジジュースが来た。
「あんたコーヒーなんて飲めるの?」
「…砂糖入れたらいけるだろ」
 試しに角砂糖を入れて飲んでみたがやっぱり苦かった。さすがに7歳じゃ早すぎたか?
「…少し私の飲む?」
 ベルはそォ言ってオレに飲みかけのオレンジジュースを差し出した。
「おお。悪ィな」
 オレはベルから受け取ったオレンジジュースを飲んだ。…ン?
「なァ、これって間接キスだよな?」
 オレの言葉にベルは一瞬固まった後、顔が真っ赤になった。
「あ、あんた気付いてたんなら先に言いなさいよ!」
 ベルはオレを潤ンだ目でにらみつけながら言った。
「仕方ネェだろ。今気付いたンだから」
「だったら飲む前にちゃんと考えなさい!」
 ムチャクチャ言いやがンなこいつ。照れ隠しするにも程があるゼ。
「…とりあえず飲ンじまおうゼ」
「そ、そうね」
 ベルは顔を赤くしてオレンジジュースを飲み干した。

 周りの生暖かい視線に見送られながらオレとベルは喫茶店を出た。
「…これからどうする?」
 ベルはどこか気まずそうに言った。
「…。とりあえずあいつらにお菓子でも買うか。お土産がネェと確実に拗ねるからな」
 デート中に他の女のことを考えるのはあまりよくない?しょうがネェだろ。他に話題見つからなかったんだからよ。
「…そうね」
 ベルはぎこちなく笑った。どォやら少しは気が紛れたみてェだな。

「ちょっと聞きたいんだけど君ってこの国の勇者かい?」
 いきなり話しかけられたから声がする方を向くと、サングラスをかけてるのにも関わらずものすごく人がよさそうな男がいた。
「いえ、中立の村から来ました。まあ勇者に選んだのはこの国ですけどね」
 正確に言うと村を襲った罪を魔物に着せて都合のいい道具にしようとしてるって言った方が正しいンだがよ。
「…そうか。君もぼくと同じなんだね」
 グラサン男はかなり暗い顔をした。
「ということはつまり、あなたも故郷をやつらに滅ぼされて勇者になったんですか?」
 その優男が勇者だとわかったのは腰に聖剣を差していたからだ。聖剣はムダに神々しい気配を発してるからすぐにわかるンだよ。当然シンカは例外だけどな。

『…何かバカにされた気がする』
 頭の中でシンカの不満そォな声が聞こえてきた。
『気のせいだろ。所であの聖剣何かわかるか?』
 オレはシンカに念話で話しかけた。まだうまくは使えネェが腰に差してあるシンカとだけは念話できるよォになった。
『んー。見た所今の城塞国家メルケデに派遣された子みたいだね。確かものすごく激しく光る能力を持っていたような気がするよ』
 目くらましか。地味にイヤな能力だな。…ン?もしかしてこいつがサングラスかけてるのって自分の目もくらむからか?もしそうだとしたら使い勝手悪すぎだろ。
『ふん。どうせ使い勝手悪いですよーだ』
 ふと頭の中にシンカとは違う声が響いた。オレはグラサンに目を向けた。
「ん?どうかしたかい?」
「いえ、何でもありません」
 …どォいうことだ?何で持ち主にも聞こえネェ聖剣の声がオレに聞こえるンだよ?
『あー。そう言えば聖剣と心を通じ合わせたら他の聖剣の声も聞こえるようになるって聞いたことがあるよ』
 マジか。じゃあ何であのスペア未満の時は何も聞こえなかったンだ?
『確かベーシクって誰にでも使えるようにするために感情がほとんど与えられてないらしいよ。だから所有者が傷つけられてても何も反応しなかったんじゃない?』
 へェ。聖剣にも色々あるンだな。

『そりゃ心を通じ合わせられるわけネェよなァ。グラサンの故郷を襲ったのが教団だってバレたら困るしよォ』
『ギクッ。な、何のことでしょう。ピューピュー』
 ギクッて口で言って吹けもしネェ口笛をしようとしてごまかせると思ってンのかこいつ?
『ごまかしたってムダだよー。マスターは最初から全部知ってるからね』
『そうなんですか?!じゃあ何で教団に従ってるんです?』
 聖剣は不思議そォに聞いてきた。
『決まってンじゃねェか。−−−自分たちで敵を育て上げさせた方が屈辱を与えられるからだよ』
『…最低ですねあなた』
 聖剣が怒ったよォな声で言った。
『最低で結構。それで教団を潰せるなら問題ネェよ』
『…そんなこと私が許すと思いますか?』
 聖剣はものすごく冷たく言った。
『別にテメェに許してもらう必要はネェよ。大体許さなかったらどォなるって言うンだよ?魔物が故郷を滅ぼしたと知った時点で裏切る持ち主にでも泣きつくのか?』
『そ、それなら天使に伝えれば』
 聖剣は希望を持って言った。
『あァ知らないのか。−−−今主神の味方をしてる天使なンざこの世界に1人もいネェぞ』
『?!そ、そんなバカなこと信じられません!天使は神の眷属ですよ?!主神を裏切るわけないじゃにゃいですか!』
 今明らかに噛ンだなこいつ。いくら何でも動揺しすぎだろ。
『別に信じなくてもいいゼ。ま、せいぜいグラサンが教団の敵になるのを黙って見てるンだな』
 オレはそこまで言って聖剣との念話を切った。

「それじゃそろそろ行くよ。君のためにも1人でも多くやつらを倒してこないといけないからね」
 グラサンはそォ言って歩き出した。ン?聖剣としか話してなかっただろうって?一応グラサンとも会話してたぞ。どォでもいいから適当に流してたがよ。
「そうですか。がんばって下さい」
 オレは適当に受け流した。
「ああ。また会おう勇者ハインケル」
 グラサンはそれだけ言って去って行った。

「やっぱりあたしたちと同じ境遇の勇者もいるのね」
 ベルは悲しそォな顔で言った。
「まァ少数派だろォよ。ほとんどの勇者は教団の教えを鵜呑みにしてるだけだろォしな」
「そうだろうけど…。やっぱり教団に故郷を滅ぼされた上に利用されてる人がいるのは悲しいわ」
 ベルはうつむきながらそう言った。
「だったら裏切る時に教団が滅ぼした所の情報をうまく流せばいい。その時にそォいう勇者がいたらきっと裏切ってくれるはずだろォさ」
 オレがそォ言うとベルは苦笑いを浮かべた。
「あはは。あんた相変わらずえげつないわね」
 ひでェこと言うな。まァ少しは気がまぎれたみてェでよかった。

          つづく
11/11/15 23:58更新 / グリンデルバルド
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