連載小説
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城下町
 今日は珍しく訓練が休みになったからベルと一緒に城下町に行ってみることにした。理由はクーデターを起こすのはイザベラだが一応知っておいた方がいいと思ったからだ。それにあいつが町を探るにしても限度があるしよォ。
「ふーん。あんなのが治めてるわりにはにぎわってるじゃない」
 町の様子を見たベルはそうつぶやいた。
「他の反魔物国家からくるやつら多いからじゃネェか?腐っても魔界の門とか言われてる所だしよ」

『きゃははは。それじゃマスターがこの国変えたらみんな路頭に迷うんじゃない?』
 何でそンなに嬉しそォなんだよシンカ。やっぱり歪ンでるなこいつ。
「……」
 シンカの言葉にベルはうつむいた。
「シンカの冗談を真に受けンなよベル。反魔物国家じゃなくなったら魔物とか他の親魔物国家と交流すりゃいい話だし、何よりあのデブがいなくなりゃ人々が虐げられることもなくなるだろォさ」
「…それってあの姫が次の王位につくから?」
 ベルはなぜか複雑そォな顔をして言った。
「多分あいつは王位につかネェと思うぞ。イザベラはどォ考えても黒幕タイプだ。あいつならきっとビビリ王子を王位につけて裏から好きなよォに操るだろォさ」
 オレがそォ言うとベルはなぜかジト目でにらんできた。
「へー。ずいぶん姫のことよくわかってるじゃない」
「あァ。大切な友達だからな」
 オレがそォ言うとベルはふくれっ面をした。あァ。いつものヤキモチか。
「あンまりヤキモチやくなよ。お前はオレの大切な幼馴染で大事な仲間なンだからよ」
 オレがそォ言ってほっぺたをつつくと、ベルはぷしゅーっと息を吐き出しながら顔を赤くした。
「べ、別にヤキモチなんかやいてないわよ!それと勘違いしないでよね。大切な幼馴染なんて言われて喜んでなんかいないんだから!」
 いつも通りのツンデレだな。どォやら調子を取り戻したみてェだ。
「はいはい」
 オレは優しくベルの頭をぽんぽんと叩いた。
「むー」
 そォやってうなるベルの口元は少しにやけていた。

「でも第二王子残しておいていいの?後でやっかいなことになるんじゃないかしら」
 ベルが不思議そォな顔をして聞いてきた。
「あいつは自分の力がわかってるからムダなことはしネェよ。逆らった所ですぐ潰されるだけだしよ。それに情報がネェイザベラよりはビビリ王子の方が敵を油断させられるからよ」
「…まああのビビリ具合じゃね」
 ベルはしみじみとつぶやいた。
「暴政を行うデブよりはマシだろ。ミニブタも論外だし、薄らハゲは自分の権威を広げることにしか興味がネェ。その点ビビリ王子は自分の意思で権力を振るわネェから操り人形としては丁度いいンだよ」
「なんで自分からは権力振るおうとしないのよ?」
 ベルは首を傾げながら言った。
「力を振るって恨みを賈ったら自分に返ってくるのがわかってるからだよ。それが怖くて力を振るえネェってわけさ」
「…力を好き勝手振るわないだけマシだけど王の器じゃないわね。でもだからって操り人形にするのはどうかと思うわよ」
 ベルは呆れたよォに言った。
「別に問題ネェだろ。操って悪政を行うわけじゃネェンだからよ。民にとってはちゃんとやってくれりゃ誰が政治を行っても構わネェだろォしよ」
 オレの言葉にベルは苦笑した。
「確かにそういうものなのかもね」

「それにしてもデビーとクリスも残念よね。せっかくの休みなのに騎士やシスターの間で情報収集することになるなんて」
 そォなったのは城下町に行くって言ったら誰がオレと一緒に行くかでもめたからだ。そこまでオレとデートしてェモンなのかねェ。結局最後はくじ引きで決めたンだがよ。
「まァくじを引けなかったンだからしょうがネェだろ。例えイカサマだったとしてもな」
 オレの言葉にベルの顔が赤くなった。髪の毛からは火の粉が飛び散っている。なぜかベルは感情が強くなると髪からちょっとした魔法が出てくるようになった。例えば怒った場合は放電、軽蔑とかなら雪の結晶とか言った感じだ。今は火の粉だから恥ずかしいって所だろォよ。
「あ、あたしがあんたとデートするためにイカサマなんかするわけがないじゃない。それに全部に印がついてたわけでもないし、あたしが最後に引いたんじゃない。どうやってイカサマしたって言うのよ」
 ベルはそォ早口でまくしたてた。
「…転移魔法」
 オレの言葉にベルはビクッと反応した。
「転移魔法は空間を認識して物を移動させる魔法だ。お前はそれで当たりくじの位置を把握して、2人が引きそォになったら外れくじにすりかえたってわけだ」
 オレがそォ指摘するとベルの髪の毛から闇が吹き出した。
「…あたしのこと嫌いになった?」
 ベルはものすごく不安な顔をして聞いた。
「別に?使えるモンを使うのは当たり前だし、相手にバレてなけりゃイカサマにはならネェしよ。それにオレたちはもっとひでェことをやるつもりなンだゼ?こンな小せェイカサマでいちいち嫌いになっててどォすンだよ」
 オレはベルの頭をくしゃくしゃとなでた。
「それにバレネェレベルにまで転移呪文の精度が上がったのはうれしいしよ。もちろんそこまでしてオレと一緒にいたいと思ってくれたのもうれしいけどよ」
 オレの言葉にベルの頭から文字通り水蒸気が立ち上った。
「…バカ」
 そォいうベルの声はどことなくうれしそォだった。

「そう言えばハインケルはなんであたしがイカサマしたってわかったの?」
 城下町をうろついてるとベルがそンなことを聞いて来た。
「ちょうど物の動きを感知する練習をしてたからな。どォ動くかわからネェと動いてるモンなンて操作できネェだろ」
「それでくじが入れ替わったことに気付いたのね…」
 ベルはそォ言って溜息を吐いた。
「まァ次からはあまりやらネェ方がいいゼ。たまたまバレたのがオレだったからよかったンだよ。もしあいつらにバレてたらかなりやべェことになってたかもしれネェぞ」
「あ、あはは」
 ベルは引きつった笑いを浮かべた。まァ最近あいつらかなり強くなってきたからな。特にクリスは怒らせるとどンな呪いが飛んでくるかわからネェしよ。
「まァとりあえずせっかくのデートなンだし楽しもォゼ」
「だ、だからデートってわけじゃ」
 オレはそォ言って顔を赤くするベルと一緒に大通りの方に向かった。

 オレたちは最初に本屋に向かった。魔界の門と呼ばれる所だから掘り出し物の魔道書でも見つかると思ったからだ。
「やっぱり品揃えがいいわね」
 ベルはそォ言って目を輝かせている。ベルは魔法を習ってるうちにすっかり魔道書にはまっちまったらしい。まァ別に問題ネェけどよ。むしろこれからのことを考えると好都合だ。興味持ってる方が魔法覚えるのも早くなるだろォしよ。
「ねえハインケル。これなんていいんじゃない?」
 ベルがそォ言って差し出して来たのは通信用の魔法がまとめてある魔道書だった。見てみると念話や遠距離との通信だけじゃなくて傍受とか妨害とかもあった。
「へェ。こりゃいいの見つけたじゃねェか。えらいぞベル」
 オレが頭をなでるとベルは目を細めた。
「ふふん。当然よ」
 ベルは得意げに胸を張った。

 ひとしきりベルの頭をなでてから本探しを再開した。戦術書の所を見てみるとモウトク新書という本が目に留まった。霧の大陸に伝わるサンゴクシに出てくるソウソウという王がソンシという兵法家の兵法書に注釈をつけたものだ。でもこれってソウソウ自らの手で燃やされたって話じゃなかったか?まァレプリカか、後で新しく書き直したっていうならわかるけどよ。
「へえ。ジパングの魔法ってこっちとは違うのね。何かに使えるかも」
 ベルはそォ言って目を輝かせている。オレは他にいい本がないかと探していたら児童書の売り場が目についた。
「…」
「ねえこれ見て…どうしたの?」
 オレは児童書の売り場を指差した。
「児童書?それがどうし」
 ベルはそこまで言って口を閉じた。そりゃ旧世代の魔物が載ってる魔物図鑑とか、魔物を倒す騎士の話ばかりあったらそォなるだろォよ。
「徹底してやがンな教会は。ガキの頃からデタラメな知識を刷り込ンでるなンてよ。実際に魔物を見る機会がネェからよけい魔物が悪だって思い込むってわけだ」
「…本当に腐ってるわね。この国の人々が自分たちが騙されてるってわかる日は来るのかしら?」
 ベルは悔しそォに言った。
「教会が真実を教えることはネェだろォさ。だからオレたちが明らかにしなきゃならネェンだよ。教会のやり方がどれだけ汚ねェのかをよ」
 オレの言葉にベルは深くうなずいた。

         つづく
11/09/11 20:04更新 / グリンデルバルド
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■作者メッセージ
更新が遅くなってすみません。次はもっと早く書きたいです。

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