読切小説
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もしノワ裏話
−−−あの、あなた冒険者のロキさんですよね?
「そうだけど。あんた誰?」
−−−日刊予見者新聞の記者です。今日勇者を倒したことについて聞きたいんですけどお時間はよろしいでしょうか?
「いいよ。特に予定はないしね」
−−−ありがとうございます。では質問させていただきますね。今回の勇者はどうでしたか?
「力だけなら間違いなく今までで最強だったよ。『悪逆勇者』まで含めると話は別だけどさ」
−−−そういうのは攻撃させてなくても分かるものなんですか?
「あー。あんたあの場にいたんだ。まあ普通はそう見えるよね」
−−−?どういうことですか?
「…実はあの勇者ちゃんと攻撃してたんだよ」
−−−え?でも攻撃してないようにしか見えませんでしたよ。
「そりゃそうだろうね。あの攻撃はリリムですら攻撃したことすらわからないって設定だったし。見えたのはボクが鍛えてるスピードに目が慣れてる娘たちくらいだろうね」
−−−え、えええええ?!な、何でそんな攻撃されたのに平気なんですか?!
「そんなの全部避けたからに決まってるじゃん。でもちょっと危なかったよ。少しタイミングがずれてたらかすってたかもね」
−−−いやいやいや。そんな攻撃されたら普通かするどころか細切れにされてますって。というかどうやってリリムにすら見えない攻撃を全部かわせたんですか?
「そりゃ見えてたからだよ。ボク動体視力いいからね」
−−−…それもう動体視力いいとか言う次元じゃないですよ。あれ、でもロキさん避ける素振り見せてなかったですよね?
「そりゃ避けたことすら分からないスピードで避けたから当然だろうね」
−−−…もうつっこまないことにします。
「ま、それが賢明だろうね」

−−−あの、まさかとは思うんですけどあの勇者が手を前に出した時何か呪文唱えてたんですか。
「うん。そのまさかだよ。確かあっちでは『風の斬撃』とか言う名前になってたかな。目に見えないかまいたちで相手を切り裂く呪文だよ」
−−−…さっきから設定だとかあっちだとか一体何の話をしてるんですか?
「ああ、それはあまり気にしなくていいよ。それよりもっと聞くべきことがあるんじゃない?」
−−−それもそうですね。何でそんな魔法唱えられたのに当たってないんですか?まさか動体視力とか?
「さすがにそれはないよ。目に見えないのに動体視力もクソもないよ」
−−−ですよねー。じゃあどうやってですか?
「どうやってって言われてもねえ。右手に魔力が集まって凝縮されて放たれるのを感じたからその魔力の流れを感じた所を反射的にヘルで斬ったとしか言えないんだけど」
−−−えええええ?!え、何でそんなのわかるんですか?!
「何でって言われても困るんだけど。昔からそういうのに敏感だったからとしか言えないよ。インキュバスになってからは特にね。まあだからこそチートを真正面から叩き潰すなんていう似合わないマネをしちゃったんだけどさ」
−−−…?どういう意味ですか?

「実はベントルージェに攻めてきたのは勇者だけじゃなかったんだよ。他の教団のやつらも後ろで待機してたんだ」
−−−え、ええええええええええ?!じゃ、じゃあ何で出てこなかったんですか?!
「多分あの勇者に強そうなやつを倒させて、後は自分たちで攻めて手柄にしようとしたんじゃないかな。その方が教団は余計な兵力使わないで済むし、勇者も足手まといがいなくて楽だからね」
−−−あー。つまり勇者がロキさんに手も足も出せてないように見えたからビビッて逃げたわけですね。
「まあ正直不安だったけどね。あの勇者からかなりの力を感じたからね。でも相手の攻撃を避けた時に思ったんだ。…このスピードなら攻撃されてないように見せつつ相手を痛めつけられるってね」
−−−ロキさんにしかできない発想ですね。じゃあ相手に魔法を使わせたのは何でですか?
「野次を飛ばされまくってるのを見て少しかわいそうになったから力を見せる機会を与えてあげようと思ってね。それなのにあの勇者わざわざ見えない攻撃魔法使ってくるとかありえないよ。異世界のジパング人ならちゃんと空気読んで欲しいよね」
−−−…あの勇者も哀れですね。チート過ぎるばかりにザコキャラとしてしか認識されないなんて皮肉な話です。
「まあ確かにチート過ぎたから見えなかったのは確かだね。でも逆に言えばチートが足りなかったから見えなくても攻撃してることを理解させることができなかったとも言えないこともないよ。どちらにしてもあの勇者の敗因はチートを手に入れただけで満足したことだろうね」
−−−え?どういうことですか?
「力って言うのはただあればいいわけじゃない。その力をどうやったらもっと伸ばせるか、どうやって使えばいいか。それを考えないと自分より強い相手には絶対に勝てない。あの勇者は力があるだけで満足したからボクに勝てなかったんだよ。あんなド素人のおっさんに倒せるほどボクは甘くないからね」

−−−やっぱりすごいですねロキさん。そんなロキさんでも弱点とか欠点とかあるんですか?
「弱点は防御力の低さかな。ヘルの鞘を鎧化したりシャイナの結界を張ったりする場合は別だけど基本的に当たれば普通にダメージは通るよ。欠点はやっぱりパワー不足かな。インキュバスになったから少しはマシになったけど力仕事は苦手なんだよね」
−−−なるほどー。あれ?でもあの勇者を普通にふっとばしてましたよね?
「あれはスピードと魔力と気を一撃に炸裂させてたからさ。タイミングが少しでも狂ってたらあそこまで威力は出ないよ」
−−−技術でカバーしたわけですか。それにしても当たれば普通に効くのはわかりましたけど、そもそもどうやったら攻撃を当てられるんですか?
「さあね。そもそも当たるつもりなんてないし」
−−−…それって弱点がないのとほぼ同じじゃないんですか?
「少し違うよ。ボクは弱点をつきにくくしただけさ。欠点があるなら他で補えばいいし、弱点があるならつかれないようにすればいい。たまに弱点を狙うなんて卑怯とかいうバカがいるけど、ボクから言わせれば弱点をつかないのは弱点に失礼だし、弱点をつける形で放置しておいて狙われる文句言う方がおかしいよ。もっとちゃんと弱点をカバーしてから言って欲しいね」
−−−そうですか。今日は貴重な話を聞かせてもらってありがとうございました。
「気にしなくていいよ。ボクもかわいい女の子と2人きりになれて嬉しかったからね」
−−−ふぇ?!も、もう。からかわないで下さい!
「あはは。じゃ、さよなら」
−−−は、はいさようなら。…よし。帰ってロキさんの記事をまとめるぞー。ファイトだ、私!

           おわり
11/07/09 22:58更新 / グリンデルバルド

■作者メッセージ
演出上の都合とあえて解説役を出さなかったことが重なって伝わりにくい部分が多かったので書きました。見えない攻撃を見えないままにすることにこだわったから仕方ないですけどね。
そろそろ連載の方も更新したいです。

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