姫との密談
「ようこそ勇者様。忙しいのによく来てくれましたね」
イザベラは『姫』の仮面をつけて微笑ンだ。いつも演技してるだけあって様になってンな。
「当然です。姫様のためならいつでもはせ参じますよ」
オレも『勇者』の仮面をつけながら返した。
「ありがとうございます。それでは案内しますね」
イザベラはそォ言ってオレの手をとった。
「ありがたきお言葉」
オレは適当に言って手を取った−−−
「わー。仲がよろしいんですねー」
…おいエレン。そこで棒読みはやめろ。ヘタな小芝居うってたのが恥ずかしくなるじゃネェか。
「…では参りましょう」
そォ言うイザベラの頬が赤いのは恥ずかしいだけだからだと考えた方が無難だろォな。
「これはこれは勇者殿。また会いましたね」
そォ言って近づいてくるのは薄らハゲだった。
「これはこれは王子様。また会えて光栄です」
オレは心にもないことを適当に言った。
「それにしても妹と仲がいいですね。やっぱりそう言う関係ですか?」
薄らハゲはつないだ手を見ながら言った。
「多分ご想像の通りだと思いますよ」
オレは話を聞くのもめんどくせェから適当に流した。
「そうですか。できれば私たちもそのくらいの関係を築きたいものですね」
薄らハゲは気持ち悪く笑いながら言った。まさかそっち系の人じゃネェよなこいつ。
「…」
エレンは薄らハゲをかなり引いた目で見ていた。どォやらドジだが腐ってはいネェみてェだな。
「では公務に戻りますね。またよろしくお願いします」
薄らハゲはそォ言ってオレの懐に金を忍ばせて去って行った。イザベラは薄らハゲが何をしたのか察したのか黒い笑みを浮かべた。
「実際に賄賂のやりとりする所初めて見ました…」
エレンは軽くショックを受けた顔をする。オレだって生で家政婦は見た的な状況になるとは思ってなかったゼ。
「…では先を急ぎましょう」
イザベラはものすごく邪悪な笑みを浮かべながら部屋へと向かって行った。
「まさかあんたが賄賂を受け取ってるなんてね。やっぱり資金集めかい?」
部屋に入るとイザベラはニヤニヤ笑いながら質問した。
「まァな。最初は搾り取れるだけ搾り取ったら捨てるつもりだったが、お前がいればもっと利用できそォだ」
「へえ。私は何をすればいいんだい?」
イザベラはわくわくした顔をしながら聞いてきた。
「…クーデターだ」
オレがそォ言うとイザベラはきょとんとした顔をする。
「クーデター?この国の民はほとんど全員教団の腐った教えに騙されてるのにどうやって起こすのさ?」
イザベラが言う通り今はまだムリだ。…今はまだ、な。
オレはとりあえず今考えている作戦をイザベラに話した。
「なるほど。それならクーデターも起こせるし、あいつに濡れ衣を着せられるだろうね。でもそれだとあんたと仲良くしてる私も疑われたりしないかい?」
イザベラが最もな質問をしてきた。
「なァに、お前はオレに騙された悲劇のヒロインでも演じてりゃいい。いつも『姫』を演じてるお前なら簡単だろ?」
オレの言葉にイザベラはニヤリと笑った。
「それはあんた次第だよ。『勇者』と『姫』がどれだけ親しく見えるかで、あんたが裏切った時の悲劇のヒロイン度が変わってくるからねえ」
確かにそォだな。そこまで深い関係に見えなかったら効果が違ってくるだろォよ。
「どうせなら婚約を発表するなんてどうだい?」
イザベラは明らかに楽しンでやがるな。
「それだと逆に王族のクズどもの利権がからんでると思われちまうだろォが。それにあいつらをこれ以上刺激してパーティーの空気がおかしくなったらまずいだろ。ただでさえお前とメイドのエレンがよけいなことしてるせいでピリピリしてンだからよォ」
オレの言葉にイザベラは拗ねたよォな顔をした。
「ふーん。私はお前としか呼ばないくせにエレンは名前で呼ぶんだー」
そォ言うイザベラの目は明らかに笑っている。
「わかったよ。イザベラでいいよな?今更姫つけるよォな仲でもネェだろ」
「もちろんいいよハインケル。散々お前呼ばわりされてるのに急に姫とか呼ばれても気持ち悪いしね」
イザベラはニヤリと笑った。
「ククク。違いネェ」
オレたちはそれからしばらく笑い合った。
「それにしてもハインケルがカス兄貴から賄賂をもらってたのは嬉しい誤算だよ。あのカス兄貴クーデターの黒幕に仕立て上げられたらゴミ掃除も出来るしね」
カス兄貴って薄らハゲのことか。クソ兄貴って言うのは王子の総称じゃなくてミニブタ個人のことだったのか
「へェ。あいつ腐敗貴族共とつながってンのか」
オレの言葉にイザベラは黒い笑みを浮かべた。
「ああ。王座についたら強大な権力を与えるって条件で従わせてるらしいよ。そうだったよねえエレン?」
「はい。腐敗貴族に仕えてるメイドたちがそう言ってましたから間違いありません」
いつのまにか入ってきていたエレンがホットミルクを置きながら答えた。
「メイドの情報網ってすげェンだな。ゴミ共もよくメイドの前で平然とやれるモンだゼ」
「仕方ないですよ。腐敗貴族って城のメイドが本心から自分に仕えてるって勘違いしてますからね。ただメイド長に情報を探ってイザベラ姫様に流すよう言われてるから仕えてやっているのにいい気なものですよ」
そりゃ城のメイドが本心で仕えてるわけネェだろォがそこまでぶっちゃけていいのかねェ。
「イザベラとメイド長って親しいンだな。一体どンな関係なンだ?」
まァ大体予想はつくがな。
「小さいころからの世話役だよ。自分の考えを押し付けてくるしか能がない教育係のクズと違っていつも私の意見を尊重してくれるいいやつさ」
教育係の扱いが酷ェな。本心隠してるくらいだから信用されてネェのはわかってたけどよ。
「この城のメイド以外に味方はいネェのか?」
「今の所私の親衛隊と王国のやり方を密かに不満を持ってる少数の貴族たちだけだね。他のやつらは全く話にならないよ。権力を求める俗物しかいやしないさ」
まァそンなモンだろォよ。むしろまともなやつがいる方が驚きだゼ。
「だったら闇ギルド辺りに頼ンでみるのもいいかもな」
「そうだね。さすがに子供のあんたじゃ妖しまれるからどこかの貴族に使いを出してもらえばいいだろうさ。でも資金はどうするんだい?」
オレは少し考えてある方法を思いついた。
「…こォいうのはどォだ?」
説明するとイザベラは悪どい笑みを浮かべた。
「悪逆屋、お主も悪よのう」
「お姫様ほどでは」
オレたちはそォ言って高笑いを上げた。
「あはは。本当に仲がよろしいですねお2人とも」
エレンが微笑ましい目で見てきた。
「まあここまで悪巧み話し合える人これまでいなかったからね」
「オレもここまで気持ちよく話せたことはネェかもな。いつもどこか呆れたよォな目で見られてるしよ」
そォ考えるとこいつが一番オレのことを理解してくれてるのかもな。本当にこいつが敵はなくてよかったゼ。やっかいだって言うのもあるが、何より一番理解し合ってるのが敵だなンて悲しすぎるからな。
「それじゃとりあえずの方針は決まったな。オレが外から潰して」
「私が中から崩すってわけだね。時々呼び出して話し合いたいんだけどいいかい?」
イザベラはどことなく楽しそォに聞いて来た。
「ああ。もちろんいいゼ」
オレの言葉にイザベラはにっこりと笑った。
「ありがと。今日はこれくらいにしておこうか。もう時間も遅いしね」
「そォだな」
オレはエレンに案内されて出口に向かう途中で振り返った。
「…なァイザベラ」
「何だいハインケル?」
一瞬聞くべきか悩ンだが聞いてみることにした。
「…オレと合ったこと後悔してるか?」
それを聞いたのはオレがイザベラが上層部を倒さネェといけない状況を作っちまったからだ。そりゃオレがいなくてもイザベラは国を変えたいと思っただろォさ。だがそれはあくまで思いだけに留まってただろォよ。上層部を倒せるだけの力がネェことはイザベラならわかるだろォしよ。だが今のこいつはオレという『勇者』に会ってそれができる力と手段を手に入れちまった。仮にも自分の家族を倒さなけりゃいけなくなっちまってイザベラはどォ思ってンのか知りたくなっちまったンだよ。
「…わかりすぎるってのも困りものだねえ。まあ確かに仮にも肉親を敵に回すんだから何か思わないこともないよ」
そォ言ってイザベラは真剣な顔をした。
「でも誰かがこの腐った国を変えなきゃいけないんだ。それなら私がやりたいし、やらなくちゃいけない。それがこの国の姫として生まれた私の責任だからさ」
イザベラはそォ言って微笑ンだ。
「そォかい。だったらもう何も言わネェよ」
オレは部屋を出るときにイザベラに手を振った。
「それじゃまたな。これからもよろしく頼むゼ」
「こちらこそ。じゃ、またね」
オレはエレンと一緒に部屋を出て行った。
つづく
イザベラは『姫』の仮面をつけて微笑ンだ。いつも演技してるだけあって様になってンな。
「当然です。姫様のためならいつでもはせ参じますよ」
オレも『勇者』の仮面をつけながら返した。
「ありがとうございます。それでは案内しますね」
イザベラはそォ言ってオレの手をとった。
「ありがたきお言葉」
オレは適当に言って手を取った−−−
「わー。仲がよろしいんですねー」
…おいエレン。そこで棒読みはやめろ。ヘタな小芝居うってたのが恥ずかしくなるじゃネェか。
「…では参りましょう」
そォ言うイザベラの頬が赤いのは恥ずかしいだけだからだと考えた方が無難だろォな。
「これはこれは勇者殿。また会いましたね」
そォ言って近づいてくるのは薄らハゲだった。
「これはこれは王子様。また会えて光栄です」
オレは心にもないことを適当に言った。
「それにしても妹と仲がいいですね。やっぱりそう言う関係ですか?」
薄らハゲはつないだ手を見ながら言った。
「多分ご想像の通りだと思いますよ」
オレは話を聞くのもめんどくせェから適当に流した。
「そうですか。できれば私たちもそのくらいの関係を築きたいものですね」
薄らハゲは気持ち悪く笑いながら言った。まさかそっち系の人じゃネェよなこいつ。
「…」
エレンは薄らハゲをかなり引いた目で見ていた。どォやらドジだが腐ってはいネェみてェだな。
「では公務に戻りますね。またよろしくお願いします」
薄らハゲはそォ言ってオレの懐に金を忍ばせて去って行った。イザベラは薄らハゲが何をしたのか察したのか黒い笑みを浮かべた。
「実際に賄賂のやりとりする所初めて見ました…」
エレンは軽くショックを受けた顔をする。オレだって生で家政婦は見た的な状況になるとは思ってなかったゼ。
「…では先を急ぎましょう」
イザベラはものすごく邪悪な笑みを浮かべながら部屋へと向かって行った。
「まさかあんたが賄賂を受け取ってるなんてね。やっぱり資金集めかい?」
部屋に入るとイザベラはニヤニヤ笑いながら質問した。
「まァな。最初は搾り取れるだけ搾り取ったら捨てるつもりだったが、お前がいればもっと利用できそォだ」
「へえ。私は何をすればいいんだい?」
イザベラはわくわくした顔をしながら聞いてきた。
「…クーデターだ」
オレがそォ言うとイザベラはきょとんとした顔をする。
「クーデター?この国の民はほとんど全員教団の腐った教えに騙されてるのにどうやって起こすのさ?」
イザベラが言う通り今はまだムリだ。…今はまだ、な。
オレはとりあえず今考えている作戦をイザベラに話した。
「なるほど。それならクーデターも起こせるし、あいつに濡れ衣を着せられるだろうね。でもそれだとあんたと仲良くしてる私も疑われたりしないかい?」
イザベラが最もな質問をしてきた。
「なァに、お前はオレに騙された悲劇のヒロインでも演じてりゃいい。いつも『姫』を演じてるお前なら簡単だろ?」
オレの言葉にイザベラはニヤリと笑った。
「それはあんた次第だよ。『勇者』と『姫』がどれだけ親しく見えるかで、あんたが裏切った時の悲劇のヒロイン度が変わってくるからねえ」
確かにそォだな。そこまで深い関係に見えなかったら効果が違ってくるだろォよ。
「どうせなら婚約を発表するなんてどうだい?」
イザベラは明らかに楽しンでやがるな。
「それだと逆に王族のクズどもの利権がからんでると思われちまうだろォが。それにあいつらをこれ以上刺激してパーティーの空気がおかしくなったらまずいだろ。ただでさえお前とメイドのエレンがよけいなことしてるせいでピリピリしてンだからよォ」
オレの言葉にイザベラは拗ねたよォな顔をした。
「ふーん。私はお前としか呼ばないくせにエレンは名前で呼ぶんだー」
そォ言うイザベラの目は明らかに笑っている。
「わかったよ。イザベラでいいよな?今更姫つけるよォな仲でもネェだろ」
「もちろんいいよハインケル。散々お前呼ばわりされてるのに急に姫とか呼ばれても気持ち悪いしね」
イザベラはニヤリと笑った。
「ククク。違いネェ」
オレたちはそれからしばらく笑い合った。
「それにしてもハインケルがカス兄貴から賄賂をもらってたのは嬉しい誤算だよ。あのカス兄貴クーデターの黒幕に仕立て上げられたらゴミ掃除も出来るしね」
カス兄貴って薄らハゲのことか。クソ兄貴って言うのは王子の総称じゃなくてミニブタ個人のことだったのか
「へェ。あいつ腐敗貴族共とつながってンのか」
オレの言葉にイザベラは黒い笑みを浮かべた。
「ああ。王座についたら強大な権力を与えるって条件で従わせてるらしいよ。そうだったよねえエレン?」
「はい。腐敗貴族に仕えてるメイドたちがそう言ってましたから間違いありません」
いつのまにか入ってきていたエレンがホットミルクを置きながら答えた。
「メイドの情報網ってすげェンだな。ゴミ共もよくメイドの前で平然とやれるモンだゼ」
「仕方ないですよ。腐敗貴族って城のメイドが本心から自分に仕えてるって勘違いしてますからね。ただメイド長に情報を探ってイザベラ姫様に流すよう言われてるから仕えてやっているのにいい気なものですよ」
そりゃ城のメイドが本心で仕えてるわけネェだろォがそこまでぶっちゃけていいのかねェ。
「イザベラとメイド長って親しいンだな。一体どンな関係なンだ?」
まァ大体予想はつくがな。
「小さいころからの世話役だよ。自分の考えを押し付けてくるしか能がない教育係のクズと違っていつも私の意見を尊重してくれるいいやつさ」
教育係の扱いが酷ェな。本心隠してるくらいだから信用されてネェのはわかってたけどよ。
「この城のメイド以外に味方はいネェのか?」
「今の所私の親衛隊と王国のやり方を密かに不満を持ってる少数の貴族たちだけだね。他のやつらは全く話にならないよ。権力を求める俗物しかいやしないさ」
まァそンなモンだろォよ。むしろまともなやつがいる方が驚きだゼ。
「だったら闇ギルド辺りに頼ンでみるのもいいかもな」
「そうだね。さすがに子供のあんたじゃ妖しまれるからどこかの貴族に使いを出してもらえばいいだろうさ。でも資金はどうするんだい?」
オレは少し考えてある方法を思いついた。
「…こォいうのはどォだ?」
説明するとイザベラは悪どい笑みを浮かべた。
「悪逆屋、お主も悪よのう」
「お姫様ほどでは」
オレたちはそォ言って高笑いを上げた。
「あはは。本当に仲がよろしいですねお2人とも」
エレンが微笑ましい目で見てきた。
「まあここまで悪巧み話し合える人これまでいなかったからね」
「オレもここまで気持ちよく話せたことはネェかもな。いつもどこか呆れたよォな目で見られてるしよ」
そォ考えるとこいつが一番オレのことを理解してくれてるのかもな。本当にこいつが敵はなくてよかったゼ。やっかいだって言うのもあるが、何より一番理解し合ってるのが敵だなンて悲しすぎるからな。
「それじゃとりあえずの方針は決まったな。オレが外から潰して」
「私が中から崩すってわけだね。時々呼び出して話し合いたいんだけどいいかい?」
イザベラはどことなく楽しそォに聞いて来た。
「ああ。もちろんいいゼ」
オレの言葉にイザベラはにっこりと笑った。
「ありがと。今日はこれくらいにしておこうか。もう時間も遅いしね」
「そォだな」
オレはエレンに案内されて出口に向かう途中で振り返った。
「…なァイザベラ」
「何だいハインケル?」
一瞬聞くべきか悩ンだが聞いてみることにした。
「…オレと合ったこと後悔してるか?」
それを聞いたのはオレがイザベラが上層部を倒さネェといけない状況を作っちまったからだ。そりゃオレがいなくてもイザベラは国を変えたいと思っただろォさ。だがそれはあくまで思いだけに留まってただろォよ。上層部を倒せるだけの力がネェことはイザベラならわかるだろォしよ。だが今のこいつはオレという『勇者』に会ってそれができる力と手段を手に入れちまった。仮にも自分の家族を倒さなけりゃいけなくなっちまってイザベラはどォ思ってンのか知りたくなっちまったンだよ。
「…わかりすぎるってのも困りものだねえ。まあ確かに仮にも肉親を敵に回すんだから何か思わないこともないよ」
そォ言ってイザベラは真剣な顔をした。
「でも誰かがこの腐った国を変えなきゃいけないんだ。それなら私がやりたいし、やらなくちゃいけない。それがこの国の姫として生まれた私の責任だからさ」
イザベラはそォ言って微笑ンだ。
「そォかい。だったらもう何も言わネェよ」
オレは部屋を出るときにイザベラに手を振った。
「それじゃまたな。これからもよろしく頼むゼ」
「こちらこそ。じゃ、またね」
オレはエレンと一緒に部屋を出て行った。
つづく
11/06/17 23:55更新 / グリンデルバルド
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