聖剣シンカ
孤児院に入って一週間ほどたったある日、顔に包帯を巻いた騎士が孤児院に来た。
「何しに来たンだヘボ騎士」
「ちょっとハインケル!騎士様に失礼でしょう」
ヒルダ母さんが小声でオレをたしなめた。
「いいんだ。私がその子の村の皆を守れなかったのは事実なんだから」
そう言っていかにも罪悪感を感じているような演技をする。まァたとえ演技じゃなかったとしても教会の命令で村のみんなを殺したのは事実だ。絶対にいつかむごたらしい殺し方をしてやるから覚えておけ。
「ンなことはどォでもいい。さっさと来た理由をいいやがれ」
ヒルダ母さんが咎めるような目で見て来たが全力で無視した。
「ああそうだったな。実は私と一緒に教会に来てもらいたいんだ」
教会にだと?来た翌日には勇者パーティーとして人々の前でお披露目されただろォが。何であんな胸糞悪ィ場所にまた行かネェといけネェンだよ。
「それってハインケル1人でってこと?」
ベルが騎士をうさんくさそうな目で見た。もう少し感情を隠せよ。まァ単に村の人々を守れなかった騎士の能力を信頼してネェだけだと思われるだけだろォけどよ。
「心配するな。何も危険はない」
「本当ですか?」
「ウソじゃないよね?」
デビーとクリスも信用してネェな。教会に完全に騙されてたからムリもネェだろォよ。
「…少しは冷静になれよ。教会にとってオレは勇者だ。今手を出す理由はネェよ」
オレの言葉に皆渋々納得したよォだ。全く、皆心配症過ぎンだよ。
「ずいぶん慕われてるようだな」
騎士が意味深な目で見てきた。
「まァな」
オレは適当に流して教会に向かった。
教会についたオレは地下に案内された。しばらく進んでから騎士は鍵がかかった部屋で立ち止まった。扉の前には2人の警備兵がいた。
「勇者を連れてきた。扉をあけてくれ」
騎士の言葉に警備兵は鍵を開けた。開いた扉の先にはたくさんの剣が立てかけてあった。剣からは何か神聖なものを感じた。
「まさかこれって全部聖剣か?」
「ああ。勇者はここで一生の相棒となる聖剣を選ぶんだ。必ずや魔を滅ぼす力になるだろう」
へえ。自分たちを倒す武器を提供してくれるなんて気前いいじゃネェか。
「入って聖剣を選ぶといい。くれぐれも慎重にな」
「あんたなんかに言われなくてもわかってるよ」
オレは騎士を一度も見ないで部屋に入った。
「…これもダメだな。全然しっくり来ネェ」
オレは手に取った聖剣を鞘に納めて元の場所に戻した。
「どれもこれも微妙な能力ばかりだ。歴代の英雄気取りのバカ共が強力な聖剣を持ってっちまったからだろォな」
それでも普通の武器と比べればかなり強いがよ。
「だがもっと根本的な所で拒絶されてる気がする。聖剣って持ち主を選ぶモンなンだな」
考えてみれば当然かもしれない。聖剣は魔物を倒すために教会が保管しているものだ。多分オレが教会に敵意を持ってることを感じ取ってるみてェだな。
「やべェ。これじゃ勇者の役目を降ろされるかもしれネェ。こりゃ妥協してやるしかネェのかもな。一応能力は使えるから何とかなるだろ」
半ば諦めかけて部屋を見渡すと、一振りの聖剣が部屋の隅に置いてあるのに気付いた。それを見た瞬間何か他の聖剣と違うものを感じた。
「明らかに他の聖剣と扱いが違うな」
その聖剣の柄を持つと不思議と手になじンだ。鞘から抜いてみると美しい刃が姿を現した。だが他の聖剣とは美しさの質が違う。他の聖剣が近寄りがたい美しさだとすると、こいつは相手を狂わせて虜にするよォな美しさだ。
「とりあえず振ってみるか」
オレは聖剣を軽く振った時、聖剣は強い銀の光を放った。銀の光は今までどんな聖剣で攻撃しても傷1つつかなかった壁を破壊した。
「何事だ?!」
騎士と警備兵が駆け込んできた。
「騒ぐンじゃネェよ。剣を振ったらこォなっただけだ」
そォいうオレもかなり驚いていた。まさかここまで破壊力があるとは思わなかったゼ。
「そ、それは持ち主殺しの聖剣ではないか!」
「持ち主殺し?」
かなり物騒な通り名だな。
「この聖剣の歴代の持ち主は無残な最期を遂げたり、発狂死したり、聖剣だけを残して行方不明になったという伝説が残っているからいつしか持ち主殺しの聖剣と呼ばれるようになったという代物だ。目につかないような場所に置いといたはずなんだが」
あれで目につかネェとでも思ってたのかよ。やっぱり教会は無能しかいネェみてェだな。
「面白ェ。こいつに決めたゼ」
オレはその聖剣を鞘に納めて腰に差した。
「本当にそれでいいのか?危険すぎるぞ」
「それは今までの持ち主が悪かったからだろ。こいつはオレが使いこなしてやるよ」
オレの言葉に騎士が諦めたような顔をする。
「だったらその聖剣に名前をつけろ。歴史に残るものだからよく考えて決めてくれよ」
そォだな。いずれ悪名と一緒に伝わるンだからちゃんと考えネェといけネェよな。
「お前の名前はシンカだ。よろしくなシンカ」
オレは手に持っている剣に語りかけた。
『うん。よろしくねマスター』
頭の中にそンな声が響いた。
「で、お前は聖剣シンカなンだよな?」
オレは孤児院の自分たちの部屋にいた。他のやつらはシンカに興味しんしんだったから来るのが遅れたゼ。
『うん。そうだよ』
シンカはかなり自然に答えた。
「聖剣って話せるんですか?」
デビーが信じられないという顔でシンカを見た。
「口もないのにどうやって声を出してるの?」
クリス、それはツッコミ所が違うだろ。
「念話かなんかでしょ。頭の中に直接響いてるみたいだしね」
さすがベル。鋭いな。
「じゃあいくつか質問してするぞ。あの時お前が放った銀の光はどォいうものなンだ?」
『どういうものっていわれてもねー。使う度に色々違ってくるから何とも言えないよ』
シンカの言葉に皆首を傾げた。
「使う度に違ってくるってどォいうことだ?」
『あの銀の光は特性、形、動きも何もかも持ち主の思い通りになるんだよ。まあ何も指示がなかったらいっぱい敵を殺せるような物になるけどね』
シンカは楽しそうにそう言った。
「お前かなり歪んでネェか」
『キャハハハ。そうかもね。だって私は教会の正義を力で押し通すために作られたもん。敵を倒したいって思うの当然じゃない?』
そォなのか。教会の正義に故郷と家族を殺されたオレがこいつを持つっていうのも皮肉なモンだな。
「それで何でオレを選ンだ?オレが教会を潰そうとしてるのくらいお前も知ってるだろう」
オレは一番気になっていることを聞いた。
『私はただ敵を倒せればそれでいいもん。教会に牙を向けたかったら向ければいいじゃん』
シンカは軽い口調でそう言った。
「つまり持ち主は誰でもよかったってことなのか?」
『まっさかー。私が今まで認めたのはマスターだけだよ』
じゃあ何で歴代の持ち主なんかがいるンだ?
『相性も考えずに力だけで選ぶバカが多かったんだよ。まあそれなりに殺せたけどさ』
お前はどれだけ敵を殺してェンだよ。
『今までの持ち主は何も考えずにただ教会の正義に従って魔物を殺すために私を選んでたんだよ。それで私の力を自分の力だと勘違いしてレベルが高い敵に挑んであっけない死を遂げるバカとか、自分のやってきた過ちを受け入れられずに発狂する心が弱いやつとか、恐ろしくなって私を捨てて逃げたりする腰抜けとかろくなのがいなかったんだよねー』
そう言うシンカはどこか寂しそうだった。
『でもマスターは違う。自分の取る道が血塗られていることも、決して正しくはないことも理解して、その犠牲を背負う覚悟がある。だったら私もマスターの業を背負ってあげる。敵を殺すのも、味方を守るのもマスターが決めたんなら私はそのために力を振るうよ。私はマスターの聖剣だもん』
シンカは力強い声で聞いた。
「…これから頼むゼ、相棒」
『うん。よろしくねマスター』
これがオレとシンカの絆が生まれた日だった。
つづく
「何しに来たンだヘボ騎士」
「ちょっとハインケル!騎士様に失礼でしょう」
ヒルダ母さんが小声でオレをたしなめた。
「いいんだ。私がその子の村の皆を守れなかったのは事実なんだから」
そう言っていかにも罪悪感を感じているような演技をする。まァたとえ演技じゃなかったとしても教会の命令で村のみんなを殺したのは事実だ。絶対にいつかむごたらしい殺し方をしてやるから覚えておけ。
「ンなことはどォでもいい。さっさと来た理由をいいやがれ」
ヒルダ母さんが咎めるような目で見て来たが全力で無視した。
「ああそうだったな。実は私と一緒に教会に来てもらいたいんだ」
教会にだと?来た翌日には勇者パーティーとして人々の前でお披露目されただろォが。何であんな胸糞悪ィ場所にまた行かネェといけネェンだよ。
「それってハインケル1人でってこと?」
ベルが騎士をうさんくさそうな目で見た。もう少し感情を隠せよ。まァ単に村の人々を守れなかった騎士の能力を信頼してネェだけだと思われるだけだろォけどよ。
「心配するな。何も危険はない」
「本当ですか?」
「ウソじゃないよね?」
デビーとクリスも信用してネェな。教会に完全に騙されてたからムリもネェだろォよ。
「…少しは冷静になれよ。教会にとってオレは勇者だ。今手を出す理由はネェよ」
オレの言葉に皆渋々納得したよォだ。全く、皆心配症過ぎンだよ。
「ずいぶん慕われてるようだな」
騎士が意味深な目で見てきた。
「まァな」
オレは適当に流して教会に向かった。
教会についたオレは地下に案内された。しばらく進んでから騎士は鍵がかかった部屋で立ち止まった。扉の前には2人の警備兵がいた。
「勇者を連れてきた。扉をあけてくれ」
騎士の言葉に警備兵は鍵を開けた。開いた扉の先にはたくさんの剣が立てかけてあった。剣からは何か神聖なものを感じた。
「まさかこれって全部聖剣か?」
「ああ。勇者はここで一生の相棒となる聖剣を選ぶんだ。必ずや魔を滅ぼす力になるだろう」
へえ。自分たちを倒す武器を提供してくれるなんて気前いいじゃネェか。
「入って聖剣を選ぶといい。くれぐれも慎重にな」
「あんたなんかに言われなくてもわかってるよ」
オレは騎士を一度も見ないで部屋に入った。
「…これもダメだな。全然しっくり来ネェ」
オレは手に取った聖剣を鞘に納めて元の場所に戻した。
「どれもこれも微妙な能力ばかりだ。歴代の英雄気取りのバカ共が強力な聖剣を持ってっちまったからだろォな」
それでも普通の武器と比べればかなり強いがよ。
「だがもっと根本的な所で拒絶されてる気がする。聖剣って持ち主を選ぶモンなンだな」
考えてみれば当然かもしれない。聖剣は魔物を倒すために教会が保管しているものだ。多分オレが教会に敵意を持ってることを感じ取ってるみてェだな。
「やべェ。これじゃ勇者の役目を降ろされるかもしれネェ。こりゃ妥協してやるしかネェのかもな。一応能力は使えるから何とかなるだろ」
半ば諦めかけて部屋を見渡すと、一振りの聖剣が部屋の隅に置いてあるのに気付いた。それを見た瞬間何か他の聖剣と違うものを感じた。
「明らかに他の聖剣と扱いが違うな」
その聖剣の柄を持つと不思議と手になじンだ。鞘から抜いてみると美しい刃が姿を現した。だが他の聖剣とは美しさの質が違う。他の聖剣が近寄りがたい美しさだとすると、こいつは相手を狂わせて虜にするよォな美しさだ。
「とりあえず振ってみるか」
オレは聖剣を軽く振った時、聖剣は強い銀の光を放った。銀の光は今までどんな聖剣で攻撃しても傷1つつかなかった壁を破壊した。
「何事だ?!」
騎士と警備兵が駆け込んできた。
「騒ぐンじゃネェよ。剣を振ったらこォなっただけだ」
そォいうオレもかなり驚いていた。まさかここまで破壊力があるとは思わなかったゼ。
「そ、それは持ち主殺しの聖剣ではないか!」
「持ち主殺し?」
かなり物騒な通り名だな。
「この聖剣の歴代の持ち主は無残な最期を遂げたり、発狂死したり、聖剣だけを残して行方不明になったという伝説が残っているからいつしか持ち主殺しの聖剣と呼ばれるようになったという代物だ。目につかないような場所に置いといたはずなんだが」
あれで目につかネェとでも思ってたのかよ。やっぱり教会は無能しかいネェみてェだな。
「面白ェ。こいつに決めたゼ」
オレはその聖剣を鞘に納めて腰に差した。
「本当にそれでいいのか?危険すぎるぞ」
「それは今までの持ち主が悪かったからだろ。こいつはオレが使いこなしてやるよ」
オレの言葉に騎士が諦めたような顔をする。
「だったらその聖剣に名前をつけろ。歴史に残るものだからよく考えて決めてくれよ」
そォだな。いずれ悪名と一緒に伝わるンだからちゃんと考えネェといけネェよな。
「お前の名前はシンカだ。よろしくなシンカ」
オレは手に持っている剣に語りかけた。
『うん。よろしくねマスター』
頭の中にそンな声が響いた。
「で、お前は聖剣シンカなンだよな?」
オレは孤児院の自分たちの部屋にいた。他のやつらはシンカに興味しんしんだったから来るのが遅れたゼ。
『うん。そうだよ』
シンカはかなり自然に答えた。
「聖剣って話せるんですか?」
デビーが信じられないという顔でシンカを見た。
「口もないのにどうやって声を出してるの?」
クリス、それはツッコミ所が違うだろ。
「念話かなんかでしょ。頭の中に直接響いてるみたいだしね」
さすがベル。鋭いな。
「じゃあいくつか質問してするぞ。あの時お前が放った銀の光はどォいうものなンだ?」
『どういうものっていわれてもねー。使う度に色々違ってくるから何とも言えないよ』
シンカの言葉に皆首を傾げた。
「使う度に違ってくるってどォいうことだ?」
『あの銀の光は特性、形、動きも何もかも持ち主の思い通りになるんだよ。まあ何も指示がなかったらいっぱい敵を殺せるような物になるけどね』
シンカは楽しそうにそう言った。
「お前かなり歪んでネェか」
『キャハハハ。そうかもね。だって私は教会の正義を力で押し通すために作られたもん。敵を倒したいって思うの当然じゃない?』
そォなのか。教会の正義に故郷と家族を殺されたオレがこいつを持つっていうのも皮肉なモンだな。
「それで何でオレを選ンだ?オレが教会を潰そうとしてるのくらいお前も知ってるだろう」
オレは一番気になっていることを聞いた。
『私はただ敵を倒せればそれでいいもん。教会に牙を向けたかったら向ければいいじゃん』
シンカは軽い口調でそう言った。
「つまり持ち主は誰でもよかったってことなのか?」
『まっさかー。私が今まで認めたのはマスターだけだよ』
じゃあ何で歴代の持ち主なんかがいるンだ?
『相性も考えずに力だけで選ぶバカが多かったんだよ。まあそれなりに殺せたけどさ』
お前はどれだけ敵を殺してェンだよ。
『今までの持ち主は何も考えずにただ教会の正義に従って魔物を殺すために私を選んでたんだよ。それで私の力を自分の力だと勘違いしてレベルが高い敵に挑んであっけない死を遂げるバカとか、自分のやってきた過ちを受け入れられずに発狂する心が弱いやつとか、恐ろしくなって私を捨てて逃げたりする腰抜けとかろくなのがいなかったんだよねー』
そう言うシンカはどこか寂しそうだった。
『でもマスターは違う。自分の取る道が血塗られていることも、決して正しくはないことも理解して、その犠牲を背負う覚悟がある。だったら私もマスターの業を背負ってあげる。敵を殺すのも、味方を守るのもマスターが決めたんなら私はそのために力を振るうよ。私はマスターの聖剣だもん』
シンカは力強い声で聞いた。
「…これから頼むゼ、相棒」
『うん。よろしくねマスター』
これがオレとシンカの絆が生まれた日だった。
つづく
11/01/16 20:46更新 / グリンデルバルド
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