プロローグ
「グハッ」
オレが聖剣シンカを一振りすると一瞬で勝負がついた。一合も交えることなく敵の首が宙を舞った。
「弱ェ。本当にこんなザコが部隊最強とか終わってンなテメェら」
歯ごたえがなさすぎンだよ。この程度の実力で一騎打ちをやるとか自殺志願者じゃネェのか?申し込んだオレが言うことじゃネェがよ。
「クーズ様がやられただと!」
「化け物かこいつ…」
名前までクズかよ。どれだけカスぞろいなんだよこの隊。
「ええい、ひるむな!敵はたった1人だぞ!このゲースラ様のためにもカハッ」
オレは後ろで偉そうにしている指揮官に向けてシンカから銀色の光線を放った。光線は狙い通り心臓を貫いた。
「くっだらネェプライドに部下を巻き込むンじゃネェよ三下が。死ぬならテメェ1人で死にやがれ」
オレは倒れた指揮官を一瞥してから顔を敵兵たちの方に向けた。
「お、落ち着け!こっちは500人もいるんだぞ!」
そう言って鼓舞する兵の声は震えていた。テメェの方が落ち着けよ。
「500人だァ?たったそれだけでどうにかなると思ってンのかァ?」
オレはそこまで言ってから被っていたフードに手をかけた。
「このオレ相手によォ」
オレがフードをとった瞬間敵兵の顔が絶望に染まった。
「そ、その屍のように白い髪に血のように赤い目。お、お前はま、まさか」
「『悪逆勇者』ハインケル=ゼファー!なぜこんな所に…」
そういう敵の顔は恐怖で歪んでいる。それにしてもずいぶんひどい言われようだな。旅立った時には『光輝くように白い髪に正義の炎を形にしたような赤い目』とかほざいてたくせによォ。まあそんなことはどうでもいいが。
「命が惜しくネェならかかってきな。こうなっても知らネェがな」
オレは剣の先に小さな光球を作って大きな岩にぶつけた。光球は激しい光と音を立てて爆発した。光がおさまった時岩は跡形もなく砕け散っていた。
「今すぐ武器を捨てて降伏しやがれ。そうしネェと」
オレはシンカの剣先にさっきよりずっと大きな光球を作った。それを見た敵兵はあわてて武器を捨てた。
「そのまま後ろに手を組んでじっとしてな。少しでも妙なマネをしたら」
オレが指揮官の死体に意味ありげに視線を向けると敵兵は悔しそうな顔をして従った。しばらくして追いついてきたオレの部下たちが来て敵兵をしばり上げて連行して行った。
「覚えておけ『悪逆勇者』。神はお前を許しはしないぞ!」
敵兵の1人がオレに向かって何かほざいてきた。
「クソ神なんかに許しを請おうなんざ思ってネェよ。せいぜいいきがってるンだな。テメェらはすぐに淫欲に溺れて神を裏切るンだからよォ」
オレの言葉に部下のオーガが満面の笑みを浮かべた。こりゃ後で相当しぼられるだろうゼ。
「ち、ちくしょおおお!」
敵兵は絶叫を上げながら連行されていった。
『マスターも優しいねー。あんなやつら皆殺しにしちゃえばよかったのに』
手に持っている聖剣シンカを伝わって声が頭の中に響いてきた。実はオレの聖剣シンカには魂が宿ってる。元々教会の敵を力で排除するために作られた聖剣で、過去の持ち主は力に溺れて狂うか、圧倒的な力が怖くなるって手放すかのどっちかというとても聖剣とは思えネェ代物だ。性格が少し歪んでンのは教会の罪や血塗られた歴史を体現してるからじゃネェの?
「戦う気がネェやつをわざわざ殺すことネェよ。まあ戦意を失わせるために2人斬ったが結果オーライだろ」
「何が結果オーライよ!」
後ろからハイキックが飛んできた。オレはチラリと見てからヒョイと避けた。
「避けんなバカハインケル!」
蹴ってきたのは予想通り茶色のショートカットの女だった。コイツは幼馴染のベル。これでも元賢者だ。
「…白か」
「み、見んなエッチ!」
ンなこと言われても見えたもんは仕方ネェだろォが。大体見られたくネェなら最初からミニスカートでハイキックなんかすんじゃネェよ。
「そ、そんなことよりアンタ何考えてんのよ。将自らが1人で軍につっこむなんてバカじゃないの!」
ベルは顔を真っ赤にしながら怒った。
「別にいいだろォが。一兵も失ってネェし、ほとんど全員生け捕りにできたんだからよォ」
「そんなことを言ってんじゃないわよ!」
ベルはさらに声を荒らげた。一体何だってンだよ。
「鈍いねお兄ちゃん」
「ベル殿はハインケル殿を心配してるんですよ」
黒いシスター服を着た青い髪のちっちゃいガキと、鎧を着た緑の髪の女がそんなことを言いながら歩いてきた。ガキの方はクリス。元シスターだ。本当はクリスタルだがみんなからそう呼ばれてる。女の方はデビー。元教会騎士だ。
「な、なに言ってんのよ。あたしは別に心配なんて」
ベルはそう言って顔をうつむかせた。オレはそんなベルの髪をくしゃりと撫でた。
「い、いきなり何すんのよ」
ベルはそう言ったが全く抵抗しなかった。
「悪ィ。心配かけたな」
オレが頭を撫でてるとベルの表情がだんだん柔らかくなってきた。
「わ、わかればいいのよわかれば」
ベルは目を閉じてうっとりとしてやがる。こうしてると可愛く見えるから不思議だな。
「むー。お姉ちゃんばっかりずるいよ!」
「私たちだって心配してたんですからね」
クリスとデビーがむくれながら近づいてきた。
「ったくめんどクセェな」
そう溜息をつきながら結局オレはこいつらの頭を撫でることになった。
ここまでの話でわかるだろォがオレたちは元々は勇者一行として旅立った。それが今では悪名高き『悪逆勇者』として教会や反魔物国家に恐れられることになった。神の教えを信じられなくなったわけでも、親魔物派の考えを聞いて自分のしていたことの愚かさに気付いたわけでも、魔王軍に負けて魔物と愛し合うようになったわけでもネェ。予定通りに勇者として旅立ち、計算通りに教会を裏切り、計画通りに魔王軍に入っただけだ。自分が勇者だと告げられた時からオレが神に背くことはすでに決まってたんだよ。
言ってる意味がわからない?チッ。めんどクセェが最初から話さネェといけネェみたいだな。あれは今から10年前。その時オレはまだ何も知らネェガキだった。
つづく
オレが聖剣シンカを一振りすると一瞬で勝負がついた。一合も交えることなく敵の首が宙を舞った。
「弱ェ。本当にこんなザコが部隊最強とか終わってンなテメェら」
歯ごたえがなさすぎンだよ。この程度の実力で一騎打ちをやるとか自殺志願者じゃネェのか?申し込んだオレが言うことじゃネェがよ。
「クーズ様がやられただと!」
「化け物かこいつ…」
名前までクズかよ。どれだけカスぞろいなんだよこの隊。
「ええい、ひるむな!敵はたった1人だぞ!このゲースラ様のためにもカハッ」
オレは後ろで偉そうにしている指揮官に向けてシンカから銀色の光線を放った。光線は狙い通り心臓を貫いた。
「くっだらネェプライドに部下を巻き込むンじゃネェよ三下が。死ぬならテメェ1人で死にやがれ」
オレは倒れた指揮官を一瞥してから顔を敵兵たちの方に向けた。
「お、落ち着け!こっちは500人もいるんだぞ!」
そう言って鼓舞する兵の声は震えていた。テメェの方が落ち着けよ。
「500人だァ?たったそれだけでどうにかなると思ってンのかァ?」
オレはそこまで言ってから被っていたフードに手をかけた。
「このオレ相手によォ」
オレがフードをとった瞬間敵兵の顔が絶望に染まった。
「そ、その屍のように白い髪に血のように赤い目。お、お前はま、まさか」
「『悪逆勇者』ハインケル=ゼファー!なぜこんな所に…」
そういう敵の顔は恐怖で歪んでいる。それにしてもずいぶんひどい言われようだな。旅立った時には『光輝くように白い髪に正義の炎を形にしたような赤い目』とかほざいてたくせによォ。まあそんなことはどうでもいいが。
「命が惜しくネェならかかってきな。こうなっても知らネェがな」
オレは剣の先に小さな光球を作って大きな岩にぶつけた。光球は激しい光と音を立てて爆発した。光がおさまった時岩は跡形もなく砕け散っていた。
「今すぐ武器を捨てて降伏しやがれ。そうしネェと」
オレはシンカの剣先にさっきよりずっと大きな光球を作った。それを見た敵兵はあわてて武器を捨てた。
「そのまま後ろに手を組んでじっとしてな。少しでも妙なマネをしたら」
オレが指揮官の死体に意味ありげに視線を向けると敵兵は悔しそうな顔をして従った。しばらくして追いついてきたオレの部下たちが来て敵兵をしばり上げて連行して行った。
「覚えておけ『悪逆勇者』。神はお前を許しはしないぞ!」
敵兵の1人がオレに向かって何かほざいてきた。
「クソ神なんかに許しを請おうなんざ思ってネェよ。せいぜいいきがってるンだな。テメェらはすぐに淫欲に溺れて神を裏切るンだからよォ」
オレの言葉に部下のオーガが満面の笑みを浮かべた。こりゃ後で相当しぼられるだろうゼ。
「ち、ちくしょおおお!」
敵兵は絶叫を上げながら連行されていった。
『マスターも優しいねー。あんなやつら皆殺しにしちゃえばよかったのに』
手に持っている聖剣シンカを伝わって声が頭の中に響いてきた。実はオレの聖剣シンカには魂が宿ってる。元々教会の敵を力で排除するために作られた聖剣で、過去の持ち主は力に溺れて狂うか、圧倒的な力が怖くなるって手放すかのどっちかというとても聖剣とは思えネェ代物だ。性格が少し歪んでンのは教会の罪や血塗られた歴史を体現してるからじゃネェの?
「戦う気がネェやつをわざわざ殺すことネェよ。まあ戦意を失わせるために2人斬ったが結果オーライだろ」
「何が結果オーライよ!」
後ろからハイキックが飛んできた。オレはチラリと見てからヒョイと避けた。
「避けんなバカハインケル!」
蹴ってきたのは予想通り茶色のショートカットの女だった。コイツは幼馴染のベル。これでも元賢者だ。
「…白か」
「み、見んなエッチ!」
ンなこと言われても見えたもんは仕方ネェだろォが。大体見られたくネェなら最初からミニスカートでハイキックなんかすんじゃネェよ。
「そ、そんなことよりアンタ何考えてんのよ。将自らが1人で軍につっこむなんてバカじゃないの!」
ベルは顔を真っ赤にしながら怒った。
「別にいいだろォが。一兵も失ってネェし、ほとんど全員生け捕りにできたんだからよォ」
「そんなことを言ってんじゃないわよ!」
ベルはさらに声を荒らげた。一体何だってンだよ。
「鈍いねお兄ちゃん」
「ベル殿はハインケル殿を心配してるんですよ」
黒いシスター服を着た青い髪のちっちゃいガキと、鎧を着た緑の髪の女がそんなことを言いながら歩いてきた。ガキの方はクリス。元シスターだ。本当はクリスタルだがみんなからそう呼ばれてる。女の方はデビー。元教会騎士だ。
「な、なに言ってんのよ。あたしは別に心配なんて」
ベルはそう言って顔をうつむかせた。オレはそんなベルの髪をくしゃりと撫でた。
「い、いきなり何すんのよ」
ベルはそう言ったが全く抵抗しなかった。
「悪ィ。心配かけたな」
オレが頭を撫でてるとベルの表情がだんだん柔らかくなってきた。
「わ、わかればいいのよわかれば」
ベルは目を閉じてうっとりとしてやがる。こうしてると可愛く見えるから不思議だな。
「むー。お姉ちゃんばっかりずるいよ!」
「私たちだって心配してたんですからね」
クリスとデビーがむくれながら近づいてきた。
「ったくめんどクセェな」
そう溜息をつきながら結局オレはこいつらの頭を撫でることになった。
ここまでの話でわかるだろォがオレたちは元々は勇者一行として旅立った。それが今では悪名高き『悪逆勇者』として教会や反魔物国家に恐れられることになった。神の教えを信じられなくなったわけでも、親魔物派の考えを聞いて自分のしていたことの愚かさに気付いたわけでも、魔王軍に負けて魔物と愛し合うようになったわけでもネェ。予定通りに勇者として旅立ち、計算通りに教会を裏切り、計画通りに魔王軍に入っただけだ。自分が勇者だと告げられた時からオレが神に背くことはすでに決まってたんだよ。
言ってる意味がわからない?チッ。めんどクセェが最初から話さネェといけネェみたいだな。あれは今から10年前。その時オレはまだ何も知らネェガキだった。
つづく
10/11/06 22:52更新 / グリンデルバルド
戻る
次へ