消せない記憶
おれたちが病室に向かうとまだソルとルナとナギニさんがいた。
「またあんたたち?いいかげんしつこいわよ」
ロゼが鋭い目でこっちをにらみつけてきた。衛兵に同じことばかり聞かれてイラついてるんだろう。
「それが衛兵の仕事だ。それよりもう演技しなくていいのか?」
ロゼはフンと鼻で笑った。
「ノルレ先生がいるのに隠すだけムダでしょ。まあ隊長さんは薄々わかってたみたいだけどね」
「ノルレからヒントをもらってたからな。そうじゃなかったら騙されてたかもしれない」
実際ロゼの演技力はかなりのものだった。多分舞台女優でも十分通用すると思う。
「それで何の用?まさかただお見舞いに来たなんてことはないわよね」
ロゼはうんざりしたような顔をして言った。多分また同じことを聞かれると思ってるんだろう。
「ああ。お前に聞きたいことがある」
「ちょっと待ってください!」
ここでロゼの豹変ぶりにショックを受けていたチャーリーが口を挟んできた。
「何だ?」
「そういう話を子供の前でするのはマズくないですか?」
…言われてみるとそうだな。ソルとルナのことをすっかり忘れてた。
「2人ともお互いのことしか目に入ってなかったもんね〜」
「なんか2人の世界って感じがしたよ〜」
ソルとルナは適当なことを言っている。
「隊長もやっとロリコンの道に目覚めてくれたんですね」
チャーリーはホロリと涙をこぼした。こいつはそういうことしか頭にないのか?
「うっさいわよあんたたち。ジャマだから出て行きなさい!」
ロゼはなぜか顔を赤くして叫んだ。思ったより純情なのかもしれない。
「はいはい。ソル、ルナいったん出るぞ」
「後は若い者だけってことですね〜」
ノルレたちかなり悪ノリしてるな。…ナギニさんは素で言ってるのかもしれないが。
「そ、それで聞きたいことって何よ?」
ロゼはわずかに頬を染めながら聞いてきた。
「…単刀直入に言う。ロゼ、お前本当は全部覚えてるんだろう」
ロゼは一瞬ピクリと反応したがまっすぐにおれを見てきた。
「何言ってるの?私が覚えてるわけないじゃない。だって私は」
「アリスだって言うんだろう。他の衛兵もそうとしか答えないって言ってた」
おれはそこでいったん言葉を切った。
「…でもそんなことは絶対にありえないんだよ」
おれがそう言ってもロゼはわけがわからないという顔をする。
「何がありえないって言うのよ。アリスが忘れてて何か問題あるわけ?」
その言葉がすでに問題なんだがな。ここは一気にいかせてもらおうか。
「…お前なら覚えているはずだが、チャーリーも他の衛兵も自分に何があったのか覚えてないのかしか聞いてない」
ロゼはハッとした顔をした。自分の言っていることがどれだけおかしいかようやくわかったようだ。
「もし本当に覚えてないんならなんでそれがアリスが本来忘れてることだってわかったんだ?」
ロゼは言い訳が出てこないみたいだ。意識を失う要因なんていくらでもあるのにすぐにアリスの特性に結びつけた理由を説明できないからだろう。ロゼはかわいいからロリペド殺人鬼が手を出さないはずがないと言えるほどナルシストではないみたいだ。
「…もし覚えてるんなら何で忘れてるフリをする必要があるって言うの?」
確かに普通に考えたら忘れるフリをする必要はないだろう。普通なら犯人が知り合いだからかばっているところだろうがなぜか違う気がする。そうなると考えられるのは…
「…自己暗示の一種だろう。お前は自分がアリスだと言い聞かせることで辛い記憶から逃れたかったんじゃないのか?」
ロゼは図星をつかれたのか黙り込んだ。その目はかなり虚ろだった。
「おれには辛い記憶を忘れさせることはできない。話してもお前の記憶はそのまま残るだろう」
おれはできるだけ優しい声で言った。
「でも1人で抱え込むよりはいいと思うぞ。話せば少しは楽になるはずだ」
おれがそう言うとロゼは目を潤ませて体を震わせた。
「ロゼ…」
おれがロゼの頭に手を乗せると、ロゼは顔をクシャリと歪ませた。
「…う」
ロゼの頬に何かが光った瞬間、ロゼはいきなり抱きついてきた。
「うわああああん」
ロゼは子供のように声を上げて泣き出した。
「怖かったんだな。もう大丈夫だぞ」
ロゼを優しく抱きしめるとロゼはもっと泣き出した。今まで我慢していた分一気にあふれ出したんだろう。ロゼはそれからしばらくおれの胸の中で泣き続けていた。
泣きついたロゼは背中から手を離した。
「…いつまで抱きついてるのよ」
ロゼはそっぽを向きながら答えた。耳が赤くなってるから多分照れ隠しなんだろう。
「ああ、悪い」
おれも背中から手を離すとなぜかロゼは名残惜しそうな顔をした。
「気にしなくていいわよ。せいぜい私に胸を貸せたことを光栄に思いなさい」
そう言った後にろぜは小さく「ありがと」とつぶやいた。それだけでなぜか嬉しかった。
「…そこで盗み聞きしてた人たち。特別に許してあげるから紙と書くものを持ってきてちょうだい」
ロゼがそう言うと外から慌てて走り去るような音が聞こえた。
「何に使うんだ?」
「あんたバカ?絵描きのすることなんて1つしかないでしょ」
そういうロゼの目にはギラリとした強い光があった。
「アリスなんて言うふぜけた理由で生かしたことを後悔してあげるわ。この『リャナンシー泣かせ』のロゼがね」
ロゼは自信に満ちた口調でそう言い放った。
つづく
「またあんたたち?いいかげんしつこいわよ」
ロゼが鋭い目でこっちをにらみつけてきた。衛兵に同じことばかり聞かれてイラついてるんだろう。
「それが衛兵の仕事だ。それよりもう演技しなくていいのか?」
ロゼはフンと鼻で笑った。
「ノルレ先生がいるのに隠すだけムダでしょ。まあ隊長さんは薄々わかってたみたいだけどね」
「ノルレからヒントをもらってたからな。そうじゃなかったら騙されてたかもしれない」
実際ロゼの演技力はかなりのものだった。多分舞台女優でも十分通用すると思う。
「それで何の用?まさかただお見舞いに来たなんてことはないわよね」
ロゼはうんざりしたような顔をして言った。多分また同じことを聞かれると思ってるんだろう。
「ああ。お前に聞きたいことがある」
「ちょっと待ってください!」
ここでロゼの豹変ぶりにショックを受けていたチャーリーが口を挟んできた。
「何だ?」
「そういう話を子供の前でするのはマズくないですか?」
…言われてみるとそうだな。ソルとルナのことをすっかり忘れてた。
「2人ともお互いのことしか目に入ってなかったもんね〜」
「なんか2人の世界って感じがしたよ〜」
ソルとルナは適当なことを言っている。
「隊長もやっとロリコンの道に目覚めてくれたんですね」
チャーリーはホロリと涙をこぼした。こいつはそういうことしか頭にないのか?
「うっさいわよあんたたち。ジャマだから出て行きなさい!」
ロゼはなぜか顔を赤くして叫んだ。思ったより純情なのかもしれない。
「はいはい。ソル、ルナいったん出るぞ」
「後は若い者だけってことですね〜」
ノルレたちかなり悪ノリしてるな。…ナギニさんは素で言ってるのかもしれないが。
「そ、それで聞きたいことって何よ?」
ロゼはわずかに頬を染めながら聞いてきた。
「…単刀直入に言う。ロゼ、お前本当は全部覚えてるんだろう」
ロゼは一瞬ピクリと反応したがまっすぐにおれを見てきた。
「何言ってるの?私が覚えてるわけないじゃない。だって私は」
「アリスだって言うんだろう。他の衛兵もそうとしか答えないって言ってた」
おれはそこでいったん言葉を切った。
「…でもそんなことは絶対にありえないんだよ」
おれがそう言ってもロゼはわけがわからないという顔をする。
「何がありえないって言うのよ。アリスが忘れてて何か問題あるわけ?」
その言葉がすでに問題なんだがな。ここは一気にいかせてもらおうか。
「…お前なら覚えているはずだが、チャーリーも他の衛兵も自分に何があったのか覚えてないのかしか聞いてない」
ロゼはハッとした顔をした。自分の言っていることがどれだけおかしいかようやくわかったようだ。
「もし本当に覚えてないんならなんでそれがアリスが本来忘れてることだってわかったんだ?」
ロゼは言い訳が出てこないみたいだ。意識を失う要因なんていくらでもあるのにすぐにアリスの特性に結びつけた理由を説明できないからだろう。ロゼはかわいいからロリペド殺人鬼が手を出さないはずがないと言えるほどナルシストではないみたいだ。
「…もし覚えてるんなら何で忘れてるフリをする必要があるって言うの?」
確かに普通に考えたら忘れるフリをする必要はないだろう。普通なら犯人が知り合いだからかばっているところだろうがなぜか違う気がする。そうなると考えられるのは…
「…自己暗示の一種だろう。お前は自分がアリスだと言い聞かせることで辛い記憶から逃れたかったんじゃないのか?」
ロゼは図星をつかれたのか黙り込んだ。その目はかなり虚ろだった。
「おれには辛い記憶を忘れさせることはできない。話してもお前の記憶はそのまま残るだろう」
おれはできるだけ優しい声で言った。
「でも1人で抱え込むよりはいいと思うぞ。話せば少しは楽になるはずだ」
おれがそう言うとロゼは目を潤ませて体を震わせた。
「ロゼ…」
おれがロゼの頭に手を乗せると、ロゼは顔をクシャリと歪ませた。
「…う」
ロゼの頬に何かが光った瞬間、ロゼはいきなり抱きついてきた。
「うわああああん」
ロゼは子供のように声を上げて泣き出した。
「怖かったんだな。もう大丈夫だぞ」
ロゼを優しく抱きしめるとロゼはもっと泣き出した。今まで我慢していた分一気にあふれ出したんだろう。ロゼはそれからしばらくおれの胸の中で泣き続けていた。
泣きついたロゼは背中から手を離した。
「…いつまで抱きついてるのよ」
ロゼはそっぽを向きながら答えた。耳が赤くなってるから多分照れ隠しなんだろう。
「ああ、悪い」
おれも背中から手を離すとなぜかロゼは名残惜しそうな顔をした。
「気にしなくていいわよ。せいぜい私に胸を貸せたことを光栄に思いなさい」
そう言った後にろぜは小さく「ありがと」とつぶやいた。それだけでなぜか嬉しかった。
「…そこで盗み聞きしてた人たち。特別に許してあげるから紙と書くものを持ってきてちょうだい」
ロゼがそう言うと外から慌てて走り去るような音が聞こえた。
「何に使うんだ?」
「あんたバカ?絵描きのすることなんて1つしかないでしょ」
そういうロゼの目にはギラリとした強い光があった。
「アリスなんて言うふぜけた理由で生かしたことを後悔してあげるわ。この『リャナンシー泣かせ』のロゼがね」
ロゼは自信に満ちた口調でそう言い放った。
つづく
10/10/12 23:37更新 / グリンデルバルド
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