連載小説
[TOP][目次]
第一話 変わりもののヴァンパイア
「今回はボロい仕事だった。こんなに報酬もらっちゃって少し悪いような気もするよ」
 まあ凶悪犯罪者を捕縛したんだから当然だろうね。全く手ごたえがなくて楽勝な相手だったからって気に病むこともないか。そもそも人間の女の子を狙いの連続強姦犯なんかに何も期待してないしね。せいぜい牢獄の中で目を覚まして慌てふためくといいさ。今までやってきたことからしたら当然の報いだろ。
「それにしてもヒマだなー。宿に戻って報酬何に使うか考えようか」
 退屈すぎてそんな独り言がこぼれてくる。何か面白いことでも起きないかな。
 
「姉ちゃん今1人?」
「俺たちと一緒にいいことしないか?ぐへへへ」
 ものすごく頭が悪そうなセリフが聞こえてきた方に足を運ぶと、女の子がガラが悪い男たちに囲まれていた。
「お断りですわ。わたくしはあなた方のようなゲスの相手をするほどヒマじゃないんですの」
 ずいぶん気が強い娘だね。5人相手によくそこまで言えるもんだ。
「なんだとテメエ!」
「なめたマネしてるとどうなるとわかってるんだろうな!」
 沸点ひくいなー。こりゃさすがに止めに入るべきだろうね。そう思っている間に男の1人が女の子に拳を振り上げた。

 トン。
「グッ」
 男は拳を振り上げたまま倒れこんだ。ボクが首の後ろから手刀を食らわせたからだ。
「だ、誰だテメエ!」
「そいつの連れか?!」
 男たちがお決まりのセリフを言ってきた。
「別に。ただ女の子が取り囲まれて手を振り上げられるのを黙って見てられなかっただけさ」
「ふざけやがって!5…、4人相手によくそんな口が聞けるな」
 今明らかに1人倒されたこと忘れたよね。やっぱりこいつら単純だな。
「数を頼まなきゃ女の子に手を出せないようなやつが何人そろった所で同じだよ」
 多分今ボクは相当黒い笑顔を浮かべてるんだろう。
「んだとこのガキ!」
 ボクは相手がパンチしてきたのを余裕でかわしてみぞおちに叩きこんだ。
「グハッ!」
「多対1の戦いは相手を取り囲むのが基本だよ。1人で向かってきた時点で君たちの数の有利は消えてるんだよ」
 ボクは残りの3人をにらみつけた。
「とっとと気絶してる仲間を連れて逃げたら?それとも君たちもこうなりたいのかい?」
 3人はボクを一瞬にらみつけた後倒れた2人を担ぎ上げた。
「お、覚えてろよー!」
 こんな時でもワンパターンだね。もうちょっとボキャブラリー増やした方がいいんじゃないの?
「うん。君たちのやられっぷりはしっかり覚えておくよ」
「ち、ちくしょーーー!」
 そんな捨てゼリフを残して男たちは路地裏に去っていった。

「君大丈夫?ケガはない?」
 ボクも人のことワンパターンとか言えないかもしれない。手が出る前にやっつけたのにどこにケガする要素があるんだって話だしね。まあ一応念のためってことで。
「誰も助けてくれなんて言ってませんわ。で、ですがうるさいのを追っ払って下さったのには一応礼を言っておきましょう」
 素直じゃないけど感謝はしてくれてるみたいだ。ぼくは目の前の少女の美しさに目を奪われながらそんなことを考えた。どこかのお嬢様という感じの黒い豪華な衣装の上にマントを羽織っていた。そして体中から衣装に負けないほどのものすごく高貴なオーラみたいなものがほとばしってるように感じた。
「な、なんですの?そ、そんなに見つめないでくださる?」
 なぜかほんのり赤く染まったように見える顔はものすごく整っている。光り輝くような銀髪と、勝気そうな赤い目からはかわいいというよりきれいという印象を受ける。ただ尖った耳と鋭い牙から彼女が人じゃなくて魔物だということを現している。ここベントルージェ領は親魔物領だから別に問題はないんだけどね。ボクも魔物は見慣れてるからそこまで驚きはない。

 それにしても彼女みたいな魔物は初めて見るな。感じる魔力の強さからするとサキュバスが一番近いかもしれない。でもこの娘がサキュバスのはずがないと思う。今も男に囲まれてる時も魅了の呪文の類は感じないし、何よりサキュバスが男からの誘いを断るなんてことはまずありえない。確かにムリヤリ犯されるようなシチュエーションが好きっていうサキュバスがいないとは言い切れない。でもこの娘の拒絶の仕方や、プライドの高さは演技だとは思えなかった。そうじゃなかったらボクだってあいつらを止めたりしなかった。ボクもサキュバスが食料をとる機会を奪うようなヤボじゃない。でもそうだとしたらこの娘の種族は何なんだ?高い魔力にしてはうまく制御できてないみたいだし、あんな男たちにあそこまで好きにされるのは少し変だ。それになんかいい香りに混じって微かに血の臭いがする。…血の臭い?

「………ヴァンパイア?」
 ボクが思わずつぶやくと彼女の肩がピクッと上がった。もしかして間違ってたのかな?まああてずっぽうで言ったのが当たるわけが―――
「わ、わたくしの正体がこうも簡単に見破られるなんて…。あ、あなた一体何者なんですの?!」
 図星だったー!まさか適当に言ってビンゴになるなんて思ってなかったよ。
「人に名前を聞くときは自分から名乗った方がいいよ。ボクの名前はロキ=ヴェーデルシュルグ。冒険者さ」
「わたくしとしたことが失礼しました。わたくしはジュリア。ご察しの通りヴァンパイアですわ。なるほど。冒険者だったのでそんなに博識でしたのね」
 彼女―――ジュリアは納得したような顔でうなずく。ボクは逆にいろんな疑問が出てきたんだけど。

「それでなんでヴァンパイアがこんな真っ昼間にいるんだい?早く目が覚めちゃって二度寝しようとしたけどお腹が空いて眠れなくて来ちゃったとか?」
 ヴァンパイアっていうのは本来夜に活動する珍しい魔物だ。間違っても昼の街中なんかで偶然出くわすような魔物じゃないはずだ。
「そ、そんなわけないでしょう。わたくしがそんなに抜けてるように見えるんですの?」
 どうやら外れだったみたいだ。
「気をわるくしたんならごめんねジュリアちゃん」
「ジュリアでいいですわロキ」
 どうやら呼び捨てでいいみたいだ。それだったら呼ばせてもらおうか。
「じゃあジュリア。それなら一体なんで?」
 ジュリアはしばらく悩むように顔をうつむかせた。そして意を決したのか顔を上げてボクをまっすぐ見つめた。
「…太陽に勝つためですわ」
 ジュリアはボソリとつぶやいた。
「太陽に勝つ?」
 ボクが聞き返すとジュリアがうなずいた。どうやら聞き間違いじゃないみたいだ。

「ロキ。あなたはなんでヴァンパイアが太陽に弱いのか知っていますか?」
 ジュリアはボクの目を見て聞いてきた。
「知らない。太陽の光の下じゃ魔力をうまく扱えないとか、身体能力が普通の少女以下まで落ちるとか言われてもそういう魔物なんだとしか思わなかったよ」
 多分人間どころか他のヴァンパイアもそう考えてるんじゃないかな。そういうことを真面目に考えてるのは魔物学者くらいだと思う。
「なんで他の魔物は大丈夫なのにわたくしたちヴァンパイアだけがこんなに太陽に弱くなきゃいけないんですの?これほど強大な魔力と怪力を持つわたくしたちがなぜ?」
 確かによく考えてみれば変なのかもね。同じように太陽に弱い魔物にガーゴイルがいる。でもそれはそういうふうに作られた魔物だからだ。ガーゴイルは石像に悪魔の魂が宿ることで生まれ、普通は生まれたときから聖なる鎖と台座で封じ込められる。そして台座に傷がつくことで自由に動けるようになる。自由に動けるって言ってもそれは夜だけで、太陽が出ているともとの石像に戻ってしまう。つまりもともと石像にそういう魔術かなにかがかけられてるってことなんだろう。

「…もしかして誰かの陰謀だって言いたいの?」
「なんか思考がガーゴイルを経由したような気がしますけど大目に見てあげますわ。そう。ヴァンパイアの力を恐れた何者かが太陽の下で力を発揮できないようにして、わたくしたちを夜にしばりつけたに決まってますわ!」
 ジュリアはかなり熱くなって語った。
「まるでバンチャ元帥みたいなことを言うんだね」
「バンチャ元帥?誰ですのそれ?」
 ジュリアは不思議そうに聞く。まあ知らなくて当然か。
「君たちが言う旧世代の、まだヴァンパイアの生態がよくわかってなかった時に書かれた小説に出てくるヴァンパイアだよ。バンチャ元帥は君みたいにヴァンパイアが太陽に弱いのが誰かの陰謀だって考えて太陽に立ち向かってたんだよ」
 まあその小説は異端中の異端って言われてるけどね。作者についても謎が多くて、実はヴァンパイアだとかパラレルワールドの自分から届いた日記を元にして書いたとか言われてるみたいだよ。そんなことは抜きにしても面白いから何度も読み返してる。 
「…そのバンチャ元帥閣下どのは太陽を克服できたんですの?」
 ジュリアはかなり食いついてきた。ここは本当のことを答えた方がいいかもね。
「それはわからない。小説は彼の太陽との戦いの結果が出る前に終わってるからね」
 ジュリアは残念そうな顔をしている。せめて小説の中では太陽に打ち勝つことを期待してたのかもね。
「まあそう悲観することはないよ。もしかしたら勝ったのかもしれないし、彼が言う通りヴァンパイアが太陽に弱いのは誰かの陰謀だったんだからさ」
「やっぱり誰かの陰謀だったんですのね。さすがバンチャ元帥閣下ですわ」
 ジュリアは顔を輝かせた。意外と単純なのかもね。

「まあとにかく結果はどうあれやってみるのも悪くないんじゃない?ボクも心の中で応援するよ。それじゃ」
 ボクはそのまま立ち去ろうとした。
「待ってくださいロキ」
 ジュリアに呼び止められたからとりあえず振り返る。
「なんであなたはそんなに真剣にわたくしの話に耳を傾けて下さるんですの?仲間のヴァンパイアに話しても興味なさそうに流されたり、無謀な挑戦だって笑われたりしてましたのに」
 なるほど。ジュリアが切り出すのを迷ってたのはいつも誰も真剣に聞いてくれなくて心が折れかけてたからだったんだね。
「どんなことであれがんばってる女の子を笑ったりしないさ。それにやらないで後悔するよりはやって後悔した方がいいって言うだろ」
 ボクが言うとジュリアはにっこりと笑った。そう言えば聞いたことがあるな。
「あなたが気に入りましたわロキ」
 ヴァンパイアは気に入った男性を見つけると
「わたくしがあなたのパートナーになってさしあげます」
 召使と称した夫候補にする…。って、え?
「パートナーって冒険者として組むって意味?それとも人生的な意味?」
「何言ってるんですの?そんなの両方に決まってるじゃないですか」
 いくらなんでも朝にも働くことがある冒険者になるのは危険すぎるだろ。ボクはそう言い返そうとした。
「わたくしはあなたと一緒なら太陽に勝てると信じてますわ。…ダメ、ですか?」
 ジュリアが目を潤ませて見つめてきたら何も言えなくなってしまった。ここで断ってどこかで倒れられても胸が痛む。それに
「…わかったよ。ボクが拠点にしてる宿に案内するからついてきな」
「!…はい!」
 ボクもこの少し変わったヴァンパイアを気に入っちゃったみたいだしね。それに退屈もしなさそうだしね。ボクはそんなことを考えながら宿に向かって歩いて行った。

       つづく 
10/01/12 20:14更新 / グリンデルバルド
戻る 次へ

■作者メッセージ
とりあえず第一話を書いてみました。少しでも感想をくれたら嬉しいです。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33